第九回日本翻訳大賞 推薦作品リスト1

ここでは皆さまから推薦をうけた作品と推薦文を紹介していきます。
※推薦文のすべてが掲載されるわけではありません。予めご了承ください。

(1月15日〜23日の到着分を掲載)(1月24日11時最新更新)


【推薦者】ろろ
【推薦作品】わたしのペンは鳥の翼
【作者】アフガニスタンの女性作家たち
【訳者】古屋 美登里 
【推薦文】
アフガニスタンの女性作家数十名による短編を、現地の言葉(ダリー語やパシュトー語など)から英語に訳したものを原本とした、いわゆる重訳となる作品です。戦火やテロ、貧困、タリバンの脅威の中で書かれた作品の中には、読むのが辛いものもあります。命や尊厳が守られない状況でも、子どもを育て、家族に料理を作り、学友と無邪気に遊ぶ日常があります。過酷な現実の中でつむがれたフィクションから伝わる、書かねば、伝えねばという思いをくみ取った、素晴らしい翻訳です。タイトル通りペンをとった女性たち、それを英語に訳した方々、一冊の本にまとめた編集チーム、そして今回日本語に訳された訳者の方に、届けてくれてありがとうと伝えたいです。

 

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【推薦者】匿名と申します
【推薦作品】書籍修繕という仕事
【作者】ジェヨン
【訳者】牧野美加 
【推薦文】
人生があるように本にも「本生」があると教えてくれた愛おしいノンフィクションに出会えました。
著者のジェヨンさんは依頼を受けた本や日記帳やアルバムなどの紙類を修繕する仕事をしている書籍修繕家です。
好きな本ほど破損し痛む、著者はそれを愛と呼びます。何度も何度も繰り返し読みときには書き込みをすれば世界に一冊の素敵な本になるのだとも言います。
愛着ある痛んだ本が、カウンセリング〜入院〜治療(修繕)〜退院して我が手に戻ってくるのだから思い出まるごとありがとうなのです。
書籍修繕家という頼もしい仕事は綺麗に戻すためだけの修繕をする作業ではなく、そこには本の持ち主が抱く記憶や思い出への寄り添いや慈しみを伴う愛ある仕事であることに気づかせてもらった素敵なエッセイなのでした。

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【推薦者】三月うさぎ(兄)
【推薦作品】ブッチャー・ボーイ
【作者】パトリック・マッケイブ
【訳者】矢口誠 
【推薦文】
1992年の作品で、1962年のアイルランドの田舎街が舞台。主人公フランシーのいわゆる意識の流れで語られる暴言妄言が加速して現実が本当に歪んでいく力業。とにかく後半はやめられなくなって頭が痺れてくる。
「肉屋の小僧(ブッチャー・ボーイ)」というタイトルで、あの国書刊行会ですら差別表現に「読者の皆様へ」でエクスキューズせざるを得なかった作品ときたら、差別自体がテーマなのかな思ったのですが、いや、そんな一言でくくれるものではないですよ。
一人の「小僧」の自意識・家族・友人・田舎のミクロな世界に、アイルランドの精神性・宗教・犯罪・近代化の歴史まで広大なテーマを無理やり閉じ込めた傑作。フランシーの世界がとんでもなく狭いのが、ほんとにほんとに痛くて痛くて、読み進めるのがつらい。

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【推薦者】 読谷 文
【推薦作品】子宮
【作者】盛可以
【訳者】河村昌子 
【推薦文】
1960〜70年代に中国南部の農村に生まれた初家の五人姉妹を軸に、清朝生まれの纏足の祖母、両親、弟の妻とその娘まで、四世代を描いた傑作大河小説だ。タイトルの『子宮』が示す通り、女性の生殖が一貫したテーマとなっている。

姉妹とそれぞれのパートナーの人生の悲喜交々が、一定の距離感で淡々とした筆致で描かれており、とてもリアルだ。かりそめの愛から真実の愛まで、どのエピソードもしみじみと胸に突き刺さり、とりわけ四女初雪の話が苦しくて仕方なかった。

田舎特有の息苦しさ、国家が生殖に介入することのおぞましさが余す所なく描かれている。作者 盛可以 の長編初邦訳とのことで、これからもとても楽しみな作家だ。

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【推薦者】たんぽぽ
【推薦作品】『タオと共に生きる ~老子から学ぶ、混乱から脱し、これからの世界を生き抜くための叡智~』
【作者】アラン・コーエン
【訳者】赤司 桂子 
【推薦文】
章毎に、老子とその弟子やさまざまの人々との交流が、もちろんフィクションではあるがコラムのかたちで散りばめられている。この交流の物語が非常に素晴らしい。読み進めていけばいくほど、老子たちの日常風景を自分が近くで見せてもらっているような感覚になっていく。コラムという枠は消えていき、この本全体に老師たちの生活が染み渡っていき、息づいていく。そして、老師の最期までそっと見守らせてもらったと感じる。この本は指南書であり、物語であり、小説である。そんな不思議な読書体験は初めてである。

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【推薦者】高桑史子
【推薦作品】『9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
どこを切りとっても異なる光景が広がり、それでいて不思議なまでに統一性や一貫性があるように錯覚する南アジアの中の、インド社会で生きる人たちの中から9名の人生が作者によって描かれる。その人たちは、マイノリティだったり、底辺に位置づけられる人だったり、特異な世界で自らの人生を選択している人だったりする。
 そんな彼/彼女らの物語は8つの異なる言語で行われたインタビューで紡ぎだされ、また翻訳者も翻訳にあたり、丁寧に各言語と向き合いながら、とても読みやすい、しかし、美しい日本語に翻訳している。過酷な人生を生きたであろう人たちでありながら、それだからこそ魅力的な9名の生き方を読みながら、優れた作品を日本語読者へ紹介してくれた訳者に感謝するとともに、インドへの想いを馳せる素晴らしい作品です。

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【推薦者】大戸敦子
【推薦作品】『かくも甘き果実』
【作者】モニク・トゥルン
【訳者】吉田恭子
【推薦文】
ラフカディオ・ハーンって小泉八雲だよね、日本の怪談を集めた人だよね、という程度の理解で読み出すと、いろいろ驚く。読み終えて印象に残るのは、ハーンの不在。
ギリシャで生まれアイルランド→アメリカ→日本へと渡ったラフカディオ・ハーンが描かれるのだが、母、最初の妻、2番目の妻の3人の語りと、ジャーナリストの文章の引用を挟んでいる。それをベトナムで生まれアメリカに難民として移住した著者が英語で書いている、という、ぐるぐる回って繋がっていくような不思議な感覚にも陥った。
幾つかの国と言語、女性たちの特殊な語り口、出雲地方の方言、と翻訳のご苦労がしのばれ、翻訳大賞に推薦いたします。

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【推薦者】ヒロリン
【推薦作品】『冬牧場』
【作者】李娟
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
遠いアルタイの地で羊とともに生きる人々。その厳しい冬の生活を、作者リージュエンは穏やかな眼差しでとらえ、的確な描写で私達に伝えてくれます。荒涼とした世界ですが、読後感は不思議と暖かく広やかです。素直に心に入ってくる訳文で、訳者の河崎さんはきっと作者と同じような豊かな感性とユーモア感覚をお持ちなのだと思います。カザフ族の人々と漢族の作者と日本人の私達を結んでくれたこの本に感謝です。

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【推薦者】ながやいつき
【推薦作品】『花びらとその他の不穏な物語』
【作者】グアダルーペ・ネッテル
【訳者】宇野和美
【推薦文】
前作『赤い魚の夫婦』と同じく、意識もしないような、人間の日常的な狂気を、動物植物或いは排泄物を媒介してえぐり出してみせる。
登場人物本人たちも理由を説明出来ない感情が説明も無く淡々と綴られていく。
不思議な事に各章を読み終えるたびに、その登場人物たちの狂気を読者である自分も共有していることに気付かされる。
メキシコの実力派作家。

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【推薦者】軽刈田 凡平
【推薦作品】『9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
この本には、経済成長が続く現代のインドで、いまなお神への奉仕や伝統のために生きる人々が描かれている。イギリス出身の著者が書いたインドの霊性という、日本に暮らす我々とは何のかかわりもなさそうな世界の話(実際、修行者や伝統の実践者である彼らは、あまりにも別世界の存在だ)が、パロミタ友美さんの訳を通すと、ものすごくリアルに心に問いかけてくる。「それで、あなたは何のために生きているの?何を大事にして生きているの?」と。インドにしか存在しない言葉も、注釈ではなく「漢字+現地語のふりがな」という日本語ならではの表現で、読書の流れを止めずに感覚的に伝えてくれる訳文が秀逸です。この内容にしてこの読みやすさなのがすごい。

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【推薦者】 高原英理
【推薦作品】プロジェクト・ヘイル・メアリー
【作者】アンディ・ウィアー
【訳者】小野田和子
【推薦文】
世上のあんまりな様相に窒息しそうな2022年、我が国が滅亡しても人類が生き延びるならよしと決めて手にしたのがこのSFだ。太陽熱を食う微生物アストロファージの到来で、地球環境は三十年以内に壊滅するとわかる。周囲の星も同じ中、約十二光年先に光を減じていない恒星が見つかる。そこに解決法があるかもしれない。アストロファージは脅威だが、これを使えば準光速で移動できるともわかる。ただし帰りはない。情報だけ送り返す覚悟を決めた少数のクルーを乗せ宇宙船が恒星へ向かう。この計画が「プロジェクト・ヘイル・メアリー」、「ヘイル・メアリー」とは「アヴェ・マリアの意。また、アメフトで試合終盤、劣勢のチームが運を天にまかせて投げるロングパスの意」つまり最後の手段、一か八かやるだけやってみる的無謀な計画だった。目的地ではなんと、同様の理由でやってきた異星人と遭遇する。その相手と、一人だけ生き残った主人公とが協力し悪戦苦闘しつつ打開をめざす。後半は素晴らしいバディストーリーとなる。だが、助かるのか。久しぶりに全身全霊で祈りつつ読んだ。ああSFはいい。

