第三回日本翻訳大賞 推薦作品リスト

2017年2月5日(日)23:59まで第三回日本翻訳大賞の候補作を募集しています。

ここでは皆さまから推薦をうけた作品と推薦文をご紹介していきます。

※推薦文のすべてが掲載されているわけではありません。予めご了承ください。


【推薦者】中村 久里子
【推薦作品<1>】『台湾少女、洋裁に出会う――母とミシンの60年』
【作者】鄭鴻生
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
台湾の近現代史としても女性の一代記としても、読み応えのあるノンフィクション。20世紀という激動の時代、政治にはいっさい関心を持たず、自らの天職である洋裁教育に身を捧げた筆者の母親のプロフェッショナルな生き方に痺れる。こうした優れた台湾作品をつぎつぎ日本に紹介してくださる訳者の貴重なお仕事に、敬意を表したい。

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【推薦作品<2>】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
写真花嫁、移民、日系人(ジャップ)としての悲劇や苦難だけではなく、人生のたしかな幸せや喜びもあって、それらすべてが切実さに収斂されていく「わたしたち」の声。「わたしたち」という主語でしか語りえなかった物語に、「読む」というよりも「聞く」、ひたすら耳を傾けるしかない作品だった。そのくらい圧倒的なストーリー、そして訳文だった。

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【推薦者】ゆかとら うまん
【推薦作品<1>】『プリズン・ブック・クラブ』
【作者】アン・ウォームズリー
【訳者】向井和美
【推薦文】
コリンズ・ベイ刑務所読書会の1年を描く本書は、壁の向こうで生きる人々と、彼らに関わろうとする外の人との関係がまず面白い。そしてもちろん、読書会で取り上げる本の中身、読まれ方も興味深い。翻訳ものを読みながら登場する翻訳ものも味わえる立体的・複合的に愉しめるお得な本。2016年はこの本の舞台、カナダ・トロントを初めて訪れたので余計に感慨深いのである。

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【推薦作品<2>】『ミスターオレンジ』
【作者】トゥルース・マティ
【訳者】野坂悦子
【推薦文】
少年ライナスは、第2次世界大戦に志願してヨーロッパに渡った兄が自慢だ。家業を手伝うライナスはオレンジの配達先で不思議な外国人画家に出会う。彼ミスターオレンジは、ナチスが席巻するヨーロッパからニューヨークに逃れてきたらしい。戦争と正義、難民など今日的なテーマを子どもの日常から捉える。ミスターオレンジのモデルはオランダのモンドリアン。2016年トランプ勝利後のニューヨークを訪れた後に読んだので余計に心にしみた。

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【推薦者】デンルグ
【推薦作品】『人形つくり』
【作者】サーバン
【訳者】館野浩美
【推薦文】
日常から徐々に逸脱して、怪奇幻想の世界に囚われていく少女を描いている。その魔術的な香りを日本語にしたときまったく損なうことなく伝える翻訳。怪奇小説らしい翻訳といえるのでは。ただそれだけではなく、少女の力強さが鮮やかに際立っている。描かれている心理を細やかに翻訳してくれたからこそ。

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【推薦者】古橋四万
【推薦作品】『こびとが打ち上げたボール』
【作者】チョ・セヒ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
韓国の社会運動や大衆文化の底に流れる抵抗の観念を知る一助になり、オリンピックを迎える日本、ひいては世界中で潮目が大きく変動する現在、追いやられる者の怒りと悲しみの文学を読む意味は大きいと考えます。また翻訳も、簡潔で力強いだけでなく、弱い者の強さに寄り添うような丁寧で美しい訳文だと感じました。

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【推薦者】トルテ
【推薦作品】『黄昏の彼女たち(上)(下)』
【作者】サラ・ウォーターズ
【訳者】中村有希
【推薦文】
物語世界へ、襟をつかまれて引きずり込まれるような訳、と思う。1920年代ロンドンの街、落ちぶれた上流階級の屋敷、犯罪と法廷、それぞれの空気を吸っているような読み心地。ふたりの女、フランシスとリリアンの個性がくっきりと立ち上がり、生きた声が響いてくる。
サラ・ウォーターズの著作が好きで欠かさず読んでいるのですが、最初は単純に著者の力がすごいと思っていたのが、あるときふと、これは訳者の方の功績も大きいかもと気づき、今では確信しています。どこがそんなに違うのか、明言するのは難しいのですが、吸引力のある文章と感じるのです。

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【推薦者】sthew
【推薦作品<1>】『ヒトラー』
【作者】イアン・カーショー
【訳者】川喜田敦子、福永美和子
【推薦文】
これまでにふれたどのホラー作品よりも恐ろしい内容だったものの、本書はあくまで伝記である。「その人物がいなければ歴史は違っていただろうと評せる人物は数えるほどしかいないが」「その一握りに入る」(上巻p.18)であろうアドルフ・ヒトラーの評伝だ。いかにしてヒトラー現象が可能になり、いかにして破滅していったのかを克明に描きだしている。ある人間の政治的成功が、社会の急進化を経ながら、現代まで禍根を残す歴史的失敗になっていく。その変遷はすさまじい。『ヒトラー』に加えて、強制収容所の生還者たちが残したさまざまな証言も読むと、急進化の帰結がどれほどのものだったか理解しやすいだろう。
この大著の邦訳にかけた時間は足かけ7年だそうで、日本翻訳大賞であれ他の賞であれ、何かの賞にふさわしい仕事だと思う。

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【推薦作品<2>】『死すべき定め』
【作者】アトゥール・ガワンデ
【訳者】原井宏明
【推薦文】
『死すべき定め』で扱っているのは、死にゆく人に対して標準医療には何ができるかということだ。
死に際して多くの人が望んでいること、それは最期の日々を可能なかぎり平穏で価値あるものにすることだろう。残された短い時間をできる範囲で本人の希望どおりにするのは、死にゆく人のためであり遺される人のためでもある。どのような生になら耐えられるのか、許容範囲は人によってずいぶん違う。望みを叶えるには、まずその望みを知る必要がある。しかし大切な人への思いやりから、望まぬ治療を受けてしまったりもする。ではどうすればいいのか?
ガワンデが書いているのは、ある意味で生を諦めることだ。しかしそれは同時に、最期までよりよい生を諦めないことでもある。
なお『ヒトラー』『死すべき定め』以外では、『リリス』『セカンドハンドの時代』『監獄と流刑』『ナボコフの塊』『血の熱』『あの素晴らしき七年』なども読みごたえがあった。

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【推薦者】nobu
【推薦作品<1>】『水を得た魚 マリオ・バルガス・ジョサ自伝』
【作者】マリオ・バルガス・ジョサ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
1990年までのペルー大統領選挙に至るまでの道のりと、バルガス・ジョサがそれまでに発表してきた作品のエピソードが紹介されており大変興味深く読んだ。選挙演説は2~3時間の踊りやイベントの前座が終わらないとスピーチが始められないなど、ペルーを何度か訪れた私にとってうなずけるシーンがいくつもあり大変面白かった。この自伝を訳していただいた寺尾先生および出版していただいた水声社の方々等関係者の皆様に謝意を申し上げます。

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【推薦作品<2>】『ウリョーアの館』
【作者】エミリア・パルド・バサン
【訳者】大楠栄三
【推薦文】
19世紀後半にスペインの女性作家によって書かれた作品。作品を読むと、当時のスペインの世相や、社会的身分の差がよく分かる。この作品の面白いところは、<女男>とあだ名をつけられるフリアンや地元の村人たちからウリョーア侯爵と呼ばれるドン・ペドロ、強大な権力を有しているプリミティボ、そしてラヘ家の娘たちなど、それぞれの人物の性格の違いがよく描かれている点であろう。揺れ動く思いや、相手への駆け引きなど、読んでいて飽きさせない。本邦初訳で訳出された大楠先生と、出版していただいた現代企画室の方々等関係者の皆様に謝意を申し上げます。

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【推薦者】魂木波流
【推薦作品】『バッド・カントリー』
【作者】C・B・マッケンジー
【訳者】熊谷千寿
【推薦文】
アメリカ先住民の血をひくロデオは、先住民が何人も殺されているという連続殺人事件にまきこまれる。そして私立探偵をしている彼は、少年が殺されたある事件の再調査を依頼されるのだが――。というハードボイルドなアメリカ先住民ミステリーです。トニイ・ヒラーマン賞受賞作。
セリフに””がついてないらしく、全部「」もなしになっています。ままある手法ですが、会話がどれかぱっと見すぐにわからないので、翻訳するときは大変だったんだろうなあと思いました。

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【推薦者】@ kaseinoji
【推薦作品】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
たった数ページで、笑いを誘い、胸を締めつけ、伏線を拾い、メタファーを織り込む。そんなマジカルなエッセイ集。
ヘブライ語で執筆されたのに英語翻訳版が決定稿となり本国イスラエルでは出版されていないという、孤児のような来歴の本。訳者あとがきによれば、日本語版はその世界二十番目のきょうだい。

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【推薦者】遠藤 悦子
【推薦作品】『ウィンター家の少女』
【作者】キャロル・オコンネル
【訳者】務台夏子
【推薦文】
天才ハッカー、ニューヨーク市警のキャシー・マロリーシリーズ第八作。58年前のウインター邸での9人の虐殺事件の生き残りの老婦人とその姪のどちらが不法侵入者を殺したのか、過去の虐殺事件と、殺人事件の関係を、天使のような美貌と冷徹と、見事な推理で追う、佳作。写実的記憶力の持主チャールズ・バトラー、ライカー警部を配し、シリーズを通じて比類なき翻訳をされた務台夏子さんの翻訳を愛しています。

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【推薦者】佐藤 弓生
【推薦作品<1>】『チェンジ・ザ・ネーム』
【作者】アンナ・カヴァン
【訳者】細見遙子
【推薦文】
20世紀前半の英国女性作家の長編第一作。大戦前後の若い女性の境涯をくるしく叙述する点、ヒロインの性格が非人間的な点において『ジェイン・エア』『嵐が丘』の後継に見えながら、母娘問題や生の実感の不在など現代に通じる語りも多い。ロマンス小説的筆致のあいまにときおり見られる「その夕空の淡い緑色の海原を、生まれたばかりの細い三日月がすべるようにわたっていく」といった後年の幻視的作品に通じる表現も見逃せない。
本書の訳出をはじめ、版元のここ数年のラインナップ(デイヴィッド・リンゼイなど)にもときめきます。期待しております。

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【推薦作品<2>】『ドイツ国防軍兵士たちの100通の手紙』
【作者】マリー・ムーティエ
【訳者】森内薫
【推薦文】
手紙の記録なので型通りな退屈さや偏見も多いが、推敲されない臨場感を読むべき本(検閲があるので真に酷い事態は書かれていないと思われるが)。「ふつうの人々」の戦争犯罪にかかわる精神風土を知ることができる。ティモシー・スナイダーの序文「ハンナ・アーレントは『悪の凡庸さ』について語ったが、本書の手紙に散見されるのは、むしろ『凡庸さの悪』だ」が重い。
訳者あとがきによると、手紙は「究極の一人称」であり「彼らの生の声」。一人称文学にかかわる者として考えさせられる。

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【推薦者】渡辺 融一郎
【推薦作品】『黒い本』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】鈴木麻矢
【推薦文】
構成は二つの柱を持つ。失踪した妻リュヤーを捜すガーリップと、妻の異母兄ジェラールのコラムだ。特にコラムは内容も凄まじいけれど、それを支える訳がいい。どす黒い、深淵から立ち上る何ともしれぬ匂いを見事に日本語で表している。黒い街イスタンブールを彷徨うガーリップは次第に存在がジェラールへと引き寄せられる。何かが起きている。何かが存在している。黒い街イスタンブールの名作だ。

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【推薦者】丸面 チカ
【推薦作品<1>】『蒲公英王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ』
【作者】ケン・リュウ
【訳者】古沢 嘉通
【推薦文】
作者が言っているように、骨格としては楚漢戦争がモデルではありますが、その肉付けや立っている世界が作者オリジナルの再創造したもの。
ということは、否が応でも何らかの形で日本語話者なら触れたことのある三国志のストーリーを思い浮かべてしまうわけです。それが司馬遼太郎作品であったり、横山光輝の漫画作品であったり、漢文などの教材であったり、ゲームであったり、全く興味がなくても諺であったり。
そういう三国志の知識から違和感を覚えず、加えて、作者特有のシルクパンクという想像上の世界の習わしや武器、事物そして神話の細やかな描写が日本語で読めて、楽しく没頭できるというのは有り難いことです。

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【推薦者】三木
【推薦作品<1>】『テロ』
【作者】フェルディナント・フォン・シーラッハ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
ドイツの旅客機がテロリストにハイジャックされ、満員のサッカースタジアムに落とすと予告される。その旅客機を撃墜し、乗客全員を死に至らしめた軍人は殺人犯か英雄か。
この裁判劇には「有罪」と「無罪」の二つの結末が用意されている。この人物を裁くのは読者である自分自身なのである。読者は選択をすることで、この問題に対して他人事ではいられなくなる。この作品が様々な意味でテロの脅威から目をそらすことができない今、翻訳された意義は大きいと思う。

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【推薦作品<2>】『セカンドハンドの時代』
【作者】スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ
【訳者】松本妙子
【推薦文】
第二次世界大戦時のソ連の女性やチェルノブイリの原発事故にあってしまった人々の話を聞き書きという形で本にし、ノーベル文学賞を受けた著者による、ソ連崩壊をテーマにした一冊。
この本はソ連という私が生まれる前に消えた存在がテーマで、はたして理解できるのかと心配になったが、杞憂だった。著者の文章はどこまでも繊細で力強く、読者に寄り添うように進んで行く。この人の新作が同時代に読めることを嬉しく思う。

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【推薦者】斎藤 真理子
【推薦作品<1>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
締切ぎりぎり、推薦文が書けませんが「すごかった」の一言

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【推薦作品<2>】『アメリカーナ』
【作者】アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
こちらも締切ぎりぎりで推薦文が書けませんが、「読めて嬉しかった」の一言。

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【推薦者】Haruka Matsuyama
【推薦作品<1>】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
読み終えるのが惜しい小説には、物語としてのおもしろさはもとより、文章を読む体験そのものの喜びがあるのではないでしょうか。『すべての見えない光』はまさに、その喜びに満ちた小説でした。また、読み終えてから知ったのですが、『すべての見えない光』の原著であるAll the Light We Cannot Seeはほぼすべてが現在形の英語で書かれているそうです。改めて訳文を見てみると、訳文もすべて現在形になっています。なんの違和感もなく読んでました! 藤井光さん、恐るべしです!

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【推薦作品<2>】『数学者たちの楽園 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』新潮社
【作者】サイモン・シン
【訳者】青木薫
【推薦文】
米国アニメ『ザ・シンプソンズ』の脚本家集団は天才数学博士たちの集まりで、『ザ・シンプソンズ』には数学的トリビアが散りばめられている! ということを『フェルマーの最終定理』で有名なサイモン・シン氏が解き明かしていく本です。シンプソンズファンにとってはたまらなくおもしろい本でした。ですが、よくよく考えてみると数学の知識もほとんどないのにこんなに楽しく読めたのは、作者であるサイモン・シン氏の文章や構成の上手さがあったからで、さらにいうと、それを訳者である青木薫さんが読みやすい日本語に訳してくれたからで。なんというか、ほんとに、この本を訳してくださってありがとうございました!

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【推薦者】青の零号
【推薦作品<1>】『天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険』
【作者】ジャック・ヴァンス
【訳者】中村融
【推薦文】
優れた翻訳者にしてSF・幻想文学の目利きである中村融氏が悲願とまで言い切った本書の全訳はまさに快挙である。太陽が衰え生物も文化も異形と化した物語は異郷作家と呼ばれたヴァンスの真骨頂であり、次々に登場する奇妙な文物とそれをめぐる曲者たちの会話の妙を生き生きとした訳文で楽しむことができる。主人公のキューゲルは人間的に誉められた男ではないが、どんな状況でもしたたかに生きぬく逞しさは人生経験豊かなヴァンスの到達した人間の本性であり、彼の理想とするヒーロー像そのものだろう。

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【推薦作品<2>】『死の鳥』
【作者】ハーラン・エリスン
【訳者】伊藤典夫
【推薦文】
伝説的なSF作家の伝説的な作品を伝説的な翻訳家が訳した傑作選であり、長く刊行が待ち望まれた名著である。知性と観察眼に裏打ちされた暴力描写が時に形而上的な世界で、あるいは都会の真ん中で技巧的な文章により炸裂する。この現代の神話ともいえる作品群を長く日本語に訳し続けた名匠の偉業に、改めて敬意を表したい。

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【推薦者】藤枝 大
【推薦作品<1>】『トランペット』
【作者】ジャッキー・ケイ
【訳者】中村和恵
【推薦文】
「ありのままのその人」に向き合おうとする人間たちが登場する。向き合いたい、と、向き合うしかない、ではえらいちがいがある。人間関係というのは複雑になりがちで、そうした時には手続きがものを言う。手続きは「ありのままのその人」に向き合うのを邪魔することもあれば、支援もする。父であること、が大きなテーマであるが、その父にとっての父が最後に顔を出す。余韻がいつまでも消えない傑作。訳が、最高にいい。

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【推薦作品<2>】『偉大なる時のモザイク』
【作者】カルミネ・アバーテ
【訳者】栗原俊秀
【推薦文】
勇気を必要とする時に応えてくれる風。そんな風を、読み終わったあともちかくに感じる。風の裏側には影がある。影も感じながらも、われわれは生きていくしかない。大文字の歴史と対比的に語られる小文字の歴史。アルバレシュの彼らにとって、これは小文字の歴史か? いやいや、同時に大文字でもあるだろう。繊細な手付きで小文字であり大文字でもある歴史を成り立たせようとする。子どもたちはモザイク完成への日々に随伴する。孤軍奮闘しながら男は、歴史と対峙する。ここに居ない男をそばに感じながら。風吹き抜ける歴史は、うんと気持ちがいい。その風は信じるに値するか? これからの人生で、どう応えつづけられるだろう。

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【推薦者】ヤヤー
【推薦作品<1>】『ホワット・イズ・ディス?』
【作者】ランドール・マンロー
【訳者】吉田三知世
【推薦文】
まず、絵本だっていうのにこの文字量。
難しいことをシンプルに言ってみた、っていうけど、易しく言い換えるということは結構難しいものだなあと思い知らされる。
「きみの体内にあるいろいろなふくろ」って言われたら何だと思う?
大人ならすぐにわかるよね。でも、こういう言い換え方を思いついたかしらん。
「人を助けるための部屋」「空に届くビル」…何のことだろう?
1ページにびっちり書き込まれた文章によって説明がなされる。それによって子どもだけじゃなく大人がちゃんと理解するのを助けてくれてる絵本、です。

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【推薦作品<2>】『あたらしい名前』
【作者】ノヴァイレット・ブラワヨ
【訳者】谷崎由依
【推薦文】
白人が取り仕切ってきた社会の仕組みを、黒人原住民に返すという。
選挙とやらが行われたが、何が変わったのやら。
社会の中で犠牲になるにはいつも女性や子どもだ。
わたしはここで子どもがレイプされて妊娠・出産までさせられている現実に戦慄した。子どもなのに、もう体の中は成人しているのだ。
それでもそこから抜け出してアメリカに渡った主人公の語りは明るい。
古い世界というキモノを脱ぎ捨てて生まれ変わったようだ。少なくとも表面上は。
彼女は過去を忘れてこの先を生きていくのか。
では読者であるわたしが残されたものたちのことを憶えていよう。

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【推薦者】かつ とんたろう
【推薦作品】CD『神様ごっこ』付属ブックレット
【作者】イ・ラン
【訳者】清水博之(雨乃日珈琲店)
【推薦文】
韓国のシンガーソングライター、映像作家、マンガ家その他肩書き多数の才女イ・ランの2ndアルバム付属ブックレットは、各曲の歌詞と、その曲にまつわるあるいはまつわらない彼女のエッセイ集だ。
しっとりとしたミランダ・ジュライのような彼女の文章は、雰囲気や内容、すべてがCDに収められた曲と完璧な対応をなしている。彼女の気ままで、あるときは鋭利で、あるときは何も考えていないように無邪気な、しかし間違いなく賢く、あまりにも賢いがゆえの斜めに世界を見てしまう感じをパッケージして翻訳できたのは、彼女との絶妙な距離感のなせる業か。
これを日本語で読めること、しかも間違いなくイ・ランという人物が伝わる翻訳に仕上げてくれたことに感謝したい。


【推薦者】柳瀬 江理子
【推薦作品<1>】『プラハの墓地』東京創元社
【作者】ウンベルト・エーコ
【訳者】橋本勝男
【推薦文】
博覧強記のウンベルト・エーコ。歴史、美術、記号、文書、非常に多くの知識が必要とされさらに独特の世界観の雰囲気を壊さず訳されるのは大変なことだと思った。

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【推薦作品<2>】『ポーランドのボクサー』
【作者】エドゥアルド・ハルフォン
【訳者】松本健二
【推薦文】
作者と連絡を取り合い日本だけこの短篇集の形をつくられた。テキストをただ訳されるだけではなく共に作品を作り上げる姿勢がこの文章にもあらわれていてとても素晴らしい本となった。作者の想いを誠実な訳文がこのグァテマラの複雑な血筋の作者(=主人公)を際立たせた。

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【推薦者】野口 綾乃
【推薦作品<1>】『ぼくは君たちを憎まないことにした』
【作者】アントワーヌ・レリス
【訳者】土居佳代子
【推薦文】
これは推薦しなければならない本だと思い、手に取りました。この本を翻訳してもらえたから、知ることができました。フランスの地で起きた出来事を遠い日本の地で感じることができました。訳者の土居さんがあとがきで書いているように、多くの人が胸に灯をともし、希望を分かち合うことができたらと願います。

 


【推薦者】田中 優子
【推薦作品<1>】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・N・アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
何気なく読み始めてみて、お、いいな、すぐにその世界に引き込まれてしまうな、という感じ。これはもちろんいい小説の証拠ですが、なぜこれほどまでに引き込まれてしまうのか。とても大きな問題をこんなふうに個人の視点から語ることができる、これぞ小説の醍醐味と思った作品。もちろん、そのためのには翻訳の質の高さが必要で、そのお手本のような一作だと思い、推薦します。

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【推薦作品<2>】『闇の河』
【作者】ケイト・グレンヴィル
【訳者】一谷智子
【推薦文】
紹介サイトにありますが「異文化との出会いと衝突、そして和解に至る道のりで、「記憶」はいかに物語られるのか。多文化にひらかれた新たなアイデンティティを模索するオーストラリア社会に、深い衝撃をもたらした現代の古典」、まさしくそのとおりの作品でした。移民というより「罪人」としてイギリスから流されてきたイギリス人たちが、その後、今度はいかに原住民たちを征服していくか、という凄まじい歴史の流れにくらくらしました。このシリーズ全体も、すごいシリーズだと感服しています。ちょっとやそっとで人間というのは崩れないし、社会というのも作られない。2012年から10年かける凄さ。

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【推薦者の名前】七雪
【推薦作品】『塔の中の部屋』
【作者】E・F・ベンスン
【訳者】中野善夫・圷香織・山田蘭・金子浩
【推薦文】
「怖い」は一種類だけじゃないと実感させてくれるバラエティに富んだ怪奇小説集。E・F・ベンスンの短編集の完訳は、本書が初とのことで、まとめて読めるのが嬉しい。
この短編集の構成ですばらしいのは、怖い話・嫌~な話の中に、結末で心温まる話が一編入っているところ。緊張がゆるむと同時に、恐怖が際立つのだ。
日本で暮らしていると、怪談といえば夏の夜のイメージだが、雪が降りしきる中、暖炉を囲んで怪談を披露しあうのも楽しそうだ。

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【推薦者の名前】酒井 七海
【推薦作品】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
フィクションといえども限りなく真実で、ひとつひとつはまったく別の声なれど、それが折り重なってひとつの大きなうねりを伴った物語になっていく。
常に一切の情感的なものは排除して淡々と綴られていくけれど、戦争がおこり一人また一人と収容所行きになっていく事実は動かない。それゆえどうして連れて行かれるのかわからないまま人知れず消えていく人たちが、確かにそこに生きていたんだということが実感として迫る。
この文体だからこそ、胸に来る鬼気迫るものがあった。文句なしに素晴らしい作品。

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【推薦者】芝田 文乃
【推薦作品<1>】『ウィスキー&ジョーキンズ』
【作者】ロード・ダンセイニ
【訳者】中野善夫
【推薦文】
初老の紳士ジョーキンズがウィスキー片手に語る軽いタッチの笑える法螺話を23収めた短篇集。ファンタジイ長篇が苦手でダンセイニは面倒くさそうと敬遠していたのですが、このジョーキンズ・シリーズはコミカルで落語のよう。とはいえ文体はおちゃらけてはおらず大変端正でありまして、無表情で人を笑わせるバスター・キートンを思わせます。また、短篇の合間にときどき挟まる、訳者による解説コラムが簡にして要を得ており、ありがたいです。

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【推薦作品<2>】『ロデリック』
【作者】ジョン・スラデック
【訳者】柳下毅一郎
【推薦文】
純粋無垢な幼いロボット、ロデリックの冒険成長物語なのですが、ロデリックは周囲の人間とうまくコミュニケーションがとれず、人間たち同士もうまくコミュニケーションがとれていない。そんなディスコミュニケーション状態で事件が起き、なんだかよくわからない会話が続いていき、しかも言葉遊びやパロディがてんこもりのテクストを翻訳するのは暗号を解くようなもので、訳者にとっては大変な苦労であろうとお察しいたします。ロデリックがこの先どうなるのか気になります。続編が出ますよう願っております。

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【推薦者の名前】深緑 野分
【推薦作品<1>】『堆塵館』
【作者】エドワード・ケアリー
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
子供の頃、読書に没頭して、永遠に読み終わりたくない、と思うことがあった。
永遠にこの文章を読んでいたい。この世界で生きていきたい。
その感覚を思い出させてくれ、いつまでも、この物質にまみれた館に閉じこもって、誕生の品と奇妙な人々の話を聞いていたい、と思った。
今年最高の読書体験でした。

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【推薦作品<2>】『死の鳥』
【作者】ハーラン・エリスン
【訳者】伊藤典夫
【推薦文】
どの短編も素晴らしく大好きなのですが、
とりわけ「ジェフティは五つ」はマイベスト短編小説の5作に入れたいほど溺愛しています。郷愁と少年時代への憧れをこういった形で描いてくるとは。
「ソフト・モンキー」も最高。

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【推薦者の名前】栗山 心
【推薦作品】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
翻訳小説をほとんど読まないままに歳を重ね、突然ハマり出して一年。好奇心の赴くままに読み漁り、ついには未知の領域だったポーランドの小説にまでたどり着きました。更なる翻訳小説の魅力を教えてくださった翻訳者の方に、感謝です!

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【推薦者の名前】にゃぼにゃ
【推薦作品】『ウィスキー&ジョーキンズ:ダンセイニの幻想法螺話』
【作者】ロード・ダンセイニ
【訳者】中野善夫
【推薦文】
初めて読んだダンセイニだったのですがとても読みやすく面白かったです。訳者のコラムも作品を読む上での助けになって良かったです。何より楽しかったのは、Twitter上で豆本のキャンペーンが行われてたことです。応募するのにお気に入りの作品をツイートするのですが、同じ本を読了した方のお気に入りの作品を知ることができたのは本当に良かったです。

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【推薦者】H・M
【推薦作品】『君に太陽を』
【作者】ジャンディ・ネルソン
【訳者】三辺 律子
【推薦文】
双子それぞれの感性で彼らの頭の中をまま文字にしたような文章がとても素敵な作品で、それをそのまま丸ごと味あわせてくれる翻訳でした。

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【推薦者の名前】みんどるれ
【推薦作品<1>】『コスタグアナ秘史』
【作者】フアン・ガブリエル・バスケス
【訳者】久野量一
【推薦文】
ラテンアメリカ文学というより、あえてコロンビア文学と呼びたい。「ブーム」の世代の作品群がラテンアメリカにとっての近代文学だったとしたら、さらに次の世代の現実の捉え方を示す作家が続々と現れているが、その重要な作家がこのバスケス。ラテンアメリカ性や越境が強調されるのではなく、むしろそれを所与のスタート地点としながら、逆にコロンビア性を探っていく。コロンビアの現在がいかなる経緯と関係性と構造によってこうなったのかを、相対的に明らかにしていく。その姿勢に大変共感した。2つの作品は、題材の性格も文体もまったく異なり、また翻訳者それぞれの特徴も違っていて、興味深い。それぞれ、翻訳者に合った作品を訳しているように感じた。

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【推薦作品<2>】『物が落ちる音』
【作者】フアン・ガブリエル・バスケス
【訳者】柳原孝敦
【推薦文】
同上

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【推薦者の名前】本とランプ
【推薦作品<1>】『ユリシーズを燃やせ』
【作者】ケヴィン・バーミンガム
【訳者】小林玲子
【推薦文】
「ユリシーズ」の伝記そのもの。難解で知られた本である「ユリシーズ」が出版についても、ここまで苦労があった事を知らなかった。あの時代そんな検閲が海外で行われていた事も知らなかった。この「ユリシーズを燃やせ」が翻訳され出版され、手に取らなければ知らなかった。かつてこういう時代があったのだと知るためにも、今、この本を読めて良かったと思う。

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【推薦作品<2>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】柴田文乃
【推薦文】
帯の「怪奇幻想小説」の「怪奇」の部分に苦手な分野かと最初少し腰がひけたが、読んでみれば杞憂に終わった。物語が終わったその後を考えてしまうようなあとの引き方が凄い。読後、ラヴクラフトを買いました。新しい本の世界の扉を開けてくれた1冊です。

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【推薦者】真理子
【推薦作品】『きみがぼくを見つける』
【作者】サラ・ボーム
【訳者】加藤洋子
【推薦文】
目次が秀逸で痺れました。
ぼくの一人称で淡々とした文体なのに、リリカルで詩的でとても胸に迫るものがありました。
ときどき、はっとするようなシンプルな語りかけの言葉も効果的にちりばめられ、とても心に残る物語でした。

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【推薦者】でーすけ
【推薦作品<1>】『ようこそ、映画館へ』
【作者】ロバート・クーヴァー
【訳者】越川芳明
【推薦文】
邦題がとても良いですね。分かりやすくこの本のことを説明しようとすると「ジャンル映画オマージュの短編小説集」となるのですが、これだとどうにも説明が足りないんですよね・・・。なので邦題に「映画館」とつけたのが上手いなあと!何故「映画館」なのか?それは本作を手にとってページをめくっていただければ!

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【推薦作品<2>】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼた のぞみ
【推薦文】
アフリカからアメリカへ留学した少女の半生を綴った話、って目にした時はすごく重たい内容なのかと思ったのですが、いざ読みだしてみるとものすごくポップで読みやすくてスイスイ読みすすめられました。アメリカでの人種問題に触れつつも、オーソドックスな恋愛小説でもあって、とても面白かったです。

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【推薦者の名前】只今小説熟読中
【推薦作品】『二重人格探偵エリザ : 嗤う双面神』
【作者】ヴィオラ・カー
【訳者】川野靖子
【推薦文】
まず、タイトルにもある「二重人格」が特徴的でした。それも憎み合うと言うよりは互いの長所で協力し合って事件を解決する、というのが過去読んできた多重人格が登場する小説の中でも無い設定で惹き込まれました。
そしてこの設定に負けない登場人物たちや事件にもハラハラしてページを捲る手を止めるのが大変でした。
途中で出てくる挿絵もインパクトがあって良かったです。

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【推薦者の名前】arancia
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井 光
【推薦文】
日頃は話題作などは積ん読して、すぐに読まないひねくれた私だが、今回は翻訳が出ると同時に読んでいた。短い章がいくつもある中で、二人の登場人物の人生が作者の繊細なことばと共に、時を行きつ戻りつしながら歩んで行く。
このような作品を、藤井光さんの美しい翻訳で、読む者をヴェルナーのいた孤児院に、第二次世界大戦時のサン・マロへと連れて行ってもらった。ひとつの文節、ひとつの章をマリー=ロールが「海底二万里」を読むかのように、指はページを滑らかに繰り、大事に大事に読み進んでいった。

翻訳小説を読む醍醐味は、原作者の作品を好むと同時に、翻訳者の創り出すことばにも惹かれ、二重の楽しみがあることだと、この作品を読んで強く思った。

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【推薦者の名前】もっちゃん
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
書評家・ライターの倉本さおりさんが、2016年のブルータスで推薦されていて、読みました。
主人公2人を通して物語が進んでいき、
とても面白かったです。

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【推薦者の名前】こいぬ 書房
【推薦作品】『キッド――僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか』
【作者】ダン・サヴェージ
【訳者】大沢章子
【推薦文】
ゲイのカップルが養子縁組によって子供を迎えるまでを綴ったノンフィクション。下ネタや、自虐ギャグ、ユーモアたっぷりで読みやすい訳のおかげで笑ったり泣いたり、楽しい読書でした。人が人と生きていくことについて、その愛おしさ、すばらしさを伝えてくれます。たくさんの人に読んでほしい!

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【推薦者の名前】Ailove
【推薦作品】『レモンケーキの独特なさびしさ』
【作者】エイミー・ベンダー
【訳者】菅啓次郎
【推薦文】
某サイトでどこかの誰かがこの本のレビューを書いていた。
「日本語がおかしくて内容が分かりづらい。訳者は小学校からやり直した方がいい。」
い~やいや、やり直した方がいいのはあなたの方じゃないの?なんて思った。
細かい描写だけが読書の魅力だと思っているなんて。
今のは誰の様子なの?これは誰が言ってる言葉なの?この本を読んでいるとたびたびそんな行がある。文字で書いておこうと思ったのならばいくらでもできたはず。でも“それ”がない。だけど分かる。読んでいると“それ”を感じる。文字で書かれなかった何かを。訳者は見事に“それ”さえも翻訳していると感じる。カバー折り返しの作者と訳者のツーショット写真がすごく好きだ。
読み手はコンピュータではない。五感、または六感を持つ人間だ。この本は読むだけではない。感じる本だ。帯にも「感じることはどういうことかについてたくさん考えていた」と作者が語っている。まさに“それ”を書き込んで(描き込んで)ある本だ。文字とは本とは“ただ読むもの”ではない。

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【推薦者の名前】牛込逍遙
【推薦作品】『アウシュヴィッツの図書係』
【作者】アントニオ・G・イトゥルベ
【訳者】小原京子
【推薦文】
主人公のディタは、チェコ出身のユダヤ人少女。収容所の子供たちのための学校で、密かに本を隠し持ち、危険を犯しても、必要な人に届けるという図書係をしている。強制収容所の過酷な生活の中で、少女が洞察する人間の本質、理不尽な戦争。極限においてもまっすぐに、使命感をもって図書係を全うする姿は凛々しい。作者はスペインのジャーナリスト、アントニオ・G・イトゥルベ。実話をもとに書かれた小説だ。様々な地方から収容されたユダヤ人たちの出自、言語は多様、ごくわずかな蔵書の言語もヨーロッパのいろいろな言語だが、それぞれが聞こえてきるようだ。エピソードとして記されるディタの波瀾の人生も、今の世界につながっている。少女の視点を通して描かれるこの物語は、子供にも大人にも読まれる価値があると思います。

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【推薦者】家狸
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
読み終わった後もずっと、登場人物たちが心の中で生き続けています…。ネタバレになりそうで、多くは語れないのが残念ですが、キラキラと煌めく宝石のような…そんな小説でした。そしてそれは、翻訳文である事を感じさせない、藤井氏の訳業によるところが大きいと思います。

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【推薦者】H masa
【推薦作品<1>】『天界の眼 切れ者キューゲルの大冒険』
【作者】ジャック・ヴァンス
【訳者】中村融
【推薦文】
ようやく全編が訳された〈切れ者キューゲル〉第一巻。機知と才覚というより、その場しのぎと舌先三寸で切り抜けていく主人公の起こす騒動と、〈滅びゆく地球〉の不可思議な風景が見もの。行く先々で騒動を引き起こす無責任っぷりが(周囲の人々には気の毒ながらも)楽しい。訳者あとがきにも、ヴァンス訳者の先人としての浅倉久志リスペクトが溢れている。続篇の刊行もぜひ希望します。

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【推薦作品<2>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
『動きの悪魔』に続く怪奇譚集第二段。二十世紀初頭という時代のせいか、恐怖小説ながら(疑似)科学的思考を加えたりするところが面白い。理屈っぽいホラー小説といったところだが、怪しげな話を聞いているうちに相手のペースに巻き込まれてしまうように、訳のわからない理屈に(ちょっとだけ)巻き込まれてしまうな気分になる。帯にある、〈脳髄を掻きくすぐる〉感覚を味わいたい方にぜひ。

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【推薦者】小寺 啓史
【推薦作品<1>】『森の人々』
【作者】ハニヤ・ヤナギハラ
【訳者】山田美明
【推薦文】
最初から結末の分かっているミステリーのような小説だ。「犯人」の生い立ちから「犯行」に至るまで。私たちがふだん従っている日常的な規範や感覚、いわゆる「常識」を根底から揺さぶり、覆す。得体の知れない「力」に頭からすっぽり包み込まれる。
評価の分かれ目は、この作品の大部を占める、ノーベル賞受賞者ノートン=ペリーナ博士の「自伝」の部分の文体だ。幼児虐待の罪で有罪判決を受けた博士が獄中で綴った手記を、博士を(異常なほど)敬愛するロナルド・クボデラ博士が編集した、という体裁だ。人種や職業的偏見に満ちたクボデラ氏によって意図的にねじ曲げられたり、改ざん、省略された可能性を残す本文は、明確で、「文学的」表現を用いず、学者の論文を思わせるような直截的記述に終始している。それは衝撃的な内容のせいもあってか、生々しい不気味さを伝えてくる。
訳文は、その効果を伝えるのに成功していると感じたが、どうだろうか。選考委員の方々の評価に委ねたい。

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【推薦作品<2>】『ある一族の物語の終わり』
【作者】ナーダシュ・ペーテル
【訳者】早稲田みか・簗瀬さやか
【推薦文】
一つの凝縮された世界。
「おじいちゃん」の語る一族の物語と、「ぼく」の意識の中の時間と空間が溶けあった世界。
押し込められた、というより自ら押し込むことで形をつくるしかなかった著者の想い。
最初はとっつきづらいが、一文一文に集中して読んでゆくと、かたち、手ざわり、色、におい・・・・・・光、が溶け合って「ぼく」に押しよせてくるのが実感される。
息苦しさの中から広がってゆく、一つの混乱の波がすべてを浸し、引いた後に残るのは「空白」だ。
改行のまったくないこの小説で、それは行間であり、この「物語の終わり」を示す記号でもある。

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【推薦者】若林 踏
【推薦作品】『クリスマスの朝に』
【作者】マージェリー・アリンガム
【訳者】猪俣美江子
【推薦文】
卑劣な犯罪から上流階級のちょっとしたトラブルまで、あらゆる難題を解決する冒険好きの英国紳士探偵アルバート・キャンピオン。その魅力を見事な翻訳で余すところなく引き出したのが『キャンピオン氏の事件簿Ⅲ クリスマスの朝に』だ。本書収録の中編「今は亡き豚野郎の事件」は、シリーズ中、唯一キャンピオン自身が語り手となる本格謎解きミステリであり、優雅で気の利いたユーモアに満ち溢れた語り口を存分に楽しめる。上品さと軽妙さを併せ持つ猪俣美江子訳によって、マージェリー・アリンガム作品のファンが増えますように。

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【推薦者】森 裕子
【推薦作品<1>】『四人の交差点』
【作者】トンミ・キンヌネン
【訳者】古市真由美
【推薦文】
舞台はフィンランド、百年三世代にわたるある家系の四人の人々の人生の物語です。秘密を抱えたまま生きる四人の視点人物それぞれの個性が際立つ淡々として潔い筆致とフィンランド百年の風物を日本語に移し、私たち読者に届けて下さったことに感謝。過ごして来た年代が重なる部分では、日本でもそうだったとあの頃のことを思い出したりしながら物語に没入することが出来ました。

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【推薦作品<2>】『ラドチ戦史三部作(「亡霊星域」「星群艦隊」)』
【作者】アン・レッキー
【訳者】赤尾秀子
【推薦文】
感情が抑制された一人称の語りから滲み出る愛や執着もさることながら、この小説の白眉は登場人物の性別に関係なく「彼女」に統一された三人称にあります。書いてあればその区別に捉われずにはいられない脆弱な想像力が〈ただ人称名詞が統一されているだけ〉で自由に解き放たれることへの驚きは凄まじいものでした。声高に叫ぶことよりも、軽やかに全てを超越するかのような試みだと思います。素敵です。その作品を同じように〈さり気なく〉日本語に移すことの難しさを思うとき、日本翻訳大賞に推薦しないではいられない気持ちになりました。

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【推薦者】本田 健治
【推薦作品】『マナス』
【作者】アルフレート・デーブリーン
【訳者】岸本雅之
【推薦文】
ここ一年で三作の翻訳が刊行されるなどして再注目される作家デーブリーンの〈現代の〉叙事詩。
この叙事詩は古来の叙事詩(あるいは神話)が少なからずそうであったような閉鎖的な民族主義のそれではなく、マナスの彷徨の果てにわたしたちが見るのは、あらゆる〈わたし〉が開かれ(それも自己を深化させながら)共生へと向かう、英雄の〈拡がる生〉の姿だ。
王子マナスはアショーカ王の伝説さながら自らの引き起こした流血の惨禍に倦み疲れ、亡者が原へ彷徨い出でる。そこでは愛が火に包まれ、生は飢え果てている。しかしマナスはそれでもなお愛によって生へと蘇り、強大な神を乗り越えるために却って自我のなかに沈潜し、その深層において見出される自然の万象と結びつき、遂には三者の共生の場を現出させる。
この〈現代の〉叙事詩はその壮大な世界観と語りの充溢を通して、わたしたちが今後歩まねばならない道ー偏狭なナショナリズムでも強権的なグローバリズムでもない、第三の道ーを模索するにあたって、(古来のインド神話をモチーフにした小説という体裁とは裏腹に)重要な示唆を与えてくれる驚異的な一冊だ。

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【推薦者】くみくみ
【推薦作品<1>】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
将来の伴侶を写真だけで決めるということは、写真だけで人生を決めるということだ。そうして「写真花嫁」たちは海を渡った。個人のエピソードであるにも関わらず、「わたしたち」と複数形の一人称が使われるのは、このエピソードの本質が同じように海を渡った花嫁たちに共通しているからだろうか。上品で控えめで線の細い印象の翻訳は、花嫁たちの芯の強さを際立たせる良作と思う。

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【推薦作品<2>】『ハリネズミの願い』
【作者】トーン・テレヘン
【訳者】長山 さき
【推薦文】
ハリネズミはひとりぼっち。森の仲間たちに鋭い針のせいで嫌われていると思っている。お茶に招待したいが、いろいろと先に考えてしまって、手紙を出すことが出来ない。そしてハリネズミの出した答えは。ハリネズミの葛藤がとてもよく伝わってくるテンポのよい翻訳。対比的に語られるカメとカタツムリの会話と行動も可愛らしい。大人もこどもも惹きつけられる良作。

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【推薦者】もうだくん
【推薦作品】『黒い本』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】鈴木麻矢
【推薦文】
「不実な醜女」と批判されるなど、その翻訳の酷さで有名だったパムクのまともな日本語訳が出版されたのは2009年『白い城』からである。そこに挟んであった冊子に 『黒い本』鈴木麻矢訳が近刊として掲載されていた。それから待つこと7年、やっと「近刊」が「既刊」となった。これほどの年月がかかるとは、色々苦労があったか、何か障害や問題があったのだろう。ただ、 これがまたとてつもない傑作だった。他の作品も凄かっただけに、最高傑作!との宣伝文句には、この上がまだあるのかと半信半疑だったが、読んで納得した。これぞ最高だ。イスタンブールの歴史の闇に迷い込む酩酊感。痛切なラスト。時間をかけたせいなのか、訳者の持ち味なのか、他のパムク作品とは全く違う重厚な翻訳も、この作品にはよくあっていた。パムクの長々しい息遣いが伝わる。これが女性の訳とは驚き。文学に選ばれた人だけのための、極上の読書体験がたっぷりと味わえる。

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【推薦者】ないとう ふみこ
【推薦作品<1>】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
「わたしたち」という不思議な一人称で、静かなざわめきのように語られるひとりひとりの歴史。写真花嫁という存在を知らなかったので、あの時代に写真一枚を頼りに海を渡った人たちの勇気というか無謀さというか追いつめられた境遇というか、そんなものに驚嘆し、つらい航海を終えて出会った落胆や絶望に胸が痛くなり、それでもひたすら日々を生きていく人たちの強さに胸をつかまれ、いつの間にか「わたしたち」のなかに巻き込まれるように、歴史を知識としてではなく肌身で感じ取ることができた。

日系人排斥のことも知識としては知っていたけれど、ああして築き上げてきたほのかな希望が根こそぎ引っこ抜かれて持っていかれてしまったのだと、初めてちゃんと理解したように思う。それが単なる遠くの歴史ではなくなってしまったこの世界よ。

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【推薦作品<2>】『ペーパーボーイ』
【作者】ヴィンス・ヴォーター
【訳者】原田勝
【推薦文】
ひと夏の新聞配達をつうじて11歳の少年が成長していくという王道の児童書ではあるけれど、そのひと言ではまとめられない力がある。ぐわーっと引き込まれて読んだ。

主人公(作者の自伝的な要素も多いようですが)は吃音に悩んでいて、話し始める前に「sss」と“やさしい息”を出してから発話するとどもりにくいとか、単語の最初の音によって言いやすいものと言いにくいものがあるから、時には文を作り替えなければならず、言いたいことの半分も言えないといったもどかしさをいつも感じている。

吃音をモチーフにした物語はいくつか読んだことがあったけど、こんなにくわしいものは初めてで、追体験するかのようだった。

主人公が句読点がきらいだから、この本は読点を一切使わずに訳されている(すごい芸当!)のだが、そのことはまったく意識せずに読み終えました。せっかくの芸当を味わうこともなく……いや、それこそが芸当なのか? すごいと思う。


【推薦者の名前】けこ
【推薦作品】『タイムボックス』
【作者】アンドリ・S.マグナソン
【訳者】野沢佳織
【推薦文】
純粋にとてもこのお話が心にスッと入ってきたので。海外文学で、ファンタジー系の作品を読んだのは実は随分と久しぶりでした。しかし、読み進めれば進めるほど、物語と自分の中の重なった部分が浮き彫りになっていき、読み終えるのが勿体無いほどでした。子供も読めるような分かりやすい文体や表現方法も、訳者さんの優しさが伝わってくるような暖かい気持ちになれるものでした。

 


【推薦者】本屋でんすけ にゃわら版
【推薦作品<1>】『兵士は戦場で何を見たのか』
【作者】デイヴィッド・フィンケル
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
戦争によって人を傷つけ自分も傷ついた兵士たちの話。
体の一部が吹き飛んだような重傷の兵士が運ばれる病院での話は心が抉られるようだ。

みんな若者だ。
結婚したばかりの人もいる。
失明や、四肢を失くして戻ってきても“無事に”帰ってきたと言えるのか?
彼らがこれから今までのような日常に戻れるとも思えない。
兵士といえど、みんな“普通”の人なのだ。

内容は出来れば知りたくないような目を背けたくなることばかり。
でも今、こんな時代だからこそ、多くの人に読んでもらいたい一冊だ。

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【推薦作品<2>】『トランペット』
【作者】ジャッキー・ケイ
【訳者】中村和恵
【推薦文】
“おれのお父さんは あなたの娘だったんです”

という帯の文句を見た時に、『あー、意味わからないね、純文学かね?好きよ、そういうの。』と私がバカみたいにそう思ったのは、おそらく“そう”だったことが無いからでしょう。

あえてあらすじなどは書かないことにします。
帯の意味は読めばあっという間にわかりますので、ぜひ。
読み終わった時に、今見えている世界が少しだけ違って見えると思います。

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【推薦者の名前】m.s+
【推薦作品<1>】『ザ・カルテル』
【作者】ドン・ウィンズロウ
【訳者】峯村利哉
【推薦文】
メキシコ麻薬戦争を背景に史実とフィクションを織り交ぜながら物語が語られている。ノンフィクションでメキシコ麻薬戦争を描いた本やドキュメンタリー映画も見ましたが本作はそういう現実を取り入れて何が起きているのか知らせる役割も果たしていると思う。トランプ現象の遠因の一つを知ることができる小説です。

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【推薦作品<2>】『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』
【作者】ピーター・トライアス
【訳者】中原尚哉
【推薦文】
著者の微妙にズラした日本理解を上手く翻訳されていて読みやすい。作品は現実から見て奇妙な方向へねじれた世界ですが、その中で起きる事件、主人公のバックボーンなどが面白く読めました。邦訳出版では文庫版とペーパーバック版が同時発売されたのは良かった。後者は愛蔵版、図書館向けにニーズもあると思うので増えればいいのですが。

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【推薦者の名前】みすず せい
【推薦作品】『GONE』
【作者】マイケル・グラント
【訳者】片桐恵理子
【推薦文】
ある日突然大人が消えた世界で生きる子供たちの生活や思考のリアルな描写が新鮮。特別な力はあってもパスタのゆで方がわからない、生活力ゼロな子供たちの視点で進む展開は大人こそハラハラしながら読んでしまう。翻訳がアメリカ文化を日本の文化に意訳しすぎることなく表現している点も見事である。

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【推薦者の名前】八本
【推薦作品】『ハリネズミの願い』
【作者】トーン・テレヘン
【訳者】長山 さき
【推薦文】
表紙や挿絵のかわいらしさで手に取った。
後ろ向きなハリネズミが動物を家に招きたいと思うのだが、誰かを招くことによって発生する厄介ごとを延々と考え続けてしまい、けっきょく行動に移せない。一見すると児童文学のような柔らかな書き口ではあるのだが、その実クールで人を寄せ付けないところがある。
往々にして面白い本はひと息に読んでしまいがちなのだが、この本では一日一編ずつゆっくり読み進めることができた。

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【推薦者の名前】イエカ ザマク
【推薦作品】『アウシュヴィッツの図書係』
【作者】アントニオ・G・イトゥルベ
【訳者】小原京子
【推薦文】
アルベルト・マングェル氏の『図書館―愛書家の楽園―』からこの物語が生まれ、あますところなく翻訳された1冊が読めることに心から感謝しています。
その感謝が、この物語であったからこそのものでもあると、強く思っています。

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【推薦者】佐野 陽子
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
宝石のように自ら鈍く光る文章。形容詞は美しい以外にない。大好きです。
また内容も主人公2人の運命とダイヤモンドの行方が気になり、ページ数はありますが、どんどん読めました。最後は悲しみの中でも、あたたかいものを感じました。

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【推薦者】 Mark
【推薦作品<1>】『死んだライオン』
【作者】ミック・ヘロン
【訳者】田村義進
【推薦文】
ジャクソン・ラム率いるズッコケスパイ集団、<泥沼の家>の個性豊かなスパイたちがときに活躍し、ときに空回りする、次世代スパイシリーズ第二作。
いったい誰が敵で、誰が味方なのか、それぞれの思惑が絡みあう緊密に構成されたストーリーと、イギリスの小説らしい、皮肉・ペーソス・ユーモアにあふれた文章に読みごたえを感じました。

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【推薦作品<2>】『魔法にかけられたエラ』
【作者】ゲイル・カーソン・レヴィン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
”従順”でいるように魔法をかけられた少女エラ。その魔法から解き放たれようとするエラの戦いは、『アナ雪』ファンはもちろん、『逃げ恥』の”呪い”が心に突き刺さった層にも訴えかけるものがあるはず。シンデレラ・ストーリーをベースとしつつ、この時代に即した、まったく新しい印象を与えるこの物語。
現実社会には、「王子様」も「恋ダンス」もないですが、戦わなければいけないことは共通していると思います。


【推薦者】ぱせり
【推薦作品<1>】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル ケレット
【訳者】秋元 孝文
【推薦文】
おおらかでシュールな短編が好きだなあ、と思っていたケレットの根っこを覗いたような、いやいや、エッセイは物語よりずっと読み応えがあった。
あのイスラエルは、こういう宝物も抱えているのですね。

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【推薦作品<2>】『わかっていただけますかねえ』
【作者】ジム・シェパード
【訳者】小竹由美子
【推薦文】
タイトルの『わかっていただけますかねえ』への返答は、わたしなら、こうだ。
わかりませんとも! そもそもわかってもらうつもりなんかないでしょ。
好きかどうか、といわれたら、いまだになんともいえないのだけれど、読了後、時間がたつにつれて、なんだか忘れられない本になりつつある。なんでだろう。
時間とともに上澄みのように澄んでくる感じなのだ。
この本から豊かな海を感じています。

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【推薦者】みどりな
【推薦作品】『堆塵館』
【作者】エドワード・ケアリー
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
薄暗さの中の秘密めいた匂い、混沌として何が出てくるかわからないときめき。
世界観が好みのど真ん中すぎて、大切にゆっくりと読んで行くつもりが、どんどんと物語が加速して、読むスピードが上がって行くのを止められない。
暴力的なまでに面白い! ページをめくる手が、比喩でなく震える物語に出会えたことに最高に感謝!! 訳者さんのツイッターをたまたま目にする機会がなければきっと出会えなかった。訳者さんのあつい気持ちに最高に感謝!!

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【推薦者】東 直子
【推薦作品】『アンニョン・エレナ』
【作者】金仁淑
【訳者】和田景子
【推薦文】
みずみずしく、かつ、生々しく韓国の現実が迫ってくる。その歴史の中で捨て去られていきそうな人々の営みの細部が、詩的な文体からうかびあがってきて、心がとけあうような読書体験でした。隣国ならではの、日本人が培ってきたものとの共通性と差異が人間を通じて味わえる点も読みどころかと思います。

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【推薦者】永谷蓮巳
【推薦作品】『アシュリーの戦争ー米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる”女性部隊”の記録』
【作者】ゲイル・スマク・レモン
【訳者】新田享子
【推薦文】
戦争に関わるひとりひとりの人物像が浮かんで来る。その中でも特に「最前線に配属された女性たち」というのはかなり興味深いサブジェクトで、もっと書評などで取り上げられてもよかったのではと不思議だった。自分で実店舗の本屋に足を運ぶことが大切だと痛感させられた一冊。これを読む前と後とでは世界の見え方が若干ちがう。
元本がそうだからなのかもしれないが、翻訳の筆致がテンションが一定で比較的冷静だったのが、最後まで引き込まれるように読めた一因か。
この本の著者も訳者も、こんな世にありなお、ヒトとヒトの織りなす社会に希望を捨ててはいないのだろうなという姿勢というか「たたずまい」が静かに胸を打つ。
一人でも多くの方に手にとっていただき、一人でも多くの方の口の端に上って欲しい一冊です。

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【推薦者の名前】rene
【推薦作品】『貧者の息子 カビリーの教師メンラド』
【作者】ムルド・フェラウン
【訳者】青柳悦子
【推薦文】
金銭的な貧しさは、言葉の貧しさではない。
田舎の素朴さは、人間の素朴さではない。
だが、メンラドの豊かさは、文学の豊かさでもある

 


【推薦者】カメオマン 角谷
【推薦作品】『ラブ・ゲーム テニスの歴史』
【作者】エリザベス・ウィルソン
【訳者】野中邦子
【推薦文】
海外には優れたスポーツノンフィクションが多くみられるにもかかわらず、この分野からの推薦作品は少ないのでこの作品を推します。
チルデンからフェデラーまで、圧倒的な情報量でテニスの歴史を語り尽くす名著です。テニスの関係する芸術作品、当時の社会の世相、ジェンダーの問題にまで触れる著者の博識ぶり、見識にも舌を巻きました。

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【推薦者】ひまわり
【推薦作品】『ペーパーボーイ』
【作者】ヴィンス・ヴォーター
【訳者】原田勝
【推薦文】
吃音症を抱える少年が、忘れられないひと夏の事件をタイプライターで打つという形で物語が進みます。主人公の「ぼく」はひょんなことから新聞配達の仕事を引き受けることになり、その中でたくさんの人と出会います。限られた世界の中だけで生きてきた「ぼく」が、外の世界に足を踏み出し、傷つきながらも少しずつ大人に成長していきます。
子ども扱いされるのは嫌だけど、大人のようにはうまく振る舞えないもどかしさや、世の中の汚れた部分を知ってしまったときの少年の気持ちがとてもよく伝わってきて、読み応えのある一冊です。
言葉を話すとただでさえつっかえてしまう「ぼく」は、文章を書くときにもコンマを使いません。そのため、読点を使わずに訳されているのですが、全く読みにくさを感じさせない翻訳です。

 


【推薦者】林 由紀子
【推薦作品】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
ポーの「アッシャー家の崩壊」とかヴィリエ=ド・リラダンの「ヴェラ」とか思い出した。無機物が意志を持ち、彼岸を目指す生者の欲求と立ち去り難い死者の思念が縺れ合って黄泉の扉を開く。

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【推薦者の名前】磯上 竜也
【推薦作品<1>】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
この物語の中には、常に人間への緻密な眼差しがある。そこには特別な英雄はいない。
それぞれの弱さを抱え、時に屈してしまいながらもただ懸命に日々を生きている人間の姿があるだけだ。
誰ひとりとして誇張されることはなく、ただ淡々と描き出されていく。
だからこそ、画一された人間性からこぼれ落ちる彼らのそれぞれの生は限りなく尊く思える。
そしてその眼差しは、人間に留まらず、他の生物やものへと広がる。
随所に並列されて出てくる言葉たち、サン・マロの風景も、ウベール・ハザンの小洞窟も、確かな幸せの時間も、その場に確かにあるものを見逃さない。
すべての場面を支えているのはそういった細部で、その細部を積み重ねた断章を緻密に配置することにより、
光を乱反射させて煌く宝石のようなこの小説を、見事に日本語に写し取った藤井さんの訳業もただただ素晴らしいの一言。

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【推薦作品<2>】『二人のウィリング』
【作者】ヘレン・マクロイ
【訳者】渕上痩平
【推薦文】
普段あまりミステリを読まないですが、たまたま表紙裏の紹介を読んで気になり手にとった一冊。
ある夜、自宅近くのたばこ屋で自分の名を騙る男を、驚きつつも追いかけていった先で殺人事件が起きて…。という魅力的な導入部から引き込まれて
マクロイの語りの巧さに翻弄されながら、事件の謎をすべて解き明かした時明らかになる真実は読後も心に残響のような痺れをもたらしました。
この作品に出会えたおかげで、ヘレン・マクロイという作家をその後読みあさることになるほど楽しかった読書の時間を下さった渕上さんに一票を投じます。

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【推薦者の名前】グリーンフロウ
【推薦作品】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
ポーランドの作家、邦訳としては二冊めの短篇集。
先の邦訳が鉄道テーマということもあり、手に取る前は、マニアックな印象を持っていたが、実際に読んでみると、土地・家などの場所、匂い、人間の思念に基づいた恐怖のためか、奇妙な設定であっても普遍的に感じる。
時の神と対話し、死者を幻視し、もう一つの人格を見つめる。根源的な恐怖を描いていながら、思弁的とも取れる小説集である。
「ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説ジャンルの古典的作家」(訳者あとがきより)に出会えたことに感謝したい。

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【推薦者】Darcy
【推薦作品】『妄想と強迫』
【作者】エドゥアール・デュジャルダン
【訳者】萩原茂久
【推薦文】
『もう森へなんか行かない』などで知られるデュジャルダンの初期短編集。ジョイスらに影響を与えた「意識の流れ」を確立する以前の作品で、狂者の内面を見事にえぐりだす。訳文はデュジャルダンの、難解で、脳内から流れ出すような文章を再現しており、未邦訳作品を世に送り出した功績も評価されるべきである。

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【推薦者】ワタシ
【推薦作品<1>】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
名も知らぬ路傍の花、よく見れば一輪一輪が違う命を持つ花たちの物語が紡がれていて、一人ひとりの声が絡み合ったり離れたりしながら奏でられるコロスのよう。会ったこともない”彼女たち”のことを愛おしく感じた。

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【推薦作品<2>】『イエスの幼子時代』
【作者】J.M.クッツェー
【訳者】鴻巣友季子
【推薦文】
人の子イエス、ならぬ、人の子ダビードのまっすぐな頑なさに、なぜか昔に読んだシュティフター『水晶』に出てくる少女ザンナを思い出した。(山で遭難した兄妹の話、ザンナは兄に全幅の信頼を寄せ、「Ja, Konrad(そうよ、コンラート)」とついていく。)自分がなぜザンナを思い出したのかを、ずっと考えている。
現実の世界における「聖家族」のありようについて心に呼び起こされるものがあったのだろうか。
とにかく続編を読みたい。

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【推薦者】冬猫
【推薦作品<1>】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼた のぞみ
【推薦文】
恋愛小説の体で、この世界で女性として黒人として移民として生きるのはどういうことであるかが書き込まれ、一つ一つ共感するが、同時に自分自身の理解の限界を思い知り、アディーチェの目でもう一度全てを見直す体験をする。500頁超、二段組の長編ですが、アチェベが言う「古くから伝わる語り部としての天賦の資質をそなえた新しい作家」は飽きさせない。その魅力の全てを素晴らしい日本語で十二分に伝えた訳者に感謝して推薦させて頂きます。

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【推薦作品<2>】『偉大なる時のモザイク』
【作者】カルミネ・アバーテ
【訳者】栗原俊秀
【推薦文】
イタリアに移民したアルバニア人(史実)の架空の共同体「ホラ」を舞台にした物語。人は何故旅立つのか、血の混淆とはどういうことか、時は全てを解決するのかなどがもつれ絡み合い、時の流れを記憶する「言葉のモザイク」になり、物語が生まれ語りかけてくる。その一片一片の美しさに付箋が貼りきれないような一冊で、この芳醇な世界を余すことなく伝えた翻訳に感謝します。

 


【推薦者】飯田 彩乃
【推薦作品】『HERE』
【作者】リチャード・マグワイア
【訳者】大久保譲
【推薦文】
グラフィックノベルという手法でしか表現できない作品世界がここにあります。一ページ一ページをめくるごとに飛ぶように移り変わる時間、果てしない過去から遥か遠い未来まで、ある部屋が辿る物語です。本、まんが、絵での、新たな表現の可能性を見つけたような気がしました。

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【推薦者】林さかな
【推薦作品<1>】『スマート キーラン・ウッズの事件簿』
【作者】キム・スレイター
【訳者】武富博子
【推薦文】
YA小説。主人公、キーランは川で死体をみつけ、その死体の謎をとこうとしますが謎解きがメインの話ではなく、家で母親の再婚相手に虐待を受けていることもメインでもなく、ただ、キーラン自身の性質も含め少年の日常がクールな筆致で描かれ、出来事との距離感が心地よい。

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【推薦作品<2>】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
ひさしぶりに時を忘れて没頭して読んだ長編恋愛小説。みっちり密度濃くて、複雑で、それでいて恋はやっぱりこういうものねというラストがとてもよかった。

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【推薦者の名前】今野 安里紗
【推薦作品】『貧者の息子――カビリーの教師メンラド』
【作者】ムルド・フェラウン
【訳者】青柳悦子訳
【推薦文】
「アルジェリア文学」と聞いた時に、現地の作家の名前がすぐに思い浮かぶでしょうか。むしろ、アルジェリア出身のフランス人、アルベール・カミュが真っ先に思い浮かぶかもしれません。そもそも「アルジェリア人とは誰か、アルジェリア文学とは何か」という問いについて考えるためには、作品を知っていることが必要です。ベルベル人の出身であるムルド・フェラウンは「アルジェリア文学の父」とされ、本国では大変有名な作家ですが、今まで日本語訳はなく、今回の翻訳が日本における初めての紹介であることには大変な意義があります。また、原書はフェラウンの友人であった編集者の手によってしばしば手を入れられており、作者の原稿を直接手に取って日本語に訳し、現在フランス語で出版されている原著にはない部分も補遺として訳出し、掲載していることも大変に評価出来ます。作品の内容そのものも優れており、アルジェリアがぐっと近しい国に感じられました。

