第五回日本翻訳大賞 受賞作決定

第五回日本翻訳大賞の選考会が2019年年4月14日(日)に行なわれ、候補作品の中から『ガルヴェイアスの犬』(ジョゼ・ルイス・ペイショット/木下眞穂訳 新潮社) と『 J R 』(ウィリアム・ ギャディス/木原善彦訳 国書刊行会)が受賞作に決まりました。

授賞式&トークイベントは2019年4月27日(土)、デジタルハリウッド大学 駿河台ホールで開催します。


<第五回日本翻訳大賞授賞式>
【日時】2019年4月27日(土) 14:00開場、14:30開演(16:30閉会)
【会場】デジタルハリウッド大学 駿河台ホール
【チケット】Peatixで予約受付中。
https://nht190427.peatix.com/ 
【料 金】1,000円 (税込・全席自由) 、2,000円 (税込・全席自由・運営費寄付込み)、3,000円(税込・全席自由・運営費寄付込み)※チケット代金は日本翻訳大賞の運営費に充てさせていただきます。


授賞式は、選考委員が選考会を振り返る座談会や、受賞作に関するトーク、受賞者との対談など、翻訳に関するイベント満載のカジュアルな式を企画しています。ぜひ、お気軽にご参加ください!

第五回日本翻訳大賞 授賞式&トークイベント

授賞式&トークイベントは2019年4月27日(土)、デジタルハリウッド大学 駿河台ホールで開催します。

<第五回日本翻訳大賞授賞式>
【日時】2019年4月27日(土) 14:30開演(16:30閉会)
【会場】デジタルハリウッド大学 駿河台ホール
【チケット】Peatixで予約受付中。
https://nht190427.peatix.com/ 
【料 金】1,000円 (税込・全席自由) 、2,000円 (税込・全席自由・運営費寄付込み)、3,000円(税込・全席自由・運営費寄付込み)※チケット代金は日本翻訳大賞の運営費に充てさせていただきます。

授賞式は、選考委員が選考会を振り返る座談会や、受賞作に関するトーク、受賞者との対談など、翻訳に関するイベント満載のカジュアルな式を企画しています。ぜひ、お気軽にご参加ください!

第五回日本翻訳大賞の最終選考対象作品

第五回日本翻訳大賞の最終選考対象作品が下記の5作品に決まりました。
(作品名50音順)


『奥のほそ道』リチャード・フラナガン、渡辺佐智江訳、白水社

『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット、木下眞穂訳、新潮社

『JR』ウィリアム・ギャディス、木原善彦訳、国書刊行会

『自転車泥棒』呉明益、天野健太郎訳、文藝春秋

『すべての、白いものたちの』ハン・ガン、斎藤真理子訳、河出書房新社

受賞作は4月15日に発表の予定です。


・中間報告会

二次選考の対象となった17作品、そして最終選考を通過した5作品についての話題を中心に、2018年の翻訳シーンを振り返ります。
発起人の一人である米光一成の司会で、選考委員5名が楽しく語るイベントです。

日時:2019年3月21日(木・祝)14:00〜15:30/開場13:30〜
場所:青山ブックセンター本店大教室
ご予約は青山ブックセンターウェブサイトhttp://www.aoyamabc.jp/event/besttranslationaward5/
もしくは店頭にてお願いします。

・授賞式

受賞者の朗読や選考委員とのトークなど盛り沢山の開かれた式です。
どなたでもお気軽にご参加ください。
日時 2019年4月27日(土) 14:30~16:30/開場14:00
場所 デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス
ご予約は Peatix からを予定しています。

第五回日本翻訳大賞中間報告会のお知らせ

3/21(木)14時より青山ブックセンター本店にて中間報告会を行います。

選考委員の五人が全員出席し、発起人の一人である米光一成さんの司会で、第二次選考対象作品の十七作、そして最終選考の五作、さらに翻訳にかんする一般的な話題について、楽しく語るイベントです。

ご予約はこちらから
http://www.aoyamabc.jp/event/besttranslationaward5/


授賞式までのスケジュールも決定しました。

3/18(月) 最終選考作発表
4/14(日) 最終選考会
4/15(月) 受賞作発表
4/27(土) 授賞式&トークイベント

授賞式&トークイベントは2019年4月27日(土)14:30よりデジタルハリウッド大学駿河台ホールで開催します。

第五回日本翻訳大賞二次選考対象作品一覧

第五回日本翻訳大賞の二次選考対象となる17作品が決定しました。最終選考の対象となる5作品は、3月18日に決定・お知らせいたします。

(作品名50音順)

『淡い焰』ウラジーミル・ナボコフ、森慎一郎訳、作品社
『エヴリデイ』デイヴィッド・レヴィサン、三辺律子訳、小峰書店
『奥のほそ道』リチャード・フラナガン、渡辺佐智江訳、白水社
『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット、木下眞穂訳、新潮社
『最後に鴉がやってくる』イタロ・カルヴィーノ、関口英子訳、国書刊行会
『さらば、シェヘラザード』ドナルド・E・ウェストレイク、矢口誠 訳、国書刊行会
『JR』ウィリアム・ギャディス、木原善彦訳、国書刊行会
『自転車泥棒』呉明益、天野健太郎訳、文藝春秋
『すべての、白いものたちの』ハン・ガン、斎藤真理子訳、河出書房新社
『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ、斎藤真理子訳、筑摩書房
『バルザス= ブレイス ブルターニュ古謡集』ラ・ヴィルマルケ編、山内淳監訳、大場静枝・小出石敦子・白川理恵訳、彩流社
『ヒロインズ』ケイト・ザンブレノ、西山敦子訳、C.I.P.Books
『フィフティ・ピ−プル』チョン・セラン、斎藤真理子訳、亜紀書房
『ホール』ピョン・ヘヨン、カン・バンファ訳、書肆侃侃房
『MUNCH ムンク』ステフン・クヴェーネラン、枇谷玲子訳、誠文堂新光社
『U&I』ニコルソン・ベイカー、有好宏文訳、白水社
『リンカーンとさまよえる霊魂たち』ジョージ・ソーンダーズ、上岡伸雄訳、河出書房新社

読者推薦14作品に、選考委員推薦3作品を加えた合計17作品です。

選考対象作は、当HP「日本翻訳大賞とは」に記したとおり、2017年12月1日から2018年12月31日までに日本語に翻訳された公刊物の中から選ばれています。

第五回日本翻訳大賞 推薦作品リスト

2019年1月31日(木)まで第五回日本翻訳大賞の候補作を募集しています。
推薦はこちらから。
ここでは皆さまから推薦をうけた作品と推薦文を紹介していきます。

※推薦文のすべてが掲載されるわけではありません。予めご了承ください。


【推薦者】今村 真莉菜
【推薦作品】『おやすみの歌が消えて』
【作者】リアノン・ネイヴィン
【訳者】越前敏弥
【推薦文】
 物語は主人公の少年ザックの通う小学校に銃撃犯が現れるところから始まる。感受性豊かな少年の視点で描かれているからこその良さを訳者は存分に活かし、作者の意図を汲み取っている。読者はいつの間にか、ザックと一緒に悲しみ、怒り、複雑な気持ちに混乱してしまう。きっと少年の微妙な心の揺れがやわらかい文章で存分に表現されているからだろう。

書影

【推薦者】とらぶた
【推薦作品】『鯨』
【作者】チョン・ミョングァン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 こんなすごいもの、初めて読みました。マリーズ・コンデやトニ・モリスンを中島敦が書いたらこうなるのでは・・・。いや、もしかしたら、原作より日本語版の方が叙述が豊かで面白いんじゃないか、と疑っているほどです。筆舌に尽くしがたいどん底の「ふんずけられ人生」の女たちの「神話」が、もうわらうっきゃない、というナレーションで語られてゆきます。


【推薦者】繁内 理恵
【推薦作品】『兵士というもの ドイツ捕虜盗聴記録に見る戦争の心理』
【作者】ゼンケ・ナイツェル ハラルト・ヴェルツアー
【訳者】小野寺拓也
【推薦文】
 一九三九年から一九四五年に、イギリス軍とアメリカ軍の特別収容所に収容されたドイツ軍とイタリア軍の捕虜の兵士たちの膨大な盗聴記録。本書は、その中でもイギリス軍によって作成されたドイツ軍捕虜の盗聴記録を元に、兵士たちの心理や生活、行動様式などについて考察したものだ。「書く」という記憶の再構成を経ることなしに、会話の形で兵士の口から語られる言葉は生々しい第一級の史料だ。「殺す」という暴力が、あまりにも日常のものとして語られる不気味さがどこから生まれるのかを、この本は緻密な分析で解き明かそうとしている。その鍵になるのが「参照枠組み」という集団的な概念だが、深く読み込もうとすればするほど、この世界の価値観がひっくり返るような驚きと、いやこれは普遍的に自分のなかにもあるものだという確信が生まれてきて衝撃的だ。この本をよく訳してくださったと感謝に堪えない。

書影

【推薦者】遠藤 悦子
【推薦作品】『生贄の木』
【作者】キャロル・オコンネル
【訳者】務台夏子
【推薦文】
 一連のシリーズを毎年楽しみにしていて、特に言葉の鮮烈さに読み返すたびに気持ちが動く。世界のありようはいつも知っていることを軽々と超えて、世界を届けてくれる文章、本、翻訳者に感謝している。

書影

【推薦者】NM
【推薦作品】『チェコSF短編小説集』
【作者】ヤロスラフ・オルシャ・Jr 編
【訳者】平野清美
【推薦文】
 『善良な兵士シュヴェイクの冒険』で有名なヤロスラフ・ハシェクの1912年の短編から始まり、『R.U.R.』『山椒魚戦争』のカレル・チャペックの未邦訳の短編や、そのほかには社会主義時代のチェコで生まれたSF作品が本書にはたっぷりと収録されている。チェコ、そして世界の20世紀という激動の歴史を感じずにはいられない。抑圧された社会のなかで、文学として読むにも十分な優れたテキストが生まれてくる文化の意識がチェコでしっかりと育まれ続けたのだろう。親しみを感じる翻訳のことばの調子がとても良かった。

書影

【推薦者】comeback 68
【推薦作品】『ブルーバード 、ブルーバード』
【作者】アッティカ.ロック
【訳者】高山真由美
【推薦文】
 テキサス…怖い!うっすら感じておりましたが、全くその通りでした。こう言った小説がどんどん紹介される事を願って!

書影

【推薦者】菊地 景子
【推薦作品】『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
【作者】ミック・ジャクソン
【訳者】田中志文
【推薦文】
 様々なことが起こっていくが、常に静寂な空間が広がっていて、本の中だからこそこのの体感だなととても心地よい一冊でした。この本を読んでもっと原作者の本を読みたいと思いました。

書影

【推薦者】鶴見 優子
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
 渾身のこの大作に飲み込まれてそのまま泳ぎ続けてしまいたくなる歴史的一冊。注釈の充実も素晴らしい。訳者の情熱におののかされつつ多謝を捧げます。受賞を願う以上に、この本が今後占める意味あいと位置づけにも期待しています。

書影

【推薦者】倉本 さおり
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 アップダイクに私淑することを全身全霊でアピールしながら、実際のところは本人とまともに話したこともなく、著作すらあまり読んでいない――そんな作者の「読まず語り」から生み出される奇妙で切実なユーモア(?)を読者である私たちが楽しめるのは、脚注の形で訳者が細かいツッコミを丁寧に入れてくれているから。すくなくともこの日本語訳バージョンに関しては、作者と訳者の「空想上の友情」、もといU情の成果だと思う。


【推薦者】悪人 退治之助
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 敬愛する作家、、、であるはずなのに、たいして読まずに思い出を語るそのふてぶてしさにニヤリ。そして、ベイカーのお株を奪うがごとく訳者による訳注が大充実しているのが、何倍にも楽しい読み物にしていたのではと思う。


【推薦者】沢井 遥
【推薦作品】『82年生まれ、キム・ジヨン』
【作者】チョ・ナムジュ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 よくいる女の子が、よくある女性蔑視を受け続け、反発しながらも受け入れ、諦め、母になり、娘の時代こそは良くなってほしいと願う。その、世代を超えて傷ついてきた女性たちの心を、よくいる男性が批評する。この物語は、言ってしまえばそれだけの、凡庸な物語である。なので文体も、なにか特別素晴らしい表現があるわけでもない。だがその、平凡な残酷さの中に、わたしたちは生きている。その現実を再現したことに、この物語とそれを伝える翻訳の意義があり、その平凡さゆえに、読後の絶望感が深まるのではないだろうか。そうした意味で、この翻訳は非常に成功しているのではないかと思われる。

書影

【推薦者】ハリボーのグミ
【推薦作品】『淡い焔』
【作者】ウラジミール・ナボコフ
【訳者】森慎一郎
【推薦文】
 選び抜かれた言葉が醸し出す吟醸酒のような作品を味わいもそのままに日本語で読めることに感謝したい。

書影

【推薦者】さいとう まりこ
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
「げ早く!」でのっけからノックアウトされました。後書きにあるように「圧倒的な<野生>たるテクスト」をここまでの本に仕上げるのがいかに大仕事であったかは想像に難くありません。また本書を読まれる方は、後書きの、例えば「台湾と日本とは引用の考え方にいくらか齟齬があるため」「いっぽう、<漢字>を使うことで、<多言語>が権力によって特定の意味へと縮小する恐れを回避できない(同「字」異音語・異義語で混乱する)」といった箇所にぜひ注目していただきたいと思います。こういった説明文を推敲するために翻訳者がどれほどの労力を注いでいるか。とうてい一言で言い切れませんが、天野さんの仕事に学び続けたいと思います。

書影

【推薦者】エム
【推薦作品】『北氷洋 ~The North Water~』
【作者】イアン・マグワイア
【訳者】高見浩
【推薦文】
 北の海に向かう捕鯨船。阿片チンキ中毒の船医サムナーが主人公で、凶悪な銛打ちドラックス、なにやらたくらむ船長などが乗り込んでいる。色彩のほとんどない世界に、男たちの体臭、尿のにおい、テレピン油のにおい、シロクマのにおい、鯨の血のにおいなど、人間や動物の生きている証が強烈ににおう。捕鯨という仕事、捕鯨船乗組員の生活のディテールがすごい。鯨を神と祭り、鯨を無駄にしなかった日本やノルウェーの捕鯨と異なり、イギリスの捕鯨船は鯨の油と骨のみを取り、肉は海の中に捨てる。鯨は石油が使われるようになる前、プラスチックが発明される前の工業原料でしかなかったのだ。元軍医のサムナーは第一次インド独立戦争で上官に騙されて不名誉な除隊をしており、人生が行き詰っている。気力、体力とも絶不調の彼は、船内の連続殺人、残酷な大自然に直面して、生き延びられるのか。生き延びる気があるのか。迫力のある一冊だった。

書影

【推薦者】山口 侑紀
【推薦作品】『ヒロインズ』
【作者】ケイト・ザンブレノ
【訳者】西山敦子
【推薦文】
 この本の出版は、2018年の「事件」だったと思います。男性の陰に隠れて、隠されて、時には精神病扱いをされた女性たちの消された物語。#MeToo運動全盛期の、しかし流行で済まされない彼女たちの声を丁寧に、真摯に浮かび上がらせた傑作。その独自な出版形態も含め、素晴らしい「事件」だったと思います(個人的なことを申せば、私も編集と翻訳と両方をやっているので、このような素晴らしい本を出されていることにとても励まされました)。ぜひ翻訳大賞に推薦いたします。

書影

【推薦者】仁科 裕成
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 アップダイクの大ファンというベイカーが、彼が死んでしまってからでは遅いと、書き始めたのが本書「U&I」。原書は1991年の発表(僕と同い年!)。アップダイクに向けた熱烈な愛を感じる前のめりな語りだが、実は「記憶批評」や「読まず語り」など、ベイカー自身の記憶や妄想が基になっている。時々(頻繁に?)引用を間違えていたりしているところがチャーミングで面白く、ついつい笑ってしまう一冊。30年近く前の本なので、訳者による膨大で詳細な注が大変ありがたい。「ええーこんな所までしらべてくれてるの!」と何度も驚いたし、助けられた。原文の翻訳だけでなく、読者のために手間を惜しまない訳者の努力に拍手したい。アップダイクに対するベイカーの愛と、ベイカーに対する有好さんの愛を存分に感じさせてくれた「U&I」がこの1年の最高の1冊です。


【推薦者】オリーブ
【推薦作品】『帰れない山』
【作者】パオロ・コニェッティ
【訳者】関口英子
【推薦文】
 訳者あとがきによれば、原作は、本国イタリアにおいて「最近の作家でこれほど美しく見事なイタリア語を書けるものはいない」と評された文体なのだそう。私は本書を日本語でしか読んでいませんが、それでも美しい言葉をたっぷりと浴びた感覚はしっかりと味わわせていただきました。訳者、関口さんの素晴らしいお仕事に感謝です。ストーリーもとってもよくて、久々に心掴まれる読書体験をしました。

書影

【推薦者】山口 勲
【推薦作品】『ヒロインズ』
【作者】ケイト・ザンブレノ
【訳者】西山敦子
【推薦文】
 2018年の下半期を決定づけた一冊だと思います。英米のモダニズムの書き手のうらに消された女性たちの記憶と、転勤妻である自身の経験を重ねながら、私たちに書くことを勧めるザンブレノの筆致。そして、その筆致を自分の出来事として描く西山さんの訳業に寄り切られました。小説ともメモワールともつかないこの作品、ほめすぎる必要はないと思いますが、ぜひ賞を取って欲しいと願っています。

書影

【推薦者】海老原 れい
【推薦作品】『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』
【作者】ジェフリー・フォード
【訳者】谷垣暁美 編訳
【推薦文】
 読んでみてまず驚かされるのは、フォードという作家が人間に強い興味を抱いているということだ。幻想文学というジャンルは、怪異や超自然を扱うことが多いということもあるだろうが、厭世的というか人間が嫌いというか、社会や人間性を飛び越えるような、越境的なものを描くのに適した文学形式という印象があるが、フォードの作品から感じるのは、幻想のもたらす陶酔ではなく、現実に属する生と死にまつわる、どうしようもない人間の「生々しさ」だ。この短編集に収録されている13篇は、幻想と銘打たれながらも、生きることの困難さや惨めさを描きながら、それでも生のさなかに垣間見えるきらめきに触れるような、明るさと繊細さに満ちている。

書影

【推薦者】フジモト
【推薦作品】『亡霊のジレンマ』
【作者】カンタン・メイヤスー
【訳者】岡嶋隆佑, 熊谷謙介, 黒木萬代
【推薦文】
『有限性の後で』が評判を呼んだ気鋭の哲学者カンタン・メイヤスーの、様々なエッセンスを知ることができる論文集。内容は一見難解だが、収録論文を続けて読んでいくと、その一貫性によってだんだん著者の思考の筋道が見えてくるように思える。非業の死を遂げた人々(亡霊)の救済について驚くべき論点を示す表題論文は圧巻。


【推薦者】月町 夏野
【推薦作品】『ヴィクトリア朝怪異譚』
【作者】ウィルキー・コリンズ他
【訳者】三馬志伸
【推薦文】
 粒ぞろいの作品がそろっており面白かった。恐ろしいというより哀しみをそそる作品が多く読み応えがあった。

