第六回日本翻訳大賞の最終選考対象作品

第六回日本翻訳大賞の最終選考対象作品が以下の5作品に決まりました。
(作品名50音順)

『アカシアは花咲く』デボラ・フォーゲル、加藤有子訳、松籟社

『ある一生』ローベルト・ゼーターラー、浅井晶子訳、新潮社

『インスマスの影―クトゥルー神話傑作選―』H・P・ラヴクラフト、南條竹則訳、新潮­文庫

『失われた女の子 ナポリの物語4』エレナ・フェッランテ、飯田亮介訳、早川書房

『精神病理学私記』H. S. サリヴァン、阿部大樹、須貝秀平翻訳、日本評論社

 受賞作は5月18日(月)に発表の予定です。


【関連イベントスケジュール】

・翻訳ナイト—第六回日本翻訳大賞中間報告会

 選考委員6名(金原瑞人、岸本佐知子、斎藤真理子、柴田元幸、西崎憲、松永美穂)が、発起人の1人である米光一成の司会で、2019年の翻訳シーンを振り返ります。
 当日の話題は選考作品にかぎらず、広くかつ楽しめるものになる予定です。二次選考対象17作に入らなかった優れた作品、各選考委­員が選ぶ「この一般推薦がすごい!」などの企画を準備しています。

日時:4月12日(日)開場17:30 18:00〜19:30
場所:青山ブックセンター本店大教室
ご予約は青山ブックセンターウェブサイト
http://www.aoyamabc.jp/event/besttranslationaward6/
もしくは店頭にてお願いします。

・授賞式

 受賞者の朗読や選考委員とのトークなど盛り­沢山の開かれた式です。
 どなたでもお気軽にご参加ください。

日時 6月6日(土) 
場所 デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス  開場13:30予定 14:00〜17:00
※ご予約は少々お待ちください。

第六回日本翻訳大賞二次選考対象作品一覧

第六回日本翻訳大賞の二次選考対象となる17作品が決定しました。最終選考の対象となる5作品は、3月下旬に決定・お知らせいたします。

(作品名50音順)


『アカシアは花咲く』デボラ・フォーゲル、加藤有子訳、松籟社

『ある一生』ローベルト・ゼーターラー、浅井晶子訳、新潮社

『息吹』テッド・チャン、大森望訳、早川書房

『インスマスの影―クトゥルー神話傑作選―』H・P・ラヴクラフト、南條竹則訳、新潮文庫

『失われた女の子 ナポリの物語4』エレナ・フェッランテ、飯田亮介訳、早川書房

『おちび』エドワード・ケアリー、古屋美登里訳、東京創元社

『オーバーストーリー』リチャード・パワーズ、木原善彦訳、新潮社

『きのこのなぐさめ』ロン・リット・ウーン、枇谷玲子、中村冬美訳、みすず書房

『亀裂:欧州国境と難民』カルロス・スポットルノ、ギジェルモ・アブリル、上野貴彦訳、花伝社

『黒い豚の毛、白い豚の毛』閻連科、谷川毅訳、河出書房新社

『サッシーは大まじめ』マギー・ギブソン、松田綾花訳、小鳥遊書房

『三体』劉欣慈、大森望 光吉さくら ワン・チャイ訳、早川書房

『惨憺たる光』ペク・スリン、カン・バンファ訳、書肆侃侃房

『精神病理学私記』H. S. サリヴァン、阿部大樹、須貝秀平翻訳、日本評論社

『ダイヤモンド広場』マルセー・ルドゥレダ、田澤耕訳、岩波文庫

『波』ソナーリ・デラニヤガラ、佐藤澄子訳、新潮社

『目覚めの森の美女』ディアドラ・サリヴァン、田中亜希子訳、東京創元社


読者推薦11作品に、選考委員推薦6作品を加えた合計17作品です。

選考対象作は、当HP「日本翻訳大賞とは」に記したとおり、2018年12月1日から2019年12月31日までに日本語に翻訳された公刊物の中から選ばれています。


・中間報告会

中間報告会の日時が決定しました。

日時:2020年4月12日(日)18時〜
場所:青山ブックセンター本店

を予定しています。

第六回日本翻訳大賞 推薦作品リスト

2020年1月31日(金)まで第六回日本翻訳大賞の候補作を募集しています。

推薦はこちらから。

ここでは皆さまから推薦をうけた作品と推薦文を紹介していきます。

※推薦文のすべてが掲載されるわけではありません。予めご了承ください。


【推薦者】濱田 麻矢

【推薦作品】『郝景芳短篇集』

【作者/訳者】郝景芳/及川茜

【推薦文】  

ケン・リウに英訳されたFolding Beijingでヒューゴー賞ノヴェレット部門を受賞、一躍日本でも知られるようになった景芳の短篇を中国語原文から訳し起こした作品集。「北京 折りたたみの都市」のほか、くすっと笑えるようなショートショートも選ばれていて、景芳の魅力を存分に味わえる。なかでも同じ出来事を男女別々の視線から捉えた「弦の調べ」「繁華を慕って」がよい。翻訳は精確で冴えており、解説も読み応えがある。 


【推薦者】 日暮 カナ

【推薦作品】 『沈黙する教室』

【作者/訳者】 ディートリッヒ・ガルスカ/大川珠季

【推薦文】  

この映画化作品「僕たちは希望という名の列車に乗った」を見たら、どうしたって原作を読みたくなります。映画館の売店ですぐに買えて、これ案外大事です。この子たち大丈夫なの?どうなっちゃうの?と思っても、原作本発売が半年後とかではどうしたって興味が薄れます。歴史的事実についてもかなり勉強しているように思えます。大急ぎの仕事だったのか誤字はいくつか見られましたが、読みやすい翻訳でした。原作者が文章を書くプロではないようで、話があっちへ行ったりこっちへ行ったり、突然別の人の話が始まったり、タイプミスが普通に入ってたり。苦労したのではないでしょうか。(翻訳者はこれが初出版のようですが、原作に忠実なのであってヘタクソなわけではないと思います)

書影

【推薦者】 Irei Robyn

【推薦作品】『ショウコの微笑』

【作者/訳者】チェウニョン/牧野美加、横本麻矢、小林由紀

【推薦文】  

誰の母でもない、妻でもない、男性に物扱いされない、自由な姿の女性たちを描いた物語があまりに少ないと思っていました。この短編集からは、ずっと声を押し殺してきた、そうせざるをえなかったけれど、しかしたしかに存在している女性たちの声と体温が伝わってきます。隣国の、若く素晴らしい作家に出会わせてくれたことに感謝します。

書影

【推薦者】吉田 博子

【推薦作品】『雪が白いとき、かつそのときに限り』

【作者/訳者】陸 秋槎/稲村 文吾

【推薦文】  

前作とは違い、中国現代物ミステリ。Zという都市にある高校の寮で5年前に亡くなりかけている女子高生の描写から話が始まる。雪その他により密室が完成し、彼女は自殺とされる。5年後、生徒会長が図書館司書と推理に乗り出すが……。 雪というものは降るだけで何か閉じ込められてる感じがするものだが、その雪を小道具に使っていて、二重の閉塞感がある。高校生たちもさまざまなことに悩み閉じ込められていて、その姿がいじらしい。昔を思い出して共感し、過去に思いを馳せた。話としてはダークにならざるを得ないと思う。 金沢読書会で著者本人から聞いた訳者のこだわりにもすごいと思っての投票である。名前が難しかっただけでするすると読めたのは翻訳のおかげ。後日談は(記憶によれば日本未発表と聞いているので)是非読みたい。

書影

【推薦者】 杉江 松恋

【推薦作品】『スヌーピーの父チャールズ・シュルツ伝』

【作者/訳者】デイヴィッド・マイケリス/古屋美登里訳

【推薦文】  

長寿漫画『ピーナッツ』の偉大な作者についての本格的評伝で、本書で明かされる新事実も多い。これまでは功名に隠蔽されてきたシュルツの負の面も明らかにされ、より立体的な理解が可能となった。作品の文化的な意義についての言及もあり、貴重な資料でもある。 本文だけで二段組600ページ超と厖大な分量があり、かつ間違えられない固有名詞が頻出するノンフィクションなので訳出の苦労は並大抵ではなかっただろうと推察される。だが最大の推薦理由は、ピーナッツ訳者として有名な谷川俊太郎との距離の取り方にも配慮が必要だっただろうという一点。「タメイキ」の名訳がある”SIGH”をどう処理するか、というだけでも古屋さんはお腹痛くなったのではないか。

書影

【推薦者】きのこ みやもと

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ/上野貴彦

【推薦文】  

地中海からロシア国境まで、あらゆる現場で流入する移民・難民の現場をフォトルポタージュという形で鋭く鮮やかに描き出した一冊となっており、BBC等でも高い評価と共に取り上げられた一冊である。 オリジナルの秀逸さも去ることながら、翻訳版では日本のメディアが一切触れないような、難民とそれを取り囲む国々の内情に触れることができる貴重な資料となっている。予備知識の無い方であっても理解がしやすい。また巻末にまとめられた「現代史への手引き」とも捉えられる一章を読むだけで、人もモノも情報も高い流動性をもって混ざり合う現代の課題が「難民」の1単語から鮮烈に洗い出される様に、今こそ高い倫理観をもって全人類の人権について考えるときと思わされた。

書影

【推薦者】 アマニョッキ amanyoccy

【推薦作品】 『中央駅』

【作者/訳者】キム・ヘジン/生田美保

【推薦文】  

圧倒的。言葉を失うほど素晴らしかった。文章の力で人はここまでの希望と絶望を表現できるのか。自分語りをせず固有名詞をもたない男と女は、誰でもあって誰でもない。腐敗、悪臭、暴力、病魔、わたしたちが避けて通りたいと思っているものでしか愛の確認を持てない人たち。キム・ヘジンが舞台にしたというソウル駅の写真を見た。とても美しくキラキラしていて、なんだか涙が出た。そのきらびやかな足下で、ひらかれた広場で、痩せた身体を寄せ合いながら、今夜も飛翔と墜落を待っている人たちがどれだけいるのだろうか。原文のもつ力と翻訳の素晴らしさ、どちらが欠けてもこの作品は成立しなかったと思う。作品から魂が溢れだしている。

書影

【推薦者】内田 よし江

【推薦作品】『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』

【作者/訳者】エドゥアルド・ガレアーノ/久野量一

【推薦文】

一日一話という形式で淡々と世界の出来事が綴られる本書。誰もが知る世界史上の有名人もいるにはいるが、全く無名の、本来「歴史」には登場するべくもない市井の人々も多い。国も問わず、時代も問わない小さな記憶の断片が丁寧に接ぎ合わされ、次第にこの本が著者による、一見無力な、しかし勇気ある人々(被抑圧者、女性、マイノリティ)への挽歌であり、今まさに歴史を生きている読者への応援歌であったことが突如判ってくる。同時に、力を不正に用いて他者を軽んじ、抑えつけ、消し去ろうとした者たちへの痛烈極まる批判として、これ以上はないと思われる程の筆の冴えも見せる。そこはかとないユーモアとペーソス、微かな希望が全体に漂い、人間の歴史とは詰まるところ強者や勝者が弱者、敗者を痛めつけ、搾取するだけのものだという暗澹たる結論に読者が陥ることから救っている。精確でありながら風格と余韻を湛えた訳文、翻訳上の困難が幾らでもあったに違いないのに、久野氏のそれからは毛ほどもそれが感じされられず、翻訳書を読んでいるというストレスがない。磨き抜かれた訳業と思う。

書影

【推薦者】ドーミエ スミス

【推薦作品】『凍』

【作者/訳者】トーマス・ベルンハルト / 池田信雄

【推薦文】  

閉ざされた寒村にて隠遁生活を送る老画家が、息が続く限り世界に対する呪詛を並び立てる。タル・ベーラの映像のように閉鎖的な小説世界の中を、ベルンハルトの文体(ひいては老画家の思考)が膨張し飛躍していく様子、またはそれがこちらの予想しない深淵へと沈んでいく様子は圧巻だった。 訳文として印象的なのは「彼は言った」という言葉の執拗なまでの反復。これによって老画家の連続する語りの異常性が際立っている。また、この言葉がない時の鉤括弧は一体誰が言ったのか、そもそも発話された言語ですらないのではないか、それとも研修医である「ぼく」が独言ただけなのか。老画家の言語が、脳内や世界にまで侵食していくような異様な現象を見た。 


【推薦者】はるこ

【推薦作品】『ショウコの微笑』

【作者/訳者】チェ・ウニョン/牧野美加、横本麻矢、小林由紀/吉川凪 監修

【推薦文】  

人が人を思ったり、人と関わるってなんなんだろうと、誠実な言葉と言葉から想起される映像に圧倒されながら読みました。 1年前に読みましたが、いまでもたまにその時の映像が頭の中に蘇り、あれからあの女性たちはどうなっただろうと思ったりします。 短篇ごと訳者は異なりますが、チェ・ウニョンのひと連なりの小説として堪能しました。

書影

【推薦者】槙野 さやか

【推薦作品『息吹』

【作者/訳者】 テッド・チャン/大森望

【推薦文】  

愛の話です。SF短編集、そしてSF短編でなければ描けない愛の話の数々。こんなの読んだことなかったのに、こんなのを、私たち、きっと、待ってた。私は前作を読んだのが最近なので実感がなかったのですが十七年ぶりの単行本とか。次回はいつでしょうか。待ちます。 余談ですが、翻訳者が「テッド・チャンが来日したときにSFファンが詰めかけた」というエピソードを紹介していて、客席にいた日本の作家が挙げられているんですね。そのなかに「円城塔、伊藤計劃」とあるのです。泣いてしまう。まるでSFのように、その後の悲劇を知っているから。こんなにさみしいタイムマシンは、SFの名作にだって、きっと、ない。

書影

【推薦者】 片山 奈緒美

【推薦作品】 『外は夏』

【作者/訳者】キム・エラン/古川綾子

【推薦文】

魅力的な韓国文学が数多く翻訳された2019年。そのなかで決して派手ではないが、喪失をテーマに綴られた七つの物語は満月の夜の背景の星のごとく静かに明滅する。  何かを失う悲しみとそれでも続く生の悲しみが、あるときはちりちりと燃えるように、あるときは深くどこまでも深く沈むように人間の普遍に内在する。散りゆく桜に美しさと寂しさを感じるように、失ったものへの思いは、かの国の人もこの国の人も変わらない。わたしたちは国境も民族の垣根も越えて、この世界に暮らすひとりひとりである。日本語版向けの著者のことばにそのメッセージが記されている。

書影

【推薦者】今野 あきひろ

【推薦作品】『象は静かに座っている』

【作者/訳者】胡波/藤井省三

【推薦文】  

わたしは映画から原文を読んで、さいごにこの翻訳(2019年12月号群像掲載)を読んだ。四時間に及ぶ映画は勿論この短編小説以外の出来事に溢れているのだが、逆になぜ「象を見に行くのか」が全く映画では語られず、象すらまったく出現しないのだ。 それが小説ではまさしく、どうやら村上春樹短編への回答らしい象に会うことについて小説的に語られている。そして何故か小説の最後に象が出てくるだけで、わたし自身が長い間会いたかった「物」に出会えたような想いに浸てるのだ。そして、このコピーした群像の短編と声調とピンインが入った原文をホチキスで留めて、わたしは何度も音読をした。毎回音読の最後には「僕」と「わたし」と作者の自殺した「胡波」のことが重なって声を詰まらせてしまう。そうやって、何度も2019年の「わたし」に会いに行ける、「象は静かに座っている」は、極個人的タイムマシンのような美しい翻訳小説だ。 


【推薦者】ま か

【推薦作品】『三つ編み』

【作者/訳者】レティシアコロンバニ/齋藤可津子

【推薦文】  

翻訳文は時に読みにくいのだが、それが全くなくぐいぐい読める。 三つの国の繋がりのない三人の女性たちがそれぞれに困難を抱えながらも意志の強さで未来へと進む姿が生き生きと感じられた。 人はどこかで誰かと繋がっている。見えない気付かない繋がりによってきょうを生きていけるのだと思わせてくれた。三つの物語が編まれて結ばれた。

書影

【推薦者】え ん

【推薦作品】『レス』

【作者/訳者】アンドリュー・ショーン・グリア/上岡伸雄

【推薦文】  

元恋人の結婚式なんか出たくないと無理やり仕事や用事をまとめ、世界中を旅するレス。あちこちで騒動を起こすので、時にくすくす、時に声を出して大爆笑。気負わずに、さらっと読める文体でありながら、おかしみや味わいの詰まっている上岡さんのすばらしい表現力をたっぷり楽しませてもらった。各国の旅の様子も礼儀正しいゲイの男たちの関係も興味深く、知らない世界に連れて行ってもらった気分。久しぶりに夢中になって読んだ1冊だった。

書影

【推薦者】林 道子

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ、ギジェルモ・アブリル/上野貴彦訳

【推薦文】

彩度を抑えた版画とも写真とも思えるビジュアルに、かぎ裂きのような黄色い「亀裂」の文字と線描、そしてショッキングピンクの帯…「なに、この本!」と一目で釘付けになった。優れたドキュメンタリー写真家のカルロス・スポットルノとジャーナリストのギジェルモ・アブリルが難民問題を欧州各地で取材して作りあげた渾身の「フォト」グラフィックノベル。世界中の多くの人に、この問題の深刻さを伝えたいために…写真の彩度を抑え、時には大胆なトリミングも施し、そしてマンガの吹き出しのような形で取材と分析による文章を添えた、編集の妙!!この本を、日本語で読むことができるのは、なんと幸せなことだろう!さらに、難民問題に詳しくない多くの日本人のために、要所要所の欄外には用語の注釈も加筆されている。巻末の訳者解説で、この本が生まれた経緯をさらに深く知ることができる。カルロス、ギジェルモ、上野さん、素晴らしい仕事に感謝!!!

書影

【推薦者】シノ タカキ

【推薦作品】『私のカトリック少女時代』

【作者/訳者】メアリーマッカシー/若島正

【推薦文】

作者は6歳で両親を亡くし、大叔母とその夫に引き取られる。そこでの生活が中心の回想記。その非凡な目で観察をする語り手の回想の中では、抑圧し、暴力を振るう家族でさえも、好きになってしまいそうなる。 淡々と語られていき、圧倒され、感情がどこかに落ち着くことなく、ただ「良い!」としか言えない。そういうものが自分は好きで、この一冊がまさしくそれでした。 


【推薦者】vegarin

【推薦作品】『ダイヤモンド広場』

【作者/訳者】マルセー・ルドゥレダ/田澤耕

【推薦文】

いわゆる一つの”女の一生”。時はスペイン内戦前後。語る言葉はカタルーニャ語。気ままな夫、その夫の気ままさから大量買いする鳩、そしてもちろん時代に翻弄されるクルメタ。一見、あまり自主性のない女性のように描かれる彼女が、読み進めていくうちに、なんという存在感を発揮することか。悩み、迷い、それでも人生を受け入れて生きていく。詩のようなカタルーニャ語に綴られて。短いページ数で平凡な女の人生を描きながら、これは大いなる人生賛歌。生きていってみようかと思わせてくれる佳作。 マイナー語であるカタルーニャ語を日本語翻訳で読める幸せに、翻訳者や出版社をはじめ関係者に感謝。

書影

【推薦者】スパシック CC

【推薦作品】『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件』

【作者/訳者】カーク・ウォレス・ジョンソン/矢野 真千子

【推薦文】

2009年にイギリスの大英博物館で実際に起きた鳥の標本盗難事件のルポタージュ。 軽犯罪を取り扱った地味目なクライムノンフィクションかと思いきや、その背景にあったのはマニアと呼ばれる愛好家たちの世界。 興味のない人からしたら動物の死体、研究者たちからすれば「貴重な」標本、愛好家たちからすれば喉から手がでるほどほしい極上の一品。 犯罪ルポでくくられることなく、物の価値、博物館の存在意義、愛好家の社会的な立ち位置など、様々な思いを巡らすことのできるヒューマンネイチャーサスペンス。 装丁も美しく、生き物の肌のような質感の紙、その上からまかれた帯をとるとうまく種明かしがされているのも面白い。 同時期に公開された犯罪映画『アメリカン・アニマルズ』とあわせるとなお一層読書が進みます。生き物好き、なんかしらの愛好家、クライムものが好きな人におすすめ。 イラク戦争中に現地で働いていた著者カーク・ウォレス・ジョンソンの経歴も面白いです。

書影

【推薦者】kuma kuma

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】

13歳の少女サッシーは大切な地球環境を身勝手に破壊する大人たちを許さない、勇敢で小さなエコ戦士だ。将来はシンガーソングライターになって、世界中にエコなメッセージを届けたいと思っている。彼女が家族や学校の親友、仲間、先生たちと日常生活の中で様々な出来事を繰り広げながら、信念を貫き果敢に行動する姿が実に頼もしい。物語が進むにつれて、彼女をもっと応援したい気持ちになる。真面目すぎて、ちょっと不器用なサッシー。でも、いつも真剣にエコ活動に取り組み、そんな彼女に周りも影響されて支持していく展開がとても清々しくて心地いい。サッシーが起こす行動の一つ一つは小さなことでも、多くの人々が同じ想いで一つになって行動すれば、とても大きな力になることに気付かされた。いま現代社会を生きる私たちに一番大切で必要なことは、一人一人が自分たちの"地球"と、そこに生きる全ての生き物の大切な環境を守ろうという「使命感」や「責任感」だろう。これからは、いつもエコを考えながら少しずつでも自分に出来る行動を進んでやっていこうと思わせてくれた。「サッシーは大まじめ」是非とも読んでいただきたい一冊だ。

書影

【推薦者】ミラクル たかちゃん

【推薦作品】『iレイチェル』

【作者/訳者】キャス・ハンター/芹澤 恵

【推薦文】  

優秀な女性研究者が急死した。その数日後、彼女そっくりのロボットが夫と娘の前に現れる…。 この作品はSF的でもあり、ロボットを交えた家族ドラマでもあります。 生前の妻が夫や娘に対してうまく伝えられなかったこと。忘れたくない小さな思い出。生き急いだせいでできなかったこと。それらが少しずつ明らかになるとともに、クスッと笑ってしまうユーモアやサプライズ、意地悪な罠も仕掛けられていて、読者を楽しませてくれます。 義母との交流を重ねるにつれ、記憶の蓄積と忘却、老いと死といった想定外(?)のテーマも加わり、アイ・レイチェルはやがて大きな決断を迫られることに。 終盤になって、作中に引用されるトマス・ムーアの詩『夏の名残のバラ』がとても心に響いてきます。 登場人物は少数精鋭でわかりやすく、平易な言葉で訳されていたので600ページがあっという間でした。

書影

【推薦者】駿瀬 天馬

【推薦作品】『息吹』

【作者/訳者】テッド・チャン/大森望

【推薦文】

愛にできることはまだあるかいと思っている人に読んでほしい。わたしたちは日々自らのベターを積み重ねて人を愛し自分を愛し生きていくことしかできない。

書影

【推薦者】おさかな パン

【推薦作品】『靴ひも』

【作者/訳者】ドメニコ・スタルノーネ/関口英子

【推薦文】

妻、夫、そして子どもたち。章が変わり、視点が変わるごとに、家族の形の違う面が見えてくる。というよりさらけ出される。読んでいるあいだずっと心がざわついて落ち着かなかったのは、自分の家族にまつわるあれやこれや(物語の家族と同じような経験をしたわけではないけれど)、日ごろは押し入れの奥に突っこんで忘れたふりをしているぐちゃぐちゃを、ぜんぶ引っ張り出された気がするから。うわ、見たくない、と思うのに目をそらせない。ああ、怖い。めんどくさい。でも、つながっている。それが家族。ラスト、ひりひりするけど爽やかさも感じた。章ごとにスタイルや味わいの異なる語り口を見事に訳し分けている訳文に拍手。

書影

【推薦者】torami @読書メーター

【推薦作品】『中央駅』

【作者/訳者】キム・ヘジン/生田美保

【推薦文】

貧困小説にして純愛小説。ホームレスの男女の恋を描いたこの小説を読むのは、苦しくて苦しくて仕方なかった。 主人公の男はまだ若く、客観的に見ればまだまだ人生をやり直すことが出来るようにも見える。しかし、恋と貧困が彼の判断を度々誤らせ、彼をさらなるどん底へと追い込んでいく。「貧すれば鈍する」「恋は盲目」とでも言おうか。 いや、そんな教訓めいたものはどうでもよく、ただただ苦しく美しいこの物語を楽しんだ。 是非読んで欲しい小説です。