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【推薦者】 ピーポ
【推薦作品】モーメント・アーケード
【作者】ファン・モガ
【訳者】廣岡孝弥
【推薦文】
仮想現実空間内の記憶データ取引所〈モーメント・アーケード〉で、「あなた」の人生の瞬間(モーメント)を疑似体験したことをきっかけに、「私」の日々が思わぬ形で変わり始める物語を描いた短篇作品。物語は言うまでもなく、最後まで一気に読ませきる訳文のリズム感も素晴らしい。著者と訳者、ともに今後の活躍を期待させられる作品。

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【推薦者】 遠藤祐貴
【推薦作品】詩人 白石 寄る辺なく気高くさみしく
【作者】アン・ドヒョン
【訳者】五十嵐真希
【推薦文】
白石という詩人の人生を朝鮮半島の歴史とともに知ることができた壮大な作品だった。
訳註も非常に詳しく、もしこれが小説であれば鬱陶しいかもしれないが、こういうノンフィクションの場合、読者も理解を深めることができとても成功している。例えば、タゴールが「東方の灯」という詩を朝鮮のために書いていたことなど、初めて知ったことだった。
白石の詩も随筆も当時の朝鮮の様子がわかり面白かった。寂しさも心にじわっと広がるものであり、その分、北朝鮮で書いた児童文学論争は痛々しい。北朝鮮での主流との論争もとても読み応えがあった。大変な労作である。

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【推薦者】望月門
【推薦作品】走る赤~中国女性SF作家アンソロジー
【作者】夏茄、靚霊、非淆、程婧波、蘇莞雯、顧適、noc、郝景芳、昼温、糖匪、双翅目、王侃瑜、蘇民、慕明
【訳者】大恵和実(編訳)、立原透耶、山川多々、浅田雅美、大久保洋子、櫻庭ゆみ子、上原かおり、池田智恵
【推薦文】
中国の女性作家によるSF小説14篇を収録したアンソロジー。日本を舞台にしたファンタジー作品(程婧波著、浅田雅美訳「夢喰い貘少年の夏」)もあり驚く。郝景芳著、櫻庭ゆみ子訳「祖母の家の夏」、夏休みを祖母の家で過ごすことになった「僕」、引退したはずの祖母は独り暮らしをする家で生物学の研究をしていた。さまざまなトラブルに見舞われるも「たいしたことではない」というのが祖母の口癖で、実際「たいしたこと」にはならない。現代中国のSF小説のレベルを知ることができる貴重な本だった。訳文はもう少し改善する余地があるような気がした。

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【推薦者】和花
【推薦作品】もう終わりにしよう。
【作者】イアン・リード
【訳者】坂本あおい

【推薦文】

この作品の登場人物は非常に少なく、また会話がメインである。
付き合いたてのカップルが男の両親に挨拶をしに行く車内でする会話。
閉鎖的な空間で男は「記憶」をキーワードに議論をふっかけ、女は「二人の関係を終わりにしたい」と思いながら議論に応じる。
男の自我と女の思惑が曖昧に混ざり合い、孤独に直面した時、序盤の会話がいかに重要かを思い知る。
少々哲学的な会話が続くがテンポが心地よく、車内でのアクシデントは全く起こらないが退屈することがない。どれだけ大事な会話も二人のリズムに飲み込まれ読み進めると忘れるが、全てが終わって読み直したくなる会話の細やかさ。無駄に主張せずあくまで何気なく出た一言のように見せながら深い意味を持つように重要な部分は隠されている。
何度読んでも飽きる事がないのは、坂本あおいさんの訳の力にある。2020年からずっと私の中で一番にいます。イアン・リードの訳はこの人以外に考えられない。

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【推薦者】 泉澤 裕之
【推薦作品】トム・ソーヤの冒険
【作者】マークトウェイン
【訳者】市川亮平
【推薦文】
良い翻訳は翻訳技術以外にも土地柄や時代背景などを熟知して、それを分かり易く伝えることが大切です。本書はまず地図があり、挿絵も多く分かりやすいのが特徴です。また古き良きアメリカの自然や文化がちりばめられて、大人にも興味深く読めます。訳も原文のニュアンス(なまりや会話含め)を平易な日本語でよく伝えていて、すぐに感情移入できます。子供の頃のドキドキわくわく感が再現されるのは勿論ですが、村の生活や共同体の在り方など当時のアメリカ社会を彷彿とさせてとても参考になりました。哲学的に言えば、自由と秩序の相克が物語に深みを与えています。学校は子供たちの自由を抑圧しますが、自由にはリスクが伴います。一旦事故が起ると、秩序を代表する共同体は全力を挙げて自由を保護します。そして無事に救助されると共同体全員が喜びます。自己責任の競争社会だと思われがちですが、これがアメリカ自由主義の原点だと思いました。子供も大人も共に楽しめる良書だと思います。

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【推薦者】川崎 武蔵
【推薦作品】トム・ソーヤの冒険
【作者】マークトウェイン
【訳者】市川亮平
【推薦文】
「トムソーヤの冒険」は19世紀のアメリカを舞台に、いたずら小僧たちの日常生活を描いた物語だ。本書はそれらを平易な言葉に換えて、生き生きと伝えている。
当時の子供たちには特別な遊具もなく、死んだネズミや割れたビンや壊れた笛などなんでも遊び道具にしていたらしい。野外で遊ぶのが普通で、地図を見ながら家から島まで一晩で往復300キロも歩いたり、川で危険な冒険遊びをしたり、今ならママさんが気絶するようなことも普通にやっている。また、学校でも体罰は当たり前だった。戦後間もない頃の日本の子供たちも、地方では似たようなこともあったし、共感を覚えながら大人でも楽しく読ませて頂いた。

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【推薦者】 zooと1005
【推薦作品】トム・ソーヤの冒険
【作者】マークトウェイン
【訳者】市川亮平
【推薦文】
訳が正確で、原文から省いたところもありません。例えば第四章で判事に引き合わされて聖句の暗唱をさせられる場面、今までの訳本では分らなかったのですが、これは通常は起こりえないハプニングで判事の気まぐれによってトムは悪だくみの天罰を受ける羽目になったのでした。この本で19世紀のこともの世界が、深さと面白さのあったことを知りました。

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【推薦者】 米村浩
【推薦作品】スマック シリアからのレシピと物語
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子
【推薦文】
今、世界は自分の人生でかつてなかったほどの不安と緊張に包まれている。しかしその緊張は全てその国や地域の為政者や支配者間における様々な思惑によりもたらされているものであり、そこに暮らす人々は自身と自身にとって大切な人々の日々の幸せを願い毎日を生きている。「家庭料理」とはその毎日の幸せを映し象徴するものであり、世界中の全ての地域にはそれぞれの「家庭料理」が存在する。今、世界中の人々がシリアの家庭料理のおいしさと豊かさを知りその幸せな暮らしに思いをはせることの意義はとても大きい。

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【推薦者】沈黙堂主人
【推薦作品】『異常(アノマリー)』
【作者】エルヴェ・ル・テリエ
【訳者】加藤かおり
【推薦文】
なんの前知識も先入観も持たずただ表紙の写真の「変」さに惹かれて手に取ると、先の読めない展開に読む手を止められなかった。物語の展開もさることながらページが少なくなっていくにしたがいどのように物語を締めくくるのかと気懸りであったが、まさにあっという結末。最後の一語は偶然なのかどうか?偶然ならば見事な発見(訳出)。喝采!

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【推薦者】 ashi_yuri
【推薦作品】ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット
【作者】Robert Kurvitz
【訳者】武藤陽生(監訳)
【推薦文】
エストニアから発信された本作は、破綻した共産主義の跡地で生きる魅力的なキャラクター達と、ピンチョンを想起させる歴史・政治・思想・芸術を饒舌に語る膨大なテキストを持ち、自我の分解やダイスロールによる偶然性をゲームシステムを用いて巧みに語りに組みこむという自壊寸前の離れ業を成し遂げています、この唯一無二のテキストへの挑戦を破綻なく日本語で読めることはプレイヤーとして大きな喜びです。

現在のゲームはインタラクションを通じた新しいナラティブの実験場でもあり、言語的障壁を越えてその楽しさを伝える翻訳の重要性は増すばかりです。翻訳の価値が軽視されがちだったゲーム分野にとって、本作は文学的価値を損なうことなく翻訳で伝えることが売上にも繋がることを示しました。
本作は日本のゲーム翻訳にとって大きな達成であるとともに、「翻訳」の役割そのものをより広い場所で認知させる力を持つと思い、推薦させていただきます。

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【推薦者】 清水恵水
【推薦作品】『9つの人生』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
タイトルを見て、数多あふれる本からこの本を選ぶのは難しいだろう。
心に刺さるという形ではこの題字は目に飛び込んでこないから。
だから、縁あってこの本と出合ってしまったものが、口伝えで地道に広めていくしかないんだろうな。
 著者の興味を惹かれた9つの伝統に生きる実在する9名の人物についての話、インドの方々にスコットランド人の方が取材した作品。はっきり言って、日本語訳が出版されていなかったら一生読まなかったと思う。インドに特別興味もないしね。
 しかし、1人目の話からいきなり本の中に引きずり込まれてしまう臨場感。日本語で読んでいることを忘れて、現地の言葉で心の機微を受け取っているかのように没入させる翻訳。
 誤解を恐れずに言えば「9つの狂気」の世界、なのに不思議と心が安らぐ。
人間でいること、忘れそうになったら、ぜひ、読んでみて!熱い血思い出すから。

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【推薦者】 きゅうり
【推薦作品】ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット
【作者】Robert Kurvitz
【訳者】武藤陽生
【推薦文】
「ディスコエリジウム ザ ファイナルカット」は記憶喪失になった警察官が主人公のRPGです。
主人公は自身の名前すらわからないような状態で殺人事件を解決しなければいけません。
聞き込みをすると、記憶喪失以前の自分がいかに酷い酔っ払いだったか、多くの話しを聞くことになります。
絶望的な状況と悲惨な世界でも、相棒は主人公を見捨てずに事件を解決しようと行動してくれるのが救いです。
100万単語以上の膨大なテキストで構成されるゲームですが、アクションやパズル要素がないため、
普段ゲームをしない方でも楽しめる作品になっています。

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【推薦者】カナヒ
【推薦作品】愚か者同盟
【作者】ジョン・ケネディ・トゥール
【訳者】木原善彦
【推薦文】
本書の面白さは主人公イグネイシャスのキャラクターに依拠するところ大だが、それは翻訳の仕方ひとつで大きく変わったと思う。私は原著も持っているが、この翻訳を読む前なら木原氏のイグネイシャスとは全く違うキャラになり、こんなにも面白く読まなかっただろう。面白い本を日本にご紹介いただきありがとうございます!