書影

【推薦者】あや
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 人生のハードな部分も、日々のなんてことない部分も両方のストーリーが小説の中にあり、重い話も愉快な話もどちらもグッとくるのでとても楽しく読みきりました。たくさんの人のそれぞれの息づかいが浮かんでくるような短編ばかりなので、韓国の映画やドラマを見ていても『背景にいるあの人たち』のことを考えてしまうような本でした。韓国の近代史を映画と合わせてたくさん勉強した2018年だったので、登場人物の年齢幅の広い小説を読めて面白かったです。学校の仕組みや社会の仕組みが日本とも違うので、文化の違いも翻訳が読みやすいせいどんどん分かっていける感覚がありました。イラスト付きの日本版のデザイン・構成も丁寧だなぁと思います。

書影

【推薦者】矢田真麻
【推薦作品】『エコラリアス 言語の忘却について』
【作者】ダニエル・ヘラー=ローゼン
【訳者】関口涼子
【推薦文】
「意識的に忘れる」ことは訓練によって獲得できる技術である。決して表記できないはずの感嘆の叫びを、よく知られる文句として放出してしまったが最後、すべてが消え去るように。外部にさらされていたものを、内部で再生し直すために、積極的な忘却を施してゆく営みを本書は解き明かす。喃語と言語獲得、母語と外国語、古典と自作、発声音の消失と表記の出現、最後の話者の死と周囲にみとめられる痕跡。忘却と新生には必ず「翻訳」が関わることを示す、最良の書といえるのではないか。第二十章「詩人の楽園で」を筆頭に、アラビア語やヘブライ語からの引用が多く読めることも魅力的だ。

書影

【推薦者】二木 志乃
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 台湾の複雑な歴史を普通話、台湾語、日本語、英語を自在に操って表現した原作を丁寧に日本語に置き換えられた故天野氏の仕事を一人でも多くの人に知っていただきたいと思います。原文を読んでいるときは「これを外国語に翻訳するのは不可能」と考えましたが、良い方向に裏切られました。中華圏文学翻訳の牽引役を失ってしまいましたが、この火を絶やさないでほしいと切に願っています。

書影

【推薦者】大橋 由香子
【推薦作品】『説教したがる男たち』
【作者】レベッカ・ソルニット
【訳者】ハーン小路恭子
【推薦文】
 レベッカ・ソルニットの作品には、ハッとさせられ、なるほどと頷かされるが、今回の本は「女嫌い」文化をうまく説明してくれる。空気のように吸い、雨のように浴びているので当たり前になっている「女の言うことに価値がない」という決めつけ、そして女性の話を遮り、しゃべりまくる男性たち。古今東西南北の女たちが味わってきた砂を噛むような思いを、鮮烈に、面白く表現するフェミニズム本が昨年もたくさん翻訳されていて嬉しいが、本書もその1冊である。

書影

【推薦者】山水
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 たしか90年代の話になるが、ニコルソン・ベイカーのU and Iという本を翻訳大賞の選考委員でもある岸本佐知子さん、柴田元幸さんがおすすめされていたと記憶している。翻訳がなかったので一念発起して原書を買ってみたものの、大方の予想通り、本棚でほこりをかぶらせた。幾度かの引っ越しに紛れて、どこかへ行ってしまった。つい最近、白水社からニコルソン・ベイカーの『U&I』という新刊が出ていると知り、本屋へ足を運んだ。まさかとは思ったが、やはりあのU and Iだ。現在、寝る前に毎日少しずつ読み進めている。濃密な文章で、これでは私の拙い英語力では太刀打ちできなかったのも当然だった。今更ながら安堵している。濃厚な文学談義に(今のところ)なんとかついて行けているのは、訳者による註釈と豊富な図版によるところが大きい。版組も見事。私のようなものぐさ読者にも何とか届けたいという出版社の意気込みを感じる。


【推薦者】寺山 健太郎
【推薦作品】『ゲームの規則Ⅳ 囁音』
【作者】ミシェル・レリス
【訳者】谷昌親
【推薦文】
 いよいよ『ゲームの規則』が完結したことを祝し、最終巻の『囁音』を推薦する。癖の強いレリスの言葉の流れを日本語として成立させた訳者たちに、感謝の言葉を送りたい。この4部作の翻訳は、日本語の財産だと言ってもいいように思う。

書影

【推薦者】長瀬 海
【推薦作品】『アメリカ死にかけ物語』
【作者】リン・ディン
【訳者】小澤身和子
【推薦文】
 アメリカの路上から聞こえるさまざまな声を拾い上げて、現代社会を冷徹に見つめる。その眼差しとエクリチュールに驚嘆。とにかく文体がいい!


【推薦者】岸本 洋和
【推薦作品】『ロビー・ロバートソン自伝』
【作者】ロビー・ロバートソン
【訳者】奥田祐士
【推薦文】
 英語圏ロックの訳書と言えばこの人、奥田祐士さんが訳した、ザ・バンドの中心人物ロビー・ロバートソンが初めて出した自伝。彼の語りらしく、自伝なのに実か虚かわからない部分もあるものの、それも含めておもしろい。というか、ボブ・ディランとロビーの出会いがいままで語られていたことと違いすぎてびっくり。

書影

【推薦者】象
【推薦作品】『あまりにも真昼の恋愛』
【作者】キム・グミ
【訳者】すんみ
【推薦文】
 とても新しいテイストでもあり、親しみやすいというか、自分のことを代弁してくれる、近しい小説だと感じました。訳文は非常になめらかで、原作の息吹が伝わってきます。恋愛のような恋愛じゃないような、胸を締めつけられるような瞬間が描き込まれていて、切ないです。ときどき、またこの本を開くと思います。

書影



【推薦者】みると
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 実在するポルトガルの田舎の村を舞台に、大きな物語につながるのかつながらないのかわからないまま、そこで暮らす人々の日常がミクロな視点で語られる不思議な物語。外の世界に開かれていないことのもどかしさと閉塞感に慣れてきたころに訪れる、妙な可笑しさ。力が入りがちの訳文も、大好きな物語をとにかく日本語にしたい!という訳者の気合いと捉えるとむしろ微笑ましく、初々しい。

書影

【推薦者】小寺 啓史
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
 とにかくこの翻訳を待っていた。多分出ないんじゃないかと諦めていたアメリカン・ポストモダニズムの傑作だ(D.F.Wallaceのinfinite jestと共に)。木原氏のキャリアはギャディスとピンチョンの研究からスタートしている。氏の著作で折にふれて紹介されてきた、代表作であるところの「JR」が、気合いの入っていない訳はなく、ライフワークと呼んで差し支えないと思う。だからといって訳文の方がガチガチに力みまくっている訳ではなく、むしろ肩の力の抜けた、乾いたユーモアを漂わせていることに驚いた。

書影

【推薦者】谷口 愛
【推薦作品】『世界と科学を変えた52人の女性たち』
【作者】レイチェル・スワビー
【訳者】堀越英美訳
【推薦文】
 フェミニズムに関連する翻訳書籍が多数刊行された2018年。よくぞこの本を翻訳してくださいました!と思う名著も数多くあった。なかでも心に残ったのは、レイチェル・スワビー著 堀越英美訳『世界と科学を変えた52人の女性たち』(青土社)。19世紀~20世紀初頭に科学の道を切り拓いた女性たちの歴史をまとめた人文書。正規の大学教育が受けられない/助手的なポジションばかりあてがわれる/男性名が入っていないと論文を受け付けてもらえない、などのあからさまな差別を乗り越え、圧倒的な努力で闘った女性たちのエピソードを読んでいると勇気が湧いてくる。次点は、レベッカ・ソルニット著 ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』(左右社)と、ケイト・ザンブレノ著 西山敦子訳『ヒロインズ』(C.I.P BOOKS)。


【推薦者】sthew
【推薦作品】『兵士というもの――ドイツ兵捕虜盗聴記録に見る戦争の心理』
【作者】ゼンケ・ナイツェル、ハラルト・ヴェルツァー
【訳者】小野寺拓也
【推薦文】
 膨大な盗聴記録の分析によって人間観の更新を迫る労作。兵士というものを見ていくことで、「人間性」「人間味」「人間的」「人間らしさ」のような言葉における「人間」とは違う、あるべき姿でもありたい姿でもない人間というものが見えてくる。なお『兵士というもの』以外では、『小さな徳』『トウモロコシの種蒔き』『戦う操縦士』『アフター・ヨーロッパ』『リベラル再生宣言』『プーチンのユートピア』『アメリカ死にかけ物語』などがおもしろかった。

書影

【推薦者】なえ
【推薦作品】『西欧の東』
【作者】ミロスラフ・ペンコフ
【訳者】藤井光
【推薦文】
 ブルガリア出身の英語作家によるデビュー短編集。国境と定められた川によって二つに分断された村に住む家族の交流と悲劇を描く表題作、アメリカに留学後ひきこもりがちの「僕」とブルガリアにいる共産主義思想どっぷりで口の悪い祖父との、いのちを繋ぐようなやりとりが胸に染みる「レーニン買います」、アメリカで出会った日本人の妻と不妊治療のため故郷ブルガリアに帰った語り手が他者とのコミュニケーション方法や距離の測り方でゆれる心理や、いろいろな立場の普通の人がみせる何気なく悪意のない差別意識が静かに描かれる「ユキとの写真」など、ブルガリアを主な舞台にした八つの短編が収められている。どの作品も、短文の積み重ねによる語りの力強さがみごと。


【推薦者】arancia
【推薦作品】『82年生まれ、キム・ジヨン』
【作者】チョ・ナムジュ
【訳者】斎藤 真理子
【推薦文】
 本文は167ページと薄い本ではあるが、内容は濃く、ぐいぐいと惹きつけられる作品だった。日本では、毎日のようにどこかで女性差別や女性嫌悪と言ったことがニュースになり、SNS上でも話題となっている状況で、この本が日本で出版されたのは非常にタイムリーだと感じる。小説の中の女性たちは皆、読者自身やその周りにいる女性達。言葉の壁が無ければ、二国間読書会をしてみたいなと思った。

書影

【推薦者】ハナ
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 久々のニコルソン・ベイカー。いつも違った手を繰り出してきて驚かされるが、やはり今回も驚いた。今作のユニークさは、本を読まずに好き勝手に語るという「読まず語り」なる詭弁にある。その詭弁を読者に信じさせてしまうところが作者の力量か。脱線に脱線を重ねてわけがわからなくなるというスタイルは相変わらずで安心した。


【推薦者】本とランプ
【推薦作品】『知の果てへの旅』
【作者】マーカス・デュ・ソートイ
【訳者】冨永 星
【推薦文】
 専門的知識が並ぶ文章を読みやすく訳す、その訳者の知識量も労力も途轍もないものがあったろうと思える。どんなに敷居が高そうに見えても最後まで読む事ができ、終わりには涙がこみあげてきた。素晴らしい読書体験をさせて頂きました。

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【推薦者】有馬 愛菜
【推薦作品】『東西ベルリン動物園大戦争』
【作者】ヤン・モーンハウプト
【訳者】赤坂桃子
【推薦文】
 冷戦下のベルリンには、東西それぞれの威信をかける動物園があり互いに競い合っていた。その説明だけでワクワクしてきます。監修に上野動物園の飼育係の方も入っており、原作にはない読者へのコラムも充実して良作だと思います。翻訳の予定もなく面白さに惹かれて読み始めたとのあとがきの通り、東西ドイツの競い合う様が真面目に書かれているのに面白かったです。東ドイツを扱った本はたくさんありますが、壁ができる以前のベルリンの様子が市民感覚で分かるのも貴重だと思います。

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【推薦者】山内 尚
【推薦作品】『禁断の果実―女性の身体と性のタブー』
【作者】リーヴ・ストロームクヴィスト
【訳者】相川千尋
【推薦文】
 とても軽快な語り口で今まで暗がりに置かれていたものたちを日の当たる場所にぽんと出してくれた作品だと思います。翻訳が素晴らしく、読んでいて「うふうふ……」と思わず笑ってしまうようなキレのある言葉を選んでくださっているところが大好きです。

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【推薦者】かんな
【推薦作品】『82年生まれ、キムジヨン』
【作者】チョ・ナムジュ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 斎藤真理子さんの仕事のおかげでたくさんの韓国文学と出会えた。どの作品もおもしろかったが、この作品は本当に震えた。自分の、「わたしたち」のことだったからだ。個人的なことは政治的なこと、というスローガンがあるが、彼女が体験したことがすべて社会の中の歪みから生まれたものだ。韓国と日本という違う国に育ちながらも、その歪みに苦しめられたひとりとして通じ合うものを感じ、物語としてだけではなく、彼女のひとりとして、忘れられない本になった。斎藤真理子さんのお仕事に敬意を表したいので、この本に一票します。

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【推薦者】さとう
【推薦作品】『変わったタイプ』
【作者】トム・ハンクス
【訳者】小川高義
【推薦文】
 ニューヨークに滞在した一週間ほど、見知らぬ人に話しかけられた一週間はなかった。スーパーのレジでは「その腕時計良いね」と店員さんが話しかけてくるし、美術館で列に並んでいると「この列は展示を見るためですか?トイレの列ですか?」と真顔で訊かれるし(後で話したら、大学教員だったらしい)。「なんてアメリカっぽいの!」と思ったものだった。この作品に収められた短編は、まさにそういうアメリカ。ちょっと個性的だけど、あくまでも気さくでフレンドリー。これは、うんざりするような情報ばかりが錯綜する現代社会に向けた童話集なのかもしれない。そして、この現代の童話の「アメリカらしさ」を支えているのが、軽妙な翻訳の文体なのだ。この軽さがなかったら、独特のユーモラスな雰囲気も伝わってこなかったかもしれない。

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【推薦者】加藤 靖
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 壮大な記憶と、そして再生の物語である。一見すれば自分と父とをつなぐ自転車を捜して旅をする青年の話だが、物語のスケールはそこにとどまらない。父の自転車は近代史上の事件を機に次々と人の手を渡り歩く。「自転車泥棒」とは放浪を余儀なくされた自転車のことである。そこには国の間で翻弄されつづけた台湾人のアイディンティティが明確に彫刻されている。アンティークの自転車は面白い特性がある、と語り手である青年は言う。部品交換や修理を繰り返すことで持ち主にすらオリジナルがどうだったかはわからなくなるらしい。そうとわかっていて、なお青年は、20年分の損壊と補修を繰り返してきた〈父の自転車〉を求めるのである。

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【推薦者】eclectically
【推薦作品】『さらば、シェヘラザード』
【作者】ドナルド・E・ウェストレイク
【訳者】矢口誠
【推薦文】
 書けない作家のひとり語りものです。とりとめなくただぐだぐだ書いているだけのように見えるのになんで面白いんだろうと思うんですが、面白いんです。何度も声を出して笑ってしまいました。文体がしょっちゅう切り替わるんですが、全体はスムーズに読めるけれどちぐはぐ感も伝わり笑えるように訳してあるのはなかなか高度な技だと思います。ポルノ小説を書こうとしているという設定なのでいろいろなテイストのエロ描写が頻出し、単独で見るとぎょっとするような卑語も出てきますが、全体の流れで読むとなぜか不快でない。からっと明るいんです。訳語の選び方によっては(情報は同じでも)味わいがだいぶ変わると思うので、(もともとこの訳者さんのリズミカルな訳文が好きでしたが)この点も好みに合うと思いました。異色作すぎるかもしれませんが、とにかく訳がいいと思うので、こんな楽しい本があるよ、と紹介したいと思います。

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【推薦者】浦添
【推薦作品】『すべての、白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 どこまでも個人的な肉体と生命の邂逅の記憶が、そぎおとされた、それでいて豊かな手触りの、静かで強靭な文章を介して読むものにダイレクトに伝わってくる。命をその肉体に宿し、この世に送り出す女性の慟哭、底知れぬ苦痛をあぶり出すとともに、これまでに理不尽に喪われてきた、あまたの命を誠実に見送る哀悼の言葉も綴られる。想像力の欠如がもたらす悲劇が終わらない現代に隣国からとどいた、嵐の夜も光ることをやめない灯台のあかりのような本だ。


【推薦者】くみくみ
【推薦作品】『おなじ月をみて』
【作者】ジミー・リャオ
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 ハンハンは窓の外を見ている。すると・・・。絵本らしいリズムのよい言葉の繰り返し。クライマックス後は同じ言葉を繰り返すことで事態の重大さをを突き付ける。リャオ+天野の「星空」に続くグラフィック作品に共通の、シンプルでリズミカルな絵と言葉の邂逅。もっともっと見たかったです。

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【推薦者】放克犬
【推薦作品】『iPhuck10』
【作者】ヴィクトール・ペレーヴィン
【訳者】東海晃久
【推薦文】
 基本としては疫病の広がりで直接の性交渉が禁止された未来を描いたディストピアがロボット刑事とキュレーターのコンビによる事件記録として描かれるSFミステリ。なのだが、コンビの互いによる記録の書き換え合戦というメタフィクショナルな仕掛けの元で言葉遊びが繰り返されながら現代ロシアアートシーンも織り込まれるという全くもって異常な代物で、タイトルのような今現在のわれわれを取り巻き刻々と変化する技術扱われているこのような作品が本国での発表からわずか1年で紹介されていることに訳者に感謝をせずにはいられない。


【推薦者】岡山 きの子
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 初めての台湾文学作品でしたが、面白かった!!いなくなった父の自転車を探して作家であり自転車マニアでもある主人公がさまざまな人と物語に出会っていく話なのだけれど、出てくる人物のキャラクター、その人たちに語られる物語の不思議、そしてなにより印象的な文章でどんどん読ませてくれる。比べていいのかわからないけれど、どことなく村上春樹テイストを感じるところもあったりして、翻訳ものはちょっと…という人にも楽しめるのではないかと思います。
同時代の台湾にこんな面白い小説を書く作家さんがいると知れた喜びとともに、訳者の天野さんが早世されたことが残念でなりません。

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【推薦者】坂井 思乃
【推薦作品】『カササギ殺人事件』
【作者】アンソニー・ホロヴィッツ
【訳者】山田蘭
【推薦文】
 本書を読了された方なら、きっと「一粒で二度美味しい」という感想に頷いていただけるだろう。ミステリとしてベリグーであり、見事な構成で「早く続きを! 続きを読みたい!」という読者の気持ちを掻き立てる。予想をバンバン裏切るけれど、期待はけっして裏切らない。その語り口や文のリズム、美しかったり心をざわめかせたりするイングランドの村の描写は、翻訳小説だからこその味わいだ。

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【推薦者】須藤 建
【推薦作品】『文選 詩篇』
【訳者】川合康三、富永一登、釜谷武志、和田英信、浅見洋二、緑川英樹訳注
【推薦文】
 清少納言が『枕草子』で「文は文選」とした中国最古のアンソロジー『文選』.その詩篇のすべてを全訳で文庫化.紀元前三世紀から紀元後六世紀までの作品がおさめられ,六人の訳注者による精確で丁寧な訳注と現代語訳がついている.2018年の1月から10月までで全六冊のうち四冊までが出ている.「翻訳作品」の範疇を超えているのかもしれないけれど,昨年出た最もすごい「翻訳」の仕事だと思った.