書影

【推薦者】erierif えり

【推薦作品】『モロイ』

【作者/訳者】サミュエル・ベケット/宇野邦一

【推薦文】  

ベケットの三部作を読んで小説、文学と思っていた様式や枠が無くなったような気がした。そんな風に気づかせてくださった素晴らしい翻訳をありがとうございます。


【推薦者】オリーブ

【推薦作品】『失われた女の子 ナポリの物語4』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

1巻目の「リラと私」から約2年間、圧倒的な存在感で私の読書生活に鎮座してきたナポリの物語シリーズもこの第4巻「失われた女の子」でついにおしまい…読む前から寂しく、読み終えた今は「また一から読んでみよう!」というワクワク感でいっぱいです。作者の圧倒的な筆力と人間観察力には驚かされましたし、素敵な装画もこの本の魅力の1つです。そしてなにより訳者飯田亮介さんのお仕事にありがとうを伝えたいです。計4巻のこのボリュームを訳し切られた高揚感は、訳者あとがきからもひしひしと伝わってきました。

書影

【推薦者】とう さん

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田 綾花

【推薦文】  

サッシーが市長のビュッフェパーティーでのやり取りから「ぐっ」と引き込まれました。マグナスヘの思いの変化、自分の経験と重ね合わせ、ドキドキする場面も…環境問題の活動も心配でしたが、どんでん返しにびっくりです。サッシーには及びませんが普段の生活にエコを取り入れたいです。 「ありがとう」さん!みなさんにお勧め出来る作品です。

書影

【推薦者】松尾 真一郎

【推薦作品】『セロトニン』

【作者/訳者】ミシェルウェルベック

【推薦文】  

真面目に思うと、おフランスの国の今(現時点では、過去ですが)な空気感みたいなものが知れました。 不真面目に言うと、主人公の性生活に興奮して読めました。なんて、破廉恥!と。思ったような… 作者の他の作品はわかりませんが、林修さんの今でしょ的な(ちょいクラシックな表現かもしれない例えですいません)ことを伝えようとする作家さんのように思いました。 推薦になってますでしょうか?わかりませんが。 誰に問うているのかも。私は、この本と出会いました。


【推薦者】那波 かおり

【推薦作品】『三つ編み』

【作者/訳者】レティシア・コロンバニ/齋藤可津子

【推薦文】

なにがなんでも娘を学校に行かせたいスミタの意地に涙した。「身の丈」を超えていくために教育があることを忘れちゃいけないと思った。しかしこんなにも感情を揺さぶられるのに、涙を吹き飛ばすような笑いをともなう爽快な読後感は、物語の構成の圧倒的巧みさゆえ。とくにあの、例の……詳しくは言いませんが、詩のような断章の煙幕の張り方のうまさったら。あとから読み返したときの納得の深さ。作品の技巧性と翻訳の妙のなせるわざなのだと思います。ぜひ読んでみてください。

書影

【推薦者】樫原 辰郎

【推薦作品】『文化がヒトを進化させたー人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』

【作者/訳者】ジョセフ・ヘンリック/今西康子

【推薦文】  

この本が出たことで、色んな事柄が以前よりもずっと語りやすくなりました。例えば、この本と西崎憲の『全ロック史』をリンクさせると、どんなことが見えてくるだろう?てなことを考え、かつ語らずにはいられないのです。


【推薦者】まるい し

【推薦作品】『ウェイリー版源氏物語』

【作者/訳者】アーサー・ウェイリー(紫式部)/毬矢まりえ・森山恵

【推薦文】  

ロシア語は知らないけど、すばらしい作品も強烈なセリフも知っている。そういうことを可能にするのが翻訳のマジックなら、このウェイリー版源氏物語を読むのはまさに手品でも見ているような体験。読み始めはカタカナの連発にギョッとするけれど(「シャイニング・プリンス」!)、宇治十帖に辿り着くころには、どこともしれない風景のなかで展開するこの物語が終わるのが惜しかった。一千年前、オリジナルの源氏物語を争うように読んだ女房たち、百年前ウェイリーの英訳を感嘆しながら読んだウルフやユルスナール、レヴィ=ストロースたちのことが読書仲間みたいに思えてうれしくなった。

書影

【推薦者】しげる

【推薦作品】『サブリナ』

【作者/訳者】ニック・ドルナソ/藤井光

【推薦文】  

言葉との距離感の喪失。例えばそういう観点で本作を読むこともできるだろう。この物語はフラットになってしまった絵と言葉によって紡がれているが、その網目から垣間見える情報量は計り知れない。そう実感させてくれる翻訳だった。

書影

【推薦者】y akiko

【推薦作品】『ソビエト・ミルク ラトヴィア母娘の記憶』

【作者/訳者】ノラ・イクステナ/ 黒沢歩

【推薦文】  

母と娘が語るソビエト体制下のラトヴィアの日々。 章が変わるごとに娘、母と語り手の「私」が変わる構成は、ソビエト体制への絶望と、遠くに小さく見える自由の光を交互に象徴しているようでもあり。 原作はラトヴィア語ですが、ところどころにロシア語のセリフがあります。 翻訳はどちらも日本語のため、ロシア語が醸し出すニュアンスの表現に苦心されたかと察します。 ロシア語が権力や抑圧の象徴となる場合もあれば、ソ連になってから流入してきたロシア系住民と隣人同士として共存の証となる場合もある。 ラトヴィア人にとってソ連時代の厳しい日々の記憶がそのままロシア人への憎悪へ向かってはならない、という作者の思いが感じられました。

書影

【推薦者】酒井 七海

【推薦作品】『波』

【作者/訳者】ソナーリ・デラニヤガラ/佐藤澄子

【推薦文】

まだ記憶が生々しく感情がとても素直に書かれているので、読むのがとても辛かった一冊。どうしてもどうしても自分だったらと想像してしまって足がすくむようにページをめくる手がすくんでしまった。ツナミによって一瞬で夢のように自分の家族を失った女性が書いた手記。最初は死のうと思っていた本人がゆっくりと少しずつ前に進めるようになるまでを本当に素直に書いている。その勇気はすさまじいものだと思う。わたしは、わたしだったら、、、読後なかなかそこから抜け出せないでいた。


【推薦者】谷澤 茜

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー/古屋美登里 訳

【推薦文】  

後に蝋人形作家マダム・タッソーと呼ばれる“おちび”ことアンネ・マリー・グロショルツの数奇な生涯のお話。 アイアマンガーシリーズに引き続き、相変わらず美男美女ではなく個性的すぎる登場人物が楽しいケアリーの作品。 『大きな鼻と大きな顎を もつ私』と聞いてついマダム・タッソーの顔を検索してしまったのは私だけじゃないはず(笑) ここまでやってもまだ足りないのかよォ!と言いたくなるような出来事続きの中で、どんな苦難にもめげないマリーが強くてかわいくて、ブ厚い本なのにスルスル読めて残りのページが少なくなるとマリーたちと別れるのが淋しくなります。 ちなみに私は全然エロくないベッドシーンが大好きです。

書影

【推薦者】飯島 雄太郎

【推薦作品】『翻訳 訳すことのストラテジー』

【作者/訳者】マシュー・レイノルズ/秋草俊一郎

【推薦文】  

200頁弱の短い内容ながらも、翻訳についてのトピックが過不足なく詰まっており、大変有用な一冊でした。


【推薦者】 unyue

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣/大森望 光吉さくら ワン・チャイ(監修/立原透耶)

【推薦文】  

超弩級と云う噂だけが先行し中国語原作でハードルが高過ぎ手が届かないかも知れないと半ば諦めていた作品が刊行される嬉しさ。中国語の原作、ケン・リュウによる英訳、中国語の専門家による原作の日本語訳、それぞれをベースにSFの文脈をプラスしてまとめ上げる大森望の辣腕と立原透耶の目配り… 全てが相俟って、ページを捲るのがもどかしいほど面白いエンターテインメント小説の日本語訳が出来上がったのだと思うととても楽しくなってくる。 外国語で書かれた小説をそれを切望する読者に届ける「翻訳」と云う行いが素晴らしい実を結んだ好例として今年の日本翻訳大賞に推薦したい。

書影

【推薦者】♪ akira

【推薦作品】『ジャパンタウン』

【作者/訳者】バリー・ランセット/白石朗

【推薦文】  

サンフランシスコで起きた日本人一家殺人事件を、骨董屋と探偵業を営む日本に詳しい探偵が真相解明に挑むという冒険ミステリなのですが、登場する秘密組織がたいそう特殊なこともあり、あえて今時珍しい言い回しが沢山出てきて、訳者の工夫と苦労が感じられてとても面白いです!

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【推薦者】後藤 すみよ

【推薦作品】『沈黙する教室』

【作者/訳者】ディートリッヒ・ガルスカ/大川珠季

【推薦文】   

先ずは、大川氏がこの本の翻訳を決意なさったことに感謝します。  この本は、私たちが日本で終戦後生きていくのに必死だったころ、東ドイツでも若者たちが西側に逃亡をせざるを得ない出来事が起きていたことを教えてくれました。若者たちの決意と家族の支援、そして彼らのその後。この事件はかつての日本で、そして今でも世界のどこかでまだ起こっている悲しい出来事の氷山の一角であろうと推測します。知恵と勇気で窮地を切り抜け、自由を勝ち取った若者たちとその家族にも拍手を送ります。  1950年代はまだ東ドイツでは緩やかな面もあったのでしょう。1970年代、西ドイツの国境に沿って鉄道で南下した時には、もう彼らのような手段での逃亡はできそうもない様子でした。また。ソビエト連邦国内線の機内でで乗り合わせた人々の表情が硬く、決して目を合わせてくれなかったことを思い出します。小さな子供たちもいたずらをせず、話もしなかったのが体制を表しているようで不気味でした。明るいウクライナの軍人さん達だけは例外でしたが。  乱文でまとまりませんが、大川珠季氏の「沈黙する教室」を推薦いたします。

書影

【推薦者】黒田 千穂

【推薦作品】『となりのヨンヒさん』

【作者/訳者】チョン・ソヨン/吉川凪

【推薦文】  

これは、わたしのSFでした。 この作品で描かれる世界は、現実からとても離れているのに、そこにいる人々の心に映るのは、今を生きる私たちと同じ憂鬱だったり共感だったり絶望だったり希望だったり。 日本版の装丁もとても素敵。SFだけれども、わたしのSFだ、きっとこれは。そう思って手にとりました。読み進めていくと、その期待は装丁の通り。いや、それ以上でした。まさかこんなにも励まされ、強く生きようと思えるとは思わなかったです。 チョン・ソヨンさんが紡いだ、この小説の世界に生きる人々の心の機微を、吉田さんがとても大切にしながら翻訳をされたからなのだろうと、勝手ながら感じ入りました。 素敵な小説を、送り出してくださった編集者さんにも感謝です!

書影

【推薦者】ちゃこ ママ

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田 綾花

【推薦文】

環境問題が騒がれる昨今とても良い作品に出会いました。13歳のサッシーが大人を相手に闘っていくさまや、恋愛問題も楽しく表現されていて良かったです。サッシーが歌手になるのも想像できるようなところも良かったです。続編もあると良いですね。私の推薦する1冊です。

書影

【推薦者】大橋 由香子

【推薦作品】『iレイチェル』

【作者/訳者】キャス・ハンター/芹澤恵

【推薦文】  

妻と夫、母と娘、女友達……いつか、どこかで感じたことのある様々な感情を、「自分型ロボット」という未知の存在を交えながら思い起こさせてくれる。軽くて、淡くて、じんわりきた。

書影

【推薦者】谷本 京一

【推薦作品】『銀河の果ての落とし穴』

【作者/訳者】エトガル・ケレット /広岡杏子

【推薦文】  

おかしみを胸に抱く作品です。


【推薦者】ジャム id:jamko29

【推薦作品】『失われた女の子 ナポリの物語4』

【作者/訳者】エリナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

ついに最終巻が発売されたので全力で〈ナポリの物語〉シリーズを推します!!! 読み終わるのが寂しい、と思う間もないほどに最後の最後まで波乱に満ちて濃密。ナポリという街に翻弄された、リナとリラという二人の少女の人生と友情をその老年期まで描ききった素晴らしさ。こういう物語を読みたかったんだ、ということに気付かされる。 都市と地方、リベラルとファシズム、富裕層と貧困層。二人の人生の浮き沈みに合わせて様々な女性問題を切り口を変えて見せるのも最後まで新鮮だった。そして女たちを虐げる男たちの弱さもまた、この物語はじっと見つめる。 肩を寄せ合って読んだ『若草物語』、二人で初めて学校をサボり海を目指しトンネルの中で笑いあった瞬間の尊さが忘れがたい。二人の少女とその人生と友情がテーマの大河小説。推さずにいられようか。 翻訳の飯田亮介さんにも大感謝です。物語に没頭させてくれる素晴らしい翻訳だったと思います!

書影

【推薦者】ルネ

【推薦作品】『第四世紀』

【作者/訳者】エドゥアール・グリッサン/管啓次郎

【推薦文】  

エメ・セゼール、フランツ・ファノン、フォークナー、中上健次、目取真俊ら、越境文学/島嶼文学の精髄が凝縮された小説であるばかりか、マルティニックというミクロコスモスを掘り起こせば世界文学というマクロコスモスになることを示し、現代日本語の翻訳文学もクレオール文学と共鳴しうるのだと体現してくれた逸品。

書影

【推薦者】青月 にじむ

【推薦作品】『息吹』

【作者/訳者】テッド・チャン/大森望

【推薦文】  

第1作品集『あなたの人生の物語』から、なんと17年ぶりの作品集が満を持して登場。かなりのご無沙汰なのだが、ページを開くとすぐに作品世界に引き込まれていった。冒頭に掲載された「商人と錬金術師の門」はアラビアンナイトを思わせる物語の仕立てで鏡と時の操作という要素で驚きの、しかし「ああ」と納得する結末へと導かれていく。長さはまちまちだが9作全てで、身近なものごとから思考を巡らせ、予想外の飛躍に驚きつつ、共にラストまで伴走する楽しみを私たちは味わうことになる。つまるところ、ここに描かれているのは私たちそのものなのだと感じることになるだろう。

書影

【推薦者】とり あん

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

サッシーは13歳の女の子。夢はシンガーソングライターになること。青春ぴちぴちガールのお悩みは、恋とニキビ…よりも、地球環境!ギターを片手にサッシーは歌います。「地球で生きる全ての命は尊い。地球は人間だけのものじゃない。」 この本はフィクションですが、サッシーが糾弾する環境問題は、我々の世界でも同様に起こっていることです。我々が現実の環境問題にどう向き合うか突きつけてきます。環境戦士サッシーの日常にハラハラドキドキするやら、ふと我に返れば現実の環境問題も考えさせられ、読者の心も大忙しです。 翻訳はティーンエイジャーらしい珍妙な言葉を、いきいきと表現しています。『激ウマおめざスムージー』を飲んで、青春特有のとっちらかった感情の躍動を流れるように体感できるでしょう。そして落ち着いたら訳者あとがきも読んでみてください。環境問題を少し詳しく知れます。お話を楽しみながらも色々な情報を得られるよい本です。

書影

【推薦者】文 純学

【推薦作品】『くたばれインターネット』

【作者/訳者】ジャレット・コベック/浅倉卓弥

【推薦文】  

美しく完成された小説とは真逆のくだらない現代を生きる我々と地続きの未完成文学。 こういう怒り方の文学化はアリですよね。


【推薦者】オルセニスト N

【推薦作品】『黄金州の殺人鬼 凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』

【作者/訳者】ミシェル・マクナマラ/村井理子

【推薦文】  

本書から感じる何かを突き動かそうとする信念がすさまじい。凶悪犯を絶対に明るみに出そうとする執念を持ちながら、その被害者たちがいかに自分や自分の隣人と同じようにその人生を生きていたかを描きだそうとする著者マクナマラ。凶悪さを恐れながらも、マクナマラの筆致に惹かれたとTwitterで呟いていた訳者村井氏。ただ翻訳するだけでなく、多くの資料・情報も読み込んだであろう。読者である私は、この先で何が起こるのか息をのんでページをめくり続けた。

書影

【推薦者】竹久 純雄

【推薦作品】『とんがりモミの木の郷 他五篇』

【作者/訳者】セアラ・オーン・ジュエット作/河島弘美訳

【推薦文】  

セアラ・オーン・ジュエットの代表作とされる『とんがりモミの木の郷』に加えて、同様にニューイングランドの素敵な自然・文化・習慣・日常生活・そこに住む人々の優しさなどが親しみやすく描かれた五つの短篇を読み終えて和やかな気持ちになり、この本に出会えて良かったと感謝しています。この気持ちを一人でも多くの読者と共有したいとの思いから、初めて推薦文を書くことに致しました。私が一度も訪れたことのない場所、出会ったことのない人々でありながら、私にはそれらが素直にイメージできました。小説の素晴らしさと翻訳なさった方の小説への愛着が私に伝わっているのではないでしょうか?

書影

【推薦者】宮月 中

【推薦作品】『レッド・アトラス 恐るべきソ連の世界地図』

【作者/訳者】ジョン・デイビス 、アレクサンダー・J・ケント /藤井留美

【推薦文】  

東西冷戦中のソ連によってつくられた、怖ろしいほどに詳細で、美しく正確な地図をオールカラーで堪能しながら、そうした地図たちがいかなる形で(スパイがどんだけ頑張って)作成されたに迫る一冊です。書影を見れば一目ぼれをする方もいるかと思います。 


【推薦者】まあくん 犬

【推薦作品】『犬を愛した男』

【作者/訳者】レオナルド・パドウーラ/寺尾隆吉

【推薦文】  

キューバ人作家のレオナルド・パドウーラが2009年に発表した作品。メキシコのコヨアカンにフリーダ・カーロの青い家の近くにトロツキーが住んだ家が残されているが、トロツキーは亡命の末、メキシコで暗殺されたのである。暗殺者ラモン・メルカデールの生涯とともに、史実をもとに彼らの生涯が非常にスリリングに語られている。作者の作品には、末訳のマリオ・コンデ・シリーズなどあり、他の作品もぜひ翻訳出版を期待する。


【推薦者】佐藤 弓生

【推薦作品】『方形の円』

【作者/訳者】ギョルゲ・ササルマン/住谷春也

【推薦文】  

すごく迷いましたが、もう、自分の好みで……。思いがけない展開とか伏線回収のようなドラマがなく、設定とディテールの描写だけ、単調とも禁欲的ともいえる文体だけで進められる小説を読むのは、旅行ブックガイドを読むことに似て、能動的な酩酊感(?)をおぼえます。幻想文学とは、心のドキュメンタリーなのだと思いました。

書影

【推薦者】瀧井 朝世

【推薦作品】『ピクニック・アット・ハンギングロック』

【作者/訳者】ジョーン・リンジー/井上里

【推薦文】  

伝説のカルト映画の原作が邦訳で読めるとは思わなかった。まず、企画を出版社に持ち込んだ訳者に感謝。もちろん、乾いたオーストラリアの空気や光、人々を包む不穏な空気と緊張感が伝わってくる翻訳も素晴らしかった。

書影

【推薦者】眠井 夜鷹

【推薦作品】『アルセーニエフの人生 青春』

【作者/訳者】イワン・ブーニン/望月恒子

【推薦文】  

まずイワン・ブーニンという稀有な作家の作品に触れるのに本書はお勧めです。ロシア文学の最もはかなく、美しい部分を体現しているのがイワン・ブーニンという作家なのですから。ここまで美しい文と胸を締め付けるストーリーを不可分のものとして、両立させることのできる作家を私は寡聞にして存じ上げません。 国内外問わずブーニンの本に対する偏見の中に、所詮恋愛など薄っぺらいという感想もありますし、それも一つの意見として尊重しますが、そんなつまらない作家がロシア文学として初のノーベル文学賞に選ばれ、当地で読まれ続けるはずはありません。 群像社の創立者肝いりの企画として始まった、ブーニン作品集のメインとなる作品です。訳者渾身の翻訳と共に読んでみて下さい。 ぜひ、実際に本書を手に取りページをめくってみてください。


 【推薦者】仁科 裕成

【推薦作品】『わたしのいるところ』

【作者/訳者】ジュンパ・ラヒリ/中嶋浩郎

【推薦文】

ジュンパ・ラヒリがイタリア語でつづった初の長編小説です。どれも数ページからなる46章で構成されていて、45歳の「わたし」の日常が語られます。イタリア語でもやはりラヒリはラヒリで、何気ない出来事や過ぎ去ったものごとの余韻がとても心地よいです。毎日数章ずつ大切に大切に読んでいきました。思わずページをそっとなでたくなるようなこの一冊を推薦します。

書影

【推薦者】安田 大黒

【推薦作品】『となりのヨンヒさん』

【作者/訳者】チョン・ソヨン/吉川凪

【推薦文】  

SF作家が持つ想像力と科学の知識によって、今この時に現実に打ちのめされている人にとって、ここではない世界を見せてくれる。物語の根源的なよろこびに溢れた短編集。ここで見せてくれる世界とは、ひとが自分らしく生きられる世界、ジェンダーギャップが解消され誰もが夢に邁進できる世界、ルッキズムや偏見を乗り越える世界。とてもとても優しい世界だ。『土地』など韓国の重要な文学作品を紹介してきた吉川凪の端正で読みやすい訳で、ここ数年日本で言われる「韓国文学の魅力」をさらに拡張している。私も、未読だったジェイムズ・ティプトリー・ジュニアを読んでみる。

書影

【推薦者】松尾 菜穂子

【推薦作品】『アカシアは花咲く モンタージュ』

【作者/訳者】デボラ・フォーゲル/加藤 有子

【推薦文】  

1935年にイディッシュ語で、翌年1945年にポーランド語で刊行。本書はポーランド語版の邦訳。 あえて考えようとせず言葉を瞳に滑らせ頁を捲っていると、不思議なことに自然と絵画が浮き上がってくる。 キュビズム系美術やモダニズムがお好きな方に、お勧めしたい作家である。

書影

【推薦者】Hatfefooollll 。

【推薦作品】『MDC あるアメリカン・ハードコア・パンク史』

【作者/訳者】デイヴ・ディクター/鈴木智士

【推薦文】  

2019年は「金にならないけど、俺が作りたい本」を作った自主本にトバされました。 日本でいえば白鳥千夏雄の「全身編集者」、そしてこのMDC本。 理想を掲げながら、理想に追いつけないポンコツさまで余すことなく語ったナチュラルさが、本書を本当の青春冒険譚にしてくれた。 情熱で自主翻訳してくれた訳者に感謝!

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【推薦者】らっぱ亭

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣/立原透耶/大森望/光吉さくら/ワンチャイ

【推薦文】  

ジャンルSFの枠を突き抜けてまさかのベストセラーとなった超話題作の中華SF『三体』。サイコーに面白くてキョーレツなバカSFなおかつ世界的大ベストセラーである本作を日本語で出版するには、超絶なエンタメの文法が必要だったのだなあと納得の翻訳。サスガだなあ。

書影

【推薦者】ツルバミ ハジメ

【推薦作品】『房思琪の初恋の楽園』

【作者/訳者】林 奕含/泉京鹿

【推薦文】  

最初、よくある告発もの、ラ・マン的なものだと思った。読んでみて大間違いだとわかった。次々移っていく人の視点や読者が入り込んでいく感情。瑞々しい少女の心からゲス男の欲望、絶望する女、何も知らない心、それが継ぎ目なく押し寄せてくる。 この翻訳は本当に難しかったと思う、それくらい継ぎ目がない、なのにどこからどこまでがその人物かが違和感なく目に滑り込んでくるのだ。 この作者の中に入って言葉を探すだけではなく、そこにいる人物を引っ張り出す作業を延々と繰り返す翻訳。 これが邦訳されたことは喜び以外のなにものでもない、台湾で自己紹介もできない私が、独特の比喩や、多くのなじみのある文学までがちりばめられたこの贅沢な小説を読むことができる。彼女達のように。 けれど、もうこの作者の新作を待つことはできないのだ。 最初にこの本を告発本ではないと言ったが、やはり告発だった。 彼女が触れた多くの素晴らしい名著も、彼女が遺したこの作品も、人を全面的に救うことはできないのだ。 


【推薦者】手白 球彦

【推薦作品】『海の乙女の惜しみなさ』

【作者/訳者】デニス・ジョンソン/藤井光

【推薦文】

あきらめと自暴自棄とほのかな絶望、そのすべてがユーモアの膜に包まれて微かに輝いて見える。 

 


【推薦者】ハト 牧場

【推薦作品】『方形の円 偽説・都市生成論』

【作者/訳者】ギョルゲ・ササルマン/住谷春也

【推薦文】  

ルーマニア出身の建築士が書いた36の架空の年の物語。それだけでそそられるが、帯と解説が酉島伝法人だ。益々そそられる。本を開くと心擽る都市名が並び、ごく短い各話のタイトルには作者自身が描いた都市のイメージアイコンがあって(これもまた作者から読者への翻訳の一つである)、それを眺めながら読者は滅びゆく都市を俯瞰的に眺めたり、はたまた共に都市に挑んだり、その都市に入ってみたいなどと思う。それは架空の、ともすれば重力すら無視して、だが整然と機能するリアリスティックな都市の生き様である。そうしてこれは見てみたいだのここは御免だなどと思いながら様々な都市を眺めているうちに、読者は不思議な気分に襲われる。これは違う次元に実在する、実は本当にある都市なのではないか?我々は作者によってその姿を一瞬垣間見させられているだけなのでは?専門家のリアルに裏付けられた架空の都市の物語、是非埋没するように味わって欲しい。

書影

【推薦者】三辺 律子

【推薦作品】『息吹』

【作者/訳者】テッド・チャン/大森望

【推薦文】  

最初から最後まで、感情と思考を刺激され続けた。一つとして外れがない!と書こうとしたけれど、そうじゃない。全作が傑作の短編集! アラビアンナイトふうの『商人と錬金術師の門』で心掴まれ、『息吹』の設定に驚き、『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』ですでに一度泣きそうになって(本で泣くことは滅多にないのに)、そして次の……あー、もう字数がないので、あとはぜひ読んでください。読んでいる間、高揚し続け、幸福感を味わいつづけた一作!