 


【推薦者】ラヒコ
【推薦作品】『夜、僕らは輪になって歩く』
【作者】ダニエル・アラルコン
【訳者】藤井光
【推薦文】
まだ若い世間知らずな青年の冒険と変化の物語であり、彼が演劇を介してある人物と結ぶ、擬似的な父子関係の物語でもあると思った。その関係のあり方が、作中で演じられる劇というフィルターを介在させることによって、一本調子でなく、絶妙な陰影を伴って描かれている。物語がぐいーっと思わぬ方向へ向かったときに主人公が被る、「成長」とはまた違う変化がとても痛ましく、胸に迫った。

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【推薦者】小野 木一
【推薦作品】『一年有半』
【作者】中江兆民
【訳者】鶴ヶ谷真一
【推薦文】
明治の思想家中江兆民の、余命一年半を宣告されてからのエッセイ集。病床の床から放った政治批判や人形浄瑠璃などへのまなざしが冴える。読者を惹きつける兆民一流の「芸」を、深みと温度を保ちつつ、現代語にうつしてみせた鶴ヶ谷さんの翻訳、お見事。当時の世情や人物をわかりやすく解きほぐす解説は豊富ながら端正な文章で、心地よく読ませてくれる。

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【推薦作品<2>】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
「写真花嫁」として船にのって太平洋をわたった女性たちの告白が、「わたしたち」という存在によってなされる。特定の個人でも、彼女たちでもない、「わたしたち」。写真花嫁たちが異国でつらい境遇にあるなか、もしかしたら支えられたかもしれない同じ立場のひとたちとの連帯感のようなものがひしひしと感じられた。読み進めるうち、この「わたしたち」には、いまこの本を読んでいる読者である「わたし」や「わたし」の親たちも含まれるのではないかと感じてきた。写真花嫁たちと自分は実際に血縁はあるかもしれないしないかもしれないが、こんなにも想像力をかきたてられたことに驚く。
岩本正恵さんが残念ながら完成を待たずに亡くなられ、小竹由美子さんがそれを引き継がれた完成した一冊でもある。翻訳という気の遠くなるような営為に向かい続ける翻訳者のみなさんと、作中の「わたしたち」がどこか重なる気がした。

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【推薦者の名前】ごらい あす
【推薦作品】『むずかしい年ごろ』
【作者】アンナ・スタロビネツ
【訳者】沼野恭子、北川和美
【推薦文】
短編集を集めた一冊だが、表題作「むずかしい年ごろ」が、最も強烈な印象だ。
この作品は、子供の妄想とも告白ともつかない日々の移ろいを、客観的視点ではじめて、途中から子供自身の内的な日記として復習するように展開してゆく。
日記の有様は、幼児時代から成長する少年期まで、文体の変遷と進化をとげながら、しかも、子供を支配する女王蟻の独白という具合に変化してゆくので、たどたどしい文体は、肉体と思考をのっとられてゆく子供の状況まで描き出している。
たいへんな翻訳力を必要とするはずだが、この翻訳は、この複雑な状況を、子供の日記という形と、冒頭と結末の母親の視点を、原作の世界観を守りつつ、すばらしい日本語に翻訳している。

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【推薦者】青山 洋
【推薦作品】『ホッケースティック幻想』
【作者】A.W.モントフォード
【訳者】青山 洋
【推薦文】
未だに、地球温暖化対策が必要だと叫ばれていますが、本書は、ICUMSAもその根拠にしていた重要論文に不正が有ることを、定年退職した一老人が解明していく過程が克明に整然と記述されています。
これを元に、現実に即して温暖化対策から寒冷化対策に切り替えるべきだと思われます。また、気候変動だけの問題ではなく、現代では、科学全般が政治経済に押されて立証が蔑にされている、と言う点が指摘されています。
更に、国際人にはどういう能力が必要なのか、科学者は組織の中でどういう態度を取るべきなのか、大きな組織は正しい情報をどのように入手すべきなのか、また、個人の意見をどう評価すべきなのか、老人は社会にどう貢献すべきなのか、と言う点に関しても示唆を与えてくれる図書だと思われます。

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【推薦者の名前】加藤 靖
【推薦作品】『翻訳のダイナミズム』
【作者】スコット・L・モンゴメリ
【訳者】大久保友博
【推薦文】
たいへんな労作である。思想史、文化史、言語学、テキスト収集史など……じつに多用な切り口から翻訳という営みに挑む。登場する言語もギリシア語、ラテン語、フランス語、アラビア語、シリア語など多岐にわたる。訳者の苦労は並大抵のものではない。
翻訳の歴史とは知の伝搬の歴史である。〈究極の司書の役を果たしてきたのは、学者ではなく翻訳者なのであり〜中略〜(世界の記憶としての)前置の図書館を考えるにあたって、その核となる翻訳の役割を抜きにしてしまうのは、まったく論外だ〉と著者は断じる。
これまでの日本翻訳大賞が日本翻訳“小説”大賞であることに異論を唱えるものはいないだろう——いまの選考委員でノンフィクションを主として選考するのは不誠実とすらいえる。しかし翻訳そのものを扱った本書であればこの賞に推す価値があると信じる。

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【推薦者】~ゆきうさぎ
【推薦作品<1>】『戦地の図書館』
【作者】モリー・グプティル・マニング
【訳者】松尾恭子
【推薦文】
第2次世界大戦時、ナチスの焚書に対し、アメリカでは図書館員らがたちあがり、たくさんの良書が兵隊文庫として兵士に送られた事実について、非常にくわしく調べて書かれたノンフィクションである。ナチスの禁書や、ラジオでの思想戦略や、アメリカでの兵隊文庫への検閲なども言及される。読み応えがあり、図書館で予約待ちをしながら4回に分けて、やっと2月5日ざっと読み終えた。訳者、東京創元社に感謝します。本の力、図書館の力を考えました。

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【推薦作品<2>】『70歳の日記』
【作者】メイ・サートン
【訳者】幾島幸子
【推薦文】
アメリカの詩人メイ・サートンがアメリカの北の端、海の近くで、静かにひとり暮らしを続ける日常を綴っている。自立したクールな生活と思いきや、自然や読者とのふれあい日常生活に喜んだり、とまどい疲れたり、フレッシュな感情が綴られる。年齢や肩書でなく、生活や感性は自分個人のものであると感じさせてくれた。老いていくことも先入観なしに受け入れたい。
訳文も白黒の写真や装丁もとてもきれいでした。

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【推薦者】水野 衛子
【推薦作品<1>】『わたしは潘金蓮じゃない』
【作者】劉震雲
【訳者】水野衛子
【推薦文】
中国きつてのユーモア作家の作品。去年映画化もされ、中国の官僚、男社会を完膚なきまでに風刺して見事です。

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【推薦作品<2>】『盗みは人のためならず』
【作者】劉震雲
【訳者】水野衛子
【推薦文】
ジェットコースターのような犯罪小説。ビル建設ラッシュの北京の高級官僚から出稼ぎ労働者までの、さまざまな登場人物の人間像がとてもリアル。

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【推薦者の名前】おおた
【推薦作品】『異国の出来事』
【作者】ウィリアム・トレヴァー
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
昨年末惜しくも亡くなったウィリアム・トレヴァー。日本でもファンが増えているのは栩木さんの翻訳が大きく貢献しているはず。単に悲しいヒューマンドラマではなく、自分にも潜んでいるかもしれない悪意や過ちの種みたいなものが声高でなく描かれるところが人気の秘密かもしれません。味のある短編もさることながら、長篇などもこれから翻訳されることを期待しています。

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【推薦者】高原 英理
【推薦作品<1>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
懐かしく今では貴重な、やや古い型の怪奇小説として読んでいたが、そのうち、ここに繰り返される発想は、現在の私たちの自意識の批判的なとらえ方にやや似ている気がしたので推す。繁茂するレトリックをかき分けるようにして読んでゆくと、魂もしくは精神としての自意識が決して確固としているわけでないことを改めて思い出させられる。ときに他者が入り込み、場の翳りに支配され、場所に染み付いてしまった誰かの意識が今も物質的事実を左右する。それらは、「自分」という認識をはぐらかし変更させてしまう気がする。私が私の認識するものでは実はないという、そのじんわりした居心地の悪さがとても現代的と思う。一方、明らかに現代的ではないとわかる表現も読みやすく、また簡単ながら了解しやすい形の解説がありがたかった。

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【推薦作品<2>】『奇妙な孤島の物語 私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』
【作者】ユーディット・シャランスキー
【訳者】鈴木仁子
【推薦文】
世界中の「主な孤島」(かどうかは知らない、ともかく著者の目についた孤島)を50選んで、地図や資料とともに、その島に関する記録の中からこれはと著者が反応したものを記したドキュメントらしいが、記録といっても一定の方向性はなく、島の様態であったり、住民の行動であったり、歴史の一齣であったり、あたかもそこにいたかのような一場面であったり、社会的な情勢を思わせるもの、秘録というべきもの、奇妙な話、ミステリー、等々、中でも目立つのがその物質的貧窮と住人の悲惨な顛末の報告だ。いずれも書物・資料を漁ることによっただけ書かれたもので、事実かどうかはわからないがこう書かれたという事実はあるというものである。その態度がちょうど江戸時代の、奇聞を記した随筆のようで、真偽は別に、少し離れた位置から見る世界の不思議、という感触に魅せられた。

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【推薦者】小林 圭子
【推薦作品】『グッド・フライト、グッド・ナイト』
【作者】マーク・ヴァンホーナッカー/
【訳者】岡本 由香子
【推薦文】
読後、人生初の海外旅行の記憶が蘇り、またすぐにでも飛行機に乗ってどこかに行きたくなった。著者は現役のブリティッシュ・エアウェイズのパイロット。訳者が元航空自衛隊の管制官なのは、強力な適材適所。飛ぶ、ということは、地球という自然環境の中で、いかに人工的であるかを技術的に、科学的に、またロマンチックに表現していて、翼の上にいるような高揚感のまま読み進められる。飛行機の旅に出る際には、荷物が増えても持って行きたい一冊。

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【推薦者】AMITOMO Keiko
【推薦作品】『アシュリーの戦争』
【作者】ゲイル・スマク・レモン
【訳者】新田享子
【推薦文】
いずれ日本も戦争に巻き込まれるかもしれない、という不安からこの本を手に取りました。
しかし、ボリュームを感じることなく読み進めることができたのは、翻訳のなせる業!と思い推薦いたします。

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【推薦者】豊崎 由美
【推薦作品<1>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
2015年に同じ訳者によって紹介された鉄道ホラー集『動きの悪魔』もかなりキテましたけど、それを超えて凄まじく奇妙でわけのわからない作品ばかり収録されているのがこの『狂気の巡礼』です。
郊外や田舎に行った主人公が、ある場所に導かれるように吸い寄せられ、そこで過去に起きた悲劇や惨劇と精神を共鳴させてしまう。あるいは自らが心の中で育てた恐ろしい想念を具象化してしまう。本書には、そうしたモチーフを変奏した14の恐怖譚が収められています。思弁ホラーといってもいい、非常に知的で神経症的な恐怖小説。よくぞ訳して下さいました。

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【推薦作品<2>】『たんぽぽ殺し』
【作者】アルフレート・デーブリーン
【訳者】粂田文・山本浩司
【推薦文】
同じく、よくぞ訳してくださいましたと御礼を申し上げたい短篇集が『たんぽぽ殺し』。デーブリーンといえば、読むと「プカブン」のリフレインが頭にこびりついてしまう、現代ドイツ文学の傑作『ベルリン・アレクサンダー広場』で知られる作家ですが、『たんぽぽ殺し』は、短気から杖でたんぽぽの頭を切り落としてしまった男が常軌を逸した妄想に駆られるようになる表題作をはじめ、この作家の奇人変人偏愛ぶりがよく伝わる24篇が収められています。
意想外の方向に跳びはねる物語と、整合性にはこだわらない独特な語り口が癖になる一冊。1878年生まれとは信じられないくらい、デーブリーンの小説世界は新しいのです。

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【推薦者】横山 郁代
【推薦作品】『血の熱』
【作者】イレーネ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
遺作となった「血の熱」はユダヤ人社会や家族の愛と憎しみ、冷淡さを描いていますがその奥に何となく諦念にも似た静けさも感じられます。
訳者・芝盛行さんは卓越した感情表現が素晴らしいです。
断然「血の熱」を推薦いたします。

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【推薦者】塩崎 裕司
【推薦作品】『リリアン卿 黒弥撒』
【作者】ジャック・ダデルスワル=フェルサン
【訳者】大野露井
【推薦文】
孤独な青年貴族リリアン卿が、オスカー・ワイルドを思わせる流行作家の手ほどきで快楽に目覚め、同性も異性も、貴婦人も少年も、手当たり次第に魅了してゆく退廃的な物語。作者のフェルさんはあの「ベルばら」でおなじみのフェルセン伯爵の血統に連なる奔放な快楽主義者であり、作者自身の人生や当時の実在の芸術家たちがモデルとなって、二十世紀初頭の耽美的な空気がよく描かれている。訳文も精緻で品格があり、よい意味で近年の翻訳書のなかで異彩を放っている。注や解説も丁寧。

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【推薦者】益岡 和朗
【推薦作品】『わかっていただけますかねえ』
【作者】ジム・シェパード
【訳者】小竹由美子
【推薦文】
「翻訳」という問題を考えるときに「一人称」というのは重要なテーマになると思われるのですが、本作はとりわけ、その可能性について考えさせられました。
「一人称小説を訳すべく、主語を決める」という行為は、日本語の小説として複数存在し得た作品をただひとつを残して殺すという仕事なのだなと(少し大げさかもしれないけれど)感じさせられました。
ジム・シェパードを読むのは初めてでしたが、これからも気になる作家になりそうな予感。特に未訳短篇「大アマゾンの半漁人」はすごく面白そうなので、是非読んでみたいです。

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【推薦者】杉野 みどり
【推薦作品】『少年が来る』
【作者】ハン・ガン
【訳者】井手俊作
【推薦文】
韓国で1980年に起きた光州事件は夥しい数の市民が犠牲になった。その生存者や家族などを丹念に取材し、当時何が起こり、人々はどう生き抜いたのかを描いた小説。韓国現代史の事件にとどまらず、人間の不条理を考えさせられる。作家は1970年生まれ、光州出身、小説「菜食主義者」でブッカー国際賞受賞。弾圧、死、残された人々が背負う苦悩の描写は重苦しく、読み進めていくのがつらい。当事者の声をすくい取った原作を、繭を紡ぐように繊細な筆致で誠実に訳している。

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【推薦者の名前】金井 真弓
【推薦作品】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
生と死が隣り合わせの日常での何気ないエピソードが切ないほどいとおしい。そして、悲しみと背中合わせのユーモアに心をとらえられた。なんでもない出来事の積み重ねが幸せなのではないかと思わせてくれる作品だった。

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【推薦者】nekko
【推薦作品】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
歴史の年表に書かれていない人の人生(私やたいていの人はそうだ)が近くなる。個人名称のない語り口で、個人がなくなってすべての視点が「私」になっていく感覚はふしぎな体験だった。

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【推薦者】MN
【推薦作品<1>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
「ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説ジャンルの古典的作家」(国書刊行会HPの著者紹介より)であるグラビンスキの短編集。『動きの悪魔』につづく邦訳単行本刊行2冊目。収録の物語は14篇。その装丁の素晴らしさにまずうっとりしつつ、最初の「薔薇の丘にて」でまさに何かのを錯覚するような感覚に、心地よい狂気の世界への扉が一気に開かれます。彼岸と此岸の曖昧な境を知覚する、恐怖の心地よさがたくさん詰まった作品です。グラビンスキの作品を今後もたくさん読みたい熱意を込めて、この作品をお薦めしたいです!

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【推薦作品<2>】『メダリオン』
【作者】ゾフィア・ナウコフスカ
【訳者】加藤有子
【推薦文】
1945年からポーランドにおけるナチス犯罪調査委員会に参加した作家ナウコフスカが綴ったホロコースト文学。オリジナルの刊行は1946年。「普通」の人々の証言をもとにした短編集ですが、当時の辛辣な現実を回想する証言のなかに無意識的な葛藤の心理が滲み出ているのが感じ取れます。「個人の声」を拾い上げているからこそ想像させられるリアリティのようなものが、人間として忘れてはいけない倫理を再認識させる気がします。

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【推薦者の名前】Yooseku
【推薦作品】『天国に行きたかったヒットマン』
【作者】ヨナス・ヨナソン
【訳者】中村久里子
【推薦文】
前作『国を救った数学少女』と同様、一癖も二癖もある登場人物たちが何人も現れ、荒唐無稽な物語が怒濤のスピードで展開します。翻訳作品は形容詞とダジャレの処理によって読者がノレるかノレないかが大きく変わります。とくにヨナス・ヨナソン作品は、自分の名前をもギャグに加えてしまうほど遊び心がいっぱい。その楽しさやスピード感を中村久里子さんの翻訳は余すことなく伝えています。

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【推薦者の名前】小原モリタ
【推薦作品<1>】『ザ・カルテル』
【作者】ドン・ウィンズロウ
【訳者】峯村利哉
【推薦文】
途中で何回も「くーっ、かっこいい!」と感じ入りました。特にそれぞれの場面の最後の一行は全エンタテインメントの最高峰の文ばかり。抜群におもしろい作品のおもしろさを全く損なわず、ぐいぐい読ませる翻訳が素晴らしいです。

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【推薦作品<2>】『ロデリック』
【作者】ジョン・スラデック
【訳者】柳下毅一郎
【推薦文】
会話が多い文章、特に翻訳作品では「これは誰が言ってるのかな?」と会話の最初から順番をたどり直さないと分かりにくいことがよくありますが、柳下さんの翻訳だとすっと自然に読み進めることができました。

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【推薦者】アヴォカド
【推薦作品<1>】『アーサーとジョージ』
【作者】ジュリアン・バーンズ
【訳者】真野泰、山﨑暁子
【推薦文】
素晴らしい。大変に素晴らしく、久々に本物の小説を読んだという感じがする。
訳者あとがきにもあるけれど、まず構成が美しい。アーサーとジョージの対照的な造型も、見えるものと見えないものの対比も、きれいに収まっている。最初と最後の呼応など、ため息の出るような仕掛けである。
お見事。

【推薦作品<2>】『屋根裏の仏さま』

【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
個人の努力や意志ではどうにもならない歴史のうねりや災害などというものがある。そこでの1人1人は、目の前の出来事をなんとかやり繰りしながら必死に生きるだけだ。
「わたしたち」という人称代名詞を与えられて、彼女は彼女たちになり、彼女たちは彼女になり、彼女はわたしになる。端正な訳が、「わたしたち」のささやきの輪郭をくっきりさせる。読んでよかった。

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【推薦者】しげる
【推薦作品】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
1920~30年代に活躍した「ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説ジャンルの古典的作家」の作品集を2016年の日本語で読めるというのはそれだけで嬉しい出来事だ。当時の大仰な言い回しや疑似科学的な用語などのごつごつした手触りも良い塩梅で残されていて、楽しい。「自然力が爆発する」というフレーズは今でも使いがちです。

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【推薦者】舞狂 小鬼
【推薦作品<1>】『妄想と強迫』
【作者】エドゥアール・デュジャルダン
【訳者】萩原茂久
【推薦文】
世紀末のフランスを舞台にした十三篇の心理小説集。たとえばブラックウッドのようなものやルヴェルのようなもの、あるいはホフマンやポーを思わせるものまで。神秘的だったり犯罪的だったりと、バラエティにとんだ作品がまるでショーケースのように並んでいる。読者に信仰と科学の選択を突きつけ作中の最高作と思しき「地獄」も含めて隅々まで堪能した。

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【推薦作品<2>】『南十字星共和国』
【作者】ワレリイ・ブリューソフ
【訳者】草鹿外吉
【推薦文】
ロシア・シンボリズムの詩人による散文作品集。夢と現の区別なく頽廃的で背徳的な幻惑を彷徨う乱歩の如き作品から、シュオッブを思わせるような作品、あるいは内宇宙と戦慄のJ・G・バラードを思わせるものまで、十二篇の暗く残酷な物語が愉しめた。ことごとく昏い幻想が示され、革命前夜の重苦しい空気が感じられるようだ。

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【推薦者】法水
【推薦作品<1>】『ペルーの異端審問』
【作者】フェルナンド・イワサキ
【訳者】八重樫克彦・八重樫由貴子
【推薦文】
げに聖と性は紙一重。
これが初邦訳となるフェルナンド・イワサキさんは歴史家でもあるそうで、本書も様々な裁判記録や書物からの引用があって歴史書の装い。
すべてが性に関することではないが、告解に訪れる女性たちと性行為に及ぶ聴罪司祭、男色の黒人奴隷、イエスと結婚したと主張する空飛ぶ女、預言者を装い、聖職者の精液を集めた女、母親以外のあらゆる女と姦淫を重ねる修道士などの事例が紹介される。
「巻頭言:筒井康隆」(と「序文:マリオ・バルガス・リョサ」)につられて購入したけど、もっと最近の作品も読んでみたくなった。他の作品の翻訳も出して欲しいという期待も込めて推薦いたします。

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【推薦作品<2>】『堆塵館 アイアマンガー三部作1』
【作者】エドワード・ケアリー
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
まず何といっても邦題がいい。
邦題だけでも推薦に値する(もちろん中身もいいのだけど)。

本書は三部作の第1作にあたる作品で、巨大な屑山にある堆塵館で暮らすアイアマンガー一族の少年クロッドとそこで召使として働くことになったナンシーの話が交互に描かれる。
クロッドは一族が生まれたときに与えられる誕生の品の声を聴けるという能力の持ち主。本来出会うはずのないクロッドとナンシーが出会ったことで物語は大きく動きだす。
構想力、発想力が見事で、自然と独特な物語世界に引き込まれると同時に、著者の物に対する愛情も感じられる。クリフハンガー的なラストで続きも大いに気になるところ。
著者自身によるイラストも魅力大。

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【推薦者】GO-FEET
【推薦作品<1>】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
「国内では裏切り者として、そして国外ではイスラエル人としてボイコットされ」ているテルアビブ在住の著者による、まるでフィクションのような素晴らしいエッセイ集! 2016年度ノンフィクション部門ベスト決定♪

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【推薦作品<2>】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
素晴らしい!エンタメ系でもないのに、こんなにハラハラドキドキしたのは久しぶり!個人的には2016年の海外フィクション部門ベスト決定!この作品が「『ニューヨーク・タイムズ』誌のベストセラーリストに二年以上にわたってランクインしている」(訳者あとがき)とはアメリカもまだまだ捨てたもんじゃないね。岩本正恵さんへの追悼の意を込めた藤井さんのあとがきにもうるっときました。「シェル・コレクター」と「メモリー・ウォール」も読まねば… ロバート・キャパの写真も素敵♪

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【推薦者】このはずく
【推薦作品】『煙が目にしみる』
【作者】ケイトリン・ドーティ
【訳者】池田真紀子
【推薦文】
この世ので唯一確実なことは死。貴賤老若男女を問わず、すべての人間に死は訪れる。それなのに、死は忌み嫌われ、特に現代は臭いものいフタ状態にして、なるべく見ないようにされている。だが、昨今の高齢化社会、嫌でもますます死と直面しなくてはならない時代だ。この本は、火葬場に勤めるある女性の体験記だが、凄みのある話を軽妙な語り口でテンポよくたたみかけ、とっつきやすい。もっと子どものころから死の教育をしたほうがいい、顔をそむけないできちんと向き合うべきだと、常々感じている思いがさらに強くなる。あなたの死は、あなただけのもの。まさにそのとおりだと思う。死と向き合うことは、生きることにつながるからだ。

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【推薦者】小国 貴司
【推薦作品】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
飄々としながらも、深く考えさせる文章。おそらく原文もそうなのだろうと思うけれど、シリアスでユーモラスな訳文は大賞にふさわしいと思いました。

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【推薦者】らっぱ亭
【推薦作品<1>】『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』
【作者】ピーター・トライアス
【訳者】中原尚哉
【推薦文】
21世紀版『高い城の男』と呼ばれるだけあって、ディック好き必読の傑作SF。単に高い城の男の設定をパロったんじゃなく、隅々にディックが息づいているぞ。日本発の文化を絶妙に取り込み、ありえたかもしれないおぞましくも魅力的なディストピアを描く本作は是非とも日本で映像化すべし! そしてピーター・トライアスのオタク魂を余すところなく汲み取った翻訳はお見事!の一言。効果的な関西弁キャラのインパクトが作者にも届くといいなあ。

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【推薦作品<2>】『翼のジェニー』
【作者】ケイト・ウィルヘルム
【訳者】伊東麻紀/尾之上浩司/佐藤正明/増田まもる/安田均
【推薦文】
甘いロマンチックSFはちょっと…と敬遠しているあなた。確かにその側面はあれど同時に途轍もなくクールでビターでクレバーな作品集。読み解きに知力と感性を共に求める、ある意味ジーン・ウルフ以上の手強さ。ケイト・ウィルヘルムのSFは発表後半世紀を経ても古びないタイプの作品で、今こそ再評価の時だ。そしてまた、同世代の女性作家たち、マーガレット・セントクレア、キット・リード、キャロル・エムシュウィラーなど、魅力的な作品が未訳のまま紹介されるのを待ち構えているぞ。本書がその嚆矢となることを願ってやまない。

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【推薦者】しげまつ ともみ
【推薦作品】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』を2016年に初めて読み、旧作もさかのぼって読んだ。2016 年に最も多く読んだ作家は、アディーチェなのだ。
アディーチェの作品を読むと身体全体が震えるような、懐かしいしあわせ、かなしみ、罪悪感を感じることになる。ビター・スイートという言葉がぴったりで、しかも個人的にはビターの割合が多めでつらい。正直とってもつらい。
日本人の私とナイジェリア生まれで黒人特有のヘアを複雑な手順とそれぞれに主張を込めて整えるアディーチェ作品の登場人物が、翻訳された文章を通じて、変動する時代や国境、親と故郷とジェンダーのはざまでどうしたってこうしか生きられないのに、それに罪悪感を感じながら生きていく時間を共有する。これは文学を通じて起こる奇跡で、私にとってこういう出会いは恋に等しいくらいだ。この作品を通じて、名前がなかった感情やよく分かっていなかった怒りに名前をもらった。
あとがきも素晴らしく、訳者の方がおっしゃるとおり、アディーチェという作家がいる時代に生きていることに感謝したい。

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【推薦者】イニエスタッソ
【推薦作品<1>】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
米国が抱える人種や格差などの問題について、移住したナイジェリア人の生活を通して語られます。日本で生まれ育った私には思いもつかない視点の数々が興味深く、かつ最近よく言われる「米国のポリコレ疲れ」につながる流れへの理解が深まった気がします。とは言っても恋愛小説ですし、ストーリーの運び方もうまいです。純粋にエンタテインメントとして面白いです。

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【推薦作品<2>】『僕の違和感』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】宮下 遼
【推薦文】
序盤で主人公の「違和感」の原因に度肝を抜かれます。その「違和感」とともに生きる主人公と都市化するイスタンブルの書き方がうまい。パムク作品の中でも特に読みやすい部類に入ると思いますし、本当に面白いです。読み終わってみると「僕の違和感」という日本語タイトルがすごくしっくりきます。

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【推薦者】国重 裕
【推薦作品】『ある子供』
【作者】トーマス・ベルンハルト
【訳者】今井敦
【推薦文】
『ある子供』はオーストリアを代表する作家ベルンハルトの自伝の一つ。自らと家族を赤裸裸に描くことで、この国の保守的なメンタリティを炙りだす。他の作品の既訳はあるが、彼の文学のエッセンスに触れるには格好の作品が今回翻訳されたことの意義は大きい。事なかれ主義を決め込みたい社会に不協和音を奏でる彼の作品は、今こそ日本で読まれるべき理由がある。
ベルンハルトの作品には、呪いのように途中一切改行がない。今井敦の訳文は、ドイツ語で読んだときの「うねり」を日本語話者にも体感させる。「自虐ネタ」と言えないまでも、愛憎紙一重で絡まりあうベルンハルト独特の世界を蘇らせる文体に、私は宇野浩二を思い出した。丹念に註がついているので、作品の背景にくわしくない読者にも親切だ。
ベルンハルトは、セリーヌからゼーバルトへ架け橋となる作家。もっと愛読者が増えてほしい。
公平を期すために記すと、今井敦は職場の同僚。しかしこの翻訳のことは刊行に際し知り一読、私情を抜きに今井さんの訳業に敬意を抱き、今回推薦することにした。

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【推薦者】 Licht
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
海外文学と意識することなく物語の世界に入り込み、読み終わってからもしばらく抜け出せなかった。もしかしたら原作よりもっと良くなってるんじゃ…と思うほど美しく繊細。

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【推薦者】門脇 智子
【推薦作品<1>】『陽気なお葬式』
【作者】リュドミラ・ウリツカヤ
【訳者】奈倉有里
【推薦文】
ニューヨークに住む亡命ロシア人画家の死を看取る人々を描いた中編小説です。作者の過去の代表作に比べると小粒な印象かもしれませんが、はっとするようなイメージが目に浮かぶ場面や思い出し笑いしてしまう場面の印象が読後もあとをひく不思議な魅力のある作品です。画家の妻やシングルマザーの元恋人や愛人が出てくるだけに、ともするとメロドラマ的になりすぎてしまいそうな設定ですが、実際にはどろどろした雰囲気でなく風通しが良く感じられます。主人公アーリクが何を考えているのかはあまり詳しくわからないのですが、彼の台詞の語り口から、確かに人に好かれる人物、浮気者でも憎めない男なのだろうなという感じが伝わってきます。生き生きとした訳文で作者のしなやかなユーモアがよく伝わってくると感じました。登場人物がロシア国内にいる人ではないため、ロシアを一歩距離を置いた立場から見ているところも興味深いです。

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【推薦作品<2>】『鳥の巣』
【作者】シャーリイ・ジャクスン
【訳者】北川依子
【推薦文】
一九五四年に書かれた多重人格もののはしりの一つと言われる作品ですが、「気の毒な病んだ人」を安全な距離を置いて眺めて怖さを楽しむようなエンターテイメント作品ではなく、こんなことが自分や身近な人の身に起きてもおかしくない、と思わせられる切実さがあります。ひねりの効いた結末は複数の解釈の余地がありそうで、読んだ人同士で語り合いたくなる作品です。怖くて悲しいのに笑えるところがたくさんあるのもすごい。スラップスティック・コメディ的な場面や登場「人格」がめまぐるしく切り替わる台詞は、落語家や一人芝居の役者の仕事を見ているようで、このような作品を訳すというのは、心の病に苦しむ人の頭の中を覗く苦しさもあると思いますが、描写や台詞で読者を笑わせる楽しみも大きい仕事だっただろうと想像します。

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【推薦者】三辺 律子
【推薦作品<1>】『あたらしい名前』
【作者】ノヴァイオレット・ブラワヨ
【訳者】谷崎 由依
【推薦文】
政治的経済的に混迷を極めるジンバブエを、一少女ダーリンの目を通して描いている。
前半は、日々を逞しく満喫する子どもたちの姿が描かれる。白人富裕層の暮らす街までいって庭の果物を失敬したり、NGOの人々のご機嫌を取って支援物資をせしめたり。しかし貧困と政情不安は確実に彼らの生活に影を落している。
後半では、ダーリンが「憧れの国」アメリカに渡ってからの日々が描かれる。故郷との距離がだんだんと広がっていくようすが、切ない。
一人の少女の子ども時代から青春時代を通して、様々なことが見えてくる一冊。

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【推薦作品<2>】『ラスト・ウィンター・マーダー』
【作者】バリー・ライガ
【訳者】満園 真木
【推薦文】
『さよなら、シリアルキラー』『殺人者たちの王』に続く完結編! シリアルキラーのタイトルの通り、血みどろの連続殺人が起こるミステリーだけれど、一方ですぐれた青春小説になっているところが魅力。
連続殺人犯の父に幼い頃から、殺人の「英才教育」を受けた少年ジャズ。いつか自分の父のようになるのではと怯えるジャズは、連続殺人犯を追うことで、自身の不安を払い、潔白を証明しようとする。

一巻目からぜひ読んでほしいので、ここでは詳しいあらすじは割愛しますが、読んだらきっとジャズに惚れると思います!

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【推薦者】そ ら
【推薦作品<1>】『ポーランドのボクサー』
【作者】エドゥアルド・ハルフォン
【訳者】松本健二
【推薦文】
複数の言語を吸収し自ら選んだ言語で創作する作者が描き出す世界にはいつもさまざまな言語が響いている。緩やかに連なる短篇群からはさまざまな出自の人々の歴史、政治、文化が広がり絡まりあい、その語りの豊饒さに目眩がするようだ。スペイン語の後ろでグアテマラ先住民の言葉が響き、ヘブライ語とイディッシュと英語がぶつかり合い、セルビア語が割り込み、ジプシーの罵倒語が投げつけられる本書こそ、翻訳大賞にふさわしいと思います。

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【推薦作品<2>】『セカンドハンドの時代 「赤い国」を生きた人びと』
【作者】スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
【訳者】松本妙子
【推薦文】
アレクシェーヴィチの作品はどれもそうだが、本書も、男女さまざまな立場、年齢の人々が、語る、語る、語る。この重い記憶の奔流がみっしりつまった大部の作品を、見事に「日本語の語り」に移し替えて届けてくださった訳者に感謝したい。

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【推薦者】mau
【推薦作品<1>】『ポーランドのボクサー』
【作者】エドゥアルド・ハルフォン
【訳者】松本健二
【推薦文】
複数の短編集を自在に組み替えて一つの作品に再構成するという発想が素晴らしい。もちろん翻訳も。

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【推薦作品<2>】『方丈記(モバイル・ハウス・ダイアリーズ)』
【作者】鴨長明
【訳者】高橋源一郎
【推薦文】
これを「翻訳」と呼んで抵抗があるなら、原作者と翻訳者の「コラボレーション」とでもなんとでも呼べばいいと思う。当時から今まで、私たちは本当に呆れるほどなにも変わっていないことを痛感した。

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【推薦者】poo
【推薦作品<1>】『亡霊星域』
【作者】アン・レッキー
【訳者】赤尾秀子
【推薦文】
性差を気にしない社会という設定のため、登場人物の三人称がすべて「彼女」。

これまで無意識のうちに自分がSFの登場人物を男性と仮定して読んでいたことに気づかされ、衝撃を覚えた。

性差の少ない日本語で訳すのは難しかったのではないかと思うが、とても良い訳で、日本の読者はほんとうに幸運だと感じる。

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【推薦作品<2>】『星群艦隊』
【作者】アン・レッキー
【訳者】赤尾秀子
【推薦文】
上記のシリーズが二冊も日本語訳が出版された記念すべき年なので両方推薦します。

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【推薦者】プラジュスケー・ヤロ
【推薦作品】『暗黒 ‐ 18世紀、イエズス会とチェコ・バロックの世界』
【作者】アロイス・イラーセク
【訳者】浦井康男
【推薦文】
15世紀初頭、ヤン・フスによって宗教改革のさきがけとなったチェコ。
しかし1620年、三十年戦争でフス派のチェコ人貴族が敗れると、ハプスブルク家による支配とイエズス会による対抗宗教改革が始まり、独立を失ったチェコはドイツ化と再カトリック化にさらされる。

表題の「暗黒」とは、ここから19世紀半ばにふたたび民族運動が勃興するまでの二百数十年間、チェコ民族の暗黒時代を意味する。

著者のアロイス・イラーセク(1851~1930)はチェコ民族の苦難と栄光の歴史を描いたチェコ歴史小説の第一人者。

「暗黒」は史実を背景にして、フス派の森番の父に育てられた娘ヘレンカとカトリックのビール醸造家の御曹司イジークの恋を縦糸、隠れて信仰を守るフス派とイエズス会の宗教弾圧、田舎の没落貴族と新興のプラハ市民階級、チェコ文化の衰退、バロック音楽などを横糸に、弾圧が最高潮に達した1720年代のチェコを描き出した歴史大作である。

訳者の浦井康男氏は同じイラーセクの「チェコの歴史と伝説」の翻訳で第48回日本翻訳文化賞を受賞。
翻訳に4年をかけ、クラウドファンディングによって資金を調達して出版にこぎつけた執念の訳業。

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【推薦者】文箱
【推薦作品】『異端カタリ派の歴史』
【作者】ミシェル・ロクベール
【訳者】武藤剛史
【推薦文】
カタリ派の通史は迫害と殲滅の宗教史であると同時に、カペー朝フランス王国が南仏オック地方を併合していく政治史でもある。本書は異端審問と侵略戦争という極めてアクチュアルな問題を提示するに留まらない。一般向け歴史書として抜群におもしろく、圧倒的筆力で読み手をぐいぐい引っ張る。前半のアルビジョワ十字軍の総大将シモン・ド・モンフォールがトゥールーズ伯レモン六世を追い詰めていくくだりなど、まるで『イーリアス』でも読んでいるかのように興奮した。優れた原文を映す簡潔で明瞭な訳文で読めることに感謝したい。

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【推薦者】古川 耕
【推薦作品】『サピエンス全史』
【作者】ユヴァル・ノア・ハラリ
【訳者】柴田裕之
【推薦文】
文学ではなくノンフィクションなのでやや異質かもしれませんが、やはり本書の出版とブレイクは去年の出版界の大きなニュースだと思うので。内容も大変素晴らしいのですが、ハラリさんの文章もお見事。ひとつの見開きごとにハッとさせられるようなフレーズが必ずある。出版からわずか半年も経たないうちに激変する世界情勢の中にあって、本書の重要度はより増している気がします。

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【推薦者】みゃーるす
【推薦作品】『炸裂志』
【作者】閻連科
【訳者】泉京鹿
【推薦文】
現実の中国と重ね合わせるようにして急速に発展する炸裂村。その村長を中心とした一代記。同時に登場人物の心情に合わせ一瞬にして空は晴れ、花は咲くといった急変する自然描写はかの国において「権力を持つ」ということの影響の大きさを示しているようでもあり。
だけど、そんな比喩的な意味付けを超えて、ひたすらに権力と金が全てに物を言う世界が無茶苦茶すぎて、それゆえ物語として無茶苦茶面白かった。人間の喜怒哀楽全て呑み込み咀嚼しして、人間の欲というものにとことんまで向き合った破格の作品でした。

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【推薦者】みのた
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井 光
【推薦文】
昨年、体調不良やら精神状態が良くなく全く読書をする気分になれなかったのです。
でも年末に1冊は読んでおこうと何気なく手にとったこの本。
あまりの美しさに読書欲が再燃、読書の素晴らしさ楽しさ、そして本が読めることへの感謝をこめて推薦させていただきます。
原作もきっと綺麗であろう小説を、そのまま(憶測ですが)綺麗に翻訳していただきありがとうございました。

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【推薦者】Akeldama1
【推薦作品】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
この本はいい。分厚くない(本文180頁)。小さな章のひとつひとつはせいぜい数頁だから根気がなくても読める。作者はイクメン。なさけない失態の数々を屁理屈でこねくりまわす。弟(=作者)が初めて書いた小説の原稿で犬のフンをすくった兄さんとか、「死んで」超正統派ユダヤ教徒として生きる姉さんとか、大使館の壁に放尿してしょっぴかれながら母さんを口説いた父さんとか、愉快で、ちょっと変わった人たちがたくさん出てきて、わははと笑っているうちにひょいと別の次元へ連れ去られ、ずーんと言葉を失う。
なにより表紙が派手な黄色で、散らかった部屋でもすぐに見つかる。
愛すべき黄色本である。

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【推薦者】伊東麻紀
【推薦作品】『翼のジェニー』
【作者】ケイト・ウィルヘルム
【訳者】尾之上浩司他
【推薦文】
発表年は古いですが、決して時代遅れではなく、現代でも十分に通用する作品ばかりです。長らく日本では読めなくなっていた女性作家の短篇集が出版された意義は大きいと思います。これを機会に、サンリオから出ていた長篇の復刊も望まれます。

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【推薦者】 ♪ akira
【推薦作品】『宇宙探偵マグナス・リドルフ』
【作者/訳者】
ジャック・ヴァンス/ 浅倉 久志 、酒井 昭伸
【推薦文】
文体、会話文、設定、キャラクター、どれをとっても軽妙洒脱とはまさにこの作品!と力を入れて推薦したい面白本です。ユーモラスで軽快な訳文のおかげで一気読み。特にマグナス美老人の口調は最高!

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【推薦者】sazanami
【推薦作品】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
2段組で500ページ超ある作品なのに、読み出したら止まらない。普遍的なラブストーリーの美しさとアディーチェの社会批評の鋭さが違和感なく同居していて、両者が等価にこちらに伝わってくる。
これだけのパワーを持つ作品のよさを、読みやすくストレートに伝えてくれた訳者には脱帽します。

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【推薦者】冬泉
【推薦作品<1>】『怪談おくのほそ道』
【作者】作者不明
【訳者】伊藤龍平
【推薦文】
原題は『芭蕉翁行脚怪談袋』
各地を旅する芭蕉と門人が遭遇する怪異談。史実には符合しないし、俳諧とのこじつけもでたらめだが、それは承知で楽しまれた「芭蕉という文化」だと訳者は考える。今日我々が史実でないことを知りながら、水戸黄門の漫遊ドラマや美少女姿の戦国武将が活躍するゲームを楽しめるようなものだろう。
中世以来の歌徳説話の系譜(通時性)と、芭蕉を慕い怪異談を喜ぶ当時の好尚(共時性)の交点に、史実と伝承の混合体であるキャラとしての芭蕉が現れる。その淵源に他ならぬ芭蕉自身の『おくのほそ道』がある。なるほど、今ならあれを芭蕉自身を主人公とする紀行小説と説明しても違和感は無いだろう。そのことを翻訳と解説を通じて明らかにしてくれた本と言える。

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【推薦作品<2>】『幻想の坩堝』
【作者】ゲルドロード他
【訳者】岩本和子他
【推薦文】
ベルギー・フランス語幻想短編集。
以前《小説幻妖》でベルギー幻想小説の小冥い魅力を知ったが、怠け者なのでそれ以上のことはせず。この本は嬉しい贈物だった。ルドンの挿絵を付した分身劇「陪審員」の重苦しい冗長さが特に好み。
続集が出てほしいと思う。
東雅夫の序文に引かれている垂野創一郎の言葉を孫引き。
「あのアンソールの絵そのままに誰も彼もが仮面を被っていて、金持ちも貧乏人もひとしなみに何かに怯えている、脂肪(あぶら)気の抜けた、生活感の希薄な登場人物たちが織りなす物語は、一度はまりこむと病み付きになる魅力を持っている」
どうです、読みたくなりませんか?

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【推薦者の名前】木苺
【推薦作品<1>】『中国妖怪・鬼神図譜』
【作者】作者名なし
【訳者】相田洋
【推薦文】
はっきりいって、変な本である。生きている人と死人が結婚した話、学校の生徒がキョンシーにいたずらする話、役人が任地に到着すると土地の神様が迎えに出た話、狐の妖怪、猫の妖怪、スッポンの妖怪、タニシの妖怪、インチキ巫女が降霊した死者に叱られる話など、とぼけた話が多い。さらにおかしいのは、この本がニュース雑誌として出版されていたという事実だ。原作の『点石斎画報』は清末の絵入雑誌で、1884年から1898年まで上海で出版されていたそうだ。中国らしい美しい絵で、緻密かつ客観的(?)に描いてある。ホームズの時代の英国のThe Illustrated Police Newsとの共通点も感じられる。原書には、戦争などの時事ニュースや、科学技術、海外の話題なども含まれていたそうだ。だから、この訳書は全訳ではなく、テーマを絞った部分訳である。解説や、装丁にセンスが感じられる。他のテーマの記事も読みたくなった。

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【推薦作品<2>】『年月日』
【作者】閻連科
【訳者】谷川穀
【推薦文】
村人たちは日照りが続く村を捨てるが、老人はただ一人、盲目の犬とともに留まる。山の畑に一本だけ生き残ったトウモロコシを守りながら。釣瓶を下しても水を汲めないほど井戸の水位が下がったら、わずかに残った食料をネズミの大群に襲われたら……。私だったら、もうどうすることもできず、敗北するだけだ。だが、老人は思いもかけない方法で戦いを続ける。思えば、中国でも、日本でも、世界のどこでも、人間は長い間、自然災害と戦い続けてきた。本当の英雄とは、軍を率いて戦に赴く将軍たちではなく、この老人のような人間なのだと思った。閻連科はここ数年、「ノーベル文学賞?」と言われ始めた作家だが、その作品は一つひとつ、まったく球種が違って驚かされる。この『年月日』は直球で、剛速球だ。2016年は同じ閻連科の『父を想う』や、彭学明の『八月の瓜』にも感動した。翻訳文学の中では、中国の農民の中から出てきた作家が印象に残った年だった。

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【推薦者】服部 真里子
【推薦作品<1>】『モッキンバードの娘たち』
【作者】ショーン・ステュアート
【訳者】鈴木潤
【推薦文】
主人公トニの母エレナは、〈乗り手〉と呼ばれる小さな神々を降ろす能力を持っていた。子どものころから、〈乗り手〉たちと感情の不安定な母に苦しめられてきたトニだが、エレナの死をきっかけに、〈乗り手〉たちに取り憑かれるようになってしまう。
母にはかつて、何度となく手を上げられた。母のようにはなるものかと思って生きてきた。しかし、母の過去が少しずつ明らかになるにつれ、母やその周りの女たちの、女であるがゆえの苦しみが見えてくる。自分より母の愛情を受けているように思えた、美人の妹や父のちがう姉にも、女性の〈乗り手〉たちにも、母自身にも、それぞれ別の苦しみがあったのだ。
トニは母を許したわけではない。ただ、母を対等な人間として見て、その痛みをともに痛むことができるようになったのだ。
原題はMockingbird。なのに、邦題に「娘たち」とついているのは、これがひとり残らず誰かの娘である、女たちの物語だからではないか。

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【推薦作品<2>】『魔法にかけられたエラ』
【作者】ゲイル・カーソン・レヴィン
【訳者】三辺律子
【推薦文】
妖精に「従順」の魔法をかけられたエラは、命令に逆らえない。いじわるな義理の姉に命令されれば、母の形見の大事な首飾りでも手放してしまう。逆らおうとすると、呼吸困難、吐き気、めまい、ほかにも数々の症状に襲われる。「シンデレラ」をベースにしたおとぎ話だ。
ところで、私の勤務先では、女性社員が全員分のコップを洗う制度がある。拒否してもいいはずなのに、私はコップを集めて洗ってしまう。だって、拒否して嫌われたら……。想像するだけで、呼吸困難、吐き気、めまい、ほかにも数々の症状に襲われる。あれ?
エラはおとぎ話の人物だから、私にかけられた魔法を解くことはできない。でも、ここではないどこかに、同じ魔法と戦っている女の子がいると思うと、私は自分の魔法に立ち向かう勇気が出るのだ。
控えめに、でもしぶとく、「こんなのおかしいです」と言い続けた結果、自分でコップを洗う男性社員が出てきた。エラ、私もこっちで戦っているよ。


【推薦者】かすり
【推薦作品<1>】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
イスラエル在住のエトガル・ケレットによるエッセイ。
産気づいた妻に付き添って来た病院はテロに遭った怪我人であふれ、レジャーに出かければ空襲警報が鳴りミサイルが落ちてくるような戦時下の暮らし。
しかしある時には、しつこい電話の勧誘を断りきれず、家族でiPhoneのゲームに夢中になり、運動不足を気にしてピラティスを始めてみたりする。
そして、息子の誕生を喜び、将来をあれこれを想像して一喜一憂しながら妻と暮らしを営み、兄姉と共に亡くなった父に想いを馳せる。
深刻な状況も、ちょっぴり滑稽なエピソードも、世界中の誰もが持つ感情も、ケレットさんは同じ目線と熱量で描写します。
遠い国の悲痛な日常は、私の日常と切り離された別世界の話ではない、と理屈ではなく肌でわかるエッセイでした。

訳者あとがきによれば、この本はすべて英訳が初出で、ケレットさんが執筆したヘブライ語では出版されていないそうです。
翻訳されたものしか存在しない、というセンシティブな状態で広がる輪の中に日本語訳が加わったことを、感謝したいと思います。

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【推薦作品<2>】『ペーパーボーイ』
【作者】ヴィンス・ヴォーター
【訳者】原田勝
【推薦文】
1959年のメンフィスで夏休みの間に新聞配達をすることになった吃音症の少年の物語。
特殊な設定の説教臭い話かと思われるかも知れませんが、さまざまな人と出会い、事件が起こり、ぶつかった問題に一つずつ自分で考え行動して成長する少年のひと夏が、活き活きとした少年自身の言葉で綴られています。
うまくしゃべることができない、と主人公の少年は考えていますが、得意のタイプライターで淀みなく魅力的な話を披露してくれる素晴らしいストーリーテラーです。

文の途中に点を打つのが大きらいだ、と宣言している通り、この本の中には句読点がほとんど出てきません。短い段落が次々と続き、先頭の一字下げもありません。
その特徴は、読みにくさを招くものではなく、むしろ逆に、少年の内側からわき起こった声と並走しているような緊張感と静かな興奮を与えてくれます。
約60年前のアメリカの男の子の吐息や心の動きをリアルに、切実に感じられるような翻訳が、日本の若い人に向けた本として実を結んでいることがとても嬉しく頼もしく思います。

「ペーパーボーイ」の続編が現在執筆されているとのこと。次の翻訳が待ち遠しいです。

 


【推薦者】西野 智紀
【推薦作品<1>】『奇妙な孤島の物語』
【作者】ユーディット・シャランスキー
【訳者】鈴木仁子
【推薦文】
世界中に点在する50の孤島について書かれた本。写真はなく、島の地図と短い解説が添えられているのみ。これは、著者が「地図は具体的であるとともに、抽象的なものである」として、読者の想像力を喚起させるようにしたためだそうだ(地図も装幀も著者の手による)。小説ともエッセイともいえない簡潔な文章で綴られる奇習や奇病、乱獲、虐殺、災害といった島の沿革と人間の営みの数々が、非日常へと読む者を誘う。他の方も書いているが、著者の意向をくみつつ、文章体裁から組版、デザインに至るまで日本向けに翻訳するのは相当大変だったのではないか。出版に携わった方々の労力をひしひしと感じさせる、ほんとうに美しい作品です。

書影

 

【推薦作品<2>】『拾った女』
【作者】チャールズ・ウィルフォード
【訳者】浜野アキオ
【推薦文】
偶然の出会いから恋仲となった男女が破滅の道をたどる物語。分類するならミステリーだろうが、派手な事件もなければ、探偵役もいない。好き合った二人が、自分の内に抱える闇から目を背けつつ、ただひたすら堕落した生活をする話だ。これはこれで心惹かれるものがあるが、本書を語るうえでは欠かせないのは、終局での情景の一変。最初に読んだときと、二度目に読むときとでは、景色が変わるどころか、さらに暗い言葉や悪意が潜んでいた事実にぞわりとしてしまう。
原著が書かれたのは半世紀以上も前だが、色褪せはまったく感じない。こういう質の高い小説が翻訳されてとても嬉しい。これから先も読まれ続けてほしいと切に思う。

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【推薦者】『爺』
【推薦作品】『こびとが打ち上げた小さなボール』
【作者】チョ・セヒ
【訳者】斎藤真理子
【推薦文】
読み進めるのがつらかった。
それは、この物語が過去を語ったものではなく、私たちがこれから向かおうとしている世界を描いているようにしか思えなかったから。
愛に望みを託したこびとのお父さんに、自信をもって見せてあげられるような未来はいつか来るのだろうか。

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【推薦者】Walter Mitty
【推薦作品<1>】『時の止まった小さな町』
【作者】ボフミル・フラバル
【訳者】平野清美
【推薦文】
あの楽しかったキラキラした物語『剃髪式』の続編。 前半は、あの堅物だった父が何故か妙に自由奔放に〔ぺピンおじさんのように〕なり、あいかわらず愉快なのだが、後半になると、お転婆だった主人公の母は大人しくなり、バイク好きの父はビール工場の職を失い、あの元気で大きな声の陽気なぺピンおじさんは、ラストには…。
読んでしばらくは泣いていた。 あの作品の続編であるがために尚一層切なさがつのった。

翻訳者である平野清美さんが、例の(!!)ビール工場を訪れた際のことをあとがきに書いていらっしゃいます。 これを読んだら、誰でも必ず行きたくなるはず。 フラバルをきっと好きになり、そして彼の作品を読みたくなるはず。

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【推薦作品<2>】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
この方の長編を、とにかく待っていました。 心に沁み入る短編の名手による大長編。
目の見えない娘のために町の模型を造る父。 ラジオの声が起こす奇跡。 長い物語の終盤で、やっと出会えた少年と少女の別れ。 いろいろなシーンが、美しい言葉とともに思い出される。 英語原文ももちろん美しい文章なのだろうと思うが、藤井光さんの以下の翻訳文が本当に素晴らしく、噛み締めながら何度も繰り返し読んだ。

だが実際には、時間とは自分の両手ですくって運んでいく輝く水たまりだ。そう彼は思う。力を振りしぼって守るべきものだ。そのために闘うべきものだ。一滴たりとも落とさないように、精一杯努力すべきだ。 (P466)

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【推薦者】せら
【推薦作品】『ジョン・シャーマンとサーカスの動物たち』
【作者】ウィリアム・バトラー・イェイツ
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
アイルランドの詩人であり作家ウィリアム・バトラー・イェイツの”相克の原点”。
イェイツ初期の作品であり、自伝的小説、と、代表的な詩をまとめた一冊です。
とても端正な文章で綴られています。
翻訳者栩木氏による訳注があって、アイルランドの時代背景やイェイツの交友関係が丁寧に説明されていて、作品そのもののみならず、時代丸ごとを大きく捉えられる、俯瞰して見ることができました。
あと、作中に詩や美術からの引用がたくさんあり、その出典なども書かれているので、ひとつひとつ追いかけて拾ってみたいなあと思っています。
(読みたい作品が増えていく、広がっていく物語に出会えるのは、読み手としてとても幸せなことかと)

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【推薦者】佐藤ユンコ
【推薦作品】『堆塵館』
【作者】エドワード・ケアリー
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
舞台は、十九世紀のロンドン郊外。ゴミ山に建つ堆塵館と呼ばれる館に住む一族は、生まれると必ず何か一つの「物」を生涯身に着けていなければならない。その跡取りである十五歳の少年には、物がそれ自身の、まるで人間のような姓名を名乗る声が聞こえる。だから彼が持ち歩いている浴槽の栓が、繰り返し同じ名を名乗り続けるのを毎日聞いている……
これは物語のさわり部分だけだが、もう充分に変である。何言っているんだ、と思いながら読み返してしまう。作者はこれまでにも変な素晴らしい物語ばかりを書いており、それらは全て同じ翻訳者によって日本に届けられている。今作も最高に変で夢中になってしまい、読み始めたら止まらなくなった。
翻訳作品だということを忘れてしまうほど、言葉の面白さ、響き、リズム感が心地よい今作は、圧倒的な言葉の連なりが生み出す、次元を超えた物語体験ができる稀有な本だ。

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【推薦者】放克犬(さあのうず)
【推薦作品<1>】『HERE ヒア』
【作者】リチャード・マグワイア
【訳者】大久保譲
【推薦文】
<ある部屋の一角>が描かれた一枚の絵。そこから複数の時代の様々な物語が錯綜し、やがては気の遠くなるような時の流れまで広がっていく。固定された一つの視点というシンプルながら全く新しい技法で実にユニークな世界を見せてくれることによって、表現の可能性というものについての認識を改めさせてくれた一冊。グラフィックノヴェルということで文字が少ないことから翻訳大賞にふさわしいかどうか迷ったがインパクトが大きい作品だったので推薦したい。

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【推薦作品<2>】『ファンクはつらいよ バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』
【作者】ジョージ・クリントン+ベン・グリーンマン
【訳者】押野素子
【推薦文】
ユニークな音楽集団P-funkを率いるジョージ・クリントンの自伝。功成り名遂げた人物といえば過去の話は美化していたりするものだが、この人は面白くなればいいと思っているようで信じられないような話が次々登場する。なので書かれた事実の真偽のほどは時に?なのだが、ここには20世紀後半に大きな変貌を続けやがて社会に深く影響を及ぼすようになったポピュラー音楽の真の姿がここにはある。様々な世代のミュージシャンとのエピソードも多数登場し貴重な記録となっている。

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【推薦者】アリーマ
【推薦作品<1>】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴツィ・アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
500ページを超える大作で、かつ二段組みという密度の濃さながら、圧倒的な牽引力と密度の濃さでラストまで一気に引っ張ってくれる作品だった。『半分のぼった黄色い月』以来、次の長編を心待ちにしていたのだが、待った甲斐があった。そしてこの長大で濃密な作品を、なんのストレスもなく日本語で堪能できる至福は、くぼたのぞみさんの素晴らしい邦訳あってこそ。この作品は、ナイジェリアの女流というエスニック性を忘れて、物語を愛するすべての人に普遍的な男女のストーリー(ないしはいっそメロドラマ)として広く読んでもらいたい。

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【推薦作品<2>】『蒲公英王朝記:諸王の誉れ』
【作者】ケン・リュウ
【訳者】古沢 嘉通
【推薦文】
『指輪物語』を思わせる古典的正統派仮想世界ファンタジーで、武侠小説で歴史大河で神話物語。ケン・リュウの多彩さは短編集で十分感じたつもりでいたが、さらに底知れぬ才能とエネルギーを感じる。非常に翻訳の難しい仮想世界の諸々を、スムースで無理のない日本語で楽しめる素晴らしさにも感謝!

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【推薦者】とりっぽん
【推薦作品<1>】『ペーパーボーイ』
【作者】ヴィンス・ヴォーター
【訳者】原田 勝
【推薦文】
1959年、まだ人種差別が色濃く残るメンフィス。吃音症を持つ白人の少年ヴィクターは、ひと夏、新聞配達(=ぺーパーボーイ)をすることになったが、配達はともかく、集金の時は嫌でも人と話さねばならない。彼にとっては大変な冒険だ。でもがんばる。そして様々な人々との出会いや出来事を経て彼は「大切なのは何を言うかで、どう言うかじゃない」ことを学び、「ばくの魂はどもってない」と胸を張る。優れた成長譚だ。吃音の困難は「コミュケーションの問題」だと捉えれば、この物語は「コミュ障」に悩むティーンをはじめ、全ての人にとって「自分の物語」となるだろう。主人公の語りで進む地の文は句読点が少なく、発言には「ssss…」という独特の息づかいが多用されるが、それが全く読み辛くなく、かえって主人公息づかいに乗っかってぐいぐい読める仕掛けになっているのは翻訳の力だろう。内容・翻訳両方の良さからこの本を推したい!

 

【推薦作品<2>】『レッド・スペシャル・メカニズム』
【作者】ブライアン・メイ、サイモン・ブラッドリー
【訳者】坂本 信
【推薦文】
英語は読めるけれど、専門用語だらけの膨大な資料を読むのは、いくら好きな本でもしんどい。そんな時に、その分野を愛し、よーくわかっている人が翻訳版を出してくれることの有難さ!本書はロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイ氏愛用のエレクトリック・ギター「レッド・スペシャル」について、デザイン、制作過程、性能、そして演奏活動にわたってメイ氏本人の語りを中心にまとめたもの。周知のようにこのギターは、彼が少年時代に父親と一緒に手作りした世界唯一の楽器。驚くべきは製作当時(1963年)の設計図や詳細なメモなどが全て残っていること。豊富な写真や資料に加え、メイ氏の少年時代や父親との関係も語られて奥行きが深い。英語版が出た時、図版を眺めているだけでも幸せだと思ったが、びっしり書き込まれた専門的な解説も日本語でストレスなくつぶさに読むことができるようになって本当に嬉しい!