【推薦者】から
【推薦作品】『グッド・フライト、グッド・ナイト』
【作者】マーク・ヴァンホーナッカー
【訳者】岡本由香子
【推薦文】
 心地よい、空の旅につれだしてくれる。自分の中の言葉にならなかった感覚を言い表してくれているような文章だと思いました。

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【推薦者】石川 由美子
【推薦作品】『何があってもおかしくない』
【作者】エリザベス・ストラウト
【訳者】小川高義
【推薦文】
 地べたの卑しい存在と聖なるものが、触れる瞬間。人生のうちに一度出会えるかどうかの、感度的な瞬間が、まったく予想しないタイミングや他者からもたらされる驚き。これだから、生きることをやめるなんてできない。感動せずにはいられませんでした。

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【推薦者】睡眠時遊行症
【推薦作品】『リンカーンとさまよえる霊魂たち』
【作者】ジョージ・ソーンダーズ
【訳者】上岡伸雄
【推薦文】
 去年読んだ翻訳本の中で、やはり楽しさでは一番だったのがこの本。泥沼化しつつある南北戦争のさなか、愛する幼い息子ウィリーを病で亡くしたリンカーンが、誰にも告げず納骨所を訪れ、そこでひとり長い時間を過ごした、という史実を元に、鬼才ソーンダーズの妄想炸裂。個性豊かでユーモラスな霊魂たちが勝手気ままに喋りまくる人生の物語に目を白黒させながら聴き入るうちに、いつか読者の心にとりついてしまって離れない、残してきたものへの憧れや無念、残されたものの悲しみ、人生の儚さや美しさ、そして決してすりへることのない愛。てんでんばらばらに見えた物語がある一点に向かって力強く突き進み、迎えるラストには大きな感動が。ああ面白い。軽やかな遊び心に満ちた翻訳も素敵でした。


【推薦者】小池 貴彦
【推薦作品】『帰れない山』
【作者】パオロ・コニェッティ
【訳者】関口英子
【推薦文】
 光と音と温度に溢れる自然描写。そしてその自然といかなる姿勢で対峙するかを通して伝えられる登場人物たちの造形。それらが体感として伝わる訳文に、いち読者として深く感謝したいです。読み終えたあと、かつて登場人物たちを育て、そしてもはや誰も帰ることの叶わない高い山々が、頭上に聳えていることに気づきました。

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【推薦者】青木 大輔
【推薦作品】『ヒロインズ』
【作者】ケイト・ ザンブレノ
【訳者】西山 敦子
【推薦文】
 物語ることを阻まれようとしながらも、語ること止めなかった小説家のパートナーたちの孤独な戦いの物語。と同時にそんなヒロインの話を調べながら自らのことを語ろうとする筆者の物語。声を奪われた女性たちの心の叫びが心に刺さった。

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【推薦者】ふくろう
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
 本文の9割が会話文のみでできている本書は、何度も読まないと、どの発言が誰のものかがわからない。英語では一人称や語尾で性別を判別もできない。特徴的な話し方をする人物はいるものの、そもそも登場人物が膨大すぎるから、なんのなぐさめにもならない。そんな怪書を日本語に訳してのけた木原氏は、おそらく1日30時間はギャディスに費やしていたと思われる。恐るべき鈍器。

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【推薦者】senaka
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 海を超えた地に、同時代を確かに生きている人がいると感じられる作品。韓国文化について語るとき、日本の戦争犯罪に触れないのはどうにもずるい気がするものの、不勉強で語れないことが情けないが、同じ北東アジアの、つよい家父長制のもとで育った韓国と日本の文化は鏡合わせのようだ。海外文学には違いないのだが、これはもはや街ですれちがうあの人やあの人の話だ。現代文学らしい軽妙な話し言葉にも心が踊った。自分の役割を、人生を、きちんと生きようと思える一冊。

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【推薦者】おおた
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原公彦
【推薦文】
 本は単独では存在できない、読者が必要です。一人で読むよりも多くの人が読むことで解釈が広がる。本書は一人で読むにはつらすぎる、あまりにも多くの人物、悪夢のように畳みかけられる言葉の嵐。それを一人でも読めるように詳細な脚注を施し、一人でも読めるような分かりやすい文体にされたことは、険しい山を登るためのロープを垂らしてもらえたようなありがたみを感じます。経済という文学とは遠く見える場所を引き寄せた作品を身近にしてもらえたこと、21世紀の偉大な翻訳として後世に刻まれる作品だと思います。

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【推薦者】彼らは読みつづけた
【推薦作品】『書物のある風景──美術で辿る本と人との物語』
【作者】ディヴィッド・トリッグ
【訳者】赤尾秀子
【推薦文】
 この本の邦訳発売が決まったと知ったとき、「英文は読めないけど、画集だし、買ってしまおうか……」と迷ったままにしていた自分をほめてあげたい気になりました。序文から読み応え十分、それぞれの解説も日本語で読めた上で収録作品を眺める快感は格別でした。読書する姿を読書することの幸せ。翻訳して届けてくださったことに心から感謝しつつ、推薦いたします。

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【推薦者】しげる
【推薦作品】『エアスイミング』
【作者】シャーロット・ジョーンズ
【訳者】小川公代
【推薦文】
 絵本塾ホールで演じられた舞台「エアスイミング」を観て、劇場で本書を買い、読んだ。そうした一連の体験と翻訳への評価を切り離すことは難しいが、そこに傷がつけられるのをわかっているなめらかな肌のような言葉たちだと思った。

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【推薦者】浪切
【推薦作品】『March』
【作者】ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン作 ネイト・パウエル画
【訳者】押野素子訳
【推薦文】
 公民権運動において、警察や白人至上主義者たちからどれだけ足蹴にされ、暴力をふるわれても、断固として非暴力を貫き、敵を愛そうとしたジョン・ルイスの姿に感銘を受けました。自分はアフリカン・アメリカンじゃないから関係ない、あるいは、アメリカに住んでいないから関係ないではなく、世の中の差別がなくならないかぎり、自分も差別されているのだということ、自由でないひとが存在するかぎり、自分も自由ではないということが、痛いくらいに伝わってきました。戦いの結果、公民権法が成立しましたが、差別に対する戦いは終わったわけではなく、いまでも続いています。日本国内では、アジアの国に対して差別的な言葉を発するひとたちもいます。そんな状況のなか、このグラフィック・ノベルが日本に紹介されたのは、非常に意義深いことだと思いました。


【推薦者】ヤヤー
【推薦作品】『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門』
【作者】ジョージ・チャム , ダニエル・ホワイトソン
【訳者】水谷 淳
【推薦文】
 We Have No Idea。このタイトルをこう訳して来たか!という驚きとニヤリ感。手に取らせるだけのインパクトに充分で、中身もはげしくわかりやすい文章です。ホントにわかってないってことがわかる、無知を自覚出来る面白い一冊です。

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【推薦者】ルネ
【推薦作品】『詩人クリスティーヌ・ド・ピザン』
【作者】クリスティーヌ・ド・ピザン
【訳者】沓掛良彦、横山安由美
【推薦文】
 14世紀末から15世紀初頭にかけて活躍したヨーロッパ初めての女性職業詩人クリスティーヌ・ド・ピザンによる53篇の詩を収めた書物。バラード、ロンドの詩形式を通して詠われるのは様々な「愛」。万葉集の相聞歌を想わせる愛する人への呼びかけ、寡婦となった女性の切ない心情(「わたしは寡婦、ひとりの身、黒衣をまとい」)、あるいは機知に富む愛をめぐる言葉(「わたしの恋の知識は、世のなべての賢い詩人たちから得たもの」)が次々と披露され、洗練された現代日本語で詩人の息吹を余すところなく味わうことができる。「愛」を主体的に謳うことができた中世の女性の奇跡的な詩篇の数々。

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【推薦者】花楠
【推薦作品】『エヴリデイ』
【作者】デイヴィット・レヴィサン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
 主人公は16歳。毎日、自分と同じ年齢の別人の体で目覚める特異存在。「宿主」の生活を壊さないよう、修行僧のようにストイックに生きてきた彼は、ある少女に恋をした…。とんでもない設定にも驚きですが、主語を省略しても文の意味が通じる、日本語という特異性をこれ以上なく活かしきった翻訳だと思います。そしてとっても読みやすい!

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【推薦者】つるみ
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 作者の故郷でもある実在の村ガルヴェイアス。宇宙から落下してきた謎の巨大な物体は強烈な異臭を放ち、村人たちの平凡な日常をじわじわと蝕んでいく。幾つものエピソードが曼陀羅のように絡みあい、グロテスクで滑稽で、時に哀しい人々の「生」が鮮やかに浮き彫りにされる。最後の場面が物語の冒頭と見事に響きあい、不思議な爽快感を残す。降りかかった運命とどう向き合うのか、これは現代に生きる私たちの物語でもある。

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【推薦者】野谷 美佐緒
【推薦作品】『酸っぱいブドウ/はりねずみ』
【作者】ザカリーヤー・ターミル
【訳者】柳谷あゆみ
【推薦文】
 シリア人作家、原文アラビア語からの邦訳2篇。59の話からなる『酸っぱいブドウ』は、理不尽であったりグロテスクであったり非現実的であったりするが、さらりと乾いた描写によって妙に納得させられてしまう。6歳の「僕」が語り手の中篇『はりねずみ』は主に家族内のエピソード。子どものいたずらな行動が微笑ましく、シニカルなのにあたたかさも感じられる。アラブの文化やイスラームの文化が含まれるアラビア語から日本語への変換は困難を極めたのではないかと想像するが、日本語からもアラブを感じることができた。


【推薦者】highe
【推薦作品】『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
【作者】ミック・ジャクソン
【訳者】田内志文
【推薦文】
 淡々と綴られる、何かがおかしく、何かが不気味な八つの物語。哀れな熊の話と思いきや、彼ら動物にとっては読み手、或いは人間がどう思おうとどうでもいいのだろう。訳文もE・ゴーリーを思わせる挿絵も作品の雰囲気によく合っている。

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【推薦者】堀 江里子
【推薦作品】『さらば、シェヘラザード』
【作者】ドナルド・E・ウェストレイク
【訳者】矢口誠
【推薦文】
 ポルノ小説のゴーストライターが我が身のやるせなさを愚痴りながら、なかなか仕事が進まず、意識の流れを全部タイプしてしまう。お下劣な妄想も含まれていて、とんでもないことが起きていく。しばらくぶりのウェストレイクで楽しませてもらいました。訳者あとがきによれば、幻の作品だったとのこと。読ませてもらって本当に良かった!

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【推薦者】谷本 京一
【推薦作品】『戦時の音楽』
【作者】レベッカ・マカーイ
【訳者】藤井光
【推薦文】
 読み絵終えた後、あの人たち(登場人物)のその後が、幸せであってほしいなあと思いました。坂元裕二さんの脚本を読んでいるかのような感じ、映像化してほしいですね。著者レベッカ・マカーイさんと訳者の藤井光さん、関係者の皆さんに感謝です。(「翻訳は対話と言えるかもしれません」という熊谷允紘さんの言葉をお借りします)

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【推薦者】マリア・セシリア
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ぺショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 久しぶりに物語の世界に没入する楽しさを味わった。とてもたくさんいる登場人物たちといっしょに村を歩いていると、どこからともなく犬たちも集まってきて……。考え抜かれ、選び抜かれた日本語が見事。

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【推薦者】木本 学
【推薦作品】『82年生まれ、キム・ジヨン』
【作者】チョ・ナムジュ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 82年に韓国で生まれた1人の女性を描くことで、女性の生きづらさを浮かび上がらせる。隣の国の息遣いが聞こえてくるほど、端正な翻訳。 二度読むことで、彼女の置かれる現在を思い、胸が痛む。

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【推薦者】nozomi
【推薦作品】『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』
【作者】イ・ミンギョン
【訳者】スンミ 小山内園子
【推薦文】
 この本で明確にされた、女たちの生きづらさ。わざわざ言葉にしてもらわなければ、自分達の状況にも気づけなかった悲しい我々、女たち。でも、もうこの本があるから大丈夫。そもそも私たちの側に説明の義務なんてなかったことから優しく説いてくれる。この本以前・以降の私がいることをはっきり自覚する。そしてその救われた感がどれだけ圧倒的で心地よいものか。正に訳出されたことに感謝の一冊です。

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【推薦者】小野 香織
【推薦作品】『バルザス=プレイス』
【作者】ラ・ヴィルマルケ
【訳者】山内 淳
【推薦文】
 原作の発行は19世紀だが、それ以前のフランス・ブルターニュ地方で歌い語り継がれてきた詩歌を対象にしているため、現代語の訳とは異なり、時代背景や文化・慣習といったコンテクストを理解するだけでも相当な労力を費やしただろうことが容易に想像がつく。これらを踏まえた上での日本語読書にとって分かりやすい訳をされたことに敬意を表したい。

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【推薦者】佐々木 孝
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・ヘヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
 体の自由を失った男の恐怖、過去の回想と共に緊迫した脱出計画がテンポ良く進行していく。庭に広がる不気味な穴の描写には背筋が凍る、夫婦の思いがすれ違い崩壊した結婚生活の深淵なのだろう。女性の恨みはこんなにも恐ろしいものなのか。


【推薦者の名前】おさかなパン
【推薦作品】『エヴリデイ』
【作者】デイヴィッド・レヴィサン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
 肉体を持たず性別も不明、意識だけの存在である主人公の語り、というユニークな設定。主人公は、外見も性格もさまざまな男女の体に憑依して1日だけ過ごし、翌日はまた別の人に憑依するという、特異な「日替わりの人生」を送っている。そんな人物の語りの口調を破綻なく日本語にするのは大変な作業だと思うが、その大変さをまったく感じさせず、ヤングアダルト作品らしい読みやすさをキープして、ぐいぐい物語に引き込む翻訳がすばらしい。

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【推薦者】中村 久里子
【推薦作品】『シルクロードのあかい空』
【作者】イザベル・シムレール
【訳者】石津ちひろ
【推薦文】
 昆虫学者の研究紀行の形式でつづられた絵本で、旅した先は中国の新彊ウイグル自治区(本来は中国ではなくウイグル民族の土地)。豊かな自然、悠久の歴史、多層的な文化について、赤を基調とした鮮やかな絵と詩のように磨き上げられた端正な言葉で、芸術作品を楽しむように学ぶことができる。短く簡潔な文章だからこそ、厳選されたひと言ひと言の美しさが際立つ。石津ちひろさんの訳される絵本はいずれも珠玉だが、この作品は、とりわけ未知の文化への扉である翻訳書として、大きな意義があると感じる。


【推薦者の名前】水元 莅保
【推薦作品】『方丈記』
【作者】鴨長明
【訳者】蜂飼耳
【推薦文】
 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」から始まる、有名過ぎる冒頭の翻訳に非常にご苦労されたとのこと。教科書に出てくる鴨長明は達観した僧侶といった印象だったが、全体を読むと違った。無常観を持ちつつ、俗世への未練が残っている部分もちらほら見受けられる。人間臭さの塩梅が丁度良くなるように翻訳されていた。同じ訳者の『虫めづる姫君 堤中納言物語』も日本の古典に親近感が湧くものだった。蜂飼耳訳でもっと読んでみたい人は私だけではないと思う。


【推薦者】真木 彩花
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 この本のキーワードは「読まず語り」。問わず語りならぬ、「読まず語り」とは?作家が生きていて書評を読めるうちはこきおろすが、亡くなったとたん、愛と敬意に満ちた追悼文を書くー。よくある話だ。人間は生きているうちは決定されないが、死せば崇拝のもとに理想化され、伝記化され、公式化される。だが、それは「座標軸の足りない公式」なのではないか?ベイカーは敬愛する作家アップダイクが「生きているうちに」、彼についてのエッセイを書こうと決心する。「本当に理解できる可能性のある」存命の人物と、同時代に生きている幸運を感じながら。作者の意識にのぼる思考をすべて言語化するかのような筆致が、不思議な心地よさを感じさせる。自意識を顕微鏡で覗いているような感覚。なのに読みやすいのは、ひとえに有好宏文氏の訳文が素晴らしいから。「語り」における自己と他者の関係性が気になる人はぜひ。


【推薦者】MIWAKO
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 初めてのポルトガル文学でした。大勢出てくる登場人物にはすべて名前がついていて 若干混乱しますが、登場人物を整理して もう一度読み直すと それぞれの人物が意外な人物に繋がっていたり 人物像も見えてきて 何度も繰り返し読むほどに発見があり ひきこまれていく物語です。映画化に向いている作品だと思います。訳者の日本語がリズミカルで 登場人物のセリフ回しなど豊富な語彙で翻訳本と忘れてしまいほど どんどん吸収されていきました。木下さんの他の訳書も是非読んでみたいです!

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【推薦者】佐貫 聡美
【推薦作品】『フィフティ・ピ-プル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 斎藤さんのおかげで、今まで余り触れる機会の無かった韓国文学に出会えて本当に感謝しています。中でもチョン・セランという同世代の素晴らしい作家に出会えた事が、2018年一番の収穫でした。登場する51人の人々皆が、もはや他人とは思えません。本の厚さにひるまず、多くの人にこの作品が届く事を願います。

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【推薦者】高井 志野
【推薦作品】『鐘は歌う』
【作者】アンナ・スメイル
【訳者】山田順子
【推薦文】
 詩的な文章で謎に満ちた話を描いてゆく。いろいろな言葉が今私たちのいる世界と違う定義で使われているのに、読者としておいてきぼりにされることはなく、物語に飲み込まれます。 断片的に散りばめられた伏線がラストに向かって少しずつ明らかになってゆく、読み応えのある文章でした。

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【推薦者】アンジュ
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 地方都市にある大学病院をハブに、50人+aの物語が進行していく。一人ひとりが物語の主人公であり、また別の章ではなんでもないただの登場人物になって、人生はこうして進んでいくんだよなあと感慨深かった1冊。訳者の斎藤真理子氏は今年もたくさんの翻訳をして韓国文学を日本に届けてくださったが、そのなかでもなんとも言えない味わいのある作品だった。自分で2冊以上買い、他人にプレゼントまでした本は初めて。今年の翻訳本のイチオシならこれ一択です。

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【推薦者】 Kroke
【推薦作品】『世界イディッシュ短篇選』
【作者】ショレム・アレイヘム他
【訳者】西成彦
【推薦文】
 東欧系ユダヤ人の日常言語イディッシュで書かれた十三の短篇。生き生きした訳文がユダヤ人の日常生活を伝えてくれる。イディッシュ語作家はこれまでショレム・アレイヘムとバシェヴィス・ジンゲルしか知らなかったけれども、アルゼンチン・ブラジル・南アまで広がる世界文学としてのイディッシュ文学の一端を垣間見ることができた。翻訳はもちろんだが、こうしたアンソロジーを編む苦労は並大抵ではない。編集・解説も含めて配慮が行き届いている。


【推薦者】梅川 桂子
【推薦作品】『マザリング・サンデー』
【作者】グレアム・スウィフト
【訳者】真野泰
【推薦文】
 若者が次々に戦争に駆り出されている中でも、女中に与えられた里帰りの日曜日=マザリングサンデー。作者が何度も作中で言うように、彼女の本当の気持ちは語られない。抉られた心の奥を何十年もオブラートで包んで、痛みをなるべく感じないようにした彼女。終わりは分かっていて、でも夏のようなあの春のマザリングサンデーに、本来はひとりぼっちの日だから尚更心は浮き立っていた。春の陽光と悲しみは、溶け合った思い出となって付きまとう。彼の答えた声の落ち着きと甘さ。無駄な射出。いない母。なれなかった母。失った恋。救ったのは本。二つの大戦の間を描くイギリス小説で頻繁に出会う、上流階級の若者の退廃と彼達を戦争に追いやった事を悔やむ親達の苦悩とともに、ある女流作家について語られる文章が心にまとわりついて離れない。訳してくれた真野氏に感謝。

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【推薦者】針生 森
【推薦作品】『償いの雪が降る』
【作者】アレン・エスケンス
【訳者】務台夏子
【推薦文】
 ミステリーです。主人公は大学生のジョー。弟が自閉症で、アルコール依存症の母は弟の面倒をみません。そんななか、ジョーは弟の世話をしながら、事件に巻きこまれていきます。このジョーの人間性が素晴らしい。翻訳者の務台さんも惚れ込んで、訳しています。