書影

【推薦者】豊崎 由美

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー /古屋美登里

【推薦文】   

ロンドンに旅行した人の多くが足を運ぶ、マダム・タッソーの蝋人形館。『おちび』は、その稀代の女性の生涯を虚実のあわいに描いた長篇小説だ。1761年にスイスのアルザスの小さな村で生まれ、1850年にロンドンで死去。アンネ・マリー・グロショルツという名の少女が、マダム・タッソーと呼ばれるようになるまでの長い年月が、これほど波乱に満ちていたとは! 驚異の連続といってもいい生涯なのである。  史実と空想、実在の人物と虚構の人々が混ざり合う、愛と喪失を描いた無類に面白い物語の中、作者のケアリーは、マリーの目と手を通して〈生と死のあわい〉にあり、すべてをありのままに写しとってしまう蝋人形の魅力のすべてを伝えることに成功している。巻末に付された、訳者渾身の解説を読めば、作品理解はさらに深まるはず。  ケアリーの作品を訳し(愛し)続けてきた古屋美登里の翻訳文は、ケアリーに触発され、ケアリーと共に作り上げた日本語なのではないか。もはや他の訳者は考えられない。そんな稀有なパートナーたる古屋さんに見つけてもらったケアリーは果報者とすら思う。

書影

【推薦者】0141 8931

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

読み口が軽快で最後までスラッと読み終える事も出来ながら、思春期独特の人間関係の苦悩・家族とのいざこざ・自分探し…といった様々な要素を存分にはらんでいて、読む度に心の何処かしらに何かが引っかかるような、そんな内容に仕上がっている。 訳者自身が「エコ戦士」(本編中の表現を拝借)であり、本書の主幹として取り扱っている環境問題に対する造詣も深い。それ故に、登場人物の感情や行動、そしてその周辺に佇む空気感をよりリアルに、まるで目の前に息衝いているかのように表現出来ているのではないかと感じた。それは主人公のサッシーだけでなく、その周りの人物たちの事も然り、である。 本書は訳者にとって初の翻訳本との事だが、これも自らの信念に対してサッシーの如く「大まじめ」に向き合った結果の賜物だろう。この作品が多くの人の若者の手に渡り、その人たちの「大まじめ」なアクションを生み出す、あるいは後押しする種となる事を願う。

書影

【推薦者】松井 ゆかり

【推薦作品】『とんがりモミの木の郷』

【作者/訳者】セアラ・オーン・ジュエット/河島弘美

【推薦文】  

だいたいにおいて翻訳書といえば、選考委員の方々の手がけられたものを読むことが多いです。そのため「あれも対象外、これも対象外」となって推薦できる作品がないかもとあきらめかけましたが、この本がありました。セアラ・オーン・ジュエットという作家、いちおう英文学科の学生だったというのにこの歳になるまで名前も聞いたことがなかったのですけれども、書店で偶然手に取ってよかったです。いわゆるふつうの人々のささやかな人生がきらきらと輝くように描写される短編集、ヘンリー・ジェイムズやキプリングの絶賛も納得の一冊だと思います。翻訳についてどうこう言えるような身ではありませんが、飾り気のない自然な訳文によって原作の味わいが再現されているように感じられました。

書影

【推薦者】笠井 康平

【推薦作品】『憑依のバンコク オレンジブック』

【作者/訳者】ウティット・へ―マムーン+岡田利規/福冨渉・他多数

【推薦文】  

本書に含まれる「翻訳」の成分量は、常人が1日で摂取するには危険な用量に達していて、近代の西洋芸術から現代タイ文化へ、個人の著作物へ、上演テキストへ、集団的身体と空間の総合表現へと、あらゆる翻訳過程の交錯がめまぐるしい。書誌を引くことさえひと苦労だ。本書は、2019年に上演された演劇作品『プラ―ターナー:憑依のポートレート』の製作記録に、戯曲、上演記録、現地ガイド、論考、対談、地図までを加えた「医療用医薬品品質情報集」だ(と称する)。「制作チーム」には7名の翻訳者が記名される。その演劇作品は、2団体の助成と9機関の協力で、バンコク在住の作家ウティット・へ―マムーン(1975-)が2017年に刊行した長編小説をもとに、岡田利規(チェルフィッチュ)や塚原悠也(contact Gonzo)ら31名の制作陣に舞台化された。「すごく・たくさんの・あなた」が、そこかしこで分断を乗り越えた証みたいな本だ。


【推薦者】石井 りえ

【推薦作品】『ある協会』

【作者/訳者】ヴァージニア・ウルフ/片山亜紀

【推薦文】  

ヴァージニア・ウルフの初期短編の邦訳初出版。奇想天外なガールズ冒険小説。原書の面白さはもちろんですが、訳文が素晴らしい。時代感をしっかり落とし込みながら、それを超えるリアリティを立ち上げ、生き生きと筆を動かすヴァージニアの姿が目に浮かぶほど。ユーモアとアイロニーのバランスが絶妙なのは、底を流れる思想をしっかりおさえているからではないでしょうか。解説・注釈も充実して読み応えがありました。 


【推薦者】金平 肉桂

【推薦作品】『男らしさの終焉』

【作者/訳者】グレイソン・ペリー/小磯洋光

【推薦文】  

ポップな装丁と、帯に書かれた【「男」に悩むすべての人へ】というフレーズを見て、即買いした一冊。 著者のグレイソン・ペリーは、1960年イギリス生まれの現代アーティストで、トランスヴェスタイト(女装者)としての顔も持っている。本書では、世の中にはびこる伝統的な「男らしさ」が、個人や社会にどのような害を及ぼすのかについて、著者自身の体験も交えながら考察していく。 男性たちは、従来の「男らしさ」を疑い、自分が何に苦しめられているのかを、自覚するところから始めていかなくてはいけない。本書は、ジェンダーの問題を他人事ではなく、自分自身のこととして捉え直していくための入門書でもある。ペリーの描くウィットに富んだイラストも楽しい。 訳者は小磯洋光氏。『オープン・シティ』ではテジュ・コールを、そして今回はグレイソン・ペリーというユニークな作家を紹介してもらい、ありがたく思っている。

書影

【推薦者】戸田 光司

【推薦作品】『七つのからっぽな家』

【作者/訳者】サマンタ・シュウェブリン/見田悠子

【推薦文】  

「そんなんじゃない」という短編が傑作だと思うので推薦したい。人の家に侵入し、家具をいじったり散らかしたりする奇行癖を持つ母。そんな母に辟易しつつもなぜか付き合う娘である「わたし」。それだけなら凡百の小説だろうが、砂糖壺を母親の唯一の形見として持つ女主人が登場して、これが大変良い。どうしてそれが唯一の形見となったのか。女主人の家は新しく大きい。以前の生活を忍ばせるものはない。もしかしたら「わたし」と同様、女主人の母娘関係も歪なものだったのではないか。「わたし」が砂糖壺を取り返しに来た女主人に対し、自分で探せと言ったのは、自身の母娘関係に対しての決着、清算を示唆しているのではないかと感じる。結末について誰かと議論したくなるような、そんな興奮を感じた作品だった。


【推薦者】冬猫

【推薦作品】『プラヴィエクとそのほかの時代』

【作者/訳者】オルガ・トカルチュク 小椋彩

【推薦文】  

架空の村を中心に創世から激動のポーランドの20世紀が描かれている。昨年秋発表された2018年ノーベル文学賞受賞者で、それ以前の『昼の家、夜の家』『逃亡派』も素晴らしく、受賞後、同じ翻訳者の小椋彩さんのしなやかで流れるような言葉で強い意志を持つ物語が紹介されたことに感謝です。 


【推薦者】中務 秀子

【推薦作品】『オーバーストーリー』

【作者/訳者】リチャード・パワーズ/木原善彦

【推薦文】  

環境問題をテーマにした小説、というと、現代ではどうしても政治性を帯びてしまいますが、この小説にはもっと奥深い物語性があります。 根、幹、樹幹、種子の4つの章から成るこの作品には、さまざまな樹木と深い関係を持つ9人の人物が絡まり合い、動き出し、変化し、何かのひとつの目的をもった生き物のように、網の目に似た関係を形成してゆきます。 「生命は未来へ話し掛ける方法を持っている。それは記憶と呼ばれる」と本文にありますが、幾度も失敗し、死に(象徴的にも)、再生する登場人物たちの物語は、それぞれの記憶でもあります。その物語の繋がりは、誰もが単独では生きてゆけない、周囲の世界と行き来しながら、それぞれがそれぞれの仕事を果たすのだ、ということを、未来に語りかけているのだと思いました。素晴らしい物語でした。

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【推薦者】いちじく こゆき

【推薦作品】『ビーガンという生き方』

【作者/訳者】マーク・ホーソーン/井上太一

【推薦文】  

現在広まっている「ビーガン」とは何かを、やさしく解説した良書。ビーガンの核心である動物保護の思想に始まり、人権や環境への配慮まで、幅広いトピックを取り上げている。 こういった書籍にしては珍しく、翻訳は文学作品なみにこなれていて、笑いのツボも、気の利いたレトリックも見事に訳している。これだけ多様なトピックに言及した本を、これだけのクオリティを保って翻訳し、適切な箇所で注釈を加え、読者の理解を深める素晴らしい解題を書いた訳者の技量に感嘆させられる。 そして「veganism」に当てられた「脱搾取」という訳語。これは訳者・井上太一氏の創作らしいが、ちまたで通用している「完全菜食主義」や「絶対菜食主義」などという言葉よりも、はるかに正確にビーガンの本質を言い当てている。翻訳というのはただ単に他国の概念を輸入するだけでなく、その本質を捉えた新しい母語の表現を生む創造的な作業なのだということを再認識させられた。

書影

【推薦者】増田 耕一

【推薦作品】『地磁気の逆転』

【作者/訳者】アランナ・ミッチェル / 熊谷 玲美

【推薦文】  

「チバニアン」として話題になった約77万年前の地質時代画期は、地磁気の向きが変わった「松山・ブリュン境界」なのだ。著者はブリュンの後任の教授に案内されて、ブリュンが1905年に地磁気が逆向きだった証拠を見つけた場所をおとずれる。科学史をたどり、地球が磁石であると論じたギルバート、世界の地磁気観測網をつくった人びと、電気と磁気の関係を実験で示したエルステッドやファラデーも出てくる。そして現代、地磁気は地球中心核の流体運動でつくられることがわかった。それで逆転を説明することはできるが、予測はまだむずかしい。電力や電気通信に依存している現代社会は、地磁気が逆転に向かって弱まったときに起こりうる事態にそなえておいたほうがよいだろう。訳者はかつて地球電磁気学を学びオーロラの観測に行った人で、いまは多様な科学読みものを翻訳している。この話題をこの訳者の日本語訳で読めるのはうれしい。 


【推薦者】s maity

【推薦作品】『短編画廊 絵から生まれた17の物語』

【作者/訳者】ローレンス・ブロック編/田口俊樹ほか

【推薦文】  

1枚の絵を前にして鑑賞する時間はせいぜい10秒程度と言われている。(キャプションや解説文を読む時間は除いて) エドワード・ホッパーの絵を題材に、アメリカの作家たちが想像(妄想)を広げた短編小説集。1枚の絵に、作家や翻訳者たちはどれくらい時間をかけて観たのだろう? 私は普段、美術館のなかであらぬ妄想をすることを楽しんでいる。他人には心が読み取れないことを良いことに。 こんな楽しみ方を真っ向から肯定してくれた作品集。 


【推薦者】良尾 弍亜

【推薦作品】『インスマスの影 ―クトゥルー神話傑作選―』

【作者/訳者】H・P・ラヴクラフト/著  南條竹則/編訳

【推薦文】  

やっと出たまともな邦訳。 近年出た他の邦訳と違い、翻訳者に基礎教養があるので安心て読める上に、読みやすい日本語なので誰にでも勧めやすい。

書影

【推薦者】益岡 和朗

【推薦作品】『娘について』

【作者/訳者】キム・ヘジン/古川綾子

【推薦文】  

韓国文学を読んでいると、本当に、人々が悩んでいること、苦痛に思っていることが日本とそっくりであると感じる。この小説の描写には特に、その思いを強く感じさせられた。 また、自らの「生きづらさ」に抗い続けてきた主人公が、その一方で、同じように生きづらさと向き合い戦っているはずの同性愛者である娘を受け入れられないという、その複雑な人物描写にも深く感じ入った。

書影

【推薦者】とかげ あお

【推薦作品】『隠された悲鳴』

【作者/訳者】ユニティ・ダウ/三辺律子

【推薦文】  

読書というのはまったく新しい世界に触れさせてくれる、あるいはまったく知る機会のなかった現実を突きつけてくれる、貴重な機会であることを思い知った作品。最後まで気が抜けない。そして読み終わっても、この世界に生きる人間として、なにがしかの責任を分け与えられたような気持になる作品。


【推薦者】しば たろう

【推薦作品】『年上のひと』

【作者/訳者】バスティアン・ヴィヴェス/原正人

【推薦文】  

グラフィックノベルがきている、と噂には聞いていた。何冊か持っていたのだが、日本漫画に親しみすぎたせいで、なかなか読むまでいたらなかった。色づかいも左右の開きも文字の縦横も、すべて勝手がちがうのだ。そんな迷える読者に愛の手を差し伸べてくれたのがこの一冊。 日本漫画の形式にかなり近いし、何より主人公の少年が憧れる「年上のひと」が魅力的すぎる。ちょっとふてくされたようないけてる女子の台詞が、もともと日本語で書かれたんじゃないか? と思えるくらいに自然で、ページを繰る手が追いつかなかった。この作品をきっかけに、グラフィックノベルへの扉が開いた。わたしにとって2019年最大のヒット作かもしれない。

書影

【推薦者】武内 空

【推薦作品】『その証言,本当ですか?: 刑事司法手続きの心理学』

【作者/訳者】ダン・サイモン/福島 由衣

【推薦文】  

特筆する点は、証拠の採用に関する精度が余りにも低いことを認知心理学の実験などで示していること。陪審員制度では85%の精度であれば平均的に有罪として扱われるようだ。学術上は95%とある以上、この差は非常に制度の欠陥がある。昨今日本の裁判過程の問題をあげつらう指摘があるが、この書の捜査過程を見る限り、大差あるとは思えない。違う点があるならば、やはり記録を残す意識と取調室への監視カメラは必須ということではないか

書影

【推薦者】あま やどり

【推薦作品】『娘について』

【作者/訳者】キム・ヘジン/古川 綾子

【推薦文】  

日本にはまだなかなかないLGBTにおける現代社会での生き抜き方について極めて現実的に書かれている本。偏見だらけの社会(親)から育ったレズビアンの娘。ありのままの自分を生きていきたい娘とそれを許したくない親。こんな題材はなかなかない。LGBT当事者の私も興味深く読んだ。個人的に他の人の目にたくさん触れてほしくて市の図書館にもリクエストしただいま貸し出されている。現代社会のしがらみにとらわれているあなたや、それを脱出して行きたいあなたへ。

書影

【推薦者】メラー はるか

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン /松田綾花

【推薦文】  

こんなに読みやすい環境問題の本に初めて出会いました。 取り上げられているテーマは正に今の人類が直面している問題ばかりで、真剣に考えなければならない事がこれ程にもあることに気づかされました。 なんとなくわかっているつもりでも、わかっていなかったことが多く、とても恥ずかしくもなりました。 環境問題がテーマの本と聞くとなんだか身構えてしまいがちですが、この本はそんな敷居の高いものではなく女の子の日常を描きつつ問題提起をしているのでどんな人でも読みやすいのではないでしょうか。 普段本を読むのが苦手な私でも、どんどん内容に吸い込まれ、あっという間に読みきっていたのには自分自身驚きを隠せません。 続編も訳されることを期待しています!

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【推薦者】マイナー スレット

【推薦作品】『MDC あるアメリカン・ハードコア・パンク史』

【作者/訳者】デイヴ・ディクター/鈴木智士

【推薦文】  

日本語ではまず読むことのできない、アメリカのハードコア・パンクというアンダーグラウンド音楽について、MDCというテキサス出身の最古参バンドのメンバーの自伝というかたちで、70年代後半から今に至るパンクスたちやシーンのことを詳しく知れたのがよかった。今や反トランプのデモでの掛け声の代名詞となった「No Trump, No KKK, No fascist USA」というコールも、このバンドの曲名から取られたものだという事実も興味深い。

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【推薦者】村上 芳子

【推薦作品】『カッコーの歌』

【作者/訳者】フランシス・ハーディング/児玉敦子

【推薦文】  

間に合わせの材料で作られた体ながら限られた命で精一杯生きようとする主人公の切なさにまず引き込まれました。どんなに辛い目にあっても納得の行かないことには屈しない幼い妹は敵にまわすと本当に手強いですね。誰が見方かわからず、破滅しか考えられないピンチでも活路を見いだして生き延びようとする姉妹は本当に逞しかった!社会的立場がないに等しく不利な状況なのによく頑張りました。頭の中で物語が歌のように流れて行く感じを受けました。この歌の続きがまた聞けたらと思います。

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【推薦者】je an

【推薦作品】『三つ編み』

【作者/訳者】レティシア・コロンバニ/齋藤可津子

【推薦文】  

一気読みしてしまうほどおもしろかった。 まったく異なるそれぞれの世界が映像のように浮かびあがってきた。 3筋の川の流れが最後に大河に流れ込んでいくような見事なエンディングだった。

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【推薦者】高柳 香

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣 /大森望, 光吉さくら, ワンチャイ

【推薦文】  

翻訳小説を愛するSFバカの一人として、「三体」を推薦する。この一年で最高の喜びを与えてくれたエンタメ小説だった。 渇望を癒してくれた訳者・出版社を讃えたい。 全世界でベストセラーの中国SFがあるとSF好きの話題をさらって何年だろう。「オバマ絶賛」のニュースもあり、なぜ邦訳が出ないのか願望と憶測が乱れ飛んだ。大作過ぎてとても邦訳を出せないらしいと聞き、諦めていた昨年。 「三体」は出た。しかも 立原透耶氏監修、 大森望氏翻訳。最高で、そしてなんと大胆な試みだと思った。 中国語版と英語版両方を底本とした邦訳は原典重視ではないと軽視されるのではないかとも思う。しかし関係者は果敢に「三体・日本語版」を世に出してくれた。困難な出版をコーディネイトした日本SFの本丸・早川書房と共に、その偉業に敬意を表するものである。

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【推薦者】八木 ひろ子

【推薦作品】「美容師」(『ポルトガル短編小説傑作選』より)

【作者/訳者】イネス・ペドローザ/後藤恵

【推薦文】  

長い独白でありながら、美容師の女性の声がしなやかに、軽やかに淡々と語られ、そうしたテンポの良い語り方からは、女性の中にこちらから安易に入り込めないような、なお抑制され続けている過去の深い悲しみが想起させられ、圧巻の文章でした。

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【推薦者】杉山 眞弓

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣/大森望

【推薦文】  

翻訳の意義のひとつが、原語が読めない読者に母国語で作品を味わえるようにすることであるなら、この作品をあげないわけにはいかないだろう。中国のSFに馴染みがなかった読者にも新たな世界をひらいてくれただけでも、本作品や訳者の功績は大きい。

書影

【推薦者】ぼっぼろ

【推薦作品】『カッコーの歌』

【作者/訳者】フランシス・ハーディング/ 児玉 敦子

【推薦文】  

薄気味悪い絵本のような序盤から、嵐のように物語が駆け出して大嫌いな相手が誰よりいとおしくなる心の変遷が素晴らしかったです。(毛布使いのなんと優しいことでしょう!)表紙の禍々しさからは想像できない光に満ちたラストの言葉が宝石のようです。

書影

【推薦者】つむり つむろ

【推薦作品】『マーダーボット・ダイアリー』

【作者/訳者】マーサ・ウェルズ/中原尚哉

【推薦文】  

過去に大量殺人を犯した殺人ロボットが記憶を消されて警備ロボットとして働く短編集、と聞くとシリアスダークな雰囲気に思えますが、この作品はひと味違います。ドラマ鑑賞が趣味で、出来る限り働きたくない対人恐怖症気味の主人公の“弊機”が「人間になんてなりたくない」と思いながら、宇宙での出会いによって少しずつ変わっていく様子を描いたエンターテイメント作品です。この作品、主人公の名前はなく、自称は“弊機”と翻訳されているのですが、それがこの本の魅力を高めるのに一役買っています。機械的な単語でありながら言動が人間的なそのギャップにやられました。

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【推薦者】haunted library

【推薦作品】『エレベーター』

【作者/訳者】ジェイソン・レナルズ/青木千鶴

【推薦文】  

ヒップホップを詩、物語へと昇華させるという独自のスタイルで、文学の可能性を大いに感じさせてくれる一冊でした。主人公は、殺された兄の復讐に向かおうとする少年ウィル。エレベーターを舞台にした、わずか1分間のストーリー。悲しみ、怒り、恐怖、困惑といったウィルの感情が言葉に乗り、音楽のように響いてきて、心がふるえました。原文の雰囲気やリズムを見事に表現した翻訳もすばらしかったです。これはいま読まれるべき、そして訳されるべき作品だと思いました。

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【推薦者】ぴょん はま

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー/古屋美登里

【推薦文】  

「おちび」と呼ばれた召使い、後に蝋人形館で有名になるマダム・タッソーの数奇な人生と歴史に残る大冒険。 本書は実在の人物の手記の体裁でフランス革命期のパリを描き、ノンフィクションかと見まがうリアリティーを保ちながら、しかもケアリー独自の物語世界を構築している。 600頁近いが、すっかり引き込まれてしまい、ワクワクしながら文句なしに面白く読んだ。 エドワード・ケアリーの長年の理解者である古屋美登里さんの訳文は信頼でき、しかも日本語として美しくよどみがない。海外文学の世界に遊ぶ楽しさを日本語で堪能できるたぐいまれな本であり、この感動は広く共有したい。

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【推薦者】yamano miyokosan

【推薦作品】『失われた女の子(ナポリの物語4)』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

一昨年も、昨年も、『ナポリの物語』を推薦しようと思いながら、4部作が完結するまで、とじっと我慢していました。合計でなんと、2183ページにものぼる分量を、ペースも質も落とすことなく黙々と疾走しつづけた翻訳者の飯田亮介さんの忍耐力と持久力、そして、登場人物の女性たちになりきって(!)これだけの分量の物語をよどみなく読ませる日本語に仕上げた力量とセンスに敬意を表します。これからもどんどん、「新しいイタリアの文学」を紹介してください。楽しみにしています。本国イタリアではもちろん、欧米諸国では大ヒットになっているというのに、日本ではそれほど話題になっていない『ナポリの物語』四部作に、然るべき注目を!という思いも込めて。

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【推薦者】A Mic

【推薦作品】『失われた女の子(「ナポリの物語」シリーズ)』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ / 飯田亮介

【推薦文】  

ナポリの貧困地域出身の女性ふたりを、子ども時代から描いた物語の完結編。そのうちのひとり、エレナを語り手としています。登場人物が絡み合ってさまざまなドラマが生まれていきます。そのドラマ自体も面白いのですが、なによりエレナの生々しい感情の描き方に惹かれました。これだけボリュームのある物語を訳された飯田亮介さんも素晴らしいです。

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【推薦者】黒 あんず

【推薦作品】『フェリシア、私の愚行録』

【作者/訳者】ネルシア/福井寧

【推薦文】  

18世紀リベルタン文学の粋!とにかく自分最高!かわいい!と自信満々の女フェリシアが、恋するでもなく悩むでもなく明るく放埓に事に及びまくるだけの話で最高に面白かった。近代小説が完成する以前の適当で脱線しまくりなトボけた小説の魅力が思う存分味わえる。現在から読むとある種のフェミニズムとすら言えるかもしれない。精神ノット崇高、物質最高!