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【推薦者】あおい
【推薦作品】『冬牧場』
【作者】李娟
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
忙しい現代社会において、周りを観察したりのんびりしたり、そんな著者が過ごした時間は私からすれば贅沢な時間に思える。温度計で測れないほどの寒さなのにとても著者と人々の交流はとて心温まる。彼らの生活にどこか懐かしさも感じるこの作品を推薦します。

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【推薦者】梅外 暗々
【推薦作品】呼び出し
【作者】ヘルタ・ミュラー
【訳者】小黒康正、髙村俊典
【推薦文】
物語の時間経過的には、主人公の「私」が家を出てから路面電車で出頭するまでのわずか2時間くらいで、それが邦訳で300ページ近くかけて描かれています。路面電車で「私」が目にするものから、過去の出来事へと導かれ、区切りもなく、現在と過去が複雑に絡まり続けていきます。読む側にも混乱を招き、重苦しいですが、だからこそ、独裁政権下での空気感が伝わります。こんな面倒な物語をよくぞ翻訳したものです。

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【推薦者】鴫野悟
【推薦作品】ロシアの星
【作者】アンヌ=マリー・ルヴォル
【訳者】河野万里子
【推薦文】
生硬なところのない、よくのみこめる文章で話の展開が非常にわかりやすかった。登場人物もそれぞれの人柄がしのばれるように描かれていて親しみを感じた。原作の構成、描写の巧みさ、筋の面白さが絶妙に日本語で表現されていると受け止めました。

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【推薦者】DHA. Bentham
【推薦作品】君との通勤時間
【作者】林 珮瑜
【訳者】楊 墨秋
【推薦文】
会話の部分の台詞のようなcolloquialな文体と、それらを繋ぐト書きのような機械的な文体との対比によって、読者はまるで台本を読むような感じになる。つまり、舞台や映画のような情景をそれぞれの読者の脳に浮かび上がらせる直接的な効果がある。50枚以上の写真もそれを助ける。なるほど、脚本家が書く小説で、その特性を翻訳者がよく生かしている。
 さらに、各章の冒頭に置かれているキーワードの説明、これがまるで論文の一節のような文体だ。
 旧来の『文章読本』的なものを全く考慮しないこうした実験的とも言える独特の構成は、非日本人翻訳者に一定以上の日本語知識を要求する硬質な訳語の選び方を含めて、翻訳というジャンルを越えて今後の小説の方向を示しているのかもしれない。台湾からの発信と言う点でも、西欧に拝跪しがちな日本の翻訳文化に一石を投じるものとなっている。
 十分に「大賞」に値すると思う。

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【推薦者】戸田光司
【推薦作品】愚か者同盟
【作者】ジョン・ケネディ・トゥール
【訳者】木原善彦
【推薦文】
主人公イグネイシャスの、ですます調で丁寧で尊大な口調がきわめて癪に触る。絶対に身内にも友だちにもいてほしくない、そんなキャラクター造形がよかった。彼だけではなく、主人公のアル中で老いらくの恋をする母親や、ボケて仕事にならない会社の事務員と心理学にかぶれ事務員を心の病と決めつける社長夫人、そんな彼女に振り回される若き社長、主人公と手紙のやり取りをする元カノといった個性的な脇役もみんなキャラが立っている。そんな面々がドタバタな話なのに、ラストはそれぞれが自分の人生に向かって一歩踏み出していく。同時に労働問題や人種差別のような社会問題も扱っており考えさせられる。面白い小説を翻訳、出版してくれて感謝です。これからも「国書税」を支払っていきたい。

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【推薦者】ときのき
【推薦作品】怪談
【作者】ラフカディオ・ハーン
【訳者】円城塔
【推薦文】
これまでの翻訳ではあえて消してしまいがちだった原文のごつごつした違和感を逆に強調することで(かといって読みにくいわけではない) 見慣れていた筈のものから新しい風景を広げて見せ、翻訳によって日本人向けに調整されてきた小泉八雲の『怪談』が、19世紀の英国人であり自身は日本語をほぼ読めなかったラフカディオ・ハーンの『KWAIDAN』として甦る。
 見飽きるくらいお馴染みの古典を、読者の気持ちをざわつかせる新しい小説として再起動してみせる手際が見事で、読後はハーンのイメージも“日本文化好きの英国人”という穏健なものから、世界各地を転々としながらどのコミュニティにも居場所を見つけられなかった不思議なさまよい人に変えてしまう。
 幾度も繰り返し訳されてきた作品を、改めて訳し直した意義を感じる、刺激的な翻訳でした。

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【推薦者】伊藤伸恵
【推薦作品】エヴァ・リーシナ作品集
【作者】エヴァ・リーシナ
【訳者】後藤正憲
【推薦文】
私はずっと、学生時代に読んでいたベンヤミンの著作の中のレスコフ論にあった「自然史」という概念の内実がどうもよくわからないと思っていた。この数年、井筒俊彦氏のロシア文学論に出会ったり、ジョージア映画祭で観た作品の数々、そして本書との出会いで、20年越し、ずっと握りしめていた3つの文字列が、折りたたまれていた大きなパンフレットのように広がって、隅々まで眺めているような気持ちになっている。文学(芸術)は、不意に、理論的に納得はしていても実際わからないでいたことを教えてくれるものなのだなあと改めて実感した。
ということは抜きにしても、チュヴァシ語で描かれた物語を味わえるということの貴重さ、そこに描かれる価値観の、地域に独特の厳しさと優しさ、著者のクリアで清潔なものの見方、可愛らしい受け取り方、装画の美しさ。冒頭「日本の読者へ」で語られるリーシナさんの美に対する態度を、すべて読み終わった後にもう一度読み返すと、すべてかけがえのないものと感じます。

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【推薦者】 yamabatu
【推薦作品】ピラネージ
【作者】スザンナ・クラーク
【訳者】原島 文世
【推薦文】
無数の広間が連なる広大な館。激しい潮の満ち引きと巨大な彫像。そこに暮らす記憶を無くした「僕」と13体の骸骨たち。「ピラネージ」という物語はこの舞台設定が作品の8割を占めている。この館の姿を脳裏に描けなければさぞかし退屈な読書になるだろう。原島さんの翻訳は頁を捲るたびに館の映像が浮かんでくる。「僕」と共に館を歩き謎を見つけ、そして驚愕の展開を味わうことができる。読み終わった今も時々あの館に行ってみたいなと思うのだ。

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【推薦者】 高橋璃子
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
トランスジェンダーたちが受けている暴力は、私たちみんなに向けられた暴力だ。同時に、私たちみんなが加害者でもある。誰ひとりとして無関係ではいられない。それはこの社会の構造の問題だからだ。

訳者あとがきを読むと、この本がどれほど丁寧に作られたかがよくわかる。経済的に弱い立場に置かれたトランスたちのために、書籍の無料配布という前代未聞の企画も実施された。訳者である高井ゆと里さんの情熱と手腕が、最高の形で日本語版を出すことを可能にしたと思う。ひとりでも多くの人に読まれてほしい。

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【推薦者】 ゆずのすけ
【推薦作品】チェヴェングール
【作者】アンドレイ・プラトーノフ
【訳者】工藤順・石井優貴
【推薦文】
作者が唯一完成させた長篇とのことだが、ページをめくっていくと雰囲気はさまざま。
・まだどこかファンタジーのような第一部、
・共産主義のコメディ的な実践(あまりにも機械的に平等に家畜を分配するなど、お約束のようで笑ってしまう)、
・「その他の人びと」についての突然の論考、
・独立した短篇のようなシモン・セルビノフのエピソード など、混沌として、単に完成したかしないかということ以上に、読んでいて未完成感のある作品である。
いくつもの側面を持つ原文の言語空間に対して、それぞれにふさわしい言葉を一つずつ固着させていくことは、共訳によって、日本語の側もいろんな顔を持つことで可能になったところが大きいと思う。ロシア文学と日本語にとって貴重な達成だと思うので、この賞によってさらに多くの人に知られるようになってほしい。

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【推薦者】 keny john
【推薦作品】トム・ソーヤの冒険
【作者】マークトウェイン
【訳者】市川亮平
【推薦文】
子供のころ読んだトムソーヤの冒険、ふと懐かしさで手に取った。昔読んだ本とはちょっと雰囲気が違うな、と思いながら読み始めた。前半はかつて感じたイメージとの違和感(こんなに悪ガキだったのか?)を覚えながら、冒険の段になるとだんだん引き込まれていった。自分自身が中学生の頃鍾乳洞で突然カーバイドの火が消え真っ暗な中で迷子になった不安な記憶が蘇り、あっという間に読み終えてしまった。大人にも面白い納得です。ただこの子は一体何歳なんだろう?って思った一冊でした。


【推薦者】 松下新土
【推薦作品】誰も戻らない
【作者】シャルロット・デルボー
【訳者】亀井佑佳
【推薦文】
アウシュヴィッツで、シャルロット・デルボーが囚人だったころの姿の写真と目を合わせました。それからパレスチナへ行って、生まれてはじめて現実に、人が人を殺そうとしているところを目にした。