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【推薦者】kiyo
【推薦作品】『中国はここにある』
【作者】梁 鴻
【訳者】鈴木 将久・河村 昌子
【推薦文】
 河南省の貧しい村、梁庄(村名は架空)。二〇歳までそこで暮らしたひとりの女性、梁鴻(リアン・ホン)が故郷で、五ヶ月にわたって農村の人々の言葉を記録した作品。彼らの言葉は「自分たちはここにいる」というある意味では単純なものなのだが、その言葉には『中国はここにある』という言外の声明が通奏低音となって鳴り響いている。農民たちの言葉は広大な中国の中では決して高らかではない。しかし無言でいることは、すべてを受け入れている、ということとは違う。むしろそこに、無数の確固たる意志が隠されているのだが、世界はそういった非言語にはあまり関心をしめさない。だがそれは、非常に抑制のきいた音にならない痛切な言葉なのだ。梁鴻は農民たちのその言葉を丁寧に記録していく。農村出身者ならではの当事者意識と、それに傾くことのない冷静な客観性をあわせもった美しい作品。

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【推薦者】らっぱ亭
【推薦作品】『竜のグリオールに絵を描いた男』
【作者】ルーシャス・シェパード
【訳者】内田昌之
【推薦文】
 1980年代に発表されたルーシャス・シェパードの傑作「竜のグリオールに絵を描いた男」が、今になってまさかの連作短編集として、そしてまた、まさかの竹書房から翻訳刊行されたのはひとつの事件である。翻訳はもちろんのこと、カバーイラストも解説も素晴らしい。これからも、確かな目を持った翻訳者の方々の持ち込み企画が実現していくことを祈念したい。


【推薦者】高山あつひこ
【推薦作品】『英国怪談珠玉集』
【作者】バイロン
【訳者】南條竹則
【推薦文】
  幻想文学にとって有名な運命の一夜というのがある。メアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』を、ポリドリが『吸血鬼』を生み出したディオダティ荘での夜。その時に書かれたバイロンの『断章』で始まるこの本は、見事に暗い異国の世界への扉を開いてくれる。続くレ・ファニュの『ロッホ・グア物語』から始まる奇譚の数々は、見知らぬ土地の古びた館への憧れをかきたてる。そして、キプリングの『彼等』で、主人公と共に館にこだまする足音や囁きへ耳を澄ませるうちに、気が付くと、この世とあの世の境目の世界のすばらしさや悲しみを知ることになる。ここに現れる異国の幽霊たちは、日本的な湿っぽさとは違い、夜中にバイオリンを奏でたり、いかがわしい古い歌を歌ったりして、実に賑やかで暴力的でもある。こういう書物は古びさせ埃にまみれた姿で差し出したいのだが、まずは読んで戴きたく、推薦します。

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【推薦者】赤塚 きょう子
【推薦作品】『IQ』
【作者】ジョー・イデ
【訳者】熊谷千寿
【推薦文】
 主人公は探偵を生業とする黒人青年“IQ”。巨大な猛犬をつかう殺し屋を探し出そうとする現在の物語と、突然悲劇に見舞われ、悩み苦しみ、迷走したすえ、進むべき道を見つけていく過去の物語が、ラップのリズムを背景に交互に描かれる。IQと兄の絆に胸が熱くなった。ブラック・カルチャーに疎く、ラップもヒップホップもさっぱりわからないのだが、そんなわたしでもぐいぐい引っ張られて、楽しく読めたのは翻訳の力に負うことが大きいと思う。原書は続編も刊行されているので、邦訳を心待ちにしている。

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【推薦者】磯上 竜也
【推薦作品】『ガルシア=マルケス「東欧」を行く』
【作者】G・ガルシア=マルケス
【訳者】木村榮一
【推薦文】
 確かな観察眼と、マルケスらしいユーモアで冷戦時の東欧を言葉で繋ぎとめた一冊。ジャーナリスト時代から、語りの魅力はすでに発揮されていて、読むことの愉しさを味わいながらも、自分がいなかったその場の空気に確かに触れたような気持ちになれる。ガルシア=マルケスの翻訳がまだ読める喜びと、丁寧な仕事に一票を。

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【推薦者】篠崎 仁
【推薦作品】『バルザス=ブレイス』
【作者】ラ・ヴィルマルケ
【訳者】山内淳、大場静枝、小出石淳子、白川理恵
【推薦文】
 フランス・ブルターニュ地方で語り継がれてきた詩歌を蒐集した物語歌謡集。我が国では初めての翻訳。原文の解釈にフランス語、英語のみならずブルトン語、ウェールズ語、ギリシア語、ラテン語などの知識が要求される難しい翻訳を成し遂げたことは、学問的に極めて価値が高い。翻訳の日本語は良くこなれており、理屈抜きで文学書として楽しく読める。類書の少ない分野での上梓であり、多くの人に手にとってほしい本である。

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【推薦者】まる
【推薦作品】『あのころ、天皇は神だった』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】小竹由美子
【推薦文】
 故岩本正恵氏の遺志を小竹由美子氏が継ぎ、見事な訳文で読者を魅了した『屋根裏の仏さま』。『あのころ、天皇は神だった』の、小竹氏による新訳・復刊は『屋根裏の仏さま』の好評に後押しされて出たものであるのは間違いない。『屋根裏~』も本書も、アメリカにおける日系人の歴史を描いたもので、集団としても、個人としても、辛い過去である。この厳しい日々を、オオツカはぽつぽつと言葉を置いて語る。まるで色のない小石を並べるように。私たちはその小石のひとつひとつの重みと冷たさを感じながら読み進めていく。最終章、ほろほろと脆かった言葉が突如として奔流となり一気に流れ出てくるのは圧巻であった。オオツカのほかの作品も、ぜひ読みたい。そのときは必ず小竹氏の訳で読みたい。

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【推薦者】黒猫
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ホセ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 ポルトガルの文学に初めて触れました。小さな世界を埋め尽くす異常な臭いから救いを求めるように発せられる濃厚で過剰な登場人物たちの思いを、冷静に愛を持って描く静かな手つきの文章・翻訳が心に残りました。

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【推薦者】unyue
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 ポルトガル文学というとペソアかサラマーゴなどの特定の著名な作家以外には知られていない状況がある中で、現代ポルトガル文学を代表する作家のひとりとしてジョゼ・ルイス・ペイショットが紹介されたことはとても嬉しく素晴らしいことだと思います。不思議で残酷な寓話のような架空の町ガルヴェイアスでの出来事が綴られた本作は、二度三度と読み込み深く穿ちたくなるような地味にあふれており、この作品がふと目にして気軽に手に取れるレーベルから発信され、誰もが日本語で味わえることに特別な意味があると感じました。訳出してくださった木下眞穂氏に敬意と感謝を表して2018年度の日本翻訳大賞として推薦いたします。

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【推薦者】後藤 雄亮
【推薦作品】『バルザス=ブレイス ブルターニュ古謡集』
【作者】ラ・ヴィルマルケ
【訳者】山内淳・大場静枝・小出石敦子・白川理恵
【推薦文】
 表紙が印象的だったので、手に取ってみた。全く知らない場所の民話集だったので、最初は読み通すことはできないと思ったが、読んでいく内に次々と読みたくなった。一話が比較的短くて、翻訳も自然だったので、とても読み易かった。フランスのブルターニュ地方には一度も行ったことはないが、行ってみたいと思わせる本だった。

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【推薦者】ミランフ
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 ふりがなのついた漢字、カタカナ語などをミックスして、異国を感じさせながらも自然な、リズムのある魅力的な訳文が、作品を最良の形で日本の読者に届けていると思います。台湾文学おもしろい!と、期待が高まりました。登場人物のさまざまな声の表現にも、訳者の力量を感じます。

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【推薦者】冬猫
【推薦作品】『奥のほそ道』
【作者】フラナガン
【訳者】渡辺佐智江
【推薦文】
 簡単には消化出来ないような傑作長編を緊張感のなか最後まで読ませる翻訳。戦争の加害者と被害者の埋め難い落差が様々な立場の言い分で混沌としたのち、浮かび上がるもの、新たな問いかけは、激しさと静けさ両方を持つ言葉を読み通せたからこそ。

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【推薦者】三辺 律子
【推薦作品】『MARCH(1,2,3)』
【作者】ジョン・ルイス (著), アンドリュー・アイディン (著), ネイト・パウエル (イラスト)
【訳者】押野 素子
【推薦文】
 アメリカの公民権運動の歴史を、グラフィックノベル(=漫画)で描き、本国でさまざまな賞を総なめにした作品。公民権運動の闘士ジョン・ルイス下院議員の自伝は、そのまま、アフリカ系アメリカ人の公民権運動(公民権の適用と人種差別解消を要求した運動)の歩んだ道のりとなる。ここまでしなければ、本来とうぜん持つべき権利を手に入れられなかったことに呆然としながらも、行動を起こすことの大切さが心に刻み込まれる。怯えたり、傍観したり、冷笑したりしていては、なにも変えることができないということを、この作品は教えてくれる。
トランプ大統領を生む一方で、こうした作品を本や映画などさまざまな形で(若者にむけても)送り出すところに、アメリカという国の底力を感じる。そんなふうに、自国以外のあり方を感じられるのも、海外文学の魅力の一つだ。これだけの情報量がほぼセリフだけに詰め込まれているにもかかわらず(しかもふきだしという物理的制限の中)、あくまで会話として自然な日本語に訳してくださった押野素子さんに感謝!

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【推薦者】♪akira
【推薦作品】『さらば、シェヘラザード』
【作者】ドナルド・E・ウェストレイク
【訳者】矢口誠
【推薦文】
 ポルノ小説のゴーストライターをやっている小心者の主人公。締め切りを延ばしてもらったところで、書いては止まり、書いては止まりと永遠に原稿は書きかけのままという呪いのようなスランプに陥いる……のが、なんと一章25ページずつできっちりと繰り返されるのだ! 英語と日本語という激しく高いハードルを乗り越えただけではなく、ウェストレイクマニアも納得するテンポの良い文章で原文の面白さをそこなわない訳文のスゴさにひたすら感動しました。

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【推薦者】瀧上 園枝
【推薦作品】『すべての、白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 しお、ゆき、こめ、つき、はくもくれん…「白い」ものたちに寄せた掌篇たちは、どれも冷たくどこか哀しい。温もりの象徴と言えるようなおくるみ、産着でさえも、繋がる物語は哀しい。それでも最後まで読み進めると、その「哀しい白」は新しい方向へ進むための言葉を書きつける紙の色に繋がっていると気付く。白い色の強さと光を感じることができる一冊。

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【推薦者】マダム・リー
【推薦作品】『クロストーク』
【作者】コニー・ウィリス
【訳者】大森望
【推薦文】
 SF慣れしていない読者をして発売を心待ちにさせ、700頁超の重量をむしろ喜びとして取りかかる。作者の才は言うまでもないですが、大森氏のリズミカルにはじけるような翻訳で、心躍る極上のひとときを味わえること、本当に嬉しく有難いです。

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【推薦者】まーくん
【推薦作品】『バルザス=ブレイス』
【作者】ラ・ヴィルマルケ
【訳者】
山内淳ほか
【推薦文】
 「フィニステール」と呼ばれ、フランスでありながらフランス文化とは一線を画してきたブルターニュの地理と歴史を味わうことができる。ただし、端的に語られる歴史書とは異なり、詩歌によってゆったりと語られ、じっくりと心に染みてくる作品である。東北の「遠野物語」や沖縄の「おもろそうし」など、日本の辺境の地で守られてきた文化や言葉が、日本人の心の奥深くに響くのと同様に、ブルターニュの「バルザス=ブレイス」の数々のエピソードの欠片が心に突き刺さり、現代人に失われた何か大切なものを思い出させてくれる。頑なまでに守り続けた土地の記憶、言葉と歌の調子、民衆の郷愁がそこにはある。大きな流れに翻弄されることなく、辺境の地に生きた人々の生々しい言葉やグローバリゼーションの中で失われつつある人類の細々とした記憶を翻訳で読めることを幸せに思う。

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【推薦者】畔田 秀信
【推薦作品】『すべての白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】
斎藤真理子
【推薦文】
 詩のような祈りのようなとても美しい作品であるのだが、それは斎藤真理子さんの翻訳に負うところもとても大きいだろうと思う。韓国語の美しさを翻訳から想像できる。白に対する我々の持つイメージが、翻訳者によって目の前に立ち上がってくるこの作品はいつまでも読み継がれるだろうと思う。

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【推薦者】木のぼり男爵いも
【推薦作品】『小学生のための正書法辞典』
【作者】ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン
【訳者】丘沢静也・荻原耕平
【推薦文】
 ヴィトゲンシュタインが生前に刊行した二冊の書物のうち、一冊は『論理哲学論考』、そしてもう一冊が本書『小学生のための正書法辞典』とのことです。この小さな辞典は、ヴィトゲンシュタインが小学校の教員をしていた30代前半の頃、学校での経験から生まれたもので、ドイツ語のつづりが怪しい生徒たちが自力で作文を添削できるようにと編まれました。翻訳の読みどころは丘沢静也による解説です。彼は同書を『論考』から後期の『哲学探求』へと至る、ヴィトゲンシュタインの思想的転換を示唆する記念碑的著作と位置づけています。ヴィトゲンシュタイン自身の言葉を借りると、「アイスバーン」に入り込んだ彼の哲学が、滑走面との「摩擦」に耳を澄ませはじめる前触れ、というような感じでしょうか。難しいことはさておき、現代の日本でこのような本が翻訳出版されることに、まず素直に驚きました。はじめはキワモノかと思ったのですが、決してそんなことはなかったです。小学生のお子さんのいるご家庭にぜひ一冊どうでしょう。

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【推薦者】blue_blue
【推薦作品】『鯨』
【作者】チョン ミョングァン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 2018年に読んだ本の中でぶっちぎりに面白かった一冊。凄まじい熱量とクドさとユーモアに読みながら酩酊。先が気になる反面、読み終わりたくないという矛盾した感情の鬩ぎ合いの483ページ、フルマラソン疾走直後のような心地よい寂寥感に満たされた。力強い生命力に満ちた物語にも圧倒されたが、斎藤真理子さんのテンポよく軽快な翻訳がとにもかくにも素晴らしかったと思う。同じく斎藤さん訳の『フィフティ・ピープル』とも迷ったけれど、こちらに一票投じます。

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【推薦者】リサ
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】
斎藤真理子
【推薦文】
 人間が喪失や葛藤を抱えながら生きることの重みが、希望の光ともに描かれた傑作。『すべての、白いものたちの』の繊細な美しさも素晴らしくて、どちらを推薦しようか迷いましたが、より多くの人に手にとってもらいたいという思いでこちらを選びました。斎藤真理子さんが訳された韓国文学はどれも読みごたえがあって今後も楽しみでなりません。

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【推薦者】白石 秀太
【推薦作品】『さらば、シェヘラザード』
【作者】ドナルド・E・ウェストレイク
【訳者】
矢口誠
【推薦文】
 スランプになったポルノライターによる、原稿のための必死の卑猥妄想がつめこまれたこの珍品的小説が、約50年の時を経て日本初翻訳。なぜ今? そんなことはどうでもいい。読みながら何度も「うくくく」と笑った。50年前も50年後も誰かの脇腹をくすぐることだろう。ウェストレイクは『ホット・ロック』などの代表作が軒並み絶版中だ。『さらシェヘ』がヒットして他の作品も復刻/新訳/初翻訳されるよう切に願っている。

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【推薦者】えり
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
 内容、長さ、形態いずれも小説の可能性を広げている作品。ユーモアは特に外国の文化、歴史、生活を知り尽くしていないと読者にも伝わらないし、説明しすぎても不粋になる。そこをすっきり訳されて、あまり外国に詳しくない私も何度も笑えた。注釈でも読みとれなかった部分をうまく補完してくれていてわかりやすかった。日本では実験的な小説が生まれるのは難しい気がする。こうした小説を読む機会を増やすため積極的に訳してくださる訳者と出版社に感謝と敬意をこめて推薦します。

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【推薦者】bobmarluy
【推薦作品】『ヒロインズ』
【作者】ケイト・ザンブレノ
【訳者】西山敦子
【推薦文】
 アメリカの女性作家ケイト・ザンブレノの初邦訳。小説を書きあぐねるなか、モダニズム作家たちの周縁で、見えないものとされてきた女性たち(フィッツジェラルドの妻ゼルダや、T・Sエリオットの妻ヴィヴィアンなど)と自分をかさねあわせ、まるで憑依したように声をひびかせる文章は、非常にエモーショナルですが、訳者の西山さん自身もザンブレノに憑依をして訳されているように感じて驚嘆しました。小説、エッセイ、評論のどれでもなく、さまざまなジャンルが溶けあったような、カテゴライズされない印象も新しく感じました。ウルフ、ジーン・リース、キャシー・アッカーなど言及される作家も多く、読了後はそれらをすべて読みたくなる、すぐれたブックガイドでもあると思います。いまの日本で読まれるべき、新たなフェミニズム文学です。

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【推薦者】プラジュスケー・ヤロ
【推薦作品】『メイド・イン・ソビエト 20世紀ロシアの生活図鑑』
【作者】マリーナ・コレヴァ、タチヤナ・イヴァシコヴァ他
【訳者】神長英輔・大野斉子
【推薦文】
 国旗や紙幣から食器、医療、化粧品に至るまでの61の事物を通じて、ソビエト連邦の一般市民の日常生活を描き出した一冊。訳者によって豊富な図版が加えられ、日本人読者にも理解しやすい。「貧しくて粗野なソ連の日常生活はすでに姿を消した。あと十年か二十年もすれば、記憶のほかはまったく何も残っていないことだろう。しかし、ソ連は失われたあらゆる文明と同じように、壮大な芸術作品だけでなく、生活文化のスタイルを完成させていた。過去は急速に遠ざかり、その特徴は見る見るうちにぼやけて見えづらくなっている。研究の機が熟してきたのである」(本書まえがきより)

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【推薦者】佐々木 明子
【推薦作品】『ファミリー・ライフ』
【作者】アキール・シャルマ
【訳者】小野正嗣
【推薦文】
 人生は予測ができないことが多く、わたしたちはたびたび打ちのめされるけれど、文学というのは1つの救いである、というのを高らかに教示した、文学を愛する者にとって誇らしい本です。

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【推薦者】羊
【推薦作品】『U&I』
【作者】ニコルソン・ベイカー
【訳者】有好宏文
【推薦文】
 ニコルソン・ベイカー作品として「中二階」に匹敵する異常さと聞いていたが、今まで翻訳されていなかったので読めなかった。この度やっと翻訳が出て嬉しい。ある作家の死を悼むあまり、作者の想いの矛先が存命の気に入った作家(アップダイク)に向かう。作者は彼が死ぬ前に追悼文を書こうと決意する。いわゆる追悼文らしくなるはずもない(当たり前か)のだが、全体読み通すと彼への愛を綴った随筆になっている。作者は思い込みが強いが自覚的であり物悲しい。 刻一刻と消えていく時間を止めようとするような勢いのある筆致、作家の声どころか中身がほとぼり出した作品。余談だが「中二階」並みの注釈がついていたが、オリジナルにはなく訳者が付けたものだと知って驚いた(異常さ※が増していた)。