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【推薦者】ねこの ピート

【推薦作品】iレイチェル

【作者/訳者】キャス・ハンター/芹澤恵訳

【推薦文】  

電車の中で本を読みながら泣いたのは実に『東京タワー』以来であった。AIには「得体のしれない恐ろしいもの」「いつか仕事を取られる」といったネガティブな印象を持ちがちだが、この話は心がほんわかとし、温かい涙が目からあふれた。家に帰って夫と子供を抱きしめてしまった。

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【推薦者】makura uda

【推薦作品】『波』

【作者/訳者】ソナーリ・デラニヤガラ/ 佐藤 澄子

【推薦文】  

弾き飛ばすような文章で、それでいて、せまってくるというか、すごい文章です。 報道映像の動的なものよりも、巨大な水の塊が頁をめくるごとに現れて、衝撃を受けました。津波が一瞬だったんだと体感して、大変恐ろしかったです。 震災を報道で外から見ているのとは全く違う、中心の内側の体験を知ることができました。 


【推薦者】ユミ シノ

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】ハリー・スタック・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平訳

【推薦文】  

第7章、パラノイアに憑かれた青年とサリバンの会話。緊張を孕んだ二人の会話の「間」が印象的だった。慎ましさというか… 精神病理学という大きな学問を、「私記」によって描き出そうとするのだから、相当な胆力があったんだろうと思うけれど、それに反した静けさのようなもの。第9章、赤いカンテラから逃げるように帰ろうとする少年の独白もよい。 たしか40年くらい前、伝記Psychiatrist of Americaが出版されたとき、たった一人の医者のまわりにルーズベルトとかルース・ベネディクトみたいに戦後アメリカを決定づけた人たちが集まっていたことが(驚きをもって)話題になった記憶がある。おそらく精神科医として優秀だったからなんだろうけれども、そのころに翻訳されていたのは技術的なものが中心だった。『私記』の翻訳は記念碑的なものだと思う。 ―書いていて、キング牧師がたしか死ぬ直前、自分がやろうとしていることを「この社会に対する精神医学なんだ」と言っていたことを思い出した。

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【推薦者】black mamba

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣/大森望

【推薦文】  

SFにとっつきづらさを感じている人にこそ読んでほしい。 本作はSFでありながらもSFというジャンルの枠内でのみ評価されるだけでなく、面白い小説として最高水準であると思う。 よって個人的には、面白いSFとしてではなく面白い小説として本作を強く推したい。 しかし上記と矛盾するが、本作を機にSFというジャンルがもっと人々の身近なものになって欲しいとも思う。 この相反する二つの思いが実現することを、本作はやってのけるであろう。

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【推薦者】長瀬 海

【推薦作品】『プラータナー 憑依のポートレート』

【作者/訳者】ウティット・ヘーマムーン/福冨渉

【推薦文】  

ある芸術家の半生を描きながら、タイという国の抱える、切実な、政治的問題を映し出す。生と性と政治のはざまで揺れ動く個人の苦悩を、つまり、その実存を、唸るようなエクリチュールのなかに押し込み、一文字一文字に不思議な緊張感が走る。アートとは何か、文学とは何かを問う、同じアジアに生きる私たちにも大切な一冊。 


【推薦者】三月 さん

【推薦作品】『思考と意味の取扱いガイド』

【作者/訳者】レイ・ジャッケンドフ/大堀壽夫、山泉実、貝森有祐

【推薦文】  

言語学・概念意味論の大御所、ジャッケンドフの到達点。意味や概念は「無意識に隠されて」いて「取っ手」を使うことで、初めて操作することができるという刺激的な議論。私がとくに面白かったのは、二重過程理論(「速い認知・直感(システム1)」と「遅い認知・合理的思考(システム2)」)の進化的な説明になり得ること。ジャッケンドフはシステム1も2も「見えない意味(概念)」にアクセスする方法が質的に異なるわけではなく、ひとつの「取っ手」による直感だけで済ませる段階から、複数の「取っ手」を組み合わせて意識的に操作できるジーン(おそらく言語)を進化で獲得したため、高々数千年というスピードで合理的思考を深め、その範囲を爆発的に広げることが出来たのだと言っているように思います。翻訳は堅すぎずジャッケンドフのユーモアも感じられます。出来れば何年もかけず早く出版して欲しかった。

書影

【推薦者】グリスの ギター

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】古屋美登里

【推薦文】  

おそらく作者のケアリーにはケアリー節というものがあって、それを日本語にとてもうまく置き替えているのだろうと思わせる訳です。リズムもよく、物語は澱みなく進んでいき、読む手を止めることはなかなかできません。さらにひとつひとつ吟味された言葉がこの物語に確かな骨格を与えています。

書影

【推薦者】はらぺこ あおむし

【推薦作品】『失われた女の子 (ナポリの物語 4)』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

1作目『リラとわたし』を読み終わった時から、常に続きを待ち続けたシリーズの完結巻。登場人物、特に私はレヌーに感情移入し、ずっとこれは私の物語だと思いながら、感情を動かされ続けました。自分のあまり好きではない部分、自意識やプライドの高さ、嫉妬心、劣等感などをまざまざと見せつけられるからかもしれません。また、特に4巻目は彼女らに降りかかることも、異なる時代、異なる国のことなのに、自らの体験と重ねてしまうところもありました。没頭させてくれる小説を読んでいる最中の幸せな時間を与えてくれたこの作品に感謝しています。

書影

【推薦者】冬乃 くじ

【推薦作品】『南京 抵抗と尊厳』

【作者/訳者】阿壠/関根 謙

【推薦文】  

1937年の南京戦の群像を迫真の筆力で描いたルポルタージュ形式の小説。1939年に書かれ、1940年に最高傑作の評を受けるも、時代が求める戦時小説ではなかったため出版不能となった。それは中国軍の無策や日本兵の悔悟の自殺などの描写をためらわなかった、軍人・阿ロンのリアリズムの姿勢を証明するものである。その後、戦乱の中で30万字に及ぶ原稿は失われる。執筆用ノートに書かれた14万字の断片が、阿ロンが反逆分子として逮捕された際に没収され、極秘文書として保管されたために難を逃れた。この14万字は半世紀のち中国で正式出版されたが、日本兵が矛盾に苦しむ描写が削除され、現在もそのままである。今回の2019年邦訳では補完することができた。それだけでも出版意義は大きい。完全版でないにも関わらず、生々しい戦争の記憶と憤懣やるかたない熱情によって書かれた本稿は圧倒的な傑作であり、必読の書である。それだけに、失われた30万字が惜しまれてならない。

書影

【推薦者】かごとも

【推薦作品】『ハバナ零年』

【作者/訳者】カルラ・スアレス / 久野 量一

【推薦文】  

電話はキューバで発明された!? その証拠となる文書の所在をめぐり、1993年、経済恐慌下のハバナで繰り広げられる金と名詈、色恋絡みの出し抜き出し抜けの狂騒曲。 出て来る男は揃いも揃って不実でロクデナシの嘘吐きばかり。そうのたまう数学者のヒロインのジュリアも存分にロクデナシで…。 物語の中盤以降、不実な男どもに翻弄れて、いよいよ文書の行方は謎に包まれ、頁をめくる手が止まらない! キューバ出身の女性作家による、ラテンアメリカ文学の新風を感じさせる一冊。

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【推薦者】BECHA ☆

【推薦作品】『クロストーク』

【作者/訳者】コニー・ウィリス/大森望

【推薦文】  

携帯電話会社に勤めるブリディは出世頭のトレントとお互いの気持ちを更に分かり合えるようになるという脳外科手術EEDを受ける。 プライバシーゼロの暑苦しい家族や内緒話がナノレベルで拡散する職場(笑)の怒涛のような会話を掻い潜る日々は読んでいるこちらも眩暈がしそうw。 手術後24時間程度で互いの心を感知できるようになるはずが、ブリディに聞こえてきたのは思いもよらない声だった。 大森さんの訳が良いのか、コニーさんの文が合うのか、物凄く読み易くて楽しかった。

書影

【推薦者】くみ くみ

【推薦作品】『おやすみの歌が消えて』

【作者/訳者】リアノン・ネイヴィン/越前敏弥

【推薦文】  

ある日突然じゅうげき犯が学校に来た。ザックはかくれて助かったけど、お兄ちゃんのアンディが亡くなった。その日から毎晩ママが歌ってくれていたおやすみの歌も消えてしまった。悲しみのあまり変わり果てた両親、それに伴う生活の変貌にザックはついていけず、アンディを失った寂しさと共に二重三重に苦しむ。しかしザックはお兄ちゃんのクローゼットを秘密基地にし、気持ちを色にして整理していく。苦しみを乗り越えるために。アメリカで多発する銃による事件を6歳の少年の視点から当事者の恐怖、家族を亡くした親の深い悲しみ、世間の好奇の目、それでも続いていく日々がとても素直に、時にもどかしく語られていく。子どもの語りらしく、ことばも、漢字とひらがなのバランスもよく考えられた名訳で、それだけに胸を突かれる場面が多数あった。大人こそこのザックに教えてもらうことが多いだろう。忘れられない1冊がまた増えた。

書影

【推薦者】山口 アリーマ

【推薦作品】『ディオゲネス変奏曲』

【作者/訳者】陳浩基/稲村文吾

【推薦文】  

本格推理からホラーにファンタジー的な寓話まで、色とりどりな話が楽しい。単なる雑然としたアンソロジーではなく、クラシックの楽曲になぞらえて緩急をつけた並び順で、サブタイトルも楽しい。あとがきで、それぞれの作品にBGMまでつけてくれているサービスぶりで二度美味しかった。

書影

【推薦者】原田 勝

【推薦作品】『世界のはての少年』

【作者/訳者】ジェラルディン・マコックラン作/杉田七重訳

【推薦文】  

スコットランドの西沖合にあるセント・キルダ諸島。18世紀、海鳥を獲るために、荒れた海にそそりたつ岩礁に渡った九人の少年と三人の男たち。迎えに来るはずの船が来ず、取り残された十二人は……。そうした出来事があったのは記録に残っているのですが、あとは作者の想像力全開で、彼らの限界状況での行動や心の内が描かれていきます。マコックランの二度目の英カーネギー賞受賞作。これが児童書・YAなのかと思うほどハードな作品。杉田さんの翻訳は、この特異な物語を、奇をてらわず、とても読みやすくてリズミカルな日本語で再現しています。

書影

【推薦者】まるふぉい 先生

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

エコについて考えさせられる作品だった。 自分では想像もつかなかった方法で環境を良くできることが知れて実践したいと思った。 翻訳のワードセンスで楽しくて読みやすかった。

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【推薦者】oldman

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣/大森望

【推薦文】  

スゲェ!! 久し振りに本当に久し振りにSFに填まりまくった。物語はいきなり文革のど真中から始まる。惨殺される高名な物理学者、人に人類に絶望するその娘文潔。極秘裏に動く巨大プロジェクト。やがて頻発する世界的な学者達の自殺!謎のVRゲーム「三体」とは何か? 裏で蠢く三体協会とは! 入院中とはいえ、400頁余りを一気読みさせられた。しかも驚くべきはこれが、三部作の第一部だということ。 歴史と科学を巧みに交えた構成。読み手を飽きさせないセンスオブワンダー!流石アジア圏初のヒューゴ賞受賞作だ。

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【推薦者】Me Me

【推薦作品】『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語』

【作者/訳者】G・ガルシア=マルケス/野谷文昭

【推薦文】  

横浜で開催されたやなぎみわさんの大きな展覧会に行き、10年くらい前に原美術館で開催された彼女の展覧会を懐かしみエレンディラをもう一度読みたいと思ったところ、新訳が河出書房より出ていて嬉しくあった。 タイトルが少し変化し、その短編集の中の1つの話がより象徴的になってそれも好きな要因のひとつです。 たくさんの人に読まれた旧訳が新訳されたときに題名も時代と共にグレードアップされると読者の気持ちも上がります。


【推薦者】宮澤 真英

【推薦作品】『ケミストリー』

【作者/訳者】ウェイク・ワン/小竹由美子

【推薦文】

 「どうしてうまくいかないの?」と何度も煩悶する主人公の『わたし』に読者の私も惹き込まれていきました。主人公の現在、こどもの頃のこと、恋人との関係性、家族との思い出が科学のトリビアや育った国の諺などを交えながら語られていきます。作者はこれがデビュー作となるウェイク・ワンさん。ボストン大学の美術学修士号を取得する為に書かれたという本書。それを訳されたのが数々の名作を訳されている小竹由美子さん。言語が違えば文化も違う微妙なニュアンスが、さっぱりとしたテンポの良い文章でこんなにも伝わってくるなんて。私もこの作品を読んで胸が疼きました。ワンさん、小竹さん、素晴らしい作品をありがとうございます!

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【推薦者】渡辺 伸一朗

【推薦作品】『波』

【作者/訳者】ソナーリ・デラニヤガラ/佐藤澄子

【推薦文】  

スリランカを襲った大津波のことは、映像では繰り返し見ていました。日本人なので津波の恐ろしさは知っている。そんな思いなど打ち砕かれるような凄まじさでした。とはいえ、遠く離れたスリランカでのこと、時がたつとショックは薄まってしまっていました。 そんな頃、偶然「波」を手に取りました。 「波」はとてもとてもパーソナルな文章です。映像では見えなかったところに起きていたことを自分のことのように感じます。とても自然に感情移入し、読みながら自らも傷つきます。 訳者の作者へのリスペクトがこの感覚をもたらしてくれたのだと思います。読後に希望にいたるまでを共有することができました。とても素敵な翻訳だと思います。 


【推薦者】モリ モリ

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー/古屋美登里

【推薦文】  

「エドワード・ケアリー×古屋美登里」のタッグは、数ある現代翻訳文学のなかで屈指の相性の良さを誇る奇跡の組み合わせだ。ケアリーの滔々と流れていく魅力的な文体が、美しく正確な日本語で再現されている。570頁に及ぶ物語を何のストレスもなく読みきる経験はそうあるものではない。優れた作家と優れた翻訳家の出会いに感謝!

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【推薦者】伊東 麻紀

【推薦作品】『茶匠と探偵』

【作者/訳者】アリエット・ド・ボダール/大島豊

【推薦文】  

この連作短篇集は中国人がアメリカ大陸を発見した別の宇宙が舞台になっています。タイトル作の「茶匠」は人間ではなく宇宙船、というか宇宙船の中枢部である魂です。「探偵」は薬物中毒、となるとミステリ史上のあまりにも有名な人物を連想させなくもないのですが、さすがに考えすぎかもしれません。アジア文化に基づいて構築された独自の世界は日本の読者にとっても大変に心惹かれるものです。そしていわゆる役割語(女言葉)を使わない大島豊さんの訳文がその魅力をさらに引き立てていると思います。

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【推薦者】モリオカ シンイチ

【推薦作品】『種の起源』

【作者/訳者】チョン・ユジョン/カン・バンファ

【推薦文】  

地球上のあらゆる生物は、自然淘汰により適者(強者)が生き残る事により進化した。 ダーウィンの進化論である。  子孫を残せる適者は、善悪に関係なく、競合相手を殺す事もある。故に我々は、進化の過程で悪を併せ持っている。著書[種の起源]は、人の心の深淵に潜む[悪]の部分を仔細に描写した傑作である。  読むにつれ、主人公の引力に負け同化一歩手前まで行くのであるが、どこか引っかかる所があった。おそらく私の本能の中に、家族は生き残る為の協力者であって敵ではないという観念が刷り込まれているのであろう。 それにしても、主人公の内なる悪の描写は、自分が体験しているようで臨場感に溢れている。作者は勿論、訳者の卓越した翻訳に感謝です。

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【推薦者】カトウ チロ

【推薦作品】『ブラック・トムのバラード』

【作者/訳者】ヴィクター・ラヴァル/藤井光

【推薦文】  

友人から勧められて読みました。この作品の元になっているというラヴクラフトは読んだことはないですが、十分に楽しめました。ストーリーも翻訳もとても素晴らしかったです。去年読んだ小説で一番好きです。ただ、本の値段が高いので買えなくて、近くの図書館にもなくて探すのが大変でした。

書影

【推薦者】Mojo Q

【推薦作品】『インスマスの影』

【作者/訳者】H・P・ラヴクラフト/南條竹則

【推薦文】  

訳文から立ち上がるイメージに圧倒される。ラヴクラフトの代表作がようやく、ファンの思い入れも研究者の愛着も含まない翻訳で読めるようになったことを祝いたい。このアメリカ最大の怪奇作家の作品に触れるには、まずこの一冊から。

書影

【推薦者】こはら みほ

【推薦作品】『おやすみの歌が消えて』

【作者/訳者】リアノン・ネイヴィン/越前敏弥

【推薦文】  

本を愛する人なら、きっとザックを応援したくなる。私もそうだ。あの主人公みたいに強くなりたい、負けたくないと思ったことがある。主人公ザックは6才。ある日、小学校に「銃撃犯」がやってくる。事件で兄が死んだ。家族はばらばらになった。幼いザックは、たった一人で問題を解決しようと決める。大好きな『マジック・ツリーハウス』に出てくる主人公のように、困っている人を助けたい。ザックが戦ったのはきっと『マジック・ツリーハウス』のファンタジーの世界なのだろう。この作品は、別のお話が入れ子式になっている構成なのだ。本作の結末は、多くの人が望むものだろう。だが、現実はもっときびしいはず。だからこそ、銃社会の問題を強烈に突きつけてくる。このままではいけない。フィクションをよんで、現実の世界が他人事でなくなる感覚。これがフィクションを読む醍醐味のひとつだろう。この作品は本を読むことの愉しみを、幾重にも味わえる。

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【推薦者】とりっぽん

【推薦作品】『夢見る人』

【作者/訳者】パム・ムニョス・ライアン/原田勝

【推薦文】  毎年「今年はこの本が面白かった」というのはあるが、「この本はずっと大切にしたい」と思う出会いはそうあるものではない。私にとって『夢見る人』はそういう本だ。 パブロ・ネルーダ(チリの詩人、1971年ノーベル文学賞受賞)の少年時代を描いた文章にピーター・シスが挿絵をつけた…というか、文と絵が一体化した実に美しい本。全編が緑色(ネルーダが愛した希望の色)で印刷されている。緑色の文字と繊細な絵、そして読みやすく詩のような訳文…やさしい表情の本だが、その内に込められた情熱はとても強い。小さく美しいものを愛する夢見がちな少年は強権的な父から実利的な道に進むよう強いられるが、じっと自分の世界を守り、遂には言葉の翼で世界へと羽ばたいていく…この本を読むたび、どんな状況でも自分の心の中は自由だし、言葉は力強い翼となって風を起こせるんだ、と思って静かに心が燃える。実利的なことばかりが幅をきかす今この時代、多くの若い人に読んでほしい。巻末にあるネルーダの詩の翻訳も素晴らしい。

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【推薦者】三月の水

【推薦作品】『アムラス』

【作者/訳者】トーマス・ベルンハルト/初見基、飯島雄太郎

【推薦文】  

ベルンハルトは、ほとんど改行がない文章の中で、厭世的な、もしくはもっと直裁に世界に対する呪詛を延々と開陳する。決して読んでいて心地いいという作風ではないが、なぜか読んでいるうちにやめられなくなり、翻訳された作品も気がつけば全て読んでいる、そんな妙な魅力を持つ作家。今回もいつもの感じで二つの中編を収録したこの単行本を読み始めたが、『行く』は、これまでの作品と傾向は変わらないが語り方が違っていた。私が人の話を聞くという体で始まるが、話題や言及される人物がずるずると横滑りしていきながら延々と続く。(エーラーは言う、シュラーにエラーが話したのは、シェラーに私は言う)その繰り返しとリズム、そして次第に話し/聞いている人物の構図が錯綜していくという展開に引き込まれ、魅了されやめられなくなった。人の語りを聞き続けるという点ではゼーバルドを、次第に高まる狂騒的な感じという点では筒井康隆を思ったりもした。 


【推薦者】あおっきー でーすけ

【推薦作品】『ピュリティ』

【作者/訳者】ジョナサン・フランゼン/岩瀬 徳子

【推薦文】  

父親探しを始めた主人公ビップの背後にある様々な物語。母親や父親、両親に関わった人の視点で時代を前後しながら徐々に明らかになる真実、それを受けた主人公の行動が…。 家族の物語でありながら、フェミニズム、インターネットと報道のあり方、旧東ドイツの事などテーマが色々盛りこまれているので、800ページの大作となったのも必然かと!

