受賞挨拶と朗読 キルメン・ウリベ

受賞作『ムシェ 小さな英雄の物語』(金子奈美訳・白水社)の作者キルメン・ウリベさんから届いた挨拶と朗読の動画を掲載します。
(近日中に字幕をつける予定です)


 

キルメン・ウリベからのメッセージ
金子奈美訳

あらゆる作家、多くの作家は、自分の最初の記憶は何かと自問するものです。たとえば、ロバート・グレーヴスは『さらば古きものよ』という本のなかで、自分の最初の記憶はパレードだと語っています。王室の馬車がロンドン市内を通り抜けていく、そのパレードの光景が、彼の思い出す最初の記憶なのだと。エリアス・カネッティもまた、ある兵士の姿、兵士の軍服の赤い色を、記憶にある最初のイメージとして回想しています。
僕の場合、最初の思い出は視覚的なイメージではなく、聴覚的なものです。なぜ聴覚的かというと、その思い出を、声のざわめき、言葉のリズムや抑揚とともに記憶しているからです。言葉の意味もわからず、言語そのものすらまだ理解していなかったというのに。
漁師だった父が月に一度海から戻ってくると、それは早朝で、僕たち子供は大抵まだ眠っていたのですが、母と叔母と父は三人で台所に集まり、話し込んでいたものでした。僕の最初の記憶は、そのざわめき、そのリズム、その音楽です。僕が思うに、作家はその音楽から、その元々の音楽、リズムから作品を生み出します。そしてそのリズムが、言葉へ、言語へと変化するのです。
翻訳家の仕事は、原書の言語からその元の響きへと接近し、そこから第二の言語へと言葉を運んでいくことです。翻訳者は作品を書き直し、あるいは再創造します。つまるところ、翻訳者もまた作家なのです。だから、訳者の金子奈美さんに、出版社の白水社に「おめでとう」を、そしてあなたがた、読者の皆さんに感謝の気持ちを伝えたいと思います。どうもありがとうございました。

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