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【推薦者】KEN SAKI
【推薦作品】『真夜中の太陽』
【作者】ジョー・ネスボ
【訳者】鈴木恵
【推薦文】
 オスロでやむを得ぬ事情でボスの金をくすね、拳銃を腰に降り立ったのは、ノルウェーの極北の寒村。巡り合ったのが、若い未亡人とその息子。そう、「シェーン」、北欧版ウェスタンなのだ。当然、息子に拳銃のビール缶撃ちでも教えるのかと思ったら、なんと日本の相撲。地面に円を描いて、フタバヤマやハグロイワと言ったかつての名横綱の逸話を紹介しながら。ミステリ味は少ないが、途中で追手から逃れる隠れ場所には大笑いし(これ著者の発明?)、心ならずも犯してしまった殺人の、結末のつけ方はどうするのか。「シェーン、カンバック」となるのか、それとも、、、。ハリー・ホーレシリーズとは別の世界を見せてくれる、読後、「ねー、ねー、これ読んだ?」と誰かに言いたくなる快作。

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【推薦者】榊原
【推薦作品】『82年生まれ、キム・ジヨン』
【作者】チョ・ナムジュ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 うまく言葉にできなかった苦さが細やかにかかれていて何気ないシーンのような場面こそ読みながら何度も涙が出た。時代や国、背景は違えど共感することは多く、それが衝撃的でもあった。また、隣国を新たに知れる点も多い。原作がすばらしいのはもちろんだけど日本語で丁寧に翻訳してくださった本だからだと思った。ところどころ韓国の文化等についても注釈が書かれており非常にわかりやすくて読みやすい。

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【推薦者】アイリーン子
【推薦作品】『死に山』
【作者】ドニー・アイカー
【訳者】
安原和見
【推薦文】
 単なるオカルトとしか認識していなかった事件が、自分と変わらないごく普通の人たちに起こったことなんだとまざまざと突きつけられた一冊。翻訳物もノンフィクションも進んでてにとる方ではなかったけれど、先へ先へと誘うミステリ的な構成は読みやすくこなれた訳文と相まってページをめくる手を一秒たりとも止めはしませんでした。

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【推薦者】法水
【推薦作品】『肺都』
【作者】エドワード・ケアリー
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
 《アイアマンガー三部作》の掉尾を飾るにふさわしい一作。まず今回もタイトルが素晴らしい。原題がLungdonなので「肺」が使われているが、音だけを聞くと「廃都」に通じる。物語もこれまでで一番長いが、クロッドとルーシー、ひいてはアイアマンガー一族はどうなるのか、国会議事堂での大団円を迎えるまでまさに巻措くあたわざる面白さ。映画版も是非実現して欲しい。

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【推薦者】瀧井 朝世
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 語り手がかつて父が所有していた自転車の持ち主を探し、さまざまな人と接触するうちに、その人たちの過去、記憶、創作物、モノや動物にまつわる歴史が浮かび上がり、話は幾層にも深みを増す。どの層のエピソードも繊細に丁寧に描写して、次々と異なる光景を読者に見せる。鮮烈な印象を残す旅に連れていってくれる物語、そして訳文。

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【推薦者】関口 竜平
【推薦作品】『すべての、白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 ひらがなの持つ「つよさ」を思い知った。本作において重要なフレーズである「しなないでおねがい」という祈りのことばは、確実にひらがなとして訳出され紙の上に書かれる(そしてそれを読者によって読まれる&発話される)必要があったと思う。ひらがなにすることで、場面の切実さや母の孤独、そして祈りのつよさが伝わってくる。このイメージを原文から的確に読み取った斎藤真理子さん、おそるべし……。もうこの9文字を読めただけで、この本に出会えてよかったとすら思った。


 

 

【推薦者】しいな
【推薦作品】『春の宵』
【作者】クォン・ヨソン
【訳者】橋本智保
【推薦文】
 酒を飲む人たちの悲しみを綴った短編集。表題作「春の宵」に登場するアルコール依存症とリウマチ患者の中年カップルには愛があっても未来はない。過去と現在の絶望の中で、それでも彼女は酒に頼らずには生きていられない。酒の飲めない読者にも、酒好きで酔っぱらいの読者にも、苦い何かが胸に沁みるはずだ。


 

 

【推薦者】トマト
【推薦作品】『エヴリデイ』
【作者】デイヴィッド・レヴィサン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
 主人公は毎朝目覚めるたびに見知らぬ人物のからだに宿っていて、その人として1日を過ごさねばならない。宿主の共通点は16歳という年齢だけで、性別、健康状態、家庭環境、宗教などさまざま。そんな人生を受け入れ、他者の目を通して静かに人間の多様性を見つめてきた主人公が、恋をしたことで、状況が変わっていく。語り手の性別が定まらないため、「一人称を使わない一人称進行」という制約のもと、せつない恋愛と多様な16歳たちがリアルに描き出されている。この物語がこの訳者に出会えたことを喜びたい。

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【推薦者】Kex
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 おおきな病院のある街でさまざまな人たちが出合い、お互いに相手のことを知らず、かすかに触れあい、散らばっていくさまが描かれる。その多くは境遇になやみ、むなしい思いをもっている。著者はあとがきに、渋谷のスクランブル交差点を渡る大勢の人たちの姿をみて着想をえたと書いている。ごく若い年齢で不幸とされる目にあっている人、誰からも値うちを認められない人、世の中の皆がしているようなうまいやりかたを感じ取れない人。いま自分にたくさんの引け目をおぼえている方がいるなら、この本を読んでほしいものと思う。わたしたちそれぞれの人生は、値段づけなどされてはならない。この本に出てくる人たちは、じゅうぶんに貴重なそれぞれの人生の一片を持って集まる。同じようにわたしたちもいまここにいる。長い長い歴史からみればほんの一瞬。宝石のような瞬間。

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【推薦者】伊藤 聡
【推薦作品】『変わったタイプ』
【作者】トム・ハンクス
【訳者】
小川高義
【推薦文】
 長らく〈アメリカ映画の主人公〉であり続けた俳優、トム・ハンクスが61歳で新人小説家となり、純度100%のアメリカ文学を書き上げるという信じがたい展開。収められた17の短編で描かれる、アメリカ的としか形容できない瞬間はどれもみごとに美しい。登場人物たちが備えるユーモアとまっとうさ、善良さが、いまのアメリカにおいていかに貴重であるか。作者の伝えんとするニュアンスを、率直さとおかしみを持って訳した小川氏にも感謝の意を述べたい。

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【推薦者】chocotabby
【推薦作品】『エヴリデイ』
【作者】デイヴィッド・レヴィサン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
 「自分」を生きるとは何か、愛する人を大切にするとはどういうことか、容姿、性別、中身と外見のギャップ、恋愛の悩みや人生の迷いが丁寧に描かれます。突飛な設定のようで、思春期の揺れるアイデンティティが宿主という形で表現されているようにも感じ、同世代の読者ならどの宿主にもどこか共感できるのではと思う。二人の関係の行方、宿主を渡り歩く生活に終わりがあるのかなどが気になって、途中からは一気読みでした。結末は、若者らしいまっすぐさが清々しく感じつつも、悲しく切なくて辛かったです。

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【推薦者】千 鶴
【推薦作品】『リンカーンとさまよえる霊魂たち』
【作者】ジョージ・ソーンダーズ
【訳者】上岡伸雄
【推薦文】
 死を受け入れられない大勢の幽霊たちのおしゃべりと、リンカーンにまつわる膨大な史実(嘘か真か?!)がひたすら続く。カオスな描写に最初は正直面食らったが、もはや幽霊たちが愛おしくなるほど物語に引き込まれた。こんなにもユニークで、自分にとって大切な誰かを想わずにはいられないような作品は初めてだった。

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【推薦者】大戸 敦子
【推薦作品】『西欧の東』
【作者】ミロスラフ・ペンコフ
【訳者】藤井光
【推薦文】
1つの集落が、流れている川を国境として分けられてしまう。親戚や友人や恋人たちが、川を挟んで怒鳴り合って会話する。一方にはブルガリア人の魂はあるがジーンズはない、もう一方にはジーンズがあるが魂は奪われかけている。ブルガリアという国のことを、ヨーグルトと体操以外知らなかったんだなあとつくづく思う。侵略されてきた歴史。二度のバルカン戦争と二度の世界大戦。国に翻弄される暮らし、恋愛、人生は、悲しいことも多いけれど時々ちょっとユーモラスで、なんだかよく知っている隣人のようにも思えてくる。

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【推薦者】こはたこまく
【推薦作品】『折りたたみ北京』
【作者】ケン・リュウ編
【訳者】中原尚哉、大谷真弓、鳴庭真人
【推薦文】SF作品というと英語圏やスラブ語圏のイメージがつきまとうが、近年の中国SF作品が勢いを増しているということを耳にして以来日本語で読めることをずっと待っていました。ハオ・ジンファンの作品は待ちに待った邦訳だったのでとても嬉しく思います。中国の世界観と万国共通のガジェットやテクノロジーが組み合わさった世界はとてもワクワクして、読み物の楽しさを味わうことができました

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【推薦者】愛 大地
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
新聞の書評を読んで興味を惹かれた日から40年以上。待ちに待った翻訳が遂に出た。まさかこれ程の長い作品とは思わなかった。なかなか翻訳が出なかったわけだ。この翻訳が出たこと自体事件。長く生きてきた甲斐があった。本の装丁も良い。翻訳者、木原善彦氏の偉業に拍手を贈りたい。

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【推薦者】sosorara
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 田舎の村に正体不明の巨大物体が落下し、すべてが硫黄臭に包まれるというSFじみた幕開けながら、その後展開するのはじつにリアルな人々の生の営み。泥や体液や腐臭やもっとひどいものの臭いがページからたちこめるような訳文に引き込まれていくうち、猥雑な村の日常のむこうに人が生きるということの哀切さがしみじみ思われ、胸がきゅんとなる。小村の暮らしからポルトガルの近代史が見通せる描き方も見事。そして原題に足された表題の「の犬」の二文字が、なんともいえない余韻を残す。
歴史的に日本とは縁の深い国ながら、思えばポルトガルについて、私はほとんど何も知らない。その国で、今、こんな小説を書いている作家がいるのだということに新鮮な驚きを覚え、本書を選びました。

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【推薦者】アケルダマ1
【推薦作品】『すべての、白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 生まれて二時間しか生きなかった「姉」への思いから書き起こされる、白にまつわる物語。それは「まっしろな(ハヤン)」ではなく「しろい(ヒン)」色で、本書の紙にもさまざまな「白」が使われている。兄と私のあいだにも、生きることのなかったもうひとりの「兄」がいたと聞かされていたことを思い出した。その兄も白いおくるみに包まれたのだろうか・・・生きなかった兄を思う時間がこれまでどれだけあっただろう・・・そう思ったとたん涙があふれた。空から降ってくるハングルが途中で日本語に変わって静かに降り積もったかのような、ため息の出るような翻訳です。 


 

 

【推薦者】みけ
【推薦作品】『マザリング・サンデー』
【作者】グレアム・スウィフト
【訳者】真野泰
【推薦文】
 1924年のマザリング・サンデーの一日を切り取ったお話であり、孤児からメイドとなり長じて作家となった主人公の成長物語でもあり、書くことをめぐる小説論でもあるという不思議な小説である。そこに時代背景を加味した物語を「中編」というコンパクトな中にまとめる手腕はさすがにスウィフトと唸らされる。だが、この小説の真の魅力は最初のページから光に溢れた、生きることを愛おしむ感覚が伝わってくるところだ。読書の喜びを十二分に味合わせてくれる。

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【推薦者】白石 由美子
【推薦作品】クリスマスのあかり
【作者】レンカ・ロジノフスカー
【訳者】木村有子
【推薦文】
 クリスマス・イブに起こった、小さな男の子の小さな冒険。彼を取り巻く大人たちの優しいまなざしとチェコのクリスマスの厳かで暖かな情景が心にじんわりと残ります。
文章はチェコ人のレンカ・ロジノフスカーさん、絵は日本人の出久根育さんが手がけています。そして、木村有子さんの翻訳を意識させない翻訳。チェコと日本をつなぐ美しい絵本です。

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【推薦者】益岡 和朗
【推薦作品】新しきイヴの受難
【作者】アンジェラ・カーター
【訳者】望月節子
【推薦文】
 アンジェラ・カーターは本作で、とても丁寧な手つきで「男性」を扱っている。この翻訳は、その手順・手際を、とても真摯に追いかけているという印象を受けた。訳文が硬いと判断される向きもあるだろうが、カーターが喝破する男性の多面性を残さず拾い上げるためには、このくらいの緊張感が必要だったのだと思う。
詳細な訳者あとがきは、並みの小説ならば蛇足と判断されかねないほどの力作論文だが、この怪作はそんなことで揺らぐような代物ではない(訳者自身がそれを重々認識した上での施策だったのではないかとも思える)。むしろ、このあとがきを読んで訳者の研究成果を装備した上で、二周目、三周目に挑んでいくのがこの作品との幸福な付き合い方なのではないか。
とても贅沢な読書を楽しめる一冊。堪能致しました。


 

 

【推薦者】地主
【推薦作品】JR
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
 噂だけは聞いていた「読まれざる傑作」の完訳だけでも快挙だが、書籍としてもこれ以上は望めないほど丁寧に作り込まれており、訳者と出版社の並々ならぬ思いが伝わってくる。

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【推薦者】安田 大黒
【推薦作品】誰でもない
【作者】ファン・ジョンウン
【訳者】斎藤 真理子
【推薦文】
 1976年ソウル生まれの作家による短編小説集。ここで描かれているのは、社会にあって見落とされがちな、あるいは見ても見ぬ振りをされがちな、市井の人々の不安であり痛み。暮らしの中で直面する、どうにも居心地の悪い瞬間。指先に刺さったトゲのような、小さくとも長く残る痛み。取り返しのつかない悔恨と、回復へのかすかな意志。それらを的確に彫り出し、刻み込む視点に特徴がある。さらに丹念な人物描写は「誠実」といえるほどで、根底に「人間」への敬意があふれる。そのためトーンが暗い作品も閉塞感がなく、稀有な読後感である。短編『ミョンシル』を特に推薦する。寄る辺ない暮らしと未来にあって、人は何にすがれば、それでも歩んでいけるのか。普遍的な主題が、印象的な美しさで描かれている。本書の背景にある、韓国社会が抱える諸問題(日本と通じる部分も多々ある)について、社会構造や時代状況も含めた理解を助けてくれる翻訳・解説である。

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【推薦者】佐藤 弓生
【推薦作品】酸っぱいブドウ/はりねずみ
【作者】ザカリーヤー・ターミル
【訳者】柳谷あゆみ
【推薦文】
 現代シリアの人びとにとっての現実、というか現実味を伝えてくる本書は、59の掌篇から成る「酸っぱいブドウ」と、子どもの生活のささやかなエピソードを連ねた中篇「はりねずみ」を収める。
前者は三人称による群像劇で、寓意的というよりはもっと非情で不条理、ときにグロテスクだったり超現実的だったりする。いずれにせよ話を動かすのは登場人物たちのなんらかの執着心である。それはよくもあしくもシリア社会で生きる人びとの実感をともなっているのだろう。
後者は子どもの一人称の語りながら、その世界への第三者的な、比較的あたたかいまなざしをもにじませる。対照的な二作の配合がおもしろく、そして、シリア内戦よりすこし前の「現代」であることがせつなく、いま訳されたことに意義があると感じた。


 

 

【推薦者】りつこ
【推薦作品】ソロ
【作者】ラーナー・ダスグプタ
【訳者】西田英恵
【推薦文】
 昨年も素晴らしい翻訳本にたくさん出会うことができて翻訳家の方には感謝の気持ちでいっぱいです。
その中でも日本ではまだ紹介されていない作家や作品を次々出しているエクス・リブリスのシリーズは、次はどんな世界を見せてくれるのだろうと毎回ワクワクしています。
この作品は、ブルガリアで生まれ育ち不安定な政治に翻弄されて夢をあきらめざるを得なかった男性が主人公。失意の連続だった彼の人生は読んでいてしんどいのですが、後半はそれを余りある想像力で見事に覆していきます。
決して派手な物語ではないですが、何度も読み返したい作品です。


 

 

【推薦者】借景
【推薦作品】ノー・ディレクション・ホーム :ボブ・ディランの日々と音楽
【作者】ロバート・シェルトン
【訳者】樋口武志、田元明日菜、川野太郎
【推薦文】
 とにかくカッコいい本。掲載されているモノクロ写真がすべて良い。ディラン本は沢山出ていると思います。が、これは一家に一冊。一図書館に一冊。これが有れば、ほぼディランの詩的(史的・私的)な部分が理解できるのではないでしょうか?実在の人物の真実はわからないと思って読めば良い。人の考えは変わるもの。人の考えは生きていれば、過去を変えてしまうもの。年譜のページ「避けがたく長引いた沈黙」はノーベル文学賞の時。「怪しげなふるまいをする年寄り」は警官に尋問された時。翻訳者(共訳)の方々はお若い。若い人が、ディラン本を訳してくれて嬉しい。


 

 

【推薦者】robakun
【推薦作品】春の宵
【作者】クォン・ヨソン
【訳者】橋本智保
【推薦文】
 お酒に依存しなければならない女性たちの悲しみと喪失。7つの短編の中で特に心に残るのは、もうすぐ目が見えなくなる元翻訳家の彼と新人小説家の彼女が主人公の「逆光」。森の散歩で出会う逆光の風景は幻想絵画のよう。あなたはいったいだれですか、という彼の言葉が胸に刺さる。すべては酒に溺れた彼女が見た切ない幻なのだろうか。


 

 

【推薦者】Pipo
【推薦作品】タコの心身問題
【作者】ピーター・ゴドフリー=スミス
【訳者】夏目大
【推薦文】
 原題のメインタイトル部分に「タコ」を入れ込んだ邦題、華麗に足をぐるぐる巻いた博物画の装丁に、「何が書いてあるんだ?」と興味をそそられた1冊です。

日本の読者の大部分にとって、タコは「生前には彼らもいろいろ考えているかもしれない」という思いがよぎるものの、最終的には唐揚げや煮つけや刺身の食材なので、そこまで突っ込んで考えることはないと思います。そこに、「タコを切り口に、ここまで地球上の生物の進化を考えられるのか(生物学の研究では常識かもしれませんが)」と見せつける面白み。紹介される学術的知見に圧倒されつつも頭足類への思いが暑苦しくないのは、筆者のスタンスにあることはもちろん、訳文の適切さにあるのだと思います。

基本的には、カンブリア紀のバージェス古生物群を扱ったスティーヴン・ジェイ・グールド『ワンダフル・ライフ』のような、サイエンス・ノンフィクションですが、ハラルト・シュテンプケ『鼻行類』やレオ・レオーニ『平行植物』などの博物学的海外文学に親しまれるかたにもお勧めします。

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【推薦者】佐川 亜紀
【推薦作品】『オオカミは目玉から育つ』
【作者】金経株
【訳者】韓成禮
【推薦文】
 本書は、韓国で最も注目されている詩人であり戯曲家でもある金経株の斬新な戯曲集を翻訳したものです。訳者の韓成禮さんはこれまで30年以上、日韓の翻訳、特に詩の翻訳にたいへん尽力されており、詩劇の翻訳に豊かな技量を発揮しています。この作品は核戦争後の互いに殺し合い不信のはびこる絶望的な世界を奇抜な想像力にあふれた詩的言語で表現し、生命の再生を願う内容が込められています。翻訳は原本の野性的でグロテスクなエネルギー、跳躍と沈黙の詩的リズムをとてもよく活かしています。直感的な言葉を鮮やかに息づかせています。あたらしい韓国戯曲の紹介として優れた翻訳作品です。