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【推薦者】けいとのぱんつ
【推薦作品】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井光
【推薦文】
詩的な描写の積み重なりが丁寧に訳されています。それでいて、作品全体を貫く軸はぶれていない印象があります。すっと頭に入ってくる訳文あってこそだと感じました。

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【推薦者の名前】なつめ
【推薦作品】『襲撃』
【作者】レイナルド・アレナス
【訳者】山辺弦
【推薦文】
2016年で翻訳がよかった小説といったらこれ。とても丁寧に言葉を選んでアレナス世界を再構築していた。作品自体は怒りと絶望が爆発するような内容だが、翻訳部分については端正な仕事と形容したい。山辺さんにはもっとスペイン語圏の小説を(できればアレナスの未訳作品を)日本語にしてもらいたい。


【推薦者】丘本さちを
【推薦作品】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル ケレット
【訳者】秋元 孝文
【推薦文】
「ユーモアも自分を見失わないための魂の武器だ」。
『夜と霧』のこの言葉を思い出しました。
本書は戦時下のイスラエルで家族と暮らした著者の七年を綴ったエッセイ集です。息子の誕生と子育て、ささいな夫婦ゲンカ、信仰に傾倒した姉との距離、ひとつのジャムが起こす奇跡、飛んでくるミサイル、父親の死。
異国の出来事でありながら、エスニックな印象はほとんどなく、現代の都市生活者に共通の喜びと切なさを各掌編で見事に浮かび上がらせています。
正直、この枚数でここまで沁みるものが書けるなら長編小説はいらないのではないか?と思ってしまいました。
訳文も著者の皮肉めいたユーモアと優男っぷりをうまく引き出す軽みがあって、内容にフィットしています。
読み切るのがもったいない36篇です。
ぜひ手に多くの方に手にとっていただきたいです。

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【推薦者】ましろ
【推薦作品<1>】『血の熱』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
孤独の深みと過去に向かう視点、その視点を別の角度からも余すことなく見ている語り口にはまってゆく。閉鎖的な物語の中、其処彼処に流れる人間の内面を、どこまでも逃がさない。何が駆り立てるのか。そうして何処へ向かうのか。駆り立てたものを冷やかに見つめ、過ぎ去った日々を残酷にも捨てる心が確かに在ることを知らされた心地になる。単純な心などない。人とはそうしたもの。嗚呼なんて。そう思う頃には、物語が掻き立てる心を自分の内にも見ている。抱えた移りゆく思いを巡らせれば、それでもなお生きてゆける、人間の強かさを思った。
内容の素晴らしさはもちろんのこと、『フランス組曲』同様、死後60年に渡り鞄に眠り続けていた、完成作としては最後の作品となる貴重な作品を翻訳して読者に届けてくださったことに、一人の読者としてとても感謝している。

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【推薦作品<2>】『ラガ 見えない大陸への接近』

【作者】ル・クレジオ
【訳者】管啓次郎
【推薦文】
海の強い青。その深み。激しさ。そこにある苦悩の感情。かつてそこへ漕ぎ出し、全身をふるわせて帰還なき旅をした人々と、その辿り着いた地をめぐる文章の真摯さに、頁を捲るほどに感情が胸打つ。ラガという地に夢見る神秘は楽園に終わらない。人生の物語や伝説、神話、そこに横たわる植民地化や奴隷制などをはじめとする悲劇の歴史、女性たちが強いられてきた背景を語り出す。ラガの女性たちが彼女たちだけで為してきたこと。そこから伝わる文化の起源の描写に思わずはっとする。知るほどに遠のくラガの姿は、知ろうせずにきた者に問うてくる。
思索的紀行文の魅力を生かしきる、素晴らしい翻訳だった。ル・クレジオの作品がやっぱり好きだ。そうまっすぐに思わせてくれた。

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【推薦者】ツキアカリ
【推薦作品】『執着』
【作者】ハビエル・マリアス
【訳者】白川貴子
【推薦文】
原題『恋に落ちる』邦題『執着』のとおり、マリアのハビエルに対する、ハビエルの人妻に対する恋の執着として読みました。マリアは決して感情的にならず、傍目には冷静に振舞いながら、心の中ではあらゆる可能性や希望を追い、逆に諦めや絶望をも丁寧に辿ります。ここまでの執拗な過程を経て、最後の1ページには心臓をギュッと掴まれる思いでした。

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【推薦者の名前】こめこめ
【推薦作品<1>】『ウィスキー&ジョーキンズ』
【作者】ロード・ダンセイニ
【訳者】中野善夫
【推薦文】
断片的にしか読んでなかったのですが、ロード・ダンセイニという作家に対するイメージ(お堅いイメージ)を変えてくれた作品ということで推薦させていただきます。今後、出るであろうダンセイニ作品読みたくなりました。

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【推薦作品<2>】『狂気の巡礼』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
うまい文が浮かばなかったのでどうしようかと思ってましたが、外せない作品と思い推薦させていただきます。グラビンスキは重い雰囲気の『動きの悪魔』に続いて2冊目ですが、個人的には内容がバラエティに富んでいろいろな短編が読めたこちらのほうが好みでした。東欧の作品はあまり接しないのでその点でも視野を広げてくれた本の一つと思います。

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【推薦者】戸田 光司
【推薦作品<1>】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
ケレットのこのエッセイは、ユーモアや皮肉のいりまじり、その中に優しさや力強さがあるように感じて、本当に気持ちがいい読書体験となりました。家族のルーツをたどる話や、空襲にあったときの話は、心がじんとなるのを感じます。ケレットがたびたびべそべそ泣くのも好きです。私も泣き虫なので、共感を覚えます。

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【推薦作品<2>】『異国の出来事』
【作者】ウィリアム・トレヴァー
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
夫の浮気をきっかけに、一人暮らしをして自分らしく生きようとした女性を描いた「家出」と、言うことを聞かないひねくれた生徒と、彼の女教師を描いた「帰省」が特に印象に残っています。戻ってきた妻が見た夫の姿や、大人をバカにする生徒や、教師の態度が豹変する様子など、人間の嫌な感じを描いていると思うのですが、それが面白いです。醜い夫の造形は、一周回って愛おしく感じます。

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【推薦者】コンスタンシア
【推薦作品】『ポーランドのボクサー』
【作者】エドゥアルド・ハルフォン
【訳者】松本健二
【推薦文】
まずおもしろいのは、この作品が、オリジナルの『ポーランドのボクサー』『ピルエット』『修道院』の3作を著者の指示で編みなおした、日本語版だけのオリジナルになっているということ。混ぜ合わされた3作が響きあって、濃厚な作品世界が立ち上がり、様々な感興を生むカクテルとなっています。
また、思いがけないけれど、そう言われるとイメージが鮮やかに喚起される比喩もハルフォンの魅力の1つです。ハルフォンの文化背景がすべてからみあってか、実に豊かな言葉が繰り出されます。そのおもしろさを十二分に引き出した訳文に拍手を送りたい。

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【推薦者】きょうたま
【推薦作品】『古森の秘密』
【作者】ディーノ ブッツァーティ
【訳者】長野徹
【推薦文】
「はじめての海外文学スペシャル」の金原瑞人さんの紹介で、この本を手に取りました。少し距離を置いたような静かな語りの文章は、まるで森の中で息をひそめてその成り行きを見守っているような感覚になるし、自分の中にある自然への畏怖や愛着や経験を思い出させてくれました。子どもの成長とともに大人の成長物語でもあると紹介されてましたが、大人になってからの不器用な愛情が切なくも尊い、とても心に響く美しいお話でした。

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【推薦者】三月の水
【推薦作品<1>】『ナボコフの塊』
【作者】ウラジミール・ナボコフ
【訳者】秋草俊一郎
【推薦文】
文学、翻訳、亡命、蝶について、小説を愛読してきた読者にはおなじみの主題を巡るエッセイ集。
アップダイク、サリンジャーに対する評価、亡命作家としての自身についてなど、どれも興味深い。
この本の売れ行き次第では、インタビュー集も出版とあるので期待したい。

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【推薦作品<2>】『黒い本』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】鈴木麻矢
【推薦文】
目覚めると失踪していた妻を探す夫、そのとりあえずの発端から、/殺人者が誰なのか知らないまま書かれた推理小説/物語を読むように街を読む/解釈され発見される無限の意味の連鎖、などの読み方とともに、錯綜した文体、歴史、家族の関係をときほぐしながら、さまざまな読み方ができる愉しさ。

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【推薦者】星落秋風 五丈原
【推薦作品】『ヒトラー(上下)』
【作者】イアン・カーショー
【訳者】川喜田 敦子
【推薦文】
第二次大戦やホロコーストのうち、どこまでがヒトラーの考えでどこまでがドイツ国民の考えなのか。またどこまでがヒトラーの為した事でどこからがドイツ国民の為したことなのか。そもそもヒトラーとはどういう人物だったのか。ヒトラー一人では戦争もホロコーストも起こせない。擦る相手がいなければマッチに火がつかないのと同じように。これはヒトラーという人物を現代にいる誰かに置き換えても同じように言えることだ、と誰もがわかっていることが、今ほど必要な時代はない。

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【推薦者の名前】三月うさぎ(兄)
【推薦作品<1>】『ユリシーズを燃やせ』
【作者】ケヴィン・バーミンガム
【訳者】小林玲子
【推薦文】
『ユリシーズ』の猥褻裁判をクライマックスにしたあらゆる関係者の本物の群像劇。映画化必至。検閲、芸術と猥褻、モダニズムに迫った書は数あれど、『ユリシーズ』が猥褻の概念そのものをどのように変え、法の世界に「エピファニー」をもたらしたかを、これほどの面白さで語り尽くした本があったであろうか。ケヴィン、玲子さん、柏書房、yes!ジョイス、ノーラ、ハリエット、マーガレット、シルヴィア、エズラ、ヴァージニア、アーネスト、yes!ジョン・クイン弁護士 yes!モーリス・ダランティエール、ジョイスの壮絶書き直し植字 yes!アーンスト弁護士とコールマン検事、二人のおかげでウルジー判事にエピファニーが訪れた yes!ベネット・サーフにサミュエル・ロス、金儲けや海賊版でも出版した yes!アンソニー・コムストックにジョン・サムナー、猥褻を取り締まる意味はまだ生きている。あなた達は無意味じゃない! YES!

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【推薦作品<2>】『イエスの幼子時代』
【作者】J.M.クッツェー
【訳者】鴻巣友季子
【推薦文】
過去を洗い流されて到着するという地、ノビージャ。その「過去」とは色々な作品の登場人物たちの「前世」のことではないか。ほとんどの人物は漂白されて善意だけの人格になっている。でも、シモンは性的な作品の「記憶」にない記憶にひきずられ、イネスの苛立ちは子を亡くした母の切迫した感情に突き動かされ、それぞれ洗い流されずに残ったものを背負っているよう。ならばダビードにもきっと「前世」があるはずだけど、どうも作家が失敗して流産した作品の主人公だったのではないか。そんな風に勝手に想像しつつ読むと、ただノビージャで次のお呼びを待つだけの人々の自由意志をどこまでも解き放ってやろう、作家の意図や倫理的な狭苦しさから逃げだす登場人物たちを描いてみせようじゃないか、と、あの説教臭いクッツェーが半ば博打に近い挑戦にうってでたと思えてくる。続編『イエスの学校時代』の翻訳を心待ちにするのでありました。

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【推薦者】牡猫ムル@書店員修行時代 (=‘x‘=)
【推薦作品<1>】『すべての見えない光』
【作者】アンソニー・ドーア
【訳者】藤井 光
【推薦文】
#この作品に「選ばれた」訳者さんとしてご自身のご活躍にも注目の藤井光さんにいかがで賞! (=‘x‘=) #この推薦文には素晴らしい作品につきムル猫ごとき多くは語るまい話法が使用されています

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【推薦作品<2>】『貝と文明 螺旋の科学、新薬開発から足糸で織った絹の話まで』
【作者】ヘレン・スケールズ
【訳者】林 裕美子
【推薦文】
『カドモスとハルモニアの結婚』にしようと思っていたのですが、ガーン! 2015/11/27発刊で、わずか4日のアウト……。3冊めの枠があったらと思っていた、こちらを推薦します。「じんぶん大賞」向きですが、キアラン・カーソン『琥珀捕り』栩木 伸明 (訳)の海洋生物学版……といった趣があります。素敵モチーフが「貝殻捕り」のごとく次々に登場する、螺旋をめぐる(読書の)時間が楽しい。これからもネイチャーライティングを超えて、アニー・ディラード『ティンカー・クリークのほとりで』の対岸や、チェット・レイモ『夜の魂』の高み(あるいは海の深さ)に進んでほしいと思います。文学的センスを高度に持った、専門分野のある作家さん的研究者さん・訳者さんが増えることも願って!(=‘x‘=)

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【推薦者】タカラ~ム
【推薦作品<1>】『年月日』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
大日照りに見舞われた村でたった1本残ったトウモロコシの苗を守ろうと奮闘する老人と、彼に寄り添う盲目の犬。食料も水も失われつつある中で無謀な闘いと思われた彼らの行為が、さいごに驚愕と感嘆の結末を迎える。

著者自身があとがきで述べているように、「愉楽」で閻連科にハマった読者は、本書を読んで「これが閻連科なのか?」と驚くに違いない。

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【推薦作品<2>】『あたらしい名前』
【作者】ノヴァイオレット・ブラワヨ
【訳者】谷崎由依
【推薦文】
アフリカ・ジンバブエ出身の女性作家による作品。前半は母国ジンバブエを舞台に、後半はアメリカを舞台にして、主人公のダーリンという少女の人生を描き出す。

前半で描かれる主人公たちの子供時代の日々はジンバブエやその他のアフリカ諸国の厳しい現実を表わしている。子どもが幼くしてレイプされ妊娠させられている現実、エイズが蔓延して満足な治療も行われないままに死んでいく現実、悪政によって経済的に崩壊した国家としての現実。そんな悲劇的な現実の中で、無邪気に楽しく日々を生きる子どもたちの姿とのギャップが、リアルを強く実感させる。

後半になって主人公はアメリカに渡る。それは幸福への脱出ではない。アメリカに対する希望はすぐに厳しい現実に変わってしまう。アメリカは自由の国だが移民が自由であるとは限らない。物質的には恵まれていても、それは幸せではない。

深く重い命題を読者に突きつけてくるような作品だった。

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【推薦者】ちゃむ
【推薦作品】『青空のかけら』
【作者】S・E・デュラント
【訳者】杉田七重
【推薦文】
家族がほしい。そう切実に願う姉弟ミラとザックには身寄りがなかった。それでも児童養護施設スキリー・ハウスで、やさしい大人たちの庇護の元、小さな楽しみやささやかな喜びを経験しながら暮らしていた。ほかの子どもたちが順々にもらわれていくなか、「絶対にふたりいっしょに」と希望している姉弟には引き取り手はあらわれない。そこに登場する元校長先生のマーサが、いい。恥ずかしがり屋のおばあさん、という素敵な設定が効いている。ぎくしゃくしていたふたりとマーサの関係が少しずつ変わっていく美しいシーンの数々と、いじらしいほどザックのことばかり気にかけている姉ミラの心情の描写が素晴しく、繊細で瑞々しい訳文のおかげもあり、忘れられない一冊となった。


【推薦者】齋藤 巧
【推薦作品】『四人の交差点』
【作者】
トンミ・キンヌネン /
【訳者】古市真由美
【推薦文】
私事ですが、普段は英米の翻訳作品しか読まないし、それ以外の言語だと「ちょっと知っておいたら役に立つかも(というかかっこいいかも)」の知的欲求のナルシズムに後押しされ、クラシック作品のみ読んでいた。本書はフィンランドのベストセラー小説ということで、装丁・タイトルの美しさにジャケ買いした。正直内容はあまり入ってこなかったが、そんなことよりも(大変失礼な話だが)フィンランドという、自分には縁も所縁もない国の文学作品のことを勉強して、翻訳している人がいたおかげで、フィンランドについて調べてみたし、つまり翻訳小説は、ある翻訳家の方の努力無しには生まれないのであって、その努力無しでは私がフィンランドに興味を持つことは無かった。

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【推薦者】針生森
【推薦作品】『闇夜におまえを思ってもどうにもならない』
【作者】ツァオ・ナイ・チェン
【訳者】杉本万里子
【推薦文】
文革時代の中国の貧しい村の人々を、短いエピソードを重ねて描いている。人は餓えないために食い、楽しみはセックスと酒で、ときたま、他人を好きになることもある。読んでいて深沢七郎だと思いました。ある男は食えないために金で別の男に女房を貸す、その話の最後の一行。「女房の二本の大根足がロバの腹の下でゆらりゆらりと揺れているのが見えた」

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【推薦者】りつこ
【推薦作品<1>】『キャロル』
【作者】パトリシアハイスミス
【訳者】柿沼 瑛子
【推薦文】
ハイスミス=イヤミスの女王というイメージを見事に覆してくれた。むき出しの恋愛が丁寧に描かれているが、テレーズという一人の女性の成長物語でもあった。

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【推薦作品<2>】『つつましい英雄』
【作者】マリオバルガス=リョサ
【訳者】 田村 さと子
【推薦文】
ストーリーはかなり不穏なのだが、片方は揺るがない信念、もう片方はユーモア精神のある主人公なので、ハラハラしながらも楽しく読める。
タイトルにあるとおり、リョサらしくなく?物語がどこかつつましくて(笑)そこがまた面白かった。

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【推薦者】赤池 晴香
【推薦作品<1>】『鬼殺し』
【作者】甘耀明
【訳者】白水紀子
【推薦文】
これは、困難な時代を生きた台湾客家の少年が、「自由」になるまでの物語である。人は、自身が望む望まないに関わらず生きている場所で様々な束縛を受けて生きている。とりわけ能力が高ければ高いほど、「自由」を得ることは難しいのではないだろうか。本作主人公の少年も超人的なパワーを持つがために様々な束縛を受け、痛めつけられる。しかしその中で成長し、最後には「自由」を得る。「代償」を払うことによって…。
台湾の歴史、文化、言語、民族、信仰、家族観等様々な要素をマジックリアリズムの手法で巧みに編み上げて壮大な物語にした作者、またそれらの要素を日本人読者にも分かりやすいよう翻訳した翻訳者に敬意を表し、この作品を推薦したい。

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【推薦作品<2>】『年月日』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
一体いつ、どこでどのようにして起こった話なのか…この作品で語られる世界はこういった要素がほとんど明白にされていない。ただ分かっているのは、この作品世界が恐ろしい日照りに見舞われているということ。登場人物(動物)はほぼ老人1人と盲目の犬1匹のみである。そのようなシンプルな世界であるからこそ、老人と犬の思い、行動、その行動がもたらした結果がまるで日照りの太陽に焼き付けられたかのように、我々読者の心に鮮明な印象を残す。作者は中国の社会問題を題材にすでに多くの作品を発表しているが、その中で若干異色とも言える本作品も、作者の「命」に対する思いを体現する名作であると感じ、推薦する。

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【推薦者】ダリ
【推薦】『アメリカーナ』
【作者】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
【訳者】くぼた のぞみ
【推薦文】
ナイジェリア人のオビンゼとイフェメルの二人を主軸に進む物語
恋人だった彼らは、自由の国アメリカで学ぶ事を夢に見て叶えるイフェメル、叶えられなかったオビンゼ
と二人の別離から物語がぐっと動きます
ナイジェリアの文化、国民性、政治、教育など知らなかったものにどんどん引き込まれました

そして、自由を求め渡ったアメリカの現実
人権、人種、生活、職、滞在許可など厳しい現実が克明に描かれます
善意の偽善など白人からの立場ではまるで見えなかった思想が浮き彫りになる
アメリカの暮らしを通して知り感じる違和感の描き方がとても魅力的でした

そして、法を犯してまで滞在しようとする彼らの自由への渇望
選択肢のない未来への絶望
チママンダの筆から選ばれる言葉に静かに深く思考を促されました
そして帰結は見事な純愛だったのです
決して陳腐ではなく、かと言って過剰な演出でもなく導かれるところがそこでした

あれだけ複雑なテーマ
壮大なストーリー
でも純愛という締めにやられました
ゴリゴリの社会派ではないチママンダのユーモアがいきた素晴らしい物語でした

書影

【推薦者】かもめ 通信
【推薦作品】『ポーランドのボクサー』
【作者】エドゥアルド・ハルフォン
【訳者】松本健二
【推薦文】
グアテマラシティの大学で短篇小説の講義をしている作家本人を思わせるエドゥアルドという名の「私」を軸に、いくつかの物語が絡み合うようにして語られていく“連作短篇”は、1冊通して読んでみれば1つの大きな物語になっている。だがしかし、これらの物語は元々3冊の本に別々に収録されていたものから、作家の意を受けて、作家と訳者がここからこれを、あそこからはこれをと集めてきて編んだ日本オリジナルの短篇集なのだという。この本を読むと主人公同様読者もまた、まるで登場人物のひとりにでもなったかのように、誰かを探し求めて本の中を彷徨わずにはにはいられなくなる。その魅力を端的に言い表す言葉が見つけられないほど魅力的でとても好きな作品。行間からにじみ出る作品に対する深い思い入れが伝わってくる見事な翻訳だとも思う。

書影

【推薦者の名前】
小口 ちひろ
【推薦作品】『アシュリーの戦争』
【作者】ゲイル・スマク・レモン
【訳者】新田享子
【推薦文】
アフガニスタン戦争でアメリカ軍が苦戦を強いられていたのは、都市部から離れた山間部。女性を公の場から隔離する「パルダ」という古い習慣の残る地域です。家族中心の文化を持つこうした地域では女性の役割が非常に大きく、外から姿は見えなくても、一族の重要な情報を彼女たちが握っています。しかし男性米兵が彼女達に接触することは難しい……。そこで2010年アメリカ特殊部隊指導部が編成したのが、文化支援部隊、本書に登場するアシュリーたちです。
アシュリーを襲う結末は、涙なしには読めません。遺されたアシュリーの夫や両親が、今もアメリカに暮らしています。彼らがどんな気持ちでアシュリーを戦地に送りだし、あの結末をどう受け止めたのか。彼らに思いを馳せることができたのは本書のおかげです。戦争を肯定する気持ちは一切ありませんが、現実を伝える本書は多くの人に読んでほしい一冊です。

書影

【推薦者】安野 二枡
【推薦作品】『韻文訳 妖精の女王』
【作者】エドマンド・スペンサー
【訳者】福田昇八
【推薦文】
「詩人の王」、「詩人の詩人」と称される、イギリス・ルネサンスの大詩人、スペンサーの長編叙事詩『妖精の女王』の邦訳が、スペンサー研究・翻訳をライフワークとして取り組んできた訳者の手によってさらなる進化をなし遂げた。本邦初訳は1969年に誕生したが、原文の意味を忠実に丹念に伝えるため、各連は改行なしで書き下(くだ)した散文訳であった。1994年の改訳はこの詩に独特な9行連に合わせて各連9行に整え、字数を切り詰め、元の定型詩の姿を再現した。そして2016年、韻文訳の本書である。ここに採り入れられたのは原詩の韻律に近い七五調、日本人にはお馴染みの語り口調の語呂もよい。刻むリズムは軽快に平易な口語を読み進ませる。なるほど物語詩の訳はこうでなければと実感させられる。原詩の魅力がまた一つ回復されたのである。

 


【推薦者】有友 勇人
【推薦作品<1>】『襲撃』
【作者】レイナルド・アレナス
【訳者】山辺弦
【推薦文】
まあ当分は翻訳されんでしょと思い、アレナスの自伝五部作が完訳されるまでは死ねない、などと冗談半分で言い続けてきたのだけど、作者の死から四半世紀経って第五部の『襲撃』が遂に翻訳なるとは、いやもうぶったまげたなあ。山辺弦氏による翻訳も見事である。罵詈雑言オンパレードで破茶滅茶な内容を丹念な訳文で最後まで愉しく読むことができた。水声社という奇特な版元にも感謝である。残りの作品の翻訳にも期待しつつ、本書を推薦いたします。

 

【推薦作品<2>】『ある子供』
【作者】トーマス・ベルンハルト
【訳者】今井敦
【推薦文】
まあ当分は翻訳されんでしょと思い、ベルンハルトの自伝五部作が完訳されるまでは死ねない、などと冗談半分で言い続けてきたのだけど、作者の死から四半世紀経って第五部の『ある子供』が遂に翻訳なるとは、いやもうぶったまげたなあ。今井敦氏による翻訳も見事である。改行の無いベルンハルト独特の文体に相応う丹念な訳文で最後まで愉しく読むことができた。松籟社という奇特な版元にも感謝である。残りの作品の翻訳にも期待しつつ、本書を推薦いたします。

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【推薦者の名前】温 又柔
【推薦作品<1>】『鬼殺し』
【作者】甘耀明
【訳者】白水紀子
【推薦文】
日本統治時代から二・二八事件まで。激動の台湾史を1972年生まれの鬼才が類まれな知性をもって魅惑的な物語に仕立てた巨編。原文は中国語だが、台湾語、客家語、日本統治期の日本語、先住民族の民間説話が混在する。この文体は台湾という郷土に生きる多様な人々を尊重する作家の意志そのものだ。原作者の意志を十二分に反映させながらこの巨編を素晴らしい日本語に生み直した訳者には本当に頭が下がる思いだ。

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【推薦作品<2>】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
英語によって世界を感知し、感性を育み、ひとと関わり思考してきたはずのジュリー・オオツカは、かのじょ自身の祖母や曾祖母の世代の女たちの物語を書くために、かのじょにとっては限りなく”外国語”に近いであろう日本語によって奏でられる世界を丹念に想像したことだろう。それだけでも私は、この小説が、翻訳によって、オオツカの曾祖母、祖母、母の国・日本語に”帰って”きたことを喜ばずにいられない。

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【推薦者】百句鳥
【推薦作品<1>】『テラ・ノストラ』
【作者】カルロス・フエンテス
【訳者】本田誠二
【推薦文】
メキシコの作家カルロス・フエンテスの代表作にしてラテンアメリカ文学の栄誉たるロムロ・ガリェーゴ賞(1978)受賞作である本作。日本語で1079頁に及ぶ物理的な重量も圧巻ですが、実在人物や架空人物が織りなす独自の年代記を繋ぎ合わせ、ひいてはイベロアメリカの歴史にもメスを入れる大規模な構成の文学的重みは格別です。それだけにテクストは多面的であり、読者に考える力を求める難解な作品とも言えます。けれどもこの物語にこめられた類いまれな想像力・創造力には、時間をかけて読み解いていくだけの価値があるでしょう。
旧世界・新世界・別世界の3部を通して、批判的・野心的に物語られる一大叙事詩の存在意義、そして10年もの歳月をかけて完訳し、本邦に紹介してくださった翻訳者に敬意を表して推薦します。

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【推薦作品<2>】『炸裂志』
【作者】閻連科/
【訳者】泉京鹿
【推薦文】
本作『炸裂志』では著者閻連科が提唱する神実主義が鍵になります。外部の合理性を破棄し、内部の合理性を考慮する「内なる因果」にもとづいている神実主義。それはマジックリアリズムとも異なる特異な幻想的表現を生成し、貧しい小村である炸裂をまたたく間に大都市に変貌させる奇想天外な構造を体現します。本作の中心的存在である孔明亮と朱頴の果てしなき対立をはじめ、欲望や嫉妬に駆られるまま謀略と迷走を繰り返す孔兄弟や彼らにまつわる人々の群像劇は斬新で、従来の分野におさまらない自由な世界が築かれています。盗賊と娼婦の神話でもあり、ディストピア小説でもあり、現代社会に対する壮大な諷刺詩でもある『炸裂志』の誕生は悦ばしい事件でした。
今や中国文学界において大きな影響力を持つ閻連科。2016年終了時点、中国大陸における氏の最新作がいち早く完訳されたことは至福であり、深く感謝するとともに推薦します。

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【推薦者】野谷 美佐緒
【推薦作品<1>】『ひつじのドリー』
【作者】ダーチャ・マライーニ
【訳者】望月紀子
【推薦文】
取り上げているテーマはクローンや報復、動物虐待など、どれも重く考えさせられる10篇の短篇集。作者のダーチャ・マライーニさんは日本に住んでいたことがあり、先の大戦では、強制収容所に2年軟禁されていたという。その経験が重いテーマとなっているのだろうが、登場人物が「黒いエナメルのくつの夫婦、おしゃれでハンサムなガラスの鍋ぶた(安物のアルミ鍋と夫婦)、空を飛びたい青みどりいろのキャベツ……」といったシュールさで、どこかクスッとしてしまうところがあるのが魅力的あり、また救われる。

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【推薦作品<2>】『古森のひみつ』
【作者】ディーノ・ブッツァーティ
【訳者】川端則子
【推薦文】
木や動物の精が住む美しい森<古森>を相続した少年と、その叔父大佐の物語。物語全体が不思議な雰囲気で包まれているファンタジー。子どもの頃しか感じられない、見えないものを、感じ、見ることのできる大佐。だからと言って、子どものようにピュアな心を持つわけではなく、とても暴力的。いろんな矛盾がありながら、少年も大佐も成長をしていく。そして物語の結末にぐっとくる。ですます調の邦訳が、物語にちょうどよい距離感をもたらしてくれている。余談だが、読了後、この岩波少年文庫での刊行約1ヶ月後に、長野徹さんの翻訳で東宣出版より同タイトル(古森の秘密)が刊行されたことを知り、こんなこともあるのだな…と思った。


【推薦者】ちゅらり
【推薦作品】『屋根裏の仏さま』
【作者】ジュリー・オオツカ
【訳者】岩本正恵、小竹由美子
【推薦文】
訥々とした素朴とも言える短文の羅列でありながら、深い情感に訴える。
惜しくも本書の翻訳の半ばで世を去られた岩本さんのお仕事を小竹由美子さんは見事に引き継がれ、どの場面で引き継がれたのかも分からない。こういうお仕事を引き受けるのは大変なプレッシャーだったと推察するが、成功されていると思う。
「わたしたち」が主人公である本書の訳者もまた「わたしたち」だ。お二方がいなければこの素晴らしい小説を読むことはなかったと思うと、感謝したい。

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【推薦者の名前】TI
【推薦作品】『メダリオン』
【作者】ゾフィア・ナウコフスカ
【訳者】加藤有子
【推薦文】
直視できない現実を証言する作者の簡潔な言葉を、訳者は澄み切った日本語に変換し日本の読者に届ける。これらの言葉を最終的に紙に定着する前に、訳者はポーランド語と日本語で何度この現実を反芻しなければならなかったのだろう。苦痛に耐え、ホロコースト証言文学の古典を日本語に移しきった訳者の忍耐と才能に敬服する。親切な訳註もついており、地名や複雑な名称を理解するのに役立つ。本文百頁の比較的薄い本ではあるが、八編の短編どれをとっても、読後感は数百頁の小説に劣らず、全て読み通すとぐったりと疲れてしまうほどだ。

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【推薦者】林 浩治
【推薦作品】『生姜(センガン)』
【作者】千雲寧(チョン・ウニョン)/
【訳者】橋下智保
【推薦文】
韓国独裁政権時代の拷問技術者とその家族の煩悶を描いた小説。韓国が民主主義を闘い取っていく過程で、権力の末端にいた者の凋落する姿と、その思春期の娘の成長と自立を描いた。時代のひずみに苦闘する少女を創造して、作者は歴史と政治のなかに個人としての人間が生きていく逞しさとひ弱さを同時に見せてくれた。


【推薦者】よだみな
【推薦作品<1>】『ユリシーズを燃やせ』
【作者】ケヴィン・バーミンガム
【訳者】小林 玲子
【推薦文】
今では教科書にまで載るような名作『ユリシーズ』。とはいえ、本書を読むと、出版に至るまでの経緯は、群像劇のようだった。当時の社会事情がていねいに説明されていて、この本がよく出版できたな、と思わせる力量がすごかった。『ユリシーズ』を読んだ人は必読。

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【推薦作品<2>】『死すべき定め――死にゆく人に何ができるか』
【作者】アトゥール・ガワンデ
【訳者】原井宏明
【推薦文】
老いていくことと、死んでいくことの生々しさがにじみ出た傑作。ぽっくりいけることがどんなに幸せか、家族に囲まれて看取られることがなんて贅沢なのか考えさせられた。

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【推薦者】田仲 真記子
【推薦作品<1>】『年月日』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
2014年に『愉楽』の翻訳で日本の読者に閻連科の魅力を思う存分伝えてくれた訳者が、趣きの異なる中編を訳した。学校の図書館にも似合いそうな含蓄に富んだ感動的な寓話と思いきや、閻連科らしさがそこここに散りばめられた一筋縄ではいかない作品。食料をつけ狙うネズミとの攻防や、腹を減らしたオオカミとの対峙、さらに感動的なクライマックスさえグロテスクな表現に彩られ、緩急自在に読者を愉しませる仕掛けが満載。それなのに読後の印象は軽薄に流れず、静かな余韻に満ちあふれている。谷川さんの翻訳は、この作品の多彩な魅力を誠実に、ていねいに読者に伝える橋渡しをしてくれる。

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【推薦作品<2>】『テラ・ノストラ』
【作者】カルロス・フエンテス
【訳者】本田誠二
【推薦文】
凡庸な読者にとっては、とにかくページをめくり終え、最後まで読み通すだけで達成感を得た難解な大作。同名の登場人物は各所に出てくるし、物語は時空を超えて自在に展開する。二段組1079ページの圧迫感だけでなく、長大かつ複雑な物語を咀しゃくする強靭でしなやかな想像力が読者に求められる。この作品を翻訳する、という行為がどれだけの時間と集中と疲労と喜びを訳者にもたらしたのか、想像することさえできない。いつか再読することで訳者の仕事に応えたい、と思う。
ちなみにこの作品が二次選考や最終候補に残ったら、選考委員はこれを読み通すのでしょうか。それはそれは楽しい時間になるはずだけれど、10日間ぐらい他のことは手につかなくなります。

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【推薦者】雀來豆
【推薦作品】『宇宙探偵マグナス・リドルフ』
【作者】ジャック・ヴァンス
【訳者】浅倉久志・酒井昭伸
【推薦文】
さて、なにか質問はおありかな?
と、推薦文にはふさわしくない一行から始めることについては、ヴァンスファンなら、いいよいいよと褒めてくれるだろう。いわば、お決まりの導入部であり、これで掴みはOKというつもりなのだが、果たしてどうか?

さてさて、これは「SFミステリ」である。といえば、心配になるむきも多いだろう。「SFミステリ」というジャンル自体が持つ怪しさに、不安を感じる方も多いだろうと思う。実際に、世の中には、SFミステリと称しながら、ミステリファンからも、SFファンからもソッポをむかれるような作品が多いのである。

でも、心配は無用だ。この作品は、間違いのない傑作だ。SFとミステリが見事にまだら模様に融合し、軽快で、痛快で、ダーティでシニカルな探偵をイキイキと描きだしている。どれくらい面白いかというと、まさに、「人に薦めるのが惜しい級」なのである。

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【推薦者】光枝 直紀
【推薦作品<1>】『テラ・ノストラ』
【作者】カルロス・フエンテス
【訳者】本田誠二
【推薦文】
何もかもが圧巻。破格的語り、破格的ストーリー、破格的文体、破格的スケール……。フエンテスは「最後まで読んでもらおうとは思っていなかった」らしいが、捲るページは重く、フエンテスの華麗かつグロテスクで奇怪なテクストは読者の頭を最高度に惑わせる。現代からスペイン王宮時代へ、新世界へ、縦横無尽に行き来する物語は、もっと大きな時間とスケールの中で見事に完結するかのよう。このような作品を日本語で読めること自体が一つの奇蹟でした。

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【推薦作品<2>】『水を得た魚』
【作者】マリオ・バルガス=リョサ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
『水を得た魚』で見られるのは、リョサが『フリアとシナリオライター』などで描いた二つの時空の異なる物語を並列させて描く手法。リョサの自伝的なエピソードがおもしろおかしく語ってあるということで、小説家であるリョサの背景を読み解く一つの重要な資料としても価値がある。それにしても面白い!「文学青年」リョサが色んな文学作品に出会ったり、「政治的リョサ」ではペルーの大統領候補選に至るまでの、国政治の腐敗、貧困の酷さ、権力闘争にまつわる難しさなどが如実に語られていて、どんなフィクションよりもリアルである。この本の翻訳の功績は非常に大きい。

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【推薦者】柘榴石
【推薦作品】『奇妙な孤島の物語』
【作者】ユーディット・シャランスキー
【訳者】鈴木仁子
【推薦文】
ブックデザイナーでもある著者が自由に制作した原書に比べ、翻訳では、訳者、デザイナー、印刷や組版など、多くの人々が協力しているはずだ。原著者のこだわりもあっただろうし、オリジナルを出すよりずっと大変だったのではないだろうか。
事実を淡々と述べながら叙情的な文章は訳文としても読みやすいし、大量のマイナーな地名のカタカナ表記などにも訳者の苦労が窺われる。のみならず、上記のような翻訳ならではの労を厭わずこの本を出すことを決め、日本の文芸書として美しく手の込んだ本を作り上げた編集者や出版社をも、授賞式で労っていただければと思う。

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【推薦者】ブラック
【推薦作品】『黒い本』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】鈴木麻矢
【推薦文】
パムクの翻訳本をいくつか読みましたが、鈴木氏ほどトルコ語を日本語に見事に訳す方は他にいないと思いました。
おかげで小説の世界に引き込まれ、難しい言い回しもありましたが、それがまた読み応えを与え、かなり満足のいく1冊になりました。
鈴木氏にはもっともっと他の小説も手掛けて頂きたいと思いました。

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【推薦者】小平キキ
【推薦作品<1>】『トランペット』
【作者】ジャッキー・ケイ
【訳者】中村和恵
【推薦文】
トランスジェンダーの天才トランペッターが死んだところから始まる。登場人物たちそれぞれの一人語りで物語が紡がれる。特異なトランペッターをめぐる語りが、家族とは何か、死とはどういうことか、子はどう自立するか、という普遍的なテーマを浮かび上がらせる。訳文がとにかく美しく、ときに激しく、淋しく、愛に満ちて……

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【推薦作品<2>】『マグノリアの花 珠玉短編集』
【作者】ゾラ・ニール・ハーストン
【訳者】松本昇、西垣内磨留美
【推薦文】
アメリカ南部のフォークロアをベースにした魅力あふれるハーストンの短編を、雰囲気たっぷりに訳している。アメリカ南部の暑さと湿度、黒人たちの息遣い。ずっと前に書かれた、ずっと前の物語だが、古さを感じさせない。

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【推薦者】ユーナ
【推薦作品】『韻文訳 妖精の女王』
【作者】エドマンド・スペンサー
【訳者】福田昇八
【推薦文】
原作はシェイクスピアと同時代に、詩人スペンサーによってエリザベスI世に捧げられた長編叙事詩で、質量ともに英文学の最高峰を誇る。アーサー王物語を題材に、妖精国女王の命を受けた騎士達が、貴婦人や魔女・竜などをめぐって冒険を繰り広げる騎士道物語で、当時の政治・宗教を盛り込みつつ、騎士が体現する徳の姿を示す寓意物語である。本書は過去に二度『妖精の女王』散文訳に携わった訳者が、従来行われてきた意味重視の散文訳とは異なり、原詩の韻律の響きまで忠実に反映させた、日本の西洋叙事詩翻訳における初の試みという。長編であるうえに、邦訳すると分量が1.5倍になるため、これまで『妖精の女王』読破に挫折した読者もいるだろう。本書は朗誦に適した口語の七五調の採用によって問題を解決し、分かりやすく生き生きとした日本語訳によって、読者を飽きさせず、最後まで楽しく読ませる。生きた詩人の姿が、日本で初めて全貌を現したといえる。


【推薦者】コウ
【推薦作品】『陽気なお葬式』
【作者】リュドミラ・ウリツカヤ
【訳者】奈倉有里
【推薦文】
1991年のソ連邦崩壊の瞬間をテレビで目撃する、ニューヨーク在住のユダヤ系ロシア人たちが描かれ、イタリア人や黒人や、ラビや正教の神父も登場。主人公アーリクは人としての才能に溢れた人だったのだと思う。女と出会い、愛し合うアーリクを不愉快だとは思えないのは、読者もまた、アーリクを愛さずにいられないからか。最後の最後まで、自由に陽気であり続けたアーリク。「カラフル」という表現が似合う、軽やかで奥深い描写と、それにマッチしたみずみずしい訳文が新鮮であった。どこにも湿っぽさがない。思春期の女子や別れた妻や愛人それぞれの視点を取り込みながら、非常に一体感のある不思議な小説である。

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【推薦者】ちくわぶ
【推薦作品】『神経ハイジャック もしも「注意力」が奪われたら』
【作者】マット・リヒテル
【訳者】三木俊哉
【推薦文】
2006年9月22日にアメリカのユタ州で起きた交通事故で、二人が亡くなる。ところが事故の原因となったドライバーは、何が起きたのかすら分かっていなかった。携帯電話のメールに気を取られ、周りが全く見えていなかったのだ。
事故の経緯を追い、科学的に人の注意力の特性を調べ、ながら運転の恐ろしさを訴えると共に、交通事故が被害者の遺族・加害者とその家族に与える壊滅的な影響を生々しく暴き、またアメリカの市民運動を支える人々の力強さも生き生きと描く、迫真のルポルタージュ。
誰もがスマートフォンを持つ今、この本が訴える危機はすべての人に降りかかってくる。

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【推薦者】みけねこ
【推薦作品<1>】『黒い本』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】鈴木麻矢
【推薦文】
消えた妻を探すというミステリーの形式を借りて、個人、トルコ、文学を語り尽くすパムクの手際は驚異的だ。それでいて深い余韻が残る。主人公ガーリップとともに新聞のコラムを読み、イスタンブールを徘徊するのはとても濃密で幸福な読書体験だった。そうした幸福な読書を可能にしてくださった翻訳者鈴木さんの、この多層的で迷宮のような小説を翻訳してくださったご苦労に感謝して。

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【推薦作品<2>】『ポーランドのボクサー』
【作者】エドゥアルド・ハルフォン
【訳者】松本健二
【推薦文】
ユダヤ系でグアテマラ人の作家、グアテマラの小説のはずなのにタイトルにはポーランド。この小説何なの?と思われるかもしれません。でも、境界にいる人々、境界を越えていこうとする人々を自伝的でありながら想像力豊かに描いて、これがすばらしいんです。特にミラン・ラキッチの物語とその手紙を手がかりにした作品たちにはベージを繰る手がとまりませんでした。3つの短編集をひとつにまとめた日本オリジナルの構成とのこと。それを含めて、このキラリとした作品を紹介してくださった松本さんと白水社には感謝の気持ちでいっぱいです。どこかで見かけたら、頭の中が「?」でいっぱいになっても、どうぞお手にとってみてください。

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【推薦者】新田 享子

【推薦作品】『アシュリーの戦争』
【作者】ゲイル・スマク・レモン
【訳者】新田享子
【推薦文】
終わりの見えないイスラム世界とアメリカの戦争に女性だけの特殊部隊をアフガニスタンに派遣する話だが、前線や訓練の様子を女性目線で描いていて新鮮。戦場のメイク、食事、トイレ、ユニフォーム、帰りを待つ夫や男親、戦争における通訳者の苦労など。男女が逆転していることで、普段は語られることのない戦争の様々な側面が描かれ、感動だけでなく疑問を抱かせ、考えさせられる。思わず映像を思い浮かべてしまう平明な文体もすばらしい。なぜそこまでして彼女達は前線に立ちたかったのか、愛国心という自己実現だけのためなのか、おそらく読後に皆思うことだが、一考の価値のある疑問だ。

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【推薦者】ソーダ アイス
【推薦作品】『ラスト・ウィンター・マーダー 』
【作者】バリー・ライガー
【訳者】真木満園
【推薦文】
さよならシリアルキラーシリーズ3巻を通して、魅力的なキャラクターたちが躍動していました。愛情深いガールフレンド、人がいいが病弱で問題児な大親友、狂った家族、自分が正気を保っていられるのかを疑心暗鬼になっている主人公。各巻毎に新しい登場人物たちが登場し、事件への関与の仕方も様々。すんなり感情移入できるのは、翻訳の妙。この方にはどんどん翻訳をしてほしい。

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【推薦者】千葉 聡
【推薦作品<1>】『あの素晴らしき七年』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】秋元孝文
【推薦文】
イスラエル生まれの流行作家による自伝的エッセイ集。30編ほどの短いエッセイの中には、人生の深刻な側面に触れてもユーモアを忘れない逞しさが感じられる。無理に笑おうとするのではなく、周囲を少し違う角度から眺め、物書きの誠実さを持ち続けようとしている。
訳文は平明で読みやすく、90年代の日本の若手作家の文章ような雰囲気。
明るい語り口に耳をすませているうちに、急に遠い場所に連れていかれてしまう。ぜひご一読を。

書影

 

【推薦作品<2>】『シャーロック・ホームズ大図鑑』
【作者】デイヴィッド・スチュアート・デイヴィーズ ほか
【訳者】日暮雅道
【推薦文】
シャーロック・ホームズに関するありとあらゆる事柄が解説されている。百科事典のような常識的解説ではない。解説文はどれも長く、読者に一冊を通読させることを想定している。ホームズが登場するすべての長、短編の内容に触れており、まるでホームズという実在の人物の評伝のように思える。
ただし、ホームズものを未読の方は絶対読んではいけない。作品解説は、どれもネタバレばかりだから。

書影

【推薦者】まぐりふ
【推薦作品<1>】『怪談おくの細道』
【作者】作者不明
【訳者】伊藤龍平
【推薦文】
江戸時代の俳諧説話本「芭蕉翁行脚怪談袋」の現代語訳。1つ1つのエピソードに付記された訳者による解説が、むしろ本編以上に楽しい。時に作品の背景を詳細に解きほどいたり、時に破綻した内容に身も蓋もないツッコミを入れたり。訳によって原書の面白さが最大限に引き出された好例と思う。

書影
【推薦作品<2>】『処刑人』
【作者】シャーリィ・ジャクスン
【訳者】市田泉
【推薦文】
思わせぶりで仄めかしに満ちた原作の繊細な空気を、そのまま再現することはとても困難と思うが、日本語としての読みやすさを損なうことなく訳出していると感じた。自らの不安を皮肉や悪意で覆い隠そうとするかのようなヒロインの独白は、その鋭利さと脆さが訳文からもしっかりと感じられた。
書影

【推薦者】えんがわ
【推薦作品】『ニコマコス倫理学』
【作者】アリストテレス
【訳者】渡辺邦夫・立花幸司
【推薦文】
アリストテレスは退屈で凡庸、と言われることもあるようなのだけど、私にとってのアリストテレスはまっとうなことをまっとうに言う、という実務的な現実主義者で、個人的にはその割り切った考え方に好感を持っている。本書で特に興味深いのは前半3巻で、様々な概念を切り分けて明らかにしていくのだけど、ここでの考えの進め方、その切れ味、ダイナミックさがとても面白い。それはどちらかと言えば、道の正しさというよりは道筋の面白さを味わうようなものだと思う。また、こうした哲学書では大体の場合、脳内で、文意を補ったり前の議論を参照したり、という作業を行いながら読み進めることになるのだけど、この本ではその補い方が丁寧で、かつ「ここは補っている」ということが明確にわかるようになっている。そのおかげで、補い方を無視してみたり、検討してみたり、といった読み方も楽しめる本になっていると思う。

書影

【推薦者】大澤 さつき
【推薦作品】『黒い本』
【作者】オルハン・パムク
【訳者】鈴木麻矢
【推薦文】
翻訳小説でこれほどの傑作があり得るのか。まず、本書はかなりの難解だが、しかしそれは決して翻訳書であるがゆえではない。そもそもノーベル賞作家オルハンパムクの長編小説たるもの。超絶した文章表現のほか、書中にいくつかの仕掛けが存在する。その巧みさは文学書を超えて芸術的だ。例えば、奇数章は主人公主体で物語が描かれ、偶数章は物語の鍵を握る人物による新聞コラムという組立て。コラムは、主人公の推理を導く重要な役割を果たす一方で、その奇想天外なテーマが我々読者を異世界へといざなう。さらに暗喩として物語全体の主題へと絡み合っているのだ。そして最終章に突如現れるパムクの語りは圧巻である。読者が「夢遊病者」のように酩酊していることもお見通しだ。作者が拘る「文章」による仕掛けこそ、この本を難解にしており、そして深奥を究めた翻訳はこの傑作を立体的に楽しませてくれる。

書影

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【推薦者】木村 朗子
【推薦作品】『アメリカーナ』
【作者】アディーチェ
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
『アメリカーナ』の主人公は、ちょっとハッチャケた感じの女の子。その感じを気持ちよく楽しめる翻訳でうれしくなる。初恋のそして生涯の恋人のあだ名が「シーリング」なのだけれど、ここはやっぱり「天井くん」なんかではダメなわけで、といった、そんな細かいところを含めて、とにかくウキウキと読める。

書影

【推薦者】鈴木sun
【推薦作品】『夜、僕らは輪になって歩く』
【作者】ダニエル・アラルコン
【訳者】藤井光
【推薦文】
南米=明るい、というイメージを覆す小説。人間の奥底に潜んでいる狂気がうっすらと見え隠れして、読み進めるほど恐ろしくなってしまいました。

書影

【推薦者】白井藤子
【推薦作品】『Inside IS 10 Tage im “Islamischen Staat「イスラム国」の内部へ 悪夢の10日間』
【作者】ユルゲン・トーデンヘーファー
【訳者】津村正樹、カスヤン・アンドレアス
【推薦文】
「対立する二つの、どちらの意見も聞かなければ真実は分からない」という信念に基づいて、IS領内を取材したルポタージュ。この本を読むと、西側諸国の違法行為における知識と共に、どうしてISができたのか、どうしてIS戦闘員でいるのか、などの疑問に対するの生の返答を聴くことができる。
日本でもこのルポタージュは読まれるべきだと、翻訳・出版に尽力した翻訳者。後書きに、いろんな出版社に出版を断られたと書いてある。いろいろな人の思いと使命感によって、この本を手に取って読むことができ、ISのこと、イスラム教のことを考えるきっかけをくれた。

書影

【推薦者】山川高史
【推薦作品】『アシュリーの戦争 -米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録』
【作者】ゲイル・スマク・レモン
【訳者】新田享子
【推薦文】
2011年当時、米軍を中心としたのアフガニスタンでの対ゲリラ戦争において、女性兵士が戦争前線で活躍する先駆けとなった女性部隊のドキュメンタリー。
映画を観ているような生々しさがあった。訓練の様子や仲間・家族とのやりとり、登場人物の内面、戦場の描写、そして、物語の展開。それでいて、活字の方が、映画よりもドキュメンタリーの重さを感じるようにも思えた。国を守ることと戦争、誇りと戦場に自己実現の場を求めること、そして、その日米の差。また、社会における男女差、自己鍛錬やリーダーシップ・チームワークと友情、家族の愛、といった一般社会共通のテーマ。と、いろいろ考えさせらるものであった。実話だけに、主人公の結末、そしてその後の各人物の物語も、心に沁みた。

書影

【推薦者】赤井 直美
【推薦作品】『アシュリーの戦争 -米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録』
【作者】ゲイル・スマク・レモン
【訳者】新田享子
【推薦文】
元の著作が英語で書かれたもの、と感じさせない、自然な文章と等身大の現代女性の言葉遣いで一気に読めた本であった。そして、その淀みない日本語のおかげで、この物語の中にあまりにもたやすく入り込み、結果その物語に大きな衝撃を受けた内容だった。
現在自分も住むこの世で、しかも先進国であるはずのアメリカで、にわかには信じ難い男尊女卑がある現実、日本人にはわかり得ない戦闘への強い欲求、「戦争の最前線に行きたい」、「行って自分の力を出し切って戦いたい」=国を守るという前提で人を殺したいのか?と最後まで疑問を抱きながら読んだ。
この本の中には、スターはいない。ただ自分の職業を大切に思い懸命に努力を続ける、どこにでもいる女性達がいるだけ。そして訳者自身が誰よりもそのことを良くわかってこの本を読んだ一人、と感じることが出来た。

書影

【推薦者】エレーナ デバラスク
【推薦作品】『拾った女』
【作者】チャールズ・ウィルフォード
【訳者】浜野アキオ
【推薦文】
32年生きてきてはじめて読んだノワール小説がこれ。とにかく最後の仕掛けにはやられた。読み応えのある「物語」でその他の作品も読みたいが、どれも絶版。チャールズ・ウィルフォードの作品をもっと読みたい!

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【推薦者】バンデラス
【推薦作品】『傷だらけのカミーユ』
【作者】ピエール・ルメートル
【訳者】橘明美
【推薦文】
部下に裏切られ、妻を殺されたカミーユ警部事件簿最終巻です。
今作では強盗犯を目撃したカミーユの恋人が命をしつこく狙われます。前作同様、どんでん返しと細かなカミーユの心理描写は健在。事件当日を含めてわずか3日間しか描かれませんが、警察の動き・常に裏をかいた犯人の行動・カミーユの焦りと苛立ちが入れ代わり立ち代わり描写され、息つく暇がありません。何より主人公と女性の絡め方が巧くて、伏線回収もかなり大規模でした。また、スピード感を煽るように、短い描写とセリフが連なった訳文のため描写は軽快で、与える印象は非常に重たいものになっています。
事件の傍観者の視点で読んでいたはずが、気付くとカミーユの視点で事件を見ていて、読み終わった後に深々とため息をついてしまいました。感情移入度ではベストの作品でした。

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【推薦者】化け猫 あんず
【推薦作品】『マナス』
【作者】アルフレート・デーブリーン
【訳者】岸本雅之
【推薦文】
この物語に合うやわらかで力強い魔術的で独特な日本語訳が記憶に焼きついた。もうこの訳でしか記憶が再生されないと思う。内容も翻訳もすばらしかったです。

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【推薦者】三柴ゆよし
【推薦作品】『襲撃』
【作者】レイナルド・アレナス
【訳者】山辺弦
【推薦文】
アレナス畢生の<ペンタゴニア(苦悩の五部作)>、その最後を飾る本書『襲撃』は、第一作『夜明け前のセレスティーノ』から十有余年の月日を経て、またいかなる偶然か、フィデル・カストロの死という、大きな歴史的転換点に重なるかたちでの翻訳、出版となった。
ほとんど幼児的ともいえる想像力に満ちた物語はもとより、文体のうえでも、セリーヌやギュイヨタを髣髴させる暴言や、多くの言語遊戯が駆使されており、日本語への翻訳は困難を極めたとおもわれる。
輓近、いくつかの叢書が発刊され、新しい作家のみならず、いまだ訳されざる古典作品の紹介も進むラテンアメリカ文学のなかでも、その期待値の高さを裏切らない内容と翻訳の精度ゆえ、ここに第三回日本翻訳大賞に推薦するものである。


【推薦者】timeturner
【推薦作品<1>】『奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』
【作者】ユーディット・シャランスキー
【訳者】鈴木仁子
【推薦文】
海によって隔絶された場所、閉ざされた空間でしか起こりえない人間ドラマの数々。実話に基いているにも関わらず、いや、だからこそ、起承転結や納得のゆくエンディングはなく不思議に幻想的だ。よけいな飾りを排したそっけないくらいの文体なのに、情景描写には強いイメージ喚起力があり、ほのかなユーモアや鋭い批判精神も垣間見えて、上質なショートショートを読むように楽しめる。翻訳の力が大きいと思う。

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【推薦作品<2>】『トランペット』
【作者】ジャッキー・ケイ
【訳者】中村和恵
【推薦文】
センセーショナルな題材を扱いながら下卑たところがない。死んだ人間について妻が、息子が、ジャーナリスト、友人、母親、幼馴染、医師、葬儀社員、戸籍係が語るうちに、語り手それぞれの生き方が見えてくる。しかもその語り手ごとに独自の音色やメロディ、リズムがあり、その音からも語り手の性格が響いてくるところが凄い。詩人でもある作者ならではの魅力的な文体だと思ったし、それを読者にも感じられるよう日本語にうつしとった翻訳も素晴らしい。

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【推薦者】中島 はるな

【推薦作品】『秘密の花園』
【作者】バーネット
【訳者】畔柳和代
【推薦文】
少女の時、私たちは沢山の未知なるものに囲まれ、胸を高鳴らせていた。その正体を知った大人の女性たちにもう一度読んで欲しい。
子ども時代の読書を振り返るとき、女性の多くの人がこの物語を思い起こすではないだろうか。読み終わったあと、土を掘り返して鍵を探したり、自分だけの庭づくりに励んだ人もいるだろう。当時の胸の高鳴りは、大人になった今、どのように彼女たちの体内で響くのだろうか。
児童書としてではなく、大人向けに新たに訳された本書は、もはや単なる時の流れでしかない季節の移り変わり、意識さえしない呼吸、体温、それらの当たり前をキラキラと輝かせ、生きる歓びを教えてくれる。大仰な表現ではあるが、そうとしか言いようがない。
読んだそばから目の前の景色が変わる幸せを感じて欲しい。

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【推薦者】奥村 ペレ

【推薦作品】『テラ・ノストラ』
【作者】カルロス・フエンテス
【訳者】本田誠二
【推薦文】
物理的に重い本だ。なぜか。フェリペⅡ世にとって「書かれたものだけが事実であり、それ以外は真実である証明をもたない」(本書)、だから書物は紙数をかさね膨大な重量をなす。ヘーゲルはいう。事実としての出来事は書かれることによって初めて歴史として認識されると。では物語=歴史は直線性をその宿命とするのか。ここがキモだ。本書はフエンテスの「時間を巡る物語」である。彼はいう。歴史は無数の出来事の可能性を孕んで円環し、存在するものはすべて思考され、思考されるものはすべて存在すると。意識もそうだ。無数の可能性から無数の他の可能性を排除して成立している。ではどこに存在するのか。それは情報として私たちの意識・記憶のなかにだ。その情報は時間を超越する。フエンテスはいう。書かれたものの神秘が空想的であればあるほど人はそれを真実とみなす。現実は病んだ夢。ユートピアは未来でなく無数の可能性から選択された現在のことだと。

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【推薦者】炊飯器
【推薦作品】『むずかしい年ごろ』
【作者】アンナ・スタロビネツ
【訳者】沼野恭子・北川和美
【推薦文】
SF的な要素や文体レベルでの反転を重ね、恐ろしくも日常生活のつらさや疲労が立ち込め、切ない印象を受けるホラー短編集。
表題作はなによりも語るということを恐怖の核としていて、読者を信頼した書き方はぐっとくる。簡単にあらすじをいうと、蟻がやばい。
収録作すべておもしろかったが、「生者たち」は本当にすばらしかった。読み手の予想が滑らかに裏切られ、柔らかな語りが急激に張り詰めていく。終末的だがどこかとぼけた、それ故に寂しさに満ちたこの短編は幻想・奇想文学のなかでも群を抜いていると思う。ぜひもっと読まれてほしい。
78年生まれのスタロビネツが26歳のときに刊行した本書が初の邦訳書であり、訳者あとがきによれば自身でも”ハイブリッドな作家”だと語る彼女の作品がデビュー以降どのように進化しているのか、アンナ・スタロビネツの続刊を一刻も早く日本語で読みたい。

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第二回日本翻訳大賞 推薦作品リスト

 

2016年2月5日(金)23:59まで第二回日本翻訳大賞の候補作を募集しています。

ここでは皆さまから推薦をうけた作品と推薦文をご紹介致していきます。

※推薦文のすべてが掲載されているわけではありません。予めご了承ください。

 


【推薦者】ブリキの太鼓腹
【推薦作品】『文学会議』
【作者】セサル・アイラ
【訳者】柳原 孝敦
【推薦文】
表題作の「文学会議」は、個々の文章は難解でもなく複雑なこともない。読みやすいと思う。しかし、語り手の小説家でマッドサイエンティストの<私>の思考(次から次と浮かぶ考え(脳の活動過多らしい)や野望、論理の飛躍、脱線等含む)と行動(後戻りは出来ず前進あるのみの行動や自らを完璧主義者と言いながら完璧ではない行動等)と環境(文学会議やそれが開催される都市やカリブ海域等)が相互に作用して導かれる出来事は、思考と行動と環境といった個々の要因からは説明できないのである。また、読んでいる間この先どうなるのか予測するのは困難である。でもデタラメというとのとは違う何がしかの秩序があるように感じる。これは複雑系のひとつのモデルを小説で表現した作品かもしれないと勝手に妄想している。でも複雑系がどうたらといった理屈抜きで読みだしたら「なんだこりゃあ」の連続で読むのをやめられない最高に面白い体験ができた。

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【推薦者】芝田 文乃
【推薦作品】『ディブック/ブルグント公女イヴォナ』
【作者】S・アン=スキ/ヴィトルト・ゴンブローヴィチ
【訳者】赤尾光春/関口時正
【推薦文】
イディッシュ語のユダヤ演劇『ディブック』とポーランド語の不条理演劇『ブルグント公女イヴォナ』、戦間期に書かれた二つの戯曲がいまこうして日本語で一冊にまとめられたことは奇蹟的であり、大変喜ばしい。そして二作とも日本語で上演されたことを言祝ぎたい。これを機会に、戯曲を読む楽しみを知る人が増えますよう、また、戯曲の出版が少しでも増えますようお祈りしています。

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【推薦者】浅野 泰弘
【推薦作品】『突然ノックの音が』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】母袋夏生
【推薦文】
著者がイスラエル出身で映画監督としても活躍しているとのことだったので、ひょっとして…と調べてみたら奥様とともに映画『ジェリーフィッシュ』の監督を務めた方だと判って手に取った次第。全部で38の短篇が収録されていて、短いものは2ページ、長くても22ページで大半は5~8ページほどの長さ。どれも一風変わっていて面白かったけど、中でも好きなのは「嘘の国」「青あざ」「ポケットにはなにがある?」「アリ」「金魚」あたり。ヘブライ語は皆目分からないが、原作の持つウィットを充分に伝えてくれていると思われる訳業を評価したい。

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【推薦者】HN あこ
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子

【推薦文】
昨年末に素晴らしい恋愛小説を読むことが出来た。女性が女性を愛することにはさほど重きをおかず、まだ幼い精神の持ち主である主人公が、年上のミステリアスな相手を一瞬にして愛し、葛藤し、そして成長していく物語の流れは青春小説のようでもある。読了した読者は、成長した主人公が最後に選ぶ道筋の凛とした空気感を肌で感じることが出来るだろう。恋愛に付きまとう様々な喜びや悲しみ、苛立ちを潤沢なエピソードと比喩で楽しむこともできるだろう。またハイスミス独特の恋愛に対する心の機微を描いた表現方法を読み取れたのは、敏腕翻訳者の力量の賜物であると思う。ハイスミスのあとがきを読むと、彼女がレッテルを貼られることを嫌っていることがわかる。読者が小説をどのように読み、どのような感想を抱くのかは自由だが、私は彼女の意思を尊重したい。これは、一人の人間が一人の人間に恋をする過程とその心の揺れを純粋に、そしてハイスミスらしく時にサスペンスフルに描きあげた小説である。読む人によって結末をどのように受け取けるとめるのか楽しみであり、多くの人に読んでもらいたい小説だ。

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【推薦者】阪上 英祐
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子/パトリック・オノレ
【推薦文】
語られた言葉をいかに文章として書きつけるか。失われていくクレオール語をいかにフランス語の中に植えつけるか。街場で人々が語る民話をいかに文学としてあらわすか。小説とはこれまでずっと、いまこの瞬間に感じた刹那的な何かを、忘れないために、永遠とするために、そしてあなたに伝えるために書かれてきた。そんなその場限りの言葉を小説として書き伝えようとした作者と、その小説をさらなる異言語によって書き伝えようとした訳者たち。本書はこの二重の不可能性の中にあり、作者と訳者は書き伝えることの不可能性を共有している。こんなふうに言うと難しく聞こえるかもしれない。けれどもこの二重の不可能性の末に生まれた言葉は、あたたかい。太陽の下にあるカリブの海のように。あるいはその言葉と同じようにほとんど不可能な歴史を生き延びてきたカリブの島に住む人々のように。一人でも多くの人にこの言葉を聴いてもらいたい。そう思って推薦します。

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【推薦者】mint
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子

【推薦文】
戦争により両親を失い、孤児になった主人公が新たな家族に出会い、バレリーナとして成功していくこの物語は、読む者に勇気を与えてくれる。偏見や差別に心を傷つけられながらも、大好きなバレエと家族の愛に支えられ、たくましく希望を失わずに生きているミケーラ。彼女の前を向いてひたむきに歩んできた姿に心を打たれた。まだ十代の少女が歩んできたとは思えない信じられない現実が、実際に体験した人だからこその語り口で進められる。それは時に溢れ出る感情を隠し切れない言葉であったり、時に非常に冷静に自分を見つめている言葉であったりする。本書の素晴らしい翻訳によって、ミケーラのその時々の素直な気持ちを、読んでいる私たちはミケーラの目になって感じることができるのである。

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【推薦者】H masa
【推薦作品】『動きの悪魔』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
二十世紀初頭のポーランド作家の怪奇小説集。当時最先端だった鉄道をテーマにしたというのも面白い。今までほとんど紹介されてこなかった東欧の幻想的な作家や作品も、さらに翻訳されることを願う。

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【推薦者】宮越鶏三
【推薦作品】『出身国』
【作者】ドミトリイ・バーキン
【訳者】秋草俊一郎
【推薦文】
内容は掴み難いが、キャッチーな設定(心臓に宿った銃弾etc…)や、幾つかの場面が鮮烈でとっても格好がよく、しびれてしまった。私は特に『葉』のラスト、忘れがたい。作者の特色である一文の長大さを日本語に置き換えた訳業も凄い。基本的には平易でありながら、丁度よいところで新鮮な表現が混じり込んできて、読んでいて混乱することも、飽きを感じることも、一度として無かった。作品への没入はこの訳文なくしては、ありえなかった。蛇足ながら、作者は2015年に、亡くなっている。作家個人にまつわる背景を加味しての投票は、冷静な判断とはいえないかもしれないが、この年この回を逃したら、ドミトリイ・バーキンという作者に票を投じる機会は(少なくとも翻訳大賞においては)訪れないかも……そう思うと、どうしても推したくなってしまった。感傷的で恥ずかしいのですが、おおめにみて頂きたいです。

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【推薦者】ヤヤー
【推薦作品】『火打箱』
【作者】サリー・ガードナー
【訳者】山田順子
【推薦文】
アンデルセンの物語に、サリー・ガードナーがさらに奥行きを与え、デイヴィッド・ロバーツの挿し絵がその時代背景を想像する手助けをしてくれます。昔話らしくちょっと古くさい言い回しを使ったり、ヒロインの名前を「サファイアー」と表記したのも効果的です。数々の苦難を乗り越えて幸せをつかもうとした主人公の運命は…。子どもから大人まで読めます。わたしは一応大人なので、ガードナーの準備した歴史の舞台を、これから読み込もうと思っています。

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【推薦者】勘解由小路綾三郎
【推薦作品】『さよなら、シリアルキラー』
【作者】バリー・ライガ
【訳者】満園真木
【推薦文】
連続殺人鬼の息子が連続殺人事件を解決する三部作の青春ミステリ小説でこれは第一巻。「殺人事件なのに青春?」と戸惑いながら読み始めましたが読み進んでいく内に納得しました。思春期であることに加えて連続殺人鬼の息子であることなど様々な悩みを抱えながらも恋人、友人と乗り越えて事件も解決する様が良く描かれていると思いました。また事件解決の中で度々出てくる登場人物たちの掛け合いも見所です。そして何よりも読みやすい訳だと感じました。2015年に読んだ小説の中で一番印象に残りました。大満足です。