『居住不可能として追放された土地』という絵画をきっかけに、「アウシュヴィッツの残りのもの——アルシーヴと証人」をはじめとした月曜社の本に触れるようになりました。

亀井祐佳さんの優れた翻訳からは、デルボーの内なる炎を、痛みの詩の内の怒りを、適切な温度に保つための〈氷〉が感じられてならない。

アウシュヴィッツの女性囚人たちは、棒に打たれて歩いた先で凍りついた湖畔の家を見た。白いカーテンの隙間にそれは咲いていた。「私たちチューリップを見たの」。

一瞬、希望が生まれた。
「その家が漁場を指揮するS Sの家だと知ったとき、私たちは自分の記憶を憎んだ。私たちのうちでまだ干上がっていなかったこの記憶のやさしさを憎んだ。」

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【推薦者】おどりば
【推薦作品】パラディーソ
【作者】ホセ・レサマ=リマ
【訳者】旦敬介
【推薦文】
昨年は事件の年だった。50年以上前にキューバで発表され、70~80年代の日本でのラテンアメリカ文学《ブーム》期にもその書名だけが様々な文章で言及されるにとどまってきた「翻訳不可能」な大長篇が旦敬介氏によって遂に邦訳された。噂に違わずその内容は、誰も(翻訳者や作者本人でさえも)全てを理解することは出来ないのではないかと思わせられるものだった。直喩を「酷使」した過剰に詩的な文体に乗ってレサマの形象(イメージ)はどこまでも飛んでゆくが、その軌道も行先もなにもわからない。もはや傑作なのかも一読しただけの自分には判断できない。ただ一つ言えるのは、これまで読んできた文学でもっとも苦しく濃密で得難い読書体験だった。『パラディーソ』に頻出する重要概念は「遠さ」と「ゆっくりさ」である。現代の日本に生きる自分から遠いものを、数か月かけてゆっくり読む──まさに翻訳文学の醍醐味がこの一冊の本には詰まっている。

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【推薦者】のぞむ
【推薦作品】『路上の陽光』
【作者】ラシャムジャ
【訳者】星泉
【推薦文】
チベットを訪れたことがなくても、チベットの日雇いや牧羊を営む若者、傷心の女性の心情、情景が近しいことのように感じる8編の短編集。『川のほとりの一本の木』では決闘前の少年の気持ちの推移を、『四十男の二十歳の恋』では昔の恋人の前で素直になれない男女の気持ちを臨場感をもって読み進められる。表題作『路上の陽光』と連作『眠れる川』はラサの情景も相まって少年の希望と悲哀が際立ち、三部作目の展開が待たれる。鹿児島が舞台の『遥かなるサクラジマ』のモラハラに苦しむ女性の心情描写の秀逸さなど、全編通して和書と違わない読みやすさ、すとんと心に落ちる表現に、作者と訳者の相性の良さを感じた。

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【推薦者】猫目柳
【推薦作品】『冬牧場』
【作者】李娟
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
厳寒のころのカザフ族の過酷な生活が描かれているが、読後は心が暖まる。それは「いのち」への敬意が全編に溢れているからだと思う。特に印象に残っているのは馬の骨を足で踏みしだかないように少しでも高いところに掛けておくというところ。ジーマ一家の今がとても気になるが柔らかく温かい文体が彼らの未来を包んでいるような気がする。

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【推薦者】若木信吾
【推薦作品】スマック シリアからのレシピと物語
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子
【推薦文】
新しい言葉を学ぶときに料理の素材やスパイスをその国の言葉で覚えることほど楽しく好奇心を満たしてくれるものはない。そしてそれがレシピに発展していくことで、その国の文化的要素が現れてくる。そして最高のレシピ本は著者の人生経験やその国に暮らす個人の歴史が反映されていることだ。つまりソウルがあることだと思う。
 いまでも一部内戦が続くシリアで、家族の思い出と共に美しい料理の写真で構成されたこの本を訳者がピッアップし、ニュートラルな形で翻訳した功績はとても大きい。読者である僕たちはなんの偏見もなく文化の違いを素直に知り、食文化に興味を持つことができるからだ。この本で紹介するのは家族や友達みんなで一緒に食べる料理ばかりだ。そしてラマダンのように食べない時も彼らは一緒なのだ。笑顔をもたらす本を紹介してくれた訳者と出版社に感謝したい。

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【推薦者】山口紀子
【推薦作品】チェヴェングール
【作者】アンドレイ・プラトーノフ
【訳者】工藤順・石井優貴
【推薦文】
本書は、スターリン政権下で不遇な作家生活を送っていたプラトーノフが
生前完成させることができた唯一の長編小説です。
そのような作品の成立背景と、本の分厚さ、そして震えるほどかっこいい装丁から、
私は身構えながら本書を手に取りましたが、読みはじめてすぐに、
予想もしていなかったおもしろさと読みやすさに衝撃を受けました。
生命の真実とは、自然とは、人間の作為とは、労働とは、共同体とは、友愛とは。
あいまいで不完全なプラトーノフの言葉は、その答えをくれるわけではありませんが、
読者がそれらのテーマを問いかけ続ける限り、その気持ちに寄りそってくれます。
プラトーノフが世界をまっすぐにみつめて表現した言葉を、
翻訳者が真っ向から挑み日本語にしてくれた文章は、
読んだわたしの心のなかにも強くまっすぐに投げこまれ、
永くつづく美しい水紋を描いてくれました。

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【推薦者】 senjoutarou
【推薦作品】ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット
【作者】Robert Kurvitz
【訳者】武藤陽生
【推薦文】
翻訳物ならゲームだってOKでしょう! という気持ちで推薦しています。本作ディスコ エリジウムはエストニアの小説家Robert Kurvitzによって作り上げられた作品ですが、テーブルトークRPGをそのままゲームに落とし込んだかのような、驚くほど自由で膨大なテキストを特徴としています。そのテキスト量はなんと100万ワード! これを完全日本語化した、という事実だけで、本作は日本翻訳大賞にノミネートされる資格があると考えます! この膨大な労力に敬意を表し、ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット を推薦いたします。

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【推薦者】 田仲真記子
【推薦作品】黄金虫変奏曲
【作者】リチャード・パワーズ
【訳者】森慎一郎、若島正
【推薦文】
付箋でふくらんだ本を取り出してパラパラめくるだけで、読んでいた時の興奮を思いだす。長くて、複雑で、難しそうでいて、エモーショナルで、切なくて、手に取るたびにふわっと体温が上がるような感覚があった。読み終えたときから推薦を決めていた本作が日本翻訳大賞を受賞して、さらに多くの読者が手に取るきっかけになりますように。

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【推薦者】米粒つきお
【推薦作品】いきている山
【作者】ナン・シェパード
【訳者】佐藤泰人 芦部美和子
【推薦文】
幾度か出版されるも歴史の影に埋もれていた教師かつ作家ナン・シェパードが綴るケアンゴーム山群への美しい愛を感じる本。
ほぼ全ての文章に馴染みのない現地の場所が並んでいたんですが、そういった事が気にならないくらいにナン・シェパードの書く詩的で生のエネルギーを感じさせる文章が素晴らしく、読むスピードを遅め一文字を噛み締め小さな声で朗読しながら進めました。(本当に朗読するのが気持ちいい文章!)
山そのものを愛するナン・シェパードの生き方は目標にしたいところです。

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【推薦者】 山本菜々子
【推薦作品】首相が撃たれた日に
【作者】ウズィ・ヴァイル
【訳者】母袋夏生・広岡杏子・波多野苗子
【推薦文】
「ヒトラーとアンネ・フランクのアンドロイドが遭遇したら」など、タブーを恐れない切り口が新鮮でした。イスラエルの「いま」をさまざまな角度から眺めることができる、旬で贅沢な作品集です。日本よりももっと多様で、もっとカオスなイスラエルの大変さと、そこから生まれる強さを感じました。作者が日本通なのも意外で、日本人として嬉しかったです。

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【推薦者】穂村佳子
【推薦作品】チェヴェングール
【作者】アンドレイ・プラトーノフ
【訳者】工藤順 石井優貴
【推薦文】
推薦者は日本で生活する30代ですが、この本の登場人物のセリフには同じ”いま”を生きる人が話しているかのような同時代性が感じられます。その上で、話している内容は完全に20世紀初頭のソ連の価値観から発せられるもので、文字を目で追ううちに登場人物を身近な友人のようにも隔絶した遠いどこかの人にも感じる瞬間があります。時代も場所も隔たった地域の物語を身近に感じること、その隔たりをまざまざと感じること、その両方が混在するこの距離感の妙こそ訳書としての本書の大いなる魅力です。

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【推薦者】梅原篤史
【推薦作品】『9つの人生』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
インドは複雑な国です。インドと一口でいますがその姿は一つではなく、曼荼羅の模様のように多くの民族人々の人生文化歴史などが絡み合っています。

そしてまたこの本で取り扱ってる宗教もまた多種多様であり、伝統と信念に基づいた強烈な宗教感があります。

インドにしかなく、インドでなければあり得ない真摯に宗教を追い求める人々の姿を、素晴らしい深度で感じ取ることのできる一冊

読了後にただただ敬虔な気持ちになり、宗教的生活も悪くないなと思うようになったりする名著です

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【推薦者】わに
【推薦作品】スマック シリアからのレシピと物語
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子

【推薦文】
「シリア」という馴染みのない土地の料理が、家庭の情景とともに書かれることでとても魅力的に、美味しそうに伝わる本です。レシピがわかりやすく、しかし語りすぎず、文体も硬すぎず、しかし砕けすぎず、シリアのお母さんに教えていただいているように感じられます。

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【推薦者】MH
【推薦作品】ポリス・アット・ザ・ステーション
【作者】エイドリアン・マッキンティ
【訳者】武藤 陽生
【推薦文】
80年代の北アイルランドという不穏な地域で刑事ショーン・ダフィが活躍するシリーズ第6弾。