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【推薦者】あひる
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 大学病院を中心舞台とし、その内部で、あるいはその周辺に生きる人々50数名の物語。各人の氏名がそのまま各章のタイトルとなっている。つまり、一人一人が物語の主人公なのである。大人も子供も、社員もバイトも、ドラマチックな出来事が起こる人生もそうでない人生も、みんな並列で描かれるフェアさが魅力。前の章に出てきた人物が別の章でひょっこり顔を出すのも楽しい。「誰もが物語の主人公」というフェアさを支えているのが、著者の文体だと思う。一見飄々としていながらも、リズムや清々しさを失わない魅力ある文体を、斎藤真理子さんの翻訳で味わい、楽しむことができた。

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【推薦者】豊崎 由美
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
語り手はヴィンテージ自転車のコレクターで、小説を書いている〈ぼく〉。軸となるストーリーは、ごくシンプルだ。20年前に父とともに消えた自転車の、現在の持ち主を探し当てるまでを描いている。ところが、その単純な展開から、いくつも枝分かれしていく物語が見せる光景が、多彩で意想外なのだ。出来事が出来事を引き寄せ、記憶が記憶を呼びさまし、人が人をたぐり寄せていく。1台の自転車の行方を追う物語が、遠く深いところにまで読者を連れていく。21世紀のヴィンテージになりうる1作だ。

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【推薦者】後藤 千秋
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
普通の人々の生活や感情の機微、関わりあっていくことの素晴らしさを描きながら、「生」の背景には常に「死」がつきまとうことも見据えた深い味わいのある作品。原作の持つ柔らかさ、温かさ、静謐さを損なうことなく、翻訳であることを感じさせない自然な日本語に訳されていると思います。軋轢の消えない隣国との関係が残念ですが、この本で凝り固まった韓国のイメージが変化する人も多いのではないかと思います。

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【推薦者】坪田 眞理
【推薦作品】『ガルヴェィアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 ポルトガルの小さな村ガルヴェイアスに、前触れもなく堕ちてきた「巨大な物体」。隕石なのか神の怒りなのか。正体不明の物体が運んできた不穏な空気と鼻をつく硫黄臭の中で次々と語られる、卑小で猥雑な人間たちのいとなみ。生にまつわる秘密や貧しさ、あきらめ、ささやかな幸せや欲望、悲しみと憎悪、そしてあっけない死。そして彼らひとりひとりの生と死の悲喜こもごもを観察し、全てを納得しているようなガルヴェイアスの犬たちの悲しい目。この風変わりではあるが力強く愛すべき黙示録を読めたことは、昨年の大きな収穫だった。作者本人に、「出会ったことが奇跡」とまで言われた翻訳者の方とその訳業に心から感謝します。そして、今まであまり紹介されてこなかったポルトガル現代文学ですが、こ、これはもしかしたら宝の山なのではないか!?と思わせてくれた。今後もどんどん紹介してほしい。

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【推薦者】井上 弘美
【推薦作品】『JR』
【作者】W.ギャデイス
【訳者】木原義彦
【推薦文】
極めて重要かつ実験的な小説を、翻訳者が渾身の力をこめて見事な日本語に置き換えてくれた。登場人物は多彩で、物語もスリリング。ミステリーの要素も満載で、細部にはお笑いとペーソスがぎっしりとつまっている。ラストは、すこし泣かせる。おすすめの一冊ですよ。

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【推薦者】渡辺 徹
【推薦作品】『ふたつの人生』
【作者】ウィリアム・トレヴァー
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
二篇ともに苦く、深く、重厚な味わい。どうにもならない歴史の荒波に翻弄される人生を生きた、二人の女性の物語が収められている。私はといえば読了後しばらくの間、心に残ったなんとも言いがたい苦々しい渋みを味わっていた。しかし、これがトレヴァーの創り出す物語の不思議なところなのだが、数ヶ月経つうちに胸の中の渋みがまるで、ワインが長い時間をかけて熟してゆくかのように変わっていった。日常の中でふと物語の筋や一場面を思い出し、心の本棚から取り出して胸の中でもう一度組み立ててみる。すると読了直後に感じていた重々しさとは、別の感情が胸に生まれていることに思わず気づく。わずかな時間だけ実現した甘い恋と愛の記憶、そのよすがにすがり生きる二人の女性の思い。それが静かに読者である私の胸にも打ち寄せてくる。ここ最近、巷に乱雑するありきたりなラブストーリーに物足りなさを感じている方にこそ、お勧めしたい一冊です。

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【推薦者】ましろ
【推薦作品】『もっと、海を 想起のパサージュ』
【作者】イルマ・ラクーザ
【訳者】新本史斉
【推薦文】
 記憶は時間を遡り、より深く、より先へ進んでゆく。語りの力を思う。止まることのない想起の源、そのすべては経験の蓄積からなるのだと感じ入る。国境を越えて幾つもの国々と言語を縦横無尽に彷徨い続けた幼少からの確かな経験は、人と出会い、文学や音楽の深みを知り、散らばる自分の属する場所や書くことについて探求し、幾層にも自己を高める、今の“私”を形作る時の蓄積でもあった。自分を護るすべ、たった一つのわが家は、自分自身。軽やかに先へ進みながら、移動を生きる内面世界を支えるもの。出会い、過ぎ去る時の中にいる個を巡らせば、今がもっと愛しくなるような心地になった。言語の境界を越える世界にふれる読書体験は、特別だった。


 

 

【推薦者の名前】杉山 萌
【推薦作品】『春の宵』
【作者】クォン・ヨソン
【訳者】橋本智保
【推薦文】
 彼女たちは酒を飲む、春の宵のようにおぼろげで儚く過ぎていった思いに胸をえぐられながら今を彷徨う。酔っぱらいたちの七つのエピソードはどれも切なく哀しくて、読者の私も酒を飲まずにはいられなくなる。


 

 

【推薦者】井上 ともかず
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
ようやく翻訳が出たギャディスの野心作。彼の実験は見事に成功している。一読目には見過ごしてしまう細かい仕掛けが、2度目の精読時に発見できたりするから、読書はやめられない。丁寧な翻訳と、適切な訳注で、おすすめの1冊。

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【推薦者】小林 よしえ
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
いくつかの時代、そして民族、言語の違いを扱っている物語なのに、すっと頭の中に入ってきて、多彩で広い世界を見ることができました。何度も繰り返して読みたくなる本でした。

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【推薦者】うさこ
【推薦作品】『ローズ・アンダーファイア』
【作者】エリザベス・ウェイン
【訳者】吉澤康子
【推薦文】
第二次世界大戦下、ドイツの収容所で地獄のような日々を生きた女性たちの姿に、戦争の愚かさはもちろん、人間の強さ、したたかさ、温かさを改めて感じさせてくれた作品。目を背けたくなるような描写の中にもきらめくような美しいシーンがいくつもあって、何度も何度も涙が出ました。作中にたくさん登場する詩も含め、素晴らしい翻訳を届けてくれた吉澤康子さんに心から拍手したい思いです。

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【推薦者】百句鳥
【推薦作品】『穢れなき太陽』
【作者】ソル・ケー・モオ
【訳者】吉田栄人
【推薦文】
著者はユカタン・マヤ語とスペイン語のバイリンガルであり、先住民言語で執筆する先住民文学者として注目を集めています。中編小説『穢れなき日』と短編小説集『タビタとマヤの短編集』『酒は他人の心をも傷つける』を併録したアンソロジーである本書も例外ではなく、収録作品はいずれもマヤ語を原点としています。各作品ではマヤの風景が活写されていて、日常に働いている伝統的な社会規範を認めることができます。けれども伝統には理不尽な悲劇が付きものであり、物語は常に負の色を帯びた土着信仰に包まれています。生まれながらにして穢れていると見なされる女たち、社会的な逸脱者として堕ちていく男たち。こうした閉塞感はやがてユカタン半島のある村の饗宴を通して神秘的な結末を迎えることになります。この構成は見事でした。物語・小説としての面白味に秀でているのは言うまでもありませんが、先住民文学の認知度を高める上でも非常に意義深い本です。


 

 

【推薦者】ウニプロ
【推薦作品】『リンカーンとさまよえる幽霊たち』
【作者】ジョージ・ソーンダース
【訳者】上岡伸雄
【推薦文】
この世に未練を残した霊魂たちが跋扈する夜の闇に包まれた納骨所に、新しい子どもの幽霊が加わった。その名はウィリー。そしてもう一人、彼の父であるリンカーン大統領もまた静まり返った納骨所で息子の冷たい体を胸に抱く。周りでは賑やかな霊魂たちが興味津々に騒いでいるが、彼にはまったく聞こえない。死と再生を待つ中途半端な場所(Bardo)で繰り広げられる一晩のドタバタは、悲しみにつつまれながらもどこかユニークで戯曲的。味わったことのない世界観だが、するする読める筆致はさすがジョージ・ソーンダース、さすがブッカー賞。


 

 

【推薦者】えむえすぷらす
【推薦作品】『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』
【作者】ボブ・ウッドワード
【訳者】伏見威蕃
【推薦文】
ウッドワードの大統領ウォッチングシリーズの最新作。トランプ大統領誕生直前から2018年3月までを描いたノンフィクション。トランプの当選前までの半生は同じワシントンポストの調査記者が調べ上げていて邦訳(文藝春秋)も出ている。その続きを知る事ができる労作。トランプの奇行がぎっしり載っており読み通すのが困難。ウッドワードの文章もその翻訳も悪くないんです。書かれている内容がひたすらひどいだけ。アメリカについて知りたい人は読むべき本で翻訳されたのは本当に良かった。

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【推薦者】タカラ~ム
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
毎回、推薦作を選ぶときは迷うのですが、今回も迷いました。結果的にこの作品を選んだのは、現代ポルトガル文学という私にとって新しい出会いがあったということが一番の理由です。翻訳作品を読むことは世界を知ることであり、そこに作品としての面白さが加わればこんなに楽しい読書はありません。「ガルヴェイアスの犬」は、そういう経験を私に与えてくれました。ポルトガルのガルヴェイアスという小さな村の風景、そこに暮らす人々、日常と非日常の混じり合った異質な世界観が物語の中に描かれ、それは、ときに幻想的でもあり、ときに人間臭くもあります。たくさんの登場人物がそれぞれに魅力的なのもよかったです。

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【推薦者の名前】ニシカド
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 昨年、明らかに社会現象と呼べる盛り上がりを見せた現代韓国文学。フェミニズム文学の一形態として今の日本社会問題と繋がり、耳目を集めたというのは、海外文学ファンとしては喜ぶべきことだったのでは?(扱っている問題はシリアスですが) このムーブメントの中心にいた斎藤さんの仕事ぶりはどれも素晴らしかった。中でも最も読みやすく、それでいて深く広い射程を持った本作に一票。素晴らしかったです。 

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【推薦者】柿渋
【推薦作品】『わたしを最後にするためにーTHE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』
【作者】ナディア・ムラド
【訳者】吉井智津
【推薦文】
ちょうどタイムリーにムラドさんがノーベル平和賞をとられたので話題になった書。タイトルの訳にまず感心した。内容は重い、しかしたんたんとしたどこか明るさのある語り、若い女性のことばが素直に伝わってくる。未知の世界が明快な文章で語られ、後半の逃避行は一気に読ませる。

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【推薦者】おどりば
【推薦作品】『J R』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
2段組で総ページ数900にも迫る本書は、そのほとんどが人物の発話で占められている、長大な会話劇だ。言いかけた言葉、伝わらなかった言葉、遮られた言葉、誰にも届かなかった言葉、言葉になる前の言葉…あらゆるレベルの言葉が本作には溢れている。しかも、それらの言葉は誰が発したのか一見では非常に分かりにくいのだ。発話が人物から切り離されたとき、それは単体で存在できるのか。それとも寄る辺が無くなってしまうのか。テクストの積極的な読解が求められる本書は、そのような問いを我々に投げかけているように思えた。もちろん、単純に読むだけでも存分に楽しめるコメディだ。何度吹き出したか分からない。
知られざる大作家の傑作を我々に届けて下さった木原さんには感謝しても仕切れない。

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【推薦者】おでんちゃん
【推薦作品】『嘘と魔法』
【作者】エルサ・モランテ
【訳者】北代美和子
【推薦文】
上下二段組、上下巻ともに400ページを超える大著です。物語が動き出すまで少し時間がかかります(読了するとむしろそこが魅力に思えます)が、途中からページをめくる手がメラメラと加速し、気がつけば夜なべして読んでました。一昼夜たった今も主人公少女の「マンマ!」という哀切な悲鳴が耳朶を離れません。主要な登場人物のすべてが命を賭けた狂気の愛につっぱしり、他人を巻き込み、しかも愛は報われない、という凄まじいメロドラマ作品。「訳者あとがき」を読むと翻訳者北代さんの作品への深い愛が伝わってきて、またまた泣かされます。名エッセイストの須賀敦子の名を冠したシリーズのこの一冊、嬉しいめっけものをしました。力のこもった訳業だと思います。


 

 

【推薦者】とりっぽん
【推薦作品】『ホロコーストを生き抜くー母の伝記と娘の回想』
【作者】イレーナ・パウエル
【訳者】河合秀和 訳/早坂眞理 翻訳協力
【推薦文】
 これは稀有な「オーラル・ヒストリー」だ。乳飲み子を抱えたユダヤ人の母は「死神を騙し抜いて」ゲットーの「外で」ホロコーストを生き延びる。戦中戦後の母子の旅路はポーランドからソ連、イスラエル、ドイツ、イギリスへ。長じてオックスフォード大で日本文学の研究者となった娘は90歳代まで母を介護し、母がポーランド語で語る過去を英語で聞き書きする。子の世代に伝えるために、自分を解放するために。そんな娘に母は「私を売り物にするな」と言う。本書の原題は「The Daughter Who Sold Her Mother」。現代史の証言として、「自分は何者なのか」という問いと闘い続けた女性の伝記として、或いは母と娘の物語として、様々な読み方ができる複雑で重層的なtext、いや、分厚いtexture「織物」だ。翻訳には疑問に思う点が幾つかあるし、校正がいい加減なのが残念だが、このような大作を「よくぞ訳してくれた!」という観点から推薦したい。

書影


 

 

【推薦者】おかじ
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・ヘヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
 友人から勧められて読んだのですが、なんとも言えない不気味な空気感がページを次々にめくらせました。主人公と亡くなった奥さんの若い頃の馴れ初めの平和な場面も出てきてほのぼのする箇所もあるのですが、奥さん側の家庭で過ごす時の、一つの言葉で言い表せない微妙なズレ感が、一番怖いかもしれません。骨壺には少し笑ってしまいましたが。


 

 

【推薦者】moe
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・ヘヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
 オギの状態があまりに痛々しい。頭は考えることができるのに、他人の助けを借りないと水さえ飲めない。。一日がどれだけ長く感じるか、また、一度不信感を感じるとそれが悪夢のような妄想が育っていくのだろう。小説内ではまだオギの身には事件は起きてないが、義母の掘る異常な穴。。なにを入れるのだろうか。想像するだけでラストもシュールだし、穴を掘っている事自体がオギの妄想なのか、訳が分からなくなってくる。日本の監督であれば黒沢清氏に映画化してもらいたいところだ。


 

 

【推薦者】伊藤 直史
【推薦作品】『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ─全訳・ポリフィリス狂恋夢』
【作者】フランチェスコ・コロンナ
【訳者】大橋喜之
【推薦文】
 初版1刷発行が昨年末の12月10日でありながら、なにぶん800頁以上ある本なので、まだ全部読んでないのが現状です。しかし、元々の書籍が伝説の奇書であるのはもちろんのこと、イタリア語、ラテン語、ギリシャ語が混淆した原典からの完全訳ですので、この本を推薦した次第です。


 

 

【推薦者】武内空
【推薦作品】『不気味な物語』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
官能と狂気の王道。ロマン主義(コウルリッジの詩のような)幻想に浸れた。人間の業に焦点を当てているのも好印象。こういう訳があると嬉しい。

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【推薦者】ヒナタ
【推薦作品】『淡い焔』
【作者】ウラジーミル・ナボコフ
【訳者】森慎一郎
【推薦文】
このややこしい小説を、ここまで生き生きと訳してくれたことに感嘆。ナボコフが「気取った高級な文学」ではないということがよく分かった。ちゃんと笑わせてくれる点もポイント高し。

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【推薦者】ヒゲわんこ
【推薦作品】『帰れない山』
【作者】パオロ・コニェッティ
【訳者】関口英子
【推薦文】
 山を通して描かれる家族、そして友情の物語が、静かに心に沁みいり、深い感動を覚えた。美しいアルプスの山々が目の前に現れてくるような素晴らしい筆致で、山の魅力も存分に味わえる。読後の余韻が谺のように響いてくる作品である。

書影


 

 

【推薦者の名前】なつ
【推薦作品】『中国現代文学傑作セレクション――1910~40年代のモダン、通俗、戦争』
【作者】大東和重、神谷まり子、城山拓也(編)
【訳者】
【推薦文】
 1910年代から40年代までの中国文学を紹介した翻訳集。モダン、通俗、戦争と各パートごとに作品の色分けがなされており、また解説も充実しているため、門外漢でも非常に読みやすい。作品そのものの面白さを体験できただけでなく、歴史も知ることができてよかった。


 

 

【推薦者】ベネディクト
【推薦作品】『中国現代文学傑作セレクション――1910~40年代のモダン、通俗、戦争』
【作者】大東和重、神谷まり子、城山拓也(編)
【訳者】
【推薦文】
  日本で中国現代文学(中国近代文学)というと、魯迅、老舎、巴金……とお決まりの作家が紹介されてきたが、この翻訳集ではまったく新しい視点から作品を選んでいる。収録されているのは、20世紀モダニズムに影響を受けた作品、探偵小説、SF小説などのエンターテインメント、それに戦争文学まで。ジャンルも小説だけではなくて、詩、エッセイ、戯曲、それに映画脚本(!)まで広範囲に渡っており、1910~40年代中国の時代の雰囲気を存分に味わうことができる。
 何よりいいのは、日本だけではなく、本国中国でも文学史的に過小評価されている作品(にもかかわらず面白い作品)を収録している点だ。例えば、顧均正のSF小説「性転換」に見えるはちゃめちゃな展開や、朱痩菊「悔恨記」の悲哀溢れる男性主人公の形象などは、読んでいて笑えるだけでなく、現在のLGBTを考える上でも有益なのではないか。中国の奥深さをうかがい知ることのできる一冊である。


 

 

【推薦者】にゃおバス
【推薦作品】『背後の世界』
【作者】トーマス・メレ
【訳者】金志成
【推薦文】
 躁鬱の病にメレ作者自身と「もう一人のメレ自身」が重なり合わない孤独を、それゆえに友が離れていく孤独を、音楽や文学とともに抱えながら生き抜く様は翻訳のレベルの高さと相まって読者との同調性がとても強く、読書中は自分が隠しておきたい繊細な箇所を暴き出される。救いは殆どない。それでも生き残って闘病記の枠をはるかに超えた本書を書いてくれたことを感謝したい。


 

 

【推薦者】みみん
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下 眞穂
【推薦文】
 作者が生まれ育った村が描かれているのにポルトガルの今が見えてくる。作者は自分とは何か、どこから来たのかと常に問うている人だと思う。見知らぬ国のさまざまな人間模様がどこか懐かしい。読み終わったとき、人は皆根源でつながってるのだと感じられて安堵した。初めて読んだポルトガル文学。とどけてくれた翻訳者に感謝します。

書影


 

 