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【推薦者】伊集院 祥久
【推薦作品】『ぼくたちは戦場で育った サラエボ 1992-1995』
【作者】ヤスミンコ・ハリロビッチ
【訳者】角田光代
【推薦文】
本書を読む前の私は想像力こそ現代に欠かせないものだと信じていました。明日の私には断食はできても飢えることはできません。だから体験できないことは想像するしかないと思っていました。ですが『ぼくたちは戦場で育った』を読んで、想像するよりも前にもっと知るべきことが沢山あると私は気付きました。例えば、この本に書かれている1000人以上の人たちのことです。私が読み終わったあとに想像した戦争の姿は、読む前に想像したものとは明らかに異なっていました。友だちが撃たれる現実に地下室で子どもたちが仮装舞踏会をしている光景が広がり、立体的に人間が殺し合う戦争が浮かんできました。たくさんの人に読んでもらいたい本です。

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【推薦者】林さかな
【推薦作品】『ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち』
【作者】タミ・シェミ=トヴ
【訳者】樋口範子
【推薦文】
コルチャック先生の最期について自分が救われる道があったにも関わらず子どもたちと共に強制収容所に向かったことが知られています。しかしこの物語では、コルチャック先生が「孤児たちの家」をつくり子どもたちを尊重した場で子どもたちに寄り添った時のことを――、それをひとりの少年の視点で描いたのがこの物語。作者は子どもの尊厳を認めたコルチャック先生を語っています。ヘブライ語から翻訳されたのは樋口範子さん。自身も児童養護施設の保育士の経験があります。いまは山中湖でおつれあいさまと喫茶店を経営しながら翻訳をされています。

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【推薦者】松田 青子
【推薦作品】『ムシェ 小さな英雄の物語』
【作者】キルメン・ウリベ
【訳者】金子奈美

【推薦文】
 「お前は英雄の物語を書くべきだよ」と亡き友人に言われた作家は、スペイン内戦時に疎開児童を受け入れ、第二次世界大戦で対独レジスタンス運動に関わった、ベルギー人のロベール・ムシェという男性のことを知る。遺品や家族と友人たちの証言から、作者はロベールの人生をつなぎ合わせていく。家族と離れた潜伏先で、ロベールは本を読み、外国の小説をオランダ語に翻訳して、世界とつながろうとしていた。「フランスとドイツの偉大な伝統の狭間にある言語」を使い、翻訳しようとする意義を、「僕を人間として、世界のなかに位置づけてくれるからだ」とロベールは考える。小さな者と小さな言語を守ろうとしたロベールの姿から、「英雄とは」という問いの答えを、自らも話者数が百万人に満たないバスク語で作品を発表している作者と、読者が発見するまでの物語だ。この物語を書かなければならない、この物語を訳さなければならないという二つの動機が、同じ質感と温度で伝わってくる。

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【推薦者】おかもっちゃん
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子

【推薦文】
戦争孤児、自由への逃避行、人種差別。日本で生きていては感じることのない苦しみにあえぐ子どもたちが今も世界中にいることを改めて痛感させる。大好きなバレエをやりたい、その一身で目標に向けて必死で生き抜く主人公の姿は、まさに夢へと翔ける、タイトルにぴったりだ。平和な国では考えられないあらゆる苦しみも、彼女にとっては夢へのハードルであり、大空に翔けていくその姿に心打たれる。

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【推薦者】くぼた のぞみ
【推薦作品】『世界文学論集』
【作者】J・M・クッツェー
【訳者】田尻芳樹
【推薦文】
 J・M・クッツェーの論文と書評のベストセレクションです。「古典とは何か」から始まり、クッツェーが博士論文の対象にしたサミュエル・ベケットや、彼にとって最重要のテーマである「自分について真実を語りうるか」をルソー、トルストイ、ドストエフスキーの作品をもとに書かれた「告白と二重思考」など、読み応えたっぷりの論集です。この作家の全体像を把握するためにも、あるいは、彼の作品が生み出された思考の背景を知るためにも、最良のてがかりが含まれている論集。困難なカフカ論の翻訳には脱帽です。これからは、おそらくクッツェーを語らずに「世界文学」を語ることは不可能になるでしょう。

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【推薦者】小路
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
 表紙の絵、膝を抱える少女にはミケーラの孤独や決意、バレエは自分の一部、私からそれは切り離せないという内面からの叫びが漂っています。銃弾の飛び交う死と隣り合わせの状況からかろうじて逃れ、幸運にも出会った養父母のもとで、拾った一枚のバレエダンサーの姿に夢をかけて突き進んでいくミケーラ。それは本当にあった現実の物語。読み始めから本を閉じることはできません、自然につぎつぎと思い描けることばだから。心でなめらかに受けとめることができる文だから、そばにミケーラを感じながら読み進むことができ、終わりまで知らずに済ませられない物語だったからです。
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【推薦者】who
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子

【推薦文】
サスペンスの女王、パトリシア・ハイスミス本邦唯一の未翻訳であった『キャロル』が刊行された。舞台はマッカーシズムの吹き荒れる50年代のアメリカ。女性たちは良き妻・良き母の役割に縛られていた。強い抑圧の中、同性でありながら強く惹かれ合うキャロルとテレーズの清々しいほど真っ直ぐな恋愛が描かれている。当時のレズビアンパルプは年上の女性が少女に性の愉悦を教え込むパターンが多く、不道徳な関係にバッドエンドが課せられていたという。『キャロル』も一見この類型に見えるが中身は全く違い、フラットな関係性と希望のあるラストに多くの読者が熱狂しベストセラーとなった。現代の目で見ても相手が同性であることへの躊躇、偏見が何一つ描かれていない先進的な書だと感じる。迸る初恋のパッションと実存の不安を語るテレーズと、美しく儚いキャロルの物語は同性愛小説の範疇を越えて感動を呼ぶだろう。

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【推薦者】繁内 理恵
【推薦作品】『片手の郵便配達人』
【作者】グードルン・パウゼヴァング
【訳者】高田ゆみ子
【推薦文】
ヒトラー支配下のドイツ、戦争で片手を吹き飛ばされた青年、ヨハンは故郷に戻り郵便配達人となる。彼が歩く道のりは、そのまま物語の地図となり、郵便が運ぶ生と死とともに、くっきりと在りし日の村が立ち上がる。70年前のドイツの人々の日常は、私たちと何ら変わらない。ヒトラーに対するスタンスも様々だ。パウゼヴァングは、その日常と地続きの場所に戦争があり、ホロコーストがあったということを普通の暮らしを静かに描くことで感じさせていく。ヨハンの片手は、ヨハンだけのものだった。その片手を奪ったのは、兵士を入れ替え可能なものとして使い捨てる軍隊であり、戦争だ。人間の尊厳を奪い、使い捨てにすることを黙殺する「今」と、この物語は深々とリンクする。私たちのこの日常にも戦争への道筋が刻まれてはいないか。衝撃の結末が問いかけるものを、たくさんの人に味わって欲しい。

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【推薦者】西野 智紀
【推薦作品】『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎

【推薦文】
台北に実在した大型商業施設「中華商場」を舞台とした連作短編集。いくらお隣さんとはいえ、台湾の小説なんて馴染みがないし取っ付きにくいのではないかと思いつつ読んでみたが、全くの杞憂であった。この作品に横溢する懐かしさは、日本人にとっても非常に近しく、郷愁すら覚えるほどだったからだ。ジュブナイルとしても、芳醇な大人の物語としても、翻訳小説の入門としても読める、きわめて上質な文学作品である。こういう体験があるから、翻訳作品を読むのはやめられない。

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【推薦者】吉井 力
【推薦作品】『セルバンテス』
【作者】パウル・シェーアバルト
【訳者】垂野創一郎
【推薦文】
20人の鍛冶屋たちが環状に並びいっせいに地面を搗くやいなや、床が裂けてそこから文豪セルバンテスとドン・キホーテ、サンチョ・パンサが老馬ロシナンテの背に乗ってあらわれる。ロシナンテは巨大化しており、「老象二頭分ほどもあった」。〈わたし〉はこの三人と一緒にロシナンテに乗り世界一周の旅に出る、というお話。特に好きなのはロシナンテとセルバンテスの決闘のシーン。セルバンテスがロシナンテに決闘を申し込むと、ロシナンテの尾が千のフェンシングの剣(フルーレ)となる。「セルバンテスに勝ち目はないと誰もが思った」が、セルバンテスが「輝く剣を千尾の剣の中心に突き入れる」と、「ロシナンテは怯え、高くいなな」き、それまで尾があったところに風車小屋が現れる。その後、強風が起こり風車が回りはじめると、風車の回転を利用してロシナンテは空へ飛び立つのだ。こんな感じの奇想天外なエピソードが満載のとっても楽しい作品です。

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【推薦者】三大陸
【推薦作品】『世界収集家』
【作者】イリヤ・トロヤノフ
【訳者】浅井晶子
【推薦文】
千夜一夜物語の翻訳者にして大英帝国の冒険家バートンその人と、インド、アラビア、東アフリカの19世紀が、語り手を変えながら次々と証言される。語られることと語られなかったことで明らかになるものと謎が残るもの。この小説自体が千夜一夜のように寓意に溢れ、かつ教訓に堕ちず読んでいてずっと楽しかった。行き先々で言葉を習得し、かの地の人に擬態するバートンとは何者だったのか。これほどの質量を持つ世界を色鮮やかに翻訳した浅井晶子さんに敬意。

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【推薦者】鶴の一五四八番
【推薦作品】『パールストリートのクレイジー女たち』
【作者】トレヴェニアン
【訳者】江國香織

【推薦文】
世界恐慌から第二次大戦にかけて、ニューヨーク州オールバニーの貧民街に暮らした僕と、幼い妹と、若い母の記録。「この小説を読んだとき、私はもう絶対に、どうしても、これを自分で訳したいと思ってしまった」という江國香織さんの言葉どおり、これまでのトレヴェニアンの邦訳のなかでも群を抜くすばらしさ。

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【推薦者】tonko
【推薦作品】『海を照らす光』
【作者】M.L. ステッドマン
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
離島の灯台守の夫婦が主人公の物語。私も町にあるようなものが何一つ無い離島に暮らしたことがありますが、そこでの生活は単調どころではなく本当に変化に富んだ豊かな自然に包まれ時には対峙するようなスリリングなものでした。そこで暮らす人たちの人生もまた同様に思えました。とはいえ、物語の筋としては決して目新しいものではありません。ただ風景も人物も細部まで丁寧に吟味された表現でリズム良く描かれ、陳腐な表現や日本語として違和感のある言葉は一つも見ませんでした。読んでいる間中ずっと、この文章を読みすすめていくことに喜びを感じていました。奇想天外な物語も背筋の凍るようなドキュメンタリーも読みましたが、今年一番読書の楽しさを満喫させてくれたこの作品を推薦します。

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【推薦者】シゲマツ トモミ
【推薦作品】『きみを夢みて』
【作者】スティーヴ・エリクソン
【訳者】越川芳明
【推薦文】
最高にクールで悲しいアメリカ!それが自分のものにしたくなるような言葉で書かれている本(『実現を延期された夢を歌う国歌』これが10ページ目にきてそれで終わらない)。話自体は恐ろしくリアルだ。10年代のアメリカの家族。芸術家肌でリベラルな両親、日本びいきのイケメンの息子、そしてアフリカからの養女。彼らが、常にある金銭苦に脅かされながら、アメリカの過去と今と未来をシームレスに音楽にのって生きる。それがどうしてこんなに普遍的なのか不思議に思いながら夢中になる。風俗描写が豊富な小説は枯れもするが、であれば2016年の今、彼の国の大統領選を横目に読むべき本。登場人物の人生の節目には政治(大統領の姿)があり、一瞬分かる気がするのだ、アメリカ人としてこの30年ほどを生きるということがどういうものだったのか。またこの本は訳者のあとがきが秀逸。あとがきを読んですぐに2度目を読みたくなる、それこそ翻訳大賞にふさわしいと思う。

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【推薦者】橘 弥宵生
【推薦作品】『パールストリートのクレイジー女たち』
【作者】トレヴェニアン
【訳者】江國香織
【推薦文】
7歳の少年が不安定な母親と幼い妹を背負ってスラムに近い街で知性と達観とイマジネーションを抱えて、10歳へと成長していくリアル。こどもは大人が考えているよりよっぽど大人である場合がある。貧困と戦い、孤独な母を抱きしめて母に寄りそう息子の愛ある奉仕。この母は親ぶるけれど、息子が母親らしく振る舞うことをさせてあげている。いま思えば幼い頃、こういう大人な息子が母親にこっそり尽くしているのを、同世代で目撃した気もする。女子の知らない、男子のやさしさ。彼らは母親や女性の女ジェンダー支配のしょうもなさに付き合うやさしさをもち、彼女らの顔を立てようと必死にナイトになろうとする。たいていの場合、そのことを母も女も、知らないけれど。こどものリアルな気づかいと葛藤と、豊かな知性を目の当たりにする書。やわらかに語られる、豊潤な世界。

書影

【推薦者】小松原 宏子
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケ―ラ・デプリンス、エレーン・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
難民問題が世界的に関心を集めている今こそ、日本の子どもたちにこの一冊を読んでもらいたいものだと思います。受け入れ側の目線だけからでは何も解決しないことを、この少女の自伝が教えてくれます。自分が、わが子が、国の犠牲になったとき、どういう手が差し伸べられるべきか、考えさせられる作品です。日本にいては知ることのできない現状を、すぐれた翻訳が、おとなにも子どもにも伝えてくれています。

書影

【推薦者】犬埋てつを
【推薦作品】『ムシェ 小さな英雄の物語』
【作者】キルメン・ウリベ
【訳者】金子奈美
【推薦文】
豊かなディテールと行き来する時間軸の間を道草のように歩いていると、悪夢と現実、幸福と喪失感、境界線が曖昧になったような陶酔を覚えます。何よりこの本のようなルーツを探る行為が、原体験なき暴力に対抗する希望かもしれないなと思いました。

書影

【推薦者】しげる
【推薦作品】『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕』(上・下)
【作者】ジョーゼフ・キャンベル
【訳者】倉田真木 斎藤静代 関根光宏
【推薦文】
作品へのアクセスを容易にするのが翻訳の、翻訳書の意義である。としてみると、こうしたもはや古典と言える名著を平易な訳文で、しかも手を出しやすい価格で提供してくれた本書を推薦しないわけにはいかない。キャンベルとビル・モイヤーズの対談集である『神話の力』を読んだときにも感じたが、キャンベルという人は、それこそ神話がそうであるように、シンプルな、そして時にユーモラスな表現で含蓄のあることを言う。そういう軽やかさがこの新訳版には出ているように思う。欲を言えば、解説では本書の学術的な価値について触れてほしかった。

書影

【推薦者】くるり
【推薦作品】『お静かに、父が昼寝しております――ユダヤの民話』
【作者】――
【訳者】母袋夏生
【推薦文】
民話は、「国」「土地」ではなく「民」の話なのだとあらためて思う。中東、ヨーロッパ、アフリカ、中央アジアの各地で語り継がれたユダヤの民の物語は、異なる文化のなかで生き抜く知恵の宝庫なのだけれど、どれも教訓めいたところのない、大らかさとユーモアに満ちた楽しい話ばかりだ。賢く気高いいち市民の話があったかと思えば、「だれよりも聡明な」ソロモン王の人間味あふれる言動が語られ、表題作では非ユダヤ教徒を称える。この豊かな世界を一冊の優れた本に纏め上げた訳者の母袋夏生さんの仕事には、敬意と感謝の気持ちでいっぱいになる。

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【推薦者】灯千華
【推薦作品】『べつの言葉で』
【作者】ジュンパ・ラヒリ
【訳者】中嶋浩郎
【推薦文】
イタリア語を深く愛するあまり、ローマへの移住を決意した作家、ジュンパ・ラヒリ。「生まれたばかりの赤ん坊のように抱きかかえているわたしのイタリア語を守りたい。」こう語る彼女の豊かな発想から教わることは多い。読み進めていくうちに、偉大な思索の旅へと誘われる。ラヒリの鋭い考察はやがて読み手の内面にまで及び、常識や観念を変容させていく。自分の中にある隠された感情や、戸惑い、欠けているものの濃さと向き合わざるを得なくなる。書物とは、書き手の放った光を受け止め、読み手へと反射させる鏡のような存在なのだと気づかされる。「集める単語一つひとつとの縁を感じる」という彼女の言葉から、言語とは人間が征服すべき“道具”などではなく、長い時間を掛けて関係を築いていくべき“家族”なのだと思い知らされた。イタリア語に限らず、全ての語学学習者に贈られるべき、珠玉のエッセイだ。

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【推薦者】soulfly
【推薦作品】『凍える墓』
【作者】Hannah Kent(ハンナ・ケント)
【訳者】加藤 洋子
【推薦文】
ヨーロッパ最北の地、アイスランド。この国の人なら誰もが知っているという、アイスランド史上最後の死刑囚の話をもとにしたフィクション作品。とある農場で起きた殺人事件の主犯として「その日」を待つ女性死刑囚、アグネス。死刑執行までの間、彼女が過ごすことになったのはある家族が住む農場だった。当然、家族たちは彼女を恐れ受け入れることを拒んだが、牧師の努力のもと日々の生活の中で少しずつ打ち解け、事件の真実を語り始める……も、「その日」は刻一刻と近づいきている。どこまで真実が語られるのかハラハラしながら読み進めた。アイスランドでもヨーロッパの国でもない、オーストラリア出身の著者の「第3者視点」によるアイスランドの風景描写がとても分かりやすく、より物語に入り込んでしまった。

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【推薦者】平井 志帆
【推薦作品】『忘れられた巨人』
【作者】カズオ・イシグロ
【訳者】土屋政雄
【推薦文】
良い翻訳の基準はひとそれぞれかと思いますが、私にとっては翻訳者の個性が出ているか否かが最重要であり、訳の正確さは必ずしも必須ではない…と思っています(勿論正確かつ日本語として美しい面白いのが一番ですし多くの翻訳者の方は正確に訳されていると思いますが)。古くは瀬田先生の子供さえ夢中にさせてしまう訳文や、原書の魅力を(恐らく)倍増しにする藤本和子さん/ブローティガンの様な幸福な出会いが理想です。本書も、この作家の小説はこの訳者の文章で読みたい!と思わせる作品です。久々のイシグロ作品を読める幸福はまた、土屋さんの翻訳が読める幸福でもあるのです。

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【推薦者】きつねふぁん
【推薦作品】『リュシル: 闇のかなたに』
【作者】デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン
【訳者】山口羊子
【推薦文】
高潔な母に対する敬意とその家族の運命を綴ったこの物語には、用心してかからねば。次々と明かされていく暗く痛ましい家族の秘密。その背景にあるものは一体何なのだろう。辛い出来事が起こる度に考えさせられた。敬い深く愛する母の人生に深く寄り添い洞察していくうちに、著者は立ち止まり疑問を持つ。書くことを続けてよいものか、どこまで明かしてよいものか。我々に打ち明けているような印象も持てるが、決して著者の見解を押し付けることはない。人は苦しんだ過去に触れないよう生きたくなるものだが、辛い経験と真摯に向き合う著者に拍手を送りたい。母娘の愛と神秘に浸ることができ、生命のレッスンを受けたような一冊。

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【推薦者】椿
【推薦作品】『独りでいるより優しくて』
【作者】イーユン・リー
【訳者】篠森ゆり子
【推薦文】
ひとりの女性の死から始まる物語。自殺か、他殺かも分からない。関わった3人は、自らの生を存分に生きることができないまま、時間だけが過ぎていく。変化の時は一瞬で、あとはじわじわ失っていく。どこへ繋がっていくあてもないまま、失い続ける。彼らの姿は、私の姿。彼らに起こった出来事ほどの記憶も持たず淡々と現実を生きる私も、いつも何かを失い続けている。私はこれからもたびたび読み返すはず、事件の謎ではなく、私自身の謎に近づくために。

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【推薦者】尾崎 明
【推薦作品】『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
台湾の現代小説がこんなにも面白いものだと教えてくれた作品。とても読みやすく丁寧な翻訳で、つっかえることなく、するすると読むことができた。作品自体の魅力も大きく、小説の可能性を感じさせてくれた。

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【推薦者】SHU
【推薦作品】『25年目のただいま』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
真実は小説より奇なり とは正に本書の事である。インドの貧しい家庭の男の子が、5歳の時に兄とはぐれて迷子になり、そして数奇な運命を経て、オーストラリア人に引き取られて幸せな人生を送る。だが彼は自分の母、家族のことが忘れられず自分の生地を、グーグルアースで探し始める。そしてなんと、迷子になってから25年後に母と再会する。ドキュメンタリータッチの文体に引き込まれ、一気に読んでしまった。人生は強い思いとあきらめない心を持ち続ける事が大切だと感じた。皆さんも是非この本の感動を味わってください。

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【推薦者】加藤 靖
【推薦作品】『世界の誕生日』
【作者】アーシュラ・K・ル・グィン
【訳者】小尾芙佐
【推薦文】
本作の大半は〈ハイニッシュもの〉とよばれる、両性具有の異星人の世界を描いた六品の思考実験的なSF短篇である。『闇の左手』から五十年近い時を経てジェンダーに関する社会のあり方は大きく変化しているが、こうした作品が依然として力を失わないのは、生まれも言語も道徳も異なる人々と向き合う方法をわたしたちに教えてくれるからだ。つづいての表題作『世界の誕生日』では神権政治の世界を舞台に次世代の「女神」となるはずだった皇女がその神性を手放す道のりを、トリを飾る中篇『失われた楽園』では世代宇宙船というガジェットを用いて、新天地をめざす使命を不可避的に受け継いだ人類の航跡を描いた。翻訳作品の使命が言語や文化の壁をこえて未知のものを受け容れることにあるのならば、本作には賞の名を冠する価値がある。

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【推薦者】りなっぺ
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子
【推薦文】
1950年代、同性愛は許されない時代に二人の女性テレーズとキャロルは運命的に出会う。内面にゆがみと情熱が存在する矛盾を持つような若きテレーズ。テレーズと愛し合っていることを感じながらも、愛娘リンディを失うかもしれない状況に追い込まれ、それでも一人の女性として、母として誇りを持ち続けるキャロル。著者P・ハイスミスと訳者柿沼氏によってこの二人がとても魅力的に描かれている。その美しく、儚く、細部まで描かれた迫る描写にただただ引き込まれる。『キャロル』は美しい女性同士の恋愛小説という括りだけにとどまらない。一人の人間として人を愛すること、その人を愛する自分に誇りを持つことを描いた物語なのではないだろうか。P・ハイスミスの別名義で原作が出版されたのは1952年。時代を経て60年以上たった今、日本で映画化に伴い出版され、この作品に出逢うことができて感慨深い。

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【推薦者】益岡 和郎
【推薦作品】『アメリカ大陸のナチ文学』
【作者】ロベルト・ボラーニョ
【訳者】野谷文昭

【推薦文】
「架空の作家事典」という趣向は、ひとつひとつの人生を掌・短篇に凝縮するという作業の連なりだと思いますが、本書の翻訳はそれを為すための「省略の技術」をとても丁寧に再現し、届けて下さったのではないかと感じました。特に好きなのは、ザック・ソーデンスターンのヒロイックファンタジー長篇を紹介するくだり。省略美が支えるそこはかとない気色悪さに、うっとりいたしました。

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【推薦者】山根 正
【推薦作品】『地球の中心までトンネルを掘る』
【作者】ケヴィン・ウィルソン
【訳者】芹澤恵
【推薦文】
日常にありそうでない十一編の不思議なストーリーを集めた短編集。代理祖母派遣会社で「祖母」として働く女性、ちょっと変わった男の子に恋するチアリーダーなど、一風変わったキャラクターの心理描写が素晴らしいです。翻訳者は「フロスト警部」シリーズの芹澤恵さん。ケヴィン・ウィルソンの奇抜な世界を見事に日本語で再現されているように思います。

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【推薦者】三辺 律子
【推薦作品】『魔人の地』
【作者】カイ・マイヤー
【訳者】酒寄進一・遠山明子
【推薦文】
ファンタジー、ホラーの名手カイ・マイヤーの描く「オリエント的」ファンタジー。時は紀元八世紀、舞台はサマルカンドからバグダッドにいたる地域。ただし、「魔人戦役から52年後」。魔術師たちが産み出したと言われる「魔人」の攻撃に遭い、人類は滅亡の瀬戸際に立っている。主人公は、空飛ぶ絨毯乗りのターリクとジュニスの兄弟。そして、謎の美女サバテア。三人は微妙な三角関係を保ちつつ、絨毯に乗って、バグダッドを目指し魔人の地を渡ろうとするが・・・・・・。ひさしぶりに異世界を堪能できるファンタジー。空飛ぶ絨毯はもちろん、銀の蛇、象牙の馬、記憶を食らう魔物など、ところどころにちりばめられた不思議な存在が魅力を放つ。ファンタジー翻訳の名手の紡ぐ文章で読める幸せ(当然ながら、お二人の息もぴったり)!

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【推薦者】とらぶた
【推薦作品】『バンディーニ家よ、春を待て』
【作者】ジョン・ファンテ
【訳者】栗原俊秀
【推薦文】
  恥ずかしながらイタリア移民のことは、アメリカ映画でデフォルメされるイメージしか知らなかった。知らない世界の文学を読むのは普通、少し骨が折れる。だのにこの作品は、読み始めるなり世界に引き込まれた。イタリア移民1世一家。飲んだくれで子供を殴る迷惑なレンガ工の父さん。父さんを愛するいちずな母さん。イタリア系もカトリックも、出自がいやでたまらない長男坊。先の見えぬ貧乏、差別。悲惨なのに、愛情豊かな人々とおとぼけな文体に笑ってしまう。平易でいて細部がきめ細かく音感が豊か……おそらく原作者と呼吸がぴったり合っているにちがいない訳文が絶妙だった。一見オーソドックスな写実のやり方で、描写や叙述を練り上げてじっくり世界を立ち上げることがいかに力量のいることか、じっくり教えてくれる翻訳作品だった。

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【推薦者】本とランプ
【推薦作品】『突然ノックの音が』
【作者】エトガル・ケレット
【訳者】母袋夏生
【推薦文】
イスラエルの作家の本は読むのは初めてだった。人やこどもに対する優しさが底のほうにずっと流れている。訳者あとがきの作者の来歴を読むと切なくなる。その中から、この物語群は生まれたのだろうか。

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【推薦者】樫原 辰郎
【推薦作品】『暴力の人類史』
【作者】スティーブン・ピンカー
【訳者】幾島幸子・塩原通緒
【推薦文】
とりあえず分量に圧倒され、そこで語られる惨たらしい暴力の歴史にも圧倒されました。とはいえ、人類史に向けられた著者のまなざしはポジティブであり冷静であり、未来への希望を感じます。良くぞ翻訳してくれたものだと、訳者のご両人には深く感謝します。

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【推薦者】ハマジン
【推薦作品】『すべては壊れる』
【作者】ベルナール・ラマルシュ=ヴァデル
【訳者】鈴木創士、松本潤一郎
【推薦文】
時間の傾きに従って腐敗(液化)・崩壊してゆく死と、写真や書物(ボシュエ『追悼演説集』)に保存されることで時間に抵抗する死、2つの「死」の様相に対する執拗な凝視。「嘘つき」のボヌール夫妻を介してテレビの向こう側から語り手のテリトリーであるマールバッハの領地へと徐々に侵入する裸の女たちの「ドンチャン騒ぎ」と、彼女たちを「遠隔操作」する男たち=占領者たちによってもたらされる、生殖と寄生虫の地獄。―赤足の”群れ”と「ドラ」や「ヘルツォーク」といった名前を持つ”個体”との間を行き来する犬たちのように、集合と離散・組織化と解体の間を絶えず行き来することで小説の「全体像」を問いに付す、本作の驚異的な言葉の増殖(洪水?)を日本語で読ませてくれた訳者たちに感謝いたします。あと犬カワイイデス。ケモノバカ必読。

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【推薦者】きい
【推薦作品】『カールの降誕祭』
【作者】フェルディナント・フォン・シーラッハ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
いつ何時、人が「悪」の側に転じるかわからない。その瀬戸際を描くシーラッハらしい一冊でした。原書を貫いているであろう作者の上品な文章を損なわない和訳で、恐ろしくも美しかったです。凄惨な殺人シーンは胸が痛くなる内容でしたが、ゾッとするような人間心理と、美しいクリスマスの光景に完全に惹き込まれました。それから、タダジュンさんとコラボしたという装丁も、不気味な世界観に味わい深さを加えていて、トータルで素晴らしい一冊だったと感じています。

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【推薦者】神部 明世
【推薦作品】『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
近くて遠い台湾の、同じく近くて遠い80年代を描いた短編集。今はもう取り壊されたショッピングモール「中華商場」が舞台になっていて、読み手は「すでになくなった場所」での不思議な出来事や、過去をふり返る主人公の思いを読むことになる。戒厳令下の軍事パレードや、怪しげな幻術をつかう魔術師との出会いなどが登場し、日本語で読む読み手が感情移入したり「これは私のことだ!」という思い入れを抱いたりできるエピソードはあまりない。読み手と描かれている世界との間には薄い膜のようなものがあるにもかかわらず、そこを通り抜けて伝わってくるエッセンスが胸をしめつけてくる。原文に忠実で読みやすい訳文でありながら、翻訳書を読むときに感じる「微妙な距離感」を楽しませてくれるよい翻訳でした。

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【推薦者】にゃおバス
【推薦作品】『オルフェオ』
【作者】リチャード・パワーズ
【訳者】木原善彦
【推薦文】
この本は音楽そのものである。比較的現代クラシック曲を軸に色々な音が絡み合い、主張しあう。内声が声をあげ、文体が口をつぐみ、休符がリズムを作り出し、主人公を取り巻く人々はどこか途切れどこか救いがなく「終末の音楽」を手に持ち混沌を作り出す1人になる。音楽とはなにか?人生とはなにか?そういう物語を聴いてみたくはないか?音楽はどれだけ言葉を尽くしたっていいんだよ、どうせ残るものは音のみなのだから。読みながらあなたの中から音楽が鳴ってはこないか?それはどういう音だろう。

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【推薦者】藤枝 大
【推薦作品】『ムシェ 小さな英雄の物語』
【作者】キルメン・ウリベ
【訳者】金子奈美
【推薦文】
本作はメロドラマである。涙無しには読めない。「大衆的」で「通俗的」である。だが、われわれはみなメロドラマのただなかにいる。一日を一瞬を「大衆的」で「通俗的」に生きている。俯瞰すれば似たようなこの意思や行動。それらがひっくるめられるのは、しかし、あとになってからなんである。われわれはいまを生きているから、それらは個別具体的で血が通っている。キルメン・ウリベのこの小説は前作と比較しても、明らかにメロドラマである。だがここに書かれているのは、われわれの一日や一瞬なんである。「大衆的」で「通俗的」であると同時に血が通っている、たんたんと生きてでもドラマチックな現実なんである。この文章を打ち込みながら熱くなって思わず「メロドラマ!」と叫びそうになった。ひっくるめられれば無かったことにされるこの衝動も、だが実際にはいま確かにここにあるのである。

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【推薦者】門脇 智子
【推薦作品】『エンジェルメイカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行
【推薦文】
 冒険活劇であり悩めるヒーローの成長小説でもあるという物語としての面白さを存分に味わい、機械職人の仕事、古き良きギャング文化、蒸気機関車などの道具立てで作られた美しいノスタルジックな雰囲気にうっとりし、女性登場人物の描き方の圧倒的な新しさにはっとさせられました。見事にバランスのとれた良質のエンターテイメントだと思います。原文の文体はけっこう難解だと思うのですが、それを解きほぐしてわかりやすく表しながらも軽くなりすぎておらず、さりげないユーモアが伝わり、会話が自然に耳に響くような訳もすばらしいです。

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【推薦者】ヨーセク
【推薦作品】『できる研究者の論文生産術』
【作者】ポール・J・シルヴィア
【訳者】高橋さきの
【推薦文】
本書は良質な学術論文を量産するための指南書だ。論文が書けない理由から動機付け、文体や具体的な構成に至るまで、さまざまな具体例を挙げて良質な文章の書き方について記されている。これらの書き方は他分野の長文にも応用できる。小説やエッセイ、旅行記など長い文章を完成させたいという方にもオススメの一冊だ。本書では、痛烈な皮肉や思わずクスっとしてしまうユーモアをちりばめ、どのように書けば引き締まった表現になるのかが明確に示されている。とくに英文と和文が併記さた箇所は、シンプルで端的な表現の重要性をハッキリと教えてくれる。また、本書に溢れる形容詞や名詞の処理にも注目だ。翻訳者の真摯な姿勢が伝わり、翻訳とは一字一句を大切にする作業であることがよく分かる。(しかし今回は大いに迷った!『国を救った数学少女』『紙の動物園』『われら世界史スーパースター』など良作が多く、最終日まで迷いました!)

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【推薦者】冬泉
【推薦作品】『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』
【作者】ヴァーノン・リー
【訳者】中野善夫

【推薦文】
贅沢な読書の時間を愉しめる大冊。この作家の小説がまとまった形で日本語で読めるのは初めて。つまり規模の大と意義の大において大賞にふさわしいと思い推薦する。十九世紀末から二十世紀初に古代や中世への憧憬を込めて書かれた、小説というより古譚と形容したい物語の数々は時に哀切、時に滑稽、時に妖艶、時に幻怪。博殖と典雅な文体を以て描き出される人びとの情念には本朝で言う「もののあはれ」の気配さえ漂う。読むうちに両性具有的文学という言葉が思い浮かんだ。世紀末文学の鍵語ではあるし、ヴァーノン・リーが男性名によって書いた女性であったということもあるが、男性性と女性性、過去と現在、所謂アポロン的とディオニュソス的要素を自らのうちに並存させつつ、その「境をまぎらかす」ように書かれているから。翻訳は単なる移植ではなく、異なるものに自らの内なる対応物を発見する営みでもあろう。日本文化の用語を使ってみたのはそのため。本を彩る林由紀子の装画・蔵書票はキメラ的異形の美に満ち、中野善夫の抑制された訳文の筆致も素晴らしい。

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【推薦者】与儀 明子
【推薦作品】『エンジェルメイカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行
【推薦文】
私の呼吸に合うリズミカルな文体で、息をするたび局面が変わるのが、心身一致というかんじ。書き出しの一行ですぽーんとはまり、あとはラストまでするする読める。とはいっても、書かれ方は捻りがありユーモラス。え? どういうこと?→そういうことか!→ニヤニヤといったふうに、文章を追うたび様相が変わる。気持ちいいといえば、後世にまで語り継ぎたいくらいセックスシーン(の謎と真相)がすごい。そこを読んだときに、推すのはこれだと決意した。壮大な物語ながら、細部の描写がいい。相手がもう死んでいると薄々わかりながら主人公が友達の家に踏み込む場面の、あの、独白から友人の人間性が浮かび上がるところ。少女スパイが大人の女性にいだく性のうずきの、なんともいえない初々しさ。あと、象さん軍団(象さんたちは映画を観るのがだいすき!)と、象さんたちに育てられた犬バスチョンが可愛すぎて悶絶。

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【推薦者】かわの ゆうき
【推薦作品】 『書店主フィクリーのものがたり』
【作者】ガブリエル・ゼヴィン
【訳者】小尾芙佐
【推薦文】
頑固で自説を曲げない、離島の書店主・フィクリーと、その周りの人との関わりの話。ある日フィクリーの店に赤ん坊が置き去りにされていたことから、全てが動き出す。偏屈男とかわいい少女のパートナーものであり、ジョージ・エリオットの「サイラス・マーナー」や手塚治虫の「ブラックジャック」を彷彿とさせる。フィクリーが、マヤとの日々で少しづつ人間らしい心を取り戻していくさまが心地いい。作中の人間関係を見事に着地させる、完成度の高い小説。また、装丁から生まれる癒しの物語としての期待感を、全く裏切らずに応えてくれる。文章のセンスも光っており、原文の良さを光らせた翻訳も秀逸。マヤの成長をフィクリー目線で追わせてくれるので、マヤが主人公の続編への期待感も抱かせる。

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【推薦者】Madorena
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子

【推薦文】
50年代、クリスマスのNY、舞台美術家の卵、19歳のテレーズはデパートの玩具売場で働きながら将来、才能、婚約への不安、現在の閉塞感にひしがれていた。そこに現れた歳上の美女キャロルに魅せられた時、テレーズは殻を打ち破って行動する力を得る。お互いにしがらみを振り捨ててキャロルと旅をし、妨害や偏見と闘いながら成長するテレーズの掴む未来が美しく胸を打つ。震えて引き絞られた弦のようなテレーズの感情を余さず掬い上げた訳の見事さ。柿沼氏が20年来温めておられた訳業が遂に世に出た喜びと共に推薦致します。

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【推薦者】鈴木 晃一
【推薦作品】『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』
【作者】未詳
【訳者】伊藤比呂美/福永武彦/町田康
【推薦文】
とにかく『宇治拾遺物語』で大笑いしました。これが教科書だったら古典の授業はもっと楽しかっただろうにと思わずにはいられません。知名度ではあるもののその面白さが伝わりきっていなかった作品を、現代によみがえらせてくれたこと。当時の人がその当時の言葉で楽しんでいた物語を現代のわたしたちの言葉で読めるようにしてくれたこと。そのことで翻訳大賞に相応しいのではないかと思いました。

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【推薦者】Y K
【推薦作品】『ハバ犬を育てる話』
【作者】タクブンジャ
【訳者】海老原志穂・大川謙作・星泉・三浦順子
【推薦文】
 作品に描かれるのは、我々日本人が「神秘」という言葉で覆い隠してしまうチベット人の生活だ。私にとってチベット人の未知の生活は独特なものとして映る。「小説は複雑な世界を映す鏡である」という作者の言葉が示すように、この作品でチベットの生活と彼らが抱える複雑な宗教・政治・社会的問題を垣間見ることができる。が、実験的な構成を用いて描かれるタクブンジャの物語空間はチベットという枠に収まらない。作者が語るざらざらした現実の感覚は、風刺的な手法を以て、海を越えた我々のもとまで届く。複雑な人間関係、不条理な現実、誰もが抱える鬱屈とした状況がこの作品の通奏低音をなしているのだ。

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【推薦者】葛飾 阿北齋
【推薦作品】『世界文学論集』
【作者】J・M・クッツェー
【訳者】田尻芳樹
【推薦文】
 『世界文学論集』と銘打たれると、どうしても教養主義的で退屈な読み物を想像しがちだ。しかし、カルヴィーノやクンデラなど、作家による作家論の醍醐味を知っていれば、クッツェーはどんな風に小説を読むのか気になる。どの頁から読んでも差し支えないが、冒頭から批判的見解や毒舌が述べられたり、教壇から寛容に文学史を語る姿勢などここにはない。学者の博識と分析的志向、ジャーナリスティックな観点もあわせもった、小説家による本気過ぎる文学論。論じられる対象も教科書的でないところが魅力的だ。

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【推薦者】どん栗
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】舩山むつみ
【訳者】サルー・ブライアリー
【推薦文】
不思議なことに、読み始めるとすぐサルー目線の景色が見えてくる。翻訳を海に例えるなら、水面に顔をつけると水中に別世界が見えるような、そんな感覚。そして海水は熟成したワインのようにとてもまろやかだ。あらすじはお楽しみとして、ドキドキ、ワクワクし、そしてジーんとする。全体がポジティブなエネルギーに溢れた作品だ。旅したい気分の時、または、元気がほしい時に、お勧めしたい。

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【推薦者】日置 伊作
【推薦作品】『冬の物語』
【作者】イサク・ディネセン
【訳者】横山貞子
【推薦文】
昨年は、次の二つの円熟した作家の作品がとても心を打ちました。ひとつは、クリスティナ・ベイカー・クライン『孤児列車』(田栗美奈子、作品社)です。91歳の老女の下で働き始めた17歳の、ゴシック・ファッションに身を固める傷つきやすい孤児の少女が、老女と触れ合うことで起きる互いの変化を、見事な構成で描きあげた傑作で、翻訳の奇をてらったところも、原文に縛られすぎたところもない、透明感のある爽やかな完成度の高さに、とても好感が持てました。もう一つは、イサク・ディネセン『冬の物語』(横山貞子訳、新潮社)です。母国語のデンマーク語で本名のカーレン・ブリクセン名義で発表され(既訳あり)、またイサク・ディネセンの名で英語でも発表された作品ですが、内容的には少なからず違いがあるようです。英文から訳された横山貞子さんは、情感と気品を併せ持つ、稀にみる素晴らしい表現力で、胸に迫ってきました。

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【推薦者】スパイシーインディア
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
 5歳の時に兄とはぐれて迷子になった著者が25年の時を経て家族と再会するこの奇跡的な物語は、マスコミでも大きく報じられたことからご存知の方も多いかもしれない。本書を読んで、著者の独白で締めくくられるエピローグに胸がつまるのは私だけではないだろう。二人の母への愛と、二人の母から受けた愛、そして目には見えない大いなる力によって導かれた数奇な半生の結末が、静謐な文体で語られている。著者の実直で謙虚な人柄が日本語でもそのままストレートに伝わってくるのは、訳者の筆力による功績も大きいと考える。

書影

【推薦者】みき
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原 慶一郎

【推薦文】
とても読みやすい新訳にシンプルだが良質な装丁のクリスマス・キャロル。訳は各々の英単語の正確さよりも文脈の流れを重視したものとなっており、素直に共感した。挿絵は私が慣れ親しんだJohn LeechのものではなくSol. Eytingeのもので、こちらの方が点数が多い由。確かにこの訳にはこの挿絵の方が合っているように思う。この本は、マッチ売りの少女が新年の喜びの中に入り込むように死と再生の季節を高らかに謳い上げる、とても素敵なクリスマス讃歌となっているように思う。電子書籍ではなく紙の本として、読書の喜びだけではなく所有する喜びも含め、多くの方々にお薦めしたい。

書影

【推薦者】瀧元 誠樹
【推薦作品】『智異山』(上・下巻)
【作者】李炳注
【訳者】松田暢裕

【推薦文】
  松田暢裕氏による訳書『智異山』は、新たな出来事の一つに数えられるものとなった。ここで言う出来事とは、新たに他者と自己が立ち現われる場であり、その記憶が分割=分有されて、人と人とが響きあっていくものごとである。普段、私たちは人と出会うときには自己紹介をする。「私は、○○の△△と申します」、と。つまり、はじめから自己ありきで構えているのである。しかし、根源的な出会いとは、新しい自分がその場で出会った人と共に生きはじめる出来事であり、新しい自分が呼び覚まされるものだ。友人と出会い、笑い、別れ、そして嗚咽している自分に気づいたとき、私は、読者ではなく、李圭でもなく、誰でもなくそこにたたずんでいた。歴史からこぼれおちた無名の人々が、私と共に立ち現われてくる。日常の私なら交流することの困難な、異言語・異世界の人々が、である。『智異山』は、混沌の世界を生きる私を誕生させてしまう良書である。

書影

【推薦者】梶村 加与子
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎

【推薦文】
20歳から国連高等弁務官へ、30歳からはかものはしプロジェクトへいずれも世界の恵まれない子ども達への支援として、わずかではありますが毎月寄付をしています。恵まれない子ども達の事を思う時、いつも私の心に浮かぶ事。「飢えた子どもの前に文学は有効か」。新訳の本書を読み終えた時、はっきりと答えが出ました。人が幸せになるために、文学は有効である。素晴らしい訳でした。三人の娘たちがいつか巣立つ時に持たせたい。我が家には、私の分も合わせて本書が四冊あります。

書影

【推薦者】栗山 秋
【推薦作品】『不穏なるものたちの存在論 人間ですらないもの、卑しいもの、取るに足らないものたちの価値と意味』
【作者】李珍景
【訳者】影本剛
【推薦文】
韓国にも有名な研究者の本をついにみたのが楽しかったです。タイトルが興味を引く、現実につながる点もありますが、簡単に理解させることを許可しない思惟の深さがみます。いろいろな学問の合が主題を自然にまじります。訳者のまごころも感じました。

書影

【推薦者】ドギーマン
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ

【推薦文】
母親探しの話は古今東西いろいろあるが、グーグル・アースを使ったところが、今っぽくて、面白い。翻訳も、翻訳ものとは思わせないほどの自然な日本語で読みやすく、とても分かりやすい。映画化もされるようだが、その前に読んでおきたい一冊。

書影

【推薦者】楢山 健郎
【推薦作品】『智異山』
【作者】李炳注
【訳者】
松田暢祐
【推薦文】
訳者の「日本と韓国相互理解の一助に」の願いが1692ページにわたって強烈に丁寧にこめられ、読む者の心にズシンと伝わってきます。原書に出会い1日1ページの翻訳を自らに課して7年半、出版にこぎつけるまでさらに7年余り、気の遠くなるような歳月の中で時に折れそうになったであろう訳者の気持ちを支えたものは何だったのだろうか。読み進める傍らでそういう思いも生じました。さまざまな思いを抱かせてくれる本です。

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【推薦者】オランジェ
【推薦作品】『未成年』
【作者】イアン・マキューアン
【訳者】村松 潔
【推薦文】
誰しも一度ぐらいは経験がありませんか?強烈な、許しがたい程の衝動に駆られることを。理性が働き抑制してしまう人もあれば、心のおもむくままに行動し、それがもたらす影響に押し潰されそうになったりします。この様な心の動きを、作者は登場人物二人の中で表現し、翻訳者の村松潔氏が無駄のない美しい日本語で一つ一つ紡いでおられます。ページを繰る毎に登場人物の感情がひたひたと入ってきました。

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【推薦者】あらや
【推薦作品】『時の止まった小さな町』
【作者】ボフミル・フラバル
【訳者】平野清美
【推薦文】
20世紀後半のチェコ文学の代表者、ボフミル・フラバルの作品。本作の舞台は実際に父の職をきっかけにフラバル少年一家が移り住んだチェコの町で、時は第2次大戦前から戦後へと流れる。チェコ文学の特徴に、外からの支配という現実の不条理さの中でどう生きるかを皮肉を混ぜつつ想像させるということが挙げられるが、本作もそうである。この特徴に加え、魅力的な登場人物たちがいる。はやく成長したい「僕」、気性は荒いが家族思いな父、一家の所に居候する陽気で頑固なペピンおじさん。物語の前半が彼らの魅力を存分に伝えるが、それ故に後半の変化が読者に大きなショックを与える。戦争による変化と二度と元に戻らないという状況は、悲しみという言葉以上の感情を呼ぶ。チェコ文学の伝統が時代に負けずに残り続ける意味も感じずにはいられない。切ない読後感をフォローする訳者の旅行記もこの本の良きエッセンスだ。

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【推薦者】藤野 可織
【推薦作品】『帰還兵はなぜ自殺するのか』
【作者】デイヴィッド・フィンケル
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
これがどうして小説でないのかと、読んでいる最中も、読んだあとも、何度も思う。いろいろな意味で、そう思う。こんな悲しくて恐ろしくてやりきれないことが現実だなんて、という悲嘆とか、この内容を書くのに小説のやり方が採用された理由はなんだろう、とか。これはノンフィクションだけど、私にとってはこの世界における小説の存在意義を指し示す、暗号のような本だ。

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【推薦者】Haruka Matsuyama
【推薦作品】『独りでいるより優しくて』
【作者】イーユン・リー
【訳者】篠森ゆりこ
【推薦文】
ひとりの女子大生が毒を飲む。事件にかかわった三人の高校生は、やがて離れ、それぞれの生活を送るようになる。だれが毒を持ち込んだのか。殺人か自殺か。事件は解明されず、毒を飲んだ少女は寝たきりのまま、事件から二十年以上が経ったのち亡くなる。小説は、三人の過去と現在を行き来しつつ、それぞれの話が進行する。三人はそれぞれの孤独を生き、なにかしらを常に考えている。その、輪郭の曖昧なとらえどころのない思考の流れの描写がとても素晴らしい。頭のなか、行き着く先のない何かを考えずにはいられない。それがたとえ望んでいないことだとしても。とてもうるさいけれど、とても静かな小説。その静けさの重みに息をのむ瞬間がたびたび訪れる小説だった。

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【推薦者】ぐそくむし
【推薦作品】『コービーの海』
【作者】ベン・マイケルセン
【訳者】代田亜香子
【推薦文】
交通事故で片足を失った少女の絶望と再生を描いた作品。座礁したクジラの親子を助けたことにより、自分も座礁した状況から抜け出すことができ、大好きな広い海にまたこぎだす日を迎える。クジラ親子の様子、少女の揺れ動く心、まわりの人々の自分本位な言動。新しい友だち。それらをときにユーモラスに、ときにリアルに綴る、清々しいほど美しい訳が、物語のラストまでぐいぐい引っぱっていってくれた。

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【推薦者】杉山 眞弓
【推薦作品】『それはどっちだったか』
【作者】マーク・トウェイン
【訳者】里内克巳
【推薦文】
かのマーク・トウェインの晩年の幻の傑作。これまで邦訳が出ていなかったのが、ようやく出た。よくぞ訳してくれましたとお礼を言いたい。著名な作家でも、邦訳の出ていない優れた作品はまだ眠っているはず。翻訳でしか作品に触れることのできない読者のためにも、このような作品を出すことに意味があると思う。

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【推薦者】ロニ
【推薦作品】『バイクとユニコーン』
【作者】ジョシュ
【訳者】見田悠子
【推薦文】
ふだんあまり海外小説は読まないけれど、これは大当たり。おもしろく、読みやすく、一気に読めた。小説を通し、キューバという遠く離れた国に住む、極々ふつうの人びとの生活や悩みを垣間みて、人間のたくましさとあたたかさを痛感した。原著なのか訳なのかわからないが、ロック感あふれるリズミカルな文体(町田康的なユーモアある文体というか)は、とても今っぽくって新鮮だ。「キメラなど存在しない」がとくに好き。

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【推薦者】斎藤 真理子
【推薦作品】『出身国』
【作者】ドミトリイ・バーキン
【訳者】秋草俊一郎
【推薦文】
強烈に変な人物の物語ばっかり出てくる本。夢中で読み終わり本を閉じても、窓が開けっ放しで悪い風がヒューヒュー入ってくる感じ。または、轟音の耳鳴りが残る感じ。なのにとっても静かです。手ごわい嚥下・咀嚼をしたことは覚えてるけど、何を食べたかさっぱりわからない。今まで知らなかった「後味」にとまどい続ける時間が長かったです。それを余韻というのかもしれませんが。刊行からほどなく作者が亡くなってしまったことも、余韻の一部でした。長い長いセンテンスをたぐっていっても迷子にならず、ちゃんと着地でき、しかも居心地の悪さがありありと残る、これは翻訳の力なんでしょうと思いました。とってもとってもとっても迷いましたが、最初に思い浮かんだこの一冊に絞りました。

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【推薦者】横田 剛
【推薦作品】『SF雑誌の歴史 黄金期そして革命』
【作者】マイク・アシュリー
【訳者】牧 眞司
【推薦文】
アメージング、アスタウンディング(アナログ)、ギャラクシー、F&SF、オービット。アシモフ、クラーク、ハインライン、バラード、エリスン、ディッシュ、ル・グィン。本作は1950年代を扱った前作の正統的続編で、SF雑誌が煌びやかな光を放っていた1960年代を主に扱ったノンフィクションだ。前作ではあまり馴染みのない雑誌や作家の名前が並んでいたのと対象的に、今度はたくさんの自分の知ってる名前が挙がっていく。最初にあげたのなんかほんのほんの一部。今まで自分が読んできた作家や憧れていた雑誌が、黄金期にふさわしい混沌とした熱気とともにふんだんに詰まってるのだ。そして驚くほど充実したインデックスもまた素晴らしい。ほんとに面白かったあ。

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【推薦者】古屋 美登里
【推薦作品】『エラスムス=トマス・モア往復書簡』
【作者】エラスムス トマス・モア
【訳者】沓掛良彦 高田康成
【推薦文】
素晴らしい訳業です。時代を超えてもまったく失せないものを見事に訳していて、ため息が出ます。ふたりの友情の姿、ふたりが交わす言葉と教養、そして思い。モアの遺書ともいえる最後の手紙。名文としか言いようがありません。このような翻訳書が出版されることの幸せを噛みしめました。多くの方に読んでいただきたいです。

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【推薦者】ハト牧場
【推薦作品】『ミニチュアの妻』
【作者】マヌエル・ゴンザレス
【訳者】藤井光
【推薦文】
疑問符に吊り上げられすとんとその世界に降ろされたような短編集である。そこは奇妙で、だが自分の属する世界のパラレルのようでもあり、だがやはり奇妙。出てくる人物も見知ったような感じなのに何かがおかしくて、読者は全く先が読めずに「それで?それで?」と疑問符に吊り上げられながら先へ先へとぐんぐん連れてゆかれる。奇妙な世界での登場人物たちはきっとその世界ではありきたりの平凡な人間たちで、だが私たちにはそれがとても魅力的で、彼らの先を知らずにはいられない。そして状況は進みさあ最後はといった時、唐突に物語は途切れる。が、私たちは何故かそれで納得させられてしまう。そこには全体を包む柔らかな安堵があり、その安堵と次の期待に胸を膨らませながらおとぎ話の先を求めるように次の「それで、それで?」を求めて次の世界へと疑問符に吊り上げられてゆくのだ。

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【推薦者】金山 倫子
【推薦作品】『幸せのグラス』
【作者】バーバラ・ピム
【訳者】芦津かおり
【推薦文】
現代版ジェイン・オースティンと言えるバーバラ・ピムの作品が読める幸せ。大事件が起こらなくても、人間関係だけで充分面白い小説が出来上がるのだと言うことがよくわかります。今まで日本語に翻訳された作品は全て非常に面白かったですし、他の未訳作品が翻訳されるのを楽しみにしています。

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【推薦者】ドルマ
【推薦作品】『雪を待つ』
【作者】ラシャムジャ
【訳者】星泉
【推薦文】
チベットにほのかな興味を持つかたの数は多くはないものの、一定数いらっしゃると思うのですが、チベットの本というと美術書や旅行、チベット問題を扱ったものが多く、実際の市井の人々の暮らしや思いを物語ったものはあまりなかったように思います。「雪を待つ」ではチベットの村の4人の子供たちの生活と成長が丁寧に書かれているのが大きな魅力です。そしてチベットの村ならではの伝統的な暮らしと人間関係が、近代化と中国の政策に影響を受けて変わっていくさまが、その4人の子ども達の思いや変化と連動して展開していくのです。かつての日本や他の国どこでも似たような物語があるかもしれません。気になる成長後の4人の物語も嬉しいです。

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【推薦者】長瀬 海
【推薦作品】『サリンジャー』
【作者】デイヴィッド・シールズ、 シェーン・サレルノ
【訳者】坪野圭介、樋口武志
【推薦文】
アメリカの文学はサリンジャー以前と以後に分けられる、とは果たして誰が言ったか(いま俺が言った)。生涯片手で数えられるほどの作品しか執筆しなかったにも関わらず、その強大な影響力は今も衰えることがないサリンジャー。本書はそんな彼の知られざる過去を全てあばきだした評伝であり、膨大な資料と証言をまとめた叙述のスタイルはまるでドラマを見ているかのよう。ジョン・レノン殺害犯など、この小説家の「悪い」読者の心理までをも分析した800ページをまるっと読むと、ホールデン・コールフィールドの表情がもっともっと豊かになるのだ。

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【推薦者】flammie
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ

【推薦文】
普段はあまり本を読まない私が、友人に薦められて手に取ったのがこの本である。この本は、活字からの想像力が乏しい私が最初から最後まで本に書かれた内容を頭に描くことができた作品である。読み始めは通勤時間の時にだけ本を読んでいたのだが、いざ読み出すと先の展開が無性に気になってしまい、読み終わるまではほとんどの空き時間をこの本に費やしていた。この本の魅力は奇跡的な実話が題材になっていることはもちろんのこと、原作者の文章力、そして翻訳者の翻訳力にあるだろう。特に翻訳力については凄く、活字慣れしていなくかつ日本人の私が、翻訳された日本語の表現に違和感なく物語の世界へ入り込んだことは、かの有名なハリーポッターシリーズ以来である。このような素敵な本が世に存在するのであれば、今後は読書を趣味にしようかとまで思わされた作品である。

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【推薦者】good job
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
 グーグル・アースをツールとして別れた家族を探す・・・一瞬、気楽に読めそうな内容かと思って読み始めたところ、次から次へと起こる展開に深く深く引き込まれていきました。そして自身の体験を『絆』というテーマをしっかりと掲げてまとめあげているところにも感動しました。非常に読みやすい訳になっており、原作の素晴らしさに翻訳というスパイスが加わって、とても良い作品に仕上がっていると思います。

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【推薦者】たぬたぬ ちむ
【推薦作品】『タウンボーイ』
【作者】ラット(Lat)
【訳者】左右田直規
【推薦文】
マレーシアのマンガ『カンポンボーイ』を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。マレーシアの国民的漫画家ラット氏の代表作『カンポンボーイ』に続く本作でも、主人公のマットを通して、ラット氏自身の少年期を回想しながら、情景とともに様々な経験や出来事が一貫して描かれているのが、マンガの作風としてユニークな点だと思います。さらに、前作の「カンポン」(村)からイポーという「タウン」(町)に移り住み、生活環境の変化や、民族の違いを超えた出会いと友情、そして別れが主人公の成長とともに綴られているのも読みどころです。マレーシアの多民族な都市での人々の生活ぶりも細かく描写され、マレーシア社会の様子がよくわかります。また、随所にちりばめられたユーモラスなセリフや登場人物のコミカルな表情も面白く、作者の温かい人柄が垣間見られるほのぼのとした味のある作品で、イチオシです!

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【推薦者】kikirara
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子

【推薦文】
これは現実の出来事なの?と思うほどのミケーラの壮絶な人生に言葉が出ませんでした。日本に生まれ育った自分の環境とのあまりの違いに愕然としました。幼い頃の両親との悲しい死別、精神的、肉体的に虐待を受けながらの孤児院での辛く苦しい生活を経て、アメリカの新しい両親の元でバレエという夢に向かい努力していく姿に胸を打たれました。どんなに才能を持った子でも、生まれた環境でそれを発揮できないで終わってしまうことの悲しさ。平和と教育の大切さを痛感します。ミケーラに、生きて、夢に向かって諦めないでくれてありがとうと言いたいです。育ての両親にも尊敬の言葉しか見当たりません。大人が読んでも充分な読み応えですし、これから大人になっていく悩みを抱える子、何をしたらいいか分からない子、夢を叶えるべく努力している子たちに是非読んで欲しい本です。読み終わったあと、体が希望で満ちて行きます。

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【推薦者】岩下 清香
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
 何度も映画化舞台化され誰もが知っている話。偉大な作家チャールズ・ディケンズ。研究者による新翻訳は、まず冒頭から私の心をつかんだ。序文下「読者の忠実な友であり僕(しもべ)C.D.1843年12月」なぜかこの言葉が心に引っかかった。意外だった。宝物にしたい素敵な装丁。1853年41歳で公開朗読。映画に先駆けてまるで映画のような場面展開の裏に朗読というメディア?本当に彼が伝えたかったことは?彼の心は?子ども向けの話ではなく子どもを救うために大人向けにかいた?いったい彼はどんな人だったのだろうか?どんな生活をしていたのだろうか?本当のクリスマスの祝い方?どんなふうに生まれ育ったのか?それにしてもたまらないのは当時の食文化。ノーフォ―ク・ビフィン?マルドワイン?スモーキング・ビショップ?いろいろなお酒がある?!ディケンズが偉人ではなく生身の私と同じ人間で彼の息遣いや皮膚に触れるそんな素敵な翻訳でした。

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【推薦者】川瀬 俊治
【推薦作品】『智異山』
【作者】李炳注
【訳者】松田暢裕
【推薦文】
訳者は韓国留学時代の友人が「是非、日本の人に知らせてほしい」との願いを受けて、出版のあてもなく翻訳を開始した。毎日少しずつ日課として進め、訳し終えたときには総枚数が400字にして5400枚に達した。韓国では全7巻で刊行された原書だったが、翻訳本は上下2巻各900ページに及んだ。しかし、大部の作品のため出版社があらわれなかった。このめ、自費出版を決意意、経済的負担を少なくするため日韓の友人が協力、編集を日本で、印刷を韓国で行う日韓のスクラムで推進、東方出版が版元となりで世に問うた。朝鮮半島分断の苦闘は日本の植民地支配から理解を深めることこそ重要なのだが、当時の人々の呼吸を伝え、かつ解放後の朝鮮戦争まで視野におさめた文学作品が日本で紹介されていることは数少ない。しかし、『智異山』は植民地時代に生まれた主人公の半生を描き、解放後の混乱、苦闘を描き切った作品だ。翻訳は平易で読む者を魅了する。

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【推薦者】藤井 勉
【推薦作品】『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』
【作者】ジョルジュ・ペレック
【訳者】桑田 光平
【推薦文】
給料をあげてもらうために「上司に近づく」技術である。「近づく」には、機嫌をとる意味だけでなく、距離的な意味での「近づく」も含まれているのだから、厳密というか、どうかしているというか、人を喰っているというか。で、読んでも読んでも、一向に給料のあがる気配はない。その間に、なんとなく〈あなた〉の勤める企業の全貌が見えてきたり、上司に近づくのを諦めて退職するという選択肢のないことに、現代のブラック企業の姿を見たり。思考も脇道に逸れまくり、さらに昇給への道は遠のく。このおもしろさと給料のあがらなさを、労働基準監督署に訴えるわけにもいかないので、この場で訴える次第である。

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【推薦者】レーニナ
【推薦作品】『マイケル・K』
【作者】J.M. クッツェー
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
復刊にあたるかな? とも思ったのですが、訳者あとがきで「初訳を全面改訳し、さらに加筆した決定版」と書かれていたので、候補に推薦いたします。殺伐とした南アフリカの土地を、手押し車に病気の母親を乗せて進む場面は何度読んでも強く印象に残ります。ノーベル賞作家クッツェーの原点といえる小説です。原文が一見非常にシンプルだからこそ、余計な装飾をつけずに日本語に移し変えるのは、たいへんな作業だったのではないかと思います。

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【推薦者】S tachi
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子
【推薦文】
自分の感情に率直な若い主人公と、事情をかかえた大人のキャロルの恋の物語。互いを想う気持ちが純粋すぎて「そうそう恋に落ちるってこれくらい自然で計算のないものだったわー」と羨まく思ってしまった。この時代(1950年代)のことは詳しくないが、場面場面の描写が丁寧に描かれており、昔みたアメリカンニューシネマのオシャレで乾いた色彩が目に浮かびワクワクした。二人の会話は自然で、キャロルのセリフは洒落ているが嫌味がない。これはおそらく翻訳の力も大きいのだろう。同性愛の偏見など軽々乗り越えた、素敵な恋愛小説だ。

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【推薦者】きゅう
【推薦作品】 『悲しみのイレーヌ』
【作者】ピエール・ルメートル
【訳者】橘 明美
【推薦文】
2014年のヒット作品『その女アレックス』の前日譚。シリーズ2作目が先に発行されたのだから、1作目であるこの作品は、まあその程度のものなんだろうとあまり期待もせずに読んだら、残虐な犯行、マニアックな動機、予想を裏切る展開、そして知っていたはずの結末、どれを取っても本当に面白かった。読後アレックスよりもこっちを先に読みたかったと思ったが、よく考えてみると、イレーヌのあとだといろいろと予想できてしまい、それほどアレックスを楽しめなかったかもと思うので、結果的にこの順番で良かった。


【推薦者】そろそろ
【推薦作品】『氷 氷三部作2』
【作者】ウラジーミル・ソローキン
【訳者】松下隆志
【推薦文】
今年出る三部作の3作目の『23000』へ弾みをつける意味で!三部作1作目の『ブロの道』と迷ったけど『氷』の方がクール。『氷』を読んでから『ブロの道』を読んで、また『氷』を読んで『ブロの道』を読んで『氷』を読んで『23000』を待つ。

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【推薦者】橋本 泰久
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
 ダイナミックな映像的描写と、誰の心にも染み渡る人間の機微。旧知の筋書きのはずなのにぐいぐいと引き込まれ、あっという間に読み終えてしまう。読後感はまるで良質な映画を観たあとのよう。寓話の説得力を増すためにもディティールへのこだわりは重要なのだと思い知った。ぼくの心の中のスクルージがようやく良心に目覚めた、最新最良のクリスマスキャロルの決定版です。

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【推薦者】小島 玲
【推薦作品】『ソラリス』
【作者】スタニスワフ・レム
【訳者】沼野充義
【推薦文】
これまでロシア語からの翻訳しかなかった『ソラリス』が、沼野充義氏によって原語であるポーランド語から翻訳された。ロシア語原典は、ソ連の検閲対策として一部が自主規制してあり、日本語でいえば四百字詰原稿用紙四十枚分近くが削除されていた。今回の新訳は、それらをすべて網羅した完全版である。『ソラリス』のミステリー的展開のおもしろさやイメージの豊潤さに、学術書のような深みが増し、非常に刺激的な一冊となった。読者としては非常に有難い。翻訳者の沼野氏とソラリスの出会いは四十五、六年前、氏が高校一年生の頃。並々ならぬソラリス愛を感じるあとがきも必読だ。作中唯一気になる点は、「!?」「!!!」などの漫画的とも思える感嘆符の多用か。知的おもしろさが増した分、子どもっぽく映った。内容は、言わずと知れた不朽の名作。何度読んでも新しく、深く、おもしろく、読み始めたら止まらない。この域に達した小説は少ないのではないか。

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【推薦者】善元 幸夫
【推薦作品】『智異山』
【作者】李 炳注
【訳者】松田 暢裕
【推薦文】
松田さんはすごい仕事をやり遂げた。小学校の教員で日々の授業を行いつつ、実に5000頁の翻訳。この仕事。関西では知る人ぞ知る名通訳者。作品には朝鮮の日本植民地時代の抗日闘争、若者たちの青春と挫折を、史実を基に描かれている。今日韓は関係があまり良くないという。しかしそうゆう時にこそコツコツと歴史小説の翻訳を手掛けた。そこには韓国の民衆の悲しさややさしさ、そして力強ささえ感じる。凡人の私たちにできない仕事!松田さんに脱帽!