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【推薦者】いとの ふえ

【推薦作品】『朝鮮人蔘』

【作者/訳者】ミハイール・プリーシヴィン 著 / 岡田和也 訳

【推薦文】  

自分では絶対に行けないだろうロシアの森の奥の景色、体験できないだろう動物たちとの確かな触れ合いを読めるだけでも貴重だが、著者は、その自然をじっと凝視して感覚を研ぎ澄ませた者だけに訪れるのだろうと私たちには推測することしかできない幸福の瞬間を掴み取って言語化している。落胆も後悔も、この自然のなかでなら、そしてこのはっきりとした言語化によって救われるのなら、とても幸福な瞬間にしか見えない。翻訳は、ロシアの極東ハバロフスクで40年「ロシアの声」の翻訳員を務めた岡田和也氏の、ずっと日本だけで暮らしてきた者の発想には無い、ロシアの大地や歴史の染み込んだ日本語で、この内容をこの日本語で読んでいることが嬉しくなる。だから少なくとも読者は、読むたび、3つ重なった円の形をした喜びの中にいる自分を発見して、ずっとここにいたいと思ったりする、と私は思う。


【推薦者】オレンジの ハッピー小学生

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギーギブソン/松田綾花

【推薦文】  

お母さんにすすめられて読みました。こんなに長い物語を読むのは初めてでした。本に出てくるサッシーという女の子は、13歳なのにすごい行動力で驚きました。私も今年同じ年になります。サッシーみたいに木に登って大人に意見するような大胆なことはできないけれど、サッシーの伝えたい事はわかりました。動物を守ること、地球を大切にすること、私も何かできることを見つけてやりたいと思いました。

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【推薦者】アトリエ 凛

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード ケアリー/ 古屋美登里

【推薦文】  

分厚い翻訳本は、軽々しく手には取れない。先ずは重たいし安くはないし、外国文学の翻訳は、登場人物も地名もカタカナで混乱する。つまり、この手の本には、そもそもハンディがあるのだ。良き翻訳者がいてこそ、これらハンディをはねのけていける。読者に未知の世界を味わわせてくれる。 ケアリーの『おちび』を読んで、ワクワクした人は多いに違いない。 マダム タッソーという実在の人物が、読者の心を弾ませる。しかも名前はマリー、蝋人形制作の指導者は、もっともらしい名前で、クルティウス。そして舞台はほぼパリ。時代は、ほぼ革命前後。実在の人物も生き生きと堂々と登場する。翻訳が巧みだ。マリーも王女エリザベートも発する言葉が、音声つきで聞こえてくる。言語レベルを幾重にも用いながら、日本語で訳し分けられていく。犯罪大通りとヴェルサイユ宮殿で、読者は迷うことはない。無事に最後は、ケアリーと共に翻訳者古屋美登里が、ロンドンに導いてくれるのだ。

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【推薦者】平 庭男

【推薦作品】『息吹』

【作者/訳者】テッド・チャン/大森望

【推薦文】  

テッド・チャンの凄い所は、SFの要でもある科学的設定をあくまでメインにしないところだ。 圧倒的な科学に対する知識を組み合わせ、唯一無二の設定を作り上げる。 しかし彼はそれだけに留まらず、その設定を用いて人間の普遍性を描くのだ。 本作では自由意志や決定論、親子関係からテクノロジーの発展に伴う弊害などのテーマが扱われていた。 これから起こりうる問題から古くから問われてきた哲学的問いかけまで、多種多様なテーマをエンターテイメントとして昇華できる作家は他にいないのでないだろうか。 本作を読むことで、彼が世界最高水準のSF作家だということが明確に分かるだろう。

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【推薦者】ちく わぶ

【推薦作品】『エネルギーの人類史』

【作者/訳者】バーツラフ・シュミル/塩原道緒

【推薦文】   

耕す・種を蒔く・灌漑用の水路を作り浚渫する・肥料を集めて与える・刈り取る・脱穀・製粉、いずれもエネルギーが必要だ。鎌により収穫は楽になり、犂により牛や馬を使って重い土も耕せるようになった。人が働くにしても、牛や馬が犂を曳くにせよ、いずれも食べねば生きられない。では、それぞれの労働に必要なエネルギーと、収穫によって得られるエネルギーは、どれぐらいの比率なのか?肥料を集め運ぶコストと、それにより増える収穫の損益は、どうなるのか?そして道具や技術の進歩により増えた利得を、人類はどう使ってきたのか。米も麦も、私たちは調理して食べる。ではその調理用の燃料を、ヒトはどうやって手に入れてきたのか。  これらの計算式は石炭や石油など化石燃料により大きく変わった。その変化は、どんな技術が支えているのか。どんな過程を辿って変化がもたらされたのか。膨大なエネルギーは、人類の経済活動にどんな影響を及ぼしているのか。  ワットやジュールなどの単位で人類史を綴る、一風変わった現代ならではの世界史。

 


【推薦者】辻川 純子

【推薦作品】『外は夏』

【作者/訳者】キム・エラン/古川綾子

【推薦文】  

辛い話をリアルに描かれると、読みたくならないはずだと思うのだけれど、それがあまりにも現実のありのままのように描かれていると、こんなにも愛おしい話になるのかと驚いた。辛く悲しい「喪失」の話が続くが、重苦しさや激しさで訴えかけてくることはなく、小さな声で淡々と語られているような文章だ。だからこそ愛おしく感じられるくらい、心に入ってくるのかもしれない。表紙の印象もあると思うけど、読んでいる間、澄んだ水の深い底に沈んでいるような感じがした。静かで透明な作品だと思う。

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【推薦者】山本 周

【推薦作品】『どこか、安心できる場所で』

【作者/訳者】パオロ・コニェッティ 他/ 関口英子、橋本勝雄、 飯田亮介、中嶋浩郎、越前貴美子、粒良麻央

【推薦文】  

同時代のイタリアに暮らしながら、様々な物語を持つ人々の生活を垣間見ることができ、収録されている13作品それぞれに全く異なる面白さ、発見がある。現在活躍している作家と作品の選出、翻訳者を誰にするかなど、作っている方達の気概が伝わってくるアンソロジーでした。

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【推薦者】彼らは 読みつづけた

【推薦作品】『世界の書店を旅する』

【作者/訳者】ホルヘ・カリオン/野中邦子

【推薦文】  

本書中、北米の書店について綴る章で出会った「だが、ここにはなによりも読書がある」のひとことに、著者の思いも本書の魅力もつまっているかのように惹きつけられました。帯文のアルベルト・マンゲル氏、そのマンゲル氏の本も訳されている野中邦子氏をはじめ、日本語にして届けてくださった方々に感謝しつつ、推薦します。 


【推薦者】たかむら りょう

【推薦作品】『わたしのいるところ』

【作者/訳者】ジュンパ ラヒリ/ 中嶋 浩郎

【推薦文】  

幼少時の移住によって身に着けた第二の言語が最も自在に使いこなせる「母語」となり、父母の言葉との間で常に「翻訳」を意識しながら成長し、作家となったラヒリが、自らの選択によって学ぼうと決めて身に着けてきたイタリア語であえて創作した物語を、英語からもイタリア語からも最も遠い言語のひとつである日本語で読む、これほど翻訳大賞に相応しい作品はないのではないか。つい英語のラヒリとの違いを探るようにして読んだそれはやっぱりラヒリの小説で、生きるということの孤独や折々の他者との交わりに向けるひっそりと鋭い眼差しが突き刺さってくる。言葉と思考、言葉と語り手との関係を考えさせられる刺激的な読書だった。

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【推薦者】芝田 文乃

【推薦作品】『マーダーボット・ダイアリー』

【作者/訳者】マーサ・ウェルズ/中原尚哉

【推薦文】  

人型警備ユニットが日々の任務を一人称で語るSFアクション連作中篇集。戦闘能力もハッキング能力も高いが、対人恐怖症で連続ドラマ好きという、この内向的な警備ユニットの一人称(原文ではI)を「弊機」と訳したのがすばらしい。雇人の悲哀やペーソスまでもが醸し出されている。ですます調だが、べたつかずスピーディーに読めるのもよい。主人公は性別なし。ジェンダーが曖昧なキャラクターの台詞を努めて事務的にすることで生まれる、そこはかとないおかしみ。あなたもきっと、”弊機”が好きにならずにいられない。

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【推薦者】ふみ みん

【推薦作品】『レス』

【作者/訳者】アンドリュー・ショーン・グリア/上岡伸雄

【推薦文】  

ゲイの売れない作家アーサー・レスの物語。失恋の傷を癒やしに世界旅行に出かけるが、行く先々で事件を起こす。本人は真剣なのだが、読む方は苦笑、失笑、大爆笑。原作のユーモアを余すところなく日本語に移し替えられた翻訳者の力量に感服。そして主人公と年下の恋人との対等な関係も理想的。こんなゲイの友達がいたらさぞ楽しいだろうなと思えるエピソード満載の本が、さらりとピュリッツァー賞を取る時代になったと思うと感慨深い。

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【推薦者】黄 緑

【推薦作品】『サブリナ』

【作者/訳者】ニック・ドルナソ/藤井光

【推薦文】  

まるでデヴィッド・フィンチャーの映画を観ているような、静謐さと不穏さが心地良く、そして怖い。訥々とした台詞が味わい深く、これはいい翻訳だ! と英語が分からないなりに思いました。

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【推薦者】arancia

【推薦作品】『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』

【作者/訳者】パオロ・コニェッティ他/関口英子、橋本勝雄、飯田亮介、越前貴美子、粒良麻央、中嶋浩郎

【推薦文】  

近年はあらゆる国の文学作品が少しずつ翻訳されて書店の棚に並ぶようになり、私達の読書を豊かなものにしてくれています。とはいうものの「今の」時代を生きて語りかけてくれるイタリア文学は日本で紹介される機会がないままで、相変わらず一世代、二世代前の作家が主流でした。そうした中で作家も翻訳家も男女比をほぼ等しくし、世代やキャリアも様々であることを条件に選ばれた15の短編アンソロジーは「今」を生きる私達へ沢山のことを問いかけ、考えさせてくれる作品となりました。そして、作家も翻訳家もそれぞれの個性が現れ、短編小説の楽しさというものを改めて感じさせられました。

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【推薦者】あさてぃあん

【推薦作品】『三つ編み』

【作者/訳者】  レティシア・コロンバニ / 齋藤可津子

【推薦文】  

インド、イタリア、カナダ。三都市で暮らす女性たちが味わうそれぞれの困難には普遍性がある。家業が破産寸前だとかキャリアを奪われそうだとか、すべて理不尽な理由で起きたことだから、当事者だったら本当に苦しい。女の物語だ。 なかでも、インドの不可触民であるスミタの、生まれながらの苦難は、なぜ世界にはまだこんな現実があるのかと、悔しくて胸をかきむしりたいほど。にもかかわらず、スミタの困難に立ち向かう強さと熱に触れると、ひれ伏してしまう。自分のような人生から逃れさせるには、娘に教育を受けさせるしかないと、知性と自由と平等を求めるスミタの姿に、今年いちばん揺さぶられた。

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【推薦者】hiroizm rose

【推薦作品】『銃弾とアヘン』

【作者/訳者】リャオ・イーウー/土屋昌明・島本まさき・及川淳子

【推薦文】  

30年前の天安門事件で何が起こり、自由と理想を求めてその場にいた当時の若者たちのその後のどんな人生を過ごしたのか、その苦難の証言録。ここに登場する人々は、いわゆるリーダーではない市民だが、微罪で逮捕され不公平な裁判で10年以上も投獄され、その悲惨さはただ驚ばかり。中国の今の繁栄の裏にはこんな人々がいたとは。これを日本語で読めるありがたみを強く感じています。 


【推薦者】匿名 希望

【推薦作品】『わたしのいるところ』

【作者/訳者】ジュンパ・ラヒリ/中嶋浩郎

【推薦文】  

静かな筆致が良い。「わたし」と自分がいつのまにかひとつになり、読み進めさせられる。

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【推薦者】かす り

【推薦作品】『アンチ』

【作者/訳者】ヨナタン・ヤヴィン/鴨志田聡子

【推薦文】  

おじの自殺で打ちのめされていた14歳の少年アンチが、ヒップホップと出会いラップに夢中になることで、自分の鼓動(Beat)を取り戻す…という青春YA小説です。 アンチが暮らすのはイスラエル。ヘブライ語で喋り、ラップをするわけです。その彼のなめらかな語り口調、若いラッパーたちが披露する韻を踏んだリリックの数々が、気持ちの良いリズムですらすらと違和感のない日本語の押韻で読めることが驚きです。訳者の鴨志田さんは翻訳一作目なのでしょうか。素晴らしいお仕事だと思います。あとがきによれば、日本の若い読者に伝えるために、著者と翻訳者と編集者と周りの方々で力を合わせたそうです。そんな「クルー」の皆さんの熱意にもリスペクトです。

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【推薦者】川石 カズオ

【推薦作品】『ブラック・トムのバラード』

【作者/訳者】ヴィクター・ラヴァル / 藤井光

【推薦文】  

海外文学の新刊の中でも、文句なく面白く共感できる作品はそう多くはない。ツイッターで橋本輝幸推薦のヴィクター・ラヴァルのこの中編は、手法的にも文章にも面白さがあり迫力がある作品だ。

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【推薦者】たまひよ こっこ

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】H・S・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】  

そこかしこに現れる治療方法や時代背景の古さを除けば、これってまさに2010年代の日本じゃないか! と思わされた。人と人とのコミュニケーションがあまりに未熟、そのせいであらゆる社会階層の間に疎外が生じ、当然に患者の隔離も起こるなど・・・日本はアメリカより100年近く遅れているのか? 古くて新しいとはまさにこのこと。

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【推薦者】大原 公威

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】H・S・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】  

基本的には統合失調症の心因論。現代ではクスリで寛解できる病となったが、だからといってこの本がもうお役御免という訳ではない。生活歴を今こそ馬鹿にしてはいけないという警鐘のように感じる。いやそれどころか、寛解が当たり前なのだからもっと生活歴に割ける時間はあるはずだろう、と言われているようにすら思える。身の引き締まる思いで読ませて頂きました。

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【推薦者】チェルビアット 絵本店

【推薦作品】『失われた女の子(ナポリの物語4)』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

イタリアのナポリに生まれた二人の女性(エレナとリラ)の物語。4部作の最終編です。幼年期の第一巻から始まりこちらは老年期まで来た第四巻。シリーズを通して物語から感じられる「ナポリの町」の匂いと空気感。漂うナポリの下町の空気と温度。ただ美しいだけではないそんなナポリがとても印象的です。そして、仕事・家族の在り方、感情の動きなどを丁寧に描き出した彼女達の人生は国を超え性別を超えて、誰しもが共感できる部分を持っているように思います。自分で考えたり他人に影響を受けたり、他者からの干渉で思うように進めなかったり、進んで来た道が正しかったのか葛藤したり。人の心模様を幼年期から老年期まで描き切ったこの物語の中で、自身と重ねたり比べたり、自身の年齢を超えた後の人生に思いを馳せながら楽しんで頂きたい物語でございます。

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【推薦者】スタン ダード

【推薦作品】『世界物語大事典』

【作者/訳者】ローラ・ミラー/巽孝之監修 越前敏弥訳

【推薦文】  

『オデュッセイア』や『アーサー王の死』といった定番の項目も興味深かったですが、ベルジュラック『月世界旅行記』、キャヴェンディッシュ『新世界誌 光り輝く世界』、バトラー『エレホン』などの説明を読んで、これほど古くからSFの始祖とも言える作品群が書かれていたことに驚かされました。 『華氏451度』や『銀河ヒッチハイク・ガイド』、『わたしを離さないで』といった現代の名作から、村上春樹の『1Q84』に呉明益『複眼人』など、ヨーロッパ・アメリカ以外で書かれた作品まで紹介されていて、たいへん読みごたえがあるのですが、なかでも、ボルヘス『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』の紹介文には、そういう作品だったのか!と気づかされました。 ディストピア文学が描いてきた世界に現実社会がどんどんと近づきつつあるこの時代、いままさに読むべきブックガイドだと感じました。

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【推薦者】高寺 あずま

【推薦作品】『ヒア・アイ・アム』

【作者/訳者】ジョナサン・サフラン・フォア/近藤隆文

【推薦文】  

2019年ワールドシリーズでワシントンナショナルズが優勝した歴史的な日、このながいながい小説を読みはじめました。舞台はワシントンDC。主人公が息子をナショナルズの試合に誘うシーンも出てきます。 家庭内のちいさな挿話たちと(それらはつねに悲劇の予兆に彩られています)、ユダヤ人のおおきな歴史が(そしてこちらは文字どおり悲劇的な災厄に見舞われます)二重三重に重なりあいながら物語は進んでいきます。 700ページ以上の大冊を1ページずつゆっくりと読み進めていくこと。それはながいながい人生を1日ずつ積み重ねていくこととよく似ています。 不可解な原文を平易な日本語で読ませた翻訳者の技量もまた、毎日のていねいな作業の積み重ねだったのでしょう。目の行きとどいた訳語の配置に感嘆しました。

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【推薦者】高原 英理

【推薦作品】『怪奇骨董翻訳箱―ドイツ・オーストリア幻想短篇集』

【作者/訳者】ヘルマン・ヴォルフガング・ツァーンほか作/垂野創一郎・訳

【推薦文】  

「怪奇」というより大半は奇想小説である。一方「骨董」はそのとおりで、十九世紀から二十世紀前半くらいの、特に現代的な手法によるわけではない、しかし読み進める内なにやらこの世の事実性が薄まってきそうな微妙な境地が貴重と思えたので今回推薦する。題名どおり怪奇の世界ならメーゲデの「トンブロウスカ城」が優れたゴシックロマンス。フレクサ「伯林白昼夢」、シュトローブル「ホルネクの自動人形」がやや恐怖入りの古い怪奇幻想を懐かしませる。ツァーン「ある肖像画の話」はロマンティックな「不思議いい話」。ナンセンスだが夢にあるような呪縛がなんとなくあるあるに感じられるヒルデスハイマー「ある世界の終わり」。予想される展開なのに茫漠たる不可能に心奪われるレタウ「迷路の庭」。黒いジョークがおかしいラーテナウ「蘇生株式会社」。さすがカフカの友人ブロート「死後一時間目」は心に来るスピリチュアル。これらが特によかった。

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【推薦者】タカラ~ム

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー/古屋美登里

【推薦文】  

蝋人形館で有名なマダム・タッソーをエドワード・ケアリーが描くと、こんなにも幻想的で壮大なストーリーになるのかという驚愕の作品。豊富に挿し込まれているケアリーの手によるイラストが、物語の世界観をさらに魅力的なものにしている。この作品の翻訳は大変な仕事だと思うが、古屋さんはケアリーの築き上げた世界観をまったく損なわずに私たちに見せてくれていると思う。古屋さんが翻訳紹介してくれなかったら、エドワード・ケアリーという稀有な作家の存在を知ることはなかっただろうと思う。

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【推薦者】まる

【推薦作品】『レス』

【作者/訳者】アンドリュー・ショーン・グリア / 上岡伸雄

【推薦文】  

昨年後半、人に会えば読め読めと勧めて回り、つられて読んだ人からもれなく感謝され、勝手に鼻を高くしていたのが『レス』である。 「泣かせるより笑わせるほうが難しい」とはよく聞くが、「くすくす」から「どっかん」まで、笑いの濃淡と質量を訳しわけた上岡さんにひれ伏した。ひれ伏しながら笑って泣いた。 特に秀逸なのが主人公がドイツに滞在する章で、自分は流暢だと自負する彼のそこそこ上手なだけに惜しいドイツ語に爆笑しつつ、「自分もこんな感じで喋っているんだろうな・・・」とひやりとさせられた。力みもわざとらしさもなく自然な訳で笑わせ泣かせるのがうまいと前々から思っていたが、本書ではその腕前をたっぷり披露している。 物語もたいへんよくできている。小説でしかできない仕掛けがあり、読書の喜びを存分に味わえる。この場を借りて不特定多数の人に勧められて嬉しい。

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【推薦者】思いのほか ゆるい平

【推薦作品】『ダイヤモンド広場』

【作者/訳者】マルセー・ルドゥレダ/田澤耕

【推薦文】  

たまに参加する外国文学の読書会の課題図書に挙がったのがきっかけで読みました。スペイン内戦前後のバルセロナ(カタルーニャ)の銃後の暮らしを描いた作品です。毎日の暮らしと主人公のナタリア(クルメタ)の感情の機微が戦争の影により力ずくで狂わされてゆく中でそれでも生きていく姿(特に後半の激動と平穏)に心打ちのめされっぱなしでした。

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【推薦者】吉美 駿一郎

【推薦作品】『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』

【作者/訳者】ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド/上杉周作、関美和

【推薦文】  

『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 』の出だしを読むと、自分は何を読んでいるのだろうという気分になる。表紙には「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」と書いてある。しかし本は始まるや否や、長剣を飲みこんでしまうサーカス芸人についての話が延々と続くのだ。芸人のレントゲン写真まで登場する。いったいぼくは何を読もうとしているのか。思ったよりも長くその話は続くのだけれど、読み終えたときにはすっかり楽しくなっていて、先を読みたくなっている。好奇心をうまくくすぐられてしまうのだ。パターン化本能(ひとつの例がすべてに当てはまる)とか、単純化本能(世界はひとつの切り口で理解できる)、あるいは犯人探し本能(誰かを責めれば物事は解決する)などの思いこみがどういったものなのかを、楽しみながら理解できる。それらは同時に冷笑家の言葉を撃退する具体的な方法でもあって、それがとても好きなところです。

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【推薦者】真野 勝成

【推薦作品】『海の乙女の惜しみなさ』

【作者/訳者】デニス・ジョンソン/藤井光

【推薦文】  

ずっと穏やかな気持ちで読書できる日常が続くわけではない。 僕は怯えている。何かが起こって僕を今いる場所から連れ去り、読書どころではなくなる。そんなことも起こり得るからだ。安定しない収入、過去の性愛に対する糾弾への漠たる不安、鼻炎の回復の遅さ、友人の死、自分の死。そういった事柄に心を囚われてしまった時に読む小説がある。 『墓に対する勝利』を僕は繰り返し何度も読むだろう。 一般的な幸福や倫理などからは外れてしまった人の話、特に白人の男性が書いたものを読むと安心する。「大したことではない。世界は回り続ける」だけなんだと。 


【推薦者】岩切 等

【推薦作品】『消される運命』

【作者/訳者】マーシャ・ロリニカイテ/清水陽子

【推薦文】  

この本は、第二次世界大戦の史実を元にした小説です。物語の舞台であるリトアニアは、ソ連とナチス・ドイツに侵略され多くの国民が犠牲になりました。 読み進めるほどに、独裁者が人々の生殺与奪の権を握っていた時代の恐怖が伝わってきます。その中で、命を狙われる赤ん坊を助けようとする人たちのヒューマニズムに感動しました。 ホロコーストの犠牲者の存在を忘れず、現代の日本で起きているヘイトスピーチや移民酷使などの人種差別に向き合いたいです。 訳者の清水陽子さんは、リトアニアにおけるホロコーストを生き延びた体験記録「マーシャの日記」を訳しています。


【推薦者】村瀬 亜紀

【推薦作品】『源氏物語』

【作者/訳者】紫式部/アーサーウェイリー/毬矢まりえ+森山恵 姉妹訳

【推薦文】  

百年前アーサーウェイリーによって英訳された「源氏物語」は、新しい世界文学の名作として英語圏の人々に称賛されたという。 そのウェイリー版「源氏物語」の世界を、現代の日本語に訳し戻した本作品は、同時に、千年の昔にかかれた、紫式部の物語を、鮮やかによみがえらせる事に成功している。 古文、英語、現代日本語を縦横に行き交いながら、作り上げられたこの作品は、翻訳という創造の可能性を大きく広げた、唯一無二の作品だと思う。

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【推薦者】五十嵐 絢也

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ、ギジェルモ・アブリル/上野貴彦

【推薦文】  

まずこの本が日本語に翻訳された=日本人にも情報が得られる。 ということに、とても意味があると思います。 難民とは、なぜ難民になったのか、彼らはどこから来たのか。今どうしているのか。 そんな情報がまったくと言っていいほど身近にないのが、 日本の現状です。 フランクフルトに住んでいましたが、 生活の中に難民は溢れていました。 ドイツは先陣を切って、難民受け入れをしましたが(他国が続くと思って)もうどうしようもない状態です。 自分の国があって、家族と平和に暮らせる。 これは世界中のどこでも誰でも守られるべき権利、 その実現に向けてはまず誰しもがこの「難民」それを生んでいる、「紛争」を知ることから始まります。 そういう意味で、こんなに日本語翻訳されて素晴らしい本は他にありません。改めて、カルロス、上野さん、そして花伝社さんに感謝申し上げます。

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【推薦者】守口 愛

【推薦作品】『消される運命』

【作者/訳者】マーシャ・ロリニカイテ/清水陽子

【推薦文】  

ユダヤ人というだけで全ての尊厳が奪われ、最後は「消される運命」にあった時代。 けれども、そこに生まれた小さな命を救うことさえ許されないのか。 未来に一縷の望みすら抱けない言葉を失うラストが忘れられない。 内容に加えて、装丁や本文のデザインもよかった。


【推薦者】NO NAME

【推薦作品】『ニックス』

【作者/訳者】ネイサン・ヒル/佐々田雅子

【推薦文】  

子供の頃に家を出た母に、売れない作家サミュエルはTV越しに再開した。母が知事を襲撃した? ひとつの事件をきっかけに、主人公サミュエルは、母フェイの半生を追っていくこととなる。ベトナム戦争から9.11、イラク戦争まで、近代アメリカ史をなぞりながら、母が自分を捨てた本当の理由が明かされていく、上下段700頁にも及ぶ超大作。とにかく一冊にいろんなエピソードを詰め込むから、読んでも読んでも終わらない。けどまだこの世界にいたい、そんな作品だった。登場人物全てに見せ場があり、一冊にスピンオフがたくさん入ったような贅沢な作品。主人公のかつての友人がとても良い。みんな戦争には行きたくなかった、ベトナムでもイラクでも。安寧な国に暮らす若者にも、この本からは本当の声が聞こえた。誰しも自分が持っている真実はひとり分きりで、別の側面から見ればそれは正しくはないのかも知れない。でも、だからといって、自分が信じてきた真実が、どうして間違っていると言えるのだろう?