【推薦者】かすり
【推薦作品】『エヴリデイ』
【作者】デイヴィッド・レヴィサン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
 朝、目覚めるたびに違う人の体の中にいる主人公A。特異な人生を過ごしてきたAは、借り物の体の人生を変えないよう慎重にふるまってきた。しかし、リアノンという少女と出会い恋をしたAは変化を起こす――といった始まりのヤングアダルト小説。SFチックな青春恋愛小説と思いきや、哲学的な問いに満ちた作品です。人の中身と外見は切り離せるの?性別とは?人を好きになるとは?持って生まれたものと、持たずに生まれたものがあるのはなぜ?別れとはなに?生きているとはどういうこと?そんなことが次々と思い浮かびます。Web空間が主人公の存在証明になっている点も興味深いです。でも、説教臭い話ではありません。とびっきり面白くて読みやすい小説です。読書という行為が、自分とは全く違う立場の人の境遇を知る一端であるなら、Aの人生は全身で他者を知り続ける旅。ぜひ、ヤングアダルトに馴染みがない人にも読んでほしい小説です。

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【推薦者】こゆき
【推薦作品】『動物実験の闇――その裏側で起こっている不都合な真実』
【作者】マイケル・A・スラッシャー
【訳者】井上太一
【推薦文】
 動物実験の舞台裏を、その業界で働いていた人が告発した作品。日本で取り上げられにくいテーマを紹介した社会的意義の大きい本。さらに、読んでまず気づくのは翻訳が見事。無理な表現や、翻訳に付き物の謎めいた言い回しがなく、動物の様子にも胸を打たれ思わず翻訳書を読んでいる事を忘れてしまう。機材や実験室の様子など、複雑な状況も分かりやすく書かれ、混乱がないばかりか、頭の中に絵が出てくるので、むしろ臨場感をもって読み進められる。会話文は登場人物の姿や声までが伝わってきて面白い。井上太一氏の翻訳作はどれもそうだが、語彙の選び方が的確で、文が躍動する。ぜひ現物に当たってほしい。氏の作品は翻訳書という枠を超えて日本語の極致を感じる。あとがきも、テーマに関する深い知識に裏打ちされた優れた解説になっておりその価値は高い。高度な専門知識と文章力によって、読者の良き道案内となることが翻訳家の仕事なのだと改めて感じた。

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【推薦者】イニエスタッソ
【推薦作品】『リンカーンとさまよえる霊魂たち』
【作者】ジョージ・ソーンダース
【訳者】上岡伸雄
【推薦文】
 「戦争中のリンカーン大統領が、病死した幼い息子の納骨所で長い時間を過ごした」という実話から、歴史資料と普通でない想像力でつくりあげた物語。ほんとに独創的です。お笑い系で走り抜けるのかと思ってましたが、アメリカ社会や人間心理もきっちり描き、おまけに予想外に泣かされます。素晴らしい小説です。


 

 

【推薦者】大藪 祐一
【推薦作品】『すべての、白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
 私自身はハングル語を知らない。原文との読み比べもできない。それでも、少しでもバランスを崩してしまえば全てが台無しになりそうな、緻密かつ精巧に綴られた本作の翻訳は決して一筋縄ではいかないことくらいは容易に想像できる。本作は私小説ともエッセイとも詩とも取れる形式であり、決して軽く取り扱えないテーマでもあるため特にその傾向が他のハン・ガンの作品よりも顕著のように思える。作品自体が宿している力もさることながら、祈りにも似た孤独で静謐な「白」を身体感覚にまで通じるものとして届けていただいた翻訳家の御尽力に感謝をしたい。


 

 

【推薦者】吉美駿一郎
【推薦作品】『死後開封のこと』
【作者】リアーン・モリアーティ
【訳者】和爾桃子
【推薦文】
 海外ドラマを見ていると、「あらゆる物事は理由があって起こる」とか「すべてのことには意味がある」というセリフがでてくることがある。ちょっと不思議な言葉だけど、神がいると信じるなら理解できないこともない。神は無意味なことなどしないから、人間が無意味に感じるような出来事であっても、本当は意味がある、というわけだ。神のいる世界には偶然など存在しない。無意味な偶然のない世界では、そうでない世界よりも罪と罰が重くなる。リアーン・モリアーティは、「すべては、ベルリンの壁のせいだ」からはじまるこの小説で、意味を与えてくれる神と、無意味な偶然との狭間で、人間がどのように苦しむのか、どうやって生きていくのかを、まるで海外ドラマを見るような感覚でたっぷりと読ませてくれる。とにかく下巻、病院でセシリアが夫に言うセリフに打ちのめされて震えた。

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【推薦者の名前】湯澤瑞彦
【推薦作品】『日々はひとつの響き』
【作者】ローベルト・ヴァルサー
【訳者】柿沼万理江
【推薦文】
 例えば「共同体の断片」と「冬Ⅱ」など、クレーの絵の表題、絵を見て、ヴァルサーの詩の表題、本文、それぞれがさまざまに照応/相反するイメージの様が楽しい。そうした組み合わさ、編集の妙にと巻末の詳細な解説、そして、造本の柔らかで繊細な文字面と色づかいも含めて。

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【推薦者の名前】ぽんきち
【推薦作品】『ジェネリック』
【作者】ジェレミー・A・グリーン
【訳者】野中香方子
【推薦文】
 病院に行って薬が処方されると、ジェネリックでも可であるかどうか聞かれるが、いつも何だかもやもやが残る。それって医師ではなく患者が決めるべきことなのか? そもそもジェネリックで何だ?--本書では、ジェネリックの歴史から成立を背景に、先発薬と同じ点・異なる点が論じられていく。そこから、広く医療行政も俯瞰する。アメリカの話が中心ではあるが、公共の利益や企業の思惑、個人の権利など、ことは普遍的な問題を孕む。2018年に読んだノンフィクションでは、ずば抜けておもしろかった。

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【推薦者】ナッシー
【推薦作品】『バルザス=ブレイス』
【作者】ラ・ヴィルマルケ
【訳者】山内淳他
【推薦文】
 何より、1839年に初版が発見されて以降、文学・芸術・ケルト研究に多大なる影響を与えた幻の書物が日本語で読めるということに、大きな意義がある。
ケルトといえば、アイルランドばかりを思い浮かべてしまうが、フランスのブルターニュ地方のこの古謡集を読めば、広範なケルト文化の姿に驚くだろう。フランスの地方に住む民衆の声がどのようなものか、地方の伝統文化の豊かさを伝える翻訳は、グローバリゼーションが叫ばれていく今日にあって、奇跡的な偉業である。日本語で読める幸せをかみしめたい。

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【推薦者】葉山久美子
【推薦作品】『ニュルンベルク合流ー「ジェノサイド」と「人道に対する罪」の起源』
【作者】フィリップ・サンズ
【訳者】園部哲
【推薦文】
 リーガル・サスペンスなる新ジャンルを生み出した傑作。自身国際法学者である作者の祖父の人生の謎を追う中で、2人の重要な国際法学者の人生と業績を敷衍する。ここで解き明かされるのは、ナチスの「人道に対する罪」と「ジェノサイド」。まずは、この2つの概念およびその国際法がそれまで存在しなかったこと、生み出すのにこれほどの苦難があったことに驚かされる。ここに人類の確実な進歩がある。そして、ニュルンベルク裁判や国際法のような万人向けしない内容を、サスペンスフルに読ませる展開の見事さ。ここで語られていることはすべて事実―限りある資料からの憶測も含めーなのに、一流の小説に仕上がっている。 多分、アイヒマン的なものへの、同時にハンナ・アレントの「悪の凡庸さ」へのアンチテーゼでもあるだろう。これほどの題材を、肉親が絡んでいるだけに辛い題材を、書き切った作者にも、訳し切った翻訳者にも感謝しかない。どこかで起きた話、ではない。これまでも、これからも、人間が抱えていく問題なのだ。今、読まれるべき一冊。


 

 

【推薦者】舞狂小鬼
【推薦作品】『夢のウラド』
【作者】フィオナ・マクラウド ウィリアム・シャープ
【訳者】中野善夫
【推薦文】
 著者はスコットランド生まれの男性評伝作家で、19世紀に女性名でケルト色の濃い幻想小説を発表した人物。本書は二つの名前で発表された短篇を精選したもの。マクラウドのパートはケルト神話とキリスト信仰がベースの幻想小説がメインで、シャープの方は美しい風景とえげつない人間関係が同時に描かれた独特の味わい。読み進めるほどに名義の違いが際立ってくるように思えるのは、きっと訳者・中野善夫氏の作品選択が上手いからだろう。夢の紡ぎ手マクラウドにより奏でられる旋律は、時には月光が照らす谷に静かに流れる哀しき調べであり、そしてまたある時には碧い海の飛沫の中に浮かぶ安らぎの歌でもある。ページをめくるたびに、今はもう失われてしまった世界、あるいは二度とたどり着けない世界への扉が開かれてゆく感じがとても好い。幻想小説の佳品を紹介し続けてくれる中野氏には感謝の言葉しかない。


 

 

【推薦者】新井 勝史
【推薦作品】『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』
【作者】オリヴィエ・ゲーズ
【訳者】高橋啓
【推薦文】
 アウシュヴィッツ収容所でユダヤ人の抹殺と様々な人体実験を行っていた医師メンゲレの第二次世界大戦後の逃亡生活を描いた小説。世界中がいとも容易く分断傾向に進んでしまった今日、愚かな行為をした者達が如何に救いのない滑稽な末路を辿るのか、いま読むべき必読の一冊ではないかと思う。

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【推薦者】湯朝直子
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼ・ルイス・ペイショット
【訳者】木下眞穂
【推薦文】
 小さな田舎町ガルヴェイアスに暮らす人々の物語。全編スピンオフのように紡がれる物語は、美しいでもなく醜いでもなく、ただむせるほどの人間の匂いに満ちている。そこに、硫黄の刺激臭が絡みつく。物語の最後に、彼らは初めてひとつになって、ある行動を起こす。それは、支配されることに慣れきってしまった自分たちとの決別でもある。ごくローカルな舞台のきわめて特殊な状況を描いて、普遍に通じている作品。

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【推薦者】高原 英理
【推薦作品】『幻想文学―転覆の文学』(『幻想と怪奇の英文学Ⅲ―転覆の文学編』)
【作者】ローズマリー・ジャクスン
【訳者】下楠昌哉
【推薦文】
 一度、評論に受賞させてはどうかと思い、推薦します。原題の「Fantasy」は現代日本で用いられる「ファンタジー」ではなく、ゴシックロマンスからサド、ポー、ドストエフスキー、カフカ、ボルヘス、ピンチョンまで含む「幻想文学」なのでこの表記でよい。本書は著名なトドロフの『幻想文学論序説』の見解を受け継ぎつつ修正し、かつ「幻想文学」をジャンルではなく、模倣的に書かれる現実性を「転覆」させるさいのモード(様式)であると解する。すると「シャープな批評をめざす人」らは「いまどき『転覆』?時代遅れの『反世界のロマン』か」と嘲笑いたがるだろう。だが本文の「転覆」には「サブヴァージョン」とルビがあり、それが単なる「反転」だけでなく、「攪乱」「侵食」の意味をも持つことがわかると、ここから広々とした現代的批評が始まる。「幻想文学」を「サブカルの一分野」などと過小評価せず、世界文学的に共有される様式としたところが卓見である。


 

 

【推薦者】ガラ
【推薦作品】『暗礁』
【作者】パタイ
【訳者】魚住悦子
【推薦文】
 日本が台湾出兵したきっかけとなった実話をベースにした物語
台湾原住民大耳人の島へ漂流し辿りついた
宮古島人
原始の自然の見事な描写
様々な原住民の文明や思想を登場人物の言葉や人柄を通して語ることで自然な文脈のなかで
読者に聞かせる筆力が素晴らしいと感嘆しながら読み進めました
事実はただの一部で真実でも本質でもなく
恐怖に支配された大きな声の人に
見えないものを信じた人々も力及ばず巻き込まれていく遣る瀬無さ
尊敬、絆見えない糸が繋がり切れるまでの
プロセスや思索に現代に通じる人間の本質と歴史を書かれていました
作家の力量に唸る素晴らしい秀作です
多くの方に読んでもらい次作翻訳に
つながってほしいなと思いました


 

 

【推薦者】かもめ通信
【推薦作品】『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』
【作者】アンジー・トーマス
【訳者】服部理佳
【推薦文】
 白人警官による黒人少年の射殺事件を軸に展開する物語は、人種差別という重いテーマを扱ってはいるが、目の前で幼なじみを殺された女子高校生の目線で語られるYA小説だ。生き生きとした会話文を主軸に、彼女自身の恋や友情や家族や育った街への思いなども丁寧に描かれている。そういった日常のすべてが、彼女が黒人であることと切り離しては考えられないものだということも含めて。
ラップをはじめ、なじみの薄い文化も登場するし、若者たちの感性にはついていけないと思わせる部分もあるが、まさに互いの“違い”を認めつつ、他者を尊重することができるのかが正面から問われる物語でもあった。服部理佳氏の翻訳は、YA小説らしい溌剌とした勢いと読みやすさだけでなく、この物語が持つそうした繊細な部分をも見事に表現していたと思う。

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【推薦者】リーピチープ
【推薦作品】『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』
【作者】ダグラス・アダムス
【訳者】安原和見
【推薦文】
 めずらしい「訳者まえがき」がついている本書。『銀河ヒッチハイク・ガイド』のダグラス・アダムスによる風変わりでユーモア溢れる物語を楽しむと同時に、訳者の安原さんの日本人読者に対する気遣いとユーモアセンスをひしひしと感じながら読んだ。翻訳を仕事としている人間として見習いたい点がいくつもありました。


 

 

【推薦者】瀬戸内ヒロシ
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・ヘヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
 現在韓国在ですが、韓国語はよく理解できないですど韓国人作家に興味がありこの本を手にしました。私は45歳、既婚者、子どもなし、親兄弟なしです。あまり言うとネタバレになりますが、主人公と置かれてる立場が近いものがあり自分に置き換えて読みました。事故があったところから始まっていき、どのような展開になるのか頭を膨らませていたが、あまり大きな展開にはならかった。しかし、人間の心の描写が非常にわかりやすくまた共感できる部分が多々あり、非常に読みやすい本でした。韓国文学に触れる良いキッカケになりました。


 

 

【推薦者】おこめ犬
【推薦作品】『THE LAST GIRL』
【作者】ナディア・ムラド、ジェナ・クラジェスキ
【訳者】吉井智津
【推薦文】
 ISISによって村を襲われ、奴隷として囚われたナディア・ムラドの物語。迫害され続けてきたヤズィディ教徒であることへの誇りを失うことなく、自らや大切なひとたちに訪れた地獄としか言い様のない状況を記していく、その語り口は圧巻だ。冷静に見つめ、冷静に語ることは私たちを脅かすあらゆるものへの抵抗となるのだと改めて教えてくれた。この本を読んだあと、しばらく私は他の本を読めなかった。

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【推薦者】中島 宏樹
【推薦作品】『奥のほそ道』
【作者】リチャード・フラナガン
【訳者】渡辺佐智江
【推薦文】
 美しい装丁に包まれた慎ましやかな文体は、どこまでもその時代を生きた人とその人生に寄り添いながら、後世の勝手気ままな解釈をそっと振りほどいてしまう。今を生きる私たちにとって最も近く、そして最も語られてきたであろう20世紀という時代を、「戦争の悲劇」というあまりに画一的な理解のもとに据えること、そんな想像力の極端な限定から逃れる方途を『奥のほそ道』は示してくれている。


 

 

【推薦者】伊東麻紀
【推薦作品】『パワー』
【作者】ナオミ・オルダーマン
【訳者】安原和見
【推薦文】
 この作品は、女性が男性を支配する未来で新人男性作家によって書かれた歴史小説という体裁を取っています。本編の前後に挿入された先輩の女性作家との書簡のやりとりは現代社会に対する辛辣な風刺になっています。特に最後の一文は強烈。男性読者はショックを受けるかもしれないし、女性読者は大きく頷くかもしれません。ジェンダーやMetoo運動が注目されている今、もっとも旬な翻訳小説ではないでしょうか。


 

 

【推薦者】平井 敏晴
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・ヘヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
 研究者夫婦が乗った車が事故にあって、助手席の妻が死に、運転していた旦那が生き残り、意識を回復したところから始まる。冒頭から、シンプルではあるが緊張感の漂う言葉で描かれる情景に、生き残った旦那、そして死んでいった妻のあいだに何か隠された複雑な過去や思いがあるのではと感じさせられる。その後、旦那の周りに登場する人たちの言葉によって、この夫婦のしんの姿が暴露されるのだが、翻訳文は、ある時はリズミカルに、ある時は弛緩したような緩やかさで、その場に合わせたテンポで物語を掘り下げてゆく。しかも体が不自由になった主人公において、肉体を持つ人間の生々しさ、沸き起こる欲情が淡々と描かれる。が、その淡々さが故に、自己主張しない欲望の描写であるが故に、余計に生々しい。つまりこの小説は、単なるサスペンスではなく、人間の存在とはどういうものなのかを描こうと試み、訳文はそれに成功している。事故死した妻の母親が日本人で、最後に主人公を殺そうとするが、その設定は対韓感情が非常に良くない現状にあって、今の読者には芳しくない印象を残してしまうかもしれない。


 

 

【推薦者】じゅん
【推薦作品】『リンカーンとさまよえる霊魂たち』
【作者】ジョージ・ソーンダーズ
【訳者】上岡伸雄
【推薦文】
2017年のブッカー賞受賞作。死んでしまった息子を思って墓地を訪れたリンカーンが、そこにさまよう霊魂たちと出会う。とにかく、出てくる霊魂たちがみんなチャーミング。虚実ないまぜの文献の抜粋の翻訳も見事で、素晴らしい読書体験だった。


 

 

【推薦者】こじまのぶお
【推薦作品】『あまりにも真昼の恋愛』
【作者】キム・グミ
【訳者】すんみ
【推薦文】
言語化できない新しい時代の新しい感触を、言語化しようとしたときの残滓、表象不可能なものを表象しようとする作家の腐心、そういったものが伝わる良質な訳出。今年度のセンター国語、沼野充義の文章でも語られていたように、翻訳不可能なものを自然に言い換えるのが「良い」翻訳と言われるが、あえて原書が自然でない、リーダブルでない言語にしているところを、「活動する物体の運動性」と訳すところに、表象としての文芸作品を輝かせる訳者の手腕を感じる。

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【推薦者】佐本 浩一郎
【推薦作品】『奥のほそ道』
作者】リチャード・フラナガン
【訳者】渡辺佐智江
【推薦文】
 第二次大戦で凄惨を極めた、日本軍の泰緬鉄道建設。捕虜として従事し生還した軍医ドリゴを軸に、戦争・愛・結婚・家族そして人と人生の多面性と複雑さを描いた傑作。多くの人物が、本人を含む様々な視点から描かれ、立体的に立ちあがる。このあとに読んだ呉明益『自転車泥棒』と歴史的に繋がり、2018年の読書の輪が閉じたように思えた。


 

 

【推薦者】濱田麻矢
【推薦作品】『フィフティ・ピープル』
【作者】チョン・セラン
【訳者】齊藤真理子
【推薦文】
 50人+αの苦しい、切ない、それでも時々ぱっと灯りがともされる、そんな人生の一断面を切り取ってつなげた小説。一つ一つの章だけでもとびきりのショート・ショートとして読めるが、複数の章にぴょこぴょこ現れる人物もいて、全体が味わい深いキルトのようになっている。エンディングを希望あふれるものにしてくれた作者と、するすると読める(そしてひっかかるところはひっかかる)日本語にしてくれた翻訳者に深謝。一人一人の個性が浮き彫りになるイラストと、最後につけられた自分で作る人物対照表も素晴らしい。会う人すべてに片っ端から進めた一冊。