冒頭ではいきなり彼が絶体絶命の危機に瀕している。遡って、ショーン達はキャリックファーガスの団地で発生した殺人事件を担当するが、不可解な点が多い。不審な人物、何かを隠す妻、クロスボウが凶器、魅力的な謎と地道な捜査を堪能できる。

もうひとつ、最大の魅力はショーン・ダフィその人だ。
いつだって減らず口をやめない。近作では「くそ」連発で人名にまで挟む(笑)嫌いな曲が流れたときは容赦なく、嫌な上司にも辛辣。でも女性にはだいぶ情けないという。ただ仲間思いで、絶対に曲げない矜持も。危険な目に遭うし、得しない。そんな人となりに惹かれ、幸せを願いたくなる。

近作は特に展開がスムーズに、軽妙な語り口がより生きているので今後の展開を楽しみに待っている。

推薦は本作単体になるが、シリーズで読まれ、武藤陽生さんの訳で継続となってほしい。

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【推薦者】志村美智子
【推薦作品】『異常(アノマリー)』
【作者】エルヴェ・ル・テリエ
【訳者】加藤かおり
【推薦文】
一言でも話せばネタバレになってしまう、そんな本は久しぶりだった。これから読む人に楽しんでもらうためには、ジャンルを語ることすら憚られる。登場人物一人一人も緻密に描写され感情移入させられると共に、ストーリーの中に仕込まれた伏線を書かれるがまま拾い集めていたら、気がつけばとんでもない世界に引きずり込まれていた。おすすめという言葉では言い尽くせない素晴らしい作品。

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【推薦者】kaori
【推薦作品】母親になって後悔してる
【作者】オルナ・ドーナト
【訳者】 鹿田昌美
【推薦文】
これまでは「私しか推薦する人いないんじゃないかな」という作品を選んで推薦をしてきました。こちらはかなり話題になった本で、例年通りなら他の人に任せるところです。しかし、この本へのリアクションを見て、話題になったということは今の日本社会に必要な本だったのだな…と痛感することが、発刊から最近に到るまで度々あり、これまでとは基準を変えてこちらを推薦します。てっきり、ワンオペ育児やキャリアを諦めざるを得なくなるような、母親を取り巻く社会環境の改善を訴える本かと思っていたのですが、実際に読んでみると、そういったものより、もっとシンプルに「人間のタイプとして私こういうこと向いてなかったわ」というレベルの話をしていて、言われて見れば当たり前なのに、それを発表するとこんなにもハレーションが起こるのが現状です。議論の第一歩として、まだまだ話題になってほしいし、読まれてほしいです。

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【推薦者】遠藤薫
【推薦作品】シェフチェンコ詩集
【作者】タラス・シェフチェンコ
【訳者】藤井悦子(編訳)
【推薦文】
ロシアの詩人プーシキンと並ぶウクライナの詩人シェフチェンコの詩が文庫本になったことが喜ばしい。所収の詩「ナイミチカ」は古典的なテーマと思われる。この詩は左川ちかの詩「北の肖像」(『左川ちか全集』所収)とも通い合うところがある。

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【推薦者】EMK
【推薦作品】スマック シリアからのレシピと物語
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子
【推薦文】
コピーライターの翻訳なので、レシピが説明や解説に留まらずとても読み心地が良いです。加えて作者の生い立ちや人生観を上質な文章でバランスよく配置してあり、これまでの料理本の域を超えていると思いました。

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【推薦者】Saori
【推薦作品】辮髪のシャーロック・ホームズ
【作者】莫理斯
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
英国の名探偵シャーロック・ホームズとワトソン医師ならね、清末の時代に生きた香港の名探偵福邇と華笙医師。6編あるひとつひとつの話を読みながら、あぁ、そういえばシャーロックって兄弟がいたなとか、ここでアイリーンがでてくるのかとか、紅毛嬌街ってタイトルからあの話か、あっでもここではこういう結末なんだとか、これまで本やドラマで親しんできたシャーロックの色んな場面が甦り、頭の中の点と点が線で繋がる感覚が面白かったです。さらに本書では、様々な中国武術が登場し、中国の思想家の名言、詩経などから2人の人生哲学を知ることができ、西洋のものを中国式に機能させている香港という唯一無二の土地の魅力が生き生きと描かれています。この本では歴史的にも文化的にもオリジナルと違う別の物語を堪能することができたので、この新鮮な読後感に一票入れたいと思います。

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【推薦者】深山エダ
【推薦作品】スマック シリアからのレシピと物語
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子
【推薦文】
知らない事を知るのが好き
美味しいものを食べるのはもっと好き
中東の国、イスラムの国には、どうしても
バイアスがかかってしまいます
理由の一つはよく知らないから?
この本には、家族と祖国を大切に暮らす
愛情溢れる普通の人達の生活がありました
おばあちゃん、お母さん、友人の手で
進化した美味しい料理の数々
楽しく読みました
写真も素敵で、私のキッチンがグレードアップ
しました

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【推薦者】A A
【推薦作品】チェヴェングール
【作者】アンドレイ・プラトーノフ
【訳者】工藤順・石井優貴
【推薦文】
メジャーとは言えない作家の、しかも原著出版から1世紀近く経ってからの翻訳が
文芸誌で特集されるほどの「波」になったのはすごい。
コミュニズムの成功を夢として、失敗を現実として描いたことは小説でないとできないことだし、大長編であることにこれだけ説得力のある作品もなかなか思いつかない。
気づくと、聖書外伝を読んでいるような気分になっていた。グルーブ感を押し殺したfunkyである。

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【推薦者】理子
【推薦作品】『夏』
【作者】アリ・スミス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
アリ・スミス『四季四部作』のグランド・フィナーレを飾る『夏』。物語は2016年イギリスのEU離脱が決まった『秋』から始まり、老人ホームで眠る101歳ダニエルの歩んできた歴史と進行形の現在が行きつ戻りつする。そんな『秋』からちりばめられた大きな物語の手がかりのピース(小片)やシーズ(種子)が、季節を追うごとに明かされつながり芽吹き、最終章『夏』で、ふるえるような快感と奇跡のような(でも必然と感じる)希望をもって見事に花開く。EU離脱からコロナパンデミックという激動の時代を写し取り、ダニエルの生涯に100年の歴史を交差させた唯一無二の物語。また、季節をめぐるような発売日をこれほど待ち遠しかったのは、『ベルサイユのばら』が連載されていた『週刊マーガレット』以来…(笑)。このメガノベルを一貫性をもち、季節ごとの登場人物を生き生きと立ち上がらせ、高いクオリティーを維持したまま走りきった訳者の木原先生に畏敬の念を隠せない。そして、アリ・スミス『四季四部作』の完結をなにより言祝ぎたい。

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【推薦者】タカラ~ム
【推薦作品】チベット幻想奇譚
【作者】ペマ・ツェテン他(計10名のチベット作家)
【訳者】星泉、三浦順子、海老原志穂
【推薦文】
私にとっては、チベット現代文学の作家を知る第一歩となった日本オリジナルアンソロジー集。幻想奇譚という共通点はあるが、10人の作家が描き出す作品はそれぞれに個性的な短編であり、実にバラエティ豊かなラインナップで楽しめた。アンソロジーなので、はじめてチベット現代文学を読むというならこの一冊がオススメだと思う。2022年がチベット現代文学の翻訳刊行がされるようになって10年という節目の年ということもあって推薦します。

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【推薦者】犬山俊之
【推薦作品】『台湾文学ブックカフェ3 短篇小説集 プールサイド』
【作者】陳思宏 (著), 鍾旻瑞 (著), 陳柏言 (著), 黄麗群 (著), 李桐豪 (著), 方清純 (著), 陳淑瑤 (著), 呉明益 (著), ワリス・ノカン (著), 川貝母 (著), 甘耀明 (著)
【訳者】三須祐介
【推薦文】
現代台湾の短編小説のアンソロジー、丁寧で緻密な翻訳は台湾の人々の様々な生活の断面とくっきりと浮かび上がらせる。観光だけでなく、もっと台湾のことを知りたいという方におすすめの一冊。また、表題作『フールサイド』など日本語が本当に美しくて、この翻訳で読める日本語の読者は幸せです。

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【推薦者】藤田 一馬
【推薦作品】トム・ソーヤの冒険
【作者】マークトウェイン
【訳者】市川亮平
【推薦文】
いい訳だと思った。今までの翻訳とどの位違うのか試しにググってみたら比較があったのでそれを使って比べて見てみた。私的には本訳が分かり易かった。
訳A「その岩角のずっとさきを見てごらんよ。見えるだろう? ほら、あの大きな岩の上
―――蝋燭の油煙で書いてある」
訳B「そこの角から回り込んで、目一杯奥を見てみろよ。見えるかい? そこ――あすこの大きな岩の上――蝋燭の煤で」
訳C「そこの曲がり角の先、できるだけ遠くまで見てみなよ。何が見える? そこ、むこうの大きな岩の上。ろうそくの煤で何か書いてあるだろ?」
本訳「ほら、もっとこっちに寄って、あの曲がり角のずーっと奥を眺めてみな、見えっかな?ほら、向こうのでっかい岩にーーーロウソクのススでなんかが描かれているのが」

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【推薦者】土屋寛子
【推薦作品】帰りたい
【作者】カミーラ・シャムジー
【訳者】金原瑞人
【推薦文】
まだ、半分も読んでいないのですが、この先どう着地するんだろうと考えて、息苦しくなり、途中休憩しています。こんなにグイグイ胸に迫る小説は久しぶりです。
いろいろな書店のおすすめ本を見る機会があるのですが(寡聞にして知らないだけかもしれませんが)、この本の推薦を見た記憶がありません。こんなに読み応えがあるのに、なぜだろう?
認知度があまりないようなので、ここで投票すれば少しは目に留めていただけるかと思いました。ぜひ、読み終えて、同好の士と感想を語り合いたいです。

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【推薦者】任 冬櫻
【推薦作品】スモモの木の啓示
【作者】ショクーフェ・アーザル
【訳者】堤 幸
【推薦文】