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【推薦者】三星円
【推薦作品】『ブロディ先生の青春』
【作者】ミュリエル・スパーク
【訳者】木村正則
【推薦文】
タイムズ紙の「戦後、偉大な英国人作家50人」にも選ばれたミュリエル・スパークの代表作の新訳です。1930年代、エディンバラの女子学院を舞台に、青春をこじらせたハイミス熱血教師ブロディ先生と、先生のお気に入り女子生徒で構成されたブロディ隊の「青春」を描いた本作。とにかくブロディ先生のキャラが強烈。10歳の女子生徒たちの前でうっとりと初恋の話を披露したり、ムッソリーニに傾倒したり。そんな先生を気に入らないマッケイ校長はブロディ隊から彼女の弱みを聞き出そうと画策を重ねます。現在と過去が数行で入れ替わり、ブロディ隊の面々にどのような将来が待ち受けているのか読者は早々に知ることになりますが、それがかえってサスペンスさを盛り上げているうえ、全然読みにくくない。登場人物一覧が冒頭におかれているところもやさしいので、外国文学をあまり読まない方にもお薦めですし、スパークの未訳小説が翻訳されることを願って推薦します。

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【推薦者】仙津 里幸
【推薦作品】『べつの言葉で』
【作者】ジュンパ・ラヒリ
【訳者】中嶋 浩郎
【推薦文】
 ジュンパ・ラヒリにとっての母語や普段つかう言語との関わり方は特殊で、そのために中継地点としてのイタリア語を彼女は必要とした。言語の扱い方が他人とことなるせいで苦しめられてつくられた深い穴にはまるものをいちど見つけてしまったらもう見つける前にはもどれない。彼女にとってイタリア語とはそういうものではないか。その戦いの痕跡を日本語訳で読むことができるのは二重三重に意味があるとおもえたので推したい。

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【推薦者】のりぽん
【推薦作品】『クローヴィス物語』
【作者】サキ
【訳者】和爾桃子
【推薦文】
サキを知ったのはつい一年ほど前のこと。新聞の書評で興味を持った短編集を読んで、「な、なんだこの面白さは!」と衝撃を受け、他の作品も読みたいと探すものの、絶版になっていたりでなかなか入手できず・・・そんな折本書が発売された。皮肉やウイットに富んだサキに再び出会えた幸せ。今ドキの言葉もちりばめられた訳がまた面白いのなんの!サキの没後100年の今年、28の短編から成る本書を是非この賞に推したいと思う。

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【推薦者】H.N aino
【推薦作品】『100%月世界少年』
【作者】スティーヴン・タニー
【訳者】茂木 健
【推薦文】
月での生活が可能な未来、惑星間を飛び交うメガ・クルーザー、地球に存在しない色の瞳を持つ人々、その人々を追い込む法律…決して無視することのできないキーワードが満載です。それに加えて、キャラクターたちも、とても魅力的に丁寧に描かれています。月が舞台の小説ではありますが、悪役も仲間たちも、いま自分のいる世界とどこか通ずるものを感じてしまい、エンターテイメントでありながら内省的にもなる、とても素晴らしい読書体験ができました。映画化も決定されているようで、映像で表現される世界と、多くの人にこの小説を知ってもらえる機会が増えるのがとても楽しみです。

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【推薦者】さの あやこ
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
 多くの学びがある本だった。子どもだけでなく、大人が読んでも非常に読み応えや衝撃があり、多くのことを考えさせる本だ。翻訳も、ミケーラ自身が語っているような語調だが、鼻につくものではなく、すんなり感情移入することができた。ミケーラの幼少期は「こんなことが起こっていいのか」と胸が苦しくなる出来事が次々と起こる。本人が経験したものがあるので当たり前だが、描写が真に迫っており、人が持つ残忍性に恐怖を感じた。教育的視点から描かれていないからこそ、今私たちに何ができるのか考えさせられた。極悪の環境におかれたミケーラに光をもたらしたのはで、ある雑誌の切り抜きだった。人間にとって、「希望」「夢」がいかに重要なものか、突き動かす原動力になるのか、実感する。そして、人が人を愛する力を知った。ミケーラのアメリカでの養母の愛はすさまじく深い。人は血縁ではない、愛で結びつくことができるのだと思い知らされる。

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【推薦者】畑 三千代
【推薦作品】『智異山』
【作者】李炳注
【訳者】松田暢裕

【推薦文】
上下巻合わせて千七百頁に及ぶ長編を、小学校教員の仕事を人並み以上にこなしながら七年間の歳月をかけて仕上げたという翻訳者を突き動かしたものは、差別への憤りと留学時代に培った親友との友情でした。一日一頁を自らに課して毎日彼が接した「智異山」は韓国で今も古典として読み継がれている大河小説で、日本の植民地時代の抗日闘争、朝鮮統一運動の熾烈な闘い、そして心ある日本人との交流や恋愛など、朝鮮の若者たちの青春と挫折が、史実を基に描かれています。私はこれほどの長編を読み切ったのは初めてでしたが、豊かな朝鮮半島の自然、次々に展開していくストーリー、学校では学ぶことのなかった事実にふれ、時には笑いまた時には涙を拭いながらほぼ一か月を過ごしました。翻訳に至る経緯や本の紹介が新聞各社で掲載されましたがまだまだ知られていないのが実情です。一人でも多くの日本人に読んでほしいと切に願いながら、自信をもって日本翻訳大賞に推薦します。

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【推薦者】perla
【推薦作品】『世の終わりの真珠』
【作者】ルカ・マサーリ
【訳者】久保耕司
【推薦文】
イタリアのSF…となんの心構えもなく読み始めると、いきなり冒頭からコーランの引用。その後も次から次へと出てくるイスラム教用語に意表をつかれつつ、巧みな文章によって一気になじみのない世界へと引き込まれました。サハラ砂漠で交じりあう過去と未来、冒険、裏切り、永遠の命…。この作品は、あとがきの言葉を借りるならまさに「ハリウッド映画のような」一級のエンターテイメント小説なのですが、それと同時に、作中で語られるテーマが「イスラム教」であったり「宗教を取り込んだ権力の暴走」であったりと、今の世界情勢と合わせてみても非常にタイムリーな話題を扱っていることが印象的です。エキサイティングな読書のあと、思いがけず宗教について色々と真面目に考えさせられてしまいました。みなさんにもぜひ読んでみていただきたいです。息をもつかせぬ展開とこなれた訳文のおかげで、600ページ超の長さは全く感じません!

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【推薦者】三月の水
【推薦作品】『ルビッチ・タッチ』
【作者】ハーマン・G・ワインバーグ
【訳者】宮本高晴
【推薦文】
ツイッター文学賞もあるので、ここでは文学以外を。ルビッチの人生、作品について知ることのできる待望の翻訳。しかも、トリュフォー、山田宏一の文章や「ルビッチ俳優名鑑・ルビッチ流喜劇の監督たち」が付録というのも嬉しい。そして、何よりも出版と同時に映画館でルビッチを見ることができたということが。そういう意味でも、是非、John Mueller/Astaire Dancingの翻訳も。

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【推薦者】芦草 法子
【推薦作品】『ポケットマスターピース01 カフカ』
【作者】フランツ・カフカ
【訳者】川島隆
【推薦文】
多和田葉子さんの『変身』の訳が評判となっていますが、この本の収穫はそれだけではなく、川島隆さんによる長編『訴訟』の全訳が素晴らしいと思います。原文に忠実でありながら、なおかつ読みやすいという、困難な両立を見事に成し遂げていて、カフカの翻訳の歴史でも画期的なものだと思います。『審判』というタイトルの時代から翻訳は多々ありますが、これこそ今後のスタンダートとなるものだと思います。また、詳細な解説がついているのも、カフカが本当はどう書いていたかがわかって、嬉しいです。なお、同訳者によって、カフカが役所の仕事で書いた「公文書」が初めて翻訳されたことも、大収穫だと思います。

書影

【推薦者】丸面チカ
【推薦作品】『J.R.R.トールキン 世紀の作家』
【作者】トム・シッピー
【訳者】沼田香穂里
【推薦文】
トールキン研究の第一人者として知られるトム・シッピーによるトールキン評論。原著は2001年3月、つまりピーター・ジャクソン監督による指輪物語の映画化第一作が日本で公開されるちょうど一年前に発行されました。映画公開以後インターネットを通じトールキンのファンとの交流が生まれる中、造詣の深い先輩達からこの本のことも教わったものの、なかなか読み通せないまま十余年。こうして同じ監督による『ホビットの冒険』映画化の最終章の公開時期に、同志と一緒に邦訳刊行を心待ちにできる日が来るとは思ってもみませんでした。翻訳にあたってはトールキンと筆者の専門である文献学や古英語などの言語学の知識から、トールキンと同時代から現代にいたる作品や社会背景までカバーしながらも、日本の読者に馴染みのある名称訳に統一されていて、さぞかし苦心されたことかと頭が下がります。感謝を込めて本賞に推薦します。

書影

【推薦者】木本 早耶
【推薦作品】『文学会議』
【作者】セサル・アイラ
【訳者】柳原孝敦
【推薦文】
併録「試練」に私は陶酔してしまった。パンク少女がふたりに普通っぽい女の子がひとり。三人の会話劇における、パンクス独特のふてぶてしさ、普通の子の冷めた感じ、話題の無意味さ、テンポ、すべてが最高!翻訳で(良い意味での)わけわからなさ、アホっぽさ、しょうもなさを表現するのはとても難しいと思うので、そういう空気を本作で味わえたのがとても嬉しかった。そして教訓となるわけでもなく不謹慎すれすれの内容だからこそ、膨大な時間と労力をかけて本書が訳されたのはありがたく贅沢なことだと思った。

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【推薦者】川西拓哉
【推薦作品】『ムシェ 小さな英雄の物語』
【作者】キルメン・ウリベ
【訳者】金子奈美
【推薦文】
『ビルバオ・ニューヨーク・ビルバオ』が素晴らしかったキルメン・ウリベの新刊は待望の一冊でした。読んでいて、前作以上に気持ちを揺さぶられました。出てくる人たちが素晴らしい。そして、ウリベの筆によって確かに描き出された、戦争により翻弄された人たちの物語を読んでいると、否が応でも気持ちが動かされました。「この小説を書かなければならない」という気持ちが、文中にも登場する作者からとても強く伝わってくる作品でした。大きな歴史に埋もれてしまった物語を語ること、その意思に打たれました。「バスク語文学」という、多くの人にとって耳慣れない言葉の文学が、たくさんの日本の読者の心を打ったということ。翻訳という行為の最良の形のひとつだと感じました。

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【推薦者】pantrou
【推薦作品】『夜が来ると』
【作者】フィオナ マクファーレン
【訳者】北田絵里子
【推薦文】
 今までに読んだどの小説とも全く似ていない、新しい面白さを感じる作品でした。落ち着いた、味わい深い文章とはうらはらに、サスペンスフルな展開。それでいて、どこか知らない国の誰かさんのお話ではなく、身につまされる要素がぎっしり詰まっている感じ。ちょっとエキセントリックな登場人物が出てくるのに、外国語から訳したようには全く感じさせない文章で、原書を読んでいませんが素晴らしい翻訳に違いないと思いました。

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【推薦者】龍の字
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子/パトリック・オノレ

【推薦文】
字幕付き映画を文字にして見ているといえば近いような、やっぱり違うような、とにかく新感覚。同じ言葉でも、その場で消えていく声と残され続ける文字の埋まらない隙間に、何とか橋をかけようとしている。声に出して読みたい、まさに「ものがたり」。朗読するのが一番適しているのかもしれない。「訳者あとがき」から苦労と楽しみが伝わってきたし、読者にもそれがよくわかる。こんな小説があったとは、世界は広いと感じた。

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【推薦者】さとう まりこ
【推薦作品】『宇治拾遺物語(『池澤夏樹個人編集日本文学全集8』)』
【作者】未詳
【訳者】町田康
【推薦文】
古典の授業で『宇治拾遺は中世の説話集の中でも特に教訓要素が少なくユーモラス』と習ったけれど、古語辞典を引きながら現代語に置き換えてもその面白さはさっぱりわかっていなかった。今回の町田訳でようやくその真価を知った、と思いました。昔話や学校の授業で知っている話も多いのに、なにこのグルーヴ! 何度も声出して笑ったし、人にそれを言いたくなった(実際いろんな人に薦めた)。きっとこんなインパクトをあのお話に感じていたんだ、と、数百年前の人たちが近しく感じられました。

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【推薦者】山内 透
【推薦作品】『神話・狂気・哄笑』
【作者】マルクス・ガブリエル スラヴォイ・ジジェク
【訳者】大河内泰樹
【推薦文】
メイヤスーの『有限性の後で』も数日前に刊行され、思弁的実在論がツイッターを賑わせている。とはいえ、海外ではとっくにメイヤスー・ブームも去り、アカデミックな研究としても結局大した成果を残さなかったように思われる。ここで思い起こされるのが、12月に来日していた際のイベントで、マルクス・ガブリエル 自身もメイヤスーの立場は「素朴実在論」にすぎないと一刀両断していた 点である。哲学史上とっくに乗り越えられた立場に新たな装いが与えられたにすぎない思想を輸入して盛り上がったりしないように、まずは古典に基づいたテキスト読解をした上でオリジナルな思想を展開しなよ、ということをガブリエルは本書を通じて教えてくれる。こうしたテーマ設定が雑誌『nyx』の問題意識とも共鳴したのだろう。雑誌との連動も面白く、今後も叢書としての続刊を応援したいという気持ちで、翻訳大賞に推薦したい。

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【推薦者】けいこ
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
 ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』の新訳です。この作品で描かれるクリスマスは、親戚みんなで集う人も、家族と過ごす人も、ひとりで過ごす人も、誰にとっても特別な日。そしてスクルージの甥が言うように、「困っている人たちのことを、別の目的地に向かう赤の他人ではなく、つかのまの人生をともに生きている同じ旅の仲間と考える」日です。この新訳は語り口調で、精霊に手を引かれるように物語を楽しむことができます。とくに推薦したいポイントは、きっとディケンズ本人もこだわっていたであろう、食べ物の描写です。豪華なものも、質素なものも、クリスマスのごちそうが本当においしそうに、つやつや、ほかほかと、浮かんできます。

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【推薦者】感傷にひたる人
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス エレーン・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
東日本大震災の時、世界中の人が助けに来てくれたのを見て、自分が主体となって行動する事が大事だと感じました。そうする事が、人としての基盤に通じると。曖昧にしたり逃避したりする前に、冷静な自分を思い描きたい。ミケーラが紛争下の逆境の中でじっと耐え頑張ってきたように。この本は、温かい、しかしながら重みのある好訳で書かれています。読後、心がほっくりとして、大きな感動と何とも筆舌しがたい充足感に包まれました。不思議とポジティブな感情が湧いてきます。心が折れそうになった時、是非手にしてみる事をお勧めします。素晴らしい良書の一冊と言えましょう。

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【推薦者】安藤 和典
【推薦作品】『智異山』
【作者】イビョンヂュ
【訳者】松田暢裕
【推薦文】
「智異山」は韓国南部にある山で、山岳信仰の山、観光地であるだけではなく、韓国人にとってこの山名は、秀吉の朝鮮侵略から、近代の日本植民地支配にいたるまでの抵抗の象徴である。この小説はその山が見下ろすように、植民地時代から朝鮮戦争までの半島と日本列島の朝鮮の人々の実情をリアルに描いている。このような小説が、もっと日本でも読まれてよいと思う。数年来の知人であり、教師として奮闘、苦悩、模索を繰り返しながら、同時に朝鮮半島や在日の人々に深い想いを持ち続け、息の長い作業で長編小説翻訳を完成された、松田氏への敬意も表したい。松田氏が留学中にこの作品と出会った話は誠に運命的である。韓国語の勉強をしたのは、この本を翻訳するためではないかとも思ってしまう。文字どおり労作である。

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【推薦者】sthew
【推薦作品】『20世紀を考える』
【作者】トニー・ジャット、ティモシー・スナイダー
【訳者】河野真太郎
【推薦文】
『人間の大地』『システィーナの聖母』『動くものはすべて殺せ』『トレブリンカ叛乱』『紙の動物園』『バンディーニ家よ、春を待て』『アダ』『べつの言葉で』など読みごたえのある作品はいくつもあったが、どれかひとつ選ぶとすれば『20世紀を考える』になる。『20世紀を考える』は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患した歴史家のトニー・ジャットが、おなじく歴史家のティモシー・スナイダーを聞き手として、縦横無尽に語る刺激的な対談録。序文でスナイダーが言うように、本書は歴史書であり、伝記であり、思索の書である。また「対話の力を主張するものであるが、おそらく読書の力をより強く主張するものでもある」(p.7)。キーワードは「歴史に学ぶ」「知識人の責務」だろう。歴史に学ぶことがいかに大切でどれほど困難かがよくわかる。自分がどれだけものを知らないかも。放言気味だと感じる部分はあるものの、めっぽうおもしろい。

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【推薦者】S Y
【推薦作品】『誰がネロとパトラッシュを殺すのか』
【作者】アン・ヴァン・ディーンデレン、ディディエ・ヴォルカールト
【訳者】塩﨑香織
【推薦文】
アニメの研究者でフランダース人というこの上ない立場の人が読み解く、「フランダースの犬」の誕生から世界への拡散、アメリカでの解釈の違い、日本での爆発的ヒット、「フランダースの犬の舞台」とされた村での観光誘致作戦、そして現在の姿。アニメの全話解説も読み応えがある。日本人こそ世界で一番面白く読めるであろう1冊が、日本で翻訳出版されたことに感謝。

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【推薦者】みゃーるす
【推薦作品】『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』
【作者】ロベルト・サヴィーノ
【訳者】関口英子・中島知子
【推薦文】
ゼロゼロゼロは最上級のコカインのこと。人間も社会も蝕む薬物がどのように流通したのか、その流れを使う人間売る人間というミクロから、国と国そして海を越えてどのように流通する社会に蔓延るのかというマクロまで。コカインの存在自体は否定されるべきものであるのに関わらず、それを追いかける筆致の見事さにただただ魅了された。消費する人間がいなければビジネスにならない。だが、確実に人類はこの薬物をやめられない。その暗黒を著者自らの取材で一歩一歩進んでいく渾身の一作。

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【推薦者】高 秀美
【推薦作品】『智異山』
【作者】李炳注
【訳者】松田暢裕

【推薦文】
原書は1972年9月から15年にわたって月刊誌に連載され、1985年に全7巻という形で刊行が実現したそうです。連載・刊行当時、韓国は軍事政権下にあって、「パルチザン」を主人公とした長編小説の執筆そのものも厳しい制約の中におかれていただろうと想像されます。韓国の現代史をほんの少しでも知る人であるなら、この時期がどのような政治状況であったかについて思いをはせざるを得ません。翻訳者の松田氏は日本と朝鮮半島の現代史を知る学ぶ上で重要なカギとなる本だとの直感に導かれて本書の翻訳に取り組まれたのだと思います。松田氏は上巻・下巻に日本の読者に向けて丁寧な解説を書かれていますが、まずはこの解説を一読されてから本書を読まれるようお奨めします。

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【推薦者】酒井 七海
【推薦作品】『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
誰にでもひとつやふたつ、思い出すだけでたちどころに色やにおいや、湿度まで立ち上がってくるような、深く心に根付いている場所ってあると思う。それは、生まれた家かもしれないし、おばあちゃん家かもしれないし、昔通った映画館かもしれない。この本を読んでいたときに、自分にとってのそんな場所を思い出して、ひそかに胸を焦がしてじくじくしてしまった。そういう場所はおそらく人にとって、自分を形作る様々な水脈が流れる源なのではないだろうか。誰にも知られないでときどきこっそり訪れる自分だけの、秘密の場所。そんな自分を作るルーツ(もちろん場所じゃなくてもかまわないのだけど)を文章から立ち上るにおいで思い起こさせてくれたのがこの作品だった。ああ~やられたなぁ。そう思った。こういう日常にあるスキマのような空間を書いたものはこちらの心にもすっとスキマを開けていくからおそろしい。そこからのぞいてみると、忘れていた懐かしいあれやこれやがひょっこり顔を出してきたりするのだ。やられたやられた。こんなに違和感なく開けることができるのも、あまりにも自然な翻訳のなせる技かなと思うのでこちらに一票。

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【推薦者】Moo ーーー
【推薦作品】『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』
【作者】アンディ・ハミルトン
【訳者】小田中裕次

【推薦文】
著名なアルトサックス奏者リー・コニッツに対して著者がインタヴューで存分に語らせています。同時代に生きたほかのプレイヤーに対しても率直に明晰に語られているのも興味深い。主題はタイトルにあるようにインプロヴィゼーション(即興演奏)や演奏方法についてだが、私のような素人には難解に感じられたり非常にテクニカルで理解不能なところもありました。そういう箇所は無理せず気楽に読み飛ばしました。それでも十分魅力的でジャズの本質的な部分に触れさせてもらったような気にさせるのはなぜでしょうか。おそらくコニッツも著者も、明晰な人間であり真摯にジャズに向き合っていて、気負いもなく率直に語られているからでしょう。加えて翻訳が馴染んでいて滑らかで読みやすく頭にすっと入って来ることも大きな要因でした。訳注がジャズの素人にも解るように丁寧に記されていたのも助けになりました。ジャズノ好きな人にはお勧めの一冊です。

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【推薦者】ズヴェズダー
【推薦作品】『図書館大戦争』
【作者】ミハイル・エリザーロフ
【訳者】
北川美和
【推薦文】
なぜ自分がこんなにのめり込んでいるのか説明できないのに、本に飲み込まれるようにして読み続けてしまった。こんなに夢中な読書をしたのは久しぶりだ。この小説は、まさにこのたぐいの読書の呪術的側面、カルト的側面をテーマにし、また同時に推進力としている。その呪術にかかった者の目の前に現れるのは、おぞましく荒涼としていて自らの自由を完全に奪うのに、郷愁を掻き立てそれこそが自分のいるべき場所だ感じさせる、初源の光景だ。この感触を、この小説の言葉は私たち読者にももたらし、身をもって体現させてくれる。そういう日本語訳を読めてよかったと思う。とにかく危険な小説である。

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【推薦者】♪akira
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子
【推薦文】
訳者の柿沼氏が惚れこみ、ずいぶん前に翻訳を終えていたという本書は、映画化のおかげでやっと刊行されて、ハイスミスファンは感謝感激。映画でもテレーズ役のルーニー・マーラが50年代当時の話し方を教わったそうなのですが、本書の会話はまさにその時代の雰囲気を映し出していて、とても美しいです。

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【推薦者】ぐっぴー
【推薦作品】『池澤夏樹個人編集日本文学全集8~宇治拾遺物語ほか』
【作者】鎌倉時代説話ほか
【訳者】町田康ほか
【推薦文】
現代の作家の現代語訳で日本の古典が読めるのも,この日本文学全集の特徴.作者が知られず説話として残っている宇治拾遺物語は,当時感じられたであろう話芸としての可笑しさを現代に伝える大胆な現代語訳に.これは宇治拾遺物語の再発見だ.

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【推薦者】
【推薦作品】『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』
【作者】アンディ・ハミルトン
【訳者】小田中裕次

【推薦文】
昨今ジャズの裾野は随分広くなったか、BGMとしてそこかしこで耳にする。だがそれに見合って頂も高いかというと、優れた作品や批評が陸続して話題をさらったとは聞かない。そうした中での本書の登場は、内容は勿論、そもそも邦訳が日の目を見たこと自体からして、頂をせり上げる衝撃足り得るものだ。サックスを手に一人世界中を行脚して70年余年。リー・コニッツの演奏と思索を、著者とコニッツ自身との長期にわたる応酬・検証を通じて、さらに演奏仲間の証言を通じて、「言葉」で露わにする本作は読了後、音楽を聴く耳をすっかり変えてしまう。トリスターノやマーシュに関するエピソードも興味深く、就中マーシュに対するコニッツの敬意と賞賛は、そこにコニッツ自身が追い求める音楽、理想が透けて見え胸に迫る。大部の作品だが平易な訳文も本書を親しみやすくしている。願わくは本書に匹敵するアルバムや批評が続き人をして震撼せしめんことを。
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【推薦者】しゃおりん
【推薦作品】『一角札の冒険』
【作者】豊子愷 (ほう・しがい)
【訳者】小室あかね
【推薦文】
中国近代文壇を代表する豊子愷は、竹久夢二と親交をもち、『源氏物語』『草枕』の翻訳を手がけるなど日本とも深い関わりを持った有名な作家でした。残念ながら日本ではあまり知られておらず、私も本書で初めて身近に感じることができました。その児童文学全集第1巻となる本書は、次々と人手に渡る紙幣「一角札」のボクを主人公に、近代社会の裏側を如実に描き出した表題作をはじめ、「猫が鳴いたら」「ペテン師」「命の恩人はトイレ」など因果関係に注目したロジカルな短編を多数収録。漫画家としても有名な豊子愷の手になる挿絵も多く掲載されていて、中華民国時代の子どもたちや庶民の生活が生き生きと描かれています。そこからは中国の人々の普遍的な思考や伝統的な観念がうかがえるようで、大変参考になりました。こなれた日本語訳のおかげもあり、社会体制や時代背景も異なる当時の中国の物語ですが、スラスラ読み進めることができました。

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【推薦者】放克軒(さあのうず)
【推薦作品】『ドリフトグラス』
【作者】サミュエル・R・ディレイニー
【訳者】浅倉久志/伊藤典夫/小野田和子/酒井昭伸/深町眞理子

【推薦文】
第一回にも推薦したが、今回も対象内なので今一度推薦。SFの世界に性や人種など改革をもたらしたディレイニーの真骨頂は中短篇、それも大きな社会変化が訪れた60年代末の作品群にあるように思われる。ポピュラー文化を中心にいまだに大きな影響力を持つ米国文化の記録であり、時代の道標としての意義からも日本語で読めることは非常に重要であると思う。

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【推薦者】佐藤ユンコ
【推薦作品】『海を照らす光』
【作者】M.L.ステッドマン
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
これは、小さな島に灯台守として赴任した一人の男と、その妻の元に、ある日流されてきた赤ん坊の運命を巡る物語。ひとつの選択によってもたらされる幸福と絶望、信頼と裏切り。選ばれなかった「もしも」の未来が頭をかすめてしまうけれど、どんな結果であれ、彼らの選択を間違いとは言えない。誰もが必死に大切なものを守ろうとしていただけなのだから。切なく美しい自然の中で浮かび上がる登場人物の必死さに、世界も時代も変わっても変わらない人間の魂を実感した。ゆっくりとじっくりと読みたい名作だ。そして読み終えた後は大きく息を吐き、誰かと話したくてたまらなくなる。

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【推薦者】かすり
【推薦作品】『お静かに、父が昼寝しております』
【作者】ユダヤの民話
【訳者】母袋夏生
【推薦文】
民話を読めばその民族がわかる…なんて単純なことはありませんが、民話を読んだ後は、その民話を持つ人や文化を身近に感じられるのは確かです。ユダヤの人々は日本で暮らす私には身近な人たちではありません。暮らしぶりや考え方について知っていることはとても少なく、想像をめぐらすことも容易ではありません。ですが、この本で紹介されたユダヤの民話では機知に富んだ人たちがいきいきと生活する姿が感じられ、これまで霞がかっていたユダヤの人たちに対するイメージにはっとするような彩りをつけてくれました。私たちとは違う文化で暮らしてきた人たちの間に昔から語り継がれてきた物語を、少年文庫という若い人向けの文庫で紹介されたことがとても素敵なことだと思いましたので、日本翻訳大賞に推薦します。

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【推薦者】ノーブルプラネット
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ

【推薦文】
よくぞここまで読みやすい日本語にして下さった!と思う。ありがちな回りくどさは一切なく、主語を特定出来ずに混乱することもなく、すらすらと読めた。冒頭から最後まで圧倒的安定感がある点でも大変優れており、翻訳者のキャリアがうかがえる。単なる過去形の文が「てくれた」「てしまった」と豊かな表現になっている箇所も多く、著者の思いがストレートに入り込んできた。「さよなら」の意味もある”goodbye”が「行ってきます」と訳されていた部分では、原書と訳書を読み比べていても胸が熱くなり、翻訳者自身の登場人物によせる愛情なくしては仕上がらなかった作品だと強く感じた。翻訳が、単なる単語の置換えではなく、不要な言葉をそぎ落とし必要な言葉を補うという取捨選択の連続であることを、本作品は再認識させてくれている。「しょげかえる」「うつらうつら」など、児童文学で目にするような可愛らしい日本語たちもいきいきと顔を出し、小学4年生ぐらいなら読めそうな丁寧な仕上がりとなっている。翻訳者の別ジャンルでの活躍が期待できる作品とも言えるだろう。

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【推薦者】松永 肇一
【推薦作品】『エンジェルメーカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行

【推薦文】
「饒舌な小説」っていうと、文体の饒舌さとエピソードの饒舌さに分かれる思うんだけど、こいつは両方饒舌な饒舌メガ盛り。うぶな時計じかけ技師(いちおう主人公)の話はなかなか進まず、スパイの婆さんやら、悪党の父ちゃんやら、ロンドンの怪しい地下街やら、連続殺人鬼やら、ずいぶん読んだなあと思ってもまだ30%ぐらい。小説の中に迷い込んだような満腹感が味わえます。

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【推薦者】unyue
【推薦作品】『動きの悪魔』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】
芝田文乃
【推薦文】
20世紀初頭のポーランド文学が、今、現代の日本で新しく訳出されること自体に素直な驚きと感謝の気持ちを感じる。しかも、極めて面白いのだから堪えられない。100年前に黒い鋼の塊が怒濤のように動く圧倒的なイメージとそこに含まれることに魅了される人々の覚悟と心意気が妄執となって 現れているような迫力で非常に楽しく読んだ。訳者の芝田さんには、今後も誰も知らないこんな素晴らしい作品をどんどん訳していただきたく、切に願うものである。

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【推薦者】ノンちゃん
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子

【推薦文】
ミケーラには避けられない苦難がありましたが、強運と、人との出会いと、それを上回る努力で自分の人生の意味と、そこに実ったものを人々と分かち合える女性に、彼女は成長していきます。その大きなエネルギーは、彼女の意志とバレエへの適性でした。この本はこういう若い女性の存在を、私たちに知らせてくれました。

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【推薦者】大戸 敦子
【推薦作品】『恋と夏』
【作者】ウィリアム・トレヴァー
【訳者】谷垣暁美
【推薦文】
 読み終えてため息しか出てこない。悪者は誰もおらず、結末も、途中からもうこれしかないよねーと思って納得するしかないのだけれど、鮮やかで活き活きとして確かな愛の記憶と、どうすることも出来ない悲しさと、それに加えてどんな人も1人1人が背負う人生の重さとが、それはもう濃く濃く渦巻きながら、物語を練り上げていく。まいりました。。。

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【推薦者】海野 まり
【推薦作品】『迷子たちの街』
【作者】パトリック・モディアノ
【訳者】平中悠一
【推薦文】
日本で長いこと宝石のように美しい小説を執筆され、数年前からパリに住んでいらっしゃる平中悠一氏が、フランスを代表する作家モディアノ氏の作品を翻訳された第2弾です。常々平中氏の、人物のみならず「街」の描写力について比類なく魅力的である思っていましたが、モディアノ氏が描くパリを平中氏の日本語で読むことができる、という機会を本当にうれしく思います。この作品がますます多くの方に知られ、また、モディアノ氏のその他の作品も平中氏の翻訳で読めるようになることを心から願っています。

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【推薦者】伊東麻紀
【推薦作品】『ドリフトグラス』
【作者】サミュエル・R・ディレイニー
【訳者】浅倉久志、伊藤典夫、小野田和子、酒井昭伸、深町眞理子
【推薦文】
ディレイニーという唯一無二の作家のすべてが、この一冊に集約されているといっても過言ではないでしょう。特に、長らく日本語では読めなくなっていた中篇「エンパイア・スター」が酒井昭伸氏の新訳で収録されたことは大きいと思います。そして、切なく胸をえぐる「スター・ピット」の読後感。故・浅倉久志氏の名訳の中でも最良のもののひとつなのは間違いありません。一生手元に置いて何度も読み返したい一冊です。

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【推薦者】三月うさぎ(兄)
【推薦作品】『ヒトはなぜ笑うのか ユーモアが存在する理由』
【作者】マシュー・M・ハーレー、ダニエル・C・デネット、レジナルド・B・アダムズJr.
【訳者】片岡宏仁
【推薦文】
誤植が多いし分厚くときどき晦渋。でも、3500円(税別)と格安、何よりも面白い。この20年の認知科学の進歩を知らない文学は薄っぺらいと思うのです。なかでもユーモアが徒弟制文学の牙城と信じている関係者はみんな必読。脳は限られた情報で短時間にほぼ正しく予測する機械なので、自明とする信念にすら不可避にバグが発生するけど、それを効率的に潰すために何か不一致を見つけたら「おかしみ」という報酬を与えたというのがユーモアの進化心理学。ヒトは、エネルギーを確実に摂取しようと甘党になった遺伝的戦略から逸脱して合成甘味料やチョコレートケーキを楽しむように、様々な情動(優越感、発見、差別、性欲、等々)を利用してジョークをひねり出すようになった、らしい。現代の先端科学や良質な入門書を、素人がとっつきやすいカジュアルな文体で紹介してくれる翻訳者にもスポットライトを。

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【推薦者】ぴょんはま
【推薦作品】『希望のかたわれ』
【作者】メヒティルト・ボルマン
【訳者】赤坂桃子
【推薦文】
日本人なら今読むべき本である。ミステリとしても、人間と社会・歴史を描いた小説としても、第一級であるのみならず、著者の日本語版へのあとがきにあるとおり、2011年3月の福島原発事故をきっかけに生まれた作品だからである。「福島」によって、チェルノブイリを思い出した著者の、「今日までずっと大災害がもたらした結果とともに生きることを余儀なくされている人たちの存在を忘れないためのささやかな試み」である。2014年の最新作を、前作をおいて先に訳出しいち早く紹介した訳者に感謝する。日本人には馴染みのないウクライナやドイツの人名が多数登場するにも関わらず、読みにくさは感じず、物語の中に入り込めた。原発事故や人身売買の重い素材を扱っているが、ミステリとしてはサスペンスに溢れ、人物像が生き生きとして魅力的。楽しみのための読書としても、読むに値する良書。

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【推薦者】かまどがま
【推薦作品】『禁忌』
【作者】フェルディナント・フォン・シーラッハ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
寝る前に読むミステリーを選ぶつもりで手に取っただけなのに、直球で大切なことを投げつけられた。アートと文学の融合と言うと陳腐になる・・・翻訳小説を読み続けて良かったと読書の快楽をつくづく感じる。読む前と読んだ後で少しだけ自分が変わったと思える一冊。

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【推薦者】すた
【推薦作品】『動きの悪魔』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
ポーランドの作家としては読みやすい内容であるが、しかしその奇想の密度はやはり東欧のものである。汽車をめぐる様々なオブセッションの姿が提示されるが最後にはそのもろもろの営み一切を無に帰すような短編で締めくくられるのがすばらしい。構成はグラビンスキが生前に実現しようとして果たせなかったスタイルによるものということだが、通読して一層深みを得るような短編集になっていると思う。翻訳も読みやすく臨場感を伝えている。

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【推薦者】国東
【推薦作品】『あなたは誰?』
【作者】アンナ・カヴァン
【訳者】佐田千織
【推薦文】
わたしは人間を知りたい。だが近すぎては痛みで読めない。目がくらむ。ちょうどよい距離でアンナ・カヴァンは書いた。ちょうどよい距離で佐田千織は訳した。ということではないか。ぜんぜん被害者の物語ではないから安心して読んで欲しい。自伝的小説と書かれてあるがちゃんと嘘にくるまれている。作者と思って腹を立てて読む必要は無い。わたしたちは登場人物の誰にでもなれる。フー・アー・ユー?答えのない問いではあるが、答える気が最初からないので安心である。

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【推薦者】みけねこ
【推薦作品】『ガラスの国境』
【作者】カルロス・フエンテス
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
アメリカとメキシコの国境地帯を舞台にした短編集。登場人物などで各作品がゆるやかにつながりながら、アメリカに対するメキシコ人の憧れ、憤り、欲望、諦め、悲哀をときにやるせなくときにユーモアを交えて浮き彫りにします。すばらしい読み応えの1冊です。海外文学好きならロベルト・ボラーニョの『2666』へと扉が開かれるでしょう。「哀れなメキシコ、哀れなアメリカ合衆国、これほど神から離れ、これほど隣り合っているとは」今回もまた寺尾隆吉のお仕事に感謝しつつ。

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【推薦者】吉田 博子
【推薦作品】『さよなら、ねずみちゃん(子どものトラウマ治療のための絵本シリーズ)』
【作者】ロビー・H・ハリス
【訳者】監訳 飛鳥井望、亀岡智美 翻訳 遠藤智子
【推薦文】
題名にあるとおりトラウマ治療のための絵本で、ペットロスまたは死別を扱ったもの。こういう絵本があるとは知らなかった。「ぼく」のねずみちゃんは夕べまで元気だったのに、起きたら動かない。「ぼく」は死んだなんて認められない。両親はどう接するか。「ぼく」がねずみちゃんを箱に入れ、いろいろものを入れてあげているところは、実はわたしも1年前に似たようなことをやったのでいろんなことが一瞬頭をよぎった。小さな子供の最初に遭遇する死は多分ペットや生き物だろう。後書きにあるように、もっと身近な誰かかもしれない。子供向けだけではなくて、大人にもお薦めの本。訳文はとても優しい印象。こういう絵本がもっと増えて欲しい。

書影

【推薦者】小寺 啓史
【推薦作品】『ローベルト・ヴァルザー作品集5 盗賊/散文小品集Ⅱ』
【作者】ローベルト・ヴァルザー
【訳者】新本史斉/F・ヒンターエーダー=エムデ/若林恵
【推薦文】
翻訳の仕方によっては「風光明媚なスイスの自然と都市を彷徨し、小市民的な生活の中に見出したささやかな喜びや哀しみを透徹した文体で描き続けた抒情的詩人」のような括られ方もあったかもしれない。たしかにそうだ。でも違う、この訳文が目指しているのは原文を限りなく尊重し、一字一句を検討することだ。美しくまとめることなく、かといって不条理性をいたずらに強調するわけでもない、「変てこ」で「かわいそう」な文体の中にこそ、秘められた狂気を、存在のあやふやさへの断片化された抒情を、我々現代の読者は感じることができる。カフカと同様に、明らかにヴァルザーは生まれるのが百年早過ぎた。難しく考えなくても、ただ読んでさえいただければ、この作家のイカれっぷりと、文体の斬新さは容易に分かって頂けるはずだが、「あまり有名にならない方が良いのですが」と言った典型的バートルビー作家の意向に倣って、控えめに推薦する。「ベスト15冊で充分なのですが」

書影

【推薦者】百句鳥
【推薦作品】『図書館大戦争』
【作者】ミハイル・エリザーロフ
【訳者】北川和美
【推薦文】
社会主義時代の作家が書き残した7種類の本。それを求める「図書館」と「読書室」の果てしなき争い。ウクライナ生まれの怪物ミハイル・エリザーロフ氏が著したロシア・ブッカー賞受賞作は、きわめて破壊的で破滅的なテーマを掲げた激戦の物語です。静的であるはずの「読書」という行為を、ここまで大規模な事象に置きかえる発想に恐れ入りました。現代を舞台にしながらも特別な規則により携帯電話や兵器をはじめとした最新機器は排除されており、「読者」たるアレクセイたちは自前の武器防具を身にまとって血みどろの戦闘にあけくれます。まるで幾世紀も遡行したようなクラシカルな雰囲気が独特で、こうしたRPGを彷彿させる軽快な要素が複雑な構造に包まれることにより、娯楽性と学究性を兼ねた全体小説の体をなしています。これほど中身の濃い作品を軽妙洒脱な文章で訳出した訳者さまに敬意を表し、推薦させていただきます。

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【推薦者】円 高寺
【推薦作品】『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』
【作者】ダーグ・ソールスター
【訳者】村上春樹
【推薦文】
『ダーグ・ソールスター』でネット検索しても本書以外の情報はほとんどでてこない。延々とスクロールをつづけていくうち、そんな名前の作家はそもそも実在していないのではないかしらん?といった気持ちがしてくる。ノルウェイに招待された村上春樹さんが、オスロの街並みの中で生みだした架空の小説家みたいな。あるいはノルウェイに招待されたというのは真っ赤な嘘で、『文学の家』なる文化団体は氏の創作で、当然オスロにも滞在してはいない……。そんな妄想があらたな妄想へと果てしなくつづいていく、奇妙奇天烈な物語なのです。

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【推薦者】つばさ
【推薦作品】『ブリキの馬』
【作者】ジャニス・スタインバーグ
【訳者】青木千鶴
【推薦文】
子どもたちは巣立ち、夫に先立たれた80代半ばの女性が家を処分して高齢者専用アパートに引っ越すことにし、荷物の整理をしているときに、亡き母が遺したある物を見つける。それは、18歳のときに家を出ていき、その後行方知れずとなってしまった、女性のふたごの姉に関するものだった。そこから、女性の姉探しが始まる。女性の子どものころと現在の時間を行き来しながら進む物語には、ユダヤ人に対する迫害を逃れてアメリカに渡ってきた父方の祖父や母の話、女性の子どものころのようす、そして、女性が姉を探し求める現在のようすが綴られています。ちょっぴりミステリタッチで、しかも話が現在と過去を行き来するので、いい意味でじらされながら、600ページ近い分厚い本にもかかわらず、先を知りたい気持ちと物語のおもしろさにひきつけられて、どんどん読み進めてしまいました。

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【推薦者】ゆんぬ
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
生まれたときからの差別や偏見、内戦や孤児などの困難のなかを生きているのに、飛んできた雑誌の表紙のバレリーナ写真を見たことでプロのバレリーナになること夢見る純粋な心と、アメリカの里親に引き取られることで夢を目指して努力する姿に引き込まれました。周りの環境にも関わらず字を教えた親、たくさんの孤児を育てミケーラの夢を後押しする育ての親、どちらからも愛情を注がれているのが分かります。「どうして養子を迎えたの?」に答える「めぐまれていたの。めぐまれているということには、責任が伴うのよ」「責任って?」「分かち合うの」に心打たれました。

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【推薦者】水色のおくまさん
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
信じられない本当の話が臨場感たっぷりに語られ、主人公と同化して様々な出来事を追体験することになります。行ったことも見たこともない場所や登場人物の様子が、まるでスクリーンに映し出されるような視覚効果を持ち、色彩や温度までも感じられるほどです。程よいテンポで翻訳であることを感じさせません。易しいながらもジャーナリスティックな雰囲気の文章が、ドキュメンタリー感を醸し出しています。主人公の強運、様々な人間模様、人の温かさ、目に見えない力、そしてグーグル・アースという現代ならではの文明の利器が一体となって紡ぎだされる奇跡の物語は、まさにタイムリー。これを読むなら、今でしょ!

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【推薦者】大川 ひろみ
【推薦作品】『智異山』
【作者】李 炳注
【訳者】松田 暢裕
【推薦文】
日本が朝鮮を植民地統治していた時から朝鮮動乱の後までの壮大な歴史小説で韓国では古典とされている書であるが、労作などと簡単には言えない紙幅に吃驚する。聖書の七割増といったところか。作者は誰にも阿ることのない筆致で私を10日で読了まで導いた。翻訳ということを意識しないで読めたのは文化や人間性価値観、霊性も含めて渡す架け橋に訳者が絶大なる苦労があったであろうことを物語っている。それにしても余りに惜しい、悲しい思いでいっぱいになった。殆どの人が何も知らずにいる日本と、折角日本から独立できたのに多くの有為の青年たちを非業の死に向かわせ平和を得られなかった韓国との違いや課題を知ってほしいと思う。読後にキェルケゴールの言葉を思った。「我々人間はすべて、弱さと過ちからつくられている。われわれの愚かさを許しあおう。これが自然の第一の掟である」尚知ろうともしないでいることはできない。

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【推薦者】豊崎 由美
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子 パトリック・オノレ
【推薦文】
物語の中心にいるのは、マルティニーク島のカーニヴァルの夜、〈言葉に喉を掻き裂かれて死んだ〉語り部ソリボ・マニフィーク。これは、カリスマ的な語り部の数奇な生涯を証言する人々の声と、ソリボ自身が遺した言葉の数々を、記録者として作中に登場するシャモワゾーが再構築したというスタイルの小説です。フランス語の「シルヴプレ」が「すーぷれ」だったり、ソリボの合いの手「ぱたっとぅ さ!」に聴衆が「ぱたっとぅ し!」と応えるクレオール語の響きが素晴らしい。シャモワゾーは、宗主国の言語であるフランス語と自分たちの“声”であるクレオール語との間に生じる齟齬を利用して、笑いを巻き起こす場面を作り出したり、マルティニーク島独自の時間感覚、自然観、世界観を垣間見せるんです。ソリボという傑物をめぐる猥雑なのに美しい声を、日本人とフランス人の訳者が協力しあって日本語に変奏。まさに日本翻訳大賞にふさわしい作品と信じて推薦いたします。

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【推薦者】鈴木 学
【推薦作品】 『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』
【作者】アンディ・ハミルトン
【訳者】小田中裕次
【推薦文】
ジャズの世界において、プレイヤーの伝記本、自伝が出版、翻訳された例は、いくつかあります。しかし、ほとんどのものが、著作者によってドラマティックに脚色されており、プレイヤー本人の実像が歪められてた感は否めません。しかし本作では、インタビュー形式を採用する事により、どうのように即興演奏を生み出しているのか、プレイヤー自身の言葉が生々しく、忠実に再現されています。その結果、神秘の世界、ジャズの即興演奏の核心に迫ることに成功しています。今までに、ジャズの即興について、これほど具体的に解き明かした例は、皆無でした。そういう意味で、ジャズ史上、画期的な著作が、日本語に翻訳され紹介されたことで、日本のジャズ界にも多大な影響がもたらされることでしょう。翻訳についても、500ページに及ぶ分量、そして、ジャズ、音楽の専門用語が多用されているにもかかわらず、大変読みやすく、しかも、専門家の眼から見ても正確な記述となっています。

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【推薦者】ルネ
【推薦作品】『お静かに、父が昼寝をしております ユダヤの民話』
【作者】―――
【訳者】母袋夏生
【推薦文】
民話というと、どこか教訓めいて、子どもじみた感傷的なものだと思うかもしれない。この「ユダヤの民話」を読めば、そんな固定観念など吹き飛ぶはず。たまごの代金の支払いを忘れて数年ぶりに支払いにきた人にむかって、鶏が子供を産んでいたと換算して千羽の料金を請求する主人。鳥かごから逃げる方法を身をもって教える鳥、など。どこか毒気があったり、ユダヤの民を襲ったその後の出来事を想起させる切迫感があったりする話のかずかず。おなじみの旧約聖書の話だけでなく、東欧や中東など世界に広がるユダヤの人びとの民話の世界を独自に編纂。厳選された処世術とも言える逸品を選びぬき、訳出した訳者に敬意を表したい。

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【推薦者】w. keiko
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
表紙の絵と「戦争孤児から世界的バレリーナへ」というサブタイトルからおおよその展開を予想し読み始めましたが、著者ミケーラの幼少期の体験は予想以上の過酷さでした。後にアメリカ人夫妻の幼女となり夢を叶えていくのですが、綴られている全てが17歳までに起きた事というのも驚きです。読みやすい文体で物語はテンポよく進み、どんな時も前向きで感性豊かな彼女の人物像がどんどん浮かび上がって来るのは見事な翻訳の賜物です。この自伝は映画化される予定との事。実現したら是非見たいと思います。

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【推薦者】七雪
【推薦作品】『動きの悪魔』
【作者】ステファン・グラビンスキ
【訳者】芝田文乃
【推薦文】
鉄道には始点があり終点がある。それは当たり前のことだ。しかし、長くのびる線路を眺めていると、終点などなくどこまでも続いているのではないか、どこか別の世界に通じているのではないかという気持ちになる。
本書は、鉄道にまつわる怪奇短編集であり、まさに「線路がどこまでも続く」物語である。ある場所から場所への移動は、ときに非日常な体験に結びつく。本書には鉄道に魅入られた人々が登場するのだが、彼らはいろんな意味で境界を越えてしまう。日常生活を送りながらも、どこか別の場所へ行ってしまいたいと願っている自分の身代わりのように。ポーランドの「ポー」、ポーランドの「ラヴクラフト」という言葉に惹かれて本書を手に取ったのだが、読了した今、「ン」と「ド」がつく作家をまだ思いつかない。

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【推薦者】およよ
【推薦作品】『不穏なるものたちの存在論 人間ですらないもの、卑しいもの、取るに足らないものたちの価値と意味』
【作者】李珍景
【訳者】影本剛
【推薦文】
私たちは不気味で心地悪いものと生きる。見知らぬもの、正体の分からないもの、「障害者」、バクテリア、サイボーグ、オンコマウス・・・・・・。出会いと巻き込まれを肯定し、美しく不穏な海のイメージを通底に「小さな出口」を探す旅。なぜこれまで翻訳がなかったのだろう?限りなく優しい知の巨人。著者の思考に深く共振する若い訳者は「友すらも結局は「敵」としてやってくる」ほかなかった著者自身の経験さえも、行間に訳してしまっているようだ。なんという文学!友よ!

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【推薦者】ヨイヨル
【推薦作品】『民のいない神』
【作者】ハリ・クンズル
【訳者】木原善彦
【推薦文】
カルト集団、幼児誘拐、金融危機、多民族、UFO・・・The・アメリカ!な要素をこれでもかと詰め込んで、ましてや時系列もバラバラでどんなにか読みにくいかと思いながら読み出したら面白すぎて一気読み。それまでバラバラだった物語たちがラスト一点をめがけて収束していく様は、脳から湯気が出るくらい興奮したし、「色々あったけど、結局残るものなんてきっとなにもないよ、でも」と物語の、その先を見せてくれた作品。ハチャメチャに好きです。この作品が翻訳されたことに感謝!

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【推薦者】ちゃらこ
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス エレーン・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
世界的バレリーナのミケーラ・デプリンス。 西アフリカで生まれ、内戦で父親を亡くし、病気で母親を亡くす。 戦争孤児となり孤児院で暮らすも、その孤児院も反政府戦力に占拠される。 アメリカに暮らす夫婦の養子ととなり、バレリーナへの道を進み始めるも、今度は人種差別の壁にぶち当たる。 17歳の若さで書かれた自伝ではあるけれど、その人生は日本では考えられないくらいの困難に満ちている。 戦争・飢えなどの辛く恐ろしい困難が重く苦しいものだとしても、彼女は夢をあきらめず、努力で今の地位を勝ち得た。 夢や希望を持ち続け、努力することの大切さや尊さを教えてくれる1冊。 苦しい現実や大きな壁を前にくじけそうになっている人に、前に進む元気を与えてくれる本です。 ハンドルネームでの掲載をお願いします。
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【推薦者】加生 絞弦
【推薦作品】『フランシス・クリック:遺伝暗号を発見した男』
【作者】マット・リドレー
【訳者】田村 浩二
【推薦文】
20世紀最高の生物学者と言われるフランシス・クリック。それにもかかわらず、これまでクリック評伝の邦訳がなかったのは不思議な気さえする。「ワトソン・クリック」の相方、ジェームズ・ワトソンは、ベストセラー『二重らせん』にも見られるように何かとお騒がせ者なのに対し、帯文にもある通り、クリックはまさに「生涯、一科学者」。一見地味に見えるこのクリックこそ、生物学を革新させた人物である。マット・リドレーの原著“Francis Crick: Discoverer of the Genetic Code”はワトソン・デイヴィス賞(米国科学史学会、2007)を受賞しているように、人物・中身の両観点において、この翻訳本の刊行は大きな意義があるだろう。内容を熟知した遺伝暗号の専門家による邦訳に加え、2016年はクリック生誕100年にあたるという絶妙のタイミングである。お薦めの一冊である。

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【推薦者】柴田 侑樹
【推薦作品】『ドリフトグラス』
【作者】サミュエル・R・ディレイニー
【訳者】浅倉久志,伊藤典夫,小野田和子,酒井昭伸, 深町眞理子
【推薦文】
ディレイニーは若くして文才を発揮した。23歳で『バベル17』を発表しネビュラ賞を受賞した。この『バベル17』も素晴らしい作品であるが、ディレイニーと言ったらやはり、それ以前に書かれた『エンパイアスター(ドリフトグラスに収録)』であろう。特筆すべき点はその引き込まれる世界観に美しい文体。そして読み終えた後、まさに螺旋状のように読み返したくなる感覚に襲われることである。この多面的作品は著者自身が黒人でありゲイでありミュージシャンでもあるという多面的価値観をもつ彼のみが成し得るものだと思う。しかしながら日本語訳は素晴らしく丁寧でいて難解で流麗なディレイニーの文体を残しつつも見事に翻訳されている。翻訳者の方々も多面的価値観をお持ちなのかもしれない。

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【推薦者】☆mikkii☆
【推薦作品】『ワンダー Wonder』
【作者】R・J・パラシオ
【訳者】中井はるの
【推薦文】
ネット上のどこかで、「表紙の水色のような読後感」というのを見かけたと思うのですが、まさにそのとおり!!ハンディを負った主人公が、めちゃくちゃ愛にあふれた家族と、そして数は少ないけれど温かい友達に支えられ、試練に立ち向かう物語です。といってしまうとありきたりに聞こえてしまいますが、章ごとに語り手が変わりさまざまな角度から紡がれてゆくので、物語に深みが増しています。そして爽快なエンディング!途中、4、5回泣きました。すこし古いことばとして出てくる thugs の訳に「ツッパリ」は拍手。(原書277ページ、訳書372ページ)

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【推薦者】丹所 千佳
【推薦作品】『12人の蒐集家/ティーショップ』
【作者】ゾラン・ジヴコヴィッチ
【訳者】山田順子
【推薦文】
さかしまの魔術師、あるいは東欧のボルヘス。作者は旧ユーゴスラビア生まれのセルビア人。プロハスカ、パリヴェク、ポコルニーなどの聞きなじみのない登場人物の名が、物語の不可思議さを彩る。〈よろけヴァイオリン〉〈惚れ睡蓮〉〈詰めこみモンキー〉といったケーキの名前も魅力的。12の連作で蒐集されるのは、爪や写真、夢(夜見るほう)や死。熱心なコレクターたちの姿は、不穏でありながらどこか滑稽でもある。とあるティーショップで〈物語のお茶〉を頼んだ客に、入れかわり立ちかわり語られる話は、ロマンチックで謎めいている。ドキドキしながらうっとりとページをめくり、紫色の夢と緑色のお茶を味わった。読み終えたあとに眺めるとニヤリとなる装丁も素敵。「お茶の原料はなんなのか、訊くことはできるけれども、そんなことをすれば魔法がとけてしまうだけなので、グレタは訊かないことに決めた」(「ティーショップ」より)。

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【推薦者】KAYO・FUJI
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
これが現世で起きたこと?とても感動しました!
インドの僅か5歳の男児が、遊びに出た町で兄とはぐれ、何かのはずみで入り込んだ誰もいない車両、列車が動き出し、暗い中どこか遠くへ運ばれて行く時のたまらない不安感。見知らぬ大都会で浮浪児となり、絶えず危険が襲ってくる恐怖感。のっけから、生々しく語られる体験にハラハラ・ドキドキさせられる。意外にも異国豪州の里親の下で成育する幸せに遭遇するが、インドの肉親への思いも断ち切れず、心の中に去来する思いは複雑、葛藤の日々、思い悩む心情がひしひしと伝わる。刻々の感情を淀みなく伝えてくれる日本語訳は、正に本人になり切ったかのようで、ぐんぐん引きずり込まれる。男児はグーグルマップ上で、故郷の在りかを探す、言わば沙漠上の一本の針を探すに似た途方もない方法に挑戦するが、徒労の連続に、読者はヤキモキさせられ、何とか見つけてほしいと応援したい気持ちに掻き立てられる。25年もの執念で、遂に実現したこの奇跡、世に知らしめてくれた著者と翻訳者に感謝したい気持ちでいっぱいです。

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【推薦者】佐野 隆広
【推薦作品】『ぼくたちは戦場で育った サラエボ1992─1995』
【作者】ヤスミンコ・ハリロビッチ
【訳者】角田光代
【推薦文】
2015年に読んだ本の中で一番衝撃を受けた1冊。ユーゴスラビアで起きた民族紛争については、あまりよく知らなかったのですが、サラエボ攻防戦の過酷な戦場で生き延びた子どもたちが、当時を思い出して語る言葉のひとつひとつが心にグイッと迫ってきて、その言葉たちに対して、私には返す言葉が見つけられませんでした。本書のような作品を翻訳し、私たちの手元に届けてくれた角田光代さんの功績は、日本翻訳大賞にふさわしいと思い、今回の推薦作品に選ばせていただきます。

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【推薦者】らっぱ亭
【推薦作品】『紙の動物園』
【作者】ケン・リュウ
【訳者】古沢嘉通
【推薦文】
 ケン・リュウ『紙の動物園』は今が旬のSF作家の、まさに粒選りの傑作集。又吉直樹の推薦で普段SFを読まないかたも手に取る機会を得たと思うのだが、ヴァラエティに富んだ収録作の高い質と選定の妙に加えて、日本語として確かな文章であるということも本作の高評価の一因であろうことは間違いない。ケン・リュウの英語は平易なぶん翻訳が非常に大切な作家だ。特に、情緒的なところを臭くならないように、そして平易なところは適度に艶っぽく言葉を選んでいくのは、けっこう名人芸的なテクニックが要求される。実際、表題作「紙の動物園」を英語で読んだときは、「せつなくも感動的な話でヒューゴーとの二冠も納得できるかなあ。でもあまり好みじゃない」などとツイッターで呟いていた。手紙のくだりが少々あざとく感じたためだが、今回翻訳で読んで不覚にもうるっときた。これぞ日本語の力だ。次作も古沢さんの翻訳でお願いしたいと切に感じた瞬間だった。

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【推薦者】八本
【推薦作品】『ムシェ 小さな英雄の物語』
【作者】キルメン・ウリベ
【訳者】金子奈美
【推薦文】
バスクからの疎開児童を受け入れた青年の一代記。断片的とすらいえる短いパラグラフが幾重にも重なっていて、なおかつそこに虚実が入り混じっているというのに、読んでいてまるで違和が感じられないのは作者の筆力と翻訳者の存在を思わずにはいられない。また、その詩情豊かな断片を拾い集めつつ読み進める作業は、破られた手紙を縫い合わせていくかのようで、とても楽しい読書体験ができました。

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【推薦者】りつこ
【推薦作品】『美しき廃墟』
【作者】ジェス・ウォルター
【訳者】児玉 晃二
【推薦文】
素晴らしかった。イタリアの片田舎で芽生える小さなロマンスとアメリカのショービジネス界ではスキャンダルさえ商売にして強かに生きている人たち。二つの物語が交互に語られる。この二つの物語がどう交差していくのか、最初は戸惑いながら読んでいたのだが、過去と現在が交互に語られ、様々な登場人物がそれぞれの視点から物語り、さらに物語中物語も魅力的で、楽しい楽しい。ばらばらに思えた物語が、後半になって見事に回収されていく爽快さ。イタリアのパートはロマンティックで美しく、アメリカのパートはブラックな笑いに満ちていて、この物語自体が壮大な映画のような作りになっている。物語を読む楽しさに溢れた素晴らしい作品だった。

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【推薦者】ぽんきち
【推薦作品】『エニグマ アラン・チューリング伝 上・下』
【作者】アンドルー・ホッジス
【訳者】土屋 俊、 土屋 希和子
【推薦文】
コンピュータや人工頭脳の父と呼ばれる異色の天才、チューリングの生涯を詳細に追った評伝。原著自体は1983年刊行だが、2014年の映画「イミテーション・ゲーム」の原作本ということで、邦訳が出たもの。一応、原作とはされているが、映画とはかなり内容が異なる。多くの人の心に訴え、感動を誘った映画と比べて、原作本はどちらかといえば難解で取っつきにくい。だがそのじっくりねっとりとした筆致が、稀代の天才の内面、彼を取り巻く環境をスリリングに暴いていく。あるときは確率論を語り、あるときは詩を評し、あるときはナイーブな感情に寄り添う。その多層的な描写があってこそ、チューリングという1人の奇才が立体的に立ち上がってくるのである。大部であり、重厚な原著で、翻訳の労苦も偲ばれる。映画のヒットという後押しがあったにせよ、決定版ともいうべき評伝の邦訳が出たことに、惜しみない拍手を送りたい。

書影

【推薦者】YUKIHIME
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス エレーン・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
子どもに読ませたいと思い、まず自分が読んでみたところ、月並みですが感動しました。この原書を選んだ翻訳家さんに見る目がある!と素直に思いました。夜、一息ついてから読み始めたのですが、なかなか止まらず夜中まで読みふけってしまいました。平和な日本に住んでいる私たちには想像もできないような現実を、この本を通して子供たちは知ることができました。中高生だけでなく大人も十分楽しめる本です。

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【推薦者】横浜自由人
【推薦作品】『ウイグルの詩人 アフメットジャン・オスマン選詩集』
【作者】アフメットジャン・オスマン
【訳者】ムカイダス、河合 眞
【推薦文】
この訳詩集には、ウイグル民族の悲しみ、苦しみ、故郷を追われた者(現在、詩人はカナダに居住)の、ウイグルの大地への限りない愛があふれている。比喩の美しさ、語彙力の豊かさ等々は、河合氏が精神科医として患者との信頼関係において、言葉というものへの、一つ一つへの思いの深さによるものだと、私は思う。また、彼の著書に「音楽療法」があるが、この訳詩集を朗読してみると良くわかるが、音楽の旋律に合わせて、翻訳したのではないかと思われる程、リズム感が小気味良い。そして、何よりこの訳詩集の叙情性を極だたせているのは、彼自身が、多いなるロマンチストの由縁であると、私は思う。

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【推薦者】とりっぽん
【推薦作品】『ハーレムの闘う本屋』
【作者】ヴォーンダ・ミショー・ネルソン
【訳者】原田 勝

【推薦文】
ハーレムで黒人書専門の本屋を立ち上げ差別と闘ったミショーさんの一代記。本人や周囲の人々のモノローグ、詩、新聞記事、写真、そしてパンチの効いたイラストが散りばめられ、ポップなビジュアルの中で其々の人物が、其々のキャラと声でリズミカルに語りかけてくる。クールでビートが効いたセリフの応酬は、まるでゴキゲンなジャズセッションを聞いている気分。本の構成、そして翻訳のリズムとセンスに拍手!そしてこれは「過去のアメリカの物語」ではない。今、私たちのこの時代にこそ「知性の力」と「武器を持たない闘い」が必要。これは今こそ読まれるべき本。本を読むってどういうこと?人間らしい生き方って?世の中を変えるには?…多くの人に(特に若い人に)ミショーさんの言葉を聞いてほしい。

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【推薦者】平岩 壮悟
【推薦作品】『ドニャ・ペルフェクタ: 完璧な婦人』
【作者】ベニート・ペレス=ガルドス
【訳者】大楠 栄三
【推薦文】
舞台は「首都マドリードからそれほど遠くもなく近くでもない」、スペインの至るところに見出すことができる架空の村・オルバホッサ。住人たちは、オルバホッサが地上の他のどの土地よりも優れていると疑わず、外部から来るものには敵愾心をむける。マドリード出身の秀才・ぺぺは叔母であるドニャ・ペルフェクタの家に滞在することになりオルバホッサに向うが……。自分の考えに盲信的で、娘を溺愛するばかり狂信的な親バカの叔母と甥が繰り広げる昼ドラさながらの展開もあれば、<偽善>や<高邁な無知>といった住人たちの性質とそれを生む土壌を周辺人物との関わりの中で描いていくところもあり。疑うことをしない<狂信>的な人間と、それ故に生じる<支離滅裂>をカメラでもって撮ったルイス・ブニュエルがこの本を愛読書にしていたというのも頷ける。小説は次のように終わる。「一見すると良い人間だが、実はそうでない人びとについて、われわれがいまのところお話できるのは、これですべてです」。

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【推薦者】高山 あつひこ
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケ―ラ・デプリンス、エレーン・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
 これは、17歳の少女の自伝です。彼女は黒人の少女でプロのバレリーナ。でも、ここに書かれているのは、バレエの話だけではないのです。彼女はアフリカのシエラレオネの戦争孤児で、その生い立ちが語られる時、私たちは内戦で国が壊れていくさまを目にします。仕事も食物もないのに何故か武器だけがあり、人々がわけもなく殺されていくのです。やがて、国を追われ難民キャンプに逃れた孤児院からアメリカに養子としてもらわれていった彼女は、雑誌の表紙で見て憧れたバレエを習い始め、様々な差別を受けながらも、成長していきます。この本が翻訳された事により、今現在起きている難民問題や黒人差別を知り、希望をもって生きることの素晴らしさを知ることができました。是非若い人たちに手に取ってもらいたい本です。

書影

【推薦者】四人目の幽霊
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
翻訳というものはあるだけでありがたい。そうしたことは重々承知しつつも、自分がやらねば、自分がやる必要があるという訳者裂帛の気迫が本のそこかしこからにじみ出てくる作品である。ディケンズの専門家でもある訳者の手による訳と解説は、ディケンズさえも気づかなかった「ディケンズ的なもの」をあぶり出している。

書影

【推薦者】四ノ塚 塵
【推薦作品】『エンジェルメイカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行

【推薦文】
この本の著者のプロフィールを見た時、きっと誰もがその父親の名に驚くだろう――スパイ小説の巨匠、ジョン・ル・カレ。その影を意識せざるを得ない――巨大な名前。この本の最初のページをめくるとき、その名前は読者の頭に大きくのしかかる。この本の最後のページを捲るとき、あなたの頭の中にはもう一つの巨大な名前が刻まれる――ニック・ハーカウェイ。あらゆるジャンルを横断し奇想天外に展開するパワフルな700ページ二段組の大活劇の衝撃はまるで脳天を直に揺さぶられるよう。この巨大な才能を見逃すな!