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【推薦者】SHIU.I
【推薦作品】『目の眩んだ者たちの国家』
【作者】キム・エランほか11名
【訳者】矢島暁子
【推薦文】
年末、毎日新聞で今年の3冊に推薦されていたので、前から気になっていたこの本を思い切って読みました。作家や学者ら12名の著者がセウォウル号事件について論述していますが、作家のキム・エランやパク・ミンギュ、キム・ヨンス、ファン・ジョンウン以外の著者は、それまでは全く知らない著者でした。読み進んでいって、それぞれの著者が自己の視点からこのセウォウル号事件を通して、韓国社会に問題提起をしている姿に思わず身を乗り出してしまいました。作家たちの文章はインパクトがあり透明感のある文体で、一方、初めて触れた社会学者や精神分析学者たちのものは新鮮な説得力溢れる文章で、夢中で最後まで読み通しました。専門的な内容の部分も分かり易い訳文で、門外漢の私の心にストンと届くものでした。韓国の今を生きる人たちの鼓動を、具体的な事件を通して鮮明に感じることができました。この時期に、この本に出会えて良かったとつくづく思います。

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【推薦者】中山 耕輔
【推薦作品】『JR』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
 少年JRが大人を巻き込んで創り出した一大コングロマリットが、暴走しながら周囲の人々の悲哀と笑いを曝け出す。ほぼ会話文、それも言い間違いや言い直しを含むリアルに不完全な文のみで構成され、今誰が話しているかの説明がないまま、段落分けすらなく場面は飛び続ける。読みにくいはずなのに、読み始めたら止まらない。いったいこんな小説、どうやって書いたのか、どうやって訳したのか、感服します。

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【推薦者】H.treetop
【推薦作品】『ブルターニュ古謡集 バルザス=ブレイス』
【作者】ラ・ヴィルマルケ
【訳者】山内淳、大場静江、小出石敦子、白川理恵
【推薦文】
フランス、ブルターニュ地方で語り継がれてきた詩歌を、ラ・ヴィルマルケが収集し、1839年に刊行した幻の一冊。アナトール・ル・ブラザーズなどの翻訳は出ているが、その元になった詩歌集である本書の邦訳は今回が初めて。年表や地図、楽譜まで付いて充実しており、邦訳も非常にリズムを考えて読みやすく、なにより読み物として面白い。歴史や風習といったリアルな出来事を表すものから、妖精や小人が登場するファンタジック、幻想的な出来事を表すものまで、詩歌は多様。ブルターニュにおけるケルト文化を理解するうえで非常に重要な一冊。また『グラドロン王の逃走』をあしらったカバーも格好よく、持っておきたくなる。

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【推薦者】田仲 真記子
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
作者呉明益の絶大な信頼を得ていた翻訳者である。本作は物語としてのスケールの大きさに加え、ネイチャーライティングをてがけていたという作者によるダイナミックで緻密な描写の巧みさ、そしてそれを躍動感あふれる日本語に移し替えた翻訳のすばらしさも際立っている。マレー半島のジャングルや台湾のチョウ捕りの場面は、高画質のドキュメンタリー映画のように、読者の眼前に迫力満点の自然を生き生きと描出する。<トラは華麗な縞模様をジャングルの光と影と完全に一致させ、ひとつかみみひとつかみ大地を後ろへ押しやり、ゆっくり歩んでいく。悠然と振り返った双眼はまさしく琥珀で、感情も好奇心もなく、アッバスが隠れるテントを見た(原文は一部旧漢字表記)>こんな臨場感あふれるシーンが続々と現れるのだ。真摯かつ戦略的に台湾の文学やノンフィクションの紹介を続けた訳者の急逝が悔やまれてならない。

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【推薦者】Italydef
【推薦作品】『ナポリの物語2 新しい名字』
【作者】エレナ・フェッランテ
【訳者】飯田亮介
【推薦文】
続刊中のシリーズの一冊ですが、推薦します。老齢の婦人が若い頃を回想していく形で展開されていく物語です。この巻では主人公の多感な青年期のみで構成されていて、行先の見えない少女達の暗中模索する姿が、ありありと浮かんできます。物語の展開も、自意識から来る苦しみとの戦い、友達への嫉妬、結婚と親戚付き合いが生む負の連鎖は地獄の様相を呈していて、スリリングでありながらとても辛いです。時代も時間も遠く離れたイタリアが舞台ですが、翻訳された一文一文から共感するものを感じました。そんな中で、この小説は勉強すること、学ぶことを強く肯定しています。劣等感を抱えながら生きる少女だった頃の語り部が、段々と内側から変化していくのを捉えた部分が印象的です。それがそのまま自分には本を読むって良いことだな、という風に感じさせてくれました。

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【推薦者】奥村 ペレ
【推薦作品】『J R』
【作者】ウィリアム・ギャディス
【訳者】木原善彦
【推薦文】
木原善彦の翻訳は活き活きとしている。なんたってリズムがいい。本書は大雑把な文脈と細々しい文脈で構成された「ポリフォニー的」(ミハイル・バフチン)小説である。著者ギャディスは大雑把な文脈と細々しい文脈を〈組合せ〉て長尺なストーリーを編んだ。訳者はこの乱雑にして混線的な文脈宇宙を見事に交通整理した。ギャディスの、この〈組合せ〉は時代の熱力学第二法則と対称性の破れを反映しながら、1970年代の多元的世界の鏡像=虚像を広角に輻射した。彼は90年代のインターネットが普及する前の、いわばテレフォン(メディア)資本主義の虚像を描いた。「小説とは言語形式に引きうつしたニュー・メディア」(高山宏)なのだ。同時にギャディスは、異物の出遭いの〈組合せ〉によって登場人物たちのスキーマ(認知的な構え)をバラバラに解体した。〈組合せ〉と解体。これぞ紛れもなくマニエリスム。彼は20世紀の稀代なマニエリストのひとりなのだ。

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【推薦者】徳永悦子
【推薦作品】『孤独のワイン』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
文の構成、表現力が抜群のセンスである。力量の、深さに魅せられた作品だった。


 

 

【推薦者】なみき
【推薦作品】『タコの心身問題』
【作者】ピーター・ゴドフリー=スミス
【訳者】夏目大
【推薦文】
現役の哲学者が書いた哲学書であるのに、こんなにも読みやすい文章でしかも愛らしい! 学術書と意識することなくまるでSFかファンタジーのように読めます。それでいて学術的なところの翻訳が緩いわけではなく、素晴らしい訳業。内容的にもタコやコウイカといった頭足類の、人間とは違う知性のあり方があまりに面白く、読むとタコとコウイカを愛さずにはいられません。ゴドフリー=スミスの一見冷静な筆致から漏れ出す熱い頭足類愛も、訳文からしっかりと感じられます。

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【推薦者】ちくわぶ
【推薦作品】『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』
【作者】陳楸帆、夏笳、馬伯庸、郝景芳、糖匪、程婧波、慈欣、ケン・リュウ(編)
【訳者】古沢嘉通、中原尚哉、大谷真弓、鳴庭真人
【推薦文】
今世紀の躍進が著しい中国SFの代表的な作家の短編を集めた短編集。遺伝子改造された鼠の駆除に駆り出される新兵の目を通し現代中国社会を描く陳楸帆「鼠年」は、終盤のカタストロフが、押し寄せる洪水のようで恐ろしくも心地よい。
夏笳「童童の夏」は、遊び盛りの少年の視点で、隠居を余儀なくされた働き者の祖父と最新技術の関わりを語る。中盤以降、次第にテンポを上げつつ風呂敷を広げてゆく物語はウキウキする。景芳「折りたたみ北京」では某アニメを思わせる馬鹿々々しいほど無駄にスケールが大きい仕掛けと、それを出し抜こうとする主人公のオッサン老刀のささやかな目的の対比が光る。地球に押し寄せたUFOの正体は老人エイリアンの大群だった。劉慈欣「神様の介護係」は、高齢化社会を皮肉りつつ、可笑しくもやがて切ない空気が漂う傑作。幻想的な作品からSFならではの大法螺、高度技術と社会の関係など、色とりどりの作品が味わえる。

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【推薦者】たまえ
【推薦作品】『美しき免疫の力』
【作者】ダニエル・M・デイヴィス
【訳者】久保尚子
【推薦文】
ノンフィクションは苦手だが、小説を読んでいるような感覚でとても読みやすかった!免疫について全く予備知識のなかった私でも、免疫学とは何かと、現在の研究をぼんやりと理解することができた。解説も豊富。特に前半は免疫学の歴史が順を追って丁寧に書かれているので、唐突に専門用語が出てくるようなことはなく、置いてきぼりにならずに最後まで読めた。文章も流れるようにスムーズで、まるで日本語で書かれた作品を読んでいるよう。ノンフィクションの面白さを知れた作品。


 

 

【推薦者】藤谷治
【推薦作品】『三つの物語』
【作者】フローベール
【訳者】谷口亜沙子
【推薦文】
フローベールの最重要作品のひとつであるばかりか、最も感動的な小説であるにもかかわらず、長らく入手困難だったこの作品に、精緻で、清新で、情愛のこもった翻訳が現れたのは、本当にうれしい驚きでした。これまでの翻訳に比べても遜色ないどころか、ベストではないかと思います。


 

 

【推薦者】齊藤誠
【推薦作品】『エアスイミング』
【作者】シャーロット・ジョーンズ
【訳者】小川公代
【推薦文】
シャーロット・ジョーンズ『エアスイミング』(幻戯書房)、初読は戸惑ったが、再読で電動泡立て器と穿頭術の組合せが(私の勝手な解釈だが…)、収監(入院)の経緯という過去と、脱獄(退院)の可能性という未来を遮断され現在を必死に生きる2人の女性が繰り広げた誠実な愛について、可笑しみを持った表現だと思った。読んでいて昨年6月、アイルランドのMagdalen Laundriesに関するNew York Timesの記事を想起した。エアスイミングは1922年から72年の物語だが、女性の社会からの隔離は過去のことではないということなのかもしれない。いずれにしても、年末の戯曲の再演、期待したい。翻訳の文章、とても軽快で日本語の文章に惹きつけられた。また、翻訳の訳者注(特に大学研究者のもの)は、どうしても衒学的になるところが、必要にして十分な注で読者としては読むリズムが保てた。

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【推薦者】安田直人
【推薦作品】『82年生まれ、キム・ジヨン』
【作者】チョ・ナムジュ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
この小説の構造は複雑で、発病する以前のキム・ジヨンの語りと、発病したキム・ジヨンの語り(ジヨンを乗っ取って語る多くの女性の声)を聴き取る精神科医のカルテが大半を占める。この複雑な声の訳し分けが鮮やか。しかも解説が良く説明しているような韓国の歴史的事情に精通していなければ、殆ど意味の通らない言葉が、しっかりと訳し出されている。斎藤氏は既に韓国文学翻訳家として第一人者であるが、この訳業は偉大である。

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【推薦者】NAO.I -
【推薦作品】『奇跡の大地』
【作者】ヤア・ジャシ
【訳者】峯村利哉
【推薦文】
民族間抗争や奴隷貿易など。史実を交えながら淡々と綴られる筆致の奥に、マグマのような熱を感じさせる。一人ひとりの人生が独立した物語になりそうなほど濃密で、その濃密な生きざまをさらに研ぎ澄ませ、壮大な大河として読ませてくれた。


 

 

【推薦者】mihoct
【推薦作品】『ガルヴェイアスの犬』
【作者】ジョゼルイスペイショット
【訳者】木下真穂
【推薦文】
日常の、乾いた空気が伝わってくる。何気ない行動の残酷さを、第三者的立場の文章ではあるのに、共感が湧き上がる。日本語を読みながら、原文を想像できる文章だ。

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【推薦者】森岡伸一
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・ヘヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
【推薦文】
一瞬の出来事で人生が一変してしまった主人公オギの心の描写が巧みでテンポがいい。じわじわと迫ってくる恐怖は、中盤の義母が何かに取り憑かれたように庭に穴を掘るあたりから結末は想像できるが、妻と義母の怨念ににも似たオギへの執念に恐怖を感じる。やはり、女は怖い。


 

 

【推薦者】noby829
【推薦作品】『Firewatch(ファイアー・ウォッチ)』
【作者】Campo Santo
【訳者】福嶋美絵子
【推薦文】
当該作は2018年2月リリースのPlaystation用ゲームタイトルの日本語版。1989年、面倒な生活から逃げ出すように森林火災監視員となった男『ヘンリー』と谷の向こうにある別の監視塔の女性上司『デリラ』との対話は、すべてトランシーバーを介して行われるのが特長の本作。中年男女にありがちな言い回しやストーリーが進むに連れて変化するお互いの心情や信頼感はもちろん、ユーモアやジョークも含めすべてを見事に翻訳し切ったと言え、見事。


 

 

【推薦者】「只今小説熟読中」
【推薦作品】『或る家の秘密』
【作者】スティーヴ・ロビンソン
【訳者】高里ひろ
【推薦文】
家計調査士である主人公が依頼を受け、調査するためにイギリスに渡るところから始まり、複数の場所、時代で物語は進んでいくのですが、文章から情景、感情がよく伝わり、一喜一憂しながらのめり込んで読んでいました。そして徐々に明らかになりつつも、謎が謎を呼ぶ展開で物語が進み、やがて浮かび上がってきた真実を知ったとき、鳥肌が立ったことを今でも覚えています。
本当に面白かったです。


 

 

【推薦者】星落秋風五丈原
【推薦作品】『鯨』
【作者】チョン ミョングァン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
解説では本書をパンソリに例えていたが、読んでみると落語に近い。先に出したわざと長ったらしい文節と「起こった出来事」の次に必ずついてくる「これは~の法則である。」という決まり文句がリフレインで登場するので、わざと同じパターンを強調するのか、いちいち抑揚を変えて論じるのか、語り手によってアレンジをつけられて面白い。「鯨は望んでも得られぬもの」の象徴らしいが、どちらかというと女達が持っているエネルギーの塊のように見える。


 

 

【推薦者】祐太郎
【推薦作品】『すべての、白いものたちの』
【作者】ハン・ガン
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
早産で自宅で生まれわずか2時間の命で逝ってしまった姉を思い描き出す、白いものをめぐる随筆集。作者の創り出す「儚さ」を翻訳しきった翻訳者の技量に驚愕する。読みながら、私は韓国人なのか、日本人なのか、その境界線(それも儚いものかもしれない)が喪失するような感覚に襲われた。


 

 

【推薦者】槙野さやか
【推薦作品】『何があってもおかしくない』
【作者】エリザベス・ストラウト
【訳者】小川高義
【推薦文】
本作は故郷から逃げた作家を中心とする、逃げた/逃げなかった人々の話です。逃げた人間は永遠にそれを内面に刺青しています。私は「逃げた」人間です。だからこの本は「私の本」なんだ。世界中でそのような勘違いをさせるのが力のある翻訳文学なのでしょう。私は紙に字が書いてあるのを読めばだいたい嬉しいのですが、その中に時折「私の本」があります。2018年のそれが、『何があってもおかしくない』です。エリザベス・ストラウトを私は好きでした。小川高義翻訳作品を私は長く読んできました。けれども、今回の投票はそうした小説消費者の恒常的好意によっておこなうものではありません。私はただ「これは私の小説だ」という勘違いによって本作に一票を投じます。どうした巡り合わせか、河出書房新社の坂上陽子さんが私に本作を送ってくださいました。それでこの小説についての文章を『文藝』2019年春季号に書きました。この投票にもそのときに用いた筆名の使用を希望します。 槙野さやか 拝

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【推薦者】杉山寛子
【推薦作品】『トマト缶の黒い真実』
【作者】ジャン=バティスト・マレ
【訳者】田中裕子
【推薦文】
読後、トマト缶に限らず食品のラベルを念入りにチェックするようになりましたが、本質はそこじゃない。グローバル経済の闇が広がっていく過程がみえる。
過酷な労働状況や工場の描写に恐れおののくと同時に、どこか「他人事として面白がって読んでいる自分」がいることに寒気を覚えます。幾多の国をまたいでの潜入レポートは、命がけだったのではないでしょうか。知ることが出来てよかった。


 

 

【推薦者】けいとだま
【推薦作品】『アンデルセンのおはなし』
【作者】ハンス・クリスチャン・アンデルセン
【訳者】江國香織
【推薦文】
アンデルセンの珠玉の物語を、『ムギと王さま』などの挿絵で知られる画家・エドワード・アーディゾーニが選び、美しい絵を施した本書。時をこえて、今、作家・江國香織氏が詩的で深い解釈にもとづいた翻訳で、アンデルセンの新しい魅力を私たちに届けてくれています。

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【推薦者】junco T
【推薦作品】『自転車泥棒』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
ジョンアーヴィングの初期の小説を初めて読んだときのような衝撃と感動でした。ブッカー賞候補もうなずける作品でした。そして、天野健太郎さんは、この小説を素晴らしい訳で日本に紹介して下さいました。突然の訃報には大変ショックを受けました。この一年、いえこの十年で最も素晴らしいと思ったこの小説を、推薦させて頂きます。

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【推薦者】椎野貴晃
【推薦作品】『わたしたちが火の中で失くしたもの』
【作者】マリアーナ・エンリケス
【訳者】安藤哲行
【推薦文】
アルゼンチンを舞台とした十二編からなる短編小説。肌で体験したような恐怖を味わった。この本を毎晩一編か二編ずつ読んでいた頃、何度か不気味な夢を見て一晩経っても怖い思いをしていたのは良い読書体験でした((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


 

 

【推薦者】はるたま
【推薦作品】『カササギ殺人事件』
【作者】アンソニー・ホロヴィッツ
【訳者】山田 蘭
【推薦文】
ミステリのゲラを読む、という入れ子構造からどんどん話は広がり最後はパチン!!翻訳小説ならではの読み応えにゾクゾクしました。読み返してまた仕掛けにニヤニヤ。うまいなあ。作者と翻訳者にやられた気分です。

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【推薦者】さち
【推薦作品】『ホール』
【作者】ピョン・へヨン
【訳者】カン・バンファ
【推薦文】
読み始めるとあっという間に、小説に中に引き込まれました。ストーリー自体も面白かったのですが、すごく読みやすい文章に仕上がっているからでしょうか。韓国の本は独特の表現方法など強い癖のようなものをいつも読むと感じるのですが、この本の翻訳はさりげない感じでその癖を残しつつ、日本語を活かした文体になっているところにも感心しました。これからどんな本を訳していかれるのか楽しみにしています。


 

 

【推薦者】盛下理子
【推薦作品】『変わったタイプ』
【作者】トム・ハンクス
【訳者】小川高義
【推薦文】
どの短編集もそのまま優れた短編映画になりそうなほど、細部に渡ってリアリティと臨場感があり(読んでいて映像が浮かぶ)、思わずトム・ハンクスが、今まで手にしたであろう数多の脚本(未発表も含めて)からヒントを得て書き、故に後で訴えられないかと心配したほど(杞憂です)どれも個性的でオリジナリティに溢れている。もちろん、独特のドライブ感とリズム感のある訳文も見事。個人的には『過去は大事なもの』が何故か好き。

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【推薦者】川内有緒
【推薦作品】『津波の霊たち』
【作者】リチャード・ロイド・パリー
【訳者】濱野大道
【推薦文】
 外国人ならではの少し距離のある視点で、しかも細やかに冷静に、震災直後、そしてその後に起こったことに迫っていくゆく。誰かを糾弾する偏った姿勢ではなく、ただそこにいる人々の苦しみと分断を炙り出してゆく。いつまでに胸に残る素晴らしい一作でした。

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