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【推薦者】かもめ 通信

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー/古屋美登里

【推薦文】  

蝋人形作家として世界中にその名を知られるマダム・タッソーが老境を迎え、自分自身の半生を回想して語りあげる…という設定のフィクションは、エドワード・ケアリーらしく、奇妙でありながら精巧で、面白くて切ない物語。フランス革命前後のパリの街の様子、あの人、この人の顔に浮かぶ表情、隠したくても隠しきれない胸の内、そうしたものを丁寧に描き出した物語は、数奇な運命をたどったひとりの女性の物語であると同時に、愛憎入り乱れた複雑な人間模様を描き出す群像劇でもあり、さらには歴史小説としての面白さも十二分に兼ねそろえている。風変わりな物語であるのにも関わらず、どのページを開いても、声を出して読んでもよどみのないほど、読みやすくリズムのある翻訳が読者を不思議な世界に導く。この作家にこの翻訳家、まさに名コンビだ。

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【推薦者】かわうそ ちゃん

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

環境問題への危機感を訴える13歳の女の子が主人公の物語です。グレタ・トゥーンベリさんの姿を見ると、この作品を思い出してしまいますが、イギリスで10年も前に発売された物語なのですね。環境問題への意識が日本でも高まる今、翻訳しようと思った訳者、タイミング良すぎでは。 環境問題だけではなく、親子関係や、友情、思春期の男の子との付き合い方など、色々なことを考えさせてくれる内容です。少しご都合主義的な展開もありますが、爽快感のある結末でスッキリします。 親子で読んで、あるいは学校で読んで、一緒に環境問題を考える題材としても良いかもしれませんね。いま、未来を作るために必要な一冊と感じましたので、推薦します。

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【推薦者】淡路 正則

【推薦作品】『きのこのなぐさめ』

【作者/訳者】ロン・リット・ウーン/枇谷玲子, 中村冬美

【推薦文】  

きのこ文学研究家の飯沢耕太郎氏の日経書評欄を読んで手に取りました。いつも傍らにいるべきご主人を急に亡くした喪失感が「きのこ講座」に通い始めてきのこと触れ合ううちに思いのほか身近な存在であるきのこに癒されマイコフィリアになっていく過程が人類学者の視点も交えて描かれていてとても面白く興味深く読みました。マツタケの学名命名は日本の先達が頑張ってくれて本当によかった。Runkeeperをインストールしてきのこ狩りに出かけましょう。きのこ文学名作選の続編ができたらぜひ入れてほしい。日本タイトルだけ大賞にもノミネートしよう。タモリ倶楽部のキノコ特集を思い出しながら読了。

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【推薦者】百句鳥

【推薦作品】『湖』

【作者/訳者】ビアンカ・ベロヴァー/阿部賢一

【推薦文】  

2017年にマグネジア・リテラ賞最優秀賞を受賞、またEU文学賞にも選出された世界的注目作品が早期邦訳されたのは喜ばしいことです。ボロスという湖に面した町で祖父母に育てられてきた少年ナミ。生まれながらにして父親はなく、母親は幼少期にボロスを去っていました。けれども彼の脳裏には湖で溺れかけた自分を介抱する母親のおぼろげなすがたが焼き付いていて、やがて彼は母親を求め始めることになります。本書は多彩な顔を持っています。母親を捜す少年の冒険譚として、経験をかさねて大人になっていく少年の成長譚として、生贄を要する湖を象徴的に物語る幻想譚として、はかなくも美しいカラーを見せてくれます。いつの時代なのか、どこの国なのかもわからない謎めいた世界。自然の摂理に従うように淡々と生きる人々を表現する文体も素晴らしく、深みのある余韻となって心に残ります。


【推薦者】一徳 元就

【推薦作品】『愛なんてセックスの書き間違い』

【作者/訳者】ハーラン・エリスン/若島正・渡辺佐智江

【推薦文】  

エリスンはカッコいい。 今年はこの本で決まりではないか?

書影

【推薦者】まし ろ

【推薦作品】『朝鮮人蔘』

【作者/訳者】ミハイール・プリーシヴィン/岡田和也

【推薦文】  

心動かさずにいられない美しい言葉と情景、語りのなせる魅力に掴まれた。美しい鹿たち、生命の根とされる朝鮮人参、その採り手との出会い。自分はひとりではなく、この世には争う余地のないものがあると知ることの気づきは、そう感じる言葉の奥深くの生をはっと疼かせるようだった。傍から見れば生そのものの道行きに関わりなく思える些細なことも、どこかで育ち、時が来れば物事の始まりになる。それは過去の痛みを含み、許し許され、誰もの生を包み込むようなあたたかさを思わせた。踏み入れる生を受け入れる深さで、言葉があった。旧いも新しいもない、言葉の豊かさを再確認する心ある翻訳が、プリーシヴィンの作品の魅力を深めていると感じた。


【推薦者】鎌田 和宏

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

サッシーは中学一年生の女の子。  ちょっと他の子と違うのは、地球環境の保全に熱心なエコ・ソルジャーだって言うこと。そんなサッシーが人気のスポーツ・マンに告白され、付き合い始めるが・・・・思春期のサッシーが自分らしさに気づき、自分の足で歩み始めていく物語。私たちは既存の価値観に囚われ、自分らしさを忘れて生きているかも。そんな事に気づかせてくれる一冊でした。

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【推薦者】W2020 hohn

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】写真:カルロス・スポットルノ、文:ギジェルモ・アブリル/訳:上野貴彦

【推薦文】  

書店で、欧州の難民問題を分かり易くマンガで解説した本と思って手に取った。はじめは、チャーチルなど馴染みの政治家の顔が出ていて、軽く目で追って内容を探った。少し進むとメリリャという全く知らない地域の話題となり、アフリカ大陸側のスペインの一部というので驚く。当然EUの一部である。この本にはマンガの吹き出しのような解説が有り、メリリャについて知ることができる。さらに進むと、この本から多くの事を学ぶことができる。ざっと目を通すだけでも、難民の過去、現在、未来につき考える。欧州の難民問題はこれからの日本の問題であると、身近に思える一冊でもある。

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【推薦者】小澤 みゆき

【推薦作品】『となりのヨンヒさん』

【作者/訳者】チョン・ソヨン/吉川凪

【推薦文】  

SFらしいスケールの大きさと、親しみやすい〈近さ〉が同居しているお話の連続で、不思議な手触りを感じるとともに、「こういうものが読みたかった!」という気持ちになりました。またこだわり抜かれた装幀とイラストも素晴らしく、手に持っただけでうきうきしてしまいます。愛を感じる一冊です。

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【推薦者】木村 朗子

【推薦作品】『美しく呪われた人たち』

【作者/訳者】F.スコット・フィッツジェラルド/上岡伸雄

【推薦文】  

フィッツジェラルドの作品で未だ日本語訳がないものがあったのだということにまず驚いた。まるで新刊のように届けられた本作。しかしそれはまぎれもなくフィッツジェラルドなのであって、そこに生きていたわけでもないのに、あの時代に戻っていくような、ノスタルジックな文体に胸がいっぱいになった。うれしい翻訳だった。

書影

【推薦者】やまもと たいち

【推薦作品】『種の起源』

【作者/訳者】チョン・ユジョン/カン・バンファ

【推薦文】  

作中の一瞬一瞬が丁寧に描写されており、まるで作中の現場で彼らとの行動を共にしているような感覚を覚えた。そこで、恐怖や疑問、悲しみ、驚き、作中の空気感を直接肌で感じられた分、何とも言えない怖さを感じることもあり、途中で何度も読むことを断念しようかと思うこともあった。ただ、逆に言えばそれだけ臨場感があり、読者を引き込む素晴らしい翻訳作品であったと思う。 また、作中の主人公が近親者から夢を半ば強制的に諦めさせられ、ほぼ監禁状態の生活をしており、そこから(本心だったかどうかは別として)本当の自分を取り戻そうとする描写が印象的であった。本作の意図に合うものか分からないが、私自身の家族のについても一度立ち止まって”自分の愛する人たちを、どうすれば幸せにできるか”、”それは一方通行になっていないか” を考える機会を与えてくれた。 本作を世に出してくれた著者、そして素晴らしい翻訳を通し著者の世界観を体験させてくれた訳者に、心から感謝と敬意を表したい。

書影

【推薦者】誇 張

【推薦作品】『隠された悲鳴』

【作者/訳者】ユニティ・ダウ/三辺律子

【推薦文】  

ミステリーとしても面白くラストの展開もスリリング。ただそれ以上に「私たちはどのような社会が望ましいと考えて選択するのか。」という問いに関わる重要な本。儀礼殺人のおどろおどろしさに目を奪われてアフリカ固有文化と近代化の対立と見るのは表層的。親分子分関係が隠れて繋がり暴力が起きると法律も裁判も機能しなくなるという法の本質を突いている。そしてこの呪縛に捕らわれてしまった男たちの苦しみもきちんと描いている。 


【推薦者】山田 郁斗

【推薦作品】『房思琪の初恋の楽園』

【作者/訳者】林奕含/泉京鹿

【推薦文】  

性的暴行を受ける少女の物語。台湾でベストセラーとなり、法改正のムーブメントを引き起こすきっかけとなった作品です。とはいえ、作品本来の凄さはそういった部分ではありません。地の文やセリフに中国古典や漢詩のフレーズを織り混ぜて、繊細に、美しく書き上げています。登場人物に、救いを受ける人はいません。読後感も決してよくはないでしょう。それでも、読んでほしいです。この小説を出版してすぐに自死した彼女の声に耳を澄ませてほしいです。


【推薦者】あさ うみ

【推薦作品】『トリック』

【作者/訳者】エマヌエル ベルクマン/浅井 晶子

【推薦文】  

ナチスの迫害という重いテーマをユーモアな語り口で読ませつつ、我々に悲惨さを訴える。それでいて読後の余韻が素晴らしい。 少年のみずみずしさ、そして老マジシャンの毒ある生き様に魔術のように虜になる。戦時の過去、そして現在のふたつの物語が紡がれ最後のトリックが披露された瞬間、胸がいっぱいになる。ホロコーストの中で耐えた命と愛が現在へ繋ぐ。 2019年といわず、自分の読書人生において大切な一冊になった。

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【推薦者】フロッグ ラバー

【推薦作品】『とんがりモミの木の郷』

【作者/訳者】ジュエット/河島弘美

【推薦文】  

日本におけるアメリカ文学紹介の欠陥を補う優れた翻訳が出た。代表作「とんがりモミの木の郷」は、中年の女性作家の語り手が、19世紀末のある夏ニューイングランドの港町で、薬草を専門とする婦人の家に滞在した時の地味だが、心に染み入る見聞を伝える中編。語り手は家主に誘われて、その高齢な母親を訪問する。港から離れた島に息子と暮らす、優しい、しっかりした婦人である。丘の上に立つ古い家の窓から島全体とそれを囲む波立つ海が水平線まで見渡せる。母は自分で育てた野菜、漁夫の息子の釣った魚などを材料にした手作りの珍味を、久しぶりに会う娘と語り手に味あわせる。私は相次ぐ自然災害や危険な国際情勢などで心が乱れていたのだが、この辺りを読む中に不思議なほど心が癒されてきた。人間性の優しさ、他者への思いやり、大自然の美しさに触れて、作中人物と心を通わせていた。ジュエットの優れた描写力と、それを再現する翻訳のお蔭である。

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【推薦者】イタル リア

【推薦作品】『ナポリの物語4 失われた女の子』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

『ナポリの物語』シリーズの完結編です。 自らの過去と様々な人物との関わりを描いていく流暢な語り口は、読んでいるこちらを本の中で展開される人生模様へと呑み込んでいきました(それくらいの怒濤さ!!)。人間の清濁併せ持った内面のパターンを、沢山の登場人物の行動を通して(それは語り手も例外ではなく)見せ、身に覚えのある他者・己自身を考える機会にもなりました。それが出来たのも、翻訳によって登場人物達を身近に感じられたからだと考えています。 これを含めて全4冊、1冊1冊のボリュームが凄まじいこのシリーズを完訳した翻訳者がいるんです、という気持ちも込めて推薦します。

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【推薦者】月 うさぎ

【推薦作品】『中央駅』

【作者/訳者】キム・ヘジン/ 生田 美保

【推薦文】  

若い男性がホームレスに転落し、駅の周りで暮らし始める。 病と抱えた中年のアル中の女性と関り、互いに求め合うようになり、彼女のために動きだすが、それは愛なのか。自らの拠り所ほしさとの混同、葛藤。 そして字面から臭ってくる、すさまじい過酷さ。

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【推薦者】小見 豊

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】ハリー・スタック・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】

ゴールドラッシュの後の米国に渡った、アイルランド移民一家のモノグラフとして読んだ。 乳児期を語る章では(「月と若馬」など)まだアイルランドの香りが強く、就学する頃になると、ハリウッド映画の全盛期に当たるからだろうか、初恋と映画ヒロインの結びつきが語られたりする。私見だが、原著者はこのころに自身の同性愛を自覚したのではないだろうか。 女性の章では、女が「ペニス羨望」を持つわけではないこと(今にすれば当たり前のことだが、当時も今も、だれよりも保守的なのは精神分析家たちである)、そしてアメリカで女性参政権が取り戻されたことの意味が語られる。 最後の章には、どことなく戦争の予兆がする。 筆をおいたのが大恐慌のころらしい。 ー人間の成長を語るという体裁をとりながら、20世紀初頭から二次大戦前までの、「頭痛薬でも飲まないとやってられなかった」、あのアスピリン・エイジのアメリカを読むようだった。

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【推薦者】田名瀬 佳紀

【推薦作品】『PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』

【作者/訳者】ローレンス・レビー/井口 耕二

【推薦文】  

実は私、翻訳本が苦手。。。というのも、過去に不自然な日本語表現の「モノ」を喰らって、食あたり(拒絶反応)を起こした経験がありまして・・・。それ以来、翻訳本はトラウマとなり、一切手を付けることはありませんでした。そんな私がなぜ今回、本書を手にとることになったのか?それはひとえにアマゾン(Kindle)で無料だったから!(笑)ところがこの、「無料」。ノーリスクで新刊が読める!という環境は、日頃の選書から外れたジャンルと遭遇する機会になる!そして、「無料」ゆえ選んだ本書との出会いによって、過去のトラウマから開放されることになった。本書はまるで映画脚本のようなドラマチックなノンフィクション。ハラハラ・ドキドキ、そして胸アツな展開に、文字通り手に汗握り、そして号泣!!あっという間に読み抜けた久々の読書体験。物語の魅力は言うまでもない。それよりも注目すべきは、取りも直さず訳者の日本語表現!流れるような翻訳で淀みなくスラスラ読めた!この体験が今後、私の選書の傾向に大きな影響を及ぼすのは間違いないだろう。それはつまり、翻訳本だ!

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【推薦者】徳永 悦子

【推薦作品】『秋の火』

【作者/訳者】イレーヌ ネミロフスキー 芝盛行訳

【推薦文】  

主人公テレーズ、第二次世界大戦中のフランスでの小説。女性てあり、妻、母、そして家長として、夫であるベルナールの不実に嫉妬に苛まれながらも愛一筋に清廉潔白に自己を確立していく作者と主人公の気持ちと同するものを感じる。 訳者はこの内なる強さを巧みに表現されて読書を最後まで魅了し、素晴らしく後味の良い作品となっています。 イレーヌの才能を紹介していただける訳者芝盛行さんに感謝とエールを送ります。


【推薦者】沖縄 久米島

【推薦作品】『秋の火』

【作者/訳者】イレーヌ ネミロフスキー 芝 盛行訳

【推薦文】  

訳者の作者イレーヌ愛を沢山感じます。 イレーヌの運命的な死を感じながら読むと切なさが募りますがこの作品からは女としての可憐な中に真の強さを感じます。 訳者芝さんの豊富な語彙力で主人公テレーズと前夫、夫、息子の心を表現し、彼ならではの作品となっていると思います。 素敵な作品ありがとうございます。


【推薦者】林 みき

【推薦作品】『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』

【作者/訳者】パオロ・コニェッティ、他/飯田亮介、越前貴美子、粒良麻央、中嶋浩郎

【推薦文】  

2000年以降に発表された13名の現代イタリア文学の作家による15作品を収録した21世紀イタリア短篇アンソロジー。13名のうち11名が日本初紹介で、各作家の世代やキャリアはもちろん、作風も物語の内容もさまざまである。だが、どの作品にも心を震わす魅力があり、これまで触れる機会があまりなかった現代イタリア文学のことをもっと知りたい、もっと読みたい……と、知的好奇心を掻き立てられる。イタリアの“いま”を伝え、読み手である私たちの“世界”も広げてくれる本書は「読むと世界が変わる本」と言ってもよいだろう。優れた翻訳者の方々はもちろん、この上ない貴重な読書体験をもたらす良書を生み出してくれた編者と出版社の方々に対しても感謝を覚えずにはいられなくなる一冊。

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【推薦者】深作 健太

【推薦作品】『沈黙する教室』

【作者/訳者】ディートリッヒ・ガルスカ/大川珠季

【推薦文】  

清新な翻訳! 〈自由〉の意味が問われる今、 最も読まれるべきドイツ本です。

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【推薦者】二千

【推薦作品】『茶匠と探偵』

【作者/訳者】アリエット ド・ボダール/大島 豊

【推薦文】  

アジア的文化圏であるシュヤ宇宙。宇宙船の胆魂が抱魂婦の胎から血まみれて生まれ、その魂のためだけに作られた船の御霊屋に宿り、血族の記憶を抱いて長い時間を生きる等、とにかく設定が魅力的で、家族・一族を基にした価値観が主である世界は西洋文化のそれより情念的で生々しいです。難民であったり、同性愛者であったり、社会との軋轢に苦しみながらそれでも生きていく登場人(?)物たち。どの物語も素晴らしいですが、「船を造るものたち」が特に心に残りました。

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【推薦者】北田 敬子

【推薦作品】『とんがりモミの木の郷 他五編」

【作者/訳者】セアラ・オーン・ジュエット 作 / 河島弘美訳

【推薦文】  

この作品集は、19世紀末から20世紀初頭にかけて米国ニューイングランドのメイン州の海辺を舞台に、慎ましく暮らす人々の姿を鮮やかに描いている。作者を髣髴させる表題作の語り手は夏季休暇と執筆の場を求めてダネット・ランディングという町を訪れ、ミセス・トッドの家に滞在する。そこで出会う人々、人々が語る記憶、古めかしくも丁寧で端正な暮らしぶりに彼女は魅了されていく。現代の日本の読者にとって遠い時空の物語かと言えば、風俗や習慣の表層こそ違え、深層においてはむしろこのような時代だからこそ惹かれるところの多い、人と人、人を取り巻く海や森の豊穣の世界が広がる。とりわけ中高年の女性たちの年齢に裏打ちされた心情や振る舞いの描写は、どの国でも深く顧みられることのなかったフロンティアへと読者を誘う。アメリカ文学史上には名高い存在であったジュエットを、初めて日本の読者に親しみやすい形で紹介するという意味でも貴重な一冊だ。

書影

【推薦者】土岐葉 満

【推薦作品】『沈黙する教室』

【作者/訳者】 ディートリッヒ・ガルスカ/大川珠季

【推薦文】  

東ドイツの、ある高校の一クラス全員が、ほんのちょっとした行為がきっかけで反革命分子とみなされて、全員退学させられ、その後、そのクラスの大多数が西ドイツに亡命した事件の当事者が書いたノンフィクションの翻訳だが、当時の複雑な時代背景の東ドイツのノンフィクションを日本語に置き換える作業は大変だったと想像できるが、東ドイツのこの若者たちの勇気と生き様を生き生きと日本語でも描写できていて、読み易く、ひきこまれる翻訳になっている。歴史やドイツ史に興味がある人だけでなく、道に迷う若者にもお勧め。勇気を持って自分の考えて行動することの価値を教えてもらえる。

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【推薦者】水野 史土

【推薦作品】房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園

【作者/訳者】林 奕含/泉 京鹿

【推薦文】  

塾講師が13才の女子生徒を性的暴行する話。性的な描写もあり、ひたすらに悲しい・辛い話ですが、是非とも読んでおきたい本だと思います。 著者は2017年に本書を執筆後に自殺しています。原典を読む語学力が無くて読むことができなかったのですが、翻訳してくれたことにより日本語で読める、ということに感謝して、推薦します。


【推薦者】ガラ ダリ

【推薦作品】ファン・スーチーの初恋の楽園

【作者/訳者】リン・イーハン/泉京鹿

【推薦文】  

初恋と呼ぶにはあまりにも苦しいものだった

古典文学を愛する聡明な二人の少女

精神の双子のように寄り添い過ごす幸せな日々が

美しい容貌を持つファン・スーチーだけが

国語教師の歪んだ欲望のはけ口にされてしまう

ことで崩壊していく

文学は何も救ってくれないどころか

近代思想を詰め込んだせいで、口を閉ざして

抑圧を選んでいくファン・スーチー

精神の双子の敬愛する聡明で麗しい伊紋も

順風満帆な結婚の裏で夫の暴力にさらされていた

社会が学歴に権力を与え魔物を作っていく

教師という立場を利用し若い娘を餌食にしていく

社会を支配する金と力に魂をささげた大人たちが

教え諭す知識や文学の無意味さを憎み

それでも言葉に物語に救いを求める

やり場のない絶望を抱えた矛盾を書いている

文学に絶望しそれでも渇望する

文学を人間に置き換えれば著者が救いを

求め続け自分の中に見出せなかった結果が自死と

なったのかと思わずにはいられない

誰か一人でも生きることを学んだうえで考える

ことを学べる強い大人がいてくれたらと考えずにはいられなかった

言葉は物語は抑圧するために使うんじゃない 理不尽と暴力に抗うために使うんだと


【推薦者】ろ ば

【推薦作品】『波』

【作者/訳者】ソナーリ・デラニヤガラ/佐藤澄子

【推薦文】  

スリランカの地震、それに続く津波で家族を喪った女性の手による本書は、「喪失と再生」などというかんたんな言葉を許さない真実が描かれている。たくさんの災害で傷つくいまの日本に、必要な本だ。喪失は深く、ただそこに在るもので、美談などにはなりえないということで救われる魂もたくさんあるはずだ。翻訳は読みやすく、原書で読んでいるかのような錯覚さえ起こす。この本を紹介したいという企画自体も訳者によるものだと聞いた。読むことができてよかった。


【推薦者】若木 信吾

【推薦作品】『波』

【作者/訳者】ソラーニ・デラニヤガラ/佐藤澄子

【推薦文】  

作者の津波の被害にあった強烈な実体験と、心の変化していくさまを、スピード感落ちることなく、高い温度で読み進めることができたので、まるで自分が体験したようにとても共感を抱くことができました。


【推薦者】カラフル 色彩

【推薦作品】『ロイヤル・シークレット』

【作者/訳者】ライラ・ペース/一瀬麻利

【推薦文】  

イギリス王室の皇太子のジェイムスが実はLGBTで本当の自分を偽りつつ、日々の勤めに励んでいるという思い切った設定のストーリーでした。英連邦の次期首長でもあるからこそ、乗り越えないといけないハードルも高く、ジェイムスを取り巻く諸問題の数々。何故ここまで立場も違うジェイムスの一喜一憂に読者は共感してしまうのか…。人は皆社会生活において、それぞれ役割分担を求められ、多かれ少なかれペルソナを被って毎日生きています。程度の差はあっても、人と関わる中で本当の自分を出しきれないのはジェイムスと変わりません。だからこそジェイムスに親近感を覚えずにいられないのです。 後半のカミングアウトに至るまでの経緯には心を打たれました。勇気を出して本当の自分を伝えないと何も始まらない。直ぐに世の中を変える事は難しいけれど、明日は今日よりより良くなる、、。勇気を呼び起こしてくれる作品でした。 読書中に英国王室の離脱問題が報道され、時代にマッチングした作品だと感じました。また作品に漂う自分達の権利は自分達の手で掴み取るという姿勢は、島国で守られた日本人には無い性質で、世界の多様性を翻訳物を通して知るのは楽しいことです。


【推薦者】橋本 裕芳里

【推薦作品】『波』

【作者/訳者】ソナーリ.デラニヤガラ/佐藤澄子

【推薦文】  

2011年東北大震災と、この手記を重ね合わさずに読むことができる人はいないだろう。悲劇的な事実だが、そこに書かれている文章の静謐さが美しい。過去を振り返り、そこに描かれている、全てが存在していた過去と、全てを失った今。ただ、人が全てを失うということもないのだと、改めて気づかされる。書くことで心が取り戻されていく、そんな作者が, 津波から7年後のクジラとの遭遇の章は、本当に美しい。 このような手記を、素晴らしい翻訳で読むことができ、幸せである。


【推薦者】ごめんね ティミー

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

まず本書の「イルカは尊い」で始まるシンガーソングライター・サッシーが描いた詩にグッと心を掴まれた。サッシーは自分と同類だ!と感じトラック1の歌詞を読んでひとしきり感動した後、気になって洋書の原文を見てみると、やられた!と思った。それは”Oh, why can’t people be more like dolphins? “直訳では、「なぜ人はイルカのようにもっとなれないのか?」となるが、修辞疑問文なのだろう、これを「イルカは尊い」とした言葉のセンスに訳者の並々ならぬ言語に対する造詣の深さを感じ取った。それでページをどんどんめくっていくことになったのだが、特にお気に入りは第8章の場面。エコ戦士サッシーが選挙に出馬予定のお父さんと一緒に訪れた市長主催のパーティでの出来事だ。非人道的に飼育されたであろう鶏のチキン皿を見て、市長に抗議をする下りや内面の声があるが、それがティーンの言葉で巧みに描き出されていた。本書は、この本を生き生きとした訳語で世に送りだし、なんとか地球を救わねば、という訳者の情熱が込められた1冊である事は間違いない。痛快で深淵な「サッシーは大まじめ」は、誰もが一気に読み終えてしまう、そんな素敵な一冊だった。

書影

【推薦者】沢 円

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】 カルロス・スポットルノ作/上野貴彦訳

【推薦文】   

難民について詳しくない私ですが、この本では、真実の絵(写真)を中心に解説されているので、具体的に状況がわかります。  難民については、本当に考えなければいけない重要な課題です。  この本を多くの方に読んで頂き、関心を持って欲しいと思います。

書影

【推薦者】ハ ギ

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉慈欣/大森 望、光吉 さくら、ワン チャイ

【推薦文】  

中国らしいスケールの大きさと、物語の厚みというか深さというか、圧倒されました。それでいて、続きが気になって仕方ない面白さ。SFを読み慣れない読者でも問題なく楽しめるくせに、まぎれもなく壮大なSF作品。2019年に読んだ翻訳文学のイチオシです!