テヘランに住む読書好きの一家。革命勢力から逃れるため、首都から人里離れた村に移り住み、生活を立て直そうとするが、革命の炎は村にも迫る。

生けるものと死んだものが織りなすアラベスク模様に、酔いしれた。突飛な仕掛けも、じっくり語って聞かせる部分もあり、読み応えは抜群。何より、語り手と時系列が錯綜する複雑な作品を美しい日本語で読めて嬉しい。堤幸さんの今後の活躍も楽しみ。

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【推薦者】村野洋子
【推薦作品】『花びらとその他の不穏な物語』
【作者】グアダルーペ・ネッテル
【訳者】宇野和美
【推薦文】
今年もネッテルが読めて嬉しい。ここにある六つの短編には「物凄いこだわりを持つ人達」が住んでいる。『眼瞼下垂』『ブラインド越しに』『花びら』は、十分ストーカーだ。『べゾアール石』には髪を抜くことがやめられない女がいる。それでも彼らは生きていて、それどころかそこにある強烈な部分が彼らを輝やかせる。もしかしたら自分もその一人かもしれない。親密で、ヒヤっとして、最後に抱きしめたくなる物語たち。

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【推薦者】さちこ
【推薦作品】『アイダホ』
【作者】エミリー・ラスコヴィッチ
【訳者】小竹由美子
【推薦文】
母による子殺しというショッキングな内容でありながら、許されない人間などいないのだと感じさせる作品でした。同じ男性を愛した二人の女性が言葉を交わすラストは圧巻でした。この作家の作品を、もっと読んでみたいと思いました。

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【推薦者】Dougさむっ
【推薦作品】『冬牧場』
【作者】李娟(リー・ジュエン)
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
一見何も無い漠北の荒涼とした世界の中まさに消えゆく遊牧民の生活・家族を女性の感性でユーモアも交え見事に捕らえている。漢字だけの中国語の世界を河崎みゆきさんの素晴らしい訳で、日本語の優しさに溢れた世界に導いてくれる。心ゆくまで幸せな読書時間に浸りきることができる。長光雅世さんの装画も良い。心に染みるまさにマイベストの愛読書!

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【推薦者】高井洋子
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
トランスジェンダー「の」問題 が明らかにされた。
SNSや噂などに囲まれていた私達に、日本語で言及されるプラットフォームが与えられました。

ずっと前から私たちの周りに普通に生活しているのに、居ないことにされたり、押し込められていた事柄。日本語で読めることは、専門家のみならず、アライにとって、当事者の家族にとって、学校·社会にとって、知る喜びと衝撃が示されました。

イギリスで発刊されてから1年というスピード感も、今まさに!という翻訳書。

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【推薦者】田中真知
【推薦作品】『9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて 』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
原著は、現代インドにいまだに引き継がれる多様な伝統や信仰を現代において生きる人たちの語りを収めたノンフィクション。ジャイナ教、吟遊詩人のバウル、元兵士のチベット仏教僧、女性タントラ行者など、多くの人にとっては未知な世界を扱っている。こうした本の翻訳は晦渋になりがちだが、訳文はきわめて読みやすい。それは訳者が長年インドに通い、本書でも取り上げられている伝統文化バウルの修行者であることが大いに関係しているだろう。インドの雑踏の描写から、複雑な伝統の内容まで、理解にハードルを感じさせない平易で、なめらかな日本語に翻訳した著者の力量に感心した。これほどふさわしい訳者を得た翻訳本も珍しい。本書をぜひ日本翻訳大賞に推したい。

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【推薦者】えいこ
【推薦作品】『秘密にしていたこと』
【作者】セレステ・イング
【訳者】田栗美奈子
【推薦文】
きょうだい3人のなかで、親の過大な期待を一身に向けられた子どもと、それに反して放任され、ネグレクトされるほかの子どもたち。夫婦関係も親子関係も兄弟関係も、こじれて絡まってねじれたあげくに起こった悲劇をきっかけに、崩れていく家庭。ひとりひとりの抱える闇が読んでいてひりひりと痛くて、いつまでも余韻が残る読書でした。

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【推薦者】日隆流
【推薦作品】『向日性植物』
【作者】李屏瑤
【訳者】李琴峰
【推薦文】繊細で胸ときめく物語でした。私の先輩との関係、まわりの人間模様、台湾の女子高での姉妹制度が日本とはまた違う世界があり、日本でもあったらどんな感じなんだろうと想像してみたり。自分の中学校での部活で流行った先輩との交換日記の事を思い出して、青春時代を振り返るきっかけになった本でした。

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【推薦者】siomikan
【推薦作品】『世宗、ハングルで世の中を変える: ハングル創製の物語』
【作者】キムスロン
【訳者】架け橋人の会
【推薦文】
読書が苦手な私でも読みやすい本でした。所々に可愛い世宗のイラストも書かれておりお気に入りのポイントです。ミレ韓国語学院の架け橋人の会の皆さんが翻訳されたエピソードをお伺いしたのですが、訳をするのは1つのフレーズをとっても何通りにもなりイメージが伝わりやすいことも大事だとしりました。同じ語学学習者として、翻訳をして出版までされた皆さんが本当に憧れの存在です。沢山の方に読んでいただけますように。

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【推薦者】アンブル
【推薦作品】『美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック』
【作者】マッケンジー・リー
【訳者】桐谷知未
【推薦文】1700年代を舞台に同性愛、階級、女性、人種、病気の差別、親からの虐待をテーマにこれら全ては別々に存在しているのではなく繋がっている(交差性) ことが描かれている。モンティの”親友をだんだん好きになって関係の変化が怖いけど気持ちは止められない”という想いに共感した。モンティは身勝手で自由奔放で愛の人。階級社会の中で”普通”の枠にハマらず自分がしたいから、気持ちが動いたらから行動するところが自由奔放で周りに囚われてなくて、モンティのように生きればもっと現代のわたしたちも息をしやすくなるのだろう。

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【推薦者】中村美紀
【推薦作品】『辮髪のシャーロック・ホームズ』
【作者】莫理斯
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
ホームズを読み慣れた読者には、まず語り口がなんとも読みやすい。まず読み始める前から1話1話のタイトルにニンマリしてしまうし、同じ時代の東洋に置き換えた設定も見事!香港に精通した読者なら、地図を見ながら風景を思い浮かべ、さらに100年前にタイムスリップ!歴史好きならさらに面白く読めるはず!ホームズの格闘技が本格中国武術に置き換えられているのもブラボー!ホームズとワトスンの人物像を、多角的に福邇と華笙に投影しているのみならず、マイクロフトやそのほかの人物も実に巧みに登場してくるので、わくわくが止まらない!作者の頭脳は天才的としか言いようがないし、読みやすい日本語でホームズらしく(!)翻訳した訳者もホームズが大好きに違いない。ホームズ好き、香港好き、いずれかだったらぜひ読むべき1冊です。その両方なら1+1が2以上になっている事に驚くはず!!

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【推薦者】武田尋善
【推薦作品】『9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
すごく特別な9つの人生の本。インドを旅しているときに会った人から聴いた話がいつまでも心に残っているような、そんな特別でいて、でも隣にいる人の人生かもしれない。普通なんてないんじゃないかなって思わせてくれる。とてもいい、人生を変えてしまうかもしれない本です。今回推薦したのは、翻訳者のインド文化と言語にたいする真摯な姿勢と敬意が滲み出ていて、地名や人名などのカタカナ表記が素晴らしかったこと。そして気の利いたルビにも愛を感じたからです。

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【推薦者】白貝
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
トランスジェンダー問題 ショーン・フェイ 高井ゆと里 明石書店 デカくて分厚い本で、まずこの分量を訳すの相当大変だったんじゃないだろうか。でもこの本が日本語になったことで、「トランスジェンダーをめぐって、英国でいま何が起こっているのか」「なぜそうなったのか」を多くの人が知り、英国のトランス差別を支えるロジックがいま日本で吹き荒れるそれとまったく通底していることに気づき、戦慄する、そういうことが可能になった。もはやこれを読まずしてトランス差別は議論できないでしょう。

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【推薦者】上野奏美
【推薦作品】『冬牧場』
【作者】李娟
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
本書の魅力は、遊牧民の生活と彼らの横顔がくっきりと立ち現れてくる緻密な描写と、振り幅の大きい文体の妙にあると思っています。読者は、ある時は著者・李娟のユーモラスなお喋りに笑いを誘われ、またある時は静謐で美しい牧場の風景に胸をつかれながら、冬牧場の世界を存分に堪能することができます。その際、これが翻訳書であることが意識に上ることはまずないでしょう。それほどに、全編を通して見事な訳文に貫かれています。

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【推薦者】るり
【推薦作品】『トランスジェンダー問題 議論は正義のために』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
たくさんの丁寧な註釈や、解題がとてもありがたかったです。イギリスの社会状況などに関する詳細な知識がなかったとしても、註釈や解題があるおかげで取り残されずに最後まで読むことができると思います。
訳者の高井さんは本を手に取るたくさんの当事者をまなざしていたのだろうなと感じました。
言葉をある言語からまた別の言語に訳すということだけでもとても大変なことですが、トランスジェンダー問題の翻訳は、読む人たちのことをしっかりと想定して、寄り添うことをしてくれているものだと思います。

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【推薦者】pon
【推薦作品】『スマック シリアからのレシピと物語』
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子
【推薦文】
シリア家庭料理の本ですが、家族の情景や食卓の思い出が綴られ、平和だったシリアを感じられる温かい本です。レシピも平易で読みやすく、なじみがない料理もとっつきやすく、つくりやすい。作者の率直な衒いのない書き方を再現しています。

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【推薦者】yoko
【推薦作品】『台湾の少年』
【作者】游珮芸
【訳者】周見信 倉本知明
【推薦文】