書影

【推薦者】清水 克美
【推薦作品】『春草』
【作者】裘山山
【訳者】徳田好美・隅田和行
【推薦文】
 中国の現代小説は目にすることがめったに無い。「春草」は久々に手にした中国のベストセラー本です。私にとっては「ワイルド・スワン」以来か。物語は、都市開発や経済優先を推し進め、格差の矛盾を生んでゆく現代中国の社会を背景に、農村出身の女性、春草の波乱万丈、必死の生き様が描かれています。春草の哀しさ、切なさに共感しながら一気に読ませます。訳者は「主人公の健気な生き方に愛着を覚える。同時に社会の有りようにも目を瞠る」と述べています東アジアの共通の土壌にありながら、隣国との異文化性に気づかされる作品でもあります。

書影

【推薦者】宇津木 敏彦
【推薦作品】『春草』
【作者】チゥシャンシャン
【訳者】徳田好美・隅田和行・共訳
【推薦文】
 中国は都市と農村との貧富の格差の激しい社会と聞いております。その貧しい農村の生活の中にあって、一人の何気ない少女が、清く正しく生きて行く姿は、明治時代に生きた日本の芯の強い女性を思い起こしてくれました。勿論、日本の芯の強い女性と云えば、「おしん」に代表されますが、何処の国にも、貧しが、親や夫・子供のために自分を犠牲にして生きて行く女性の姿があり、その心理状態を見事に翻訳さております。広大な中国の農村風景が目に見えるように描かれた翻訳には、深く感動いたしました。

書影

【推薦者】阿藤 保
【推薦作品】『ドリフトグラス』
【作者】サミュエル・R・ディレイニー
【訳者】浅倉久志,伊藤典夫,小野田和子,酒井昭伸, 深町眞理子
【推薦文】
見知らぬ作家の本に出会った時、私たちはその表紙、装丁、帯、そして中身を検分するだろう。本書に銘打たれた「決定版短篇コレクション」という文句は、アメリカのSF作家ディレイニーの傑作短篇群へと誘う良い惹句だ。真っ白な装丁も目を引き、何度も読み返して手垢で汚してくれと言わんばかり。だが肝心の中身は?それこそ安心してほしい。この短編集の訳者陣は多くの海外SFを訳してきた当代随一のSF翻訳家たち(故人含)なのだから。ディレイニーは華麗な文体と豊穣なイメージを特に評価されており、本書カバー裏にも作品の形容として「超絶技巧」や「洗練」といった文字が並ぶ。だが、この言葉は作家だけでなく、当然その訳者たちをも射程に入れている。傑作短篇群を際立たせるのは豊かな日本語で原語を刈り込んでゆく翻訳家の手腕だ。本書はその一端を存分に知ることができる。

書影

【推薦者】佐伯 敦子
【推薦作品】『カールの降誕祭』
【作者】シーラッハ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
3つの短編で人間の哀しさやあやうさを表しているのがすごいです。ドイツのクリスマスという設定ではあるが、自分の中にこのような思いが多かれ少なかれあったことを感じて、なんて素晴らしい作家なのだとあらためて感じました。どこの国でも、人の思うところは一緒なのかもしれないです。訳も素晴らしい。

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【推薦者】Y
【推薦作品】『雪を待つ』
【作者】ラシャムジャ
【訳者】星泉
【推薦文】
チベット語から翻訳された初の長編小説。「ぼく」を含む4人の子供たちをめぐる村の生活を描く前編は、丁寧な描写をかさね、村の情景が目に浮かぶよう。子供の失踪やドゥクキ姉さんとミンジュル先生の駆け落ち未遂などの事件をはさみながらも、村の時間はあくまでもゆったりと流れていく。後編で、大人になった「ぼく」が住む都会の時間の早さとは対照的である。時間の流れが文体によって書き分けられている点も秀逸。

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【推薦者】犬星 星人
【推薦作品】『出身国』
【作者】ドミトリイ・バーキン
【訳者】秋草俊一郎
【推薦文】
複雑な文体に読み始めは面食らったのだけれども、病的な登場人物や陰鬱な世界観と相俟って、その文体がだんだんと癖になっていった。新奇な比喩表現の数々も面白かったなあ。翻訳が素晴らしくて淀みなく読むことができた。ドミトリイ・バーキンの著作は、本国でも一冊しか出版されていないそうだ。そんな寡作な作家の翻訳書を刊行してくださった群像社も奇特である。

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【推薦者】ろまん
【推薦作品】『夢へ翔けて』
【作者】ミケーラ・デプリンス
【訳者】田中奈津子
【推薦文】
西アフリカの内戦で孤児となったミケーラ・デプリンスが様々な苦難・偏見を乗り越えて、世界的なバレリーナに成長していく物語。ミケーラが幼少期に受けた恐ろしい体験や困難が鮮明に訳されていることに驚きます。孤児のミケーラたちを引き取って、愛情をいっぱい注ぐ養母(エレーン・デプリンス)とのやりとりや、世界的バレリーナの階段を駆け上がっていく様子がスピード感があり、生き生きと訳されています。また難しいバレエの専門用語が大変わかりやすく訳されています。この作品はテーマが素晴らしく、このテーマの良さを引き出すための一言一句無駄にしない訳者の情熱が伝わってきます。

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【推薦者】
【推薦作品】『服従』
【作者】ミシェル・ウェルベック
【訳者】大塚桃
【推薦文】
フランスにイスラーム政権が樹立!というきわめてセンセーショナルかつ今日的な題材を扱い賛否両論を巻き起こしたという本書。実際に読んでみると政治的な色彩より、インテリ男の「厨二病」的スケベ心を端正な文章で暴き徹底的にこき下ろす知的ブラックユーモアが際立っていると感じました。その手つきはいかにも意地悪な感じがして作者はたいしたヒネクレ者だなあと感心します(褒めてます)。本作を読み感じ入ったのは「意地悪」も極まればこのようにハイレベルな文学となりえるのだということ。私のような性格の悪い物書き志望にとってまさに希望の星のような小説であります。ってこれ推薦文になってるかな。

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【推薦者】さとう まあしゃる
【推薦作品】『コマンド・カルチャー』
【作者】イエルク・ムート
【訳者】大木毅
【推薦文】
「刑事コロンボ」に陸軍幼年学校での事件「祝砲の挽歌」がありますが、この学校が旧軍のそれと思っていたら全く異なった存在だった。「ザ・パシフィック」原作本の一つで実際に海兵隊の一兵士として従軍した知見を著した「ペリリュー・沖縄戦記」のスレッジも志願前は陸軍士官養成学校のMarion Military Instituteに在学していた。このように米陸軍士官への道は陸軍士官学校や一般大学の予備士官養成コースの他に軍事大学・短大といった士官学校からのコースもあり、旧日本陸軍とは大きく異なる。「コマンド・カルチャー」はドイツの影響を受けたとされる米陸軍士官教育とその文化について学校制度から教授陣の変遷まで幅広く取り上げてお手本のドイツ士官の教育・文化と比較検証している。将軍や兵器システムではなく陸軍士官養成と文化という視点で分析をされた訳書というのはあまり見かけません。米軍について描写した映画や小説、ノンフィクションを読む際、彼らの独自の文化はどのようなものなのか理解して読む為の一助にもなる本だと思う。

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【推薦者】KKOIDE
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サル―・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
タイトルとキャッチコピーに惹かれて読んだが、まさかこの世にかかる奇跡が実際に起きたとは!インドの片田舎で貧しい家の5歳の男児サル―が迷子になり、突然遠く離れた都会で浮浪の日々、幸い孤児院と養子縁組団体に救われ、豪州の善良な養父母の下で成育する幸運に恵まれるが、一方自分のルーツへの思い黙だし難く、幼時の記憶を頼りに、グーグルアースの地図上で、インドの故郷を探すという不可能に近い方法に挑戦、20年以上かけて終に探し当て、肉親との再会を果たす、感動なくして読めないノンフィクションである。全編通じて綿々と綴られるサル―本人の感情の機微が読者の心を打つ。この奇跡実現の底流にある“人の愛”にこの上なく癒された。

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【推薦者】ざくろ
【推薦作品】『ハーレムの闘う本屋』
【作者】ヴォーンダ・ミショー・ネルソン
【訳者】原田勝
【推薦文】
ニューヨークにある黒人のために開かれた書店の話なのですが、人が集まったり、教育が施されたり、知識が交換されたりと、単に本を売るだけじゃない書店のありようが書かれており、とても面白く読めました。特に昨今は、こういうかたちの本屋が日本にあっても面白いのではないでしょうか。

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【推薦者】ミオール・H
【推薦作品】『若者の住めない国』
【作者】ジュリア・オフェイロン
【訳者】荒木孝子・高瀬久美子
【推薦文】
ブッカー賞ノミネート作。アイルランド小説の翻訳は少なくないが本訳のようにアイルランド語部分の翻訳も正確なものはきわめて少ない。その意味で貴重な翻訳。アイルランド自由国が成立した1922年当時、イギリスは実際には裏で何をしていたのか。イギリス王の手先による扇動を監視するためにアイルランドに渡ったアメリカ人がなぜ殺されなければならなかったのか。その殉死を伝える新聞記事から本書は始まる。記事はアイルランド語で結ばれている。こうした箇所を従来の翻訳は殆どまともに訳してこなかった。アイルランド独立運動をめぐる複雑な歴史を物語る作品ではアイルランド語の理解は不可欠である。

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【推薦者】ねこたろう
【推薦作品】『エンジェルメイカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行

【推薦文】
圧倒的大傑作!まさに超ド級のエンターテイメント。SF、冒険、恋、ミステリー、陰謀、バトル、感動、笑い、ありとあらゆる要素がギュウギュウに詰まった楽しさ溢れる大活劇! 見事に張られた伏線が大団円へと収束していくラストは、ジェットコースターめいてめくるめくような読書の快感に圧倒されます。二段組み七百ページという大ボリュームだが、読み終える頃にはそれでも物足りなく思えるほど。この小説が日本語で読めるというのは実際たいへんな幸福だと思います。みんな読んで!

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【推薦者】かもめ通信
【推薦作品】『帰還兵はなぜ自殺するのか』
【作者】デイヴィッド・フィンケル
【訳者】古屋 美登里
【推薦文】
原題は“Thank you for your service”。イラクからの帰還兵とその家族を追ったノンフィクション。まるでドキュメンタリー番組を見ているかのような生々しい証言を元に綴られている本書は、戦争についても政府の方針についても、書き手の主観をあえて排し、取材した内容を事細かに書き表し事実をつきつけることで読み手に考えることを促している。語られる内容の深刻さにもかかわらず、訳文もわかりやすく大変読みやすい。いまこそ、いまだからこそ読まれるべき本だという著者と翻訳者の熱い想いが伝わってくる1冊でもある。

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【推薦者】吉田 敦
【推薦作品】『ハバ犬を育てる話』
【作者】タクブンジャ
【訳者】海老原志穂、大川謙作、星泉、三浦順子
【推薦文】
日本で目にする「チベット文学」は、実はチベット人作家が中国語・英語で執筆したものからの翻訳が多い。一方、本書は全て、「チベット語で」書かれた作品の翻訳。日本人にとってマイナーな言語による文学作品の翻訳が市販され、平易な日本語で楽しめるのは嬉しい。こうした事情を抜きにしても、抒情とユーモア溢れる作品群からは、政治的・宗教的コンテキストでばかり語られる現代チベットが一面的なものに過ぎないことを教えられる。情緒的な作品、シュールな作品、実験的な作品など、作者の様々な顔に合わせて翻訳担当が変わるスタイルも良いと思う。

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【推薦者】k
【推薦作品】『エンジェルメイカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行
【推薦文】
砂を噛むような日々には読書が捗らないこともある。そんな時にもぐんぐん引き込まれ、ひときわ胸熱くしてくれた一冊。主人公ジョーが機械仕掛けの謎の本をきっかけに巻き込まれる、人類の存亡を賭けた大冒険。機械修理の職人であるジョーのパートと女スパイ・イーディー(女傑!)のパートに分かれて進む長い物語が、終盤に向けて集約していきカチリとはまった時、複雑で奥行のある登場人物達はまるで実在する友人のような存在感を放つ。人に歴史あり。流れる時の中どこかでみな繋がりあっている。友情で、憎しみで、愛情で。それは登場人物達のみならず読者もまたそうであるという事を思い出させてくれる。私は繋がっている。作者と、訳者と、本屋と、本を勧めてくれた人と。盛り沢山のガジェットでこれでもかと楽しませてくれる物語があれば、例え世界からはみ出てしまったように感じる夜でも、笑顔を取り戻すことが出来る。それがこの第一級娯楽小説の力だ。

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【推薦者】案田 勉
【推薦作品】『春草』
【作者】裘山山
【訳者】徳田好美 隅田和行
【推薦文】
 戦後の中国を語るとき、文化大革命、天安門事件、そして今や世界第二の経済大国とその変動に関心が集まる。この「春草」は、この年代が対象となっているので、私の関心はこの中に生きる人たちの生活にあった。しかしそれとは異なり、人間の善意と悪意、悲喜こもごもに生きる女性のしたたかの姿を描いた文学作品である。しかも再販を重ね、ドラマ化され、さらに女性文学賞を得たという。政治と無縁の小説に文学賞を与える中国。此のことだけでも一読に値する。又この翻訳に力みがなく淡々として流れ、時に美しくそれ自体が日本文学といえる。最終章の、苦難を乗り越えながら偶然に拾った捨て子を抱え、主人公が言いなをす。「私また母さんを始めなくちゃならない。いざ開始よ」。こう語らせた作者に、翻訳者に、夢を感じて嬉しくさえなった。

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【推薦者】高原 英理
【推薦作品】『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
台湾のブラッドベリ、というのは、子供と魔術そして過去の再構成、という布置からの印象だが、SFファンタジーへの直な傾向は主でなく、飽くまでも場と記憶にかかわる意識の追求の物語であり、深く辿り、見やる奥にはふと異物がほの見える、そんな小説集だ。「中華商場」という迷宮的な各棟をつなぐ歩道橋の中ほどにいつもいる手品師(魔術師)が、一つを除くいずれの話でもサインのように現れ、彼の見せる少し不思議なしかし完全に魔法かどうかは不明なふるまいが「リアル」の一線を越えるか超えないかのあたりで揺れていておもしろい。揺れはそれだけでなく、いずれの話もかつてそこに住んだ子供たちが成人した後に回想しているため、切実な事実らしいこと、曖昧・不明なこと、信じられないが確かにあったと思うこと、等々が順に語られ、ときに細密な過去、ときに茫洋とした世界が再現=再構成される。中には相当過酷ないきさつも含まれるけれども、この訳文による語り口は飽くまでもやわらかく、語り手の視線はいくらか中空を向いているような気配があって、私にはとても肌に合った。

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【推薦者】遠藤 裕子
【推薦作品】『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』
【作者】ヴァーノン・リー
【訳者】中野善夫
【推薦文】
一文が長々と続く原文の雰囲気を損ねることなく、しかも日本語として違和感なく読めるように訳してくださった訳者のお仕事ぶりに、まずは感謝いたします。たいへん大部でまたお値段もそれなりの本ですが、訳者と読者一丸となってのツイッター上での販促活動が実に楽しげで、自分もこのお祭りにはぜひ参加したい、という思いをかき立てられ、本を買う楽しみを倍加していただいたように思います。そういう意味でも、とても印象的な一冊となりました。

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【推薦者】東 えりか
【推薦作品】『出島の千の秋』
【作者】デイヴィッド・ミッチェル
【訳者】土屋政雄
【推薦文】
幕末まであと少しという時期の長崎を舞台に、オランダ人の若き能吏、顔にあざを持つ若き産婆、日本を砲撃した英国海軍館長など、多くの魅力的な人物が登場する大河小説である。世界史の流れのなかで、この時の日本は外国からどう見られていたのか、日本国内に残されていた出島の外国人と日本人とはどのようなつきあいをしていたのか、政治経済に恋愛がからみ、行き先の見えないドラマに胸が躍る。日本人通詞の拙いオランダ語と、正しいオランダ語を英語でかき分けてあったそうで、その訳は苦労したらしい。

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【推薦者】伍藤潤
【推薦作品】『エンジェルメイカー』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行
【推薦文】
現代のロンドンで。過去の諜報戦場で。ノワール/冒険小説/SF、とジャンルを横断し、ひたむきな楽しさを叩きつけてくるオールドスクールでニュースクールな、「愛」を巡る冒険小説。それがこのエンジェルメイカーなのです。多ジャンルをるつぼで融かすミクスチャー感覚を、シュールなユーモア/人間への愛着/語ることそのものを楽しむ眼差しでくくった、饒舌きわまる文体の心地良さたるや比類なし。黒原氏は、そうした語りの中心となるパンチラインの嵐を軽やかに、そしてキュートに訳しています。それが解像度を高めているからでしょう。ボンクラから裏社会、諜報界隈、悪役まで、それぞれの戦いを駆けた人々に愛おしさを憶え、読んでいて胸が躍ってしかたありません。不信、憎しみ、願い、希望、と多くが交錯し、主人公が「なりたかった大人になる」までの、七百ページあまりの旅――ここにありったけの愛と敬意をこめて推薦させていただきます。

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【推薦者】大石 滋子
【推薦作品】『春草』
【作者】裘山山
【訳者】徳田好美・隅田和行
【推薦文】
 原作は中国でベストセラーとなりテレビドラマ化された小説です。とにかく訳が良く、どんどん物語に引き込まれて寝る間も惜しく、3日間で一気に読んでしまいました。内容は主人公の七転び八起きの人生を綴ったものですが、読後感として悲壮感は無く、むしろいろいろな場面に励まされました。今まで中国の小説に触れる機会があまり無かったのですが、読んでみてとても面白かったので、いろいろと読んでみたいと思います。是非いろいろなかたに呼んでいただきたいと思い推薦します。

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【推薦者】ゴンジー ゴンタ
【推薦作品】『春草』
【作者】裘山山
【訳者】徳田好美、隅田和行の両氏
【推薦文】
『春草』は、友人に薦められたのがキッカケで読んでみた。著者は日本の『おしん』をイメージしながら執筆したと記していたので、日本版と比較する意味でも興味をもった作品である。読後感としては、日本と中国の社会背景や経済発展さらには政治体制の違いからか、個人的には中国の『春草』と日本の『おしん』とは大きく異なる印象を受けた。対比するに、この『春草』からは、現代中国の内陸部の状況をつぶさに伝える生々しさが伝わってきて、これこそがあまり表面に出てこない中国の真実の一部でもあることは容易に推測され、ある意味悲愴感すら感じられるが、一方では、底辺層の力強さも感じ取ることができる。多くの日本人が目にするのは、超高層ビルが立ち並ぶ上海などの華やかな中国であるが、あまり、日本での報道では窺い知ることのできない中国の一面を知るというのも興味深いものがある。翻訳本には常に翻訳者によって付きまとう癖がある。原作に忠実過ぎる作品や超訳過ぎて読む気がしないものがたくさんあるが、この本は忠実過ぎず、超訳過ぎずで適当にこなれており、どんどん読み進めることができる点でもお勧めしたい一冊である。

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【推薦者】亀井 よし子
【推薦作品】『忘れられた巨人』
【作者】カズオ・イシグロ
【訳者】土屋政雄
【推薦文】
著者も訳者もビッグネームゆえ、いまさらという感じがしないでもないのですが、いつもながらの訳文のすばらしさは昨年読んだもののなかで群を抜いていると思いました。アーサー王の死後間もない時期という時代設定にもかかわらず、「記憶と忘却」というテーマも現代に直に通じていて、いろいろなことを考えさせられる作品でした。

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【推薦者】ベック
【推薦作品】『美しき廃墟』
【作者】ジェス・ウォルター
【訳者】児玉 晃二
【推薦文】
すべてはやがて無となる。しかし、時と場所がどうであれすべての営みは美しく輝く。最終章である第二十一章『美しき廃墟』はそのことを如実に語る。夢破れたすべての愛すべき人生。美しく滅びしもの。この章があるおかげで、この本は壮大な幕引きの印象を与えてくれる。読み応え、受ける印象、そして読後感。すべてにおいてぼくはこの本が大好きだ。素敵な映画を観た後の、あの独特の高揚感が身を包む。

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【推薦者】mau
【推薦作品】『若者の住めない国』
【作者】ジュリア・オフェイロン
【訳者】荒木孝子、高瀬久美子
【推薦文】
 世界がテロリズムに覆われつつある現代に、アイルランドにおける1920年代と1970年代の二つの暴力の時代をフォークナーばりのスケールで結び合わせたこの作品を読むことは、決して無駄ではない。同著者の「従順な妻」(2002年訳)から十余年、こつこつと訳されてきた訳者お二人の熱意と友情にも敬意を表して。

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【推薦者】STV1941 NYK
【推薦作品】『春草』
【作者】裘山山
【訳者】徳田好美、隅田和行

【推薦文】
中国の貧しい農村で1961年に生まれ育った平凡な女性春秋が小学校を中退して働きながら、都会の平凡な男性と結婚し苦労して生きた40年間の半生を描いた小説。日本の小説「おしん」の半生にやや似ているが、詳細に描かれたこの小説を読むことによって、中国の都市と農村の大きな貧富の格差に驚くとともに、現代中国社会の深層を知ることが出来る。徳田、隅田両氏による翻訳は非常にこなれた美しい日本語で、あたかも日本の小説を読んでいるような心地よさを感じることが出来た。まさに、練達した翻訳によって、この中国の小説が生きている。

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【推薦者】黒澤 満
【推薦作品】『春草』
【作者】チウシャンシャン
【訳者】徳田好美・隅田和行
【推薦文】
貧困から立ち上がる為に一生懸命に働き苦労を苦ともせず、又他人にだまされてもそれをバネに又創意工夫で色々なアイデアで商売をして行く姿には感動させられる。何事にも誠実に行動すれば、期待するわけではないが人間困った時には誰かしら援助の手を差し伸べる人が現れるものだとも感じる。翻訳の文章は難しい表現でなく容易な文体で書かれていて読み始めると次の展開が知りたくて一気に読めてしまう程の著書でした。

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【推薦者】Rivers & Fields
【推薦作品】『世界ーーポエマ・ナイヴネ』
【作者】チェスワフ・ミウォシュ
【訳者】つかだみちこ・石原耒
【推薦文】
巻末資料もふくめてわずか六十頁ほどの薄さだが、けっして読み終わることはない。ある種の詩集はいつでも手に取れる護符のようなもので、「読破」することとは関係がないのだ。リトアニアの詩人ジョナス・メカスは、柳の木はただそこにあることで醜悪さとたたかう、と言った。『世界』はそうした木々の一本に違いなく、一帯に、危機のときにもゆるぎない、内省のための場所をつくってくれる。そこを訪ねるたびに思い出される、確かな感触――「たとえ目を閉じてどんな空想に耽っても/世界はやはりかわることなくあるだろう/木の葉もまた川の流れに運ばれてゆく」(「信仰」)。少しくたびれた本書をたずさえて歩く友人が、遠くからだと楽譜を抱えているように見えたのが、わたしの、この詩集との出会いだ。そんなデザインが示すように、これを手引きに二十の詩篇を音にすれば、静かに読むのとはまた違ったふうに世界を垣間見ることができる。

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【推薦者】ゆきこ
【推薦作品】『ハーレムの闘う本屋』
【作者】ヴォーンダ・ミショー・ネルソン
【訳者】原田勝
【推薦文】
1939年、ニューヨークに黒人のための本屋をたちあげたルイス・ミショーのドキュメンタリーノベル。人種差別と闘いその答えは自分たちを知ること、それは本の中にあると信じて突き進んだ男の話。彼が成し遂げたこと、本人の魅力が、いろんな人物から立体的に浮き上がってくる。とにかくルイスはかっこいいのだ!拳を高く掲げた少年に「こぶしをあけてみな」「見ろ、中身はからっぽだ」といって手の中に本を持たせる。「それがパワーだ!」名だたる政治家や作家たち、未来を担う子どもたちが彼の本屋に集い、彼に影響を受け、民族の誇りを取り戻して立ち上がっていく。たくさんの写真や当時の新聞記事、FBIの記録も随時のせてあって、わかりやすくポップで、重く苦しい歴史への入り口を広げてくれている。最後に好きな言葉を。詩集を読み終えた少年へ。「本の感想じゃなくて、きみの気分はどうだ、って聞いている」

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【推薦者】井出 敏幸(GEN)
【推薦作品】『ああ、ウイグルの大地』
【作者】アフメットジャン・オスマン
【訳者】ムカイダイス+河合眞
【推薦文】
ネット社会と言われる現代の、欲しい情報を得る手段として、動画サイトや検索サイトを通じて、居ながらにして思わぬ出会いがある。私が、この一冊と出会ったのも、中央アジアの文化や音楽を探していて、偶然とは言えないのかも知れない。現代詩は、それが日本語であっても理解に苦しむことが多い。ましてウイグル語で書かれた原文の、怒りや嘆き、それを乗り越える力、そして、あきらめない勇気と希望を読ませてくれた。カナダに亡命している、この天才詩人の魂の言葉を、凡人の私に知らしめてくれた、二人の訳者の大変な努力と才能にただただ驚く。

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【推薦者】まるぽん
【推薦作品】『風と共に去りぬ』
【作者】マーガレット・ミッチェル
【訳者】鴻巣友季子
【推薦文】
超がつくほどの古典大河小説に新しい光を当てた、意欲的な訳文。映画などから知っているようでも実は読んでいない人、数十年前に読んだきり、という人など、新しい読者を呼び込んだのではないか。

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【推薦者】ケンイチ
【推薦作品】『逃げてゆく水平線』
【作者】ロベルト・ピウミーニ
【訳者】長野徹
【推薦文】
去年もっとも感銘を受けた一冊です。沈黙を競う人びと。ボクシングに飽きたゴング。水平線に体当たりする船…不思議でおもしろく、だけどすごく怖い25のお伽噺が収録されています。舟崎克彦さんの推薦文「本書はありとあり得ない果実がひしめく蜃楼のバザールである。読者はそこに不条理の絶対を見い出すに違いない。」は本当にそう思いました。文章の洗練度が素晴らしいです。

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【推薦者】三嶽 公子
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
囲炉裏端で語られる幽霊話として「いいですか、みなさん」で始まる井原慶一郎訳『クリスマス・キャロル』。三人の精霊たちに導かれ、まるで映画を観ているかのように展開される物語は、練られた日本語が心地よく、読者を一気に異世界へと連れていく。スクルージを絶対禁酒主義者としてきた最後の部分を、ディケンズ研究者として丁寧な注を付けて、spiritの二つの意味(精霊と蒸留酒のダブルミーニング) との関連を言及するなど、翻訳だけでなく、注、解説とまるごと一冊楽しめる、おすすめの決定版「クリスマス・キャロル」です。

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【推薦者】千葉 菜々絵
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子
【推薦文】
素晴らしい作品です。このような心かき乱され、食べることも寝ることも自分の存在さえもすべてを忘れて夢中で読んだ本はありません。それはこの本の著者、パトリシア・ハイスミスの才能は言うまでもありませんが、その才能によって紡がれた奇跡の作品のどこも破壊することなく、損なうことなく完璧とも言えるように翻訳した訳者、柿沼瑛子さんの力のためでしょう。この本を推薦いたします。ぜひ、柿沼氏にパトリシア・ハイスミスの評伝である Beautiful shadow を翻訳していただきたい。

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【推薦者】吉良 佳奈江
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子
【推薦文】
物語の舞台はフランスの海外県、マルティーク島。肌の色も、言葉も、文化も雑多な島の人々の姿と、ソリボの語りが、作者の分身であるシャモワゾーに書き留められ、翻訳者の手によって色とりどりの日本語の文字としてあふれてきます。ひらがな、カタカナ、漢字にルビ使いまで、日本語表記の豊かさを再確認しつつ、音が聞こえてくるような楽しい読書体験でした。

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【推薦者】小谷野 敦
【推薦作品】『暴力の人類史』
【作者】スティーブン・ピンカー
【訳者】幾島幸子、塩原通緒
【推薦文】
私は近ごろ、ピンカリアンを名のりたいほどスティーブン・ピンカーに魅せられている。ピンカーは学問的正確さを重んじ、かつ俗論に抵抗するような著作をものする。本書もまた、20世紀が人類史上最も殺戮が多かった時代であるといった俗説に挑んだもので、人類のうちで身体的暴力だけでなく、差別とかいじめとかいったものも、次第に減っていき、20世紀以降はそれが最も少なくなった時代だとしたものだ。結論に比して分量が多いが、通俗的な近代悪玉説も論破されている。

書影

【推薦者】渡辺 哲久
【推薦作品】『智異山』
【作者】李 炳注
【訳者】松田暢裕
【推薦文】
韓国南部の智異山で、日本の植民地時代と日本敗戦後の朝鮮で、解放をめざして闘ったパルチザンの史実に基づく。朝鮮共産党の不実に絶望しつつ、しかし極寒の山中で彼らはなぜ最後まで戦い抜いたのか。壮絶な境遇の中でなお主人公は「自分への罰として最後に死ぬパルチザンとして闘う」と、部下は投降させても自分は投降しなかった。生きるとは、生きる(死ぬ)選択とは…。この本が書かれたのは、軍事政権の弾圧が吹き荒れた1970年代。何度も死刑判決を受けた金芝河を、多くの在日韓国人留学生へのスパイ容疑での死刑判決を、そして作者の生き方を想う。

書影

【推薦者】たちはら
【推薦作品】『紙の動物園』
【作者】ケン・リュウ
【訳者】古沢嘉通
【推薦文】
本書は日本語訳の素晴らしさ、日本語の美しさをあますことなく表現した一冊である。英語の原文や中国語訳よりも叙情的で繊細、行間から匂い立つような情感があふれており、日本語で翻訳することの良さを改めて教えてくれた。以上の理由で、日本語ってこんなに素敵なのかと感嘆させられた本書を推薦いたします。

書影

【推薦者】南 定四郎
【推薦作品】『NO TIME TO LOSE エボラとエイズと国際政治』
【作者】ピーター・ピオット
【訳者】宮田一雄・大村萌子・樽井正義
【推薦文】
本書はAIDSの関係者のみならず、活動家、研究者ならば是非とも読んでもらいたい名著です。敵を明確にして戦略・戦術をきちんと立てて挑めば、いかなる大物でも屈服させることが出来る、という実話です。世界を相手に闘った医師の果敢な姿は落ち込んでいるときに、背中をどーんと押してくれます。

書影

 

【推薦者】スミス
【推薦作品】『紙の動物園』
【作者】ケン・リュウ
【訳者】古沢 嘉通
【推薦文】
ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞の表題作を含め、全15作を収録した傑作海外SF短編集。SFの設定が各短編丁寧に、豊かな想像力によって作られ、かつそれがテーマ/物語と一致して魅力的な作品を生み出している。作者の東洋(オリエンタル)的な感覚と描かれる人物、物語がとても美しく、どれも心を動かされる。一つ一つ心に留めたくなる、そしてSFだからこそ魅せられる儚く切なくとても綺麗な短編集。。SFとしての設定、その想像力もさることながら、物語としての儚さ、切なさ、人間の描き方が秀逸で自分が物語に求めているものはこういうものなのだということを感じさせてくれた。個人的なベストは「良い狩りを」。出だしの設定から予想の遥か上を行く展開、そして結末の着地の華麗さが大変素晴らしい。本を好きなすべての人にオススメできる傑作。

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【推薦者】空閑 友美
【推薦作品】『雪を待つ』
【作者】ラシャムジャ
【訳者】星泉
【推薦文】
文化大革命後の改革解放政策の波が押し寄せるチベット族自治州のとある村が舞台の物語。作者は1977年生まれと私とほぼ同世代だが、育った背景にある文明の変化は、日本だと明治から現代ほどの、それ以上の凝縮感に相当しそう。素朴で静かな村での、初めての文字との出会い、文字を書く為の万年筆との出会い、言葉との出会い、そして大人になっていく。目まぐるしい変化の中、私達にもまだ微かに残っている温かい記憶を元に、何を見失わないようにしたいのか、何を次世代に伝えていくことが出来るのか、改めて考えさせられる作品だった。

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【推薦者】阪上 麻衣
【推薦作品】『ドクター・スリープ 上下巻』
【作者】スティーブン・キング
【訳者】白石朗
【推薦文】
映画化もされた小説「シャイニング」の続編だと聞いて、物語はどう始まるのかとても楽しみにしていた。
導入部からセックス、ドラッグ、アルコール、これぞアメリカな描写についていけるか不安になった。アメリカに行ったこともドルで買い物したこともない自分にとって、未知の世界かと身構えたのに、読みすすめるといつのまにかその世界のモブになれた。知らない車名やファミレスメニュー、ローカルルールはググればよい。そのさじ加減が気持ち良く、最後まで違和感なくキングの世界に浸って読めた。

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【推薦者】村山 弘明
【推薦作品】『文学会議』
【作者】セサル・アイラ
【訳者】柳原孝敦
【推薦文】
もっとセサル・アイラの小説を読みたい!その一心で推薦いたしました。『文学会議』は<ただ基本的なこと(略)図式だけを描く>という主人公の前置きにも関わらず、その後一切そのことが出てこないし、のちの大事件の結末には茫然自失とさせられたり、とにかく僕の読書体験の中でこんなにわけのわからない、でもすごく魅力的な書き手に出会ったのは、はじめてです!南米アルゼンチンを代表する作家セサル・アイラの翻訳本は日本ではまだ本作と『わたしの物語』(松籟社)の2冊だけ。セサル・アイラは小説・エッセイを80冊以上を発表しているとのこと。ぜひ彼のエキセントリックな作品がもっともっと読めることを期待しています。

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【推薦者】Alale
【推薦作品】『25年目のただいま』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
これが本当に起きたことなの!?と奇跡の連続に夢中になって読みました。グーグルアースを使って自分の家を探すまでの過程には、貧困がもたらす厳しい現実、卑劣で邪悪な人々、そして揺るがない家族の愛と様々な人の優しさがあります。奇跡に思えるすべての事柄は、主人公の誠実さと素直さ所以に思え、そういった描写に言葉を超えて胸に響くものがありました。読んだ後には何とも言えない爽快感と勇気がもらえる本です。

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【推薦者】千葉 聡
【推薦作品】『こちら脳神経救急病棟』
【作者】アラン・H・ロッパー  ブライアン・デイヴィッド・バレル
【訳者】岩坂彰
【推薦文】
脳神経医療の最先端で活躍する医師ロッパーが、バレルの協力を得てまとめたノンフィクション。脳神経救急病棟の現場をいきいきと描く。このロッパー先生、かなりの名医らしい。マイケル・J・フォックスの主治医であることは帯にもうたわれているが、サブタイトルには、なんと「名医が明かす奇妙な病と患者たちの物語」と書いてある。患者たちの姿はさまざまである。病気は個性。ロッパーは、患者たちを患者扱いする一方でなく、ときに家族のように、ときには良友や悪友のように、彼らとじつに人間的な関係を保っている。ドクターの奮闘ぶりをのぞくうちに、読者は、人の心の複雑さを知り、人という存在へのいとおしさをいだくようになる。訳文は平明。やや海外ドラマの吹き替え調にも感じられるが、それが親しみを生む。とにかく面白く、ぐいぐい読ませる一冊。

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【推薦者】はなこ
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
だれもが知っているディケンズの『クリスマス・キャロル』の物語を、もう一度わたしたちに語り聞かせてくれる新訳が出ました「。徹頭徹尾語りかけるような口調で訳されており、語彙の面で考えれば中学生以上であれば読めるようになっている本書は、それでもしかしわたしたち大人に向かって言葉を投げかけてきています。ディケンズの時代のイギリスでも現代の日本でも変わることのない優しさの尊さを解いてくれる一方で、本作品の書かれた時代背景もよくわかる解説のついている今回の新訳は、大人こそだからこそ忘れていくこと、そして大人だからこそ知りたいことの双方を伝えてくれる質の高いものになっていると思います。また、ところどころに入っている挿絵も、細やかに物語の情景を描写しており、見どころのひとつになっています。

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【推薦者】@kaseinoji
【推薦作品】『世界収集家』
【作者】イリヤ・トロヤノフ
【訳者】浅井昌子
【推薦文】
大英帝国軍人にして冒険家であったリチャード・フランシス・バートンの生涯を虚実まじえて描いた大長編。「千夜一夜物語」の翻訳家でもあった主人公のバートンに「人生を無駄にしないためには、道はひとつしかない。言葉を学ぶことだ。」と作中で語らせているように、異なる言語の習得がいかに世界理解を豊かにするかが重要なテーマの小説のため、本賞に推薦したい。ブルガリア語を母語とする作者がドイツ語で原書を発表したのは約10年前の2006年。ヒンドゥー語とアラビア語が飛び交う大著を仕上げた訳者の労力にリスペクト。

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【推薦者】田仲 真記子
【推薦作品】『クリングゾールをさがして』
【作者】ホルヘ・ボルピ
【訳者】安藤哲行
【推薦文】
 昨年もっともワクワクしながら読んだ小説です。古くは『薔薇の名前』、近年では『慈しみの女神たち』、『HHhH』に匹敵するおもしろさ。一読しただけではつかみきれない、重層的で複雑な物語の世界に挑戦する、読書の醍醐味が味わえます。巻末の訳者解説によると、本作は二十世紀を描く三部作の一作目。この作品が一人でも多くの読者の目に触れ、続く二作、さらにその他の作品もいつか翻訳されるきっかけになることを祈って、推薦します。

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【推薦者】. tan9ent
【推薦作品】『サマー・ブロンド』
【作者】エイドリアン・トミネ
【訳者】長澤あかね
【推薦文】
暗い人たちがひたすら気の毒な目にあう話が4つ入った短編コミック集です。トッド・ソロンズやテリー・ツワイゴフの映画が好きな人は好きだと思います。絵がおしゃれで、だめな主人公への目線がやさしいので、そんなに絶望せず読めます。訳も読みやすく、擬音や手紙など、あえて英語を残したり、重ねて見えるようにしてある工夫もよかったです。

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【推薦者】みつき
【推薦作品】『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』
【作者】ヴァーノン・リー
【訳者】中野善夫
【推薦文】
ヴァーノン・リーという作家は、現代の日本ではあまり知られてはいないように思う。私も知らなかった。手にとったのは、この本の体裁の魅力に加え、訳者、挿画家、装丁者、版元が一体になっての催促キャンペーンに後押しされたからである。中身はその全力キャンペーンを裏切らないものだった。古くて新しい、どこか懐かしいような幻想世界が分厚い本の中にぎっしりと詰まっていた。物語る訳文は、目に心地いい耽美な文章。中野善夫氏の文章でなければこの世界を構築できなかっただろう。読み終えたあとにはそう思っていた。ヴァーノン・リーという知られざる作家を現代によみがえらせ、訳者が先頭に立って愛のあるキャンペーンで普及に努めたこの作品を、ぜひ日本翻訳大賞に推したい。

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【推薦者】熊谷 充紘
【推薦作品】『べつの言葉で』
【作者】ジュンパ・ラヒリ
【訳者】中嶋浩郎
【推薦文】
 べつの言葉が自分を作りかえていく。その痛みと喜び。“距離と同時につながりを感じる”、“隔たりと同時に親近感を”、“人生を変えることができるものは、常に自分以外のところにあると思う”、“自分を表現する別の言い回しを見つけると、エクスタシーのようなものを感じる。知らない言葉は目もくらむような実りの多い深淵を象徴している。その深遠にはわたしが見逃しているすべてのもの、すべての可能性が含まれている”、自らの意志で言語的亡命をはたしたジュンパ・ラヒリこそ、今回の翻訳大賞にふさわしいのではないかと思いました。

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【推薦者】素天堂
【推薦作品】『モレル谷の奇蹟』
【作者】ディーノ・ブッツァーティ
【訳者】中山エツコ
【推薦文】
究極の現実である宗教上の奇蹟をネタに、思う存分ホラ話をする。
著者最後の作品。「大アリ」挿絵でのクロソウスキー遊びや、「アッシャ-家からの墜落」など文章でのパロディの爽快な後味で、食えない老人の一人遊びが満喫できる。

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【推薦者】ななお
【推薦作品】『ミービフォアユー きみと選んだ明日』
【作者】ジョジョ・モイヤーズ
【訳者】最所 篤子
【推薦文】
尊厳死が題材の恋愛小説。恋愛小説としながらも、人生の選択についてや愛情の持ち方、そして命のあり方について考えさせられる良作。非常に重いテーマだが、受け止めやすい構成で人の生き方に正解不正確なんて無いのだと改めて認識させられる物語。原書も読んでいるのだが、最後まで違和感や不自然さがなくテンポよくスムーズに読み進められた。

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【推薦者】timeturner
【推薦作品】『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』
【作者】モラヴィア
【訳者】関口英子
【推薦文】
いやもうほんと、帯にある通り「モラヴィアって、こんなに面白かったんだ!」と思った。考えてみると、それってモラヴィアに失礼な気もするが、それはそれとして、どれをとっても一筋縄ではいかない奇想天外・滑稽至極な話ばかり。それでいて心の隙間にじわじわ浸みこむ毒を含んでいる。ツナギの妙というのか、すごく現実的なことをまともに書いている中にひょいとシュールなアイディアを投げこみ、何事もなかったような顔で話を滑らかに進めてしまうところも神技だ。リアリズムとシュルレアリスムの幸福な合体と言える。わざとらしさが一切ない、飄々とした訳文が、作品の魅力を最大限に引き出していると思う。

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【推薦者】三嶽 豊
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
『朗読によるクリスマス・キャロル』の翻訳から3年。今回は完全版の『クリスマス・キャロル』翻訳になる。ディケンズの語りの口調を大切にしたという訳者のことば通り、語る文体での翻訳は、かつて小池滋氏がとった落語調の文体を意識しながらも、俗にならないで、大人が声を出して読んでも、品位を感じる翻訳となっている。まさに、大人が大人のために朗読したディケンズの時代の口調を、現代日本語で復活させようとしたものだ。訳者解説も時代背景から作品解説まで研究成果が出ており、朗読における作品理解に必須のものとなっている。

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【推薦者】Jacksbeans
【推薦作品】『パールストリートのクレイジー女たち』
【作者】トレヴェニアン
【訳者】江國 香織
【推薦文】
「パールストリートのクレイジー女たち」(2005)は、トレヴェニアンの最後の長篇小説だという。「アイガー・サンクション」(1972) 、「夢果つる街」(1976) 、「シブミ」(1979)、「バスク、真夏の死」(1983)と、新作が出るつど僕らを驚かせてきた作家のこと、最後の作品には、どんな新しい趣向が盛り込まれているのか。大いに期待して読んだのであるが、良い意味で期待は裏切られた。・・・読んでみると、これは冒険小説でもミステリでもなく、とてもオーソドックスな少年小説なのであった。この低い音域のリフばかりが続くような小説の味わい深さを、支持する読者はどれくらいいるだろうか。もちろん、私はこの作品をこよなく愛するものである。

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【推薦者】田井 寛爾
【推薦作品】『迷子たちの街』
【作者】パトリック・モデイアノ
【訳者】平中悠一
【推薦文】
ノーベル賞作家モディアノの作品ですが、これまで日本語に訳された作品を読んでも、なぜモディアノ氏がノーベル賞を受賞したのか理解できませんでした。正直、最後まで読むことすら苦痛でした。平中氏が「失われた時のカフェで」を翻訳出版して、初めてその魅力に引き込まれ、モディアノ氏の魅力が彼の「文体」にあるのではないか、と思いはじめ、この「迷子たちの街」でそれを確信しました。日本語表現としてはかなり冒険と言える訳文で「モディアノ」を表現しようとしているのではないか、と思います。

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【推薦者】木村 朗子
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子
【推薦文】
クレオール文学というのはずいぶん前からきいていたが、それでいったいどんな言語で書かれているのかは原語を知らないのでわかりようもないと今まであきらめてきた。『素晴らしきソリボ』の素晴らしきところは、そのことばの雰囲気を最大限に再現しているところにある。そもそもこの物語の眼目は口承文芸の語りの死であるから、文字言語世界とは異なる次元にことばの可能性を見せねばならない。そんなとき、訳文の力は極めて重要になってくる。フリガナを駆使して再現されたマルティニクのことばは、なぜだか一度も聞いたことがないのに、きっとこうなのだろうというふうに耳にひびいてくる。日本語世界に「ぱたっとぅ、さ」「しーぷれ」のソリボの世界が確かに開けたと感じた。

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【推薦者】寺山 健太郎
【推薦作品】『ぼくは思い出す』
【作者】ジョルジュ・ペレック
【訳者】酒詰治男
【推薦文】
文化的、時代的、地理的にごく限定された具体的なものごとを扱った本書は、日本人の大多数にとって、酒詰氏の訳注があってこそ読めるものになる。翻訳+訳注からなる「翻訳書」として、この日本語の書物を評価したい。

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【推薦者】a
【推薦作品】『オープンダイアローグとは何か』
【作者】ヤーコ・セイックラ(+斎藤環)
【訳者】斎藤環
【推薦文】
「オープンダイアローグ」とは人間のことだ。人が人間になる方法を教えるものだ。正確に言うなら、思い出させてくれるものだ。垂直の思考/組織ー対立と差異顕示の先に未来はあるだろうか?思い出すこと、思い為すこと、隣人はあなたであるということ。オープンダイアログは専門家の力を水平に繋いで、人を人ー間にする。人はみな何かの専門家であり、そうして必ず当事者である。必然性に要請されたある共同体がその都度立ち上がる。重力に、定められたものに抗して立ち上がる時、掬い上げる手のあなたに思い至る。その思いは私を人間にする。言葉から発して、言葉以上のものへと。

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【推薦者】とほほおじさん
【推薦作品】『雪を待つ』
【作者】ラシャムジャ
【訳者】星泉
【推薦文】
チベット文学ですが、チベットに関する知識無しでも楽しめる小説です。登場人物の幼い頃の物語を描いた前編とその後を描いた後編に分かれています。特に前編は叙情豊かで心を動かされます。後編は前編に登場した子どもたちが成人した後の物語で、ストーリーとしては目新しいものではありませんが、前編の持つ叙情性が後編の物語の主人公の揺れる心情を際立たせています。

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【推薦者】末原 睦美
【推薦作品】『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』
【作者】ジョルジュ・ペレック
【訳者】桑田光平
【推薦文】
たった1ページのフローチャートで可視化される行動プロセスを文章でどれだけ展開できるか、しかも機械的なだけでなく、どれほどの面白さでできるかという、ある種の限界に挑んでいる作品です。給料をあげてもらうために、「あなた」は上司のグザヴィエ氏に会ってもらえるのか?彼は麻疹にかかってないか?四旬節の魚の骨はのどにひっかかっているのか?ヨランダ嬢と3時間あまりもお話しせねばならないのか?目標達成にはあまりに多すぎる障害と対応が延々と続くさまが、とにかくクレイジーすぎてトレビアン。筒井康隆や町田康のような技巧も感じられる原文の特殊さに、訳者さんが悶絶されるさまもあとがきに記されており、ありがたいやら申しわけないやら可笑しいやらで大いに楽しんだ作品でした。

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【推薦者】西原 学
【推薦作品】『智異山』
【作者】李炳注
【訳者】松田暢裕
【推薦文】
 韓国社会でいまも古典として読み継がれている大河小説の全訳。上下巻で総1,700頁の大著。朝鮮の日本植民地時代の抗日闘争、解放後の朝鮮統一運動の熾烈な闘いを、朝鮮の若者たちの青春と挫折を、史実を基に描いた作品。奈良県葛城市の教諭松田暢裕さんが、15年かけ翻訳し出版にこぎつけた。韓国でも話題になり、朝日・毎日・共同通信でも紹介された。昨年の「集団的自衛権」をめぐる閣議決定や、多くの反対の声を押し切っての「安保法制」をめぐる採決強行など、今の時代だからこそ、胸に迫るものがある作品だ。ぜひ多くの人たちに読んでほしい。

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【推薦者】大満足 みかん
【推薦作品】『神話・狂気・哄笑 ドイツ観念論における主体性』
【作者】
マルクス・ガブリエル/スラヴォイ・ジジェク
【訳者】大河内泰樹/斎藤幸平(監訳)、飯泉佑介/池松辰男/岡崎佑香/岡崎龍(訳)
【推薦文】
 ドイツ観念論研究のメインストリームにおいて長く見過ごされてきた後期シェリングの神話概念の視角から、全く新しいドイツ観念論像を提示する名著である。ジジェクのエロかっこいい批評も冴え渡り、絶対者の真意が軽妙に語られている。学界きっての若手と、学会をリードする有名教授によるこなれた訳文は、ドイツ観念論の難解さを補って余りある。明日を一変させる一冊。

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【推薦者】林 浩治
【推薦作品】『アンダー・サンダー・テンダー』
【作者】チョン・セラン
【訳者】吉川凪
【推薦文】
 韓国の「国境」の町坡州の高校生たちの青春ストーリーでありながら、韓国社会の特有の時代性を反映している。時代と地域に恋も人生も虐げられる。成長した彼らは町から逃避しても結局矛盾に溢れた社会に遭遇する。坡州から離れ韓国から離れてもまた坡州に帰り集まっては別れる。韓国の若い女性作家の小説を新鮮に受け止めることができた。

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【推薦者】島 祐二郎
【推薦作品】『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野健太郎
【推薦文】
 1990年3月、当時大学一年だった私は、友人を訪ねて初めての海外旅行として台湾を訪れました。台北に滞在中は結構時間があったので、バスを使って台北市内を回りましたが、その時何度か行ったのが、この短編集の舞台となった中華商場。日用品から払い下げの軍用品まで色々な店がひしめき合い、物盗り?と警官隊の追跡劇にも遭遇するというかなり濃い体験をしました。人々の熱気と人情に遭遇した中華商場でのいくつかのドラマ。その登場人物は実在していたかもしれないし、魔術師もそうかもしれない。この短編集は台北におけるある時代を描いた秀作だと思います。合わせて、台湾に関する訳業に旺盛に取り組まれている訳者に敬意を表します。

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【推薦者】バンデラス
【推薦作品】『カールの降誕祭』
【作者】フェルディナント・フォン・シーラッハ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
前作「犯罪」同様に、普通の人々が犯罪者に変貌する様が淡々と描かれる短編集です。本作品の中ではパン屋の主人・退職した老裁判官・歪んだ貴族の息子が、それぞれの心の闇に身を投じていく様がドライに描かれています。特に表題作の最後の一行に込められた重みは、人間の業の深さを感じさせられて思わず苦笑いしてしまいました。また、ドライで退廃的なシーラッハの作風と、作品の中にちりばめられたタダジュンの版画が絶妙にマッチしていて、本棚に飾っておきたくなるような本に仕上がっています。訳者あとがきからも作者とその作品への深い理解が感じられたため、作家・版画家・訳者の魅力が三位一体となった本として強く推させていただきます。

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【推薦者】谷中好人
【推薦作品】『時の止まった小さな町』
【作者】ボフミル・フラバル
【訳者】平野清美
【推薦文】
現代チェコ文学を代表するフラバルの作品。少年時代のフラバルの語りで読者は独特の世界に時を忘れて引き込まれていくでしょう。特に不思議な存在であるペピンおじさんの描写の訳文が素晴らしく結末は思わぬ展開に。読書後不思議とビールが飲みたくなるのはフラバルの魅力です。

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【推薦者】孫悟空 雲にのる
【推薦作品】『25年目の「ただいま」』
【作者】サルー・ブライアリー
【訳者】舩山むつみ
【推薦文】
小さな地方都市の貧しい母子家庭で5才まで育った男の子が突然兄とはぐれて迷子になり、大都市コルコタであらん限りの能力を発揮して数週間生き延びた後、孤児院に収容され、オーストラリアの養父母に引き取られた。彼はインドの母親と家族の事を片時もわすれず、グーグルアースで鉄道をたどって故郷の町を探す努力を続けて見慣れた町と我が家を見つけた。ついに25年目にして我が家に帰ることができた。 彼の母親と家族への強い思いとあきらめない努力に感動しました。翻訳はとても読みやすく彼独特の文体をよくいかしていると思います。ぜひ手にとって彼の体験をわくわく、どきどきしながら共有してください。

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【推薦者】ふたば子
【推薦作品】『キャロル』
【作者】パトリシア・ハイスミス
【訳者】柿沼瑛子
【推薦文】
誰かに惹かれる瞬間の心象表現がとても鮮やかで、テレーズがキャロルと出会った場面は、読んでいる私まで胸が高鳴りました。同性同士の恋愛がタブーだった時代に、問題意識に流れ過ぎずに執筆されたことにも驚きます。本当に美しい恋愛小説で、2015年最後の素敵なプレゼントのように思えました。

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【推薦者】白鳥 太朗
【推薦作品】『クリスマス・キャロル』
【作者】チャールズ・ディケンズ
【訳者】井原慶一郎
【推薦文】
言わずと知れた名作の新訳。欲深いけちな老人スクルージが、3人の精霊によってそれぞれ過去・現在・未来へと誘われ、クリスマスを祝う気持ちを取り戻す物語。ですます調のやさしい文体と本邦初収録の挿絵が物語を鮮やかに蘇らせる。子供向けの邦訳もある本作だが、帯に「大人のための」とあるように、スクルージの様になりかけているそこのあなたにお薦めしたい。注釈と解説があるのも大人向けたる所以か。何はともあれ、「クリスマス万歳!」

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【推薦者】尾方 邦雄
【推薦作品】『幸せのグラス』
【作者】バーバラ・ピム
【訳者】芦津かおり
【推薦文】
『秋の四重奏』や『よくできた女』など数あるピム作品のなかで、「もっとも巧緻な出来栄え」と詩人ラーキンが評した小説。20世紀のジェーン・オースティンと呼ばれるこの作家が描く、戦後ロンドン男女の何気ないやりとりを、会話のリズムと「ですます」調の地の文で、みごとな日本語にして伝えている。ミルフィーユのような軽やかさが、たまらなく美味しい。

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【推薦者】まつのゆきこ
【推薦作品】『智異山』
【作者】李炳注
【訳者】松田 暢裕
【推薦文】
韓国で古典として読み継がれる文学作品。日本の植民地時代から朝鮮戦争にかけての、激動の時代を生きた、朝鮮の若者達の生と挫折を描いた大河小説。韓国では、全7巻の大作。翻訳開始から出版まで15年かかった労作。当時の朝鮮人と日本人の葛藤や友情を生き生きと描いている。ぜひ、日本の人たちに読んでもらいたい。

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【推薦者】仲野 徹
【推薦作品】『沈黙の山嶺 第一次世界大戦とマロリーのエヴェレスト(上・下)』
【作者】ウェイド・デイヴィス
【訳者】秋元 由紀
【推薦文】
登山史上最大の謎、といっていいだろう。1924年、英国の登山家ジョージ・マロリーは、はたしてエヴェレストに登頂したのか?サブタイトルからは、その挑戦についての物語にみえる。しかし、この本の内容はそこにとどまらない。話は、第一次世界大戦におけるイギリス軍の悲惨な状況からはじまる。その地獄を生き延びた人たちが、なぜ、いかにして、国をあげてのエヴェレスト登頂計画-単なる登山ではない。地図を作りながらの登山-に参加していったのか。上下二巻、二段組の長大な書物である。しかし、これだけの長さがないと決して描ききれないだけの内容を含む骨太のノンフィクションだ。購入するにも逡巡してしまうほどに長大な本を訳した秋元さんに敬意を表さずにはいられない。

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【推薦者】亮太 大岩
【推薦作品】智異山
【作者】李炳注
【訳者】松田暢裕

【推薦文】
韓国人の日本人に対する感情がどこから来るのか、差別や迫害、抑圧された側からしかそれは理解できないであろう。その時期の時代背景を理解した上でその人たちの立場になって考えなければ到底理解できないことである。この小説はのそれらの理解に大いなる手がかりとなり、真の意味での相互理解に繋がるものである。

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【推薦者】星落秋風五丈原
【推薦作品】『クリングゾールをさがして』
【作者】ホルヘ・ボルピ
【訳者】安藤 哲行
【推薦文】
 科学界では広く認められた人物なのに、ヒトラーと関わった経緯からか、誰も正体を明かさず、誰も知らない謎多き科学者クリングゾ―ルをある男性が探す物語。本作の異色な点は、軍人ではなく科学者たちが戦犯として追われるところだ。優れた技術を開発する科学者は、一方でノーベル賞などで評価され科学技術の発展に貢献すると称揚される。しかし一方でその技術が戦争や殺人に使われた場合、科学者は罪を問われるべきなのか?いや、学問や科学技術の善悪は、一体誰によって、何によって線引きされるのか?何かの研究論文を思わせるタイトルも尋常ではなく、手記あり、地の文ありと時制も往き来するなど構成も凝っており訳者の苦労がしのばれる。科学の意義、戦争と科学技術の関係などの骨太なテーマを据えながら、先のワルキューレ計画の真相、クリングゾ―ルの正体を探るエンタメ要素を具えた作品。

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【推薦者】岡井 友穂
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子、パトリック・オノレ
【推薦文】
登場人物たちの話し言葉のリズムやテンポ、音の面白さに〈ノリ〉ながら読み進めていくうちに物語のなかへとどんどんと引き込まれていく。読むことと聴くことが等価となるような快楽へと誘う稀有な小説。

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【推薦者】木苺
【推薦作品】 『歩道橋の魔術師』
【作者】呉明益
【訳者】天野 健太郎
【推薦文】
台北に1961年から92年まであった「中華商場」という住居を兼ねたショッピングセンター。そこで育った主人公が商場の各棟にかつて住んでいた人たちに昔の思い出を聞く。活気ある商場を走りまわる元気な子ども時代の思い出にはなぜか、歩道橋の魔術師の姿を借りた死の影が漂っている。偶然、去年の直木賞受賞作『流』( 東山彰良)を読んだ直後に読んだ。『流』は台北で育った主人公が殺された祖父の人生の謎を探る物語だったが、彼の祖父もまた商場の商店主だった。実在の場所だがすでに取り壊されて存在しない場所、二つの小説の中ではもちろん作者たちの想像による場所でもあるのだが、ずっと自分も商場をさまよっているような不思議な感覚を味わった。読者を「どこかに連れていってくれる」のが翻訳書の魅力だと思う。

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【推薦者】松村 由利子
【推薦作品】『ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち』
【作者】タミ・シェム=トヴ
【訳者】樋口範子
【推薦文】
1910年代から第二次世界大戦時にかけて激動するポーランドにおいて、ユダヤ人孤児のための施設運営に関わった「コルチャック先生」と、彼の愛情を注がれ学んでいた子どもたちの日常を描いた物語だが、子どもの心のひだを濃やかに表現した訳文が素晴らしい。生き生きとした文章のおかげで、読む者は目の前にいま子どもたちがいるような思いで作品を味わうことができる。史実に基づく物語の強さに加え、人種差別やメディアリテラシーといった今日的なテーマを含む作品であることも推薦理由。

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【推薦者】橋本 浩
【推薦作品】『地平線』
【作者】パトリック・モディアノ
【訳者】小谷奈津子
【推薦文】
著者自身の投影と思しき男と女が、それぞれの人生の束の間、60年代のパリで、偶然、交錯する回想的小説。二人は二人とも何かに怯えている。男は両親(家系)に、ベルリン出身の女は英国の名前を持つある男に。著者の父親はユダヤ人でありながらドイツ占領下のパリで生き延びた。二人の怯えは罪の隠喩的な継承だ。過去の痕跡をパリの街に探し続ける著者は、水平線の向こうに消えた亡霊たちをも蘇らせる「記憶の探偵」である。

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【推薦者】舞狂小鬼
【推薦作品】『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』
【作者】ヴァーノン・リー
【訳者】中野善夫
【推薦文】
 実をいうと、つい最近になるまでこの著者のことは知りませんでした。選考委員のお一人である西崎氏のアンソロジーで初めて読み、その面白さに触れました。本書は刊行と同時に買って読みましたが、まさに彼女の幻想作品の決定版ともいうべき傑作揃い。中世キリスト教やギリシア神話を題材にした、濃密で格調高くも夢のような物語に圧倒されました。硬質な感じのする訳文も、著者の作品世界の雰囲気を表現するのに合っていて素晴らしかったと思います。21世紀の日本でまさかこのような本に出会えるとは思いませんでした。訳者の中野氏を始め、関係者の方々に心から感謝したいと思います。

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【推薦者】GLaDOS
【推薦作品】『パラノイア【トラブルシューターズ】』
【作者】Dan Gelber, Greg Costikyan, Eric Goldberg
【訳者】沢田大樹
【推薦文】
カフカとオーウェルとマルクス兄弟の世界へようこそ、市民!このパラノイア【トラブルシューターズ】は、あなたを、共産主義者でミュータントな反逆者を根絶やしにするという、すばらしく楽しい任務へと誘ってくれる一冊です!この本さえ手に入れれば、あなたはTRPGと呼ばれる、きわめて楽しいゲームの世界に、いつでも好きなときに望むだけ没頭することが出来ます!パラノイアはすばらしく楽しいゲームであり、初版が発表されたのは実に30年前、1984年(奇しくも!)にさかのぼります!30年もの間、この伝説的ゲームは、世界中の市民に愛されてきたのですが、誠に残念なことに、日本語媒体に翻訳されることはありませんでした。しかし2014年、とうとう、本作によって、日本語版の提供が行われました!これは特筆すべき事実であり、翻訳者には日本翻訳大賞の受賞という、最大級の賛辞が送られるでしょう!市民、本作へ投票することは、市民の義務です!