書影

【推薦者】吉井 古都子

【推薦作品】ある一生

【作者/訳者】ローベルト・ゼーターラー/浅井晶子

【推薦文】  

80年の生涯のほとんどを孤独に貧しく生き抜いた主人公。多くの言葉を必要とせず静かだが、読者の心に深く響きわたり、わたしの魂が喜び衝撃と感動に満たされました。 役者の浅井晶子さんは、2019年、この作品以外でも『トリック』『国語教師』などと素晴らしい翻訳本を手掛け、まさに翻訳大賞にふさわしいと思い推薦いたします。

書影

【推薦者】大戸 敦子

【推薦作品】『きのこのなぐさめ』

【作者/訳者】ロン・リット・ウーン/枇谷玲子、中村冬美

【推薦文】  

きのこ、きのこ、きのこ。きのこの世界は独特で、それを愛する人も一癖ありそうな…となんとなく思ってた。そんな「きのこ」?どうして「きのこ」?そして「なぐさめ」?と手に取ると、やっぱりきのこの世界はどこまでも豊かで、なんとも奥深い。喪失のない人生はないけれど、夫を失った著者の大きな喪失の痛みを、きのこの豊かな世界が吸い取っていく。きのこ、ああ、きのこ。気がつくと、読んでるこちらまできのこの虜だ。

書影

【推薦者】法水

【推薦作品】『三体』

【作者/訳者】劉欣慈/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ

【推薦文】  

普通、翻訳と言うと一つの言語を別の言語にすることをイメージするが、同じ日本語をSFとして読めるように翻訳するということもありえるのだと目から鱗が落ちた気分。実際、大森望さんが最終的に仕上げた訳文は読みやすく、作品自体の魅力もあって非常に面白かった。

書影

【推薦者】ナッシー

【推薦作品】サッシーは大まじめ

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

地球温暖化対策を訴える17歳のグレタさん。 それに引き替え、我が国の環境大臣は国際会議に行きビフテキを食べ、セクシー発言…。 『サッシーは大まじめ』の13歳の主人公サッシーは、まさに、グレタさんそのもの。環境を破壊する大人たちと闘う様が痛快に描かれている。 一人でも多くの未来を担う子どもたちに、待ったなしの環境問題が自分たちの問題そのものだと気付く契機になってほしい。 本書はまさに「深刻な環境問題を考えなければならない今の日本でもっとも日本翻訳大賞に推薦したい一冊」。

書影

【推薦者】ねこ うたた

【推薦作品】『ハバナ零年』

【作者/訳者】カルラ・スアレス/久野量一

【推薦文】  

著者は、キューバ出身の小説家で、バナ工科大卒の電子工学者。 「世界初の電話がハバナで発明されたことを証明する重要文書をめぐって、作家、ジャーナリスト、そして元恋人までが、カオス理論さながらの虚々実々の駆け引きとフラクタルな恋を展開――」こんな紹介文に、興味を抱いた方はぜひ手にしてほしい。期待が裏切られることはまず無いと思う。 「文書」はどこにあるのか、それぞれがどんな思惑でそれを追っているのか。新しい証言が出てくる度に状況がどんどん変わる。まさに「カオス理論」さながら。 タイトルの“零年”は1993年のこと。キューバ経済は破綻し、国民の生活は日々の食事にも事欠くほどに困窮している。でも、人々はどこか明るくて何よりパワフル。 数学理論を随所に引きながら展開する物語を、活き活きとした作品に届けてくれた訳者の尽力に感謝の意をこめて推薦します。またこここから、キューバの現代文学が紹介されることが増えることにも期待したい。

書影

【推薦者】舞狂 小鬼

【推薦作品】『おちび』

【作者/訳者】エドワード・ケアリー /古屋美登里

【推薦文】  

本書は、のちにマダム・タッソーと呼ばれる少女マリーの半生を描く奇想天外な物語だ。 歴史上の著名な人物たちが虚実入り乱れて織りなすエピソードは、山田風太郎の明治開花物やディケンズを連想させ、さらにマリーの圧倒的な生命力と周囲の人々の強烈な個性が相まって、中盤から先はページをめくる手が止まらなくなる。読者は安心して作者の企みに流されていけばいい。 これだけ力に溢れた物語だと、その勢いのままうまく日本語の文章に置き換えてゆくのはたいへんだったろうと思う。キャラに没入させるタイプの小説なので、癖のある登場人物たちの個性が表現しきれなくては面白みが半減してしまう。その意味で古屋美登里氏の訳はとてもすばらしいものだった。古屋氏による「ケアリー の語りの凄さが際立つ新たな傑作」との言葉が帯にあるが、これはそのままご本人にも送りたい言葉だ。

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【推薦者】eclectic ally

【推薦作品】『エレベーター』

【作者/訳者】ジェイソン・レナルズ/青木千鶴

【推薦文】  

青木さんの訳文のリズム感が好きで訳者買いをしていますが、この作品は内容の面でも形式の面でも作品と訳者の相性がとてもよいと感じました。この作家の他の作品集も読んでみたいです。

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【推薦者】島 千晶

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ、ギジェルモ・アブリル作/上野貴彦訳

【推薦文】  

原著から受ける衝撃を、忠実かつ自然なことばで訳した印象深い一冊。欧州における移民問題が、あますことなく記されており、ルポルタージュとしての価値も高い。 電子化の時代にあってなお、紙媒体で手元に置く価値のある作品だろう。

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【推薦者】伊藤 聡

【推薦作品】『オーバーストーリー』

【作者/訳者】リチャード・パワーズ/木原善彦

【推薦文】  

アメリカ各地に散らばった9人の登場人物が、最後の原生林を守るために戦うエコロジー小説。「本当におもしろいのだろうか?」という不安は、最初の登場人物ニコラス・ホエールの一族が暮らす19世紀アメリカの描写で完全に吹き飛んでいる。森に生きる無数の生命体が織りなす相互扶助と循環のシステムは、同時に勝者総取りのアメリカを批評し、ウォール街の占拠に象徴される富の不均衡への異議申し立てと重なる。「どれだけ儲けたら気が済むのですか?」「今よりもう少しだけ多く」(A reporter once asked Rockefeller how much is enough. His answer : Just a little bit more.)。 かくして、次の四半期決算を乗り切るためにいくらでも残酷に変貌する企業と、千年ただそこに立っていられる巨木の、時間に対する寛容さの差が希望となる。「頑張れよ。わずか百年か二百年のこと。おまえたちにとっては朝飯前だろ」(Hang on. Only ten or twenty decades. Child’s play, for you guys.)。本作をいきいきとした日本語に移し替えた木原善彦氏にも感謝を捧げたい。

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【推薦者】ボーダー 碧郎

【推薦作品】『ショウコの微笑』

【作者/訳者】チェ・ウニョン/吉川凪(監修)、牧野美加(訳)、橋本麻矢(訳)、小林由紀(訳)

【推薦文】  

『ショウコの微笑』を読み終えた時、平野啓一郎さんの分人主義という考え方を思い出した。「シンチャオ、シンチャオ」、「オンニ、私の小さな、スネオンニ」が今の自分に特に突き刺さった。小説を読んでいるのに、なんだかひたすら自分の話を聞いてもらっているような不思議な感覚を味わうことができた。何かを助言してくれるというより、隣に一緒にいてじっと話を聞いてくれる友人のような小説。

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【推薦者】ソウルの カフェで

【推薦作品】『惨憺たる光』

【作者/訳者】ペク・スリン/カン・バンファ

【推薦文】  

韓国短編小説。舞台はどれも、ヨーロッパの都市。そこに韓国人の主人公がさまざまな欲望や衝動を、静かに浮き上がらせます。それを軽妙に描き出すタッチに、あっという間に読んでしまいました。 舞台となる街はどれも、現実よりはお洒落に描かれています。それは、韓国人の多くが(あるいは日本人もが?)ヨーロッパに抱く妄想と同じなのでしょう。その都市空間で、不思議な感情に囚われた韓国人が、風変わりな行動をとっていきます。その対比が見事。韓国の都市部にある小洒落たカフェで、そこに集う若者たちの会話で、ちょっと貪欲さや特異さのあるものを盗み聞きしているような感覚になりました。 欲望を描いている割には、どぎつくはない。それが異様な心地よさを与えてくれます。無色透明の水にいろいろな色の水滴を落として浮かび上がる滲み模様が心に残っていました。

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【推薦者】F 南

【推薦作品】『となりのヨンヒさん』

【作者/訳者】チョン ソヨン/吉川凪

【推薦文】  

まず、こんなSFが読みたかった!もっともっと読みたい!翻訳書を出してくださりありがとうございます…という気持ちです。SFは好きだけどジェンダー観のひどさにガッカリすることの繰り返しだったこの日々もついに変わるのかとワクワクします。短編のそれぞれのリズムにフィットして小説世界に集中してはまりこめる訳文にも感謝です。

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【推薦者】Pipo @縁側

【推薦作品】『PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』

【作者/訳者】ローレンス・レビー著/井口耕二訳

【推薦文】  

1994年時点で『トイ・ストーリー』というコンテンツをディズニーとの契約下で鋭意製作中なものの、経営的には全然ぱっとしないアニメ制作会社・ピクサーを、優良企業に引き上げるまでを著者が回顧したノンフィクション。 ジョブズとピクサー(とディズニー)の間に生まれている溝に橋を架け、慌ただしく行き来する筆者に疲れている暇などなく、その能力とタスクの達成を可能にするパワー、人脈に圧倒されるし、自分に手駒がなくても、どうにかして自分の目的につなげるステップは読んでいて面白かった。ちなみにジョブズは、読む前の「めんどくさそうなオーナーだな」という印象から全然変わらない。というか、そのめんどくささにうまくパッチを当てて利用していく、著者の巧みさが際立つ。 原著の文にみられるスピード感とイメージが訳文でも同じテンポで再生されているので、こうしたジャンルの翻訳をしたいかたは、突き合わせて勉強もしやすいと思う。

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【推薦者】sachi zo

【推薦作品】『きのこのなぐさめ』

【作者/訳者】ロン・リット・ウーン/枇谷玲子、中村冬美

【推薦文】  

ノルウェーで最愛の夫を亡くした著者が、きのこ講座に参加する。五感できのこを感じ、きのこの生息場所をやりとりして愛好家と関わる過程で、少しずつ世界と出会い直していく。喪失から回復するノンフィクションでありながら、知的好奇心も刺激され、足元に広がるきのこの健気さに愛おしさを感じてしまう、予想しえない読み心地だった。面白い小説にも沢山出会ったが、他にない魅力を持つ本書を、翻訳大賞に推薦したい。

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【推薦者】mos green

【推薦作品】『コレットのにげたインコ』

【作者/訳者】イザベル ・アーセノー/ふしみみさを

【推薦文】  絵本ですがとても感動した一冊。 絵本の世界観を日本語訳で崩さずに子どもだけの登場人物のなかで少しのユーモア交えながら、真っ直ぐな子どもたちに描かれています。

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【推薦者】阿部 恵

【推薦作品】『迷うことについて』

【作者/訳者】レベッカ・ソルニット /東辻賢治郎

【推薦文】  

前作のウォークス歩くことの精神史は待望の読みたかった洋書で読み始めたものの、分厚い本で注訳が多く疲れてしまったりして、イマイチ気分が乗れなかったのです。 とても読みたかった本で洋書とも比べたりもし、訳し方や本の作り方でだいぶ違ってくることを理解した一冊でもありました。 2冊目の同じ著者の本でボリュームも薄くなったのか、こちらは愉しんで読むことができました。 彼女の著書は時事問題に絡めて歴史なども多く登場するので、恐らく調べることもとても多いのかと思います。 ご苦労も含めて投票させていただきます。

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【推薦者】t s

【推薦作品】

『マンハッタン・ビーチ』

【作者/訳者】ジェニファー・イーガン/中谷 友紀子

【推薦文】  

1930年代のマンハッタンビーチがどのような場所だったのかを調べていた時期に本屋で見かけ思わず手にとったのですが、 移民たちの物語であり、海洋冒険譚であり、マフィアノワールであり、女性の成長譚でもある…という盛りだくさんな内容に驚きました。あまりにも幅広い展開をする内容に混乱するかとも思ったのですが、とても読みやすくかつ面白い本で2019年繰り返し読んだ一冊となりました。 読後に気づいたのですが翻訳者の中谷先生はゴーンガールの翻訳で一度目にしており、当時も素晴らしいお仕事をされているなと思っていたのですが、今作も素晴らしかったです。

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【推薦者】森野 ねここ

【推薦作品】『取り憑かれた本屋』

【作者/訳者】クリストファー・モーリー/龍居龍昌

【推薦文】  

「本」をテーマにした、とある古本屋が巻き込まれる探偵小説。 英米文学の名著に触れながら、1919年の第一次世界大戦が終結したばかりのニューヨークで古本屋の主人と広告代理店の若者が奇妙な事件を解決するために奔走するストーリー。 百年前に書かれた作品ですが、「戦争とテロリズム」について描かれており、現代がまさに必要としている物語なのではないかと思い、推薦しました。 古典や詩も丁寧に訳され、登場する人々も生き生きと描写されている読みやすい翻訳です。 また、このように古い作品が個人で訳され、kindleで個人出版されている点にも未来を感じました。今まで眠っていた外国語の小説が翻訳され、気軽に出版されていくといいなと思いました。


【推薦者】いの こう

【推薦作品】『ソビエト・ミルク: ラトヴィア母娘の記憶』

【作者/訳者】ノラ・イクステナ/黒沢歩

【推薦文】  

この物語は祖国ラトヴィアをソ連に奪われた母親と、ソ連の領地となった土地で育った母乳は毒だからとミルクをもらえなかった娘の話。 母も娘もどちらも“ない”という状態を手にしているけど、失ってしまったために“ない”のと、もともと持っていないから“ない”のでは全然違う。 傷があることは周りからでも見ることはできるかもしれない。でも、その痛みは本人にしかわからない。 きっと自由がほしいわけじゃない、あの時の自由が忘れられないだけ。 そんなことを思った一冊でした。

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【推薦者】ヨシダ ジャック

【推薦作品】『オーバーストーリー』

【作者/訳者】リチャード・パワーズ/木原善彦

【推薦文】  

そして語り部が 来てぼくたちに 投げかける 人が樹木に変わる話を ※パトリシアの挿話が大好きなのである。

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【推薦者】HAGI Yasuko

【推薦作品】『失われた女の子 ナポリの物語4』

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

「ナポリの物語」シリーズを通してですが、 常に思わぬ方向に話が転がるので、 めまぐるしくも、まったく飽きない作品でした。 一度、 見開きの右ページを読んでいた際に、 左ページで起こる驚愕の事件が目に入ってしまい、 「しまったー!」と後悔しましたが。 また、事件と暴力と同程度の比重で、 恋愛が絡んでくるのも面白かったです。 そして、ナポリと言う舞台ゆえか、 作者の筆致なのか、 陰惨なシーンもカラッとしているのも印象的でした。

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【推薦者】sesha lover

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】Harry Stack Sullivan/阿部大樹,須貝秀平

【推薦文】  言語病理をきたしている人の言葉まで日本語になっていて驚く. “last” “lad” “sad”とpunningを起こしながらノートを埋め尽くしたスキゾフレニアで同性愛の子は『終焉少年無念』と書いたことになっていた!ユリシーズの翻訳でも読んでるようだった…翻訳者の経歴を見て二度驚く.

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【推薦者】くる くる

【推薦作品】『きのこのなぐさめ』

【作者/訳者】ロン・リット・ウーン/枇谷玲子・中村冬美

【推薦文】  マレーシア人の著者がノルウェー人の夫を亡くし、夫の母国ノルウェーでどのように生きてくか思案している中で出会った「きのこ」。きのこ採りの魅力に著者が徐々に目覚めるとともに、生きる意義を見出していく、静謐なエッセイ。著者は誤訳をさけるためか、きのこのラテン語名称を紹介し、翻訳者も誠実に翻訳。例えば、和名未詳は和名未詳としている。毒物にもなりうるきのこに対して誠実な姿勢のエッセイ。よく訳してくださいました。

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【推薦者】只今小説熟読中

【推薦作品】『アイル・ビー・ゴーン』

【作者/訳者】エイドリアン・マッキンティ著 / 武藤陽生訳

【推薦文】 最初は小説として読んでいるのに、時折詩を読んでいるような気がするくらい文体が心地良いです。そして所々の文章から硝煙が感じられます。 今作では人探しと密室事件の解決が主軸です。どちらの展開にも緊張がありましたが、時々それをほぐしてくれる同僚たちとのやり取りが物語に良いバランスを与えていると思いました。 そして読み終えた時は、苦味がありながらも締まった余韻を味わえました。 当時の情勢を知る一助にもなる、良いミステリ小説です。

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【推薦者】りつこ

【推薦作品】『ある一生』

【作者/訳者】ローベルト ゼーターラー /浅井 晶子

【推薦文】  

幼くして母を失い、母の義兄に育てられたエッガー。アルプスの厳しい自然と時代の荒波に揉まれ幸せとは程遠いように思える人生を送るが、エッガーが老人になってからいたる境地には驚きと感動があった。 読み終わって時間が経ってもその感動が薄れるどころか、じわじわと増していくような作品だった。

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【推薦者】千葉 聡

【推薦作品】『世界文学アンソロジー いまからはじめる』

【作者/訳者】チヌア・アチェベ 他/秋草俊一郎 他

【推薦文】  シェイクスピア、ディケンズ、メルビル、モーパッサン、ドストエフスキー、魯迅。こういう作家たちが世界文学だと思っていた。そんなひと昔前の常識を軽々とぶち壊してくれる一冊。チヌア・アチェベやコレットの初訳を含む27編は、読みやすいものばかりではない。「世界文学は不協和音だ」と秋草俊一郎が言うように、読みやすさや調和より、リアルな、そのとき、その場のぎりぎりの作品の声が優先されている。 編者5人は全員が三、四十代と若く、文学の新しい波を思う存分吸収しようとしている。頼もしい。

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【推薦者】かねつぎ ひろし

【推薦作品】『種の起源』

【作者/訳者】チョン・ユジョン / カン・バンファ

【推薦文】  

「血の匂いで目覚めた」の一文で始まるこの小説、ホラーな部分も多々あったが、物語に引き込まれるように私には珍しく一気に読むことができた。主人公Yの生まれ持った特徴と言うか、時折狂気的になることで事件が起き物語が進んでいく。それも一番身近かな家族を中心に。家族と聞くと一般的には暖かさを想像するだろうが、その反対に一番難しい人間関係も家族なのかなとも考えてしまう。Yの狂気さは異常だが親しい人との別れはYもつらかったようで安堵さえもした。私は家族との人間関係を考えさせられる一冊となったとともに、サイコパスと聞くと狂気的な何かを想像してきたが特徴として捉えるべきなのかなと思うよにもなった。非常に読み応えがある一冊でした。今後もこの作者と訳者のコンビによる新たな作品に出会えることを期待する。

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【推薦者】池畑 さちえ

【推薦作品】惨憺たる光

【作者/訳者】ペク・スリン/カン・バンファ

【推薦文】  

短編の全てが過去の懐かしさ、もどかしさ、切なさなどを今という時間で語っているのが印象に残る。過去は思い出という綺麗なものだけではない、と登場人物に語りかけられているようだ。お話も舞台も韓国だけでなく、パリやベネツィアにいる韓国人。海外旅行や留学の盛んな現在の韓国ならではのテーストではないか。決して明るいお話ではないのだが、とてもフンワリとした作家のこの作品の雰囲気を上手に翻訳に散りばめているようだ。

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【推薦者】友安 昌幸

【推薦作品】『惨憺たる光』

【作者/訳者】ペク・スリン/カン・バンファ

【推薦文】  

10話の短編集。韓国人が世界各所の場面に登場します。それぞれ韓国人らしさが現れた描写があり、微笑ましかったり、考えさせられたり。 訳者の翻訳はいつもながら翻訳である事を感じさせません。自然な日本語に上手く表現されています。

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【推薦者】あきやま あき

【推薦作品】『映画と災厄』

【作者/訳者】イルゼ・アイヒンガー/小林和貴子

【推薦文】  

著者の長編『より大きな希望』(再刊:2016年)にとても衝撃を受けたので、本書が出ると知った時はとても驚きました。エッセイですが著者が明確に意見を言うのではなく、体験や真意などが巧妙に隠され、謎解きの要素を含んでいるのが魅力の一つだと思います。 ルビを振ることでアイヒンガーの言葉遊びを再現しており、日本語でアイヒンガーの表現を体験することができ嬉しかったです。また著者の住んでいたウィーンの地図、エッセイに登場する映画の注釈も分かりやすく、訳者の方の読者に伝えようとする想いを感じました。 本書の刊行を機に、他のアイヒンガー作品に注目が集まればと思います。

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【推薦者】八重樫 裕

【推薦作品】『オーバーストーリー』

【作者/訳者】リチャード・パワーズ/木原善彦

【推薦文】  

淡々と積み重ねる冷静な言葉が描く、ゾクゾクするくらい緻密で壮大な営みに、ひたすら心を震わされる快感。こんなエモーショナルなストーリーにあと何回出会えるんだろうと心配になるくらい好きです。

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【推薦者】江口 英

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギーギブソン/松田綾花

【推薦文】   

冒頭のイルカの詩がとても心に響いたので、すぐに本の中に引き込まれた。  展開が早く面白いので、最後までどんどん読み進んでしまった。登場人物が皆、具体的に描写されているので、頭の中でシーンを想像しやすかった。親友は個性的で、もし実写版ドラマがあったらどんな風になるだろうとワクワクした。  ティーンエイジャー向けの小説かもしれないが、大人でも(誰もが経験したであろう)思春期の思い出と照し合わせながら楽しく読めるし、考えさせられるメッセージ(今まさに大人が!)もあり、一人でも多くの人に是非読んでほしい優れた本だと思った。

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【推薦者】イニエスタッソ

【推薦作品】『失われた女の子』(ナポリの物語4)

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ /飯田亮介

【推薦文】  

4刊もののラスト。どの刊も良かったですが、最後まで出てから推薦しようと思って今年まで置いてました。 単純にエンタテインメントとして最高で、読みだしたら止まらない、先が知りたい、続刊が出るのが待ち遠しいって気持ちになれた数年間でした。勢いあまって今年の夏はナポリ旅行にいったほどです。

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【推薦者】ナツ メグコ

【推薦作品】『トリック』

【作者/訳者】エマヌエル・ベルクマン/浅井晶子

【推薦文】   

20世紀のヨーロッパでナチス政権下を生きた老マジシャンと、21世紀のアメリカで両親の不仲に胸を痛める少年が出会って起きた「奇跡」の物語。  マジシャンの生い立ちから壮年時代までが語られるページからは秘密めいたセピア色の風景が浮かび上がる。一方、現代のアメリカが舞台の場面では滑稽さと少年の健気さが生き生きと描かれている。  一冊で二種類の小説に接したような読みごたえがあり、ラストで「本当によかった!!」と手放しで嬉し涙を流せる最高の作品。  かつてのヨーロッパの不穏な雰囲気も、アメリカのユーモアたっぷりな騒々しさも、目の前にありありと情景が浮かんでくる訳文もステキです。

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【推薦者】みやもと ゆういち

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ作、上野貴彦訳

【推薦文】  ヨーロッパの国境と難民についてのグラフィックノベル。755コマの報道写真とルポルタージュを、マンガのようにして割り付けた、これまでにない斬新な本だと思います。扱っている状況が複雑なだけに、分かりやすい物語になってはいません。しかし、こうした硬派な作品に見合った日本語訳と解説をつけた本書のような翻訳作品が、より多く世に出て、新しい論点を提供してくれることを願っています。