個人の人生を通して台湾の現代史を描いた素晴らしい作品であり、翻訳出版自体が2022年出版界の大きな業績だと思います。作品に敬意と愛情をもって向き合い、複数言語(中国語・台湾語・日本語)をそれぞれの個性を際立てつつ日本語化した、翻訳者の倉本氏の手腕は見事であり、心より称賛する次第です。

書影


【推薦者】神戸に本屋をつくる
【推薦作品】『労働法批判』
【作者】アラン・シュピオ
【訳者】宇城輝人
【推薦文】
人は一人では生きていくことができない。だから人は集団をつくる。歴史的に、その集団は「社会」と呼ばれてきた。

人は社会を作り、社会によって作られる生き物だ。その社会を維持するためのルールが「法」と呼ばれる。

そもそも「法」は、人間が人間をしばるための共通の規範である。本書はそんな「法」の中でも、「労働法」に焦点を当てる。労働法においては、規範からこそ自由が生まれるという、逆説的な特徴があるからだ。

マルクスやフーコー、あるいは人類学や社会学からの影響を色濃く受けながら、「労働法」を「人間学」として捉え直そうとするアラン・シュピオの挑戦は、人間の「自由」とは何か、その条件とは何なのかを根本的に問い直すきっかけを、私たちに与えてくれることだろう。”

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【推薦者】ためこ
【推薦作品】『スマック シリアからのレシピと物語』
【作者】アナス・アタッシ
【訳者】佐藤澄子
【推薦文】
料理のプロでなくとも、おいしい料理は作ることができる。レシピをたどりながら作った料理を食べたとき、しみじみと感じたことだ。材料や作り方はシンプル。ノスタルジックなものからフレンチやイタリアンのエッセンスを取り入れたアレンジ料理などラインナップも幅広い。料理にまつわる著者のエピソードや写真もすごく素敵だ。言葉をたどり写真を見ていると、ショートムービーを見ているような感覚になる。文体もいい。硬派すぎず、フレンドリーすぎず、気取りもない。作り方の説明も、肉声でレクチャーを受けているようで楽しい。

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【推薦者】りりぃさん
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
トランスジェンダーにまつわる差別の問題などを様々な観点から検証した書籍です。専門的な内容も出てくるしイギリスの事例が中心ですが、訳者による注釈が充実しているので読みやすく、また日本の状況について考える上でも役立ちします。この訳書に出会えたおかけで当事者の一人として大変勇気づけられましたし、当事者に限らずもっとたくさんの人に読まれて欲しいと心から思います。

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【推薦者】三好妙心
【推薦作品】『9つの人生』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
バウル行者として修行を重ねるパロミタ友美さんが、自らのインドの聖性理解のために翻訳を手掛けたことが、出版のきっかけになったと伺った。
多宗教にカースト制度という複雑なインド社会においても、機械化、情報化社会の波には抗えず、古来からの宗教者は肩身の狭い思いをしながらも、信仰生活を貫いている。これらは日本でも一昔前にあったであろう光景だろうが、今はもう消える寸前なのかもしれない。本作の登場人物のそのほとんどが激動の人生を歩んでいるにも関わらず、諦観というべきものなのか、みな静かに境遇を受け入れ、粛々と信仰生活を続けている。そしてそれらの様々な人生は、日本人でありながらも、あえてインドに飛び込み、現地の修行者と生活を共にしているパロミタさんの翻訳だからこそ、実感を伴って伝わってくるのだろう。生きるとは何か?を真っ正面から突き付けられる作品である。

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【推薦者】ベア
【推薦作品】『チェヴェングール』
【作者】プラトーノフ
【訳者】工藤順・石井優貴
【推薦文】
ロシア文学を日本語にする、あえていえば「作業」の、一つの転換点になる作品だと思いました。まず訳文がとても良い。たとえば第一部冒頭部の、「畑では穀類がとっくに死んでいるのにー」からの一文には、これまでの翻訳にはなかった身軽さと美しさがある。
もう一点、二人の訳者が出版に関連して行っている活動(関連資料のweb上での公開、商業出版と並行した同人誌の出版)は、手による翻訳や出版社の存在がこれから自明視されなくなるなかで、文学に携わる人が一度立ち止まってよく考えるべきプロセスだろうと考えます。”

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【推薦者】関良輔
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
注釈が豊富で著者がやや偏った表現や思考のもとに書かれている箇所も明記していただけているので、読み手としてはフラットな状態で読める構成になっていると思います。イギリスにあるトランスジェンダーへの差別の歴史や現在の問題と提言がつづられていて、とても興味深い内容でした。様々なマイノリティ性について考えるとき、読んでてよかったなーと思える一冊でした。

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【推薦者】あや
【推薦作品】『9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
インドでそれぞれの信仰に生きるひとびとの姿を描きベストセラーとなった本書を、自らもバウル行者であるパロミタ友美さんが翻訳。文化や歴史背景への深い理解によって丁寧に訳されているのみならず、一冊それ自体がひとつのうたのように紡がれます。近代化されきってしまった日本の私たちから見ると一見エクストリームにも見える、聖なるものとともに生きているインドの彼らとは同じ時代、同じ地平に生きているのだ、と強い説得力を持って結びつけてくれる一冊です。

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【推薦者】須藤岳史
【推薦作品】『黄金虫変奏曲』
【作者】リチャード・パワーズ
【訳者】森慎一郎、若島正
【推薦文】
パワーズの最高傑作のひとつである本書が日本語で読めるようになったことは凄い。専門用語も多く、長らく翻訳されなかった作品がついに。それぞれの登場人物たちのヴォイスも巧妙に訳出されていて印象深い。絶賛おすすめ。

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【推薦者】髙松ゆい
【推薦作品】『もう行かなくては』
【作者】イーユン・リー
【訳者】篠森ゆりこ
【推薦文】
81歳、施設暮らしのリリアは、かつて数回しか会うことが叶わなかった最愛の人、ローランドの日記と共に人生を振り返っていきます。
ローランドとの子どもであるルーシーの若すぎる死。その影を追いかけるように静かに綴られていくリリアの言葉、胸の内。
彼女の持つ聡明さ、随所に散りばめられた核心をつく言葉、俯瞰してこの世界を捉える眼差しに驚かされます。
何より意志の力で支え、奮い立たせて自分を守り、淡々とどこまでも気丈に生きてきた彼女が流さなかった涙を想うと、時折僅かな隙間から溢れる、強さと儚さが紙一重の声に胸が塞がり、哀しみを背負った人の目に見えない涙、底無しの哀しみに触れ、胸が張り裂けそうでした。
日々を折り畳むように迎えた、最後のローランドへの言葉にも胸がつまり、しばらく動けませんでした…。

言葉の力、切れ味、余韻が強く深く残る作品でした。哀しみの描き方に、どうしようもなく惹かれ追いかけています。
イーユン・リー作品ならではの登場人物が持つ確かな知性、鋭さ、出来事の捉え方、向き合い方に魅了され続けます。
前作「理由のない場所」に続き、冷静かつ知的で研ぎ澄まされた思考、視点、感性、声、それらすべてをすばらしい翻訳で生み出してくださっている篠森ゆり子さんにひたすら感動しました。

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【推薦者】牧原勝志
【推薦作品】『フィッシャーマン 漁り人の伝説』
【作者】ジョン・ランガン
【訳者】植草昌実
【推薦文】
翻訳が停滞して久しい海外ホラー、ブラム・ストーカー賞受賞作の邦訳は久しぶり。アメリカ移民史を踏まえたダーク・ファンタシーであり、スティーヴン・キングの次世代を代表する作としても、記憶すべき一冊。

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【推薦者】かめきち
【推薦作品】チェヴェングール
【作者】アンドレイ・プラトーノフ
【訳者】工藤順、石井優貴
【推薦文】
素晴らしい傑作であるが、翻訳大賞の推薦作品とする以上は、それだけでは足りない。
しかし、本作は推薦作品とされるべきすべての要素を兼ね備えている。
一つ、作家の代表作であるにもかかわらず、これまで邦訳が無かった。
一つ、その偉業が、若手研究者・在野研究者の共訳により達成された。
一つ、その訳文が大向うをも唸らせる素晴らしいものであった。
特に流麗で詩的な地の文と、庶民的で野卑た言葉遣いの会話文との切り替えが見事である。
日本翻訳大賞は、まさに本作のような作品のためにこそ贈られるべきである。

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【推薦者】大高伸一
【推薦作品】辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿
【作者】莫理斯
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
テンポのよいミステリーの作品で、引き込まれる様に読み進めることができた。近代を感じる清朝末期の香港での、辮髪の探偵の謎解きを痛快に描いている。本家同様、ワトスン役も登場し、謎解きの味わいをより一層、深めている。中華圏のミステリーの面白さを、世に知らしめた一冊。

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【推薦者】匿名希望
【推薦作品】『スモモの木の啓示』
【作者】ショクーフェ・アーザル
【訳者】堤幸
【推薦文】
昨年も海外の優れた小説が多く翻訳・出版されましたが、個人的な好みと、「翻訳」という問題にかかわる意義とを考え合わせて、ショクーフェ・アーザル『スモモの木の啓示』(堤幸訳、白水社)を推薦します。作者はイランからオーストラリアに政治亡命した女性で、作品は元々ペルシア語で書かれ、それが別人によって英訳されて話題になった作品なのですが、内容がかなり政治的なことから英訳者は名前が伏せられています(おそらく日本語訳者の堤幸さんというのもペンネーム。なので、仮にこの日本翻訳大賞を受賞しても会場には来られないかもしれません)。昨年は偶然にも、かつてイランの指導者に恐ろしいファトワを下された作家サルマン・ラシュディ氏が襲撃されるという事件もありましたし、イランでは反政府デモが大きく盛り上がりました。そんなイランの現在と過去、豊かな文化的伝統と複雑な政治を非常に魅力的に(魔術的でもあり、リアルでもあり、講談調でもある)描いた優れた小説だと思います。