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【推薦者】モーゲンスタン 陽子
【推薦作品】『素晴らしきソリボ』
【作者】パトリック・シャモワゾー
【訳者】関口涼子、パトリック・オノレ
【推薦文】
帯の池澤夏樹氏のコメントにあるように、「聴く小説」だと思います、これは。文字芸術のバウンダリーを超えた作品です。本作に限らず、訳者の関口涼子さんは、そうでなければ知りえなかったような数々の作品をフランス語からの翻訳というかたちで私たちに届けてくれます。旧宗主国の言語にしろ移民先のホスト国の言語にしろ、lingua francaを通して他者の声を聴くことができる、このルートは、文学者として、絶対に、絶対に守り抜かなければならないものだと思います。本作以外にこれまでも、アフガニスタンやマリなどからの作品を紹介してくれた訳者の偉業に敬意を表して。

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【推薦者】レス・ポール
【推薦作品】『文学会議』
【作者】セサル・アイラ
【訳者】柳原孝敦
【推薦文】
表題作が、とにかく面白かった!主人公の優柔不断なダメな所が出ていて、ユーモラスな文体。その優柔不断な本音が、また人の弱い所を突いていて、こちらの共感を呼ぶ。
想像力も素晴らしい。フラン・オブライエン『ドーキー古文書』、安部公房『カンガルー・ノート』、ブルガーコフ、イヨネスコ『大佐の写真』、「千と千尋の神隠し」のように論理のある空想と云った感じ。所収のもう1作「試練」の方は、よくわからなかったが、イメージは凄惨で印象が強かった。アイデンティティの変化の問題を扱ってるのかもしれない。この作品もまた、前半は、人間の弱い部分への、作者の愛があるように思えた。こんな凄い作家が、現役で仕事をしていることの喜びを感じる。もっとこの作家の翻訳を促進してほしいため、推薦する。

書影

【推薦者】奥村ペレ
【推薦作品】『プラド美術館の師』
【作者】ハビエル・シエラ
【訳者】八重樫克彦・八重樫由貴子
【推薦文】
21世紀の文学。その一端を担うのはジャーナリストだ。ダヴィド・ラーゲルクランツ然り。本書の著者ハビエル・シエラ然り。デフォー、メルヴィル、ピンチョンを見よ。「小説はメディアなのだ」(高山 宏『近代文化史入門』)。私たちの〈脳〉というネットワークは構造的に不可視なものを見ようと希求する。不可視なものとは異世界の高次の存在。例えば非キリスト教的〈知〉、ユダヤ教的キリスト教的イスラーム的「ヤハウェ」あるいは本居宣長的「迦微カミ」だ。著者はいう。不可視なものとは「ぼくらに理解する準備ができて初めて現れる」と。本書は、私たちに記憶術、錬金術、薔薇十字団などの〈知〉を供与する。読者はそれらの〈知〉を積み、物語のなかに「厳重に隠された神秘」を見出す。読者の〈知〉の準備ができて初めて可視化が可能となってくる。本書の邦訳が、あのリョサの名著『チボの狂宴』や『悪い娘の悪戯』の訳者であることに驚いた。

書影

【推薦者】炊飯器
【推薦作品】『出身国』
【作者】ドミトリイ・バーキン
【訳者】秋草俊一郎
【推薦文】
強いこじれや不和に短編のなかの人たちといっしょに苦しんだ。とてもテンポのよい文章で、こちらから読みにいくというより速すぎる動く歩道に乗せられているかのように文章が向こうからやってきて、否応なしに目に入ってきて、ページに押さえつけられて逃れることもできないまま、荒廃や苦しみや渇きに殴られ、石を投げられ、カスカスに搾り取られて気がついたら短編が終わっている。わかったようなわからなかったようなとぼーっとしていると、麻痺が遅れてやってくるがそれはこちらを動けなくするためのものというよりは、つらくて心地いい、それなしではいられないもののようで、もっと痺れたくて次の短編をめくっていった。おもしろかったー!!作者の逝去が残念です。

書影

第二回日本翻訳大賞の読者推薦はこちらの専用フォームで受付けております。

ホンヤクちゃんが聞く! 「日本翻訳大賞」のすべて

ホンヤクちゃんは、みんなの心のなかにすんでいる妖精。現代では、ごくわずかの人しかその姿を目にすることができないと言われているため、姿形は不明。推定年齢は2500歳。


 

ホンヤクちゃん(以下ホ):あっ! 西崎おにいさんだ!

西崎おにいさん(以下西):あ、ホンヤクちゃん。どうしたの?

:ちょうどよかった! 西崎おにいさんに聞きたいことがあるの。
西崎おにいさんって、翻訳家なんだよね?

西:そうだよ。小説を書いたり、作曲をしたりもしているけれどね。

:あのね、「日本翻訳大賞」っていうのが、面白いらしいの。
本好きの人たちのなかで話題なんだ。

西:ありがとう。ホンヤクちゃん。実は、その賞の設立を発案したの、僕なんだよ。

僕がツイッターに「翻訳者を讃える賞があったらいいのに」という内容のことを書いて、それにゲームクリエイターの米光一成さんが賛同したことがきっかけなんだ。

:え、そうだったの? どうやって賞を立ち上げたの?

西:知り合いに声をかけて、手探りで作っていったよ。クラウドファウンディングといって、ネット上で一般のみなさんの支援を募る形で資金を集めたところ、わずか1日で目標額をクリアできたんだ。そのうえ、第一回「日本翻訳大賞」の授賞式には、300人以上の方が集まってくれた。

:へぇ、すごい! なんでそんなに盛り上がったのかな?

西:翻訳者という存在は裏方なのだけど、注目されていた方は少なくなかったんだと思う。
あとは海外文学好きの皆さんの熱い心のおかげだよ。

今、第二回「日本翻訳大賞」の一次選考が始まっているんだよね?

西:うん。一次選考では、読者推薦と選考委員の推薦を合わせて、15冊程度に候補作品を絞り込むよ。

:読者推薦ってなあに?

西:まずは、読者のみなさんから推薦文を募集する。
そして、推薦数の多かったものから順に10作品ほどが、読者推薦作品になるんだ。

それに、選考委員の5人がそれぞれに選んだ作品が加わるよ。

:選考委員の5人って?

西:選考委員は、金原瑞人さん、岸本佐知子さん、柴田元幸さん、松永美穂さんと、僕、西崎憲の5人だよ。

:それはすごいね! 推薦をするときに、気をつけなきゃいけないことってある?

西:推薦できる作品は、2014年12月1日から2015年12月31日に発行されたものに限られるよ。
選考委員の作品は、推薦の対象外。
日本語で読める翻訳作品であれば、どんなジャンルのものでもいいんだ。

:わかった! さっそく推薦してみる。

西公式HPに推薦フォームがあるから、そこから推薦してね。
推薦文を公表するかどうかは選べるから、気軽に投稿してほしい。
そうそう、推薦の締め切りは、2016年2月5日までだよ。お早めにね。

:もうすぐだね! ところで、二次選考はどんなふうに進めるの?

西:15作品が出そろったら、5人の選考委員で分担して読むよ。1人が6作品読むんだ。1つの作品を2人で検討することになるね。
この15作品は、すべて原文と照合するよ。選考委員が読めない言語の作品は、専門家に依頼するんだ。
そして、協議して、5作品を選ぶ。それが最終選考作品になるよ。最終選考作品は、3月下旬に発表するよ。

:最終選考では、全員が候補作品を読むの?

西:うん、もちろん全員が5作品を読むよ。
最終選考会は4月10日を予定しているよ。選考委員みんなが集まって、議論を交わして、大賞を決定するんだ。

:作品の選考では、どんなところに気をつけているの?

西:解釈の正確さ、日本語としての魅力、公刊の意義などを基準にしているよ。

:埋もれてしまっている作品にスポットライトをあてたいというのもある?

西:それはもちろんあるよ。でも、作品もそうなんだけど、主眼はあくまで「翻訳者」なんだ。
この賞を通じて、原作の良さ、翻訳の良さ、両方の要素があるものを広く紹介できたらいいな。

:ぼく、翻訳のレベルはわからないから、推薦しないほうがいいのかな。

西:そんなことはないよ。面白く、あるいは興味深く読めたなら、それは翻訳が一定のレベルに達しているということだから、心配しないで。

:わかったよ。第一回では、どんな作品が読者推薦にあがってきたの?

西:さまざまだったよ。英語圏の作品のしめる割合がもっと多いかなと思っていたのだけど、そんなことはなくて、かなり意外だった。でも、そのほうがいいと思ったよ。多様になってきているからね。
小説以外の作品も多かった。『古事記』の現代語訳もあがってきたし。

:読んだことのない作品もあった?

西:そうだね。読者推薦から興味を持って、選考委員が手にとってみるというのは、すごくある。大賞に選ばれた『カステラ』は見逃していたから、この作品を知ったのは大きかった。
読者推薦の力はものすごく大きいよ。

:なんだかとてもワクワクしてきたよ。ありがとう、西崎おにいさん!

西:そう言ってもらえるとうれしいよ。ではまたね、ホンヤクちゃん!

第一回日本翻訳大賞 推薦作品リスト

2015年2月5日(木)23:59まで第一回日本翻訳大賞の候補作を募集しています。

ここでは皆さまから推薦をうけた作品と推薦文をご紹介致していきます。


【推薦者】藤野 可織
【推薦作品】『われはラザロ』
【作者】アンナ・カヴァン
【訳者】細美遙子
【推薦文】
これでもかと繰り出される絶望!悲しみ!疎外感!そのすべてに心をえぐられ、笑い、やっぱりまたえぐられました。

われはラザロ

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アンナ・カヴァン
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【推薦者】SY
【推薦作品】『逃亡派』
【作者】オルガ・トカルチュク
【訳者】小椋彩
【推薦文】
断章から成り立つ複雑な構成を、流れるように読ませていただきました。翻訳の力がなければこの傑作と出会えなかったと思い、選びました。

逃亡派 (EXLIBRIS)

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オルガ トカルチュク
白水社
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【推薦者】香澄
【推薦作品】『マリアが語り遺したこと』
【作者】コルム・トビーン
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
聖母マリアが語るイエスではなく、母としての視点から語られるイエス像。一人の母として「わたし」は「息子」を見つめ、既に起こってしまった出来事を語り続ける。時々、物語の中に満ちた光や、人々の気配や衣擦れまでをも浮かび上がらせるような文章に出会えることがある。これはまさにその一冊。翻訳というものは、原文と読者を繋いでくれる糸のようにも、また橋のようにも思える。これからも、丹念に紡いだ素晴らしい文章で、読者を本へと結びつけて頂けることを願っています。

マリアが語り遺したこと (新潮クレスト・ブックス)
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【推薦者】 松田青子
【推薦作品】『密林の夢』
【作者】アン・パチェット
【訳者】芹澤恵
【推薦文】
かなりの無茶をするくせに、言うことは冷静なスウェンソン博士の語り口に何度も笑ってしまいました。
あまりに気持ちの良い読み心地に陶然となりました。
密林の夢

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アン パチェット
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【推薦者】hrn
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
物語の素晴らしさもさることながら、後書きで語られた訳者東江一紀さんの姿が、私にこの本をより一層深く忘れられない作品にしてくれました。知を求めること、愛すること、生きること。

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
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【推薦者】ヤヤー
【推薦作品】『さよならのドライブ』
【作者】ロディ・ドイル
【訳者】こだまともこ
【推薦文】
児童書なんぞと侮ってはいけません。海外の児童書やYAには、なんて魅力的な大人が登場するのでしょう。常識やしきたり、あるいはしがらみに縛られてコチコチに凝り固まったアタマを粉々にしてくれます。そして、じぶんもこんなふうにトシを取りたいと思うのです。重厚な一般書の翻訳の推薦も考えましたが、だれにでも読める本こそ、実際に多くのひとに読んでほしいと願っています。

さよならのドライブ (文学の森)
ロディ ドイル
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【推薦者】ぱる子
【推薦作品】『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』
【作者】マイケル・ルイス
【訳者】渡会圭子・東江一紀
【推薦文】
「自分が買う(売る)と必ず価格が逆に動きます。隠しカメラで監視されているとしか思えません」「またヘッジファンドに狩られました」……ネットの投資掲示板にあふれる怨嗟の声も、あながち妄想の産物ばかりとはいえないのではと思わせてくれる怖い一冊。市場から薄利を超高速で繰り返し奪い去っていく「フラッシュ・ボーイズ」(超高速取引業者)は年金基金もターゲットにしているから、直接ネット取引を行わないあなたも無関係ではいられない。解説を読むと、対岸の火事どころではなくフラッシュ・ボーイズは既に日本にも進出しているという……。
実はタイトルに反してこの本の主役はフラッシュ・ボーイズではなく、フラッシュ・ボーイズに食い物にされない取引の場を求めて遂にはそれを創り出した個性的な面々なのです。パニック小説とプロジェクトXが一体となって「ひと粒で二度おいしい」!

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち
マイケル ルイス
文藝春秋
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【推薦者】吉田 紀代美
【推薦作品】『バニヤンの木陰で』
【作者】ヴァデイ・ラトナー
【訳者】市川恵里
【推薦文】
個人的な事だが、故人へ供える花は生花でなければばらぬ。と漠然と考えていたが、この本の中で「悲しみとともに枯れる」という表現を発見して妙に納得した。クメール・ルージュの虐殺を生き延びた、7歳とちょっとの少女の、詩的な霊感?ともいうべき世界の見え方は、悲惨な情景描写の中で美しく輝いている。人の死を悼むとか何か?考えさせられる素晴らしい作品だった。

バニヤンの木陰で

バニヤンの木陰で

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ヴァディ ラトナー
河出書房新社
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【推薦者】sthew
【推薦作品】『この世の富』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
イレーヌ・ネミロフスキーの作品の魅力は、なんといっても人間描写にあると思う。ネミロフスキーは人間とその人生を手厳しく描きだすのだが、その人間とは「あいつら」というより「私たち」であり、そこには作者の言うところの「ちょっと皮肉な愛情」がある。なお、『この世の富』をおもしろいと思った方には未完の大作『フランス組曲』を、ネミロフスキーがどういうタイプの作家なのかを手っ取り早く知りたい方には短編集『秋の雪』を、それぞれおすすめしたい。

この世の富

この世の富

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イレーヌ ネミロフスキー
未知谷
売り上げランキング: 1,091,081

【推薦者】skmt yj
【推薦作品】『わたしは灯台守』
【作者】エリック・ファーユ
【訳者】松田浩則
【推薦文】
社会から隔絶された場所で、自分の中の他者と向き合う人々。好むと好まざるとに関わらず、孤独の影をまといながらも、どこかおかしみが伝わってくる。そんな風景がそれぞれにすーっと立ち上ってくる短編集でした。この抑制の効いた翻訳は、かえって作家の独特な文体に温度を持たせているように感じます。

わたしは灯台守 (フィクションの楽しみ)
エリック ファーユ
水声社
売り上げランキング: 92,432

【推薦者】がーらんど
【推薦作品】『ゲームウォーズ』
【作者】アーネスト・クライン
【訳者】池田 真紀子
【推薦文】
大富豪の遺産相続ゲームに貧乏な少年が挑んでいくというよくあるジュブナイル小説なのだが、そうのゲームがただの遺産相続ゲームではない。80年代ポップカルチャーの知識とコンピューターゲームの技術で仮想空間で争うという奇抜なものなのだ。作者はその道の専門家なので、たとえば、登場するゲームの描写も鮮明で、扱われるネタもディープ。かといって、説明調ではなく、いい意味で軽い。この深さと軽さが心いくまで味わえる翻訳だったと思う。翻訳小説というと、いかに子ども向けのものでも、どこか不自然になっていて、ひっかかることが多いが、この本は、日本のラノベを読むように楽しめた。

ゲームウォーズ(上) (SB文庫)
アーネスト・クライン
SBクリエイティブ
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【推薦者】金子 靖
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明
【推薦文】
この訳書には、言及される人物、団体、事件の背景知識から始まり、各表現の語源やニュアンスなど、あらゆる注が膨大に盛り込まれている。ピンチョンの作品では、創作のように書かれていながら、実はそれが事実であった、とわかることもよくあるので、訳者の苦労がしのばれる。『重力の虹』を読もうとすれば、辞書に載っていない、ネットでも調査がつかない、考えてもわからないという英語表現にも山ほどめぐりあえる。訳者はあらゆる辞書や文献やサイトにあたり、自分が実際に行った調査を報告しながら、こうしたものを一つ一つ丁寧に教えてくれる。英語がよく読めるだけでなく、平均的アメリカ人の知識と考え方を完全に理解し、彼らと同じように英語を使いこなせる訳者だからできることだろう。訳者は20年以上前に東大で大英語教育改革を成し遂げた。世界文学を理解するにはどんな勉強と心構えが必要か?訳者は本書でそれも伝えようとしているのかもしれない。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
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【推薦者】14番目の月
【推薦作品】『仮面の商人』
【作者】アンリ・トロワイヤ
【訳者】小笠原豊樹
【推薦文】
ひとの人生において、なにが真実で、なにが嘘なのか、ほんとうのことは存在するのか? ということについて考えさせられました。シニカルで一筋縄ではいかない作者の視点が、フランスっぽい気がしました。(完全に紋切り型のイメージですが)また、岩田宏名義での、「解説にかえて」1、2もたいへん読みごたえがあって、面白かったです。

仮面の商人 (小学館文庫)

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アンリ トロワイヤ
小学館 (2014-11-06)
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【推薦者】miyu
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
 奇想天外な物語でもなく、もちろん種も仕掛けもない。地味な学者の地味な人生を描いた話が、どうしてこんなに胸に突き刺さるのだろう。読み手をつき放さず、むしろ両手をいっぱいに広げて包んでくれているかのようだ。翻訳者の人柄や、この作品に対する姿勢がとてもよく伝わって来る。主人公はけして象牙の塔の学者ではなくて、私たちと同じように悩み恋をして挫折を繰り返す、けれども文学(好きなこと)に対しては怖ろしく頑固で意志の強い、そんなとても愛しい人だった。だからこそ私たちの心をとらえて放さないのだろう。毛色の変わった作品に浸され続けているいま、まだ自分にもこのようにストレートな作品に対する溢れるばかりの想いがあったことを、強く意識出来たのがとても嬉しい。愛し合いながらも別れざるをえなかった人の17年後の献辞「W.Sに捧ぐ」と、主人公が静かに逝く場面は、涙なしでは読めなかった。それは悲しいというよりも、むしろ幸せな涙。私はこの作品をこれからも何度も何度も読み返すだろう。命を削るように最後まで素晴らしい翻訳してくださった、今は亡き東江一紀さんの「ストーナー」を、心から推薦いたします。

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
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【推薦者】鶴の一五四八番
【推薦作品】『カステラ』
【作者】パク・ミンギュ
【訳者】ヒョン・ジェフン

【推薦文】
 訳文そのものを日本語として愉しめるという希有な作品。訳者は日本語を母語として育った人ではないというのに、なんなんでしょうこのセンスのよさ。翻訳者のはしくれとして嫉妬と畏怖を覚えます

カステラ

カステラ

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パク ミンギュ
クレイン
売り上げランキング: 665,367

【推薦者】佐々木 文一
【推薦作品】『ヒロシマ・モナムール』
【作者】マルグリット・デュラス
【訳者】工藤庸子
【推薦文】
この作品を翻訳することに至る経緯を工藤庸子は末尾の訳者ノートで精細に綴っています。その中で「デュラス生誕百年の出版企画に『ヒロシマ・モナムール』の新訳を、という選択には哲学的といってもよい動機があった。「フクシマの後」にあらためて、1958年に構想された「ヒロシマ」を読みなおすことができるのか。ようやく語るべき言葉を模索しはじめた二〇十四年のわれわれは、デュラスのテクスト上に応答する言葉を見出して、遠くから呼びかける声を聞きとることができるのか。」ここにはこの作品を翻訳する行為そのものを現在の状況にくぐらせて問い直すことでこれまで見えてこなかったこと、すくい取れずにいたことを見極めようとする訳者の熱いこだわりが伝わってきます。その意味で訳者工藤庸子のエクリチュールとしても堪能できる作品です。なぜなら翻訳する行為はもうひとつの新たなエクリチュールの創造活動なのですから。

ヒロシマ・モナムール

ヒロシマ・モナムール

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マルグリット デュラス
河出書房新社
売り上げランキング: 470,841

【推薦者】キャトル
【推薦作品】『カステラ』
【作者】パク・ミンギュ
【訳者】ヒョン・ジェフン/斎藤真理子
【推薦文】
あとがきによると、作者は「韓国の現代文学を語る上で絶対に欠かせない存在」とのこと。その作者の初短編集を紹介した訳者の役割は大きいと思います。社会の中で、なんとなく、あるいは、どうしようもなくうまくいっていない十人の「僕」たちの物語(+日本語版にのみ収録の作品一編あり)。何度もふっ、ぷぷっと笑わされ、何度もえ?、うわー! と驚かされ、文章の軽快なリズムに乗せられて、思いもよらない場所へと連れていかれ……一つ読み終わるたびに、他がどんな話なのか気になって、次を読まねばという焦燥感に駆られました。面白い! 作品の空気まで訳してくださった訳者おふたりに感謝します。

カステラ

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パク ミンギュ
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売り上げランキング: 665,367

【推薦者】小川 湖
【推薦作品】『王たちの道1-白き暗殺者-』
【作者】ブランドン・サンダースン
【訳者】川野靖子
【推薦文】
偶にファンタジーを読みたくなります。「壮大無比な大河ファンタジイ」の通り、登場人物も多く造語も盛沢山。全3巻、ポケット・ブック版500頁。4人の物語がそれぞれに進みます。暗く重い出だしながら、ぐんぐん読ませます。カラディンに寄り添うシル(精)はどんな姿かしら?映像で観たくなる作品です。間もなく発行される2巻が大変楽しみ。ファンタジーの醍醐味を味わっています。翻訳の川野さん、ありがとうございます。

王たちの道 1 白き暗殺者 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
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【推薦者】チコ
【推薦作品】『最初の舞踏会 ホラー短編集3』
【作者】ペロー、ルブラン、メリメ他
【訳者】平岡敦
【推薦文】
ホラー短編集だがおどろおどろしくはない。切ない話あり犯罪ありの、フランスの奇妙な短編集。なかでもタイトルになっている「最初の舞踏会」が最高だった。残酷なことをサラッと行うハイエナがとてもキュートに感じるのは翻訳のおかげでもあるだろう。最後の場面を想像して駆け出したくなるくらいワクワクした。

最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)
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【推薦者】じゅんいちろう
【推薦作品】『この世の富』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行

【推薦文】
「多くの悩み、多くの苦しみ、多くの試練、それがこの世の富なんだ」驚きの連続刊行で、ネミロフスキーに出会うことが出来たのが2014年の大きな収穫でした。4作品の中でも、一番好きなこの作品を推薦します。

この世の富

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イレーヌ ネミロフスキー
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【推薦者】ブリキの木魚
【推薦作品】『別荘』
【作者】ホセ・ドノソ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
 驚きのエピソードの連続で最後まで引き付けられ、読むという行為そのものがたまらなく楽しいことに改めて気づいた。また、チリやラテンアメリカの歴史や政治的側面を絡めて深読みしたくもなるし、合間合間に登場する作者の言葉からドノソの小説観を勝手に想像するのも面白い。何度も再読したい作品。

別荘 (ロス・クラシコス)

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ホセ ドノソ
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【推薦者】あかさ たな
【推薦作品】『賢者の贈りもの』
【作者】O.ヘンリー
【訳者】小川高義
【推薦文】
Oヘンリーの新訳はすごい。翻訳は時空間を越えるから、日本語が却って豊かなんだと気付かされる。Oヘンリーの笑いが落語のシャワーを浴びて、いまここの話になってる。あと2本が待ち遠しいです。

賢者の贈りもの: O・ヘンリー傑作選I (新潮文庫)
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【推薦者】ペイトン昌美
【推薦作品】『注目すべき125通の手紙』
【作者】ショーン・アッシャー
【訳者】北川玲
【推薦文】
手紙ひとつひとつにストーリーがあり、事実ならではの重みがある。死を覚悟した手紙、愛の手紙、怒り、喜び、苦悩、悲しみ……楔文字の時代から現代まで、125篇の物語。書き手の生きた時代も違えば、文体も口調も手紙を書いたときの感情も違う。書き手に気持ちを重ね合わせ、書き手の人柄に思いをはせる。一通ずつ、じっくり味わいたい。訳すのはさぞかし大変だったろうと思う。

注目すべき125通の手紙:その時代に生きた人々の記憶
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【推薦者】ayakomiyamoto
【推薦作品】『別荘』
【作者】ホセ・ドノソ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
別荘でひと夏を過ごすベントゥーラ一族とその子どもたち、人喰いと噂される原住民、辺り一面を侵略し続ける綿毛の植物……。さまざまな要素が絡み合い奇怪で複雑なドラマを織りなす物語。綿毛とともに別世界へ連れ去られるような強烈な読書体験でした。この作品が翻訳されて、日本語で読めて幸せでした。

別荘 (ロス・クラシコス)

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ホセ ドノソ
現代企画室
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【推薦者】すける
【推薦作品】『ドリフトグラス』
【作者】サミュエル・R・ディレイニー
【訳者】
浅倉久志/伊藤典夫/小野田和子/酒井昭伸/深町眞理子
【推薦文】
 象徴の自覚的な使用をSFに持ち込んだディレイニーの短編集。SFとしてのストーリーに暗喩をひそめて幾層もの厚みをもたせた語り口は短編でもその衝撃力を弱められることがない。翻訳短編集を読むことの喜びは、一冊で著者の様々な作品に触れられることと同時に、それぞれの作品に適った訳者による作品理解を通じた訳文に立ち会えることにもある。本書には浅倉・伊藤両氏をはじめとした練達の訳者によるディレイニーの文章への対峙の成果が込められており、豊かな読書の経験をあたえてくれる。

ドリフトグラス (未来の文学)
サミュエル・R・ディレイニー
国書刊行会
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【推薦者】いつまでも 海外文学初心者
【推薦作品】『天国の囚人』
【作者】カルロス・ルイス・サフォン
【訳者】木村裕美
【推薦文】
 やっぱりサフォンはおもしろい。忘れられた本の墓場シリーズ四部作の三作目、前二作があってこそとは思いますが、今回も単独で充分に魅力的かと。ジャンル等も意識せず、いつも夢中になって、しかも惜しみつつもあっという間に読んでしまうのは、もしかすると児童文学も書かれてきた作者のおかげかもしれません。毎作、そんな読書に誘ってくれる木村裕美さんの翻訳に心から感謝しています。

天国の囚人 (集英社文庫)

天国の囚人 (集英社文庫)

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カルロス・ルイス サフォン
集英社 (2014-10-17)
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【推薦者】cmm
【推薦作品】『プロメテア』
【作者】アラン・ムーア
【訳者】柳下毅一郎
【推薦文】
読んだときに「これを訳したのか!」とびっくりでした。自分だったら英語で読めなかったと思います。丁寧な解説に加えて、翻訳・出版に感謝します。アラン・ムーアの別の面も知ることができました。これを機に、海外漫画の翻訳も盛んになってくれると嬉しいです。

プロメテア 1 (ShoPro Books)

プロメテア 1 (ShoPro Books)

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アラン・ムーア
小学館集英社プロダクション
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【推薦者】後の葵
【推薦作品】『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』
【作者】チャールズ・ユウ
【訳者】円城塔
【推薦文】
ストーリーや文章の雰囲気から暗さを感じたが、同時に希望に満ち溢れた小説であった。内容の複雑さと円城塔氏の翻訳、どちらも秀逸。タイムパラドックスものとしても家族小説としても、近年発表された作品の中では最も楽しく読めた。

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
チャールズ・ユウ
早川書房
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【推薦者】井之頭 太郎
【推薦作品】『エウロペアナ』
【作者】パトリク・オウジェドニーク
【訳者】阿部賢一 篠原琢
【推薦文】
 ヨーロッパの20世紀を多面的な視点から描いたチェコ語の作品を、そのユーモアの力を失うことなく、多分野の専門用語が盛り込まれた文章をわかりやすく訳したこと。専門分野が異なる2人の訳者の共同作業に敬意を込めて推薦します。

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)
パトリク オウジェドニーク
白水社
売り上げランキング: 58,488

【推薦者】吉田 博子
【推薦作品】『死んだ人形たちの季節』
【作者】トニ・ヒル
【訳者】宮崎真紀
【推薦文】
バルセロナを舞台にした、バルセロナ生まれ翻訳者出身のミステリー作家デビュー作。スペイン語の翻訳クラスで、「今翻訳中の本」として授業を受けました。不思議な題名は、作品冒頭に忘れられないようなイメージで描かれています。アルゼンチン人のカタルーニャ州刑事エクトルは、暴力事件を起こして休暇を取り故郷にいったん帰り、復帰後は暴力を振るった呪術医の捜査を部下マルティナに任せ、上司が個人的に頼まれた事故の洗い直しをすることに。19才の少年マルクは墜落死とされていたが、新米刑事レイラと調べるうち、たった1週間ほどでいろいろダークな事実が明らかになって……というもの。後書きにもあるように伏線が丁寧で、ツイストも鮮やかだし。特に主役級の心の動きに細かいです。スペイン語の分かる方は、カタルーニャや南米の発音などについても気をつけて翻訳してあるので、マニアックな楽しみがあります。今後が楽しみな作家です。

死んだ人形たちの季節 (集英社文庫)
トニ ヒル
集英社 (2014-10-17)
売り上げランキング: 523,624

【推薦者】金山 倫子
【推薦作品】『密林の夢』
【作者】アン・パチェット
【訳者】芹澤恵
【推薦文】
気の進まないブラジルアマゾンへの出張を命じられる主人公。目的はそこでの新薬研究の進捗状況と、先にそこに赴き亡くなった同僚の死の詳細を知るため。その二つの目的がこの物語の謎となり、ミステリー小説なみにページを繰る手を止まらなくさせる。

密林の夢

密林の夢

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アン パチェット
早川書房
売り上げランキング: 277,238

【推薦者】山口 かおり
【推薦作品】『もう年はとれない』
【作者】ダニエル・フリードマン
【訳者】野口百合子
【推薦文】
昨年いちばん楽しんで読んだ本です。87歳の元暴力刑事(ダーティーハリー系)でユダヤ人。ナチの強制収容所帰り。愛用の武器は357マグナム。この何ともシブくて魅力的かつユーモラスなキャラクター造詣を考え付いた段階で、作者の勝ちは決まっているわけです。なによりも、次作を首を長くして待てる、新シリーズが出てきて嬉しい。

もう年はとれない (創元推理文庫)
ダニエル・フリードマン
東京創元社
売り上げランキング: 20,916

【推薦者】柳井 完司
【推薦作品】『よりぬきウッドハウス2』
【作者】P・G・ウッドハウス
【訳者】森村たまき
【推薦文】
 ウッドハウスはかつて新旧いろいろな翻訳が出ていましたが、どれもこれもイマイチ笑えないというか、正直どこが面白いのかさえとんと分からぬ――というのが正直なところだったと思います。やっぱり英国の渋いユーモアなんてものは、日本人には理解できぬものなのか、と。当方の如きは悲しく爪を噛んでいた次第です。それだけに、森村訳の出現はさながら闇に包まれた地上に差す一条の黎明。いわゆる「よしきたホー!」でありまして。おそらくは日本読書史上だれにもなしえなかった「ウッドハウスでニヤニヤウフフと笑える歓び」を、軽やかにスキップしながら与えてくれたのです。まことその訳業は、実にすっとんとんに比類なきものというべきでしょう。そういうわけで。可能ならば遡って森村訳1作目の『比類なきジーヴス』を推したいところですが、そうもいかない大人の事情。そこで次善の策として、翻訳大賞創設遅すぎです!とぶつぶつ呟きつつ、最新の森村訳になる本書を推薦する次第です。

よりぬきウッドハウス2

よりぬきウッドハウス2

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P・G・ウッドハウス
国書刊行会
売り上げランキング: 606,275

【推薦者】どら えもん
【推薦作品】『ぼくらの時代の本』
【作者】クレイグ・モド
【訳者】樋口武志
【推薦文】
 新しい時代に「本」とはどのような「カタチ」をとるのか。この20年コペルニクス的転回を遂げている出版界ですが、それはまだ行く先が定まらず、その確かなあり方を探している途中のようです。本書はそんな新時代のメディアにとって道標となる一冊。訳者である樋口武志氏はまだ20代と非常に若いながらも、これまでニコール・クラウスや数々の映画の字幕を手がける秀才です。まさにこの若き翻訳者の手で新時代の「本」のあり方についての指南書が訳されたことこそが、「本」にとっての希望なのではないでしょうか。

ぼくらの時代の本

ぼくらの時代の本

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クレイグ・モド
ボイジャー (2014-12-15)
売り上げランキング: 200,919

【推薦者】北村 浩子
【推薦作品】『最後の紙面』
【作者】トム・ラックマン
【訳者】東江一紀
【推薦文】
ローマのある架空の新聞社を舞台に、新聞が創刊された1950年代からの時間と、2006年時点での時間のふたつを交互に提示しながら「最後の紙面」までの経緯を綴った連作短編集。かつての恋人とその夫に新聞社の運営を任せる企業グループの社長、特派員の地位を狙うもライバルにこき使われてしまう青年、夫の浮気をむしろ利用しようと考えるやり手の女性編集主幹……おかしくせつなくほろ苦い上質の群像劇です(しかも税込み千円以下!)

最後の紙面 (日経文芸文庫)
トム・ラックマン
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 114,866

【推薦者】冬猫
【推薦作品】『最後の恋人』
【作者】残雪
【訳者】近藤直子
【推薦文】
この世界とよく似ているけれど、何かが違う異世界の質感の歪みに眩暈がした。増殖し続ける物語の大きさを損なうことなく、つなぎとめ再構築する細心の力技に敬意をもって推薦致します。

最後の恋人 (残雪コレクション)
残 雪
平凡社
売り上げランキング: 575,310

【推薦者】林 央子
【推薦作品】『私のもらった文学賞』
【作者】トーマス ベルンハルト
【訳者】池田信雄

【推薦文】
 喜劇にも悲劇にも本質にも舞台にも読める。文学賞をめぐる一人の作家への出来事をこんなにも驚きと共感とリアリティをもって接することができるとは。現実に気持ち悪くなったり絶望したり大笑いしたり読む方も忙しく、楽しい。

私のもらった文学賞

私のもらった文学賞

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トーマス・ベルンハルト
みすず書房
売り上げランキング: 381,926

【推薦者】横山 直己
【推薦作品】『ダヴィッド ゴルデル』
【作者】ネミロフスキー・イレーヌ
【訳者】芝 盛行
【推薦文】
この本は人生を生き抜く、という力強いメッセージを与えてくれました。若くて不幸な死を選ばされたイレーヌの、人類に贈る悲痛のメッセージでもあります。イレーヌ作品にかける訳者の芝盛行さんの熱い思いが伝わります。

ダヴィッド・ゴルデル

ダヴィッド・ゴルデル

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イレーヌ ネミロフスキー
未知谷
売り上げランキング: 962,290

【推薦者】森の中に時計はない
【推薦作品】『神曲』
【作者】ダンテ・アリギエリ
【訳者】原基晶
【推薦文】
人生を半ばまで歩んだ主人公ダンテが、地獄から煉獄~天国を旅する物語である。神(原語でもDivina)と題されてはいるもののとにかく人間くさい。あくまで世俗に生きる1人の人間として、著者ダンテの頭の中で渦巻くありとあらゆる思いが見えて興味深く感じた。理性・倫理・慈しみ・傲慢さ・残酷さ・不正義等々ギュッと詰まって書かれている。同時代の人物への、彼岸の世界を通した遠慮会釈ないダンテの評価は特に注目されたい。推薦した訳は読みやすさはもちろん、歴史背景の纏まった説明や注釈がとても助けになった。これらが無ければ上記の感想にはたどり着けなかったであろう。全3冊の長い作品なので初めての海外文学として取っつきづらいことは否めないが、最初の地獄篇だけ試してみたり、気ままな摘み読みから入っても面白いのでは。決して難解な作品ではない。
神曲 地獄篇 (講談社学術文庫)
ダンテ・アリギエリ
講談社
売り上げランキング: 220,056

【推薦者】関口 真知子
【推薦作品】『パラディスの秘録 死せる者の書』
【作者】タニス・リー
【訳者】市田 泉
【推薦文】
文章全体から漂う、饐えたような、それでいてどこか甘いところのある匂いに、なるほどこれが死者の朽ちゆく匂いなのかと陶然としながら、ひとつひとつ墓暴きをしていくような気持ちで八編を読みました。閉ざされたままだった魔都パラディスへの道を新たに切り開き、わたしたちを背徳の世界へと再び誘ってくださった訳者の市田さんに感謝します。

死せる者の書 (創元推理文庫)
タニス・リー
東京創元社
売り上げランキング: 81,774

【推薦者】三浦 天紗子
【推薦作品】『古書収集家』
【作者】グスタポ・ファベロン=パトリアウ
【訳者】高野雅司
【推薦文】
若き古書収集家ダニエルが婚約者のフリアナを惨殺し、精神病院に収監される。その親友で心理原義緒学者のグスタポ(作者とニアイコールに思える人物、というのがまたひとつの仕掛け)が、その事件の真相を究明しようとするが、その背後にあった壮大な計画、それを実行に移した動機というものに心底驚かされる。情報を求めて動き回る一方で、ダニエルと面会もするグスタポ。精神病院の塀の外と中で彼が聞きかじる、一見事件とは無関係の奇譚が、後々意味を持ってくるという構成は、オーソドックスなのかもしれないが、とても好み。

古書収集家 (フィクションの楽しみ)
グスタボ ファベロン=パトリアウ
水声社
売り上げランキング: 474,016

【推薦者】山崎 まどか
【推薦作品】『この世界の女たち』
【作者】アン・ビーティ
【訳者】岩本正恵
【推薦文】
収録されている「燃える家」は既に別の人の訳があり、読み比べてみたが、岩本訳の方が私にはしっくりきた。生活の描写は細やかなのに、登場人物たちの心理には踏み込まない。でも不思議と冷たくない。そんなアン・ビーティの文章を岩本さんの訳で読むのは喜びだった。できればもっと読みたかった。

この世界の女たち アン・ビーティ短篇傑作選
アン ビーティ
河出書房新社
売り上げランキング: 226,017

【推薦者】シグペン メイノット
【推薦作品】『ア・ロング・ウェイ・ダウン』
【作者】ニック・ホーンビィ
【訳者】最所篤子
【推薦文】
いろいろな問題を抱えた人々の絶妙な喋り口調を、スピード感とユーモアセンスでとてもポップに翻訳されていると思います。まぁ、とにかくオモシロイです!特にジェス(十代の女の子)のノリはとても良い!!

ア・ロング・ウェイ・ダウン (集英社文庫)
ニック・ホーンビィ
集英社 (2014-04-18)
売り上げランキング: 165,606

【推薦者】プロレタリア 左派
【推薦作品】『68年5月とその後』
【作者】クリスティン・ロス
【訳者】箱田徹
【推薦文】
本書は、パリ68年5月革命について、それを準備したアルジェリア戦争から、それを正統に継承する現在の反グローバリゼーション運動に至るまで、どのように描かれ、影響してきたのかを分析する。翻訳は、学生運動、労働運動、映画や文学、思想哲学など、多ジャンルの先行研究を踏まえ、細部にわたって配慮されており、訳文もとても読みやすく、こなれている。

68年5月とその後 (革命のアルケオロジー)
クリスティン・ロス
航思社
売り上げランキング: 269,567

【推薦者】ひげのおじさん
【推薦作品】『思考の取引』
【作者】ジャン=リュック・ナンシー
【訳者】西宮かおり
【推薦文】
フランス最高の知性の論考、しかも書物についてのものを日本語で読める幸福! それにつきます。

思考の取引――書物と書店と
ジャン=リュック・ナンシー
岩波書店
売り上げランキング: 369,583

【推薦者】ゆかとら うまん
【推薦作品】『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』
【作者】クリスティン・バーネット
【訳者】永峯涼
【推薦文】
「息子は自閉症、しかも12歳の宇宙物理学者」という帯に、お涙頂戴美談ものかと、あまり期待しないで読み始めたが、ひきこまれた。猛烈な母の愛というには「閉じていない」ところがいい。なぜ大人は、子どもたちの「できないこと」にばかり注目して、できることや好きなことを奪おうとするのか。「ふつう」というレールに合うよう子どもを「修正」することのナンセンス。おとなは何と闘うべきなのか。自閉症にかぎらず、すべての子ども、否、おとなにとっても大事なことを伝えてくれる。

ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい
クリスティン・バーネット
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 64,934

【推薦者】えり
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
素晴らしかった。読みはじめた瞬間から引きこまれいつまでもページをめくり読んでいたかった。夢中になって1日で読み終えてしまった。東江さんの誠実で端整な訳もぴったりだった。最後の方はどんなお気持ちで訳されたのだろうと切なくなった。しかしこの本のカバーを外してみたら、小説の中にあるのと同じ「赤い本」であると気がついた。その時、喜び、成功、失敗、悔しい事もあるけれど情熱を持って立ち向かったならば、それだけでいいとこの本が語りかけてきたような気がした。誰もがストーナーである。それだけでいい。

ストーナー

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
売り上げランキング: 7,319

【推薦者】ふくすけ
【推薦作品】『わたしは灯台守』
【作者】エリックファーユ
【訳者】松田浩則
【推薦文】
地図からも消された灯台、下車されない駅の先にある街、種族最後の生き残り。9つの短編に描かれた、マイノリティな人々の呟き。時に幻影をみているような、微妙なニュアンスも訳し紡いだ、静かな取り組み。読後、妙に胸に残る一冊。

わたしは灯台守 (フィクションの楽しみ)
エリック ファーユ
水声社
売り上げランキング: 39,194

【推薦者】ラヒコ
【推薦作品】『コールド・スナップ』
【作者】トム・ジョーンズ
【訳者】舞城王太郎
【推薦文】
死、貧困、ドラッグ、自殺願望に彩られた短編集。アフリカでの医療支援活動に従事する医師をはじめ、絶望的な状況を目の当たりにして、そこから抜け出す方法があるのかも、そもそも抜け出したいのかも分からなくなりながら、悪態をついてもがく主人公たち。舞城王太郎は、片仮名やブロークンな日本語の言い回しを大胆に多用しながら、そう原文に書いてあったとしか思えない、という説得力のある翻訳を実現しているように思います。

コールド・スナップ

コールド・スナップ

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トム・ジョーンズ
河出書房新社
売り上げランキング: 232,826

【推薦者】いおん
【推薦作品】『その女アレックス』
【作者】ピエール・ルメートル
【訳者】橘明美
【推薦文】
TLで宣伝されてたのと、このミス1位だったのとで手に取った本。冒頭の暴力描写が痛かったので、ちょっと引き気味に読み始めたけど、止まらなくなった。面白かった!!3部構成だけど、1部終わるごとに物語の見え方ががらりと変わる。あれ、誘拐モノじゃなかったの…?と思ったあたりから俄然面白くなって、予想外だけど納得のエンディングにため息。やめられなくて、一晩で読破しちゃった。ネタバレ注意が叫ばれている作品なので、これ以上は書けないけど、読んでみてー、絶対面白いから!!とオススメ。ノワール好きでも、本格派でも、満足すること請け合い( ̄▽ ̄)vネタバレしないとこでひとつ。警察チームの面々が個性的でよかった。ロマンチストのカミーユはもちろん、上司のル・グエンもいいしそ、取調室でも品の良さを失わないイケメン・ルイにもちょっと惚れる。でも最後に素敵なプレゼントをしてくれたアルマンが一等いい!その他の犯人も被害者も、キャラクター造形がよかったなあ。映画でみたいかも。リュック・ベッソンとかデヴィッド・フィンチャーあたりでどうかな?

その女アレックス (文春文庫)
ピエール ルメートル
文藝春秋 (2014-09-02)
売り上げランキング: 301

【推薦者】ナカジー
【推薦作品】『愉楽』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
 方言で書かれている原作を、山陰地方の方言を思わせる言葉で訳してあって、その響きの柔らかさがとても作品に合っていると感じた。これだけ長い小説を、一気読みに引き込むのは、原作の力とともに、翻訳のすばらしさがあってのことではないかと思った。

愉楽

愉楽

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閻 連科
河出書房新社
売り上げランキング: 17,667

【推薦者】くれい
【推薦作品】『私のもらった文学賞』
【作者】トーマス・ベルンハルト
【訳者】池田信雄
【推薦文】
要するに、トーマス・ベルンハルトによる「文学賞メッタ斬り!」です。あけすけな愚痴も上手い人がやればとても面白い、という一つの証拠でしょう。基本的に賞金のためだけに授賞式に行く『消去』の作者ベルンハルトの愚痴は大層面白い。ドイツ語を解さないので翻訳としての巧拙は分かりませんが、あの『消去』を訳した人ならこういう形で報われてもまったく問題はないと思いました。説明するより引用したほうが早いので、引用してみます。「そもそも、と私は考えた、金が手に入るのであればもらっておけばいいので、どうやってとかどこからとかいったことをぐずぐず考える必要はない、そんな風に考えることは純然たる偽善にすぎない。」「賞金はいくらだった、と訊かれて初めて、この賞に賞金が付いていなかったことに気づいた。私はそのとき初めてとんでもなくひどい屈辱を受けたことを思い知らされたのだった。」

私のもらった文学賞

私のもらった文学賞

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トーマス・ベルンハルト
みすず書房
売り上げランキング: 362,316

【推薦者】リドラ・ウォン
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明
【推薦文】
 やっと、遂に、新訳が出て大歓喜です。この翻訳はさぞ大変だっただろうと佐藤氏に心から「お疲れ様でした。ありがとうございます!」と申し上げたいです。これから何度も何度も読み返します。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
売り上げランキング: 67,706

【推薦者】横山 郁代
【推薦作品】『ダヴィッド・ゴルデル』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
イレーネの作品はすべて素晴らしく、ユダヤ系ロシア貴族社会の過酷な生存競争を描き出した傑作であり、翻訳者、芝さんの情熱が感じられます。

ダヴィッド・ゴルデル

ダヴィッド・ゴルデル

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イレーヌ ネミロフスキー
未知谷
売り上げランキング: 959,309

【推薦者】名もなきすあま
【推薦作品】『スナーク狩り』
【作者】ルイス・キャロル
【訳者】穂村弘
【推薦文】
「遊びと謎に充ちた原作の韻文性」を訳文に反映するため、日本の長歌形式を借りた、とあとがきにあります。その制約をフルに活かしたリズム、言葉運びにどんどん連れて行かれました。最後の仕組みも心憎い。

スナーク狩り

スナーク狩り

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ルイス・キャロル
集英社
売り上げランキング: 22,524

【推薦者】杉江松恋
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明
【推薦文】
〈トマス・ピンチョン全仕事〉のすべての刊行物を代表する意味もあるのですが、この一冊を推薦します。訳文もさることながら11万字にも達した脚注が圧巻で、脚注小説の観さえあります。なんとしても読者を〈トマス・ピンチョン峰〉に登らせずにはおくものか、という訳者の執念を感じました。俗に「横のものを縦にする」などと言いますが、このお仕事ぶりを見たら二度とそんな軽い表現を用いることはできなくなると思います。険しい山に登らせてくださった感謝の意味もこめて。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
売り上げランキング: 67,706

【推薦者】倉嶋 愛香
【推薦作品】『北斎と応為』
【作者】キャサリン・ゴヴィエ
【訳者】モーゲンスタン陽子
【推薦文】
私が驚いたのはまず生きている様な文章の表現力かもしれません。それがとても強烈で頭から離れません!モーゲンスタンさんと同じく、海外へ移住しておりますが、自分にこれが同じように翻訳出来るか?と考えると確実に無理なレベルですんね(笑)翻訳というレベルではなく、まさに表現者なのではないでしょうか。読み進めてると、すぐ目の前に世界観が広がり、まるでタイムスリップをしているようでした。主人公の思いだけでなく、息使いまでも感じてしまいそうな作品って…今までたくさんの本を読んできましたが、なかなかないかと思います。もちろん、内容も面白くて一気に読んでしまいました。 こういう本、どんどん読んでいきたいです。私のように感じる読者さん、多いと思いますよ。是非大賞を取っていただいて、私のような他の多くの読者愛好家に広めてほしいものです!

北斎と応為 上

北斎と応為 上

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キャサリン・ゴヴィエ
彩流社
売り上げランキング: 104,585

【推薦者】横田 剛
【推薦作品】『ドリフトグラス』
【作者】サミュエル・R・ディレイニー
【訳者】浅倉久志・伊藤典夫・酒井昭伸・小野田和子・深町眞理子
【推薦文】
単純に去年出た翻訳小説で面白かったもの、ということでこの本を。
そして、その中でも挙げるとしたら巻頭を飾る『スター・ピット』と掉尾を飾る『エンパイヤ・スター』を。『スター・ピット』。対比と断絶の物語。ある惑星に住む中年男性を中心にして回るグロテスクできらびやかな物語。ドラッグ漬けの超能力少女とそれに恋する不良少年、一般人には行けない宇宙の果てを翔ぶ気狂いゴールデン、そんな奇矯なガジェットを言葉にしてディレイニーは叫ぶ。そして『エンパイヤ・スター』。小説の面白さを剥き出しにしたかのような物語。ある日謎の<宝石>ー実は人間が形態変化した姿ーを拾った少年は、運命の導くままに自分の星を飛び出し多くの人に支えられながら目的地、<エンパイヤ・スター>を目指すっていう粗いプロットに、太陽に突っ込む詩人、圧倒的な悲しみで屈服させる奴隷ルルなんかが緻密に絡み合う。ところでディレイニー、宝石好きだねえ。

ドリフトグラス (未来の文学)
サミュエル・R・ディレイニー
国書刊行会
売り上げランキング: 25,443

【推薦者】松山 悠達
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
 愛するものを愛しつづけるのは地獄である。愛することにどのような困難が付き纏おうが、愛しているがゆえに愛しつづけてしまう。愛するものが感情を持たぬ無生物であればなおのこと。いくら愛しても相手の気持ちは一向にわからない。だが、ふとした瞬間、相手が自分を愛しているのではないかと感じるときがある。自分勝手な思い違いかもしれないが、それは至福のときである。そのときをふたたび求め、愛は愛でありつづける。ストーナーは文学を愛しつづける。彼が文学に愛される瞬間がこの小説には存在する。その瞬間に立ち会うとき、読者も文学に愛される。本書を翻訳した東江一紀氏も無生物である翻訳、あるいは言葉を愛しつづけたに違いない。『ストーナー』には、東江氏が翻訳に愛される瞬間があるのではないか、本書の美しい文章を読んでいると、そう思わずにはいられない。その瞬間に立ち会うとき、読者も翻訳に愛される。それは、至福のときである。

ストーナー

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
売り上げランキング: 7,319

【推薦者】ホッタ タカシ
【推薦作品】『<喜劇映画>を発明した男 帝王マック・セネット自らを語る』
【作者】マック・セネット
【訳者】石野たき子(監訳・新野敏也)
【推薦文】
無声映画時代のカツドウヤという、まさしく<信頼できない語り手>の自伝を、ホラ吹きらしさを残した文章、そして詳細な注釈によって、映画が魔法だった時代の芸談を甦らせてくれた労作。巻末付録の「銀幕喜劇人小辞典」含め、無声喜劇映画を改めて世にアピールしたいという訳者の使命感にも打たれる。

〈喜劇映画〉を発明した男──帝王マック・セネット、自らを語る
マック・セネット
作品社
売り上げランキング: 718,237

【推薦者】杉山 眞弓
【推薦作品】『あるときの物語 上』
【作者】ルース・オゼキ
【訳者】田中文
【推薦文】
訳されるべき作家の、訳されるべき作品が日本語になった喜びを読者は感じるはずだ。読み進めていくうちに英語と日本語、カナダと日本という差異の境界がぼやけていき、国境を越えた物語世界が生まれていく。このような良質の翻訳書がもっと出版されることを願いつつ、本書を推薦する。

あるときの物語(上)

あるときの物語(上)

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ルース・オゼキ
早川書房
売り上げランキング: 217,817

【推薦者】堤 拓哉
【推薦作品】『最後の恋人』
【作者】残雪
【訳者】近藤直子
【推薦文】
この本を読んでいる時に私は、文学が現実を侵食する有り様を知ってしまいました。弱っている心に効いたり、世界に対する見方が変わるとかそういう話ではありません。本当にその数十分間、目の前の現実が歪んでしまったのです。

最後の恋人 (残雪コレクション)
残 雪
平凡社
売り上げランキング: 570,496

【推薦者】杉森 順一
【推薦作品】『愉楽』
【作者】閻 連科
【訳者】谷川 毅
【推薦文】
 県を豊かにするため、レーニンの遺体を購入し、記念館に安置して観光名所にしようと考える県長。レーニンを購入する資金を集めるために目を付けたのは障害者ばかりの村「受活村」の村人たちだった。荒唐無稽な話だけど、登場人物たちの魅力に引き寄せられる。ラテンアメリカ文学とは違った楽しみのある中国のマジックリアリズム。

愉楽

愉楽

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閻 連科
河出書房新社
売り上げランキング: 85,286

【推薦者】ハト牧場
【推薦作品】『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺』
【作者】ラティフェ・テキン
【訳者】宮下 遼
【推薦文】
これはある夜ゴミ山に建った一夜建ての家から始まった物語である。ゴミ山にゴミで家を建て、壊されてもまた建て陽気に逞しく生きてゆく人々の営みを淡々と、時に滑稽に、時に哀れげに描いてゆく。そこには主人公はおらず、主となるのはゴミ山そのものである。人は土地と共に生きうつろいながらも日々を生きるという力強さを、悲壮感なく楽しげにすら描き切ったのはおとぎ噺以外の何ものでもない。他にない、印象的な読後感の本。

乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺
ラティフェ テキン
河出書房新社
売り上げランキング: 482,794

【推薦者】みのた さち
【推薦作品】『別荘』
【作者】ホセ ドノソ
【訳者】寺尾 隆吉
【推薦文】
まだ全部は読んでいませんが、本をめくるたびに賑やかな物語が始まる楽しさ。ラテンアメリカの熱狂。これぞ読書の楽しみ

別荘 (ロス・クラシコス)

別荘 (ロス・クラシコス)

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ホセ ドノソ
現代企画室
売り上げランキング: 41,000

【推薦者】森 達也
【推薦作品】『人生を、もっと幸せに生きるために 死者からのアドバイス』
【作者】ジェームズ・ヴァン・プラグ
【訳者】安達直子
【推薦文】
 本書には、私たちに対する霊たちからの貴重なメッセージが数多く含まれている。その一つは、思いやりを持って相手の苦しみを感じ、異なる意見を尊重することが大切だと伝えている。私たちは、他の人も自分と同じように考えれば世の中はよくなるだろうと自己本位になりがちだからだ。この本には、息子ジェイミーの生命維持装置を停止するという苦渋の決断をした両親のエピソードが挿入されている。今でも深い悲しみをひきずる両親を、「人殺し」となじるジェイミーの弟チップは、状況を自己本位の視点から見ており、両親の愛ある決断を受け入れられないでいた。著者は、チップが両親の苦しみを理解できるようになるまで待つようにとアドバイスした。一方、亡くなったジェイミーの霊は、魂を自由に解放してくれたことを両親に感謝していることが明らかになった。人生で起こることすべてを、この世とあの世を含む広い視野から見ることの大切さを著者は訴えている。

人生を、もっと幸せに生きるために
ジェームズ ヴァン・プラグ
エンジンルーム
売り上げランキング: 11,520

【推薦者】伊藤 伸恵
【推薦作品】『この世の富』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
 文学には何か人生にとって重要なことが書いてあるんじゃないかと期待していつも本を手に取る。すると時々、人間が、人生が、ギュッと綺麗な鉱石のように固まった作品に出会うことがある。『この世の富』は確かにそれだった。日本語で読ませてもらえた幸運に感謝。私はこの作品のシビアな強さをこれからの人生で何度も思い出すんじゃないかと感じている。完結しているので読後感もいい。

この世の富

この世の富

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イレーヌ ネミロフスキー
未知谷
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【推薦者】uenos aires
【推薦作品】『大いなる不満』
【作者】セス・フリード
【訳者】藤井 光
【推薦文】
 不条理だけどコミカルな短編集。ふと思い出した時に読み返せるコンパクトさも魅力な一冊。

大いなる不満 (新潮クレスト・ブックス)
セス フリード
新潮社
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【推薦者】あしゅぼん
【推薦作品】『リュシル―闇のかなたに』
【作者】デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン
【訳者】山口羊子

【推薦文】
 人は母親から生まれる。あまりにも近しい存在だから、母親を客観的に描くのは難しい。ましてや、心を病み、自ら命を絶った母親のことを書くのはなおさらつらい。この作業をとことんやってのけたのが、この作品『リュシル 闇のかなたに』だ。近親者から絶縁されるのではないかと不安を抱きながら、母という存在の光と闇を極限まで描こうとする。翻訳からは、感情を抑えて淡々と書き進めながらも、心の内で自分自身と闘う著者の姿が伝わってきた。胸打つ作品だった。

リュシル: 闇のかなたに

リュシル: 闇のかなたに

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デルフィーヌ ドゥ・ヴィガン
エンジンルーム
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【推薦者】さとみ
【推薦作品】『モンスターズ』
【作者】B・J・ホラーズ編
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
あとがきには、「受賞歴なし、無名の編纂者、小さな出版元、そして収録作家の半数以上が無名という、いわば「ないないづくし」の本である」とあります。訳者自らこの本を取り寄せて出版を実現されたそうです。翻訳書が売れなくなって、有名作家の、待望の新作しか訳されなくなったら困ります。無名の海外作家の、ともすると埋もれてしまいそうな作品を格調高い日本語で読める幸せをしみじみと感じた一冊でした。

モンスターズ: 現代アメリカ傑作短篇集
白水社
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【推薦者】百句鳥
【推薦作品】『愉楽』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
 母国では数多の著作が発禁処分を受けている閻連科氏の作品。本書も中国現代史に切りこんだ意欲的な社会派小説ながら、同時にマジックリアリズムならではの寓話的な表現性や、そこまで深い予備知識を要さず物語に入りこめるストーリーラインなど、バラエティに富んだ読みどころを持つ秀逸なエンターテイメント小説でもあります。また、方言や障碍者の呼びかたなど翻訳のさいに神経をつかわれたのではないかと思われる箇所も散見されますが、いち読者としてそうした要所要所のこだわりもあわせて高く評価しております。この作品に出会えたことを幸福に思います。

愉楽

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閻 連科
河出書房新社
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【推薦者】金 承福
【推薦作品】『野良猫姫』
【作者】ファン・インスク
【訳者】生田美保
【推薦文】
詩人が書いた小説。しつこくなくさっぱりした文体から伝わる透明な感じが翻訳でもそのまま。二十歳の主人公が詩を書きながら自分で自立していく様子は物語の中に入ってでも応援したくなってしまう。そしてこの主人公が野良猫たちにご飯をあげながらネコ好きの人々とあったかく丁寧にコミュニケーションする姿があったかい。これっといった事件ひとつないストーリーだ、読み終わるとものすごく癒された感じになる。こんなにバーディ感たっぷりの本は久しぶり。うれしい。

野良猫姫 (新しい韓国の文学)
ファン・インスク(黄仁淑)
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【推薦者】小松
【推薦作品】『剃髪式』
【作者】ボフミル・フラバル
【訳者】阿部 賢一
【推薦文】
(本文より抜粋)<――喉頭も青や淡い赤の輪からできていて、カラフルな掃除機のホースのようだった。><――ダンスのステップという糸が音楽という針の穴に通ることはなかったけれども・・・・・・>素敵な描写が終始出てくる作品、もしかしたら描写が全てと言えるかもしれない作品におきまして、それもチェコ語という、僕とは限りなく遠い位置にある言葉を訳してくださった翻訳者様に、この場をお借りしましてお礼を言いたいです。ありがとうございます。

剃髪式 (フラバル・コレクション)
ボフミル・フラバル
松籟社
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【推薦者】とんぼのめがね
【推薦作品】『あるときの物語』
【作者】ルース・オゼキ
【訳者】田中 文
【推薦文】
カナダの海岸に漂着した日本の少女の日記を主人公のカナダ人作家と同時進行で読むうちに、自分自身も物語の中に取り込まれていくという「はてしない物語」的感覚を味わった。心の奥深くにじんじん届く文章も忘れがたい。

あるときの物語(上)

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ルース・オゼキ
早川書房
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【推薦者】mdsch23
【推薦作品】『アメリカの卑劣な戦争』
【作者】ジェレミー・スケイヒル
【訳者】横山啓明
【推薦文】
原題は「Dirty Wars」、邦題サブタイトルは「無人機と特殊作戦部隊の暗躍」。911以降のアメリカの対テロ戦争がJSOC(統合特殊作戦コマンド)主導で行われるようになった経緯とある一つの結果を描く。SEALなど特殊部隊の下士官兵のノンフィクションを基にした映画は「ローン・サバイバー」や「アメリカン・スナイパー」がありますが、彼らがどのような目的で派遣されているのかはあまり描かれていません。本作は大統領とホワイトハウススタッフ、JSOC司令官がどのような論理でターゲットとなる人物を決めているのか調べられており貴重です。またブッシュ大統領よりもオバマ大統領の方が対テロ戦争遂行でより過激な方法を認めている実態を明らかにしている点も重要だと思います。今読まれるべき翻訳ノンフィクションとしてお勧めの一作です。

アメリカの卑劣な戦争―無人機と特殊作戦部隊の暗躍〈上〉
ジェレミー スケイヒル
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【推薦者】佐野 隆広
【推薦作品】『ダヴィッド・ゴルデル』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝 盛行
【推薦文】
個人的に、2014年で1番の収穫がイレーヌ・ネミロフスキーの一連の著作を読めたことでした。「クリロフ事件」、「この世の富」も良かったのですが、やはりイレーヌのデビュー作「ダヴィッド・ゴルデル」を推薦したいと思います。一連の著作を翻訳した芝盛行氏と出版した未知谷に感謝とエールを送りたいと思います。

ダヴィッド・ゴルデル

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イレーヌ ネミロフスキー
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【推薦者】相楽
【推薦作品】『火星の人』
【作者】アンディ・ウィアー
【訳者】小野田和子
【推薦文】
 危機を前にプロたちが、各々の職務上求められる(特に慎重さと大胆さ、リスクとリターンに対する)視点・判断では各々異なりつつも”まずは主人公の救出が第一”では一致、あくまで問題への実際的な対処という線で行動していく様が心地良い。特に主人公・ワトニーが”最前線でプロフェッショナルの宇宙飛行士が非常事態に見せるものとして実に適切かつ魅力的な人間味、慎重さと大胆さ”を発揮していく様が最高に愉しい。そして彼の言動は前向きなユーモアにいつも彩られている(他のプロフェッショナルたちを描く上でも彼らの(時にブラックな)ユーモアが光るが、やはりなんといってもワトニーのそれだろう)。
そして、それらの魅力、特にユーモアを見事に伝える文章ということにおいて、小野田和子さんによる訳文の力もとても大きいのではと思う。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
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【推薦者】Chica
【推薦作品】『TTT トラのトリオのトラウマトロジー』
【作者】ギジェルモ・カブレラ・インファンテ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
 作品の文学的価値、翻訳の素晴らしさ、邦訳することの意義、この三点において最も受賞に値するのがこの作品だと思います。言語的実験に富む作品でありながら、小説としてクオリティも高いところが推薦の理由です。お腹を抱えて笑う場面が何度もあり、それでいて、キューバの歴史と照らし合わせてホロリとくることあり、分厚い本でしたが、飽きずに最後まで読破できました。

TTT: トラのトリオのトラウマトロジー (セルバンテス賞コレクション)
ギジェルモ・カブレラ インファンテ
現代企画室
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【推薦者】わいえむ
【推薦作品】『バニヤンの木陰で』
【作者】ヴァデイ・ラトナー
【訳者】市川恵里
【推薦文】
恥ずかしながら、この本を読むまでカンボジアの悲劇ついては何も知りませんでした。興味を持つこともありませんでした。題名と表紙に惹かれて手に取ったものの、虐殺を生き抜いた少女の自伝的小説、という紹介に最初は読むのをためらいました。ですが、冒頭の、主人公ラーミの平和な時代の優雅な暮らしぶり、花の香りが漂ってくるようなカンボジアの美しい自然描写に引き込まれ、胸がつぶれそうなほど苦しい場面でも、ページをめくる手が止まりませんでした。悲惨な状況でも持って生まれた品を保つ主人公の姿に重なるような、端正な訳文の読みやすさが、これまで触れてこなかった分野の世界に連れて行ってくれたのだと思っています。この本を読むことができて、本当に良かったです。

バニヤンの木陰で

バニヤンの木陰で

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ヴァディ ラトナー
河出書房新社
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【推薦者】モイール
【推薦作品】『おだまり、ローズ』
【作者】ロジーナ・ハリソン
【訳者】新井雅代
【推薦文】
強烈な個性をもったレディ・アスターのもと、おつきの立場で理不尽な言動にも負けないローズのメイド戦記。主人から繰り出される理不尽100%の言動にもめげず、一歩も引かないローズの強さの秘密は、英国貴族である主人の生活を整え、体面を保つというミッションへのぶれないロイヤリティゆえ。レディ・アスターも自分がローズに甘えていることは十分承知しつつわがままは止まらないけれど、ローズもそれがわかっているから、遠慮せず言い返し、意見を具申しては「おだまり、ローズ」をくらいつつ共に過ごした35年間。これは、愛の物語だ!

おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想
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【推薦者】藤枝 大
【推薦作品】『わたしたちのすべての昨日』
【作者】ナタリーア・ギンツブルグ
【訳者】望月紀子
【推薦文】
人間は生きているからどうしたって動いてしまう。思考を停止させようとしても何かしら考えてしまう。まあそれは仕方ない。だって生きているんだから。本書を読み進めると決定的に時が止まる瞬間がある。時代も時代めまぐるしく話は展開するが、ふっと何もかも停止したようなその一時、昨日をおもう。わたしたちすべてにとっての昨日。大戦期を生きた人々も、亡くなった父親も過ごしたであろう昨日。生きているからこそ感知できない一時を感じさせてくれる名訳を、推したい。

わたしたちのすべての昨日
ナタリーア ギンツブルグ
未知谷
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【推薦者】林 浩治
【推薦作品】『歳月』
【作者】鄭智我
【訳者】橋本智保
【推薦文】
鄭智我の短編集。収録された作品はどれも山村が舞台で、静かに流れる文章は情緒豊かでもの悲しく、読者の情感を誘う。歴史を踏んで歩む人間の姿を清冽に描いた生の物語を、巧みな日本語で日本語を母語として育った我々の心に響かせる。韓国語は日本語と似ているだけに翻訳は難しい。名著の名訳。

歳月―鄭智我作品集

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鄭 智我
新幹社
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【推薦者】冬木 万里子
【推薦作品】『さよなら、そして永遠に』
【作者】ロザムンド・ラプトン
【訳者】笹山裕子
【推薦文】
 『シスター』でデビューした英国の女流作家ロザムンド・ラプトンの第二作。火事で瀕死の重傷を負った女性と、その家族の物語です。火事の真相を追うミステリーでもありますが、家族や女性の生き方、命、愛について、とても考えさせられる作品です。翻訳も丁寧でやさしく、読みやすいです。

さよなら、そして永遠に

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ロザムンド ラプトン
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【推薦者】unyue
【推薦作品】『よりぬきウッドハウス2』
【作者】P・G・ウッドハウス
【訳者】森村たまき
【推薦文】
この世知辛い世の中、笑いがなければ生きては行けない。本でも読んで憂さ晴らし… とは思っても、実際に本を読んで笑うと云う事って余りないのではないでしょうか。それだけ人を笑わせるって大変な事なのに、ウッドハウスの作品を読んだら笑わずにはいられないってところが凄いのです。そのウッドハウス作品を自身の強力なウッドハウス愛を以て紹介し続けている訳者の森村たまきさんに、わたしは足を向けては眠れません。これからもずっとずっと、ウッドハウスの慇懃無礼で諧謔に満ちたユーモア、プリーズ。

よりぬきウッドハウス2

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P・G・ウッドハウス
国書刊行会
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【推薦者】some day
【推薦作品】『さよなら、そして永遠に』
【作者】ロザムンド・ラプトン
【訳者】笹山裕子
【推薦文】
著者ロザムンド・ラプトンは、ジェフリー・ディーヴァーが言うように、文学と犯罪が重なるところに立っている。文学が犯罪をとりあげる理由は、ある劇作家が絶筆宣言で語ったように、社会的現実が作家の構想力を超えてしまったからかもしれない。この作品では、生活に埋もれかかっていた愛が、犯罪による絶望的な情況の中で、激しく燃えあがり結晶化する。カミュの『ペスト』で描かれた医師とその妻のような、せつない不条理な愛だ。とはいえ、この作品は第一級のミステリーでもある。最後まで、真相を読み解く人は、そう多くはないだろう。なぜなら真実の法廷に立たされるのは、犯人ではなくて言葉だからだ。すべての仕掛けは、その一言になだれこむ。そこにこの著者の非凡な才能を感じる。翻訳は自然でよどみなく、この600頁ちかい作品を一気に読ませてくれる。想像でしかないが、原文の息遣いまで伝えてくれているように思える。

さよなら、そして永遠に

さよなら、そして永遠に

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ロザムンド ラプトン
エンジンルーム
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【推薦者】深大寺
【推薦作品】『お父さんの手紙』
【作者】イレーネ・ディーシェ
【訳者】赤坂桃子
【推薦文】
ヤングアダルト(青少年)向け小説ですが、あらゆる世代の読者に読んでほしいので推薦します。主人公のペーターは、ユダヤ系のハンガリーの家庭に生まれた男の子。ナチが台頭する時代に過酷な運命、壮絶な歴史の一場面に遭遇しますが、お父さんのラズロやおじいさんのナーゲル先生らの豊かな愛情に包まれたペーターの目には、それがどう映ったのか?子供の頃に読んだエーリヒ・ケストナーの小説を思い出させるような、少し古めかしい独特のユーモアが光っています。躍動感のある翻訳で、一気に読めます。1998年ドイツ児童文学賞受賞作。

お父さんの手紙 (つのぶえ文庫)
イレーネ ディーシェ
新教出版社
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【推薦者】竹田 純
【推薦作品】『黒ヶ丘の上で』
【作者】ブルース・チャトウィン
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
ウェールズとイングランドの国境の上に住む集落。そこに住む人々の一生が淡々と描かれる。という紹介は間違いではない。しかし、運命とは歯車である。といった作曲家のことを思い出す。因果応報でも混沌めいたものでもなく、人の一生は、時間とともに残酷に狭められていく。期待が失望に、若さが老いに、誕生が死に。登り続ける人生はない。そう、だからこそ、一瞬の感情の発露や気まぐれかもしれない愛情や友情は美しい。その美を抱えながら、孤独なまま死ねるなら、そんな思いを抱かせてくれる。物語の中心にいる双子の兄弟は似ているし、周囲からつがいとして見られることも多いがつぶさに見れば何もかも違う。距離を置いて何がしかを見るときに生まれる憧憬の不確かさに思い至る。

黒ヶ丘の上で

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ブルース・チャトウィン
みすず書房
売り上げランキング: 306,730

【推薦者】CAMP DALT
【推薦作品】『デイゴ・レッド』
【作者】ジョン・ファンテ
【訳者】栗原俊秀
【推薦文】
ジョン・ファンテは今のところ「チャールズ・ブコウスキーが影響を公言した」という文脈で言及されることの多い作家だ。だが、ブコウスキー的な無頼を期待して本書を手に取ると、その期待は意外な方向に裏切られる。本書に収録されている13の短編・中編小説を通奏低音のように貫いているのは、イタリア系アメリカ移民の生活の匂いと、骨身にまで浸透しているカトリックの日常的な信仰感覚だ。決して豊かではなく、といって敬虔な清貧さもない世俗的な生活の中で、折に触れて顔を出す聖性への抗いがたい帰依の感情を描き出してみせたことは、本書でファンテが到達したひとつの文学的高峰だと言える。気鋭のイタリア文学研究者・栗原俊秀による訳も、ファンテの素朴な文章の滋味はそのままに、日本語としても魅力のある抑制の効いた文章に仕立てられている。この小説を、彼の手になる日本語で読めたことに感謝したい。白眉は中編『ディーノ・ロッシに花嫁を』。

デイゴ・レッド

デイゴ・レッド

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ジョン ファンテ
未知谷 (2014-08-18)
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【推薦者】益岡 和郎
【推薦作品】『エウロペアナ―二〇世紀史概説』
【作者】パトリク・オウジェドニーク
【訳者】阿部賢一、篠原琢
【推薦文】
解説にある「二〇世紀を語るさまざまな言葉をめぐる書物」という形容がぴったり。普段何気なく使っている言葉がいかに新しく、多義的であるかを突き付けられ、ところどころで狼狽えました。この一冊を註なしで伝えるための言葉選びは大変難しい仕事だったのではないかと考え、本書を推薦いたします。

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)
パトリク オウジェドニーク
白水社
売り上げランキング: 133,766

【推薦者】二月の風
【推薦作品】『リュシル-闇のかなたに』
【作者】デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン
【訳者】山口羊子
【推薦文】
まるで悪魔が、その幸せに嫉妬したかのように事件はおこり、母の家族は壊れていった。そしてまた母も人生の悲哀にとらえられ、娘たちとの生活は小舟のように漂流する。不安な人生。光が見え、かすかな希望をもったとたんに、母の狂気が再発し娘の心は折れる。とぎすまされた翻訳からは、そんな著者の思いや叫びや涙が聞こえてくるようだ。しかし同時に、不思議なことに、その行間からは、家族のあかるい笑いにみちた生活が、時としてユーモアが、捨てることのできない愛が、立ち上がろうとする意志が伝わってくる。この作品は、誰もが人生を感じるような作品だ。終章で、娘は遠く旅立った母にボードレールの詩「旅への誘い」を捧げる。この詩の新しい翻訳は、現代的な感覚にあふれており、とてもみずみずしく感じられる。

リュシル: 闇のかなたに

リュシル: 闇のかなたに

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デルフィーヌ ドゥ・ヴィガン
エンジンルーム
売り上げランキング: 111,295

【推薦者】神崎 紫音
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
 ほぼ全編にわたって貫かれる、ひっそりとした哀愁。その薄暗さのなかに、まるでともしびのように、はっとするような美しい描写が差し込まれる。読書中はひたすらにその明かりを追いかけて進み、読後には奇妙なカタルシスを味わった。本書にまつわる忘れがたいエピソードや前評判の高さに、手に取ることを躊躇していたが、ためらいなど杞憂だった。素晴らしい作品を届けてくれた東江一紀氏に感謝を込めて、本作を推薦いたします。

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
売り上げランキング: 13,671

【推薦者】d m
【推薦作品】『愛の裏側は闇』
【作者】ラフィク・シャミ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
去年一番時間をかけて読んだ、本屋にバンバンに積まれてほしい

愛の裏側は闇 (1)

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ラフィク・シャミ
東京創元社
売り上げランキング: 173,047

【推薦者】がにまむし三太夫
【推薦作品】『ぼくと数字のふしぎな世界』
【作者】ダニエル・タメット
【訳者】古屋美登里
【推薦文】
タイトルに「数字」とあるけれども、エッセイのテーマは言葉、音楽、詩、アート等、多岐に渡り、そのひとつひとつがこの世界の美しさ・素晴らしさを再認識させてくれる、とっても素敵な本でした。

ぼくと数字のふしぎな世界 (ぼくと数字の世界)
ダニエル・タメット
講談社
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【推薦者】アラシ
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明
【推薦文】
 トマス・ピンチョンの最高傑作。佐藤良明さんの翻訳と脚注も素晴らしかった。こんなにも凄まじい小説を読んでしまうと他の小説が読めなくなるのではないかと不安になった(ロベルト・ボラーニョの「2666」を読んだときも同じ心境になった)。とにもかくにもただただページをめくることがスリリングで本当に楽しかった。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
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新潮社
売り上げランキング: 41,016

【推薦者】U U
【推薦作品】『女郎蜘蛛』
【作者】パトリック・クェンティン
【訳者】白須清美
【推薦文】
大好きな「○○パズル」シリーズの1作。なのに何故かタイトルが「○○パズル」でないのが残念。でも中身は面白いです。

女郎蜘蛛 (創元推理文庫)

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パトリック・クェンティン
東京創元社
売り上げランキング: 195,354

【推薦者】森下 育彦
【推薦作品】『愉楽』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
『狂人日記』や『阿Q正伝』を思いだす、骨太な社会派作品だが、邦題から、また内容的にも、中上健二『千年の愉楽』を想起させるところもある。作品の肝である「方言」の翻訳に広島弁を用いたのは、中国語のニュアンスとして実際のところどうなのかは分からないが、作品世界の表し方として新鮮だった。

愉楽

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閻 連科
河出書房新社
売り上げランキング: 73,913

【推薦者】友幸友幸
【推薦作品】『窓から逃げた100歳老人』
【作者】ヨナス・ヨナソン
【訳者】柳瀬尚紀
【推薦文】
爆笑するしかない!タイトル通り序盤から、なんちゅう老人や、と思わせてくれる。
出演者それぞれの視点に入れ替わって、走れなくても、逃げ回る。めちゃくちゃ面白い逃走小説だと思う。

窓から逃げた100歳老人

窓から逃げた100歳老人

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西村書店
売り上げランキング: 2,342

【推薦者】小寺 啓史
【推薦作品】『TTTトラのトリオのトラウマトロジー』
【作者】ギジェルモ・カブレラ・インファンテ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
どちらにしても、寺尾隆吉氏だった。『別荘』と最後まで迷ったが、他の人が訳したと仮定した場合においての、オリジナリティの突出し具合という点で、また原作が翻訳への最低条件としてこれを求めていることーつまり、こうでないと本として成立しないーという点で、これに決まった。 尋常ならざる言語の奔流(ハンパない言葉の洪水)と、哀切措く能わざる郷愁への誘惑(おさえきれない胸のせつなさ!)の前では、我々の脳髄は震え、蕩け出してしまう(脳味噌ぐちゃぐちゃ、溶けちゃいそうです)。ピケティじゃないけど、翻訳業界における富の集中ー英米独仏露の先進国に比べ、他の地域との間には歴然たる格差がある。ラテンアメリカも健闘しているとはいえまだ「諸国」扱いだ。これからの世界文学を語るうえで寺尾氏は特に外せない存在だ。記念すべき第1回に氏に受賞していただき、第2回以降からは選考委員として加入されることを熱望する。

TTT: トラのトリオのトラウマトロジー (セルバンテス賞コレクション)
ギジェルモ・カブレラ インファンテ
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【推薦者】Rashisu
【推薦作品】『黄泉の河にて』
【作者】ピーター・マシーセン
【訳者】東江一紀
【推薦文】
生の中に死を、死の中に生を感じる10の短編集。ナチュラリストでもあるマシーセン唯一の自薦作品集を、東江一紀氏の素晴らしい日本語で読めるのは本当に幸せなことだと思います。

黄泉の河にて

黄泉の河にて

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ピーター・マシーセン
作品社
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【推薦者】心が ぴょんぴょん
【推薦作品】『真夜中のショコラは恋の味』
【作者】ローラ・フローランド
【訳者】高里ひろ
【推薦文】
翻訳の文章がライトノベル風に書かれているので、キャラクター達のキャラ立ちが良く、表情や感情を妄想(想像)出来るので、おもしろく楽しんで読めました!この本のおかげで、さらにロマンス小説の魅力に取りつかれてしまいました。翻訳をしてくださった、高里ひろさんのおかげで、、また読んでみようと思ってしまう作品に出合えることが出来ました!

真夜中のショコラは恋の味 (ヴィレッジブックス)
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【推薦者】川内清
【推薦作品】『黒ヶ丘の上で』
【作者】ブルース・チャトウィン
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
電車の中で、家で、喫茶店で。昼の時間に、夜の時間に。いつでも開けば、そこにはその丘固有の時間があった。一つの場所に、しっかりと流れる百年の時間。それを味わうのが、本当に素晴らしい体験だった。古典と言える風格もある作品で、これまで「旅」の作家であり、少しスノッブなイメージだったチャトウィンが、いかに技量のある作家だったか、認識を新たにした。ウェールズとイングランドの境の地域の描写が素晴らしい。そして、その文章をアイルランドの景色を映し見ながら訳したという訳文も素晴らしい。出会えてよかった! と心から思える一冊だった。

黒ヶ丘の上で

黒ヶ丘の上で

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ブルース・チャトウィン
みすず書房
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【推薦者】山川 さくら
【推薦作品】『人生を、もっと幸せに生きるために ― 死者からのアドバイス』
【作者】ジェームズ・ヴァン・プラグ
【訳者】安達 直子
【推薦文】
この本は、目に見えない世界について学びながら、心ゆさぶられる体験をさせてくれます。たとえば、亡くなった家族はあの世から私たちを見守りつづけてくれているという癒し、許すという行為で私たちだけでなく霊たちも心が解放されるという感動、霊の愛ゆえの導きとしか説明がつかない事象に対する驚き、どんな不快な体験も私たちが学ぶための素晴らしい機会だという気づき、そして私たちは輪廻転生をくり返して学びつづける不滅の魂だという確信などを味わうことができます。さまざまな概念を、臨場感あふれる数々の実話によってわかりやすく説明しているため、目に見えない世界を信じるか信じないかにかかわらず、人生を新しい視点から見つめ直す素晴らしいきっかけになります。訳文がとても読みやすかったので、つかえることなくスムーズに読みすすめました。

人生を、もっと幸せに生きるために
ジェームズ ヴァン・プラグ
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【推薦者】佐々木 和樹
【推薦作品】『エウロペアナー20世紀史概説』
【作者】パトリク・オウジェドニーク
【訳者】阿部賢一、篠原琢
【推薦文】
事実や事実じゃないと思われることや噂や想像も全て混ぜ合わせた本書は小説なのか歴史書なのか分からない。でも読んでて浮かんでくるのは物語。

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)
パトリク オウジェドニーク
白水社
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【推薦者】AT
【推薦作品】『愛の裏側は闇』
【作者】ラフィク・シャミ
【訳者】酒寄進一
【推薦文】
シリアを舞台にした全3巻、304もの章から成る壮大なロマン。20世紀初頭から現代に至るまでの長い時間の物語のなかで、日本人には馴染みの薄いシリアの市民たちの日常生活と人生模様を非常にわかりやすく、一気読みさせてしまうほどの読みやすさで日本語にした訳者の力量に感服、です。

愛の裏側は闇 (1)

愛の裏側は闇 (1)

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ラフィク・シャミ
東京創元社
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【推薦者】b-be-b
【推薦作品】『ダヴィッド・ゴルデル』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
2014年は未知谷からイレーヌ作品が4冊刊行されました。どれもすばらしく感じましたが、中でも本書が最も印象に残っています。本作の主人公は、金儲けだけが生き甲斐のように仕事に打ちこむユダヤの老実業家ダヴィッド・ゴルデル。家族の関係は冷え切り、ゴルデルは金儲けに熱意をむけながらも、金そのものは嫌悪していました。やがて、ゴルデルは多くのものを失います。金も家族も信じず、厭世的なかれを再起させたものが何であったか、冷徹と激情を抱えたゴルデルの心の動きは、矛盾をはらむゆえに感動を呼びます。 定評のある古典や評判の高い新作を読むことも喜びですが、時の流れとともに一度は埋もれてしまった秀作に出会える喜びもまた、大きなものです。

ダヴィッド・ゴルデル

ダヴィッド・ゴルデル

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イレーヌ ネミロフスキー
未知谷
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【推薦者】まくたん
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明

【推薦文】
圧倒的な存在感をみせる装丁と、上下巻の重厚感に気後れしながらも手に取ると、テンポよく、エネルギーに満ちた訳文、微細にわたり、クロスレフェランスを多数含む脚注に助けられ、一読目を終えました。できることなら山にこもって再読したい、と思わせる。翻訳書というだけでなく、参考書の役割も果たしてくれる充実の作品です。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
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【推薦者】丸山 哲郎
【推薦作品】『サマータイム、青年時代、少年時代 ──辺境からの三つの〈自伝〉』
【作者】J・M・クッツェー
【訳者】くぼたのぞみ
【推薦文】
 「サマータイム」「青年時代」「少年時代」という自伝的三部作を、作者自身が全面改稿して合本としたScenes from Provincial Lifeの完訳版。三作それぞれ独立した作品として優れたものだが、とりわけ「サマータイム」がすばらしく、すでにブッカー賞を二度受賞しているにもかかわらず、もう一度この作品が候補作として選ばれたのもうなずける。「サマータイム」にはこれでもかというくらい抉りを効かせた自己批評が全篇にみなぎっているが、非常に精緻にコントロールされていて強い緊張感が伝わってくる。クッツェーの死後に伝記作家が関係者を訪ねてインタビューを行うという設定自体、〈自伝〉ジャンルへの批評意識が強く働いているのだろう。このきわめて知的な作家を読む醍醐味が存分に味わえる、じつにおもしろい小説だ。翻訳は長年クッツェーに取り組んできたくぼたさんの鏤骨の訳業。巻末年譜・解説も充実している。

サマータイム、青年時代、少年時代──辺境からの三つの〈自伝〉
J・M・クッツェー
インスクリプト
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【推薦者】まくたん
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明

【推薦文】
圧倒的な存在感をみせる装丁と、上下巻の重厚感に気後れしながらも手に取ると、テンポよく、エネルギーに満ちた訳文、微細にわたり、クロスレフェランスを多数含む脚注に助けられ、一読目を終えました。できることなら山にこもって再読したい、と思わせる。翻訳書というだけでなく、参考書の役割も果たしてくれる充実の作品です。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
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【推薦者】三月の水
【推薦作品】『イージー・トゥ・リメンバー アメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代』
【作者】ウィリアム・ジンサー
【訳者】関根光宏
【推薦文】
これまで気になっていたスタンダード・ソングについて、作家ごとにまとめられているだけでなく、全体を通して読むと、その通史、歌の構造などについても教えてもらえる重宝な本。特に「歌は、思い出と深くつながっている。においと同じように、歌は過去の出来事を一瞬のうちに思い起こされる装置なのだ」と、歌詞についての記述がとても参考になった。片岡義男氏の解説や丁寧な索引もありがたいけど、その意味では、原著にあるという、曲をカテゴリー分けしたリストも見てみたかった。この本のおかげで、このところ、エラフイッツジェラルドの作家別のソングブックばかりをずっと聴いている。

イージー・トゥ・リメンバー: アメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代
ウィリアム ジンサー
国書刊行会
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【推薦者】宮脇 眞子
【推薦作品】『ベルリンに一人死す』
【作者】ハンス・ファラダ
【訳者】赤根洋子
【推薦文】
ナチスドイツ下のベルリン、ひとり息子の戦死をきっかけに、つつましい、しかし死と背中合わせの抵抗運動をはじめた中年夫婦と、彼らを取り巻く人々をめぐる圧巻の長編小説。二段組・約六百頁の大著だが、息もつかせぬ展開とリアリティある人物描写にひと晩で読み終わった。頁を繰る手が止まらなかった。
ナチス台頭前、ドイツきっての人気作家だったファラダ(ナチスに「望ましくない作家」とされ、戦後は1947年に本作を発表、間もなく死去する)の原作がそもそも凄いのは勿論だが、翻訳の力もひじょうに大きい思う。読んでいる途中、翻訳小説であることを完全に忘れてしまう、いつのまにか物語の中に完全に入り込ませてくれる、すばらしい翻訳である。

ベルリンに一人死す

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ハンス・ファラダ
みすず書房
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【推薦者】大戸 敦子
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
 50年前の小説だということを全く意識させられることがないのは、50年前も現在もそして50年後も、どんな世の中になろうとおそらく、人の生の懸命さ、理不尽さ、美しさ、悲しさ、は変わらないからだろうと思います。幸福だろうが不幸だろうがストーナーは生き、幸福だろうが不幸だろうが私たちもそれを受け入れ生きていかねばなりません。だからこの小説は、誰の人生でもあるのでしょう。
いいとこたかだか数十年の人の一生は小さく儚いけれど、その小さく儚いものにこそ、大きく太い力が宿ることを思い知らされます。そしてそこに訳者である東江さんの人生も、間違いなく重ねられていたであろうことも思い、どこからか静かな力を受け渡されるようでした。大人たちにこそ読んでほしい小説です。

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
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【推薦者】ふくろう
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明
【推薦文】
偉大なる積読の重鎮『重力の虹』を「読んでみようかな」という気にさせる迫力がすさまじい。研究書を同時並行で読んでいるかのような詳細な注訳はもちろんのこと、1ページ目から引き込まれる勢いのある日本語、ピンチョンの百科全書的白痴に親しみをわかせるバカバカしい雰囲気(起きーろ、みんなケ~ツあげ~ろー)、すべてにおいて佐藤氏のパラノイア的な熱量を感じる。翻訳は作者と訳者の共作に近い、という一文をどこかで読んだことがあるが、佐藤訳『重力の虹』はまさに作品と呼びたくなる超絶技巧の一品。「1000時間ほど読むといい」とにこやかに死亡フラグを立ててくる佐藤氏、やっぱりピンチョンが3分の1ぐらい乗り移っているのではないかと思う。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
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【推薦者】嶋田 洋一
【推薦作品】『火星の人』
【作者】アンディ・ウィアー
【訳者】小野田和子
【推薦文】
最初はキャンベルの『月は地獄だ!』みたいなものを想像していたんですが、全然違った(笑)。絶体絶命の状況下、手許にあるものを最大限に利用し、何とか生き延びようと苦闘する主人公。それでいてユーモア感覚は失わず、次々と襲い来る困難に、まるで楽しんでいるかのように対処していく。本来ならすごくはらはらして、読むのが辛くなるような話のはずなのに、にやにやしながら読めてしまうという不思議なSFでした。個人的に2014年一番の収穫です。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
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【推薦者】山崎 直樹
【推薦作品】『フラニーとズーイ』
【作者】J.D.サリンジャー
【訳者】村上春樹
【推薦文】
原作そのものが持つ哲学的なものや宗教性という難しさはありますが、文体に流れというかリズムがあり一気に読めました。

フラニーとズーイ (新潮文庫)
サリンジャー
新潮社 (2014-02-28)
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【推薦者】ちく わぶ
【推薦作品】『社会はなぜ左と右にわかれるのか』
【作者】ジョナサン・ハイト
【訳者】高橋洋
【推薦文】
哲学の本です。哲学というと、眉根に皺よせややこしい理屈をこねてる印象があって、近寄りがたい印象があります。しかし、この本は、書名が示すように、親しみやすくわかりやすい文章で書いています。本そのもののテーマはもちろん面白い上に、それを読みやすく頭に入りやすい日本語の文章に移し変え、私たちに紹介してくれた訳者さんに感謝します。本のテーマは深刻かつ衝撃的なもので、私たちが考える「正義」の正体を容赦ない実験と筆致で暴くものです。人が持つ「倫理観」のみもふたもない実態と、それを巡る議論は、大きな絶望と小さな希望、そして更に多くの疑問を読者に残します。重いテーマを扱った本ながら、義務教育修了程度の知識があれば読みこなせるでしょう。多くの人に読んでもらいたいと思います。

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
ジョナサン・ハイト
紀伊國屋書店
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【推薦者】A. shun
【推薦作品】『北斎と応為』
【作者】キャサリン ゴヴィエ
【訳者】モーゲンスタン陽子

【推薦文】
私たちが知ることのない葛飾北斎の人間味と、江戸の町の文化や町人の生活のさまを、父と同じく絵師である北斎の娘、お栄を通じて著されている作品。そのおもしろさは、翻訳とは思えない多彩な表現力によるところが大きい。作者の取材力、創作力のバランスの良さもさることながら、この小説は訳者の作品と感じさせる秀逸な表現力によって惹きつけられた。

北斎と応為 上

北斎と応為 上

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キャサリン・ゴヴィエ
彩流社
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【推薦者】天神 るな
【推薦作品】『バラードとロマンス』
【作者】アダム・ミツキェーヴィチ
【訳者】関口時正
【推薦文】
イギリスにおけるシェイクスピア、ドイツにおけるゲーテに相当するポーランドの国民詩人アダム・ミツキェーヴィチ(1798-1855)。彼の国の小学校教科書にも載る詩も含む本詩集には、日本やアメリカ、西欧、アジアにはないスラヴ・ポーランド文化の底知れぬ厚みや香りが閉じ込められています。日本ではマイナーな部類に入る言語文化におけるこの記念碑的古典が、異文化・多文化理解の鍵としてこの国でも日の目を見ることになってくれたらと思います。

バラードとロマンス (ポーランド文学古典叢書)
アダム ミツキェーヴィチ
未知谷
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【推薦者】さくら
【推薦作品】『エドウィン・ドルードのエピローグ』
【作者】ブルース・グレイム
【訳者】森沢くみ子
【推薦文】
ミステリー小説を読み始めたはずが、冒頭を読み始めると、まるでSF小説のような始まり方に、驚かされ、どんどんストーリーのなかに引き込まれていきました。主人公のスティーヴンズ警視と相棒のアーノルドは、特殊な能力があるわけでもないが、70年以上昔のロンドンでエドウィン・ドルード氏失踪事件を捜査することになるが、時代の違いに惑わせられながらも事件を解決していく、やっぱりミステリーでした。。ラストがどうなるのか、こんなにもドキドキ感を最後まで持続しながら読めたのは、うれしい限りです。シリーズ化しているので、他の作品も、ぜひ読んでみたいです。

エドウィン・ドルードのエピローグ (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
ブルース グレイム
原書房
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【推薦者】HHH
【推薦作品】『TTT トラのトリオのトラウマトロジー』
【作者】ギジェルモ・カブレラ・インファンテ
【訳者】寺尾隆吉
【推薦文】
原文に忠実であればあるほど、原書本来の面白さから乖離してしまう。その不条理に直面することで日本語はさらにそのゆたかな可能性を獲得する。翻訳不可能な文学作品の極北であるだろう本作品を寺尾氏は見事に日本語文学として昇華させた。のっけからけたたましく言葉遊び、駄洒落が連発するが、気後れすることはない。あくまでも主役は革命前夜のキューバ・ハバナの歓楽街であって、そこにたむろするさまざまな魅力あふれる人間の肉体に読むものは魅了され戯れることになるのだが、その乱痴気騒ぎを妖艶に照らし出しているのは著者カブレラ・インファンテの悲哀に似た郷愁であることも読むうちにわかってくる。そこにこそ、この翻訳者の力量と忠実が発揮されている。またキューバと米国の国交正常化交渉開始の年に邦訳刊行というのも興味深い。同じく大傑作で昨年刊行された同氏訳によるドノソ『別荘』を差し置いてでも本書を推薦するゆえんである。

TTT: トラのトリオのトラウマトロジー (セルバンテス賞コレクション)
ギジェルモ・カブレラ インファンテ
現代企画室
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【推薦者】め かぶ
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
ひとりの男の一生を、ただひたすら丁寧に丹念に追った作品。静謐な描写、重なってゆく情緒、ゆっくり読んで何度も噛みしめたくなる訳文。東江一紀という翻訳者がなぜこの作品を選んだのか、想像すると泣きたくなります。

ストーナー

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
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【推薦者】みゆ
【推薦作品】『華氏451度』
【作者】レイ・ブラッドベリ
【訳者】伊藤典夫
【推薦文】
60年以上前に書かれたSF小説の新訳。本を読むことを禁じられた世界を描き、21世紀には物語に登場する製品が商品化している。旧訳と比べて読みやすくなり、本を読むことの意味を問いかけてくる。古典小説は、新訳で印象が変わることを本書で実感。本が好きな方には一度は読んで欲しい『華氏451度』。

華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
レイ・ブラッドベリ
早川書房
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【推薦者】ゆきこ
【推薦作品】『カステラ』
【作者】パク・ミンギュ
【訳者】ヒョン・ジェフン  斎藤真理子
【推薦文】
とても現実的な世界に、突如ファンタジーが入り込む。それが唐突で宇宙レベルの壮大さだったりするのに、感覚はとても身近で、普遍的な気持ちにさせるのだ。何度も笑ったし、びっくりしたし、ストンっと落とされたりかわされたりしながら、しっかりキュッとくる。シニカルで不条理で切なくなるけど、なぜか「ま、こんな毎日だけどいっか」って元気にもなる。文章はとても軽快でポップでライト、でもテーマはずっしり。そう感じさせてくれた翻訳もとても素敵だった。もっとパク・ミンギュの作品を読みたい!

カステラ

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パク ミンギュ
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【推薦者】ミネ ラル
【推薦作品】『すてきな愛の夢』
【作者】アンドレア・ヴィターリ
【訳者】山下 愛純
【推薦文】
イタリアのコメディ作家の最新邦訳。いつもの(登場人物が他の作品にも顔を出したりする)どたばた劇が展開されるストーリー。著者の故郷であり現在もお医者さんとして住んでいるイタリア北部の町ヴェッラーノ。この著者の作品はすべてベッラーノが舞台で、登場するお店にもモデルがあるそう。今回はタイトルからいつもとは少し違うのかな?と思っていたものの、いつもの期待どおりのストーリーで、エンディングもさすが。タイトルに、いい意味で裏切られました!訳者は本作がデビュー作になるようですが、ヴィターリ作品のカラッとした明るさが、しっかり感じられます。むしろこれまでより、しなやかになっているかもしれません。著者のテイストに、よくマッチしている印象です。登場人物が多いため、最初はカタカナの名前に馴染むのにちょっとてこずりますが、カバーの袖や本編の前に主な人物が一覧表になっているので、すぐに大丈夫になります。

すてきな愛の夢

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アンドレア・ヴィターリ
シーライトパブリッシング
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【推薦者】eclectically
【推薦作品】『雪山の白い虎』
【作者】デイヴィッド・ゴードン
【訳者】青木千鶴
【推薦文】
 人間の情けなさと切実さを同時に感じて泣き笑いしそうになる小説が好きなのですが、この短篇集もその一つです。バリエーション豊かな13篇ですが、世の中に居場所がないと感じている主人公が、まったく違う世代・国・家庭環境・文化圏などの他人と関わり、何かを受け取ったり与えたりして、何らかの形で成長する、という共通のテーマのようなものも感じました。文脈が積み重なることで平凡な一つの単語でも可笑しくてしょうがなくなるようなユーモアの埋め込み方、細やかで詩情豊かでありながらくどくなく退屈しない自然描写も、見事な書きぶり(訳しぶり)だと思いました。ミステリー作家のイメージがある作家ですが、現代文学が好きな人(ただし青少年にはちょっと刺激が強そうなので、大人の方)におすすめしたいです。カバーの紙の質感と装画も好きです。

雪山の白い虎

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デイヴィッド・ゴードン
早川書房
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【推薦者】小松 孝一
【推薦作品】『わたしの心のなか』
【作者】シャロン・M・ドレイパー
【訳者】横山和江
【推薦文】
 主人公の少女は、脳性まひのため、言葉を発することが出来ない。心の中には何千、何百のことばたちが溢れているのに…。伝えたくても伝えられないもどかしさ。短い文章をテンポよく繋ぎ、少女の心理描写が巧く表現されていた。短文、長文を織り交ぜながらの構成が、ストーリーに緩急をもたらしていた。読後、絶望の中にも希望の光を感じてしまうのは、原作はもちろん横山和江氏の翻訳力にあるとだと感じた。賞に値する作品だと思い推薦させていただきます。

わたしの心のなか (この地球を生きる子どもたち)
シャロン・M. ドレイパー
鈴木出版
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【推薦者】東 えりか
【推薦作品】『幸福論』
【作者】アラン
【訳者】 村井章子
【推薦文】
 『トマ・ピケティの資本論』『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』など、ガツンと読みごたえがあり、ベストセラーとなる書籍の常連翻訳者である村井章子さん。その中で私が推薦したいのは、ちょっと色の違う、アラン『幸福論』です。多くの人が翻訳し、引用し、参考にしてきたこの哲学書を、村井さんは読みやすく理解しやすい日本語にしてくれました。2014年、もしかすると一番ページを開いた本だったかもしれません。

幸福論

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アラン
日経BP社
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【推薦者】アケルダマ1
【推薦作品】『火星の人』
【作者】アンディ・ウィアー
【訳者】小野田和子

【推薦文】
一人残された火星でみずからのケガをちゃちゃっと治し、装置を修繕し、水を合成し、ジャガイモも栽培してしまう、スーパー・ポジティブ宇宙飛行士の笑えて泣けるサバイバル記。翻訳もちゃちゃっとやっちゃったんじゃないかと思えるほどの軽快さで、実際は山のような専門用語、ややこしい数字や計算で大変だったはずですが、それを感じさせない文体に「これぞエンターテインメント!」とうならされました。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
売り上げランキング: 4,625

【推薦者】石川 美南
【推薦作品】『わたしは灯台守』
【作者】エリック・ファーユ
【訳者】松田浩則
【推薦文】
 あれこれ迷いましたが、読んでいる間、言葉の面白さにくすぐられっぱなしだったこの本を推したいと思います。
表題作は、陸が見えないばかりか周囲を船が通ることすらない沖合で、ただ一人灯台を守り続ける男の独り言をそのまま書きつけたような話。孤独に苛まれ、狂気すれすれまで追い込まれているにもかかわらず、どこか飄々としたユーモアの気配が漂うのは、彼が決して「言葉の力」を手放さないからなのかもしれません。表題作以外も、シュールな出来事をシュールと感じさせない静かな語り口が魅力的でした。原書が読めるわけではないので翻訳としての巧さはよくわからないのですが、たとえば「越冬館」における「お前はずうっと越冬館に戻ってくるだろう」という日本語のねじれ方にしびれます。

わたしは灯台守 (フィクションの楽しみ)
エリック ファーユ
水声社
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【推薦者】与儀 明子
【推薦作品】『愉楽』
【作者】閻連科
【訳者】谷川毅
【推薦文】
 広島弁の語り口で一気に引き込まれました。中国の田舎にいる若い娘さんが広島弁をつかうと、こんなにキュートだとは。方言の翻訳や、ニュアンスを伝えるところもふくめて、きっととても大変な作業だったろうと思います。今後も閻連科の作品が読みたい! という気持ちをこめて投票します。

愉楽

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閻 連科
河出書房新社
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【推薦者】深川 岳志
【推薦作品】『その女アレックス』

【作者】ピエール・ルメートル

【訳者】橘明美
【推薦文】
信用できない語り手によるミステリー小説。単純にミステリーというのには抵抗があるが、ほかに適当な言い回しを思いつかない。全体は三つのパートからなり、それぞれ読み心地が違う。真相に近づくにつれ、ぐいぐいと物語に引き込まれる。ほんとうの真相は読んだ読者の数だけある。ミステリーなので殺人が描かれるが、そこにいたる経緯がすごすぎて、紋切り型の感想を口に出すのが恥ずかしい。黙ってときどき自分の脳裏で再生したい小説だ。よくこんな本を日本語にできたものだとおもう。翻訳者に感謝したい。

その女アレックス (文春文庫)
ピエール ルメートル
文藝春秋 (2014-09-02)
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【推薦者】深森 花苑
【推薦作品】『世界が終わってしまったあとの世界で』
【作者】ニック・ハーカウェイ
【訳者】黒原敏行
【推薦文】
 「ゴー・アウェイ・ウォー」を「逝ってよし戦争」と翻訳してくれた時点で、私にとっては推薦に値する作品でした。おそらく原文はスラングがふんだんに使われたラノベ的な雰囲気もはらんだ作品だったのではないでしょうか。原文の軽快なタッチを損なわず、かつ、日本の文壇の流行にシフトさせたような文体で、まるで日本の作家が書いた作品のように楽しむことができました。原文で微妙なニュアンスを持っていた言葉についても訳者あとがきで解説してくれていて、英米文学のバックボーンがない私でも作者の<含み>を味わえました。

世界が終わってしまったあとの世界で(上) (ハヤカワ文庫NV)
ニック・ハーカウェイ Nick Harkaway
早川書房
売り上げランキング: 445,900

【推薦者】日置 伊作
【推薦作品】『甘美なる作戦』
【作者】イアン・マキューアン
【訳者】村松潔
【推薦文】
  昨年の翻訳小説では、ピンチョンの『重力の虹』と、マキューアンの『甘美なる作戦』、マッカーシーの『もう一度』、トビーンの『マリアが語り遺したこと』が、作品的な質と、日本語の文学的な質(主観ですが)の両面からみて傑出しているように思いました。この4つの作品を見ると、大学で外国文学の先生をなさっている方の訳が多かったのですが、翻訳一本に打ち込まれている方の方が、この新しい賞で顕彰する意味も大きいのではないかという(個人的な)気持ちも少し働き、今回は村松さんを推薦します。

甘美なる作戦 (新潮クレスト・ブックス)
イアン マキューアン
新潮社
売り上げランキング: 15,641

【推薦者】藤井 勉
【推薦作品】『最後の恋人』
【作者】残雪
【訳者】近藤直子
【推薦文】
これまで読んできた小説を再読し、それぞれの物語を脳内でつなぎ合わせて一つの世界を作り出したい。そんな欲望を抱きながら仕事中も隠れて読書をする、本好きの中年男・ジョー。この主人公の人物造形だけでも心を鷲づかみにされるし、本書を応援したくなるというもの。「最後の恋人」とは誰なのか?読み終えた後も、ジョーのようにエピソードをつなぎ合わせながら、答えを求めて作品世界をぐるぐると回らずにはいられなくなる。

最後の恋人 (残雪コレクション)
残 雪
平凡社
売り上げランキング: 531,387

【推薦者】しげる
【推薦作品】『プロメテア』
【作者】アラン・ムーア、J・H・ウィリアムズⅢ
【訳者】柳下毅一郎
【推薦文】
コミックの翻訳にはフキダシや枠といった空間的制約がある。邦訳コミックのなかでも、アラン・ムーア作品は質と量の両面においてその制約がトップクラスに厳しいのではないか。とても面白いが読むのに体力がいる。そんな作品を融通無碍な日本語に組み替えて提供してもらえるとか超うれしいありがとうございます。

プロメテア 1 (ShoPro Books)

プロメテア 1 (ShoPro Books)

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アラン・ムーア
小学館集英社プロダクション
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【推薦者】あらま 草
【推薦作品】『火星の人』
【作者】アンディ・ウィアー
【訳者】小野田和子

【推薦文】
火星という過酷な環境の中、悪意も陰謀もなくただ不可抗力とケアレスミスから次々と襲いかかる危機。やせ我慢入ってるとはいえ常にユーモアを忘れず、専門知識と創意工夫を駆使してその危機に立ち向かう主人公。そして彼を救うべく奮闘する探査船クルーとNASAスタッフ・・・・・・みんな素晴らしい。宇宙を目指す人類の最先端であるNASAこそは、きっとアメリカという国の最良の部分が集約された場所で、そこに集うエキスパートたちが繰り広げる「知性の冒険」は、SFという形式だからこそ描けるポジティヴィティにあふれている。快作。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
売り上げランキング: 11,122

【推薦者】とらぶた
【推薦作品】『この世の富』
【作者】イレーヌ・ネミロフスキー
【訳者】芝盛行
【推薦文】
愚かな戦争の黒雲が迫り、やがて人々をのみこんでゆく。作者はそんな時代の渦に自ら巻き込まれ、最後はアウシュビツで亡くなったのだそうですが、渦中に脚を踏ん張って、時代を見通し、底で生きる人々の愚かさ、賢さ、醜さ、懸命さを描き切りました。作中の時代は、今の日本と生き写し。「こんな時代に、作家であるとはどういうことか」ネミロフスキーは教えてくれます。こんな時代に、おもしろさを味わうにはじっくり向き合わうことが必要な、こんな本を訳してくださり、出版してくださった、訳者さん、版元さんに感謝です。

この世の富

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イレーヌ ネミロフスキー
未知谷
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【推薦者】後藤 明日香
【推薦作品】『旅のスケッチ』
【作者】トーベ・ヤンソン
【訳者】冨原眞弓
【推薦文】
ムーミン以前の初期短編集。自己の経験や感覚と共鳴するときの威力に圧倒された。若き日のトーベが描く、ちょっとダークな皮肉やユーモア、そして愛の姿が印象的。

旅のスケッチ: トーベ・ヤンソン初期短篇集 (単行本)
トーベ ヤンソン
筑摩書房
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【推薦者】古川 耕
【推薦作品】『重力の虹』
【作者】トマス・ピンチョン
【訳者】佐藤良明
【推薦文】
微細かつ膨大な脚注が偉い! 偉すぎる! 「攻略本付きゲーム」とでも言いたくなるような趣きだが、これは本作がスペシャルだからと言わず、すべての「翻訳書」で検討して頂きたい機能。だって翻訳書はそもそも時間的にも地理的にもワンクッションあるのだから、こういう編集作業が第三者から加えられてしかるべきじゃない?(偉そう) 実際、こういう工夫の積み重ねが読者の拡大に繋がると思うんですよ……。

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
売り上げランキング: 25,151

【推薦者】はちほん
【推薦作品】『黒ヶ丘の上で』
【作者】ブルース・チャトウィン
【訳者】栩木伸明
【推薦文】
一見、穏やかに見える農場で過ごす人々の歴史は、規模の大小はあれど決して平たんなものではない。それをつづる筆致は瑞々しく抑制されているのに、人間の持つ普遍的な感情がそこには間違いなく存在している。加えて、黒ヶ丘の美しい情景、チャトウィンの趣味が反映された数々のアンティークが、作品に彩りを添えてくれている。その彩りを日本語であらわしてくれた翻訳者に敬意を表し、チャトウィン作品で最後の邦訳となった本書を推薦いたします。

黒ヶ丘の上で

黒ヶ丘の上で

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ブルース・チャトウィン
みすず書房
売り上げランキング: 336,769

【推薦者】石村 彰人
【推薦作品】『『資本論』の新しい読み方』
【作者】ミヒャエル・ハインリッヒ
【訳者】明石英人・佐々木隆治・斎藤幸平・隅田総一郎
【推薦文】
 伝統的なマルクス主義による『資本論』の読み方と一線を画した、「マルクスの新しい読み方」という学派に所属する筆者ですが、最初のいくつかの章でいままでのマルクス解釈の歴史にも触れており、その後の内容理解が深まりました。日本語も読みやすく、訳語を見ていてもあまり違和感がなかったので、頭にすっと入ってきました。

『資本論』の新しい読み方―21世紀のマルクス入門
ミヒャエル・ハインリッヒ
堀之内出版
売り上げランキング: 151,208

【推薦者】大佐田 祈子
【推薦作品】『北斎と応為』
【作者】キャサリン・ゴヴィエ
【訳者】モーゲンスタン陽子

【推薦文】
 原作を英語で読んだ後邦訳があるのを知りました。時代劇をみているように、生き生きとした人物が描かれていて、私の英語力ではわからなかった細やかな表現がよくわかりました。原作者の丁寧な取材と想像力を、余すことなく美しい日本語で伝えてくれていると思います。今までは有名な浮世絵しか知りませんでしたが、もっともっと知りたくなりました。日本美術を広める意味でも、この作品の意味は大きいと思います。

北斎と応為 上

北斎と応為 上

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キャサリン・ゴヴィエ
彩流社
売り上げランキング: 132,102

【推薦者】石井 千湖
【推薦作品】『黄金時代』
【作者】ミハル・アイヴァス
【訳者】阿部賢一

【推薦文】
チェコ出身の「私」による架空の島の滞在記。滝の壁、匂い時計、火を使わない料理など、ヘンテコな文化に惹かれます。なんといってもユニークなのは、芸術がない島に一冊だけ存在する「本」。誰かが読むたびに文章が加筆・修正・消去され内容が変わる。紙で出来たウィキペディアという感じでしょうか。どうやって既にある文章に新しい文章を挿入するのか、詳細を描写した部分にわくわくしました。アイヴァスの『もうひとつの街』に〈本当の出会いとは、怪物との出会いを指すんだ。〉という一節がありますが、まさに本の形をした怪物。出会わせてくれて感謝です。

黄金時代

黄金時代

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ミハル アイヴァス
河出書房新社
売り上げランキング: 23,295

【推薦者】三角 和代
【推薦作品】『もう年はとれない』
【作者】ダニエル・フリードマン
【訳者】野口 百合子
【推薦文】
87歳の口の減らないじいさん、元殺人課刑事バック・シャッツは、並みの青二才がびびるタフな男。ユダヤ人として捕虜収容所で受けた仕打の落とし前をつけようと、老体に鞭打って活動開始。老齢の心意気がパワー全開で描かれていることもさることながら、老いに対する怯えも踏み込んで描かれている一冊。翻訳のこの語り口があってこその魅力なので、本書を推したいと考えます。ちなみにじいさんだけじゃなく、ばあさんも格好いいんだ。

もう年はとれない (創元推理文庫)
ダニエル・フリードマン
東京創元社
売り上げランキング: 12,218

【推薦者】真
【推薦作品】『KANO 1931 海の向こうの甲子園』
【作者】ウェイ・ダーション、チェン・チャウェイ(原作)/チェン・シャオヤー(作画)
【訳者】宇野幸一、阪本佳代
【推薦文】
2014年、台湾に旋風を巻き起こし、香港などでも大ヒットとなった、同名映画のコミカライズ作品。全3巻だったものを1冊にまとめた日本語版で、阪本さんらによる日本版独自の内容を含んだ解説もおよそ100ページにわたり収録され、日本の読者にも作品の背景が理解しやすいよう配慮された、良質な内容となっていると思います。

KANO 1931海の向こうの甲子園
魏 徳聖 陳 嘉蔚
翔泳社
売り上げランキング: 3,955

【推薦者】木星の人
【推薦作品】『火星の人』
【作者】アンディ・ウィアー
【訳者】小野田和子
【推薦文】
これからの時代、この主人公マークのようにありたい、生きたいと痛切に思った。困難な時代、何が自分を救うのか、身にしみた。マークの一人称による日誌の文体が素晴らしい。これに惚れ込ませたら、この作品の魅力は炸裂する。そういう翻訳を読めて幸せだ。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
売り上げランキング: 11,122

【推薦者】三井 正樹
【推薦作品】『Big Picture 解剖学 (Lange Textbook シリーズ)』
【作者】デヴィッド・モートン
【訳者】小澤一史・菊田彰夫・松崎利行
【推薦文】
日本翻訳大賞に本書のような基礎医学テキストが推薦されることに奇異を感ずる方もあるかもしれません。しかしあえて医薬理工書の翻訳書も日本翻訳大賞に参加し、医薬理工翻訳教科書の世界も知って頂きたいと思い推薦する次第です。本書は米国でまさに今を学ぶ医学部学生のための解剖学のテキストです。本書の翻訳編集過程では英語のテキストを日本の医学の実情に合わせ、本文を日本の解剖学用語に合わせ、また米国でしか使用されない解剖学用語は適宜、該当用語を新たに付け加えます。解剖用語はラテン語由来の国際解剖用語が主流で、翻訳の過程ではそれぞれの立場の解剖学者が詳細に議論しチェックしているのです。図についても同様にそれぞれ指すべき個所をチェックし、一部は図を描き改めているのです。解剖学はじめ生理学や生化学も同様にそれぞれ専門分野の先生方が互いに丁々発止と議論しながら翻訳を進めているのです。

Big Picture 解剖学 (Lange Textbook シリーズ)
David Morton Kurt Albertine K. Bo Foreman
丸善出版
売り上げランキング: 545,295

【推薦者】三連星
【推薦作品】『カステラ』
【作者】パク・ミンギュ
【訳者】ヒョン・ジェフン 斎藤真理子
【推薦文】
発想が突飛でばかばかしくて、でも、その中に現代社会に生きる私たちの孤独感が織り込まれている美しい短編集。理不尽なことばかりの世界でも絶望しきらずにゆるやかに生きている主人公たちにそそがれる、作者のあたたかいまなざしがとても印象的だった。

カステラ

カステラ

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パク ミンギュ
クレイン
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【推薦者】島村 浩子
【推薦作品】『ふたりのエアリエル』
【作者】ノエル・ストレトフィールド
【訳者】中村妙子
【推薦文】
第二次大戦下のロンドン。ソレル、マーク、ホリーの三きょうだいは幼いときに母を亡くし、海軍将校の父も1942年の夏、乗っていた軍艦が撃沈されて消息不明になってしまいます。そこで、三人はそれまで没交渉だった母方の祖母に引き取られることになるのですが、母の実家は代々名優を輩出してきたイギリス演劇界では知らない人のいない名家で……というお話。邦題にはいっている“エアリエル”は、シェイクスピアの『テンペスト』に登場する大気の精霊、エアリエルのことです。『ガラスの仮面』を思い出させる部分もありながらレトロな雰囲気のある作品。翻訳者としてのキャリアが70年近い中村妙子氏の訳は、大人も楽しめる児童書のお手本のような翻訳だと思います。淡々としたすばらしさです。

ふたりのエアリエル

ふたりのエアリエル

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ノエル ストレトフィールド
教文館
売り上げランキング: 464,838

【推薦者】トーテス フーガ
【推薦作品】『剃髪式』
【作者】ボフミル・フラバル
【訳者】阿部賢一
【推薦文】
冒頭の長い描写から匂い出るような物語の雰囲気。建国間もない当時のチェコの新しい風を感じている登場人物たち。その明るさと瑞々しさに溢れた愛すべき作品でした。主人公の快活さとそれゆえのちょっとした狂気、そのスラップスティックをテンポよく訳してくれる力は、賞に値すると思いました。

剃髪式 (フラバル・コレクション)
ボフミル・フラバル
松籟社
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【推薦者】土井 利一
【推薦作品】『北斎と応為』
【作者】キャサリン・ゴヴィエ
【訳者】モーゲンスタン陽子

【推薦文】
欧米では浮世絵の芸術性が早くから認識されていたにも関わらず、日本ではなかなか正当に評価されず、常に海外での研究に先を越されてきました。今回もフィクションの世界とは言え、カナダの作家が実に綿密な調査に基づき北斎(娘の応為も含めて)の浮世絵師としての生きざまを的確に描き出していることに感服せざるをえません。更に、それを単なる言葉の置き換えによる翻訳ではなく、当時の木版画出版業界の内実をもわきまえて訳出していることに拍手を送りたいと思います。

北斎と応為 上

北斎と応為 上

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キャサリン・ゴヴィエ
彩流社
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【推薦者】山本 道子
【推薦作品】『北斎と応為』
【作者】キャサリン ゴヴィエ
【訳者】モーゲンスタン陽子
【推薦文】
 カナダ人作者が日本の江戸時代をテーマにした小説を、さらに日本語に翻訳して、いったいどんな話になるのかと思ったら、素晴らしかった。今まで関心がなかった浮世絵の世界にまで興味が出るし、一気に読んでしまいました。
話の構成のそこかしこに、日本人の作品との違いが感じられ、より面白味が増したと思います。原作者と翻訳者の力が存分に発揮されているのでしょう。喜んで推薦させていただきます。

北斎と応為 上

北斎と応為 上

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キャサリン・ゴヴィエ
彩流社
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【推薦者】三辺 律子
【推薦作品】『ストーナー』
【作者】ジョン・ウィリアムズ
【訳者】東江一紀
【推薦文】
波瀾万丈の物語、奇想にそそられる小説、どんでん返しの結末に驚かされる小説、去年も面白い作品がいっぱいあって悩んだけれど、今でもいちばん思い返すことが多いこの作品を、選びました。主人公ストーナーの人生を淡々と綴っているだけなのに、ストーナーはもちろん、登場人物について(作品には描かれていないところまで)深く深く想像を巡らせることができるーーー巡らせずにはいられないのは、作者の筆力と翻訳者の力だと思います。ストーナーの生き方自体に打たれ、そういえば主人公の生き方そのものに感動するような小説は久しぶりだったと思いました。

ストーナー

ストーナー

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ジョン・ウィリアムズ
作品社
売り上げランキング: 14,876

【推薦者】菊池 美範
【推薦作品】『うるわしのグリセルダひめ』
【作者】イソール
【訳者】宇野 和美
【推薦文】
一般的に知られているスペイン語の日本語翻訳作品は、ガルシア=マルケス、ボルヘスなど、大人向けの学作品が多いように思います。絵本の日本語翻訳作品はあまり知られていませんが、イソールの絵本作品は絵だけでなく、文章も素晴らしいのです。翻訳者の宇野和美さんは本作の翻訳をされるにあたり、スペイン語で表現することばのニュアンスを、どのように日本の子どもたちに伝えることができるかという点に、大変な労力を費やしています。作者のイソールさんとも、作品の意図や日本語に翻訳するときの解釈について何度もやりとりがありました。その結果、子どもたちに自信をもって読み聞かせができる名訳に仕上がっています。とくに最終ページの翻訳は、日本語翻訳絵本史に残る名訳です。

うるわしのグリセルダひめ
イソール
エイアールディー
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【推薦者】ハマジン
【推薦作品】『TTT : トラのトリオのトラウマトロジー』
【作者】ギジェルモ・カブレラ・インファンテ
【訳者】寺尾 隆吉
【推薦文】
『フィクションのエル・ドラード』諸作品や、ホセ・ドノソ『別荘』など、このところ連続コンボの快進撃をぶちかまし続けている訳者・寺尾隆吉さんに敬意を表しつつ、アルコール血中濃度高めの狂騒的な饒舌さの底に、メランコリーと喪失感が沈殿するキューバの「声」の繁茂を、「読みやすい」日本語に「超訳」する、という無茶ぶりすれすれの離れ業(回文どうやったのホント…)を見事やってのけた、本作の偉(異)業を推薦いたします。

TTT: トラのトリオのトラウマトロジー (セルバンテス賞コレクション)
ギジェルモ・カブレラ インファンテ
現代企画室
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【推薦者】モーゲンスタン 陽子
【推薦作品】『ラテンアメリカ傑作短編集』
【作者】エステバン・エチュべリアーナ他
【訳者】相良勝 他
【推薦文】
短編好きなのでこれにします。日本の短編はミステリー風のものが多いようですが、海外文学だとこういう、何気ない人生の1コマみたいなオチのないものが多く、苦手なかたもいると思います。でも、右を向いても左を向いても不寛容の時代、そんな何気ない物語が、異質な世界を覗く(そして、それがそんなに異質ではないと知る)窓になるのではないかと思います。出版不況の今、翻訳ではさらに厳しいと思いますが、それでも話題性や売上げより内容で版権を選び、また本作だけではなく東欧、ポルトガル、カナダなど、比較的小さめの文学世界に通じる窓を変わらず提供してくれる版元の努力にも感謝したいです。「一杯のミルク」には思わず泣きました。欲を言えば、現代の作品も少し入れてほしかったかな。


【推薦者】青の零号
【推薦作品】『黄金時代』
【作者】ミハル・アイヴァス
【訳者】阿部賢一
【推薦文】
 名もなき島にまつわる土地と風習を紹介しながら、やがて島に唯一存在する変幻自在の「本」について語り始めるという摩訶不思議な物語。意味や定義に縛られることから終始逃れつつ、言葉とイメージが近づいたり離れたりしながら乱反射するように読者を取り囲み取り込んでいく。ファンタジーが現実からの逃避だとすれば、ここまで見事に逃げおおせた作品もそうはないだろう。しかもそのための手段として、政治や社会体制だけでなく独自の言語体系や食文化までを発明し作中に投入するという徹底ぶりには舌を巻く。これを日本語で読ませてくれた阿部賢一氏に感謝。

黄金時代

黄金時代

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ミハル アイヴァス
河出書房新社
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【推薦者】高原 英理
【推薦作品】『両シチリア連隊』
【作者】アレクサンダー・レルネット=ホレーニア
【訳者】垂野創一郎
【推薦文】
解説によれば「反ミステリ」(アンチ・ミステリー)だそうだが、それとともに「アンチ・アイデンティティ小説」でもあることの驚き。主体への無頓着感が1925年ヴィーンの空気とともに、哲学や夢想や奇妙な挿話の合間から伝わってくる。物語は重層的なのに個はひどく希薄、恋愛らしい展開もあるがそれ自体はどうでもよい捌き方がクールでよい。なお、「アンチ・ミステリー」の名のもとに謎解きをいい加減にする種類の似非ミステリではありません。ラスト驚きもある。ではあるが、どの場面でもなにやらわざと外して投げてくるところが得難い味わいで、この「永遠に場違い」な感じが何より面白かった。

両シチリア連隊

両シチリア連隊

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア
東京創元社
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【推薦者】こいぬ書房
【推薦作品】『マヤコフスキー叢書「戦争と世界」』
【作者】ヴラジーミル・マヤコフスキー
【訳者】小笠原豊樹
【推薦文】
新訳マヤコフスキーの叢書4冊目にして、翻訳家・小笠原豊樹氏の生前最後に刊行された訳詩集。この「戦争と世界」は一遍の長編詩。全篇に渡って素晴らしい比喩が踊り、暗く悲惨な戦争の場面は、まるでスペクタキュラーな舞台のようでもあります。ロシアの詩に触れる機会は今までほとんど無かったのですが、小笠原豊樹氏によるみずみずしい翻訳のおかげで、100年前のロシアの詩人マヤコフスキーをとても身近に、魅力的に感じることができます。まるでマヤコフスキーが最初から日本語で書いたかのように思えてしまうほど。

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