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【推薦者】鈴木 麻弓

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ、ギジェルモ・アブリル /訳:上野貴彦

【推薦文】  スペイン語版を皮切りに、2017年に写真界でもかなり話題になった著書。コミック形式のドキュメンタリーが写真集として評価されたことも、写真家の私には関心がありました。 この日本語版は枠外にキャプションがついおり、さらに理解が深まります。写真に写っている壁の落書きや看板でさえ、枠外に小さく訳をつけている。これは非常に助かります。例えばp10にある「Santa Europa da Esperanza」には「希望の聖ヨーロッパ」と脚注が書いてある。「人々はEUという連合国の幸せを夢見ていたのに……今は?」という著者の疑問点を感じさせる1コマ。絵だけを追っていったのなら、言語がわからない私たち到底イメージできませんが、こうした脚注があることで市井の人々の想いについて解釈が広がるわけです。訳者の心配りが垣間見れるところがありがたいと思いました。

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【推薦者】緑川 三つ

【推薦作品】『サブリナ』

【作者/訳者】ニック・ドルナソ/藤井光

【推薦文】  「ポスト・トゥルース」という言葉が流行してからもう4年になる。世界はどんどん高度に情報化しているはずなのに、私たちは真実から遠ざかりつづけている。そんなことも忘れかけていた2019年に本書を読んだ。今の世界が描かれていた。真意を問わず拡散するニュースや、情報の個人への最適化。インターネットによる分断はどんどん進んでいるが、それを作者はアイロニックに示す。 本書を読むことで私たちは周囲の状況や文脈をちゃんと思い出すことができる。でもそれも時間の問題だ。本書のように隣人が本当はどんな表情をしているのかすら、分からない時代が来てしまうのかもしれない。

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【推薦者】S S

【推薦作品】『さようなら、ビタミン』

【作者/訳者】レイチェル・コン/金子ゆき子

【推薦文】  アルツハイマーの父親の介護という重いテーマでありながら、ユーモアたっぷりに語られていく、味わい深い家族小説です。大好きな父親が記憶をなくしていく辛さだけでなく、父親の浮気、母親と娘(語り手)の溝、語り手の失恋(大学を中退してまで追いかけた婚約者に浮気される)など、悲しい現実が次々に描かれるので、決して軽い読み物にはとどまりません。語り手の日記形式で描かれ、その中に父親が昔書いた娘への手紙が挟まれます。その構成が娘の語る現在のできごとに奥行きや意味を与えていきます。最後には希望の灯りもーーぜひ推薦したい作品です。

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【推薦者】森山 淳子

【推薦作品】『亀裂 欧州国境と難民』

【作者/訳者】カルロス・スポットルノ、ギジェルモ・アブリル作/上野貴彦訳

【推薦文】  いまだに戦争のたえない現実、危険にさらされ、生まれて生活していた国から追われ国境をこえなければならない人々、経済格差から他国に働きにでなければならない人々…そこに生じる人間どおしの軋轢や期待、不安、怒り、悲しみ、絶望、共感、そして生きるエネルギーや喜び…。そうした人々の背景や表情をフォトグラフィックノベルという手法でリアルに私に伝えてくれたこの本に感謝してやみません。

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【推薦者】筒賀裏 筒賀裏

【推薦作品】『短編画廊』

【作者/訳者】ローレンス・ブロック他/田口俊樹他

【推薦文】  

近年久しぶりに「手元に紙媒体で持っておきたい」と思える書籍だった。豪華な作家陣がおのれの筆力を見せつけるかのような宴のような作品だが、そうそうたる翻訳陣もそれと同じく、どの翻訳もすばらしく思えた。


【推薦者】1981 0808

【推薦作品】『消される運命』

【作者/訳者】マーシャ・ロリニカイテ/清水陽子

【推薦文】  迫力のある描写に圧倒されました。実際に収容所に収容されたこともある著者が書いたこともあってか、息づかいや心理描写などにもリアリティを感じる。


【推薦者】et cetera

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】H・S・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】  

1932年の著作のこの本が2019年の日本で翻訳・出版されることを意義深く思う。精神病理学の教科書の体を取りながら、読者はサリバンの人となりに魅せられていく。通奏低音としての「精神医学は対人関係論である」、強いメッセージとして「自分自身を患者の立場にどこまで置き換えることができるか、意識的かつ理知的に・・・」、最後の言葉は、医学・福祉を目指す人のみならず全ての人々に届く言葉である。

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【推薦者】三ッ石 明

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  サッシーという13歳の女の子が 地球環境について色々な角度から 問題提議し彼女らしいやり方で 立ち向かっていくお話に 引き込まれました 『私達の世代はもっと考えなくてはいけない』 サッシーのように一人でも多くの方が 『大まじめ』に環境、自然、生態系等について考えないといけないと思いました。

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【推薦者】篠原 佐梨

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

13才の”エコ戦士ガール”サッシー。彼女の環境問題への情熱は、まじめを通り越してまさに”大まじめ”。でも環境問題ばかりではなく、これはラブコメ?と思わせるような楽しい展開もあって、どんどんストーリーに引き込まれる。全体を通して友達と会話しているかのような筆致で描かれている点も、まるで自分が物語の中に居るかのような感覚に陥らせてくれる翻訳の妙。さあ、サッシーと一緒に地球を救おう!

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【推薦者】くましろ たかし

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】H.S.サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】

禁酒法時代のシカゴ、寒村から一人でやってきた新米の精神科医。同性愛者として、あるいはアイルランド系移民としての葛藤。ヨーロッパから亡命分析家たちがやってきて、少しずつアメリカに精神医学が作られていくころの話。 著者自身の生活史が匿名の患者として(しかも複数の別々の患者として)あらわれる精神医学の教科書はおそらく唯一だろう。けれども著者はそれを隠したかったのか、原題Personal Psychopathologyはどことなく両義的。 これを『私記』と訳したのはうまい。 紀伊国屋じんぶん大賞で懐かしい名前をみかけて購入した甲斐があったと思う。推薦します。

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【推薦者】田中 緑

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

主人公のサッシーが13歳にして「エコ戦士」として環境問題に取り組む話です。学校、家族、友達、夢、恋などお年頃なエピソードの中でも強い意志を持って主張していきます。その姿に心動かされる人は多いはずです。 訳者の松田さんは環境問題や貧困問題に関心を持ち、普段の生活でもエコを実践をしているそうです。あとがきでそれを知り、主人公の意志を表す場面では特に丁寧に翻訳されたと想像しました。読み終わった後、サッシーに心動かされるのはもちろんのこと、作者さんや訳者さんの想いまで伝わって来たように感じました。また、これからの地球のためにできることをしてみようと思えるきっかけにもなりました。親子でも楽しめる本です。この物語を通して、環境問題への関心、エコ活動への取り組みが増えることを期待したいです。

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【推薦者】五反田 はなこ

【推薦作品】『iレイチェル』

【作者/訳者】キャス・ハンター/芹澤恵

【推薦文】  

単純にストーリーに引き込まれたこともありますが、途中から翻訳書であることを忘れ、日本語で書かれた小説だという感覚で読んでいました。自然な翻訳って、こういうことをいうんだな、と思います。AIのキャラクターのセリフも、人間臭くも機械臭くもなく、リアルでした。

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【推薦者】水谷 晨

【推薦作品】『亀裂――欧州国境と難民』

【作者/訳者】ギジェルモ アブリル (著), Guillermo Abril (著), カルロス スポットルノ (写真), Carlos Spottorno (写真),/上野 貴彦 (翻訳)

【推薦文】  

私も以前はオランダに6年留学し、この原著も以前読んでいた。現在ヨーロッパは「移民」に対する様々な問題が共有される社会になったと言えよう。その中で、これほどまでに時代を客観的かつ誠実に分析し、精緻かつ該博な知識に基づいてその全貌を明らかにしようとした歴史的著作を、類まれなる豊富な対応語彙を駆使し訳し上げた上野貴彦氏の力量は、現代を代表する一流の研究者としてのみでなく、その文学センスにも見られるように、一人の文学者としてもおそらく今世紀最大の実力者の一人であろう。学術書における文学性の両立の難しさは皆様もご存知のとおりだと思われるが、氏のこのような姿勢は今後の学術界に革命をもたらす事だろう。なぜなら、エクリチュールが読まれるものである限り、その詩的な性質からはどうしても逃れられない。その宿命を過激に描き出した研究者、作家としての上野貴彦氏は、それほどの真摯さをもって本作を仕上げているからだ。

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【推薦者】アオイ ミタニ

【推薦作品】『新しい苗字』『逃げる者と留まる者』『失われた女の子』(ナポリの物語2~4)

【作者/訳者】エレナ・フェッランテ/飯田亮介

【推薦文】  

エレナ・フェッランテの4部作のうち、2~4が対象期間に出版されています。欧米ではブームとなっているそうですが、この著者を日本に紹介してくださった功績は大きいです。女性同士の嫉妬や足のひっぱり合いなども含めた濃い友情を描きながら、ブレイディみかこさんの「子どもたちの階級闘争」にも似た、貧困と教育の話や格差社会の構造、ステレオタイプな価値観に縛られがちな女性の生きづらさ、暴力、性といったものが語られ、現代的かつ普遍的。ナポリの小さな地区からあまり話は動かないのに、人一人の人生はなんて大きな物語なのだと驚嘆させられます。

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【推薦者】佐藤 隆

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】ハリー・スタック・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】  患者と交わしていたスキゾフレニックな夢の語りが、いつの間にか現実の話になり、しかもそれが著者自身の追想と入り混じっていくところ(第9章)は、素晴らしい高揚感と背徳がありました。 おそらく原著が書かれたのは、エリスンが『見えない人間』にサリヴァンを書き込んだころでしょうか。アメリカ文学のルーツの一つとしても、この本が翻訳されたことが嬉しいです。

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【推薦者】あらい もえか

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】  

13歳のパワフルな女の子サッシーが環境問題に向き合う物語。 この本を通して自分も環境問題について考えることができ、普段なかなか本を手にしない私でもとても読みやすく、楽しく読むことができました! 私の妹にこの本を進めたところ、長期休みの課題でこちらの本を題材に感想文を書いていました。 学生だけでなく大人も読むべき本だと感じました!

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【推薦者】神戸の 物好き

【推薦作品】『精神病理学私記』

【作者/訳者】ハリー・スタック・サリヴァン/阿部大樹・須貝秀平

【推薦文】  

待ちに待った翻訳でした。 はじめてサリヴァンが翻訳されたのが50年近く前で、それからおよそ10年に一作ずつ。これまでの翻訳者だった中井久夫先生が病気に倒れて、もう読めないかと思っていましたが、若い訳者が出てきたようで嬉しいです。 ひとの心を考えるときに、queerというのが何を指しているのか、そんなことを考えながら読みました。

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【推薦者】田仲 真記子

【推薦作品】『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』

【作者/訳者】デイヴィッド・マイケリス/古屋美登里

【推薦文】  

五十年にわたって『ピーナッツ』を描き続けたチャールズ・シュルツの評伝である。内気な少年時代、第二次大戦の従軍を経て復員後漫画家になるまでの道のり、連載開始後は、生涯何をおいても漫画を描き続けたシュルツ。著者は綿密な調査と取材に基づいて、時に作者の恋愛や家庭生活が、スヌーピーや、チャーリー・ブラウンなどのキャラクターに色濃く反映されていたことを語る。作中で描かれたシュルツ像は、常に連載に追われ、孤独で、家族とも距離を置き、大人になり切れないまま人生を生き切ったように見える。訳者の淡々と乾いた文体のおかげで、読者は中立的な視点を保ったまま、シュルツの人生を追いかけることができる。そして、シュルツを知りたければ、『ピーナッツ』の漫画を読めばそこに答えがある、という結論に達するのだ。

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【推薦者】うしうし もうもう

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギーギブソン 松田綾花

【推薦文】  

軽快なタッチで思春期の少女の全力投球な日々が描かれているが、実は環境問題に一石を投じている、メッセージ性の強い作品。 軽やかなジョークやシャレが多く、元の文からここまで日本風に訳すのは容易でなかったと思うが、訳者のウィットが効いたキレキレな訳が思わず読者をクスッとさせる、読んでて心地いい一作である。

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【推薦者】奥村 ペレ

【推薦作品】『ブヴァールとペキュシェ』

【作者/訳者】ギュスターヴ・フローベール/菅谷憲興

【推薦文】 菅谷憲興の新訳は鈴木健郞の旧訳にくらべサクサクと読める。リズムがいい。訳註もいい。だから読んでいて「ペキュシェ症候群(途中でギブアップ)」に陥ることもない。ヒュー・ケナーは『ストイックなコメディアンたち』で本書をこう評した。「グーテンベルクの帝国に対するピュロスの勝利[破滅的勝利]として生き残る」と。まったく同感だ。19世紀の倦怠と退屈。それがこのような百科全書的作品をもたらした。本書の主人公たちは元筆耕。ふたりでひとりの性格を構成している。彼らは「環境のすべてが巨大な記憶術の建造物に変じることを受け入れ」(ケナー)、非現実性の百科事典的世界に身を置いた。その結果、皮肉にも彼らは強烈なリアリティを表現することになった。ふむふむ。フローベールは本書でこう書いた。「真実なのは(百科事典的世界ではなく)現象のみ」かもしれない、と。至高のリアリスト、フローベールの面目躍如だ。

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【推薦者】Oenothera Odorata

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー ギブソン/松田綾花

【推薦文】 私がこの本の原書を知ったのは3年ほど前。物語の展開や言葉のチョイスの面白さもさることながら「若者が楽しく環境問題を知ることができる小説」という点が本当に素晴らしく、感動した。 当時、邦訳も読みたくて探したが見つからなかった。なので、この作品を見つけ出して日本に届けたという点もぜひ評価されてほしい。 昨年は日本でプラスチック汚染問題がかつてないほど注目され、世界で若者が気候変動問題を訴える動きが広まった。そんな中これらの問題に言及するこの本が日本で出された意義は大きい。より多くの人に読まれることを願っている。 扱われている題材はまじめだが、明るく勇敢な主人公のおかげで、ストーリーは決して暗くない。登場人物が人間味に溢れており、主人公の若々しい正義感や周りに理解されない苦しみも共感できるし、それとは正反対の恋人の合理的な考え方も、理解できる。個人的には、lenientlyを「おとがめ」と翻訳した箇所がお気に入り。

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【推薦者】なかわた

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】 かんきょうもんだいってむずかしいの? そんなことないよ。 じぶんさえよければ、ちきゅうのみらいがどうなってもいいなんて、おかしいよね。 勇敢なエコ戦士の女の子、サッシーが本気で環境問題に取り組みます。 小学生の児童でも楽しんで読みやすく、子供と一緒に環境問題をグローバルな意識で考えることができる地球に優しい翻訳書となっています。

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【推薦者】傳田 光洋

【推薦作品】『源氏物語 A・ウェイリー版』

【作者/訳者】紫式部/アーサー・ウェイリー(英訳)毬矢 まりえ、森山 恵(日本語訳)

【推薦文】 源氏物語を丁寧に無国籍化すると、その普遍的な文学的価値がよりあらわになることがわかった。千年前の物語は、近代、現代文学の傑作にも勝る、人間心理への深い洞察を示し、現代に生きる人間も囚われている業を描き切っていたのだ。20世紀の初頭、アーサー・ウェイリーによって源氏物語が英訳された。それは若き日のドナルド・キーンが日本文学研究を志すきっかけにもなった。毬矢、森山姉妹は、その英訳を、綿密に原典との比較をしながら、精緻であるが、大胆で華麗な現代日本語に翻訳した。その結果、源氏物語の奥深さ、壮大さが改めて明らかになった。ウェイリーの翻訳が欧米に源氏物語の価値を広く知らしめたように、「毬矢森山源氏」は、既刊の様々な現代訳を超えて、源氏物語のすばらしさを多くの日本人に認識させるだろう。ほかならぬドナルド・キーン氏がこの訳業を称えていらしたのだ。

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【推薦者】イ リス

【推薦作品】『セロトニン』

【作者/訳者】ミシェル・ウェルベック/関口涼子

【推薦文】 この一年でこの訳者さんでなければ読み進められなかったかもしれないと感じた一冊でした。 主人公はフランスのエリートで農業食糧省に勤めていた。 登場する垣間見える主人公の食のこだわりや合格点を下した実在するホテルも訳者はフランス在住者で且つ食文化を愛でる方でないと適さなかっただろうと考える。 主人公の眼から話す彼女の話は時に人を不快にさせるが、読み進めていくうちにまるでそれは共感のように彼が登場する特に日本人女性に対し、抱くきもちが読んでいる自分にも見つけることができた。 それがこのセロトニンで得た面白い体験。 読了後、セロトニンの書評をいくつか読んでみた。 決して、この主人公を称賛する気や身近に感じたいとも思わないが読む過程での読む側の変幻さは私だけではないらしい。


【推薦者】おもち むしぱん

【推薦作品】『美味しい進化: 食べ物と人類はどう進化してきたか』

【作者/訳者】著者 ジョナサン・シルバータウン、訳者 熊井ひろ美

【推薦文】 食べ物と人類はどう進化してきたか、というサブタイトルの通りなのですが、幅広く身近な話題を取り扱っていて、大変楽しく読みました。 14章で構成されていますが、それぞれの章の最後に次の章の布石があるので、キリの良いところで中断しようと思っても、なかなか止められません。 遺伝子や神経の話や、栽培化・家畜化、調理や食卓を囲むことに関する文化人類学的な話まで幅広い話題を扱っていますし、地理的にも広範囲の話をしています。時間軸としても数千年、数万年、1億何千年単位の話をしており、壮大な旅をすることのできる一冊だと思います。

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【推薦者】醤油 煎餅

【推薦作品】『ロイヤル・シークレット』

【作者/訳者】ライラ・ペース/一瀬 麻利

【推薦文】 昔から恋愛小説が好きで、国内の作家さんの作品ばかり手に取ってきました。たまたま美しい装丁に惹かれ本作を読んでみたところ、滑らかな文章のつらなり、わかりやすい文章表現のおかげで、「翻訳もの」とことさら意識をせずにするすると読めて衝撃を受けました!海外の著作は、翻訳が難しい言い回しが多くて苦手…と、小さな頃に読んだ海外の児童書を読んでからずっと思っていたのですが、本作のおかげで苦手意識が克服できそうです。イギリスの風を感じる、素晴らしい訳でした!


【推薦者】かや ねずみ

【推薦作品】『オーバーストーリー』

【作者/訳者】リチャード・パワーズ/木原善彦

【推薦文】 アメリカに最後に残る手つかずの森を守るため巨木に「召命」された人々の根には先祖がいる。 そして、やがて 幹になって、林冠を形成する。 かれらの種子は アメリカ全土にまかれていくのだろう。 読後には、樹木や森が好きになっていますよ。

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【推薦者】みき てぃん

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン/松田綾花

【推薦文】 自然を愛する13歳のパワフルな女の子「サッシー」。大好きな歌や友情を通して自然の大切さを伝えようとするとっても心温まるものがたり。夢にも、恋にも、友情にも全力投球で、読み進んでいくにつれ、心動かされること間違いなし。学校や家庭が舞台となっておりとても読みやすいので、夢に向かって進んでいる学生の方に是非読んでいただきたい。もちろん大人の方にも。皆さんに自信を持って推薦できる一冊です。

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【推薦者】藤川 眞治

【推薦作品】『トリック』

【作者/訳者】Emanuel Bergmann/浅井 晶子

【推薦文】 ナチスドイツが台頭する時代に生きたユダヤ人の少年モシェと現代アメリカの少年マックスの話が並行して語られる。 奇術師に憧れて成功したモシェに訪れる悲劇。両親の離婚を目の当たりにして、不安定になるマックス。 戦後、落ちぶれてアメリカの老人ホームでモシェとマックスが出会う。 正直最後の最後に明らかになる展開にたどり着くまで、既視感のあるどこかで読んだことがあるようなふわっとした話かと思った。 けれども、最後に明かされるこの二人を繋ぐ展開が印象を一気に変える。 2019年の最後に、いい本に出会えたと感じた。

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【推薦者】よし りんりん

【推薦作品】『サッシーは大まじめ』

【作者/訳者】マギー・ギブソン 著/松田綾花 訳

【推薦文】 「エコ戦士」を名乗る13歳の少女サッシーが愛する地球の未来のためにエコ活動をします。何事にも全力なサッシーに環境問題について心を動かされ、考えさせられます。 笑えたり、ハラハラしたり、ほろりと涙したりするストーリーは大人から子供まで幅広い世代に楽しく読んでいただけます。

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【推薦者】篠崎 望

【推薦作品】

『ピクニック・アット・ハンギングロック』

【作者/訳者】ジョーン・リンジー/井上里 【推薦文】 あの幕切れ。こんな形の小説もありなんだと、既成概念をゆさぶられた。

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第六回日本翻訳大賞開催決定

第六回「日本翻訳大賞」の開催が決定しました。

まずは読者推薦作品の募集からはじまります。

募集期間は、2020年1月15 日(水)から1月31日(金)まで。


対象となるのは、2018年12月1日から2019年12月31日までに発表された翻訳作品です。

「日本翻訳大賞」は「翻訳家がつくる翻訳賞」です。

「読者と翻訳者のために、もっと開かれた翻訳の賞をつくりたい」。

2014年、翻訳家・西崎憲のつぶやきに、ゲームクリエイターの米光一成が賛同したことがきっかけとなり日本翻訳大賞は設立されました。

選考委員

金原瑞人、岸本佐知子、柴田元幸、松永美穂、西崎憲、さらに第六回は、ゲスト選考委員として、斎藤真理子が選考に加わります。

 

年に一度、翻訳好きが集まる祭典

2014年、わずか1日でクラウドファウンディングの目標額をクリアし、最終的に385人もの方々から約340万円の支援を受けて設立されたのが日本翻訳大賞です。授賞式は新宿・紀伊国屋サザンシアターで行われ、300名以上が来場。朗読や生演奏を交えた授賞式には翻訳書のファンが集い、他に類を見ないイベントとして好評を博しました。

受賞作品/受賞者

第一回

『カステラ』パク・ミンギュ、ヒョン・ジェフン/斎藤真理子訳(クレイン)

『エウロペアナ:二〇世紀史概説』パトリク・オウジェドニーク/阿部賢一、篠原琢訳(白水社)

読者賞 『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ/東江一紀訳(作品社)

第二回

『素晴らしきソリボ』パトリック・シャモワゾー/関口涼子、パトリック・オノレ訳(河出書房新社)

『ムシェ 小さな英雄の物語』キルメン・ウリベ/金子奈美訳(白水社)

第三回

『すべての見えない光』アンソニー・ドーア/藤井光訳(新潮社)

『ポーランドのボクサー』エドゥアルド・ハルフォン/松本健二訳(白水社)

第四回

『殺人者の記憶法』キム・ヨンハ/吉川凪訳(CUON)

『人形』ボレスワフ・プルス/関口時正訳(未知谷)

第五回


『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット/木下眞穂訳(新潮社)


『JR』ウィリアム・ギャディス/木原善彦訳(国書刊行会)

第五回日本翻訳大賞 受賞作決定

第五回日本翻訳大賞の選考会が2019年年4月14日(日)に行なわれ、候補作品の中から『ガルヴェイアスの犬』(ジョゼ・ルイス・ペイショット/木下眞穂訳 新潮社) と『 J R 』(ウィリアム・ ギャディス/木原善彦訳 国書刊行会)が受賞作に決まりました。

授賞式&トークイベントは2019年4月27日(土)、デジタルハリウッド大学 駿河台ホールで開催します。


<第五回日本翻訳大賞授賞式>
【日時】2019年4月27日(土) 14:00開場、14:30開演(16:30閉会)
【会場】デジタルハリウッド大学 駿河台ホール
【チケット】Peatixで予約受付中。
https://nht190427.peatix.com/ 
【料 金】1,000円 (税込・全席自由) 、2,000円 (税込・全席自由・運営費寄付込み)、3,000円(税込・全席自由・運営費寄付込み)※チケット代金は日本翻訳大賞の運営費に充てさせていただきます。


授賞式は、選考委員が選考会を振り返る座談会や、受賞作に関するトーク、受賞者との対談など、翻訳に関するイベント満載のカジュアルな式を企画しています。ぜひ、お気軽にご参加ください!