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【推薦者】三木那由他
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
原書発売のころに話題になり、たくさんのトランスのひとたちが待ち望んでいた本の翻訳。原書も読んでいますが、原書の足りないところを細かく補う訳註の数々に、日本の状況と接続する訳者解説、そして正確で読みやすい訳文と、原書読者が訳書で改めて読むことにも意義がある本でした。

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【推薦者】早水瑠美
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
英国でのトランスジェンダー差別問題が丁寧に解説されていて、日本での状況も高井さんと清水晶子さんの解説がついていて、同じような状況が起こっていることがよく分かって、みんなによんでもらいたい本です。

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【推薦者】そら
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
トランスジェンダーはその存在自体が「問題」なわけでは決してない。トランスジェンダーの抱える本当の「問題」を論じ、それが他者と連帯可能であることを示す。トランスジェンダー当事者は家庭や学校や職場や支援の場から差別される。この一冊が必要な人に届くことを願う。

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【推薦者】木鶏
【推薦作品】『惑う星』
【作者】リチャード・パワーズ
【訳者】木原善彦
【推薦文】
会話に耳を傾け、鳥の声を聞き、空や木々を見る。愛をめぐる物語として、社会への問いかけとして、様々な読み方ができます。邦題もすばらしいと思います。パワーズさんの作品の複雑な構造や理系の用語に尻込みしていたかたに、おすすめしたい1冊です。

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【推薦者】雨田 はな
【推薦作品】『破果』
【作者】ク・ビョンモ
【訳者】小山内 園子
【推薦文】
ノワール×おばあちゃん、という異色作。「文章に関して心に決めているうちのひとつは、<読みやすくしない>ことだ」と作者が言い切っているように、ごつごつとして一筋縄では行かない。執拗に濃厚な描写をするかと思えば、あっさり進み書かないところもあるので、必死で食らいつくが、翻弄させられ酔わされる。一気に読めるわけではないので、余計に感情移入してしまい、読み終わるのが残念だった。多くの韓国の小説のように、背景に社会的な問題が描かれているので、深みがあり読み応えがある。こんなに大変なものを翻訳してくださった翻訳者さんには、感謝の言葉しかない。

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【推薦者】susuharai
【推薦作品】『9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
現代インドの社会が抱える矛盾をおさえながら、そこに住む一人ひとりの人生においての聖性に触れる経験、そして信仰について描き出した傑作ノンフィクションです。この作品が訳者のインドへの深い理解をもって翻訳がなされたことに敬意と感謝を抱きました。

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【推薦者】堀口知美
【推薦作品】『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』
【作者】クリステン・R・ゴドシー
【訳者】高橋璃子
【推薦文】
資本主義が女性差別によって成り立っていることを指摘し、むしろ社会主義の方が多くの人が幸せに暮らせるのではないかと提案する一冊です。
訳者の高橋さんはもともとフェミニストなので、「個人的なことは政治的なことである」というフェミニズムの基本的な姿勢はもちろんよく理解されていらっしゃいますし、経済についても細かく調べていることがわかります。経済とフェミニズムという一見難しそうなテーマですが、訳者の確かな知識とセンスが下地にあるため、自然な日本語ですらすらと読むことができますし、資本主義社会を当然と思って暮らしている私たちにとって衝撃的な内容でもあることから、この本を推薦します。

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【推薦者】長田純一
【推薦作品】黄金虫変奏曲
【作者】リチャード・パワーズ
【訳者】森慎一郎、若島正
【推薦文】
この難解な大冊を、分かりやすく美しい日本語に翻訳され、待望久しい読者に届けて頂いたことは画期的です。長年の翻訳者のご努力と、採算を二の次にした(としか思えない)出版社の覚悟にも頭が下がります。この両者の貴重な営為こそ受賞に値すると考えます。

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【推薦者】Nao Nishimiya
【推薦作品】『冬牧場』
【作者】李娟(リー・ジュエン)
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
中国アルタイのカザフ族と共に過ごしたひと冬。ラクダに荷を積み、馬を駆り、羊を追い、雪を溶かした水でお茶淹れ、バターを落とす。消えていくと決まっている遊牧民の日常を、共に暮らし共に働き記録した一冊。翻訳されることがなければ知ることのなかった、過酷で厳しく、それでもかけがえのない生きる姿。

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【推薦者】山本高樹
【推薦作品】『冬牧場 カザフ族遊牧民と旅をして』
【作者】李娟
【訳者】河崎みゆき
【推薦文】
中国・アルタイの辺境で遊牧生活を営むカザフ族の一家と、真冬の放牧地で過ごした数カ月間の記録。中国政府が推進する遊牧民の定住化政策によって、やがて消えゆく運命にある素朴な遊牧生活を想う著者の気持が、読んでいて痛いほど伝わってくる。

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【推薦者】ようた
【推薦作品】『トランスジェンダー問題』
【作者】ショーン・フェイ
【訳者】高井ゆと里
【推薦文】
トランスの解放は幅広い正義の運動と連帯すべきだし、することが必然であると説く本書は、トランス差別が絶望的なまでに広がる2021年のUKで出版されました。約一年後、2022年の10月に翻訳が出るということ、しかも哲学研究者である高井さんによってそれが行われた背景には、日本の状況もまた大きな不正義に包まれているということがあります。高井さんは、素晴らしい原文に対して、Aスペクトラムやノンバイナリーの経験を付け加えたり、日本語圏の読者がUKの情報を事前に知らなくても読めたりするような訳註をつけました。この点が、この本を翻訳でも読むべき本にしたと思います。

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【推薦者】しろ
【推薦作品】『かくも甘き果実』
【作者】モニク・トゥルン
【訳者】吉田恭子
【推薦文】
小泉八雲/ラフカディオハーン。彼をめぐる女性たち(産みの母、アメリカでの最初の妻、日本での妻セツ)それぞれが語る声、ハーンの生涯について親交があったジャーナリストの著作からの抜粋も交えた伝記風フィクション。ベトナム生まれ、戦争を逃れてアメリカに移住した作家さんが英語で書いています。
どうせ書くなら「こんな人だったのか」と思わせてこそでしょうが、彼の人を知ってるつもりで全然そうではなかったこと!翻訳されて日本語文化圏に届いてこその本だと強く感じました。
個人的に、ジャケ買いするけど内容は当てられない本オブザイヤー賞も捧げたい一冊。

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【推薦者】市川亮平
【推薦作品】トム・ソーヤの冒険
【作者】マークトウェイン
【訳者】市川亮平
【推薦文】
自己推薦させていただきます。 原文を省略することなく翻訳した本書を小学生から大人まで幅広く楽しめるよう、平易かつ明瞭な文を心がけました。 また宗教的、当時の慣習など、我々になじみのない事柄についてもなるべく本文中に溶け込ませて読書の流れを妨げることなく分って貰うようにしました。
翻訳に当たっては多くの既訳本を参考にさせて頂きました。多少とも新に本書を上梓したことに意味があるとすれば、 いわば雪山で先達にラッセルして頂いた道を、私はあとから幾ばくか広く、平らに整備できたということではないかと思っています。

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【推薦者】安宅裕美
【推薦作品】『9つの人生』
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
険しい山嶺から湧き出る清らかな水のように清冽で美しい文章。
著者のインドの人々に分け入った精神的かつ世俗的な名文を、自身がインドの吟遊行者である訳者が自らの知性と詩的表現を遺憾なく発揮してどこまでも折り重なる名文と重い人生体験の織りなす重層のタペストリーのような名著となった。
一生傍らに置いて読んでいきたい一冊。

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【推薦者】川村華織
【推薦作品】9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて
【作者】ウィリアム・ダルリンプル
【訳者】パロミタ友美
【推薦文】
信仰に身を捧げると決めた9人のストーリーがそのまま映画になりそうな「濃さ」だ。臨場感に溢れ、生々しく真に迫る文章は「9つの人生」をくっきりと浮かび上がらせ、登場人物の微妙な表情まで想像できるほどだ。近代的な価値観とは真っ向対立しながらも神に仕える人たちの壮絶な人生。抑圧や暴力、故郷からの離縁など、あまりの犠牲の大きさにそうまでも神が大事かと問いたくもなるが、苦しみもがきながら、それでも神が与えた役割を全うすることにある種の幸せを見出している。ざわざわと不安を感じながらも、読了後は人間の究極の幸せはここにあるのではとさえ感じている自分がいた。道を突き進む人間としての底力・強さに惹かれ、彼らが今の世に生きてくれることに感謝したくなる本だ。翻訳者もまたインドの「神」に仕える女性。知っている世界だからこそ訳すのは覚悟がいったはずだが、一方で、彼女でなければこの完成度に到達しなかったに違いない。

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【推薦者】佐藤
【推薦作品】『夏』
【作者】アリ・スミス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
分断を乗り越える、なんて僕らは簡単に言ってしまうけど、政治にはうんざり、家族にはうんざり、コロナにはうんざり、奇跡なんて起こりはしないじゃん。でも、だから。暗い季節を飛び越えていくためにはフィクションの力が必要だ。四季のテトラロジーの締めを飾るにふさわしいめぐりあう人たち、重厚な歴史、あふれる物語、テクスト。訳者のディテールひとつ、見逃さまいとする熱量も物語を彩る。「前世紀のある人物は敬虔にこう言った。許しは、不可逆的な歴史の流れを逆転させるただ一つの方法だ」今あまりにも硬直し横たわる「物語」の許し難さに喘いでいるなら、すべてにうんざりしているのなら、『夏』の「許し」の可能性に触れてください。歴史の偉大さとそれを紡ぐ人たちの優しさに包まれてください。

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【推薦者】門脇絵梨花
【推薦作品】辮髪のシャーロック・ホームズ
【作者】莫理斯
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
シャーロック・ホームズシリーズの秀逸なパスティーシュでありながら、香港の古い街並みを瑞々しく描写し、その光景をまざまざと脳裏に浮かび上がらせる。香港という街に一度でも足を運んだことがある人はもちろん、まだ訪れたことのない人にもおそらく「ここはどんな街なんだろう」と興味を持たせるであろう、作者の故郷への愛情が伝わる。

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